やはり、比企谷八幡は阿呆らしい。   作:ホエエン

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0. やはり、比企谷八幡は阿呆らしい。

「雪ノ下、入る」

 

 

 

ノックもなく開くドア。

 

 

 

「平塚先生。 入ってくる時はノックをしてくれと頼みませんでしたか」

 

「ノックをしても返事をしたことがないじゃないか」

 

「答える間もなく入って来るから」

 

 

 

常に指摘する部分だが、いつものような結果だ。

 

 

 

「ところで、その間抜けな人間は誰ですか」

 

 

 

顔を背けて横に立っている男を見つめる。

 

端正とは言えない顔立ち、ちょっと曲がった背中と頭の上につんと突き出たアホ毛。

 

 

そして、その瞳。

 

何も映らないに違いないその目とあい、

 

知らぬ間に椅子から立ち上がった。

 

 

 

「あいつは入部希望者だ」

 

「あ、私は」

 

 

 

言葉と言葉の間の短い時間。

 

すべてが止まってしまったと感じるほど。

 

私は、彼を見つめた。

 

 

 

「比企谷八幡です」

 

 

 

私が覚えているように、彼も私を覚えてくれるだろうか。

 

 

 

「雪ノ下、雪乃です」

 

 

 

ある必然性が、私を導いていることを感じた。

 

私の足取りが、これほど明確な方向を持ったことがあったのだろうかしら。

 

 

 

「あの、ひょっとして……」

 

 

 

私が彼に持つ感情は何だろうかしら。

 

おそらく、罪悪感と責任感。

 

そして、ほんの少しの好奇心。

 

 

 

「私たち、どこかで見たことが……」

 

 

 

そう、私は……。

 

 

 

「……いや、そんなはずはない。 ごめん」

 

「……へ?」

 

 

 

期待しなかったら、嘘だけど。

 

軽い名残惜しさと、軽くない安堵感。

 

大きさを育てていくその感情が不便な石ころになって私を押さえつける。

 

 

 

「いや、そんなことより。 あれ? ちょっと待ってください。 入部ってどういうことですか」

 

「君には罰としてここで部活動をすることを命じる。 異見·反論·抗議·質問·口答えは認めない。 当分ここで頭を冷やすように。 深く反省しなさい」

 

「うわあ……」

 

 

 

死刑宣告でも受けたような顔だね。

 

しょんぼりとうなだれている彼をじっと眺める.

 

 

 

「それでだが、見ればわかるように、あいつは根性がすっかり腐ってしまった。 それでいつも孤独に苦しむ可哀想なやつだ」

 

「あの目は孤独の影響なのでしょうか。 かわいそうにも……」

 

「おい」

 

「人と付き合う方法を教えれば少しは元気になるだろう。 こいつを部員として受け入れてくれないか。あの歪んだ孤独体質の更生を依頼したいんだけど」

 

 

 

比企谷八幡を部員として受け入れる。

 

その案件についてしばらくの間考えてみる。

 

 

 

「その依頼、受け入れます」

 

「いや、私の意思は?」

 

「そう?じゃ、あとは君にまかせろ」

 

 

 

それを最後に先生は未練なく立ち去った。

 

彼もまた先生の後を追って教室の外を……。

 

 

 

「どこに行くのかしら?」

 

「ああ、あれだ、あれ。あれにあんなことがあってね」

 

「お座りなさい」

 

「はい」

 

 

 

彼の行動一つ一つに頭が痛くなる。

 

そもそも、捕まるに違いないのに逃走しようとしているのかしら。

 

 

 

「本当にあなたという人は……。あほらしい」

 

「初対面の人に阿呆なんて失礼じゃないか。 俺は自分が賢い方だと自信を持っていると」

 

「私の名前は覚えてる?」

 

「そりゃ、もちろん。雪……雪?あ、雪ノ上かな?」

 

「……なんてたいしたものだ。 いろいろな意味で」

 

「そうだろう? 俺はすごいんだ」

 

「あなたは金魚も驚くほどの壊滅的な記憶力を持っているのだろうかしら。 個人的な推測だが、一般的な常識も足りないようだね」

 

「失礼だって、おい。 俺は記憶力や常識はもちろん、教科科目もよく知っているから」

 

「そうなの? じゃ、聞いてみるけど……。 2+2×2って何かしら?」

 

「……8か?」

 

「……太陽系で惑星の順番は?」

 

「そりゃ簡単だ. 太陽、月、火星、水星、木星、金星、土星の順じゃないか」

 

 

 

……いたずらだろうね。

 

まさか本当にそう信じているのは……。

 

だが、彼も中等教育までは履修したはずだし、この小部高に進学したんだもの。

 

ええ。 人がそんなはずがないよ。

 

 

 

「ちなみに、地球の位置はどこ?」

 

「……え?」

 

「もうわかったか、あなたの答えはまちがっている……」

 

「ああ、地球は太陽系の惑星ではないのか。これはまた新しい発見だな」

 

 

 

うん、考えないようにしよう。

 

私は何も聞いていない。

 

彼から神経をとがらせて文庫本に視線を向ける。

 

 

 

「ところで、雪ノ上、ここは何の部?」

 

「……雪ノ下だよ。 いいよ、じゃあゲームをしよう」

 

「ゲーム?」

 

「そうだな。ここがどんな奥さんか当てるゲーム。 さあ、ここは何の部でしょうか?」

 

 

 

いたずらっぽく言い出したその言葉に、彼の目つきが少し真剣になった。

 

いや、ただの雪の方が腐ってるのかも。

 

 

 

「他に部員はいないの?」

 

「いないよ」

 

 

 

黙って天井を見詰める彼。

 

果たして当てられるのか、探偵さん?

 

 

 

「奉仕部」

 

「えっ、ええっ?」

 

 

 

私らしくなく変な声を出してしまった。

 

せいぜい文芸部くらいの答えを予想していたのに……。

 

 

 

「……そう推測した根拠は?」

 

「ああ、それはね。 彼より近い! どうしたんだ、お前!」

 

「いいから、早く言え」

 

「そんなに近いと話せないのに。 何かいいにおいがして」

 

「そうね, いい香りだと思ってくれるんだな」

 

「いや、落ちて……。離れていただけますか」

 

 

 

顔を赤らめて居ても立っても居られない様子。

 

私の顔を見ないようにもがく彼が、

 

そんな彼が、少しは……。

 

 

 

「……気分が悪い」

 

「……はい??」

 

「いいから、どうやって知ったのか言えよ。 気分が悪い探偵さん」

 

「……不気味な探偵って何だ。 まあ、先生に聞いてみただけだよ」

 

「……そう」

 

 

 

何の返事を期待したのだろうか。

 

先生に聞いた答えなら、すぐ言えばよかったのに。

 

 

 

「持つ者が持たざる者に慈悲を施す行為。 人々はそれをボランティアと呼ぶ。 開発途上国にはODAを、ホームレスには無料配食を人気のない男性には女性との対話を、苦境に立たされている人には助けの手を差し伸べることだ。 それが私たち奉仕部の活動目標だ」

 

「……ふむ」

 

「奉仕部へようこそ、比企谷くん」

 

 

 

これが、私雪ノ下雪乃と比企谷八幡の二度目の出会いだった。

 

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