球技大会が終わり、教室で軽く打ち上げのようなことをして今は下校中だ。
ただ普通に歩いているわけではなく、前を歩いている修二と泉を尾行している。
今いるのは、俺と葵と孝弘と文也とみみみと竹井。
「さてさて、どうなりますかねぇ~?」
「そうだなあ」
そんなことをこそこそ話ながら後をつけていく。
あまりこう言うのは趣味じゃないんだが…まぁ、見守っておこうと思う。
しばらく歩いていると前を歩く2人は公園に入っていった。
「どうする?雰囲気で大体は分かるだろうけど…」
「うーん…せっかくなら修二の男気を見届けたいよな」
「そうだよな。…でもこっち向いちゃってるな。ここまでか」
2人は公園のベンチに座ったのだが、これ以上は近づけないしこの人数で隠れられるところが見当たらない。
頭を悩ませていると…
「…いや、あっち側に別の入り口あるから、そっからいけばもっとギリギリまで近づけるはず」
「お!まじか!」
文也がこの公園のことを知っていたらしく、反対側の入り口にまわることになった。
ばれないように入り口に回り込み公園の中にはいる。
結局、ベンチの近くにある用具小屋の陰まで近づくことができた。
集中すれば声も聞こえる距離だ。
俺達はそこでことの成り行きを見守った。
「……そーそー!そこで葵がピッチャーに交代して、最後まで耐え切ったの!」
「ははは。相変わらずでしゃばってんなあいつ。こっちは楓がバスケ部差し置いて大暴れしてたな」
俺は大暴れなんて…してたな。
楽しくなっちまったかんなぁ。
「それね!ビックリしちゃった!まぁ…でも、修二も…その…カッコよかったよ?」
「なんで疑問系なんだよ。…ま、俺は見てなかったけどよ…お前もがんばったんだろ?」
「え…う、うん。まあ」
おっと?
流れが変わったなぁ。
葵たちもそれを感じたのか、ニヤニヤしながら聞いている。
そして、2人は少しの間照れ隠しのためか、じゃれあっていた。
しかし次の瞬間、何の前触れもなく唐突に修二が切り込んだ。
「……ま、付き合うか?」
「うえぇっ!?」
俺は備えていたが、他の連中は全くの予想外だったようで、声を上げそうになっていた。
ギリギリのところで口をおさえるなどして耐えている。
ちなみに、俺は瞬時に竹井の口をおさえにいった。
その後、しどろもどろになっていた泉も決心を固め、芯のある声で言った。
「……うん。よろしくお願いします。私も修二のこと、好きだから」
よく言った。
なんか感慨深いなぁ。
そして、最後に修二も一言。
「……俺も、好きだけど」
これぞまさに青春。
俺達はなんだか嬉しくなり、意味もなく顔を見合わせて頷きあったのだった。
・
球技大会が終わった翌日の教室。
俺達は泉と修二から報告を受けていた。
まぁ知ってるんだけどな。
「ってことで実は…付き合うことになって」
「えー!?そうなんだ!?おめでとー!」
「どっちから告ったの!?なかむー!?」
「修二にそんな甲斐性があるとは思えないけどなぁ?」
「っせー。それはどーでもいいだろ」
「まぁなんにせよ。めでたいなぁ」
「い、いやぁ、まさかそんなことになるとは思わなかったなぁ!?」
「そ、そだな!泉、中村、おめでとう!」
俺達はしらをきって祝福をする。
下手くそな文也と竹井はほっとこう。
「う、うん、ありがと」
皆が祝福するなか、俺は泉のもとに歩み寄った。
「本当におめでとさん。俺が背中を押すまでもなかったなぁ」
「そんなことないよ!有城には本当にお世話になった!ありがとう!」
「そう言ってくれると嬉しいな。まぁ、修二は付き合いの短い俺から見ても良い奴だかんな、ちゃんと捕まえとけよ?」
「う、うん!」
他の皆は俺と泉のやり取りを微笑ましそうに眺めていた。
そして、皆が同じことを考えていた。
『お兄ちゃんか!』
そして、俺は修二にも向き直って話し始める。
「修二もな。俺は泉ほど綺麗な心の持ち主を見たことねぇ。けど、純粋だからこそってことがあると俺は思ってる。まぁ…修二もんなことは分かってると思うけどよぉ。ちゃんと守ってやれよ?」
「…おう。ありがとな」
珍しく素直に礼を言う修二には目もくれずに、またしても皆の考えが一致した。
『だから!お兄ちゃんか!』
俺は最後に、昔に母さんに教わったことを2人に教えることにした。
とても大切なことだ。
「最後に1つ…いいか?」
「もちろん!」
「ああ」
「これは昔、俺の大切な人に教わったことなんだが…特別な人には自分のことを分かってほしい、理解してほしいって言う欲がでてきちまうもんなんだよ。そして、それがいつしか何も言わないでも自分のことは分かってほしい、理解してほしいってのに変化していくものなんだ」
俺が真剣に話を始めると、修二と泉以外のメンバーもちゃんと聞いてくれている。
俺は話を続けた。
「だが、それは大きな間違いだ。何も言わないで分かってもらえるなんてただの幻想だ。その気持ちが、思いが、いつしか幻想の押し付けあいになっちまう。だからよ、俺が2人に伝えたいのは…特別な関係になったからこそ!さらけ出していこうじゃねぇか!伝えていこうじゃねぇか!自分を分かってほしいなら!理解してほしいなら!自分自身が、相手に、自分って人間を、伝えなきゃいけねぇ!…ってことだ」
俺が最後まで話し終わると、少しの間沈黙が流れた。
そして…
「有城…いや!楓!私、感動したよ!私がんばるね!修二が嫌になるくらい好きだって伝えるから!」
「お前はうるさい。…でも、確かに…なんつーか、響いたわ。楓がダチで良かった」
2人の返事が嬉しくて、本当に言って良かったと思えた。
他のメンバーも俺の後ろで、感心したように、自分にも言い聞かせるように頷いていた。
そうして、学校が終わり帰り道。
俺は葵と孝弘と文也とみみみの5人で駅までの道を歩いていた。
修二と優鈴のことで他愛もない話をしながら駅に向かっていると、文也が唐突に質問をしてきた。
「あの…さ、さっき有城が話してた時に言ってた大切な人って…誰なの?」
どうやら他の面々も気になっていたようで、即座に聞く体制をとった。
「ん?あー。…母さんだよ」
「…お母さん?」
「ああ。昔な、俺が柔道を始めたばっかりの頃に迷惑をかけちまってな。まぁ…しょーもない、ただの俺がバカだったって話だ」
「…それって聞いても大丈夫な話…かな?」
「別に大丈夫だぞ。まぁ…俺には他の人より少しだけ柔道の才能があったみたいでなぁ。俺が毎日、今日はあの人に勝ったとか、そう言うのを母さんは嬉しそうに聞いてくれてな。それが嬉しくて、ある日の練習で怪我をしたんだが、母さんが悲しむのを見たくなくて怪我をしたのを隠してその後も毎日、練習に行っては母さんに話してたんだよ。それがただの押し付けだとも気づかずにな。そしたら、限界がきちまって俺は立てなくなって即入院。そんで病室でな…普通は怒鳴ったりしてもいいくらいのことを俺がしたんだ。でも母さんは、『ごめんね。あなたが苦しんでるのに、お母さん気づけなかった』って泣きながら謝ってきたんだよ。だから俺は正直に全部話したんだ。失望されるのが怖くて、笑ってくれなくなるのが怖くて、無理をしてましたってな。そしたら、あの話をしてくれたんだ」
「そんなことが…」
「今の楓からは想像できないな」
「その出来事が今の楓のもとになってるんだ…」
「意外だよ!有城は昔から有城だと思ってた!」
話をしたのは俺だが、この辛気臭い雰囲気に耐えられなくなり足を速める。
「なーに辛気臭い面してんだ、お前らはよぉ。ほれ行くぞ」
こうして、再び帰路に着いた。
今回の話に心を動かしたのは何人いるのか。
最後は暗くなってしまったが、一件落着だ。
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