ヒストリアの兄でございます。   作:ヒストリアの兄

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没ネタと言うより、途中で飽きてしまっていた話。
何日か経ってから、訓練兵編に挿入します。


番外編1

 

 ある日の朝。コニー、サシャ、フリーダは荷車を押しながら、トロスト区の街で買い出しをしていた。三人の足取りは重く、面倒くさそうな顔を隠そうともしないでノロノロと人垣を割って通る。

彼らがこんな風になっているのも無理はなく、三時間前までコニー達は三日間に及ぶ大規模な行軍訓練を行なっていた。山道を歩き、川を渡り、野原を駆ける。重さ20キロ近くの荷物を持っていなかったとしても、かなり厳しい訓練なのがわかる。今すぐにでも地面に座り込んで一息つきたい気持ちをぐっと堪え、コニーとサシャは足を動かした。

 その二人の横に並び、荷車を押しているフリーダは面倒くさそうではあるが、苦しそうには見えなかった。普段から走る時は重しをつけてやっていたため、人より耐性があったのかもしれない。まあ、それを考慮しても彼の怪物具合が異常なのは周知の事実だった。

 

「買い出しも訓練兵の仕事なんだな」

 

 コニーが握られた買い出しリストを眺めてそう言う。眺められたリストには、今のところ、半分近くにチェックマークがついていた。

 

「備品なんかはまだしも、金にならない細かな消耗品は商会が卸してくれてませんからね」

 

 サシャの言う通り、荷車の荷台に乗っているものは全て一つ一つの数は少ないものの、それなりの種類の物品が乗っていた。食器や鉛板から始まり、糸や布に至るまで多種多様の消耗品が揃えられている様は、まるで小さな露店のようだった。

 コニーは後頭部で腕を組み、空を見上げると、燦々と輝く太陽を睨みつけた。今は気温的に涼しい方ではあるが、太陽に照り付けられれば当然暑い。坊主頭のコニーは直射日光を頭皮に直接浴びるためか、他の二人より暑さに敏感だった。

 

「はあーあ、こんなことなら早朝コイツと喧嘩するんじゃ無かったぜ」

 

 疲れた声が溢れる。やれやれと言った表情でコニーが視線をサシャへと投げれば、サシャは拗ねたような顔でコニーを見ていた。

 コニーの言う喧嘩とはちょうど行軍訓練が終わった時に起きた出来事を指す。サシャとコニーは訓練終わりに出てくる朝飯を巡って凄まじく、本当にどうでも良い喧嘩を繰り広げた。それはもう、見ているフリーダすら隣でげんなりする程どうでも良い喧嘩である。

 結果、騒ぎを聞きつけたキース教官から「元気があるならもう一仕事してもらおうか?」と言われ、罰則の変わりとして買い出しする命を受けたのだ。

 

「それ私のセリフですよ。フリーダまで巻き込んで」

「いや、それこそ俺のセリフな」

 

 二人はまだ早朝の喧嘩では足りなかったのか、お互いに目線の火花を散らせながら口撃する。それを見たフリーダが、流石にこのまま続くのも面倒と思ったのか、すかさず言葉のクッションを挟んできた。

 

「次は何を買うんだ?」

 

 フリーダに尋ねられると、コニーは、慌てて握っていた買い出しリストに目を通す。チェックマークの付いていないものから、一番近い店で買えるものに的を絞り、経路設計を組み立て始めた。

 

「あー?バケツとモップ、あとフォーク。馬小屋用の掃除器具だな。確かあそこに売っている店があったはず」

 

そう言って手前から三つ目の右角を指差す。前回の休日の際、コニーは馬毛ブラシを買いに行った店で、それらが置いてあったのを思い出していた。馬を飼育している店なだけあって、そちら方面に関してはかなり豊富な品揃えだったと記憶している。

コニーが自信ありげに右角を指差したので、フリーダとサシャは何も言わず通路の中央から右側へと逸れる。そのせいか、露店との距離がぐっと近くなり、食べ物の匂いがより際立って鼻腔をくすぐった。サシャはじゅるりとよだれを垂らすと、店に吊るされている魚などを凝視する。

 

「さっさと終わらせて露店で美味しいものでも食べましょう」

「それ賛成―」

 

 サシャの提案に、コニーは間の抜けた声で賛同した。

 

「おん?」

「どうしましたコニー」

 

 少し歩くと、コニーが怪訝そうな顔で路地を見つめる。サシャもフリーダも、唐突にコニーがそんな行動をするものだから、足を止めて路地の方へと視線を投げた。

 

「すごい汚れてますね、あの娘」

 

 そこにいたのは、レンガの壁に寄り添って倒れている女であった。体の至る所には青痣などが散りばめられており、髪は乱雑に跳ね回っている。遠目から見ただけでも、その有様が異常なのは見て取れた。

 サシャやコニーは、倒れている娘が心配になり、介抱しようと近づく。しかしフリーダは、そんな二人の行動を止めさせた。

 

「……売春婦だ。関わるな」

 

 フリーダの言うとおり、目の前の女は売春婦である。彼女の手首にいくつもの切り傷の跡があるのが、何よりの証拠だろう。自傷行為をする者イコール売春婦というわけではないが、彼女たちの中には、辛い現実から目を背けるために、そういった行為に及ぶ者も少なくない。喧嘩にしては派手すぎる怪我に、股下から垂れているもの。強姦にあった可能性もあるが、それにしては服装が普通である。脱がされているわけでもないし、破られているわけでもない。強姦をするにしては、怪我をさせているくせに随分と良心的なため、その可能性はないのだろうとフリーダは考えた。

 

「売春婦?」

「性を売り物にしている女だ。ウォールマリアが陥落して以降さらに急増した。理由は言うまでもないな」

 

 基本的に、ウォール・ローゼでの売春は合法である。それはウォール・マリア陥落区以降、急増した失業者に新たな職を与えることができなかったため、止むを得ず性産業に手を出したのに起因していた。

 しかし、合法化と言えども、いろいろな制約はついている。薬物の使用禁止。客引き禁止。セックスワーカーたちの不当な扱いは処罰される。兵士たちがサービスを受ける場合、許可を出さなければいけない。この他にも、それなりに細やかなものが制約として色々と存在する。

 

「でも、何であんなボロボロ何ですか?性を売るって、つまり……、そういうことですよね?」

 

 サシャはフリーダの顔を見ながら、頬を赤くする。

 

「知らん。そういうウサギですら萎える性癖持ちのお得意さんがいたんだろ。分かったなら行くぞ」

 

 フリーダは、会話は終わりだと言わんばかりに荷車を押して歩みを進める。正直、あんな白昼堂々置いているのに、駐屯兵も憲兵も誰も相手にしないのだ。兵団がらみの売春宿が何かしらしていると見て良いだろう。きっと、あの売春婦が客を取れなくなりそうだから、適当な男に持ち帰らせて、それを口実にお金を毟り取るといった、汚い商売でも仕掛けるつもりなのだ。

 

「悪い、先に行っててくれ。俺はあの子保護する」

 

 コニーが唐突にそう告げた。フリーダの話を聞いていなかったのか、彼は今、倒れている売春婦を助けると言ったのだ。あまりのバカさ加減に、フリーダは頭を抱えそうになるも、ひとまず忠告だけはしておくことにした。

 

「おい、コニー。何をする気だ」

「何って介抱しようとしてるに決まってるだろ?」

「放っておけ。それは売り物だ。売春宿のな」

「だからって怪我してるのに放っておけるか。俺たちはこう見えて兵士だぞ?」

 

 コニーの意思は固いのか、フリーダの言葉を全く受け入れない。そればかりか、彼は兵士として当然の義務を果たすと言ってのけた。残念ながら、今回はその兵士が癒着しているであろう場所と揉める可能性があるため、下手をすればコニーは除隊の可能性もある。兵士の義務を果たす云々の前に、今回はその兵士が起こした引き金でもあるのだ。

 

「まあ、コニーの言う通りですね。こんな状態では放っておけません」

 

 サシャもそんなコニーの毒気に当てられたのか、スタスタと倒れている売春婦に近づく。それを見たフリーダは、一応忠告はしてやったため、これ以上彼らに何かを言ってやる気はなかった。

 

「好きにしろ」

 

そう言って荷車を押して店へと向かう。コニー、サシャはきっと憲兵団か売春宿のオーナーに目をつけられることとなるだろう。そうすれば、彼らは開拓地送りか、下手をすれば工場都市の廃液の中だ。フリーダはそんなことを呑気に考えていた。

 これで奴らの顔を見るのも最後か。

 ふとそんなことを思った。隣で常に喚いている連中。フリーダからすればそれくらいの認識しか彼らにはない。フリーダにとって他人とはどうでも良いものであり、いずれ仇を殺すため切り捨てるべきものなのだ。ここで彼らが消えても、彼の人生には何の支障もないはずである。そう、支障はないはずなのだ。

 

「やめろ。開拓地送りにされるぞ」

 

 気がつけば、コニーとサシャにそう話しかけていた。いつの間に引き返したのか、フリーダにも記憶はない。どこかで無意識にUターンし、この路地まで戻ってきてしまっていた。

 

「何だ、やっぱりフリーダも戻ってきたのか」

 

 コニーがさも当然のように言う。戻ってくるのが分かっていたような、そんな口ぶりだった。フリーダはそれが少し気になり、コニーへ言及しようとするも、それをサシャによって阻まれる。

 

「それより開拓地送りってどういうことです?」

 

 サシャは素っ頓狂な疑問を口にする。もしかしたら、さっきまでのフリーダの忠告を何も聞いていなかったのかもしれない。いや、もしくは聞いていたけど、問題の本質を見抜けなかったのかもしれない。こればかりはいつも鉄仮面のフリーダですら、少し呆れた表情にならざるを得なかった。

 

「売春宿の大抵の管理者は商会や貴族、憲兵団の連中だ。そんな奴らの売り物に手を出せばどんな因縁をつけられるかわかったものじゃない」

「だから何だって言うんだよ」

「そうですね。それが怖くて人を助けられないのでしたら、私たちが巨人に勝てる道理はありません」

 

 普段は己を天才としか言わないバカと、芋のことしか考えない連中だが、やはり根は善人だったらしい。人が困っていれば助けてあげたくなる。それが、さも世の理のように話してくる彼らをフリーダは心底理解できなかった。

 

「お前らに利益はないぞ、分かっているのか?」

「俺は天才だから分かるんだが、人助けは相手に利益を与えるものだろ?」

 

 その言葉にフリーダは何も言い返せなかった。

 なるほど、人助けは益を求めたものではなく、益を与えるものか。確かに、その通りである。

 

「……分かった。そいつにさっさと布を被せろ」

 

 フリーダは反論できない自分を敗者と認め、勝者であるコニーたちを手伝うこととした。

 

 ひとまず、布を被せて考える。この売春婦の傷の具合を見てみたところ、体は数ヶ月もすれば全治するようではあった。しかし、心の傷が癒えるのかどうかは、診察したフリーダでも分からない。今は売春婦も目覚めているが、精神的な問題のせいか何も喋らないため、荷台にのせて寝そべってもらっている。

 

「さて、この子どうするよ」

 

 コニーは荷車を押しながら、サシャとフリーダに尋ねる。

 

「どうするも何も、売春宿には返せないでしょ」

 

 サシャはうーんと唸り声を上げながら考えるも、良い案は出なかったらしい。

 

「だよなー。かと言ってこの人自身、どこも行く宛ないだろうし」

 

 コニーは荷台で布に包まっている女を見る。サシャとフリーダも女を見るが、布の隙間から見せた彼女の表情はひどく怯えているようだった。どうやら、こちらのことを警戒しているらしい。

 

「あっ、私良いことを思いつきました」

 

 突然、サシャがそんなことを言った。

 

「何だ?」

「私の家に送るんですよ。行く宛てがないなら用意してやれば良い。それに父は馬を育てると言っていました。私がいなくなったため、今は人手を欲してるかもしれません」

 

 サシャは「どうですかこの私の素晴らしい案は」という表情で、フリーダとコニーを見下ろした。

 

「まじか!それいいじゃねーか。フリーダもそう思うだろ?」

「ああ、遠くにやるという意味では悪くない。ただ、どうやってこの娘を運ぶ気だ?買い出しすら俺たちは終わっていない」

 

 コニーは手放しで喜んだものの、フリーダの言葉で現実に帰される。

 フリーダたちはあくまでこの繁華街に買い出しを命令されてきたのであって、決して道楽のために訪れたわけではない。休日の日であれば、色々と面倒をみてやれたものの、残された時間は多くて後3時間が限界。村まではとても送れる時間ではなかった。

 

「確かに……。じゃあ、どうすれば良いんですかー……」

 

 サシャは頭を抱えながら情けない言葉を吐く。そんな彼女たちの真剣なやりとりが見えたのか、売春婦が布の隙間から声を発した。

 

「ん、あ、くあ……」

 

 それはもはや言葉ではなく呼吸音に近かっただろう。舌がうまく回らないのか、口から息を漏らしているだけに聞こえてしまう。サシャはそんな彼女へにこやかに微笑んでやると、そっと頭を撫でてやった。

 

「あ、聞いてたんですね。無理に喋らなくて良いですよ。精神的問題はそう簡単に治らないと教わっているので」

「全くひでーな。どうやれば、ここまで人を殴れるんだよ。本当にこんなので気持ちよくなる野郎がいるのか?」

「世界は広い。それだけだ」

 

 コニーの言葉に対して、フリーダはそう告げるしかなかった。

 世にはS Mプレイというものがある。それは普通であれば、言葉責めであったり、拘束や目隠し、スパンキングといったものなのだが、人に怪我をさせるのは最早ただの暴行でしかない。そんなことをされて喜ぶ女も男も、妄想の中にしか存在しないはずなのに、それでも売春婦に手をあげた男は、それで慰められたのだろう。

 

「トロスト区の開閉門を通れば、とりあえず大きな町からは出られます。そのまま村に行き、お金でも掴ませて商人に運ばせましょう」

 

 サシャが堅実的なプランを出してくる。彼女にしては中々頭を働かせており、フリーダはそれを珍しいなと思った。多分、サシャも一個人の女として、売春婦を心底哀れんでいるのであろう。

 

「それが一番堅実的な案か? 流石に俺たちが荷車で運ぶにも限度があるもんなー」

「ああ、サシャのプランでいいだろう。ただ、それだけじゃ弱い。薄汚い商人は無駄に横の繋がりが深いからな、すぐに売春婦が脱走したことなんて、友達からハブられた奴みたいに察しが早い。この娘を樽でも棺桶にでも打ち込んで、荷物に偽装し運ばせた方がまだ可能性がある」

 

 フリーダはより確実に売春婦をサシャの村へと届けるために、彼女の案をブラッシュアップさせることとした。

 

「あ、フリーダの口が悪くなった。本調子になってきたな」

 

 コニーがそうやってからかってくる。コニーからみたフリーダは、口数と悪態が多くなれば多くなるほど、本調子を発揮する生き物だと思っているらしい。

 

「誰のせいだと思ってやがる……。あともう一つ、策があるだが___」

「なんですか?」

 

 そうやってフリーダが話した策に、コニーとサシャは少しげんなりするのであった。

 

 

 サシャたちが作戦会議をしてからおよそ1時間後。彼ら彼女らは全身がすっぽり隠れるような、大きめの外套を身につけてトロスト区の街を歩いていた。顔は、フードを目深に被り見えないようにしている。どこからどうみても怪しい人物だと言えるだろう。

 

「止まれ、そこの三人」

 

 案の定、怪しさが振り切れている三人に、通りすがりの憲兵二人が声をかけた。彼ら憲兵がこうして真面目に働いているところを見る限り、多分、売春宿から商品の脱走阻止を依頼されたのだろう。でなければ、公明正大とは反対に位置する彼らが動くはずもない。報酬は、サービス一回無料と言ったところであろうかなどと、フリーダは考えてみる。

 

「憲兵団さんが何の用ですか?」

 

 妙に嗄れた声を作ったサシャがそう尋ねた。

 

「つい先ほど、商会の人間から商品が盗まれたと報告があってな。一応、人の顔を調べているんだ」

 

 憲兵がそう言って、サシャのフードを勝手に取ろうとする。

 次の瞬間。サシャは急に膝を折り、トロスト区の壁に向けて懺悔をし始めた。

 

「あ“あああああああああ!!!!お許しください、神様ァ!!!!私は、私はなんて罪深いことをぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 呆然とする憲兵二人。売春婦が変装していないかと思い、顔を見ようとすれば急に発狂する狂信者。流石の憲兵も、この突然の有様には瞠目してしまう。

 

「す、すみません。私たちは宗教の関連で、人前で顔を見せられないのです」

 

 発狂するサシャを庇うように、フリーダが演技をしながら割って入る。その二人の迫真の演技(主にサシャの絶叫)に、憲兵も言葉を失わずにはいられなかった。

 

「わ、分かった、お前たちの顔はもう良い。ただ、その荷車の布は捲れ」

 

 呆然としていた憲兵が我に戻ったのか、荷車を指差しながらそう命令する。彼らとて、売春婦を探す程度のためだけに、変な宗教信仰者と関わりあいたくないのだろう。

一応、顔を隠しているため、流石にこのまま何もせず引き下がるわけにもいかない憲兵たちは、形式上として荷物の提示だけは要求した。

 

「わかりました……。めくれば、いいんですね」

 

 先ほどまで絶叫していたサシャが、突然平素な声でそう尋ねる。それを不気味に思った憲兵であったが、さっさと確認して関わるのをやめたいと思っていた彼らは、サシャを急かした。

 

「さっさとしろ。こっちも時間が惜しいんだ」

 

 それを聞いたサシャはニヤッと笑う。

 

「わかりました。では、めくりますっ!!」

 

 そう言ってサシャは大きな布をめくり上げ、憲兵の顔に被せる。灰色の布で視界を覆われた憲兵は、あまりの出来事に一瞬、何をされたのか分からなかった。しかし、顔に布が被る頃には状況を理解する。自分たちは今、何者かに襲撃されている最中なのだと。

 次の瞬間、頭に大きな衝撃が加えられる。意識が吹っ飛ぶほどの威力。脳が揺れ、視界が揺れ、平衡感覚が失われてしまう。憲兵二人は視界が塞がれたまま、何者かの攻撃によって意識を刈り取られてしまった。

 

「おいおい、大丈夫か?天下の憲兵団がこんな様で」

 

 攻撃を仕掛けたフリーダはそう言う。あまりの呆気なさに、少し拍子抜けしていた。

 

「コニー、お前は訓練兵の姿に戻って駐屯兵を一応呼べ。大事にした方がこの娘を荷物として出しやすい」

 

 フリーダがそう言ってコニーに指示を飛ばせば、コニーは「おう!」と返事して、そのままトロスト区の開閉門の場所へと向かった。これで、開閉門に居座っている憲兵たちは、みんなこっちへ来ることになるだろう。これこそが、もう一つの策。憲兵を襲う三人組の暴漢を作り上げ、それに夢中になっている際に、自分たちは訓練兵として戻って堂々と外に出る作戦だ。

 そうなれば、さっさと裏露地に逃げて、訓練兵の姿に戻ろうとするフリーダ。けれどその横でサシャはのされた憲兵たちを眺めていた。

 

「あらら、憲兵団に手を出しちゃいました……、どうしましょう……。私、憲兵団に入れなくなりますかね?」

「まあ、顔は見られてないし、大丈夫だろ」

「だと良いんですけど……」

 

 そう言ってため息をついたサシャにフリーダは疑問符を浮かべる。

 

「後悔するくらいなら、こんなことするんじゃないな」

「いえ、後悔はしていません。ただ、フリーダは絶対に憲兵に行きそうじゃないですか。私なんて10位以内に入れるか微妙なのに」

 

 嘘泣きをしながら慟哭するサシャに、フリーダは益々何が言いたいのか分からなかった。

 

「とりあえず、喋ってる暇はないぞ。新手が来る前にさっさと走れ」

 

その後はフリーダの作戦通り、憲兵は自分たちに喧嘩をうった三人組を見つけることに必死になった。しかし、訓練兵の姿に戻ったフリーダとサシャは箱の中に女を入れて正々堂々とトロスト区の開閉門を通る。フリーダとサシャは三人組でもないし、訓練兵であるため特に疑われることはなかった。

 ただ少しかわいそうなのが、トロスト区に残ったコニーだけが、残りの買い出しを押しつけられたことくらいである。

 

この小説の雰囲気について

  • 原作同様沢山人殺す(世界は残酷だルート)
  • みな生存ハッピー(世界は美しいルート)

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