不定期更新脱却の日は来るのか……?
少しばかりキルアには悪いが、私としては最高の結果と言って良い。ギタラクルと戦わずに済む。それだけで肩の荷が一つ降りた気分だ。落ち込んでいるキルアと対照的に、私の気分は明るい。顔にはギリギリ出していないけど、今すぐ笑い出したい気分だ。
そんな今、
「第7試合、キルア対エリーゼ──開始!」
私はキルアとの試合を始めようとしていた。第6試合がどうなったのかというと、レオリオがボドロの治療をすると申し出て、そちらの試合が後回しにされた。わざわざ対戦相手の治療をするとは、レオリオも意外と慈悲深い。私だったら絶対そんなことはしない。
……話が逸れた。とりあえず今は顔を歪めたキルアを前にしているんだけど……そのキルアが一向に動こうとしないのだ。呼吸も瞬きもしているのに、一歩もその場から動かずただこちらを見ている。
つい先程、ギタラクルがキルアを闇人形と言ったことに違和感を覚えたが、確かにこれは『人形』だ。
精巧に作られた顔がこちらを向き、眼窩にはまった真っ青のガラス玉が私を映している。細い銀の糸が少し眩しい。真顔なので威圧感はあるが、まあそれもそこまで気にはしない……ほら、やっぱり。
──気に入らない。
とてもイラつく。自分でも何故かは分からないけど、見ているとひたすらに怒りたくなるのだ。
……そうだ、似ている。オークションにかけられていた奴に。自分の末路を理解して、勝手に絶望していた奴の顔に似ているんだ。今から自分自身が金持ちのペットになるのだから仕方ないことだろうけど。取り乱しもせず、ただ虚ろな目をしていた。人は絶望しすぎるとそうなるのだと分かった瞬間だった。どうりでイライラする訳だ。
まあ、そんなことに気づいて意味は無い。キルアにイラつきながらどうしようか考えていると───やっとキルアが動いた。やっとか、そう動こうとする口を止めて、キルアの方をしっかりと見た。そして、何故かキルアは審判の方に歩いていた。
「は?」
と、私が混乱したのも束の間、キルアは審判の胸部──心臓を貫いた。ビチャリと音をたてて辺りに血が飛び散り、審判が崩れ落ちる。鉄臭くなったのは嫌だけれども、私の方にまで血が飛ばなかったのは幸運だ。そしてキルアは試験会場の出口から出て行った。こちらの方に一度も振り返らず、人形のままで。
♦ ♦ ♦ ♦
大きな音をたててドアが勢いよく開かれる。そしてこちらにゴンが──正確にはギタラクルの方に──向かって来る。ちなみに今はハンターの規則とライセンスについての説明をされていて、漸く起きたゴンが乗り込んできたという状況だ。
余程怒っているのか、険しい顔のままこちらを見向きもせずに歩いていく。レオリオが呼びかけても反応しないので、本当に心の底から怒っているのだろう。
「キルアに謝れ。」
ゴンはギタラクルが座っている席にたどり着くと、目の前の相手に向かってそう言った。突然だったからなのか、とぼけているのかは分からないがギタラクルが「謝る?何を?」と聞き返す。それを見てより一層ゴンは眉間に皺をつくる。
「そんなことも分からないの?」
「うん。」
「お前に兄貴の資格はないよ。」
「?兄弟に資格はあるのかな?」
ギタラクルがそう言うと、ゴンは右手でギタラクルの腕を掴む。そして思いっ切り引いて、座っていたギタラクルを立ち上がらせる。ギチギチと音をたてていることから、ゴンがどれほど力を込めているのかが分かる。その様子をギタラクルは真顔で見ている。自分の骨が折れようとしているのにも関わらず、だ。しようと思えば防御出来るはずなのに、あえてしない。つくづく何を考えているのかが分からない。
「友達になるのだって資格はいらない!」
実力差は明確。前に言っていた通り、ゴンを殺してしまっても問題は……あ、あった。ヒソカがゴンに期待している。もしもギタラクルがヒソカの知り合いだったら、殺さない理由はその可能性が高い。
ちなみに今、ギタラクルは針を顔に刺したおかしい状態ではなく、きちんと試合のときのように元の顔に戻っている。真っ黒で長髪なので目立つには目立つのだが、まだ幾分かはマシだと思う。
ギタラクルは上手く立ち回らなければ敵対する恐れがあるので、観察しておいて損はない。ただ先日口出ししすぎたからなのか、あまり相手からよく思われてない気がする。私の主観なので事実は分からないが、警戒するのに越したことはない。まあ最初から関わらないことが一番良かったのだけれど。
そんな風につらつらと考えて、ギタラクルとゴンの言い争いを見ていた。どうせ関係ないし、興味もないのでこんな話は聞き流すのが良い。ライセンスの説明も、同じく考え事をしながら聞く内に終わりを迎えていた。
「リゼ!」
「……ゴン、私これから帰るところなんだけど。何か用事があるなら手短に済ませて。」
やっと安全な場所に帰れる。そう思ったとき何故かゴンに話しかけられる。とても嫌な予感がするので一刻も早く逃げたい。
そして、その嫌な予感はすぐに当たった。
「リゼならキルアがどこにいるのか分かる?」
「いや、私よりギタラクルに聞けば良いと思う。兄弟なんだから絶対知ってるでしょ。」
「それは嫌だ。」
「あっそう。で、質問に答えるけど、分かるよ。確かに私はキルアがどこにいるのか分かってる。そして、それを教えるなら『人探し屋』への依頼ということになるけど……そんな訳で──
せめてもの線引きだ。個人的ではなく、依頼主と人探し屋として。断るのも考えたが、私は仕事に私情は持ち込まないようにしている。仕事だと考えればまだ割り切れそうだし。
♦ ♦ ♦ ♦
ということがあり、結局ゴンは私に依頼した。どうやら本人は私に『友達』として協力してほしかったらしく、不服そうな顔をしていた。
誰が誰の友達だって??そういう風に聞き返したかったけど、余計話が長くなりそうなので黙っていた。利点もなくゴンと関わるなんて有り得ないのに、そんな私を友達と呼ぶゴンはおかしいのだと再確認した。傍目から見る分にはまだ面白いが、巻き込まれるのはたまったもんじゃない。
そう思いつつも今ゴン達とキルアの実家に向かっているのは、私が仕事に私情は持ち込まない主義なのと、唯一私にも利点があったのだ。
『ジン フリークス』
そいつがゴンの探している父親だったのだ。聞いたときは思わず驚きつつゴンに詰め寄った。
『……今何て言った?ジン フリークス?あの?』
『親父のこと知ってるの?!』
『そのセリフは私のだからね?本当にジン フリークスなんだよね?勘違いじゃなくて?』
『ちょっと待てって。二人とも落ち着けよ。』
そう言ってレオリオが止めてくるくらいには、勢いがよすぎたらしい。
ジン フリークス──面倒だからジンで良いか──は、とんでもなく私が職業柄会いたいと思っている人物だ。別に尊敬もしていないしファンでもない。ただ会って顔を一目見てみたいだけで。
それには理由がちゃんとある。『ジンを探してくれ』という依頼がとても多いからである。何故だかは知らないけれど消息不明になることが多いらしく、しかも『十二支ん』なんていう会長が実力を認める12人のうちの一人。つまり結構な重要人物なので、いなくなると色々大変なんだろう。
ここまでは良いんだ。依頼が増える分にはそこまで困らないから。ただこの依頼を受けたときの私の方の負担が半端ない。そういう風に自分でしたので仕方ないのだけれど、流石に一日動けなくなるのはキツい。
その負担を減らす為には、相手の情報を一つでも多く集めなければならない。『百聞は一見にしかず』という言葉通り肉眼で見ると負担が大幅に減るので必死になって見に行こうとしている。ただ肝心の場所が分かっても、私が動けるようになった頃には別の場所にいる。
一つの場所にとどまれよ。そんな八つ当たりをしたことは20を優に超すだろう。
もしかすると、
キルアの実家はパドキア共和国のククルーマウンテンという山の中にある。山も私有地らしい。調べたらかなり有名らしく、バスツアーなんてものもある。それで良いのか暗殺一家。まあどうせ誰か侵入しても勝てるからなのだろう。
「なんで観光ビザを使うの?貰ったライセンス使えば良いでしょ?」
「これを使うのはヒソカに一発入れてから!」
「ヒソカに?……あー、一応忠告してみるけど、多分今のゴンじゃ無理だと思うよ。」
「え、そうなの?!」
「寧ろなんで大丈夫だと思ったんだ……?とりあえず今のままじゃ論外だよ。」
「だったら強くなるよ。キルアと一緒に!」
「それを言うのはキルアを連れ戻してからじゃない?」
場所を教えるだけで良いと思っていたが、それでは駄目だったらしく私も飛行船に乗っている。ふざけるな、いや本人はふざけていないのだろうけど。依頼ということと利点があった点を考え承諾したが、文句を言わないとは言ってない。
座席上、ゴンと会話が増えるのは仕方ないと思い諦めた。勿論ジンのことは不自然にならない程度に聞き出そうとしたが、ゴン本人もあまり知らないらしい。一瞬、使えないと思ったのがバレていないことを願おう。
そんなこんなでパドキア共和国に着いて、列車に乗って……髪を染め戻して、服装も動きやすいものにした。バスは一日一本なので時間はあったのだ。一刻も早く行きたいゴンは不満そうだったが、私としてはとても助かった。あんなヒラヒラした服装、私の趣味ではない。印象は変えれたけれど、それでも落ち着かなかった。髪だって無造作に後ろで結んだ。動いても視界を遮らなくてスッキリする。
最初は私を見て驚いていたが、ゴンは勿論クラピカとレオリオも話しているうちにすぐ慣れたようだ。早すぎる気もしたが別にデメリットはないので気にしないことにした。
「着いた、ここの一番奥にある屋敷の地下。そこにキルアがいる……流石に連れて行くのは無理だよ。私有地に無断で入る気ないし。」
「私有地ィ?まさかこっから先全部キルアの家なのかよ?!」
「その通りだけど?」
バスが停止したすぐに言ったのでバスガイドの説明を奪ってしまったかもしれない。まあこちらも仕事なので悪く思わないでほしい。
マジか……そう言っているレオリオと同じなのは心外だけど、私も最初知ったときはドン引きした。というか今でも軽く引いてる。家に山があって何が良いのか。自宅までの移動が面倒になるだけだ。
目の前にそびえる門は威圧感がすごい。何mあるんだ。侵入防止のためなのか常人だったら絶対開けられないと思うくらいには大きい。あくまで常人だったらの話だけれど。
「……で、話終わった?」
私がそう考えている内に揉め事は無事解決したらしい。騒ぎを起こした奴らは門の横にある扉から侵入して骨になってるけど。暗殺一家を殺そうとしたのだから自己責任だ。そもそも実力差が分からなかった方が悪い。ちなみに他の乗客達はそれを見て、慌ててバスに乗り込み去って行った。賢明な判断だろう。
私達は残って守衛──本人曰く掃除夫──の話を聞いている。まあ私はどうでもいいのでほぼほぼ聞き流しているが、ゴン達は違うらしい。どうやって門を開けるのかを聞いている。
「押しても引いても開かねぇじゃねぇかよ!……上だったりして。」
「単純に力が足りないんだと思うよ。こんな大きい門、相当分厚いに決まってる。」
「そこのお嬢さんの言う通り、この門は正式名称を『試しの門』といいましてね。この門さえ開けられないような輩はゾルディック家に入る資格なしってね。」
そう言うと守衛は上着を脱ぎ、門の正面に立った。どうやら一度門を開けるみたいだ。身体的には厳しいだろうに。
「ハッ!!」
勢いよくそう言いながら門を押していく。低い音をたてながらゆっくりと門が開いて、中の木々が目に入った。
「ご覧の通り扉は自動的に閉まるから、開いたらすぐに入ることだね。これが年々しんどくってねぇ。でも出来なくなったらクビだから必死ですよ。私なんかよりそこのお嬢さんの方がよっぽど出来るでしょうに。若いのは良いことだね。」
「リゼお前まさか開けるのかよ?!めちゃくちゃ重いコイツを?!」
「……そういえば3次試験のときも壁を破壊していたな。」
三人共余計なこと言うなよ。迷惑そうな顔をしたのに周りには伝わらなかったようだ。今にも面倒くさいことになる予感がする。
「何と言われても私はやらないよ。この先は私有地だって説明したでしょ。今危険を抱えて侵入する気はないから。」
ゴンまで話しかけてこなかったのが唯一の救いか。なんとか断りきることができた。 私が受けた依頼の内容は、キルアの場所を教えること。一応私も着いて行くことにはなっているが、それに私が案内することは入っていない。簡潔に言うと、依頼外だから門は開かない。それだけ。
「ちなみに一の扉は片方二トンあります。」
その言葉を聞いてレオリオが化け物かよ……とも言いたげな目でこちらを見てきた。クラピカも少し表情が固まっている。
まだ実際には開けていないのに。そもそも鍛えれば生身でもそれくらいは出来るようになる。
「話が終わったら呼んで。向こうの方見てるから。」
二人の視線が鬱陶しいのと、ゴンがやたら静かで嫌な予感がするので一回離れることにした。向こうと言ってもそこまで離れた場所に行くつもりはない。私は三人の場所が分かるが、三人は私の場所が分からないのであくまでも目が届くくらいの距離にしておく。
見渡す限り森だ。遠くの方に街が見えるだけで後はどこも同じ景色。はっきり言ってとても暇だ。ただ、面倒事にこれ以上巻き込まれるよりかは何倍も良い。
♦ ♦ ♦ ♦
「門を開けるために修行する?」
私が離れてから色々あったらしく、結果から言うと守衛達使用人の家で門を開けられるようになるまで修行するらしい。使用人と言っても屋敷の方で働くのではないので二人しかいないらしいが、それでも家は十分な大きさをしていた。
「リゼはどうするんだ?あの門を開けることが出来るんだろう?」
「まあ……一応やってみるよ。」
なるべく効果があるように生身でしよう。どうせ依頼でここに留まる以外の選択肢はないし、身体を鍛えて損をすることはない。それに何かやらないと数週間くらいは暇な時間を過ごすことになる。それは避けたい。
という訳で私も修行に参加することにした。ちなみにこの家はドアやスリッパ、湯のみなど様々な物が重く作られているらしく、過ごしているだけでも自然に修行が出来るという仕組みだ。それに加えて上下90㎏の重りをつけた。ゴン達は50㎏からだった。全く力を使わずにやろうとしているのでなかなかに辛い。
そしてこの状態で門を開けるか検証することになった。私もこれには興味があるので協力はする。
ピトリと門に手を当てると冷たさがこちらに伝わってくる。そのまま両手でゆっくり力を加えてみる。足が地面を抉ったとき、やっと門が音をたてながら動いた。
生身でも開けられることは分かったけど、とても疲れた。まあそこまで期待はしていなかったし、1の扉を開けられて良かった。さすがに手を抜いた状態では2の扉は動いても全開には出来なかったので、2の扉を開けることを目標にしよう。
クラピカとレオリオも動かそうとするけれど、まだ二日目だ。多分二人がかりでも無理だろう。ちなみにゴンは片腕を折っているので治療に専念している。
「休憩するなら一回移動して。」
「分かってるっつーの!その移動すら一苦労なんだよ……!」
重りのせいで二人とも虫のように地面にへばりついいる。レオリオが息も絶え絶えに言葉を発するが、重いのは私も同じだ。というか私の方が重い。
二人をどかした後はまた門に手をつける。今度は生身でどれだけ耐えられるかを検証する。先程、靴では踏ん張りにくかったので、今度は裸足でやってみることにした。小石が足にくい込むが、慣れているのでどうってことはない。まだガラスとか瓦礫ではないだけマシだ。少なくとも出血はしにくいので安全だと思う。
グッと押せばまた門が開いた。そしてその状態でキープしていると、奥から人を食べるくらい大型の門番である犬──守衛曰くミケ──がこちらを見てくる。私の何倍もの大きさの狩猟犬がこちらを見ているのも問題だが、今はそれを気にしている場合ではない。門を維持するので精一杯だ。というか危うい。腕が震えてきた。汗が頬を伝うが拭っている余裕もない。なんなら足も震えてきた。
力を抜けば門が閉じ、体が崩れ落ちそうになる。なんとか足を引きずって木陰に入るとすぐに座った。やっぱり生身はキツい。これまで一応鍛えてきたとはいえ、体格的にもまだまだだ。生身の筋力だけだと私はキルアに劣るだろう。今回でその差が少しでも埋まると良いのだけど、そう簡単にはいかない気がする。
水を飲んで少しの間休み、再度門の前に立つ。今日は一日中これを繰り返す。多分明日はほぼ動けなくなるので、身体を休ませる。あと何週間かはこれをすることになるだろう。
♦ ♦ ♦ ♦
この生活を続けること二週間。全員が門を開けることに成功した。ゴンは折られた腕が完治し、レオリオは2の扉を開けることができた。骨折がそんなに早く治るのかは謎だが、まあそれは考えても無駄な気がした。一応私も3の扉を開けることができた。悲しいことにほんの一瞬だが。
さて出発、とゴン達が屋敷に向けて歩き出そうとした瞬間、奥から本邸の執事が出てきた。私は少し前から気づいていたが、ゴン達は反応を見るに気づいていなかったらしい。三人とも警戒しているが、執事はそれを気にとめずこちらに近づいてくる。いきなり攻撃せずに姿を表したところを見るに敵意はなさそうだ。そう考えていると、
「貴方が『人探し屋』でよろしいでしょうか?旦那様がお呼びでございます。」
シワひとつなさそうな執事服に似合う口調でそう告げてきた。
執事はモブです。名前もありません。
5月15日
加筆修正しました。