異世界出稼ぎ冒険記 IFルート   作:黒月天星

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『もしも時久がイザスタと一緒に行くことを選ばなかったら』その六

 

 午後の仕事は昨日に続いて町の復興作業の手伝い。初めの頃に比べれば大分落ち着いたけど、それでもまだあちこちに瓦礫やら何やらが残っているので忙しい。

 

「は~いもうちょっと離れて離れて。……もう良いかな? それじゃあ金よ、弾けろっ!」

 

 俺は景気よく経費で渡された銀貨を放り投げ、周囲の人が今にも倒壊しそうな家から十分に距離を取ったのを確認して起爆させる。ボンっと音を立てて爆発した銀貨の衝撃で、倒壊しそうだった家は轟音を立てて完全に倒壊した。

 

 放っておいていつ崩れるか分からないよりは、敢えて強い衝撃を与えて都合の良いタイミングでわざと崩した方が安全だ。……家の持ち主には気の毒だけどな。補償とかちゃんと出るよねこれ。

 

「協力感謝する。ある程度離れた所からこれだけの威力を出せる術者はあまりいないからな。非常に助かっているよ」

「そうでなくても今はどこも手が足りないですからね。俺みたいなのでも役に立てばよかったです」

 

 今日の仕事の上司である役人さんが、喜色満面といった様子で俺の手を握る。壊すだけで良いならお安い御用だ。

 

 こういう瓦礫撤去なんかは本来土属性持ちにお呼びがかかるのだけど、どちらかというと今は仮住居の作成なんかに回っていて動けない。

 

 火属性や水属性は壊した後で延焼や水没の危険があるし、風属性はどちらかというと壊すより吹き飛ばすといった感じなので下手すると周りに二次被害が出る。光属性はそもそも数が少ないし、どちらかといえば怪我人の治療の方に回っている。

 

 それに術者が建物に近すぎると巻き込まれる危険があるし、距離が離れれば離れる程精度や威力に影響する。人数を増やせば出来ないことはないけど、それだけのために人数をあまり割くこともできない。それで困っている所に俺が派遣されたって訳だ。

 

 幸い金属性は一定額以上の金さえあれば威力は申し分ない。それに最近新たな発見で、投げてから少しの間なら任意で起爆出来ることも分かった。

 

 こうして俺は作業終了の指示が出るまで、魔法の練習も兼ねて経費の金を投げまくった。金属性は魔力消費自体は少ないとはいえ、流石に長いことやったから身体が怠いし肩も痛い。

 

 細かい瓦礫なんかはまた明日やるらしく、役人さんにまた明日も来てくれと頼まれたが、そこに関してはウィーガスさんの指示次第なので約束は出来なかった。雑用係はこういう時ツライ。

 

 今日の仕事はこれでおしまい。あとは月村と夕飯の約束と、ウィーガスさんに仕事の報告。明日の準備をしてからアンリエッタと話をして寝るだけだ。

 

 時間は……ちょっと押してるかな。待ってるかもしれないから急がないと。……まあ一人で先に食べれるならそれはそれで良いことなんだけどな。俺は作業員の人達への挨拶もそこそこに、月村の部屋に急いだ。

 

 

 

 コンコンコン。

 

「お~い。時久だけども、入って良いか?」

「……はい。どうぞ」

 

 その言葉と共に鍵の開く音がしたので、俺はゆっくりと中に入る。中では月村が、まだ手付かずの食事をテーブルに広げて待っていた。……やっぱりまだ食べてなかったか。

 

「こんばんは。……遅かったですね」

「待たせてホントゴメン。仕事が押しちゃって。……先に食べていてくれても良かったんだぞ」

「まだちょっと怖いから待ってたんじゃないですか」

 

 月村がどことなくジト~っとした視線をぶつけてくる。女性を怒らせるとろくなことにならないというのは世の真理なので、両手を合わせて拝み倒し何とか許してもらう。

 

「じゃあ早速毒見をお願いします。ちゃあんとお願いして量を増やしてもらいましたから。……ちょっと変な顔をされましたけど」

「そりゃあ昨日まで食欲なかった人が、急にいつもより多く催促したら不思議がられるだろうよ。俺のことはちゃんと説明したのか?」

「それはその、何となく言いづらくて」

 

 確かにいきなり毒見役に食事を食わせるから量を多めにしろとは言いづらいよな。そこの上手い言い訳も考えておくべきだった。……あと何故月村はもじもじしているのだろうか?

 

 まあそこら辺はあとで考えるとして、今は食事の方が優先だ。目の前の月村からは早くしろとばかりの催促の視線が突き刺さる。

 

「ゴホン。……じゃあ気を取り直して、頂きま~す!」

「はい。どうぞ」

 

 わざわざ用意してくれたのか、俺用の食器に食事を適当によそう。今日のメインは何かの魚のムニエルか。まだ温かみがあるが、時間が経てば経つほど月村の分が冷めてしまうので急いでいただかねば。

 

「…………どうですか?」

「うんっ? ああ。めちゃ美味いよこのムニエル! 皮もパリッとしてるし、身も引き締まってて」

「いや、味が良いのも大切ですけどそうではなくて」

「へっ!? ……ああ毒見の方ね。勿論忘れてないともさ。うん。……特に変な味もしないし、身体が痺れたり気持ち悪くなったりもしないな」

 

 つい美味い美味いと食べていたけど、主目的は毒見の方だった。このままじゃ女性の部屋に乗り込んでタダ飯を食っただけの男になってしまう。しっかり毒見をしないとな。

 

 さらに他の種類をまんべんなく少しずつ食べていき、念のため少し時間をおいたが特に体調の変化もない。そうして毒見役を全うし、ようやく月村も食事に手を付け始めた。

 

「どうだ? 美味しいだろ?」

「はい……って、何で時久さんが自慢げなんですか?」

「そりゃあ俺の同僚が作った品だからさ」

 

 何ですかそれと月村がクスリと笑い、俺もそれを見てつられて笑う。やはり食事時は誰かと一緒が良いもんだ。一人で食べるのは味気ないもんな。

 

 そうして二人で食事をしながらのんびりと雑談を交えていく。それにしても、昼間あった時に比べて月村の感じがちょっと変わったかな? 昼間はどこか無理をしているような感じだったが、今は少し落ち着いている。やはりちゃんと食事をしたのが効いたかな?

 

「そう言えば……これ」

 

 食事中、急に思い立ったように月村が何か差し出してくる。これは、

 

「うん? ああ。昼間に渡したブ〇ックサンダーじゃないか。結局食べなかったのか?」

「はい。それで聞きたいんですけど、時久さんって……もしかして日本人なんですか?」

「そうだけど。言ってなかったっけ?」

「聞いてないですよっ!」

 

 いやまあ言ってなかったというか。言わなくても気付いていると思っていたんだよ。だってここらの人で黒髪黒目の人って珍しいし、名前だってもろに日本風だろ? 少し古風かもだけど。

 

 そんな風に反論すると、名字を名乗らなかったからこっちの人かと思ったらしい。まあ日本人は皆名字持ちだもんな。月村がフルネームを名乗ったのに対し、俺はウィーガスさんに言われたこともあって名前だけ名乗った。だから名字が無いと判断したのかもしれない。

 

「じゃあ時久さんも『勇者』なんですか? だけど私達が最初に来た時は居なかったような」

「それは……なんて言えば良いか」

 

 これはどこまで言って良いことだろうか? あんまりアンリエッタのことを言いふらすのはマズそうだよな。……かと言って『勇者』とも名乗りづらい。俺はあくまでスペアだもんな。

 

 それに、上手くは言えないのだけど、今の月村に『勇者』の話はマズい気がする。なので何とか誤魔化すべく口を開きかけ、

 

 コンコンコン。

 

 突如として扉をノックする音が聞こえてきた。よっしゃ! 誰だか知らないけどナイスタイミング!

 

「誰か来たな。俺以外にも約束とかしてたりした?」

「いいえ。食器を片付けるにしては時間が大分早いし、まだ本調子ではないってここ数日分の用事もキャンセルしてもらっているから、訓練に呼びに来るってこともないはず。……誰でしょう?」

 

 アポなしの訪問か。まさか月村の言ったように誰かが狙ってきたってことはないだろうけど、ちょこっとだけ気を引き締める。

 

「はい。どちら様ですか?」

「ボクだよ。明だけど……もう夕食は済ませちゃったかな?」

 

 月村が扉に近づいて声をかけると、扉越しに男とも女とも取れない声が返ってきた。誰だろうな?

 

「ううん。まだ途中だけど」

「良かった。じゃあボクも一緒に食べて良いかな? 勿論自分の分は持ってきてるよ。少し話したいこともあって」

「え~っとその……どうしましょうか?」

 

 月村の最後の方の言葉は、声を潜めて俺に向けられたものだ。どうしましょうって……どうしよう。

 

「明っていうのは私と同じ『勇者』の一人で、ここにきてしばらくの間は時々話をしていたんです。私が怪我してからは色々あって話も出来なかったですけど……でも悪い人じゃないんですよ」

 

 他の『勇者』か。まあ色々あってて所が気にかかるけど、月村の反応から見るに信用してないって感じじゃなさそうだ。

 

 月村以外の『勇者』にも会ってみたいとは思っていたし、食事をしながらなら話が弾むかもしれない。

 

「俺は別に構わないけど?」

「私が気にするんですっ! 考えてみたら、こんな時間に男の人と二人っきりで食事とか、誰かに見られたら誤解されるって言うか……」

「誤解って……そんなわけないじゃないか。ただの毒見役ですって言えば良いんだ」

「お~い。どうしたんだい?」

 

 そうこうしている内に、扉越しにどこか訝しむような声が聞こえてきた。そりゃあ急に声が聞こえなくなったら気にもなるよな。

 

「もう開けちゃえ開けちゃえ。俺のことは適当に言ってくれれば良いから」

「適当って……もう分かりましたよ。は~い。今開けるからちょっと待ってね」

 

 内側から月村が鍵を開ける。そして扉を開けると、そこにはどこか中性的な雰囲気を持った美少年……いや、美少女? どっちだ? とにかくそういう人が立っていた。あれが明という人らしい。

 

 明は部屋の様子をチラリと見て、

 

「…………どうやらお邪魔したみたいだね。どうぞごゆっくり」

 

 そのまま静かに扉を閉めた。

 

「……いや待って明っ! それ誤解っ! 誤解だからぁっ!」

 

 そうして何とか月村が明に追いつき、誤解を解くまで少しの時間が掛かった。……何とも締まらない初対面になってしまったな。

 




 男女が二人っきりでディナー。……これってデートじゃないかしら? 月村はそう考えてしまってちょっとテンパってます。時久は普通に知り合いの部屋にタダ飯を食いに来た認識ですが。
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