ヒストリアの兄でございます。   作:ヒストリアの兄

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訓練兵時代の話は3、4話くらい作ったのですが、先に進みたいので先に進みます。
訓練兵時代の話は番外編で出していきます。

アンケートの結果は残酷ルートです。なので、バンバン人を殺していきます。


トロスト区防衛編
4話


 

 850年。

 訓練兵になってから三年が経った。辛く、厳しい訓練生活が終わりを迎えたのだ。

 解散式に並ぶ訓練兵は皆、自信と威厳を兼ね備えたような顔色を浮かべている。中には、辛い訓練を思い出したのか、感極まって泣いている者さえいた。

 ここまで来る道中で一体何人の訓練兵が脱落したのだろう。ある者は開拓地へ送られ、ある者は過酷な訓練により命を落とした。彼ら彼女らの人生の中で、これ以上の濃密な思い出は無いであろう。

今後を夢見たり、訓練兵時代を惜しんだりと、各々考えていることに違いはあれ、これにて一つの区切りを迎える。これから先、歩む道のりが地獄になるのか、それとも天国になるのかそれは神以外誰にも分からない。

 最後の教官からの言葉を聞きながら、17歳となったフリーダは夜空に瞬く星を見上げ、大きく息を吸った。

 

「それでは上位10番を発表する。呼ばれた者は前へ。首席___ミカサ・アッカーマン!」

 

 周りがどよめく。フリーダとミカサ、どちらが首席を手にするのか話題になっていたせいだろう。

 しかし、話題の渦中であるはずのフリーダは何も驚かない。

 ミカサはそんな冷静な面持ちであるフリーダに一瞥くれてやると、そのまま教官の前へと整列した。

 

「二番フリーダ・レンズ!」

 

 二番目に呼ばれたフリーダはミカサに並ぶように、そのまま整列する。

周りはざわめいているが、フリーダからしてみれば、これは順当な順位だと受け入れていた。彼は最後まで馬術の点数を得ることができなかったのだ。逆に言えば、配点の高い馬術がほぼ無得点なフリーダを二番に至らしめた彼のポテンシャルは、まさに化物と言えるだろう。

 フリーダがミカサの横に並ぶと、ミカサから小声で声を掛けられた。誰にも聞こえない、前にいる教官にも聞こえないくらいのボリュームで。

 

「勝ったとは思ってないから」

「ああ……、俺もだ」

 

 マフラーに顔を埋める彼女に対し、フリーダは目を伏せてそう答える。似た者同士の二人は訓練兵の生活を通して、お互いの力を認め合っていた。

 

 その後、教官は続々と上位10名の名を読み上げていく。

 三番ライナー・ブラウン

 四番ベルトルト・フーバー

 五番エレン・イェーガー

 六番アニ・レオンハート

 七番ジャン・キルシュタイン

 八番コニー・スプリンガー

 そして……。

 

「九番!クリスタ・レンズ!!」

 

 クリスタと呼ばれた金髪の少女が前の整列に加わる。上位陣の中でも一際身長が低いのが特徴的な少女。そんな側から見れば非力そうな彼女は、堂々とした顔で、上位10名の顔ぶれへと並び立った。

それはひとえに、兄が目指す憲兵団へ意地でも入ろうと努力した結果なのかもしれない。

 フリーダはそんなクリスタに気づかれないよう、横目で一瞥する。訓練兵になってから一度声を聞かせてやった妹に向ける目線は実に冷ややかであった。

 

「十番!ユミル!」

 

 ユミルの名が呼ばれる。

黒髪の少女は教官に促されるがまま、フリーダに挑発するような顔を向けると、そのままクリスタの横へと参列した。

 

「同列!十番マルコ・ポッド!」

 

 今回は異例ということで、同点であったマルコも上位10番へと入り込んだ。マルコは絶望した顔から一点、嬉々とした顔色でユミルの横へと参列する。

 

「以上11名___。後日、配属兵科を問う。本日はこれにて第104期訓練兵団解散式を終える。以上!」

 

 

「どうだ、愉快な気分だろ?フリーダさんよ」

 

 解散式が終わった寒空の下、ユミルはフリーダに向けて嘲笑を含んだ言葉を放った。ユミルはクリスタが九番になったことを、自慢げにフリーダに語っているのだ。

 フリーダはそんなユミルに呆れながら手をぱっと振る。

 

「ああ、愉快すぎて月までぶっ飛びそうだ」

 

 フリーダは手身近なベンチに腰掛けると、そのまま星空を見上げながら呟いた。

 彼の中では確かにクリスタは上位10名に近い成績を持つだろうことは予想していた。元々、小柄な方が立体機動は有利だし、彼女は馬術がダントツでうまかった。それを考慮すれば、良い成績を修めることなど造作もない。しかし、彼の予想を上回ったのはそこからである。

 クリスタは向上心の塊のような女であった。良いや、厳密にはそのような女に豹変してしまった。ミカサをはじめ多くの成績優秀者達に教えを乞うていた。苦手だった兵站行進や、あまり得点につながらない格闘術まで必死に努力していた。

 それは、兄と同じ兵団へ配属される権利を持つため、兄と長く一緒の場所にいるため。

 フリーダはそれを迷惑だと思いながら、クリスタを忌み嫌うように舌打ちする。

 

「で、どうするんだ。あんたは予定通り憲兵団にでも入るのか?」

 

 ユミルがフリーダの隣に腰掛けながらそう尋ねた。

 

「ああ、そのつもりだ」

「じゃあ、これでまた無口な生活の始まりだな。私とクリスタも憲兵団だしよ」

「愉快痛快に喋るな。俺からすればお前らが付いてくるのは迷惑でしかない」

 

 ゲラゲラと笑うユミルに、フリーダは横から無機質に言葉を放つ。何の感情も乗ってないように聞こえるせいで、フリーダが何を考えているのかは、それだけで読み取れなかった。

 しかしユミルは声色なんて関係無いのか、どこか彼の気持ちを理解したように真剣な面持ちでフリーダを見つめる。その目線が鬱陶しく思えたフリーダは、さっと顎を逸らした。

 

「あんたがそこまでするのは巻き込みたく無いからだろ?けど、あんたの目的なんか知るか。あんたがクリスタを勝手に遠ざけるなら、私は勝手にクリスタを近づけさせる」

 

 快活に笑うユミルはどこか満ち足りていた。

 だが言われたフリーダは違う。苦虫を噛み潰したような顔をしている。彼女の言った「巻き込みたく無いからだろ」は半分正解で、半分間違いだったからだ。

 フリーダからしたクリスタは守らなければいけない存在であり、なおかつ、目的を達成する上でそばにいて欲しく無い邪魔な存在である。きっと、彼女はフリーダが命を投げ出して仇を討つ際、障壁として立ちはだかることだろう。大好きな兄を救う為、行動を阻害してくる可能性が非常に高い。

 フリーダはそれを危惧していた。仇の男は巨人化能力を手にしている。一瞬でも行動が邪魔されれば、戦闘において相手を殺すことができない。下手をすれば、クリスタもろとも自分も殺される。それだけは絶対にあってはならない出来事なのだ。

 

「で、取り巻き達はどうするんだ? サシャはともかくコニーは憲兵団にくるぞ」

 

 クリスタの話題にフリーダが答えなかったせいか、ユミルは別方向からフリーダに切り込んだ。

 

「関係ない。あいつらがどうしようとな」

「とか言って、ホントは来てほしくないんだろ!?馬鹿だなー、お前!」

 

 無駄にテンションの高い返しをされたので、フリーダは無意識にユミルを睨む。

 

「そう睨むな。私だってクリスタを危ないところにはやりたくないんだ。あんたの気持ちが分からないわけでもない」

 

 どこかお門違いな見解を振りまくユミル。フリーダが他人のことを気にかけているという前提で物事を進めているが、実際のところフリーダはコニーやサシャがどうしようと本当にどうでもよかった。好きな兵団に入り、各々勝手に幸せに暮せば良いと考えている。

 けれどもユミルの偏見は続く。

 

「けどな。あいつらはきっとあんたや私が思っているほど弱くないんだ。この世界が、何でもかんでも自分の思い通りに物事が運ぶなんてことないんだよ……」

 

 その言葉には重みがあった。ずっしりとのしかかる重みがあった。

 ユミルがどのような人生を送ってきたのかフリーダには分からない。けれど、彼女の人生経験からくるその言葉は、フリーダの心に確かに突き刺さるのだ。それはもう、嫌なほどに。

 

「……そんなことは知っている。だが、クリスタにだけはそんな素養ない。あれの親は平々凡々な使用人だ」

 

 ユミルの言葉を振り払うようにフリーダは告げる。今まで何度も言った言葉を繰り返す。

 

「別に親で全てが決まるわけじゃないだろ」

「ああ。だが、多大な影響は受ける」

 

 自分がそうであるように。親とはそれだけ影響力が強い存在だとフリーダは思っている。

 

「ふーん……。じゃあ、そう言うあんたの親は?」

「……俺の母親は」

 

 そこまでで言葉を止める。どうやら、クリスタがユミルを追いかけてこちらへやってきたらしい。片手にはぶどう酒が握られている。頬も微妙に赤くなっていることから、お酒を飲んでいるということが分かった。

 フリーダはそんなクリスタとすれ違うように、食堂へと戻る。一度声を聞かせてやったが、それとこれとは話が違う。基本的にフリーダがクリスタとの接し方を変えることはなかった。

 クリスタはそんな兄を止めることもなく見送った。訓練兵初日の時は、裾を掴んでまで止めていたが、今はそれをする事を不必要だと考えているのかもしれない。そんな著しく変化してしまった彼女の内心をフリーダは察することができないでいた。

 

 

 クリスタはベンチに腰掛けたユミルに擦り寄る。ニコニコと上機嫌そうな笑顔は、どこか壊れ掛けの人形を彷彿とさせるようであった。

 

「上機嫌だな、クリスタ。酒でも回ったのか?」

「まあね。これで兄さんと一緒にいられるから」

 

 彼女はちびちびとぶどう酒を飲みながらそう話す。

 

「でも呼び止めなくてよかったのか。今なら真面に会話できたかもしれないぞ」

「多分無理だから良いの。兄さんに認めてもらうまで私は良い子でいなきゃ。迷惑はかけられないよ」

「良い子、ね……」

 

 ユミルが何か言いたげな表情でそう呟くも、クリスタはそれに気づいていないのかふやっと笑う。

 彼女が思い出すのは雪山での訓練の時。ダズを助けようとして己の命に危険が訪れた際の出来事。最愛の兄との思い出。それを彼女は宝物のようにそっと心の奥底で抱えている。

 クリスタはふとユミルが何も持っていないことに気がついたのか、自身の飲んでいた酒をユミルへと渡した。

 

「よかったら飲む?まだ外は冷えるし」

「良いよ、私は。クリスタの方こそ今の気分を少しでも落とさないよう飲んでおきな」

 

 そう言ってユミルは差し出されたジョッキを、クリスタの口の中へ無理やり押し込んだ。

 

 

 フリーダが食堂に戻ると、そこは妙に活気に包まれていた。周りを見渡してみれば、ジャンは頬に傷を負い、アルミンがそそくさと何処かへ出ていくのが見える。

 きっと、ミカサがエレンの喧嘩を止めて、それを周りがネタにしているのだろう。

 フリーダはそう考え終えると、手招きしているコニーを見つけ、そちらへと座った。

 

「フリィィィダァアアア様―――!!」

 

 突然、泣きべそをかいているサシャが、酒を飲もうとしていたフリーダの体へ突進する。いきなりの事のせいで、危うくコニーから渡されたエールが溢れそうになるが、フリーダはぐっと堪えサシャを押し戻した。

 

「邪魔だ。鬱陶しい」

 

 押し戻されたサシャはわざとらしく「シクシク」と言いながら、泣いてもいない目頭を手で擦っていた。

 

「この芋女。どうも10位以内に入れなかったのが悔しいんだと」

 

 コニーが乾杯の仕草をしながら、そう補足説明してくる。フリーダはそれに納得しながら、サシャを慰める気にもならないため、放っておくことにした。

 

「いや、何か慰めてくださいよ。私たちアホトリオでしょ」

「馬鹿か。お前の実力が足りなかっただけだろ。まあ、俺は天才だから余裕で10位以内だけどな」

「ムカつきますねー。私があの順位なのも、みなさんが私に罪を擦りつけたりしたせいですよ。減点されてましたもん!」

 

 ムキー、という効果音があうような挙動を取りながら、目の前に置いてある芋を全て平らげようとするサシャ。

 コニーとフリーダも、サシャのその言葉は反論できそうになかった。なにぶん、騒ぎが起きた際には「サシャの放屁の音です」や「サシャが食べ物を落としたからです」などと教官に説明していたからだ。

 

「でも、コニーは調査兵団にするんですよね?」

 

 頬張っていた芋を飲み込むと、サシャがそう尋ねる。

フリーダが事実確認するようにコニーへ視線を投げてみれば、コニーは気まずそうに目線をどこか彼方へと飛ばしていた。

 

「イ、 イヤ!俺はアレだ。そう!ジャンだ。俺はアイツと同じ兵団に入りたくねぇだけだ!」

 

 コニーはよく分からない言い訳をしながら、照れ隠しに酒を呷る。

 フリーダはそんな彼を見ながら、それも生きていく上で必要な選択肢なのだろうと、思った。

 

「私も調査兵団にします。憲兵団は無理ですし、土地を奪えば肉が食べやすくなります!」

 

 サシャらしいその言葉に、コニーは笑う。やはり、彼もどこかでは調査兵団に行くことに恐怖を感じているのかもしれない。その中で知り合いが一人でも来てくれるのは心が安らぐのだろう。

 サシャとコニーはフリーダに期待の目を向ける。この流れでフリーダにも調査兵団に入団して欲しいのだろう。

 しかし、フリーダはそれを分かっておきながら首肯しない。例え同じ釜の飯を食べた同期であろうと、彼らの生存確率を上げるよりも、フリーダには成し遂げなくてはならない事柄があるのだから。ここで寄り道をするという選択肢はフリーダには無かった。

 

「なあ、フリーダも俺たちと一緒に___」

「別れだコニー、サシャ」

 

 フリーダが静かにそう言う。彼の本質である「他人に関心がない」というのは、いまだ変わっていない。フリーダが許容できる命には限りがあり、彼がやらなくてはいけないタスクは五年前から既に埋まっている。

 復讐に囚われた人間はそれしか見えず、また、それを失えば彼は人間性を完全に失ってしまう。

 フリーダは脳裏に貼り付けられた男のことを思い出し、握っていたジョッキを軽々と粉砕してしまう。割れたジョッキからはエールが溢れ、下に落ちていた花に一つの滴が溢れ垂れた。

 

 

 翌日。今日の午後には新兵勧誘式がある日。フリーダはトロスト区の町から出で立つ調査兵団の面々を眺めながら、思案していた。

 考えるのは当然、自身が追い求める男について。あの男が今どこで何をしているのか、そればかりを想像する。

 フリーダの見立てでは、あの男はまだこの壁内にいると考えていた。

 ケニー・アッカーマンが言った巨人の力。そして、フリーダの母親が残したレイス家の力。それらを奪うことがあの男の目的だったのだろう。だが、ロッド・レイス曰くあれはレイス家の血筋でしか蓋を開くことができない。

であるならば、あの男は確実に自分か、ロッドか、はたまたヒストリアを狙うはずだ。あの力を手にすることが目的ではなく、行使することが目的なのだから。

 フリーダは自分たちを再び狙ってくる前に男を殺すことを誓う。壁の外の真実にも、巨人の正体にも興味はない。フリーダの終着点はいつだってあの男を自分の手で辱め、痛ぶり、最大の苦痛を持って殺すことなのだから。

 ただ少しだけ疑念が残っている。何故あの男はロッドだけを生き残らせ、他のレイス家を抹殺したのか。あの男と超大型巨人(こいつらも巨人化できる人間だとフリーダは考えている)達との関係性はなんなのか。

 フリーダはそこまで考えて思考を止める。とりあえず、自身の見解はある程度、片がついている。これ以上考えても、それが覆ることはないであろう。

 気がつけば、行軍していた調査兵団も、それを取り囲んでいたギャラリーも霧散していた。残っているのはフリーダと、ちらほら非番の見える訓練兵だけだ。

 

「あれ、何してるの? フリーダ」

 

 妙に甲高い声に名前を呼ばれたため、振り返る。そこにはミカサとアルミンが立っていた。この二人も今日は非番のため、自分と同じく新兵勧誘式まで暇を潰しているのだろう。

 フリーダはそう考えて、返事をしようとした時それは見えた。

 巨人の顔___。皮膚はなく、筋肉が表面に浮き彫りになった巨人の顔である。それが50メートルはある壁の外より見えた。

 次の瞬間、凄まじい突風が吹く。ガラスは割れ、屋根が飛んでいる家もちらほら見えた。城壁のかけらと思わしきものは飛散し、爆音が町中で轟く。空中に高々と飛び上がった瓦礫は、いずれ隕石のようになって町へと降って落ちた。

 

「超……、大型巨人……?」

 

 アルミンが呟く、それと同時にこちらに大きな瓦礫が飛んでくるのが見えた。

 ミカサはアルミンの首根っこを引っ張り、すぐにその場から離れる。フリーダも同じく、瓦礫に潰されないよう退避した。

 

「な、なんで、こんな時に……、超大型巨人が!」

「落ち着いてアルミン。とりあえず、トロスト区襲撃想定訓練通りに動くことが最優先。装備をとりに行ってその後にガスの補給」

「あ、ありがとう。確かにミカサの言う通りだ……。落ち着いて行動しなきゃ」

「ひとまず、第二波は無さそうだ。その間に駆けるぞ」

 

 フリーダの合図とともに、ミカサとアルミンは襲撃の際に本部となる場所へと一目散に駆けた。

 

この小説の雰囲気について

  • 原作同様沢山人殺す(世界は残酷だルート)
  • みな生存ハッピー(世界は美しいルート)
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