余裕があれば、1話と2話も変えたいと思います。
試験官は携帯片手に大声で誰かに文句を言っていた。話の内容を聞くには、ハンター試験の関係者であるようだ。
(もしかして1次試験の前に札を配っていたアイツかな?)
リゼが思い浮かべたのはハンター試験の受験者に札を配っていた人物(?)だった。頭がグリンピースの様な豆だったので、人物と言うのかは謎だが……
「とにかく、あたしの結論は変わらないわ!2次試験後半の料理審査、合格者は"0"よ!!」
大声で試験官が宣言する。その言葉を聞いて受験者達は表情を険しくしているが試験官は気にせず、結論を変える気はないようだ。
(どうしようか……あの様子だと本当に合格者はいないようだし。)
リゼが考え込んでいると、
ドゴオォン!!
と調理台が砕ける音が聞こえた。リゼが音の聞こえた方向を見てみると、255番の受験者が額に青筋を浮かべ、試験官を睨みつけていた。おそらく試験の結果が気に入らないのだろう。
「納得いかねぇな。とてもハイ そうですかと帰る気にはならねぇ。オレが目指しているのはコックでもグルメでもねぇ!!ハンターだ!!しかも賞金首ハンター志望だぜ!!美食ハンターごときに合否を決められたくねーな!!」
大声で喚いている受験者だったが、リゼは全く強いと思わなかった。喚いている受験者よりもリゼの方がはるかに強いからだ。まあ喚いている受験者は実力差も感じられないようだが。
(馬鹿だな。試験官との実力差も分からないのに、賞金首ハンターになれる訳ないでしょ。なる前に死ぬか、一瞬で殺されて終わる。)
賞金首と聞いて、リゼの頭に知り合い達の顔がよぎる。目の前の受験者だったら一瞬で殺されてしまう。気にもとめられないだろう。自身も弱くは無い、と思っているリゼだが、知り合い達に勝てる確率が少ないことは分かっていた。
人探し屋だし人を探すのが専門で、そもそも戦いには向いていないのだ、とリゼは心の中で言い訳をしながら顔をしかめる。
(戦うのは好きじゃ無いし、まだ死にたく無いから敵対はなるべくしたく無いけど……)
職業上、リゼは恨まれやすい。なにせ金さえ払えば、どんな人物も探すのが人探し屋だからだ。
まあ探し出せずに恨まれることもあるが。リゼは自身の見た事が無い人物は探すことが出来ない。逆にリゼが見た事がある人物であれば、死んでいない限り誰でも探すことができる。
リゼ自身は戦うことは好きでは無い。恨まれず穏便に過ごせれば良い。そう思っていても少なからず、リゼに敵意を向けてくる者はいる。
嫌だなぁ、と思いつつリゼは大きく溜息をついた。
考え込んでいた時間は短いものだと思っていたが、いつの間にかリゼの知らない内に話が進んでいた。ギャーギャーと喚いていた受験者が倒れていて、ハンター試験の最高責任者、ネテロが試験官と話していた。近くにいたゴン達に話を聞くと、どうやらもう1度試験をするみたいだ。
♦ ♦ ♦ ♦
飛行船に乗り、着いた先は深い谷だった。リゼが下を覗き込む。谷底は見えなかったが、蜘蛛の糸の様なものは見えた。
「安心して。下は深い河よ。流れが早いから、数10㎞先の海までノンストップだけど。」
受験者に向かって試験官は言う。靴を脱ぎ裸足になりながら。
「それじゃお先に。」
トン、と軽い音をたてながら、試験官は谷へ飛び込む。
(まあ大丈夫でしょ。)
試験官もハンターだ。谷に飛び込むくらいで死ぬ訳が無い、とリゼは微塵も心配していない。ただ一部の受験者は驚き、目を見開いている。試験官の実力が分からないのだろう。プロのハンターということは知っているのに、強いことがあまり分かっていない。
「クモワシは陸の獣から卵を守るため、谷の間に丈夫な糸を張り、卵をつるしておく。
その糸に上手くつかまり、1つだけ卵をとり、岩壁をよじ登って戻ってくる。」
ネテロ会長が説明する数分で試験官は谷から戻ってくる。1部の受験者達は青ざめているが、
「あー良かった。」
「こーゆーのを待ってたんだよね。」
ゴンとキルア全く気にしていない。クラピカ、レオリオも同じ考えらしい。むしろ早くて分かりやすい、と笑っている。
恐怖で動けない受験者を他所に、リゼは谷へ飛び込んだ。
(これくらいで驚くなよ。)
どうせ落ちても死なないのだから、とリゼは内心動けてない受験者達に悪態をつきながら、手早く卵をとっていた。ヒラヒラとした服は動きずらそうだが、関係ないと言わんばかりに岩壁をよじ登っていく。
「あ、確かに美味しい。」
クモワシの卵は、市販の卵と比べると段違いに美味で、誰もが目を見開いている。リゼもその1人だ。
「美味しいものを発見した喜び! 少しは味わってもらえたかしら。こちとらこれに命かけてんのよね。」
そう言い切る試験官はとても満足そうに笑顔を浮かべていた。
(やっぱり怒っているより、笑っていたら良いのに。)
その方が美人に見えるのだから、とリゼは静かに溜息をついた。
2次試験 後半 合格者42名
♦ ♦ ♦ ♦
飛行船の中、受験者の前にはネテロがいた。話をしているがリゼは全く聞こうとしない。興味がなさそうにあくびをしている。周りの受験者はリゼに呆れるか、睨みつけている。リゼは全く気にせずやはり話を聞いていない。
「ゴン!!リゼ!!飛行船の中探検しようぜ。」
話が終わるとすぐにキルアがゴンとリゼに話かける。彼も少しばかり退屈していたようだ。
「うん!!」
「分かった。」
面白そうという理由でリゼもキルアについて行く。まだまだ体力は余っていて、眠いけれど休む気が無い、というのもあるが。
飛行船の中はリゼが予想していたよりも広く、全てを見終わるころには1時間程経過していた。
「結構綺麗だね。」
飛行船から見える街は宝石の様に光輝いていた。
(でもやっぱり飽きるんだよねぇ。)
飛行船に乗る回数が多いリゼにとって夜景は見飽きていた。先程、結構綺麗だ、と言った理由もそれだ。そんなリゼとは反対にリゼの隣にいるゴンとキルアははしゃいでいる。
「キルアの父さんと母さんは?」
「んー?生きてるよ、多分。」
唐突なゴンの疑問にキルアが答える。多分、という曖昧な答えだが。
「何してる人なの?」
「殺人鬼。」
(あ、やっぱりそうだったんだ。)
僅かな血の臭いと1次試験での持久力。どちらも普通の子どものものでは無い。多分、暗殺者かな、とリゼは内心で溜息をつく。危険なことが好きでは無いリゼにとって、この予想ははずれて欲しいものだった。知り合ってから1日未満とはいえ、過ごした時間はそれなりに楽しく思えていたからだ。さすがに別れるのは惜しい。けれど危険な事に巻き込まれたくは無い。でもやっぱり……、とリゼの思考回路はぐるぐる回る。
「両方とも?」
「……っあはははは。私はともかくゴンは驚くと思ってたけど、まさかそんな風に言うとはね。」
まさかそんな風に言われるとは思っていなかったのだろう。キルアとリゼは少し驚いた顔をして笑っていた。
(眩しいなぁ)
リゼは光輝く街を見て静かに目を細めた。リゼには夜景が何故だか普段より明るく、輝いて見えていた。
「オレん家暗殺稼業なんだよね。家族ぜーんぶ。そん中でもオレすげー期待されてるらしくてさー。でもさオレやなんだよね。人にレールしかれる人生ってやつ?」
キルアが不満そうに話している。彼には彼なりの苦労があるのだろう。
(……予想は外れて欲しかったんだけど。)
家族全員暗殺者。その言葉を聞いて、リゼの背中に冷や汗がつたう。キルアの家族が誰なのか、確信したからだ。
「ゾルディック家……」
隣にいるゴンにも聞こえないくらいの、小さな声でリゼは呟く。危険な事には巻き込まれませんように、とほんの少しの願いを込めて。
「リゼの家族は何してる人なんだ?」
キルアの話が終わり、話題はリゼの事になる。
「家族は……分からないよ。捨て子だからね。」
リゼの話を聞いている2人は少し焦った顔になる。けれどそんな2人に構わずにリゼは明るく話している。
「小さい子どものころだったからかな?顔と名前も覚えてないし、あんまり家族っていう実感はわかないからどうでも良いよ。今頃もう、どこかで野垂れ死んでるんじゃない?」
ニッコリと笑ってリゼは告げる。別の話題になってもその場の空気は少しだけ重いままだった。
(忘れたんだから別に気にする事ないのに。)
リゼはそう思いつつ、笑顔で話を聞いていた。
「……?」
「?どうしたんだよ、リゼ。」
怪訝そうな顔で振り向いたリゼ。誰かが近づいている気がしたからだ。リゼが振り向いた先には誰もいないが、誰かに見られていた気がしていた。
「……何でもないよ。」
(危害をこちらに加えてこないなら良いか。)
こちらに危害を加えるつもりなら、もう既に攻撃されているはず。そう思い、リゼは少しだけ周りに警戒しつつも会話に戻った。
この場にいる3人全員が勢い良く振り返る。ゴンとキルアは同じ方向へ、リゼだけは2人と正反対の方向へ。リゼの目線の先にいたのはハンター試験の最高責任者、ネテロ会長。
「素早いね。年の割に。」
「今のが?ちょこっと歩いただけじゃよ。」
会長は何歳なのだろうか?そんな疑問を解消するためにリゼは目の前の人物を観察する。顔には皺があり、老いている気はするが実際の年齢は分かりずらい。
(100%勝てないだろうな。)
リゼは苦笑いを浮かべて考える。戦う気は絶対に無いのだが、ついリゼはそんな事を考えてしまう。実力差は明確。敵対したら絶対に負けるだろう、と。
「おぬしらワシとゲームをせんかね?もしそのゲームでワシに勝てたらハンターの資格をやろう。」
(ゲームの内容次第ではまだ勝てる。……多分。)
それに、ハンターの資格は早く取れるならその方が良い。リゼはそう思い、会長について行くことにした。ゴンとキルアもそのつもりのようだ。
会長の手には1つのボール。ゲームをするために場所を移動した。
「この球をワシから奪えば勝ちじゃ。そっちはどんな攻撃も自由!!ワシの方は手を出さん。」
「ただとるだけでいいんだね。じゃ、オレから行くよ。」
……諦めた方が良いと思うよ。リゼは思わずそう言ってしまいそうになった。ゲームのルールを聞いてリゼはすぐさま諦めたが、キルアはそのつもりは無いようだ。けれど今の状態のキルアでは、何十年かかっても無理だと確信しているリゼには無謀だとしか思えない。
確かにキルアは強い部類に多分、少しくらいなら入るだろう。年の割にはの話に限るが。
(ただ相手が悪すぎる。)
会長に勝てる人物は、両手の指で数えられる程度いるかも分からない。まさしく化け物だ。これで老いているというのだから、全く笑えない。
リゼはそんな考えを置いておいて、目の前の勝負を見る事に決めた。
(まあ一応手加減はするだろうし、ボールは取れなくても少しはチャンスはあるかな。)
リゼはやらないのか、と2人から言われているリゼ。本人は全くゲームに参加する気は無い。
「ガンバレー。」
リゼは全くと言っていいほど気持ちを込めていない声援を送る。リゼの目の前には汗だくになって、ボールを取ろうとしている2人の姿。このゲームが始まってから何時間も経過しているが、ボールを取れるどころか2人の手にもかすっていない。
(というかもうそろそろ眠いんだけど……)
時刻はすでに深夜となっている。リゼはゲームを見るのにも飽き、そろそろ寝ようかと考え始めていた。
目を閉じれば、時間をかけて周りの音はリゼの耳に入らなくなっていく。
ゆっくりとリゼは意識を手放した。
♦ ♦ ♦ ♦
試験官side
飛行船の一室。1、2次試験の試験官が集まっている。
「ねぇ、今年は何人くらい残るかな?」
この場では唯一の女性であるメンチが口を開く。
「合格者ってこと?」
そう聞き返したのは2次試験前半の試験官であるブハラ。
「そ、なかなかのツブ揃いだと思うのよね。1度全員落としておいてこう言うのもなんだけどさ。」
「でもそれはこれからの試験内容次第じゃない?」
(メンチみたいな試験官じゃ1人も残れないだろうし。)
メンチが2次試験で、受験者を1度全員落とした事を知っているブハラはついそう思ってしまう。無理も無いだろう。
「そりゃまそーだけどさー。試験してて気づかなかった?けっこう良いオーラ出してた奴いたじゃない。サトツさんどぉ?」
メンチが話しかけたのは1次試験試験官のサトツ。表情から感情を読み取れない。彼は少し悩んだ素振りを見せた後、
「ふむ、そうですね。
と答えた。
「あ、やっぱりー!?あたし129番が良いと思うのよね。」
サトツの言葉にすぐさまメンチは反応して、表情を明るくする。スシを知っていたからか、129番がとても気に入っているようだ。
「彼女は確かに良いですね。もう既に使えるようですし。」
噂された129番。
「 クシュンっ!」
(くしゃみをするときは誰かに噂されているって聞いたことあるけど、
……まさかね。)
本当に噂されているとは知らず、小さく肩をすくめて129番、リゼはゴンとキルアの元へ向かった。