「ここか……うん、ここで合ってるな」
幹也さんと知り合いになってから一ヶ月後、彼からに送られてきた地図を頼りに俺は自分の住む街を離れ、見知らぬ街にやって来ていた。そこは冬木からだと観布子ほど離れているわけではないが、新都などと比べるとこれから発展していくであろう可能性を感じさせるような街。
それにしても幹也さんの捜索能力には脱帽である。
幹也さん曰く、アオザキが会社をたたんでしまってから全く連絡も取り合っていなかったにも関わらず、ものの一ヶ月ほどで現在の居場所と連絡先までも仕入れてくれた。感謝してもし足りないくらいだ。
しかし遠く見ていた街にこうやって立つと、なぜか不思議な感覚になる。観布子の時にも感じていたが、知らない土地に『戦う』という目的以外で来ると何故か少しだけ嬉しい気持ちになるのだ。
俺は今まで色んな風景を見てきた。
荒廃した地平、鉛色に重い空、血に塗れた大地、そして多くを助けるために犠牲にしてしまった人たちの亡骸。
でも違っていた、ありふれた景色がこんなに綺麗だったことを俺は改めて感じていた。
「……にしても、ここに本当に人が住んでるのか?」
指定された場所はもう何年も人の手が入っていないような廃れたビル。人もあまり寄り付かない、街の中心から外れた場所にそれはあった。
『アオザキトウコ』……式さんと幹也さんの話だと、掴み所のない人らしい。それに加えて二人はちゃんと意味を理解していなかったが、アオザキトウコは魔術 協会から封印指定を受けた魔術師なのだという。しかしこれだけでは情報が不足しすぎていて一体どんな人物なのか、全く予想が出来ない。
「とにかく入ってみるしかないか」
ビルの入り口であれこれと悩んでいる場合ではない。俺は決心をかため、恐る恐るビル内に足を踏み入れようとした時だった。
「――ッッ! な、何だっ!?」
身を突き刺すような明らかな感情。これは最近にも感じたもの……それは殺気。かつて戦場に身を投じていた頃、日常茶飯事に受けていたモノ。
――これは……上から?
「意外に若い魔術師だな。この場所が分かるなんて意外だったよ。でだ、人の工房に勝手に入ったんだ。覚悟は出来ているんだろうな?」
階上から聞こえるのはあまりに綺麗な声。それは殺気と非常さを内包した響き。
見上げた先には、声に違わぬ美しい女性が立っていた。
「あ、なたが……アオザキ?」
「そんなこと、どうだっていいだろうに。まぁ『シキ』の真似をするわけじゃないんだがね、殺しあおうか?若い魔術師くん」
ドンと重い響きをたて、目の前の魔術師が手にしていたアタッシュケースを床に置く。
その音に続くように奏でられる甲高い靴音。
「さぁ、餌の時間だ。存分に楽しめ」
現れたのは嵐、そして黒い猫。それは爪をたて、牙を向いて俺へと突進してくる。
この俺の幼い身体では避ける事の出来ないスピード。
ダメだ。こんなところで戦っては!?
――そんなこと、無駄だ
でも、俺にはあの人に対する敵意なんて……
――見せ付けるのだ
一体何を?
――覚悟、そして自らの力を
そう……自らの力を見せ付ける
――英霊であった私の
今の俺の力を!!
迫る、それはさながら身を切り裂く風。ならばと俺は息を呑んで、駆ける。
分かること、それは“今の俺”には離れた敵への攻撃する術を持たないこと。
ならば近付け!唯一の攻撃手段を生かすことの出来る場所まで!
一から、何のアドバンテージもないこの身体に魔術回路を打ち立て魔力を通す。それは焼けていくような鉄を焼き入れる様な感覚。気持ち悪い……痛くて、辛くて、膝を突いてしまいたくなる。
その痛みに耐え敵を見据え立ち続けた。
俺には、その痛みに耐えるだけの覚悟があるはずだ!
「同調・開始(トレース・オン)!!」
お決まりの言葉。だからこそ、俺にとっては必要不可欠な言葉。
目の前に迫る猫。普通に当たれば骨は砕け散る。
当たりに行っても同じなら、向かい討っての一撃で勝機を見つける。
ズタボロな身体に鞭を打ち、俺は一気に階上に向け駆ける。
身体に『強化』の魔術。成功とも言えない、穴を見つければあり過ぎる成功のない魔術。
「……ッシ!!」
ゴキリと音をたて、猫が俺の足元に沈む。
突き出した拳に残る鈍い痛み。そんなことは今は考えない。痛みを思考の外に逃がし、次の一手を打つために顔を上げ、階上にいるはずの魔術師へとまた疾走を試みる。
「なかなかの瞬発力だ。それなりに鍛えてはいるようだな」
そう、その響きを耳にし、俺は自分の間違いを痛感させられた。
こんな安直な行動、簡単に見破られる。これは子どもの喧嘩ではない、相手は……相手は、生粋の魔術師なんだ。
「だがな、これは『魔術師の殺し合い』なんだぞ?」
「――ハッッッ……」
落下する。俺の身体が、俺の意思とは無関係に……ただ落ちていく。
そう。俺は昇っていたはずの階段から落ち、出口まで落ちていた。
身体にははっきりと衝撃を受けたが残る。魔術師は俺の見えないところから、第二手を用意していたんだ。
「身体は頑丈なんだな……なかなかに楽しめたよ、魔術師くん」
冷たい言葉が頭上から降ってくる。霞みゆく意識の中で最後に目にしたのは、あまりにも美しすぎる、そして冷酷すぎる魔術師の表情。
「お、俺は……まだ…」
総てが甘かった。いや、もしかすると己を過信しすぎていたのかもしれない。俺は最後の強がりも口に出来ず、闇の中へと意識を落としていった。
―interlude―
それは人外が、互いの血を求め狂う狂乱の夜。
魔術師が根源の渦への到達を悲願とし、その業を昇華させる時。
廃ビルの一室。机とソファ、そしてはたから見ればガラクタばかりが散在している、おおよそ何かのオフィスとは誰一人として思わないであろう部屋である。
ここに、二人の魔術師がいる。
一人は衛宮士郎、かつての英霊の魂を宿したこの世界のイレギュラー。彼は今、ソファで寝息をたてている。身に受けたダメージを少しでも回復させようとしているかのように。
「……あぁ、来たよ。確かにお前の言う通りだった」
淡々とした女性の美しい声が部屋に響く。その瞳は鋭く、自らが打倒した若い魔術師を捉えている。
その声の主こそ、衛宮士郎が面会を求めていた人物。
名を蒼崎橙子。このオフィスの主であり、魔術協会より封印指定を受けた魔術師の一人である。
彼女は『エミヤシロウ』という名の少年が自分のところに来ることを、今電話で話している元部下・黒桐幹也から事前の連絡で聞いていた。
そう。わざわざ黒桐幹也が連絡までして、自分に会わせようとするのだ。それ自体がおかしさを物語っている。
「しかしね、下手すると殺してしまうところだったぞ。半人前の魔術師ならば先にそう言っておけばよかったろうに」
呆れたと言わんばかりの声で橙子は幹也に対して悪態を吐く。しかし受話器の向こうからは帰ってきたのは意外だと言わんばかりの驚き慄いた響きだった。
あの子どもには特筆すべきものはない。
ただ一つ、自分と相対した時に感じさせた殺気。それは幾度となく修羅場を乗り越えてきた者が発するモノのそれに等しい……いやそれ以上のモノだった。
その点だけを見るならば、確かにあの年齢の子どもにしては筋が良いのかもしれない。
それこそ彼女がエミヤシロウに下した評価だった。
きっと式も同じことを思ったに違いない。だから何も言わずにあの少年を此方に寄越したのだろう。
しかし受話器の向こうから聞こえてきた返答は、自身が予想したものとはあまりにかけ離れていた。
「――何、だと? 本当に式がそう言ったのか!?」
それは式が言ったとは思えないような言葉だった。しかし彼女の夫、黒桐幹也がこの手の冗談を言うわけもない。それは紛れもない事実なのだ。
「なるほどな……全く、お前たちと関わっていると退屈をしないよ」
幹也の返答に、橙子は面白そうに口元を歪めた。
「まぁ、後は私に任せるといい。式がそう言ったんなら、お前たちでこの子をどうこう出来るわけではないだろうからな」
彼女のあまりに素直な反応に、幹也は溜息混じりに問いかけてくる。だがもはや橙子には彼の問いかけなどより、今目の前にいる少年への評価を改めなければということに興味の大半をもっていかれていた。
「――大丈夫だ、悪い様にはしないさ」
最後に一言告げ、あっさりと電話を切る橙子。おそらく受話器の向こうでは幹也が慌てふためいているのだろうと想像しながら笑みをこぼす。
そうして自らの工房に足を踏み入れた少年へと視線を移し、先ほど幹也の口から出た『式が言った』という言葉を反芻する。
「『普通じゃなさすぎる』か……」
それは魔術師からすれば当たり前のこと。世界の神秘に触れている、非日常に身を置いているのだからそれは当然だろう。
しかし式が言った言葉が、他の魔術師や人外のモノと比べての事ならばかなり意味合いが変わってくる。無論式ならばこれまでの経験で、エミヤシロウが魔術に 関わりをもっているであろうということは一目瞭然だろう。それを踏まえてあえてその言葉を選んだとするならば、それはあまりに興味をそそられることなので はないか。
そしてもう一つ、『エミヤ』という名。
かつて多くの魔術師を震え上がらせた『魔術師殺し』と同じ名を目の前の少年は持っている。もし本当にあの男の関係者ならばこんなおかしな巡り合わせはない。
想像通りならばこんなに面白いことはないと、嬉しそうな顔を見せ橙子は胸ポケットに入れてあったシガレットケースを取り出し、煙草を一本取り出した。
「――あぁ、本当にそうならば……」
火を燈した煙草から立ち上る煙が徐々に室内を覆っていく。
まるで彼女の心を表す様に、靄がかったその向こうに、かつて対峙した憎むべき者を思い描くかのように。
これから起こりうるであろうことを考えるだけで、彼女は自身の興奮を隠せなかった。それは魔術師としての性か、それとも人としての興味から来るものか。
どちらにせよ蒼崎橙子にとって、退屈しのぎになることには変わりないのだ。
「確かに、どう転んでも面白いことには変わりはないか」
魔術師は呟く、その瞳に嬉々とした色を漲らせながら。それはまるで子どものように、そして異常者のように。
それが一体どちらなのか、その答えを知るのは彼女だけであった。
―interlude out―
ひんやりとしたタオルの感触。
冷たくて、気持ちが良くて、心地よくて。
それに引かれるように、俺の意識は覚醒へと向かう。大事なものを思い出すように。
「――んっっ」
視界に蛍光灯の光が痛い。慣れない視界をじんわりと正常に戻しつつ、俺は起き上がり周囲を眺める。
「ここ、は……」
「――あ、起きたのね。大丈夫?」
ギィと音をたてて開けられたドアから眼鏡をかけた赤毛の女性が一人、にこりとした笑顔を見せながら入ってきた。大量の書類と、救急箱を手にして。
「え? あ、貴方は?」
俺は部屋に入ってきた女性の方を見ようと身体を起こそうとするが、あまりの激痛にうまく身体は動いてくれない。
「うん、目はしっかり見えてるわね。熱は……大丈夫。怪我はまぁ、ちょっと酷いかもしれないけど」
女性は荷物を置き、俺の前に座りながら俺の様子を見てくれる。
そうして彼女は救急箱から包帯を取り出し、俺の腕に巻かれた包帯を取り替え始めた。
「今回はサービスよ。普段は絶対にこんなことはしないの」
部屋に入ってきた時と違わぬ笑顔を見せ、彼女は手際良く作業を進めた。しかし女性が俺の包帯を取り替えてくれている間、俺には何が起こったのか理解できないほどに困惑していた。
そう。目の前の女性こそ、俺を打倒した魔術師……アオザキその人だったからだ。
「どうしたの? 少し強く巻き過ぎたかしら?」
アオザキは不思議そうな顔をして俺に尋ねる。
あなたがあまりにあの時と雰囲気が違いすぎるから困惑したと言えない俺は平静を繕うように深呼吸をして、噛みしめるように返答する。
「いえ、別に……ただ少し身体が痛くて。あ、俺は士郎。衛宮士郎です」
「えぇ、知ってるわ。私は橙子、蒼崎橙子よ」
はっきりとそしてあまりに簡潔に言葉を返すアオザキ。
何か色々俺と戦った時とはあまりに食い違っているが、この人が俺の探していたアオザキトウコその人であるということは間違いないらしい。
「やっぱり、あなたがアオザキ……」
俺の緊張と困惑を感じ取ったのだろうか、アオザキは無言で俺から離れて自分のデスクに腰を下ろした。そして、ゆっくりとした動作で耳にかけていた眼鏡を外しながら呟く。
「さて、自己紹介もすんだんだ。本題に移ろうか?エミヤシロウくん?」
鳴り響くような、綺麗な声が部屋に響いた。刹那、思い出すあの屈辱。倒れた俺を見下す表情。目の前の女性の瞳は瞬時に別のものへと変貌を遂げた。
それは魔術師。自らの願望のために、手段を選ばず何でも犠牲にしてしまう者の瞳だ。
「あ、お……俺は!」
その目から感じたのは殺気だけではない。蔑むように、嘲笑うようにすら見えた。
「――全く! お前は一体なんなんだろうな?なぜ式があんなことを言ったのか……今のお前からでは想像できないよ」
視線と同様に、嘲りを孕んだ響きが再び投げかけられる。それは完全にあの時相対した魔術師のモノに相違なかった。
『試されている』。素直にそう思った。あの時の戦闘も、そして今も……俺はこの人物に品定めをされているのだ。
「……式さんが言ったことってなんですか?」
呼吸を整え、しっかりとした視線を俺はアオザキに向ける。怯える身体を制し、ゆっくりと言葉にしていく。魔術師との対話がこんなに神経を使うモノだったのかと、改めて思い知らされる。
「橙子でいい。……まぁ式はね、お前のことをこう言ったんだ。『普通じゃなさすぎる』と。」
一言、俺に向けて放たれた言葉は、正直俺の予想しなかったものだった。
あの一目で特異であると見て取れる人間が俺を『普通じゃなさすぎる』と言った?何か悪い冗談なのだろうか。
しかし俺が頭を悩ませている最中にも、橙子さんは矢継ぎ早に言葉を投げかけてきた。
「まぁ黒桐が連絡してこなければ、その場で殺していた……。ただ式の言葉もあって、お前に少しだけ興味が湧いたんだよ」
橙子さんは俺を正面から見据える。それは俺の意思の確認。
“今のお前なら、いつでも殺すことが出来る”暗にそう言われていると、その言葉から理解することは容易だった。
「さて、まず三つ質問ばかり質問だ。お前は衛宮切嗣という男を知っているか?」
ズバリと、橙子さんは俺の想像していなかったことを俺に問いかけてくる。無論、目の前の女性は俺の黙秘権を完全に否定している。
隠すことなどではない。これは寧ろ今の俺が魔術師に存在を認めてもらうための名刺代わりなのだから。
「はい、衛宮切嗣は俺の育ての親です」
「む?つまりお前は切嗣の実の子どもではないと?」
怪訝な表情で俺を睨みつける橙子さん。俺は構わずに自分の素性をドンドン明かしていく。
「俺は冬木で起こった災害の孤児でした。切嗣はその災害の後、すぐに俺を引き取って育ててくれたんです」
彼女は俺の言葉に耳を傾けながら、何か考え事をしている様子だった。そして考えがまとまったのか、もう一度俺を見据えて問いかけた。
「では二つ目。お前は衛宮切嗣に魔術の手ほどきを受けたのか?」
「えぇ、ただ切嗣が教えてくれたのは魔術の大まかな知識と主に『強化』です。常々才能がないと言われてましたから」
「待て! じゃぁお前は『強化』しか使えないのに、単身で魔術師の工房に侵入したというのか? 呆れたやつだな……」
橙子さんは俺の蛮勇とも言える行動を苦笑する。笑われても仕方がない。だが今の俺の身体では『強化』しか……いやそれすらまともに使えない。それを打開するためにここに来た、これは間違いではないはずだ。
それから切嗣絡みの質問は続いた。
俺はぐっと握り拳を作って、この嘲りともとれる橙子さんの言葉を受け続ける。いや、寧ろ今の傷付いた状況では俺には何も出来ないという方が正しいのかもしれない。
「――なるほどな、大体は分かった。あの『魔術師殺し』が死ぬ前に残した忘れ形見がお前ということか……つまりお前は私を『魔術師殺し』と同様に師事したいとでも?」
来た、この言葉を待っていた。別に俺は蒼崎橙子を師事したいわけではない。ただ魔術の世界の入り口としようとしているだけに過ぎない。
だからあえて俺は嘘を言わない。ハッキリと俺の目的を口にする。
「……あくまで強くなるきっかけが欲しいだけです。師事して後ろ盾を得ようとか、そんなことは思っていません。」
これだけの言葉では説明には不十分かもしれない。しかし橙子さんは大体のことをくみ取ったのか声をあげて笑った。考えてもみれば、こんな子どもが何を生意気なことを言っているのだろう。だが、俺にはこれ以上に説明できる言葉を持ち合わせているわけではなかった。
一しきり笑い終えた後、呼吸を整えながら橙子さんは “いいだろう”と呟いた。目尻に溜まった涙を拭きとりながら、もう一度俺を見据える。それはおそらく最後の確認のためだろう。
「まぁ気に入らなければすぐにどうとでも出来るということを覚えておけよ。今後お前がどれだけ出来る奴か調べるとして…もし修行が必要ならば手を貸さないでもない……さて、最後の質問だ。お前は一体“何”だ?」
「――え?」
予想出来ない一言。式さんに初めて会った時にも言われたその言葉に俺は思考を乱されて……自分でも何が何だか全く理解できない。
「誰って……俺は衛宮士郎です」
間抜けな顔をしているっていうのは十分に分かっていた。
ただ、俺にはこう答えるしか術が見付からなかったのだ。
橙子さんの眼は、俺を瞳を見つめ、嘘を言えば呪い殺さんとばかりだった。
その手は俺の首筋を握りつぶそうとしている。
「お、俺は……!」
「そうだ、『今』の君は衛宮士郎だ。しかし……」
“私と戦っていたときのお前は『今』の衛宮士郎ではないだろ?”
完全な停止。
思考が完全に止まる。
何も出来ずに、顔を伏せる。
分からない、わからない……ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ!!
嘘ダ、分カラナイハズガ無イ
ソウダ、俺ハ英霊ダッタ。世界ト契約シテ、多クノ戦場ト、数多ノ血ヲ見テ来タ。
「確かに、あの時の衛宮士郎は少し違っていた。でも……」
ソウダ、俺ハアノ頃トハ違ウンダ。答エヲ見付ケタ。ソシテ……
「俺は、衛宮士郎です!」
そう、俺はそんな疑問を打破してきた。
だから、今ハッキリ言えるんだ。
「だから強くなりたいんです。強くなって……」
守りたい。大事な人を。俺を救ってくれた、俺の道を示してくれたあの子を。
何時になく心は澄んでいた。目の前にいる橙子さんも殺気を消して、苦笑しながら煙草の火をつけようとしていた。大丈夫だ、きっと……これからもやっていける。
あの冬に向けて、俺は再び進みだした。
俺の総てを変えるための戦いの日々が。