ハーモニクサーD×D 作:無玄
「ごめんなさいは?」
寝癖のついた黒髪――プール等の消毒によって脱色されたのか、若干茶色っぽい――を風に靡かせ、自分の踏みつけているモノを見下しながら話しかける少年。
「殺してしまってごめんなさいは?」
血のように赤い瞳を自らが踏みつけるモノに向け、足に少しずつ力を加えながら尋ねる。
「アンタのせいでさ、殆どの力を失ったのよ。それなのに謝罪の言葉もないの?」
「た……助けて……。」
モノは涙目になりながら必死に命乞いをしてくる。それを聞いた少年は後頭部をポリポリと掻いて呆れたように言う。
「助けて?違うでしょ。『ごめんなさい』でしょ?」
「ご……ごめんなさい。」
やっと吐き出した謝罪の言葉に満足した少年は、踏みつけていた足を上げ、一度引いて足元に転がっているモノの腹を蹴り飛ばす。
「ガハァ!!」
蹴り飛ばされたモノは、サッカーボールのように数回バウンドしながら壁にぶつかってそのまま動かなくなる。
「まぁこの程度で許してやるよ。でも……」
『次は無い』と言わんばかりに睨みつけ、そのまま立ち去ろうとする。すると、その様子を見ていた2人組――少年の仲間であろう――が少年に話しかける。
「お疲れ様、イッセー君。」
「正直引きました。」
「ハハハ、照れるな。」
「褒めてません。」
「おおぅ厳しいツッコミ。それより腹が減ったな……ラーメンでも食って帰るか?」
「こんな時間にですか?それに部長も待ってますよ。」
「僕も遠慮させてもらうよ。」
先程までの殺伐とした雰囲気はどこへ行ったのやら、少年達は楽しそうに会話している。
「それで、少しは戻りましたか?先輩。」
「いいや、全然ダメだ。やっぱりあの程度の堕天使じゃまともなソウルにすらならない。」
「僕が言うのもなんだけど、焦っても仕方がないよ。ゆっくり取り戻していけばいいよ。」
「はぁ。どこかに破壊神の魂でも落ちてないかな。」
ぶつぶつと呟きながら帰り道を歩く少年。その姿には、鋼のような強さと砂のような脆さが垣間見えた気がした。
「付き合ってください。」
「は?」
その日、俺はいきなり見知らぬ女の子から告白された。マジで誰だよこいつ。いや、名前は聞いたからわかる。天野夕麻とか言うらしい。どうでもいいけどコイツから人間以外の匂いがするな。
「ずっと前から好きでした。」
ずっと前から好きだったそうだ。うん、知るか。
「今日一日だけでもいいです。付き合ってください。」
怪しい。というかこの手の奴とはあまり関わり合いになりたくない。アレか?脳内で俺たちは既に面識があるとか勝手に補完しているヤンデレだかメンヘラだかいうやつか?それともただのビ○チか?できれば後者であってほしい。まだ危険度が低いから。
「てめーイッセー!いつの間にこんな女の子と知り合いになったんだ!?」
「羨ましい!そして死ね!裏切り者!」
早速やかましいことになった。俺の後ろで野次を飛ばしてくるのは松田と元浜。2人共一応俺の友人だ。一応。
「やかましいぞお前ら。それに俺はこんな女は知らん。」
「嘘だー!俺達は説明を要求するー!」
「特定秘密保護法も却下だ却下!説明しろイッセー!」
ハァ、何でこんな奴らと友人になってしまったんだろう。恨むぜ、入学式翌日の俺。
「とにかく知らんものは知らん。恐らく人違いだろ。」
「兵藤一誠さんですよね?」
「「人違いじゃないじゃねーか!」」
マジか……。人違いじゃないの?じゃあやっぱりヤンデレかメンヘラか○ッチ?もうやだ、考えるのも疲れてきた。
「ハァ、とりあえず今日だけな。あと、色々と忙しいから空けられるのは2時間だけだ。」
「はい!」
俺の返事を聞いて天野は笑った。その笑いは願いが叶って嬉しい時の笑いではなく、計画通りに事が進んだ時の策士のに近い笑い方だった。
俺達はその後1時間程街を回った。その間にした事といえばファストフード店でハンバーガーを買って食べたくらいだ。そして現在、天野の希望で近所の公園に来ている。公園のベンチに腰掛けた瞬間、天野が口を開く。
「兵藤君、最後にお願いがあるの……」
「願い?まぁ言ってみな。どうせ見当はついてるから。」
「それなら……死んでくれないかな?」
「やだよ、ばーか。」
俺は座ったままの姿勢で後ろに飛び退き、天野目掛けてベンチを蹴飛ばす。ベンチを地面に固定するための金具が金属音を立てながら外れ、彼女に向かって放物線を描きながら回転しつつ飛んでいく。
「え?ちょ……」
天野は完全に意表を突かれた形で、顔面に蹴飛ばしたベンチをモロに受けて倒れ込む。自分でやっておいてなんだがアレは痛いと思う。
「よくもやってくれたわね!」
「あ、生きてた。」
鼻血をドバドバ出しながら立ち上がる天野。あーあ、綺麗な顔が台無しだ。
「この汚らわしい人間風情が!私の顔を汚すなど!身の程を知れ!」
顔に強い怒りの表情を浮かべてこちらを睨みつけてくる。ホント、2重の意味で台無しだな。しかもいつの間にか背中に真っ黒な翼が生えてる。
「死ね!」
光の槍を作り出してこちらに投げつけてくる。しかも何本も。こんなのに当たったら死んじゃうって!
「うるせえ。」
俺は飛んできた槍に全力の拳を入れる。すると光の槍は粉々に――元々光って波であって粒子なんだっけ?じゃあ粉々になっても同じじゃね?――砕け散った。
「光の槍を拳一つで粉砕する!?……まさかそれもセイクリッド・ギアの力なのかしら?」
天野が驚愕している。俺はその隙に逃げようと後ずさる。
「逃がすと思う?」
そうは問屋が卸さないとばかりに天野は何本も光の槍を投げてくる。俺はそれを……
「オラァ!」
ちょっと動けば避けられる槍は回避し、確実に当たる槍だけ上手く掴んで投げ返す。どうでもいいが、この槍かなり熱いな。
「へぶっ!」
普通にヒットしたが、大したダメージは与えられていないようだ。どうやら天野に光は効かないらしく、喰らったのは単純な運動エネルギーによるダメージだろう。
「この!ゴミが!」
完全にキレた天野は、光の槍を何本も何本も投げてくる。今度は流石に避けるのも投げ返すのもキツイな。
「なら、こうするしかないよな。」
世界がスローになる。頭の中が真っ白になる。体の芯が熱くなり、心の奥で何かが広がっていくような感覚。もう何度も行なっているというのに、決して慣れる事はないこの感覚。
「ウゥ……ゥ……ゥルァアァァァ!!」
あらゆる負の感情に飲み込まれそうになる。胸を押さえつけ、その苦しみに耐える。自分の魂が、自分の心の内に潜む怪物の魂と一体化するこの感覚。苦しみは少しずつ収まり、やがて完全に苦しみは消える。
[サア、ハジメヨウカ。]
「な、何よこれ?何なのよこれ!?」
そこにいたのは黒い怪物だった。人に近いシルエット、鎧のような肌、悪魔のような翼を持ち、体中に赤い血のようなラインが入っている。
「これも……セイクリッド・ギアの力?」
天野夕麻――レイナーレは恐怖する。今まで自分が見てきた地獄を、恐怖を、絶望をひっくり返されたような感情に支配され、動くことができない。
(私は手を出してはいけないものに手を出したのでは……?)
思考が纏まらない中その怪物は一歩ずつ近寄ってくる。
(何か?何かないの?この状況を打開する良い手は)
レイナーレは周りを見回す。
「クソ!クソ!クソ!」
最早絶望しかない状況で、レイナーレの脳内は完全に思考を停止した。光の槍を何本も何本も何本も投げつけ、そして全てが外れる。
「チクショォォォォォォォウ!!」
最後に自分に残った魔力を全て使いきり、巨大な光の槍を怪物目掛けて投げつける。しかし恐怖で相手をまともに見ることができないレイナーレは、見当違いの方向に光の槍を投げる。そして、その先には……
[!!]
直後、怪物はその槍の飛んでいく方向に向かって一瞬で飛ぶ。その方向にいたのはお菓子を加えた銀髪の少女。しかも、飛んでくる槍の気付いている様子はない。
「え?」
直前、少女は飛んでくる槍に気付く。
グシャッ
光の槍は容赦なく突き刺さる。
「ガァッ!!」
少女を庇った怪物――兵藤一誠の心臓に。
フュージョンが解除された……。ヤベェ血がいっぱい出てんじゃん。クソ、目も霞んできやがった。
「しっかりしてください。」
誰だ?よく見えねぇ……多分あの女の子だろうな。一応聞くけど怪我はないよな?
「おかげさまで。」
そうか、それなら良かった。そうだ、あのクソアマは?
「あの堕天使は逃げて行きました。」
そうか。……俺は死ぬのか?
「しっかりしてください、大丈夫です。きっと助かります。」
でもな、さっきから意識が飛びそうなんだわ。
「先…、死な…い………い。」
ああ畜生。
「死にたくねぇな。」
俺の意識はそこで途絶えた。
思考がはっきりしない中、目を覚ますと知らない場所にいた。
「あん?ここはどこだ?」
「目が覚めた?」
聞き慣れない声がする。いや、聞いたことはあるような気もするがそれが誰なのかわからない。とりあえず起き上がろうとするが……
「グッ、痛ぇ。」
「まだ無理しちゃ駄目よ。しばらくは安静にしていなさい。」
そう言って現れた人物に俺はギョッとした。リアス・グレモリー、俺の通っている駒王学園のアイドル的な存在だ。
「ここ、どこ?」
「駒王学園の旧校舎、そこの一室よ。」
「なんで俺こんなところで寝てるの?」
「あなたが助けた子を覚えているかしら?」
俺はその言葉を聞いてこれまでにあったことを思い出そうとする。たしか変な女に絡まれて、そいつが槍投げて、投げた先に少女がいて、そいつの身代わりに心臓を……
「その子が私を呼んだのよ。自分を庇って死にそうな人がいるから助けてって。」
「へー。ってちょっと待って、一つ聞いていい?」
「一つと言わずにいくらでも質問していいわよ。ただしこちらからもいくつか質問させてもらうけど。」
「じゃあお言葉に甘えて。」
俺は先程から疑問に思っていたことを正直に聞いた。
「俺、死んだはずじゃ?」
「死んだわよ。」
まぁ確かにあの状況では普通生きてないよな。いくら俺の体が普通の人間と違うといっても、心臓に槍ぶっ刺されば死にもする。でもそうすると……
「じゃあ何で俺は生きてんの?」
「私があなたを生き返らせたの、悪魔としてね。」
悪魔?なんだそりゃ?そんなの現実にいるの?俺のご先祖様にはどっかの国にある小さな村の悪魔とか呼ばれて恐れられてた人が居たみたいだけど。
「私からも質問させてもらっていいかしら?」
「うん?」
「貴方は一体何者なの?」
何者か……そう聞かれてもこう答えるしかないだろうな。
「俺は兵藤一誠、ただのハーモニクサーだ。」
シャドウハーツを知らない方のための補足解説
フュージョン:悪魔(怪物)の魂と融合し、力を得る能力。降魔化身術とも言う。FTNWでは精霊と契約して融合することで力を得る。
ハーモニクサー:フュージョンを使用する人のこと。
マリス:悪意、これによって怪物が生まれたりする。
ウィル:マリスと相反する存在。
エミグレの秘術:死者蘇生の秘術。蘇生されたものは大体怪物になる。数名のみ例外がいる。
ヴァレンティーナ一族:吸血鬼一族。キャラが濃い。
ジャッジメントリング:運命を決めるリング。