身体に響く衝撃はない。
手に握る剣の重厚さだけが、巨人の拳が振り落とされたなかった事実をありありと指し示していた。
あの勢い、そして雄叫びをあげていたバーサーカーが止まってしまうなどあり得ないはずだ。だと言うのに、俺の打ち壊すほどの衝撃は襲ってくることはない。
「なん、でだ……」
衝撃に耐えるために瞼を固く閉じていたため、すぐに周囲の状況を確認する事は出来ない。ただうめき声を上げるバーサーカーと苦しそうに息をするセイバー、そしてどういう訳か今にも泣き出しそうに声を漏らすイリヤの声を聞くに、誰も予想していないような状態であるという事は明白だった。
脳裏にこの状況を目にしたくないという弱気な考えが過っていく。
あぁ。何度こんな風に回り道をするのか。今この手に握る剣の輝きを曇らせるような思考はもう捨て去れ。
こんな弱気が、こんな怯えがどれだけ自分を取り巻く状況を悪化させてきたのだ。
「ーー逃げるな」
一喝、弱々しい自分に対し、言い聞かせるように吐き出す。
「逃げるなよ、エミヤシロウ……」
もう一度、せめてこの剣を握った時だけは、迷わないように。
ゆっくりと瞳を開ける。
瞳を開け、この手に掲げた剣を一気に振り下ろせば、それでこの戦いは終わる。そのはずだったのだ。
そう決意したはずだったのに……。
「ーーフフフ」
「何で、だよ」
「おはようございます、ご無沙汰してます先輩」
「何でお前が……」
「何でって、おかしな事言わないでください」
巨人の後方、いつものように可愛らしく笑顔を浮かべながら彼女は立っていた。
「わたしが、あなたを迎えに来るのは……いつもの日課じゃないですか、衛宮先輩」
そこには可愛らしくも怪しく笑う少女の姿があった。
何故だろう。何も厭わないと決めていたはずだったのだ。どんな犠牲を払っても、この剣を振り下ろすと覚悟していたはずだったのだ。
しかし手にしていたはずの黄金の輝きは、知らず知らずの内に零れ落ち、重々しい音をたてたと同時に光のように消え去っていた。
そう。そこには彼女が、間桐桜がいた。いつもと変わらぬ笑顔で、しかしあまりに深い闇を抱えて。
その姿を目にした瞬間、自分の中の何かが叫んだ。
アレは居てはいけない、存在してはいけないモノだと。
アレは総てを滅ぼしてしまいかねない闇そのものであると。
だからこそ再び勝利すべき黄金の剣(カリバーン)をこの手に創り、黄金の輝きをもってそれを打ち消すことが最善であると叫んでいる。
“創れ!”
出来ない。それは、バーサーカー諸共桜も殺してしまう事と同じ事だから。
“お前は何者だ! お前の為すべきは一体何だ!”
分かってる。俺が何者かという事くらい。でも……桜が目の前に居るのに、そんな事できるはずがない。
“お前は、後ろに居る少女を守りたいのではなかったのか?”
そうだ。俺は確かに、彼女を……セイバーを守りたいためだけに力を得てきた。
それだというのに、それでも俺は桜を切り捨てる事なんて出来ない。
“直感しているはずだ。アレはこの世の悪意の総てを内包した存在だと”
それでも……出来ない。
切り捨てると決めていた、守る事が出来ないとハッキリ告げたはずの桜を、俺は傷付ける事が出来ないのだ。
「どきなさい、マスター! この好機を逃すべきではない!」
ほんの数秒、身動きの取れないままに呆然としていた俺の後方から怒りを孕んだ言葉が投げつけられる。
それと同時にだらりと投げ出していた俺の腕を強引に引きながら、彼女は訝しげな表情を俺に向けていた。
「待て! お前、関係ない人間を巻き込むつもりか?」
「関係ないだと! 貴方の目は節穴か!? 何を見ているのだ!」
「彼女を、サクラを見て貴方は何も思わないのか!」
「それは……」
そう。彼女に言われるまでもない。
彼女は最早この戦いと関係のない人間なのではない。寧ろ人とは呼べないモノに成りかけているという事だって理解しているんだ。
俺の腕を掴むセイバーの手が少しずつ力を増していく度に、それを身に染みるほどに実感していく。
そして、俺の愚かしささえ。
俺の煮え切らない態度に掴んでいた腕を乱暴に手放し、セイバーは一層鋭い瞳で俺を睨みつける。
そう。それは数日前、イリヤと会った後に向けられたものよりも更に鋭いものであった。
「やはり貴方は分かっていたのか……?」
「何が、何がだよ!」
その言葉の意味を理解しながら、そんなとぼけた言葉を口にしていた。
「貴方は総てを見透かして、私を……この戦いに挑む全員を笑い者にしていたのだ!」
彼女は気付いていたのだ。
俺が、エミヤシロウがこの聖杯戦争で起こりえる事を知っているという事を。
俺が、桜に対して必要以上に固執しているという事を。
「お前、何言って……」
それでもこう口にしてしまう。決して気付かれはしないと思っていたから。
ただそう言い聞かせて、その事実に目を背けたまま。
こんなにも、もう後もないようなこんな状況であるにも関わらず。
「もういい! 貴方が手を下せないのなら、私が決着を付けるまでだ!」
俺に向けられていた視線が、巨人の向こうに立つ少女に、桜に向けられる。
俺の身体を押しのけ一歩、そしてもう一歩彼女はそれに近づき、剣の切っ先を彼女に向ける。その瞳に宿るのは必殺の誓い。そして人に仇なすモノに対する怒り。
高潔であり、誇り高き騎士の王としての表情がそこにはあった。
「うるさいです……先輩が怖がってるじゃないですか」
その視線に苛立ちを覚えたのか、黒に淀んだ鋭い瞳でセイバーを射抜かんとしていた。
こんな事はおかしい。……いない、そう。どこにもいないのだ。
自分のどの記憶の中を探っても、こんな表情をする桜は記憶の中にはいない。俺の聖杯戦争の中にはそんな事実は存在しないはずなのに。
しかし今目の前で繰り広げられているこの状態は紛れもない現実であり、そしてこれは愚かしい俺が引き起こしたものだという事だけが、否定することの出来ない答えだった。
切っ先をそのままに、両の手で剣の柄を握りながら臨戦態勢に入るセイバー。
陽の光はようやく寒空の中に、ようやく暖かな日差しを振りまき始めた頃合いだろうか。しかしその熱を、周囲の魔力を根刮ぎ奪い去っていくかのようにすら俺には感じられた。
決して動く事はなく、互いの様子を窺い続ける。
「サクラ……最初に会った時にこうしておけば良かったのだ」
深く息を吐き出しながら桜の隙を窺うセイバーの口から、ふと言葉が零れ落ちた。まるでそれは彼女自身も意図していなかったのであろう。
表情をみとめる事は出来なかったがその言葉の端々から、どこか動揺している様が感じ取れた。
「すいません、黙ってください……」
「少女を傷付けるなど、騎士の流儀に反するが……」
「黙ってくださいって言ったんですよ?」
「この剣の輝きに賭けて、私は闇を払おう」
「ねぇ……口を閉じてくれませんか? 煩いです……」
「見逃す事はしないぞ。貴女はこの場を、この戦いを混沌とさせる原因なのだから」
淡々と言葉を紡いでいくセイバーを尻目に、彼女に声を聞く度に苛立ちを露にしていく桜。
だがついに彼女の我慢は限界を超えたのだろう。
「ーー黙れって、言ったでしょ!」
森に響き渡る刺々しい声。それは目の前の可憐な少女から放たれたとは思えないほどの喧しい響き。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
しかしそれを音すら可愛いものに思えてしまうほどの雄叫びが、直後俺たちを包む空気を侵していった。
ドスン。
それは音にしてしまえばあまりにチャチなものだったかもしれない。
それは俺の言葉では語り得ない光景なのかもしれない。
身を焦がされても、剣戟に刺し貫かれても不動であったはずのバーサーカーの突っ伏していた。その場に無惨にも倒れ込んでいたのだ。
その場にいる全員が、その光景に言葉を発する事が出来なかった。
バーサーカーを捕らえていたはずの影は彼の巨躯を強引に締め上げ、その四肢をいとも容易く毟り取ってしまった。そしてそのまま、その肉の塊を吸い込んでしまったのだ。
あれほどまでに強大だったはずのバーサーカーが、こんなにもあっさりと地に伏し、文字通り転がされているなど、自分の眼を疑いたくなるほどのモノであった。
しかし事実、バーサーカーの身体は地に転がり、理由は分からないが再生される事なく呻き声をあげるだけであった。
先程まで雄弁に語っていたはずのセイバーですら、その光景に何も言う事が出来ず、全員が固唾を飲んでそれを見守る中、悲鳴のような叫び声が木霊した。
「ーーっ! バーサーカー!」
言うまでもなくその悲鳴は彼の主、イリヤのものであった。カタカタと身体を震わせながら、ただ彼の名前を呼ぶ事しか出来なかった。
「貴女も黙ってなさい。こんな下品な声を上げてのたうち回る事になりますよ?」
しかしその悲痛の叫びも、今の桜の心に届く事はないのだろう。
冷淡な眼差しをイリヤに向けたまま、彼女はただ口元を歪めていた。
「ーー桜。お前、どうして……」
そして俺の言葉も、受取手のないままに肌に刺す日差しの中に消えていく。
「これで最後です。 もう、わたしと先輩とのお話、邪魔しないでください」
ただ俺の中にある後悔だけは、ありありと残したまま。
「あ、そうそう。そんな所じゃお話しも聞き辛いんじゃないですか」
徐々に頭が回り始めなくなった頃、不意に桜がそんな言葉を口にする。言葉を投げ出した先は誰もいないはずの場所。
いや、そうではない。とっくに気が付いていたのだ。セイバーが戦う姿を見つめる俺の背中に突き刺さる鋭い視線を。明確な意志をもって向けられるその殺気を。
「ねぇ、姉さんも出てきたらどうですか?」
大きな木々の影、華奢な少女が姿を現す。殺気を放つ男の主、きっと……いや確かに俺たちを闇討ちしようとその場に身を潜めていたのだろう。
遠坂凛が不安に満ちた色を浮かべたまま、この戦場に姿を現したのだ。
「おはようございます、姉さん。ご機嫌いかがですか?」
和やかに笑顔を浮かべる桜。
しかしそれを尻目に、朝日のあたる場所に踏み出した凛の表情はどこか苦々しいものであった。
「桜……一体何してんのよ」
その苦々しい表情は変わり果ててしまった桜に対するものだったのか、それともこのおかしな状態に対するモノだったのか、それは俺には分からない。
でも、それでも桜の行動をどうする事も出来ない。
「待ってください。今からお片づけするんで」
それはまるで遊び尽くした玩具を片付ける、子供のような口調だった。
「な、何するつもりなの? ねぇ、何するのよ?」
直感で理解できた。桜の為そうとしている事が。
それを認めたくないからだろう、イリヤは声を震わせながら、
「お掃除ですよ」
「この邪魔な肉の塊を、綺麗に」
「やだ! 殺さないで! バーサーカーを殺さないで!」
冷ややかな視線を地に伏すバーサーカーに向けているのに気付いたのだろうか。茫然自失していたイリヤが大声を上げながら、桜に近づこうとする。
しかし次の一歩が進まない。ガクガクと彼女の膝は震え、思うように進む事が出来ないようであった。ただ彼女の表情から、涙目に成りながらも前進しようとするその表情から、イリヤがこの状況を決して許していないのだと言う事だけはハッキリ伝わってきた。
「五月蝿い子……なら貴女からでも……」
「ーーッ!……ヤダ。助けて……」
しかし桜は彼女のそんな健気思いすら打ち砕かんと、冷徹にその言葉を投げかける。
その彼女の行為が、その表情が目障りだと言わんばかりに自らの闇の切っ先を向け、その力をイリヤに打ち出していた。
「ーー助けてよ、バーサーカー!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
刹那、地に這いずりながら、雄叫びを上げながら自らの主と影の間に割り込むあまりにも大きな影。
いつの間に影の拘束から抜け出したのだろうか、四肢を捥がれたはずの巨体はまるで主を守るように総ての闇色の触手を受け止め、その身から夥しい血を振りまいていた。朝日に照らされても決して輝く事のない、あまりに赤々とした無惨な痕跡を残す。
「あら。本当に、ご主人様思いの飼い犬なんですね」
不意に彼女の口から零れた言葉に、息を飲んでしまう。
穏やかだった彼女から、そんな言葉が出る事が信じられなかった。
星の編んだ聖剣の光に耐え切ったはずのバーサーカーの瞳から光が消え、桜の放った闇にその身が飲まれていく事が信じられなかった。
「やだ……バーサーカー……!」
イリヤが口にしたこの言葉が俺の、この場にいる全員の気持ちを代弁していた。
「こんなつもりじゃなかったのになぁ。折角に玩具が壊しちゃったじゃないですか」
「バー……サー、カー? 嘘だよね、ねぇ嘘だよね?」
バーサーカーの残した痕跡に手を触れながら、膝をつきその場にへたり込むイリヤ。
落としてしまった大事なものを探すようなその様はあまりに痛々しい。
「バーサーカー、消えちゃった……」
その実感を身に感じた時、彼女の瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。
絶対の信頼をおいていた従者が敗れ去った。自分を守り、勝利へと導いてくれるはずの英雄がこんなにもアッサリと消し飛ばされてしまったのだ。
その事実を、こんな結末を迎えてしまった俺たちの約束の戦いを、きっと彼女はそう簡単に受け止める事は出来ないだろう。
しかし泣き叫ぶイリヤなど構う事なく、バーサーカーを屠った少女は今日一番の笑顔を浮かべ、こちらを見つめる。
「さて、邪魔者は居なくなりました。さぁ衛宮先輩、お話の続きを……」
そう呟き、こちらに手を差し伸べる桜。
いつもの表情だ。いつもの、土蔵に俺を起こしにきてくれる時のあの優しい笑顔だ。それなのに、こんな笑顔が出来るのに、何故こんなにも残酷な事が出来るのか。
そう思うと俺は彼女の手をとる事が出来ない。いや。今隙を見せてはいけないと本能が訴えているのだ。
未だに姿を見せない”アイツ”に、これ以上隙を見せてはいけないと。
“ーーーI am the bone of my sword(我が骨子は捻れ狂う。)”
そう。聞こえている。聞こえない訳がない。
何をしようとしているかも分かる。そう。分からないはずもない。
殺すのならば、
「セイバー、跳べ!」
「ーーっ、シロウ!」
これ以上は何も叫ばず、俺は茫然と従者の痕跡に手を触れる少女の下へと駆け出していた。セイバーならば跳躍するだけで避ける事も出来るであろう衝撃も、自失してしまっているイリヤではそれは叶わない。
そう思い至るのに、刹那の時もかかるはずはなかった。
そしてそれは告げられる。
死の宣告のように、総てを消し飛ばすために。
“ーーー偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)”
「イリヤ!」
寸での所でイリヤを抱きかかえ、迫り来る矢を見据える。
桜の事、イリヤの事、そしてアーチャーの事……。総てが俺の中で混沌と渦巻いている。しかしそんな事を言い訳にして、イリヤを守れなかったなどと言いたくはない。
そう。二度とこの子が死んでしまう所を俺は見たくない。
そしてアーチャーが俺の大事なものを奪うことなど、決して認めたくはない。いや認めてはいけないのだ。俺を殺すためにこの場の総てを犠牲にする事など、誤った考え方なのだから。
どれくらいの時間を考えに費やしていたのだろう。
秒にも満たぬ時間であったかもしれない。
思考を止めず、イメージを描く。
今この場を乗り切る最善のモノを創り上げる。
生きなくては、殺されては何も出来ないのだから。
「是・熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」
手を掲げ、唯一俺が創り上げる事の出来る彼の盾をその手に顕す。
展開される七枚の花弁は空を裂いて進む矢の魔力を正面から受け止め衝撃を殺す。だが四散していく衝撃と魔力は周囲の地面を乱暴に荒らし、土煙を上げ視界を奪っていく。
矢を放ったアーチャーの側からも同じ事なのかもしれないが、守る側であるこちらが圧倒的に不利である事は言うまでもない。次、同じように攻撃を受ければ防ぐ事は出来ない。
「ちょっと! アンタ、今のタイミングで何してるのよ!」
しかし幸運にも、彼の主の存在がアーチャーの次の行動にストップをかけた。
「何を言っている? 今こそエミヤシロウとセイバー、そしてあの化け物を殺す絶好の機会ではないか」
「それでも、こんな事、私の流儀に反して……」
「プライドは捨てるのではなかったのか、我が主よ?」
「確かに……そう言ったけど、でも桜は関係ないでしょ!」
アーチャーの放った矢によって巻き上げられた土煙によって、二人の表情を確認する事は出来ない、しかし困惑する遠坂と、そしてあわよくば俺諸共この場にいる全員を殺してしまおうとするアーチャーの意図だけは感じ取る事が出来た。
だからこそ考えろ。今どうするべきなのかを。茫然とその場にへたり込むイリヤを守りながら、この二人の脅威から逃れる為に、どうするべきなのかを。
「何を言っている。現実を受け入れろ、マスター。アレは最早君の妹ではない」
おそらくこの一撃でこの戦いが決する事はない。アーチャー自身もそれを理解している。桜が手負いになっておいれば、次に矛先を俺に向けるつもりなのだろう。 だからこそ今この身に感じる殺気が消える事がないのだ。
「あらら。こんな酷いことするなんて……野蛮なんですから」
徐々に視界も回復し、その姿をハッキリと見て取る事が出来るようになった。
しかしその姿を目にしなくても、充分に分かっていた。
バーサーカーを倒した彼女の力を知っているから。
かつての俺の、自分自身の力を嫌という程理解しているから。
間桐桜にこんなだまし討ちが通用する訳がないのだと。
「まさか、無傷、だと……!」
「ーーフフフ、でもさすがに少し怒っちゃいました。悪い子には、お仕置きです」
次の瞬間、赤い外套を着込んだ背から、黒の刃が突き立っていた。
口から、そして彼の胸からは身に付けた赤よりも赤い。アーチャの口から鮮血が零れ落ちていた。