有城くん奮闘記(リメイク版)   作:icy tail

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第29話

修二と優鈴が無事にくっつき、土日をはさんだ月曜日。

クラスの雰囲気は最悪だった。

 

「あ、ごめーん」

 

そう言って声をかけたのは紺野。

かけられたのは平林だ。

この空気はやべぇな。

そんなことを考えながら過ごし、紺野の嫌がらせが始まって数日がたった。

 

「ってことは朝、机の位置がめちゃくちゃに…」

 

「うん…。たぶん放課後に、されてるのかな。まあ自分で直せばいいんだけどね…」

 

「え、でも…」

 

助けを求めてくれればなんとかすんだがなぁ。

標的にされている平林自身に助かる意思がないってのはなぁ。

そう考えていると、平林の席を占拠している紺野に近づいていく人影があった。

 

「ーーー紺野!」

 

「っ!」

 

花火かぁ!?

慌てて振り返りとめようとしたが少し遅く、花火の声が静まり返った教室に響いた。

 

「いつまでやってんの!いい加減そうゆうくだらないことはやめる!」

 

「はあ?なんの話?」

 

「そうゆうのいらない!中村取られたから八つ当たりとか、ありえない!」

 

「ふうん…あっそ。わかった」

 

そう言って紺野は花火の方に歩いていき、勝ち誇ったように笑い肩に手を置いた。

 

「花火、震えてるじゃん」

 

「うるさい!」

 

花火は内心の怯えをふりきるかのように紺野の手を払った。

だが、それは悪手だ。

案の定、紺野はわざと大袈裟に痛がる素振りを見せて、花火の同情を誘いマウントを取った。 

 

「いったぁ…」

 

「い、いや、そんなに強くは…」

 

「先に手ぇ出したのは、そっちだから」

 

そして最後にそれだけ言うと、紺野は取り巻きを連れて戻っていった。

標的が花火に変わるな。

その後、俺はできるだけ花火の近くにいるようにしているが、隙を縫って紺野の嫌がらせは続いた。

 

「あ、ごめーん」

 

ちっ!またかぁ。

花火は紺野に噛みつくが、それじゃ意味がない。

 

「紺野!いま、わざと落としたでしょ!」

 

「はあ?証拠は?勝手な決めつけやめてくれる?」

 

「決めつけじゃない!」

 

「花火。相手にすんなぁ。こんなくそ陰険ヤローはよぉ」

 

「で、でも!」

 

「花火!…落ち着け」

 

「う、うん」

 

「よしよし。それでいい。…あん?おめぇまだいたのかぁ?さっさと戻れよ悪役令嬢様よぉ」

 

「…ちっ!」

 

俺が凄みながら言うと舌打ちをして戻っていく。

紺野が去ったあと、みみみと葵と文也が散らばった筆記用具を拾うために近づいてきた。

 

「たまは、悪くないよ」

 

「…うん」

 

「えっと…たまちゃん、平気?」

 

「…うん、平気だよ」

 

「花火、大丈夫だから」

 

「葵…。うん、ありがと」

 

「私が…私が、なんとかする」

 

「…葵?」

 

葵は忌々しげに紺野の背中を睨みながら小さく呟く。

これは良くねぇ。

葵に背負わせるわけにはいかねえよなぁ。

俺はなにか決心するような葵の頭に手を置く。

 

「心配すんなぁ」

 

「…楓」

 

「てか葵ぃ。無理すんなよぉ」

 

「だけど!私が!私が何とかしなきゃ!」

 

本当に良くできたやつだ。

友達のためになにかをしようとするのはなかなかできないしなぁ。

 

「いや、それは俺の役目だぁ」

 

「でも…」

 

「俺は…お前に背負わせたくねぇ」

 

「…っ!ずるいよ。でも、それなら仕方ない…よね」

 

「あぁ。任せろ」

 

次は花火だなぁ。

花火の頭にも手を置く。

 

「花火もあんま無理すんなよぉ?」

 

「うん。でもあんなのに負けたくない!」

 

「おぅ。頑張ろうぜぇ。一緒に。な?」

 

本当に強いなぁ。この子は。

でも、まだ未熟だ。

だからたとえお節介だとしても俺が助けてやりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がどんなときでも花火といられるわけはなく、1日に1度か2度ほどのペースで嫌がらせは続いていた。

 

「紺野!また机蹴ったでしょ!」

 

「なにそれ?偶然じゃん。変な言いがかりやめてくんない?」

 

「言いがかりって…だって昨日も!」

 

「ていうか花火さぁ、こないだも私に暴力振るったこと、忘れたの?」

 

花火はこの陰険女と違って優しいからその事を言われるとうつむいちまうんだよな。

俺は、花火を庇うように2人の間に割って入る。 

 

「はいストップー。マジでお前しつこすぎだろぉ。バカなのかぁ?」

 

「あんたも相当だねぇ。そんなに花火のことが好きなの?」

 

「は?何言ってんだよぉ…」

 

こいつ本当にやり方が陰湿だな。

にやにやしやがってよぉ。

俺が好きじゃないとでも言うと思ってやがるなぁ。

 

「そんなもん好きに決まってんだろぉ」

 

「…は?」

 

「だからぁ!好きだったらなんなんだよぉ」

 

「…きも。なんなのこいつ。まじうざいんだけど。シラけたわ」

 

俺が言い切ったことが気に食わなかったのか、紺野はそう言って戻っていった。

花火の方に振り返り無事かを確認すると、花火は顔を真っ赤にしながらうつむいている。

 

「花火ぃ。大丈夫かぁ?」

 

「…///だ、大丈夫だから!友達としてってことだもんね!勘違いしないから!」

 

「いや、おい。ちょっと…」

 

席戻っちまったぁ。

別に冗談じゃあないんだけどなぁ…。

結局それからも何かある度に花火は紺野に正面からぶつかっていった。

俺がいないときは葵とみみみが花火を守ってくれているみたいだ。

だが、やはりこのピリピリした状態を好む人間などおらず、段々と風向きが変わっていく。

ある日の教室で…

 

「花火ちゃん、なんか大変そうだよね…」

 

「ホントだよね…平林さんの次は花火ちゃんとか、嫌がらせできれば誰でもいいのって感じ」

 

「ほんとさ、紺野さんいたら絶対ああなるよね」

 

「あーもう早くクラス替えなんないかなぁー!」

 

そして、数日後。

 

「また始まったね」

 

「だね。なんかもうやめてほしいっていうか、花火ちゃんが1人で騒いでるだけっていうか」

 

「てか紺野に言って聞くわけないじゃんね」

 

「ね。むしろ逆効果」

 

明らかにクラスの連中はうんざりし始めていて、愚痴がこぼれている。

いつものメンバーはひとかたまりになって今の状況について話をしていた。 

 

「今は有城がいないから大丈夫だけど、これを有城が聞いたらヤバイよな」

 

「そう…だね。多分、てか確実にキレると思う」

 

そんな話をしているうちにもクラスの連中の不満の声が続く。

葵が聞いていられなくなり、止めようとしたところで教室の扉が勢いよく開いた。

入ってきたのは当然、楓だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今、教室のドアの前にいる。

扉に手を掛けると、中から話し声が聞こえてきた。

あまりの内容に、ドアを開こうとした手が止まる。

 

「今日で何回目?まじで」

 

「さあ?もうさ、なんであそこまで怒るの夏林って?」

 

「てかまあ、紺野がひどいのはわかるけど、教室で揉めたらそのたび空気やばくなるってわかってないのかなあの人?」

 

「ある意味自業自得だよね」

 

「まあもともと空気読めないもんね夏林って」

 

 

 

『てかさ、過剰反応しすぎじゃない?』

 

 

 

俺はそれを聞いた瞬間に我慢できなくなり思いっきり扉を開いた。

 

「おい!おい!おい!おい!お前らぁ!それはマジで言ってんのかよぉ!」

 

マジで久しぶりにキレちまいそうだぁ!

そして、俺に向かって誰かが言った…

 

「いや、だって…なぁ?」

 

「あそこまでされるとさすがに迷惑ってか…なぁ?」

 

あー。もう…我慢できねぇ。

 

「何もしてねぇでただ見てることしかできねぇやつが上から物言ってんじゃあねぇぞ!立ち向かうこともできねぇのに花火のことを悪くいいやがってよぉ!迷惑?ならてめぇらで止めてみやがれってんだ!このくそがぁ!」

 

普段の俺からは想像もできないようなの怒号に、呆気に取られていた文也たちは、慌てて止めにくる。

だが、止まる気配はない。

 

「っ!やっぱりこうなったか!」

 

「ちょっと!楓!ストップ!言い過ぎだよ!」

 

「あぁ!?言いたりねぇよ!何も知らねぇくせに、何も知ろうともしてねぇくせによぉ!影でこそこそ悪口かよぉ!紺野よりたち悪りぃぜお前らよぉ!」

 

自分達だけでは止められないと悟った葵は、瞬時に少し離れた席から驚いた顔で見ていた孝弘達に声をかける。

 

「ちょっと!孝弘!修二!竹井!手伝って!」

 

「あ、ああ!」

 

「今行く!」

 

「わ、分かった!」

 

孝弘達が動きだす間にも怒りを吐き出し続ける。

 

「花火が何をしたか見てなかったのかよお前ら!悪いことしてたかよぉ!誰もが無視してたあの状況で平林を助けたのは誰だってんだよぉ!」

 

「早く!とりあえず廊下に!」

 

そして、ようやく4人がかりで取り押さえられ引きずられていった。

教室は静寂に包まれていた。

そこで口を開く者が1人。

 

「みんな聞いて。私も花火が間違ってるなんて思えない。だから楓が言ってたこと少し考えてみてくれないかな」

 

そう言って後を追って教室を出ていった。

教室はこれまでとは違った意味で最悪の空気だった。

 

 




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