そして相変わらずレオリオが空気。
4次試験が行われる島へ受験者が順番で入っていく。3次試験では他の受験者より遅くゴールしたので、リゼの順番はまだ来ないだろう。
今はとりあえず4次試験に集中しよう……、リゼはそう問題を先延ばしにした。もう何も考えたくない、とどこか焦点の合ってない目をして虚空を見つめている。
4次試験が始まっていないのに、どこか疲れている様に見えるリゼは、元々目立ってはいたが、周りの受験者の視線をよく集める。本人はそれに気にする余裕も無い。それと同じように、ゴンとキルアもリゼの方を見ているが、放っておいた方が良いことを察したのか、話しかけることはしない。
順番が来たのでリゼも島へと足を踏み入れる。といってもその足取りは酷く重いものだった。だが、まだ目の焦点が合ってきたのでマシになった方だろう。
(さてと、誰を狙おうか。)
何分か経過して頭がまわるようになり、リゼは隠れて他の受験者には見つからないようにし、誰のナンバープレートを狙うのか考えていた。本来の自分の
ただ誰でも良いとはいえない。
キルアやゴンの場合、二人はヒソカに目をつけられているため、関わらない方が良い。
それ以外の受験者なら、別に面倒なことが起きないのであれば誰でも良い、とリゼに特にこだわりはない。
クラピカが良いかもしれない。今年、ハンター試験に合格しなければ、
クラピカも、自分は実力不足だったと納得してくれるだろう。結構怒りやすいので、少し不安だが。
考えれば考えるほど、リゼにはそれが良い思いつきのように思えた。
さすがにハンター試験に受からないように妨害したくらいでは、恨まないと思いたいが、どうだろうか。少し悪いと思ったが、安全の為なので仕方ないと割り切って、リゼはクラピカの居場所を調べた。
クラピカの居場所までは少し距離が遠い。4次試験は七日間あるのであまり急ぐ必要も無く、ヒソカや
そうしてリゼが移動していると他の受験者に会った。一人はゴン、とはいっても誰もリゼに気づいていない。
受験者は四人。一人の受験者が弓を持った受験者にナンバープレートを奪われていて、その様子をゴンが隠れて見ている。そしてそのゴンに見えないように距離をおいて隠れている、棍棒を持った受験者。
狙うなら弓を持った受験者だなとリゼは考え始める。
今、弓を持った受験者は二枚ナンバープレートを持っていて、実力も高くない。
ゴンのナンバープレートは危険があるので狙わない、と決めている。そもそもゴンに試験の間くらいは極力関わりたくない。
棍棒を持った受験者は、距離が遠くゴンを狙っているようなので、わざわざ行くのは面倒だとリゼは二人を狙わないことにした。
弓を持った受験者がゴンに見えないくらい離れたのを確認して、リゼは後ろから首を強く掴んだ。
受験者は酷く苦しそうに、リゼの手を外そうともがいている。ただ息ができなくなった状態な為、さほど力は入ってない。普通の状態でもこの受験者はリゼに勝てないが。
「二枚、ナンバープレートくれない?」
このままでは受験者が死にそうなことに気がついたのか、リゼはほんの少し息が出来そうなくらいに力を緩めた。
赤黒かった受験者の顔色が少しだけ元に戻っていく。
「分か、 った、から手、をは……」
誰だとか、何故二枚持っていることを知っているのか、受験者はそう聞かずに助かった。リゼは無駄なことを聞いたら、腕を折るつもりだったのだから。
リゼは受験者が二枚ナンバープレートを渡してきたのを見て、望み通り手を離した。地面に倒れこんで咳き込んでいるが、リゼは無視してクラピカの居場所へ向かう。
一瞬リゼはこの受験者を殺そうか考えたが、返り血が服に付くと面倒なので、すぐにやめて放っておくことにした。
リゼは53番と105番のナンバープレートを手に入れ、残り一枚で4次試験に合格できる。そう思うと自然とリゼの足取りは軽くなった。
クラピカの近くにゴンとキルア、レオリオがいると面倒なのでリゼはこの三人が何処にいるか確認する。
ゴンとキルアは遠くにいたがレオリオが近くにいた為、今は近づけない、諦めようか……そう考えて上を向いた時、リゼの目に回転しながら、こちらへ飛んでくるナンバープレートが映った。
誰かが投げたのか?何の為に?リゼの頭の中ではそんな疑問が尽きなかった。リゼは一瞬驚き硬直した後、とりあえず回収しようと大きく跳躍してナンバープレートをとった。番号は197番。
これでリゼが所持しているナンバープレートが三枚になった。このまま数日過ごせば試験はもう合格できるようになったので、クラピカを合格させない"ナンバープレートを手に入れるため"という建前が無くなってしまった。
どうしようかとリゼは一旦、クラピカの近くに行き様子を見てみた。本人に気づかれないように隠れている為、はたから見たらストーカーの様だが、幸いリゼの周りに人はいなかった。
クラピカの近くにレオリオがいて会話を聞いて見れば、二人は協力して獲物のナンバープレートを手に入れるらしい。
クラピカを合格させないようにするのは、諦めた方が良い。そう判断したリゼは残りの数日間、適当に歩きまわることにした。
もちろんヒソカや301番に会わないよう、細心の注意をはらいながら。
♦ ♦ ♦ ♦
ヒソカと遭遇しそうになって、リゼは隠れた事もあったが、一応無事に4次試験は終了することが出来た。
終了時に周りを見てみれば、やはりクラピカも無事合格してしまっていた。リゼは残念だと思いながら軽く溜息をついたが、顔に出すことはしなかった。
残る試験はあと一つ、最後の試験の前に面談がある。どんな試験なのかは分からないが、きっと試験に関係することなのだろう。
リゼはそう考えながら壁に寄りかかって、自分の順番を待っていた。暇そうにぼんやりと、近くの窓の外を見つめている。
番号が若い受験者から、アナウンスで呼ばれている。この場にいる九人の中ではリゼは、比較的早く呼ばれることになるだろう。
『受験番号129番の方、129番の方お越しください。』
アナウンスで自分の順番が呼ばれたことを確認して、会長と面談をする第1応接室に向かう。
あまり乗り気では無く、リゼはできれば早く終わらせたいと思いつつ、扉を開けた。
部屋は小さい和室になっていて中央に机、向かい側に会長が座っている。手前に座布団があり、そこに座れば良いのだろう。リゼはそう判断した。
♦ ♦ ♦ ♦
私の目の前にはネテロ会長がいる。出来ることならあまり関わりたくはなかった。仕方ないと頭では理解しているので、一応真面目に面談を受けることにする。
「ではまず始めに、何故ハンターになりたいのかな?」
結構どうでも良い質問だった。ゴン達にも話した通り、大層な理由でもない。
「資格を持ってると便利だったし、ハンターになった方が会いやすい人がいるから。」
今年じゃなくて去年か来年にすれば良かった。最近、そう強く後悔している。
「では、おぬし以外の八人の中で、一番注目しているのは?」
一番、注目しているのは……?この質問に対しては、
「難しい。」
この一言しか出てこない。44 、301、404。全員に注目している、もちろん悪い意味で。良い意味で注目している奴なんて一人もいないが。
この三人の中で一番となると決められない。今現在、危険なのは
全員一番と言ってしまっては駄目だろうか。──後から知ったが、複数人答えても良かったらしい。早く言ってほしかった──
「強いて言うなら…… 404番かな。」
一番身近にいるから巻き込まれそう。試験が全て終わったら、ヒソカはともかく、ギタラクルは関わることは無い。クラピカは可能性が低いけれど、幻影旅団は絶対に相手にしたくない。
私としてはもう関わりたくないし、できるなら今すぐ縁を切りたいが。それが出来ていないのが現実だ。
「八人の中で今、一番戦いたくないのは?」
また一番か。
面倒だと、そう思ったけれどこちらの質問の方が、割とすぐに答えが出た。
「301番。」
ヒソカは、見逃される可能性がある。私が見逃されるかどうかは別だけど。
クラピカ自身はそこまで危険な訳では無い。今なら私でもすぐに倒せるくらいだから別に良い。
一番、実力が不明で見逃される可能性が分からないから。そんな理由だ。
「というか、誰とも戦わないのが一番だと思う。別に誰かみたいに戦うことが好きって訳でもないし。」
戦わない選択肢があるなら、それが一番良いと思ってる。
そうネテロ会長に告げると、驚いたようにほんの少しだけ目を丸くしていた。どこに驚く要素があったのかは分からない。
好戦的に、勘違いされる行動をした覚えは全く無いが、ネテロ会長にはそう見えていたのだろうか。
……そうだとしたら、全力で否定したい。
面談が終わったので、足早にその場を去った。
少し冷たい廊下に私だけの足音が響いている。次の受験者がアナウンスで呼ばれるまで、部屋の前で待っていたので正確には一人では無かったが。
ネテロ会長に言った様に、私は自分に必要が無い限り、誰かと無意味に戦いたくない。4次試験で戦ったのは、あれが合格する為に必要なことだったからだ。
戦う事の何が面白いのか分からない。自分自身が危険な状態で、笑っているような人間の気がしれない。
戦って楽しく思うことを、否定はしない。
ただし、理解は出来なかった。
戦う事は命をかけてまでするような、楽しいものなのか?
そう思って試した事があった。
全く楽しくなかった。時間が無駄に消費されている気がして、すぐに止めた。
これは試す為という理由があったので、特に何も思わない。どれだけ身勝手な理由でも、理由がある事実が重要だと思う。理由無く戦うのは嫌いだ。
そもそも、人を痛めつけるのがあまり好きでは無い。
まあ大嫌いという訳では全然無かったけど。
それでも人を殴ったときの感触も、骨が砕ける音も、血の鉄に似ている臭いも、相手が苦しむ姿も、どれもあまり楽しく思えるものではない、とは一応思っている。けど、周りにその考えをもって無い奴らが多すぎる。
例えば、ヒソカや
ヒソカは強い人物と戦って、興奮するような変態。というか、殆ど強い人物と戦う事が生きがいなんじゃないかと思う。これもヒソカに関わりたくない理由の一つだ。
幻影旅団のメンバーは、団員によって違うこともあるが、好戦的な人物が多い。
人を殺すことを何とも思って無い、そういう所は私も同じだけど、私は少なくとも無意味に殺すことはないので、
どちらにせよ、意味の有無という違いがあるだけで、人を殺すのに慣れているという事実は変わらない。
♦ ♦ ♦ ♦
ずっと考えながら動かしていた足が止まる。ゴンとクラピカ、面談が終わったキルアが話しているのが遠くに見えたからだ。
なるべく関わりたくない、気づかれない内に別の場所へ行こう。そう思ってクルリと方向転換した。
ゴンは相手をするのが面倒で嫌い。五月蝿くて、鬱陶しい。
私には笑顔が眩しかったから、近くに居られない。どこまでも明るくて見てると自分が嫌になってくる。
クラピカは当たり前の様に、復讐を願っていることが嫌い。
クラピカが、手を血で汚してしまうことが嫌になる。止めることはしないが、人を殺しても虚しいだけだ。
キルアは強がっていることが嫌い。見栄を張ってばかりで、本音を伝えられない。
キルアは私の様に軽い理由で人を殺したことは無い。ゴンのことを友人だと胸を張って言えると思うのに、暗く考えすぎている。
頭の中でつらつらと、三人を嫌いな理由を並べたてる。それと同時に余計なことを考えてしまう。
正直に言うとするなら、三人といるのは楽しい。楽しいが自分の平穏の方が大切だ。
もしも、ゴンがヒソカに気に入られてなかったなら。
もしも、クラピカが復讐を望んでなかったなら。
もしも、キルアが暗殺者ではなかったなら。
もしも、私が人を殺したことがなかったなら。
もしも、私が弱くなかったなら。
もしも、私が臆病でなかったなら。
友人となる未来はあっただろうか。
頭によぎった妄想はあまりにもくだらなかった。