RE:ゼロから始める中国拳法   作:単三抜き電池

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前回不甲斐ない烈を書いてしまいすみません。
今回はちゃんと戦ってるはずです。



第二話 消力完成

「おいあんた、教えてやるがこの国じゃ買い物もせずに店の前で突っ立ってるのは迷惑っていうんだぜ?」

 

気付けば烈は、賑やかな市場の中にいた。受けたはずの傷はなく、貧民街であげた筈の拳法着も纏っている。

突然のことに頭が追いつかない彼に、目の前では先ほどの青果店の主人が不機嫌そうに話しかけていた。

 

「おい、聞いてるのか?急に呆けた面して。」

 

「む、すまない主人。先ほども言ったように私はこの国の通貨を持っていない。」

 

自分の状況が全く理解できていなかった烈だが、とりあえず返答をした。

しかし、店主の言葉は烈をさらに混乱させるものだった。

 

「何言ってんだ兄ちゃん、初対面だろうが。」

 

「いや、しかし……先ほど……。」

 

「俺だって客の顔くらい覚えてんだ、金が無いなら行った行った。」

 

追い払うように手を振る店主に従い、烈は混乱する頭を落ち着けるため路地裏へとやってきた。

 

「あれが夢だったとでも言うのか……?いやそんな筈はない。」

 

烈は首と腹をさすった。つい先刻、確かに感じた死の感覚。筋肉を断たれる感触も鮮明に思い出せる。

二度目にもなれば、あの死が現実のものだと確信を持って言う事が出来た。

 

「だが、だとすればこれはいったい……。」

 

身体に残る確かな記憶に対し、自分の現状とそして先ほどの店主の言葉が疑問をもたらす。

 

「……もしや。」

 

考えて、烈は一つの予想を立てた。我ながら突拍子もないと思うような予想ではあったが、彼の考えが正しければ予想を裏付ける出来事がもうすぐ起こるはずであった。

 

「おいオッサン、珍しい格好だな。痛い目見たくなかったら身ぐるみ脱いでいきな。」

 

「やはりか。」

 

烈に声をかけてきたのは、先ほど痛い目を見た筈のチンピラ三人組。

いくら彼らに不良の才能がなかろうと、一度返り討ちにされた相手に同じ面子でカツアゲを仕掛けるほど馬鹿ではないはずだ。

 

「去れ。貴様達では私に勝てない。」

 

「調子乗ってんじゃねぇぞコラァ!」

 

そこからは前と同じだ。襲い掛かったチンピラはあっさりと地面に伏せる。

そして烈にとって最も大事な、予想を確信に変える人物がやってくる。

 

「ちょっとあんたらそこ退いて!邪魔!」

 

路地裏に響く声。入口にいるのは当然、フェルトというらしい金髪の少女だ。

烈は駆け抜けていこうとするフェルトの足を払い、腕をつかんで拘束する。

 

「ちょ、痛っ!オッサン何すんだよ!離せ!」

 

「銀髪の少女から物を盗んだろう。返しなさい。」

 

「返すなんてできるか!アタシだって生活がかかってんだ!」

 

じたばたと暴れるフェルト。烈は腕をつかむ力をやや強めた。

 

「痛ぇってオッサン!わかったよ返すよ、返せばいいんだろ!?」

 

フェルトは解放された片手で小さな袋を取り出した。中には金銭と、竜を象った意匠が施されたバッジが一つ。

 

「これが徽章か……。」

 

そしてこの瞬間、烈の予想が確信に変わった。

 

まだ高い太陽。癒えた傷。青果店の主人が言った『初対面』という言葉。痛みを忘れたかのように襲い掛かるチンピラ。そして、盗まれた徽章。

 

これらの要素から烈が導き出したのは、時間が巻き戻っているという結論だった。

 

突拍子もない結論ではあるが、既に一度死に別世界で目覚めた彼にとって最早何が起きても不思議ではなかった。

ピクルや武蔵という、順行ではあるが時を超えた存在を知っているのも手伝ったのだろう。烈は自身の時間遡行を烈はあっさりと受け入れた。

 

「なあオッサン、返したんだから離してくれよ。あと頼む!見逃してくれ!」

 

フェルトの口ぶりからこの世界にも警察のようなものが存在するのがわかる。そう言う場所に連れていくという手もあるだろう。

だが烈は子供に少し甘かった。それも貧民街の子供ともなれば尚更だ。

 

「……行きなさい。」

 

烈が掴んでいた腕を離すと、フェルトは驚いたような顔をした。

 

「礼は言わねーからな!」

 

そう言ってフェルトは路地の奥に消えていく。烈はそれを見送ると、踵を返して市場へと出た。

目的はエミリアを探し、盗られたものを返すこと。人混みの中探すのは大変かと思われたが、色々な店に聞き込みをしている銀髪の少女というのはやはり目立つ。

すぐに見つかったエミリアの肩を烈は叩いた。

 

「きゃっ!?」

 

驚いて振り向いたエミリアに、烈は先ほど取り返した袋を差し出す。

 

「エ……お嬢さん、これはあなたの物では?」

 

一瞬エミリアと呼ぼうとしたが辞めた。この判断は英断だったと言えるだろう。

 

「それは!?あなた、それを一体どこで!?」

 

「先ほど、スリから取り返したものだ。もっとも犯人には逃げられてしまったが。」

 

正確には『逃げられた』ではなく『逃がした』なのだが、そこは誤魔化すことにした。

 

「よかった……ちゃんと有る……。本当にありがとう。これはとても大切なものだったの。そうだ、あなたの名前は?」

 

エミリアに尋ねられ、烈は二度目の自己紹介をした。エミリアも名乗ったが、前回言おうとしていた別の名が何だったのかは分からないままだった。

 

「レツ、改めてありがとう。何かお礼がしたいわ、欲しい物とかあったら遠慮なく言って?」

 

「かまわん。礼など不要だ。」

 

「そうはいかないわ、恩人に何もせず帰すわけにはいかないもの!」

 

またも会話が平行線を辿りそうな雰囲気。日はまだ出ているものの、盗品蔵に惨劇がいつ起こるかわからない以上早く向かうに越したことは無い。

 

「すまない、急いでいる。」

 

「あ、待って!」

 

一瞬途切れた人混みに紛れ、烈はその場を後にした。

刃物に対する二度目の不覚。その自身への憤りが烈を足早に貧民街へ向かわせた。

 

 

 

「さっきのオッサン!?何しに来たんだよ!あんたのせいでこっちはこれから大変なんだぞ!?」

 

貧民街の奥、盗品蔵の前で烈はフェルトに偶然出会った。

フェルトが言うには盗みは依頼されたもので、この後依頼主に会わなければならないらしい。

 

前回の惨状を見るに、フェルトの依頼主はそもそも関係者を生かしておくつもりがないのだろう。

これから起きる惨劇に間に合ったというならば、烈のすることは一つだ。

 

「私もその場に立ち会わせてほしい。」

 

「ハァ?なんでそんなことしなきゃいけねーんだ、機嫌悪いんだから早くどっか行けよ。」

 

「君だけでは依頼失敗の非を責められるだけだろう。だが私も行けば、盗みの依頼という不届きを逆に問うことができる。」

 

「……なるほどな、まぁアタシもただ謝るってのは癪だしな。いいぜ、来なよオッサン。」

 

フェルトがようやく睨むのをやめた。そして盗品蔵の戸にいくつかの言葉を投げると、開いた扉の内側へと烈を手招きする。

 

「よく来たなフェルト、約束の時間にはまだ早いが……、おや?なんじゃその男は?」

 

「上がるぞロム爺、こいつは……そういえばあんた名前なんて言うんだ?」

 

蔵の中にいたのは前回死体となっていた巨体の老人だった。簡単な自己紹介を済ますとフェルトが経緯を話し始める。

 

「……で、こいつに品物取り返されたってわけ。おかげで今日の取引は失敗、大損だよ。」

 

「なるほどのぅ、だがなんでそんな男をわざわざ連れてきたんじゃ。」

 

「ただ失敗しましたじゃ何吹っ掛けられるかわかんねーからな。アタシみたいなか弱い少女に盗みをやらせたことを責めてもらうのさ。」

 

「調子のいい時だけか弱いなどと言いおって。ほれミルクじゃ。……あんたも飲むか?」

 

「すまない、頂こう。」

 

ロム爺が烈の分のミルクを用意し始める。すると扉からノックの音が聞こえた。

 

「アタシの客かも、ちょっと早いけど。レツ、頼むぜ?」

 

立ち上がり扉に向かうフェルト。だが彼女が明けたドアの先に居たのは、ここには何の用もない筈のエミリアだった。

 

「げ、なんであんたがここに……おいレツ!ちゃんと持ち主に返したってのは嘘だったのか!?」

 

叫んだのはフェルトだった。自分が盗みを働いた相手がやってきたのだ。驚くのも無理はない。

 

「あなた、私から徽章を盗んだ子ね?……今はもう手元に返ってきてるし、今回は特別に許してあげる。でもレツ、どうしてあなたが一緒にいるの?もしかして仲間だったの?恩を売って私に取り入ろうとしたの?」

 

穏やかだったエミリアの目に、僅かに敵意が滲む。

 

「それは違うぞ、エルフのお嬢ちゃん。」

 

口を挟んだのはロム爺だった。

 

「お嬢ちゃんの宝物を彼が取り返してしまったから、今のフェルトの立場は非常に危険なんじゃ。彼はフェルトの手助けをしてくれているだけじゃよ。」

 

「……そう、よかった。でもお爺さん、私は正確にはエルフではないわ。エルフなのは半分だけ。」

 

「銀髪のハーフエルフ……?まさか!?」

 

「違うわ!私だって迷惑してるのよ。」

 

烈にはいまいち理解できない話で場が盛り上がる中、烈は口を挟んだ。

 

「エミリアさんはなぜここに……?」

 

「あなたを探していたのよ、恩人に何もしないなんて出来ないもの。」

 

なるほど、と烈は思った。前回よりも蔵につくのが早かったのはフェルトではなく自分を追ってきたからか。

腑に落ちはしたものの、烈にとってこれはいい状況ではなくひそかに歯噛みした。

狭い空間に人数が集まりすぎ、殺すことに躊躇いがないあの女の前では不利ともいえる状態になっている。

 

「私はかまわん。今日はもう暗い、帰ったほうがいい。」

 

エミリアに近づき、穏やかに帰宅を進める。だが当然彼女がそれを聞き入れるわけもなく

 

「駄目よ、それじゃ私の気が済まな――きゃっ!」

 

エミリアの抗議は、突如烈に抱き寄せられる形で途切れた。直後エミリアの身体があった部分を刃物が通過していく。

 

「破ッッ!!」

 

返す刀の手首を抑え、胴の部分に蹴りを放つ。あまり手ごたえはなかったが、その勢いでエミリアごと距離をとった烈は彼女を床におろすと構えをとった。

 

「何?何が起きてるの!?」

 

突然の出来事に混乱するエミリアをよそに、烈は視線を殺気の方向へ向けている。現れたのはやはり、以前烈の命を奪ったククリナイフを持つ女だった。

 

「いいボディガードがいるのね、興奮してしまうわ。」

 

蔵の中に緊張が走る。沈黙を最初に破ったのはフェルトだった。

 

「おい!どういうつもりだあんた!ここを血の海にしようってのか!?」

 

「あなたにお願いしたのは徽章を盗んでくること。持ち主まで持ってこられては商談なんてとても無理。だから予定を変更して、皆殺しにして回収することにするわ。」

 

女は笑みを浮かべたまま、あっさりとそう言った。

 

「本当は仕事に失敗したあなたを最初に殺すのだけれど――。」

 

女は楽しそうな目で烈に向き直る。

 

「まずはあなたが相手をしてくれるの?男性に誘われるなんて久しぶりだから嬉しくなってしまうわ。」

 

言うが早いか、女は烈に切りかかった。刃渡り30センチほどの凶器を自在に操り烈に襲い掛かる。

対して烈はその剣を紙一重で躱し、抑え、拳や蹴りで反撃する。

 

「凄まじい攻防じゃ、二人とも己の肉体をよくあそこまで自在に操る……。」

 

「でもなんつーか、二人とも本気じゃないみたいだ……。一瞬の隙を窺ってるっていうか……」

 

「……ッ!レツ!危ない!」

 

戦いの中で烈が見せた一瞬の隙を、女は見逃さなかった。迷いなく踏み込み凄まじい速度で振りぬかれたククリナイフは、烈の――衣服を切り裂いた。

 

「邪ッッ!!」

 

この一瞬は烈の罠だった。空中に服を残し高速で沈み込んだ烈は女の両足を払う。服を切り裂き完全にバランスを崩した女は、その体で烈の崩拳を受け止めた。

 

「ハイィィ!!」

 

女は壁に打ち付けられたものの倒れなかった。それどころか口から血を垂らしながら妖艶に笑っている。

 

「ウフフ、素敵な拳だったわ。病みつきになってしまいそう。こんなに楽しいのはいつ以来かしら。」

 

次の一撃から両者のギアが上がる。そんな空気の中、突然いくつもの氷柱が女に降り注いだ。

 

「レツ、時間稼ぎありがとう。そしてお嬢さん、初めまして、さようなら!」

 

パックの声とともに襲い掛かる氷柱によって、室内に白い霧が立ち込める。

直撃すれば死は免れないだろうその攻撃。しかし白煙を切り裂いて出てきたのは傷一つない女の姿だった。

 

「重くて嫌いだったけれど、備えはしてきて正解だったわ。」

 

着ていた外套を脱ぎ捨て、ククリナイフを振りかぶる女の動きがピタりと止まった。

女の目の前には右の掌を向け前に突き出す――所謂『待った』の姿勢をとる烈の姿があった。

 

烈は踵を返すとエミリアの正面に立つ。その顔は心なしか不機嫌そうだ。

 

「エミリアさん。すまないが手出しはしないでもらいたい。」

 

「何言ってるの!?あなた一人に戦わせられるわけないじゃない!」

 

「そうだよ、命がかかってるんだ。勝率の高い手段をとるべきだ。」

 

エミリアとパックの言葉にフルフルと肩を震わせた烈は、爆発したように叫んだ。

 

「この烈をッッ侮辱する気か貴様ッッ!!」

 

蔵全体がビリビリと揺れるような怒声。そのあまりの迫力にエミリアはへたり込んでしまう。

 

「ちょっと!エミリアは君のためを思って――」

 

パックの抗議を無視し元の位置へ戻る烈。ロム爺が気を利かせ、エミリアとフェルトを連れてカウンターの裏へ二人を連れていく。

 

「謝謝。わざわざ待ってもらってすまない。今一度続きを。」

 

「女性を待たせるなんて。……と言いたいところだけれど、あなた素敵ね。惚れてしまいそう。」

 

そう言って武器を構えた女は、まるでバネのように大きく跳んだ。天井や壁を足場に、空間使って烈へと襲い掛かる。

 

「ッッ!」

 

縦横無尽なその攻撃に、致命傷は避けているものの徐々に傷が増えていく。

 

「あなたの腸はどんな色なのかしら?」

 

女は烈に肉薄し、腹部めがけてククリナイフを振りぬいた。

かつて自身が幾度となく味わってきた、肉を裂く感触。彼女がそれを得ることは無かった

 

――ここ!

 

自身に刃が迫る中、烈は自分の死に際を思い出していた。

 

自分の命を対価に手に入れた貴重な経験を、今こそ活かす時。

 

羽では駄目だ。羽のさらにその先へ。

 

刃が肌に触れる。だがその鉄の塊は、烈の身体に僅かな傷さえ残すことは無く――。

 

ドキャッッ

 

そんな音がして、女が吹き飛んだ。斬撃に合わせて回転させた身体、その勢い全てを利用した回し蹴りが頭に激突したのである。

 

「……凄いわ、人は羽になれるのね。」

 

頭から血を流し、ふらふらと立ち上がりながら女は言った。

 

「そうか、私はまだ羽か……。」

 

武蔵に切られた経験か、はたまた五体満足が故か。烈は完全なる羽毛化を実現した。

とはいえ烈が目指したのは羽のその先。羽では間に合わぬものへの消力だ。

どこか残念そうに呟く烈に、女は今までの張り付けたような笑顔ではない、心底楽しそうな笑顔を向けて尋ねた。

 

「名前を聞いてもいいかしら?」

 

「烈永周。またの名を烈『海王』。好きに呼ぶといい。」

 

この世界に来て初めての『海王』としての名乗り。

 

二度の死を経た天才は、異界にてひとまず消力の完成を見る――。

 

 




烈海王、刃牙道でユーチューブ見てるっぽかったし、異世界もの知ってる設定にしようかと思ったけどさすがに辞めました。

というか烈海王の喋り方ちょっと固すぎですかね
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