ヒストリアの兄でございます。   作:ヒストリアの兄

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バイトだったので間に合わなかった。
展開はやと自分も思ったので、前の話などは少しだけ加筆してます。


6話

 

 一足先に帰ってきていたクリスタは、遅れて帰ってきたジャン達を見て、自身の兄の姿を確認するべく辺りを散策していた。

 兄の姿であれば、一瞬で見つけられると自負しているクリスタ。一人一人の顔も確認せずに、全員を流し目で確認しつつ歩みを進める。

10分ほど歩いた頃だろうか、クリスタはふと自分が待機場である通路を往復している事に気がついた。当然、歩いている最中に兄の姿は見ていない。見落としていた可能性は彼女の中で無いとして、まだ帰ってきていないのかと思案した。

 クリスタは念のため、自身の友人に兄を見たのかどうかだけ訊こうと思い、ユミルのところへと向かう。生憎、彼女を探すのにはそれほど時間は掛からなかった。

 

「ねえ、ユミル。兄さんを見なかった?」

 

 補給所で水を飲んでいた彼女に、クリスタは唐突にそう尋ねる。

ユミルはいきなりの質問に驚くこともなく、少しばかり記憶を掘り返すと、首を横に振って答えた。

 

「ああー。そう言えば見てないな。あの化物がこの程度の戦場で死ぬとは思えないが」

 

 ユミルの言葉にクリスタも同意した。自身の兄がこの程度のことで死ぬとは微塵も思っていないからだ。しかしそれは、ユミルと違って彼の戦闘力を信頼しての考え方では無い。クリスタは己を置いて兄が先に死ぬわけが無いと、勝手に決めつけていた。

 

「出撃するときは見たんだけど……、まだ帰ってきてないのかな。兄さんの班員って確かサシャ達だったよね」

 

 首を傾げながら尋ねるクリスタに、ユミルは「そうだ」と返事する。クリスタもユミルも、フリーダが前衛部の迎撃隊に組み込まれたことを知らなかった。

 

「けど、変だな。あの芋女すら見てない。帰ってきたら真っ先に野戦糧食を食ってそうなのに」

 

 そう言って、誰も寄り付いていない野戦糧食が置かれた場所を見るユミル。巨人との戦いで相当グロッキーになった兵士は数多く、誰一人として今腹を満たそうとする愚者はいなかった。

 

「確かに。出撃するときにもいなかった気がする」

 

 クリスタは班を整列させるときに、彼女の姿を見なかったことを思い出す。そう言えば、コニーやエレン達もいなかった気がする。

 

「何かあったのか?怪我とかなら私も休みたいし、今なら看病してやるんだが」

「もう。本当に怪我だったらどうするの。かわいそうだよ」

「はいはい。本当は自分の兄貴しか心配してないのに、女神役ご苦労様。今日もクリスタはかわいいなー」

「もう暑いからやめてよ、ユミル」

 

 抱きついてきたユミルを無理やり引き離しながらクリスタは大きくため息をついた。折角、あの惨たらしい戦場から帰ってきて、真っ先に兄の顔で落ち着こうと思ったのにそれが叶わなかったからだ。またいつ出撃命令が来てもおかしく無い状況。クリスタは一刻でも早く、自身の兄に会いたかった。

 

「本当にどこにいるんだろ」

 

 恋しくてたまらない兄の姿に焦がれながら、クリスタは朱色に染まる空を見上げた。

 

 

 何時の間にか空は朱色に染まり、日が落ち出した頃。中衛部で奮闘していた他の訓練兵も無事帰還したとの連絡がフリーダに入った。しかしフリーダは、帰還した同期たちのところへ向かうわけでもなく、一人壁の上に居座り下を眺め続けている。

 なんてことはない。この目で鎧の巨人の姿を拝もうと思っているだけだ。開閉扉のところは既に閉まっており、今の状況だと子猫一匹入れないだろう。

 この状態が停滞すれば、レイス家から力を奪った男が姿を現すわけがない。ウォールマリアが陥落してからも、一切姿を現さなかった慎重な男である。せめて、ウォールシーナまで人類を後退させなければ、あの男の尻尾を掴むことができないと考えた。

 

「ウォールローゼ陥落……か」

 

 そう、フリーダは人類の大敗を望んでいる。

 己の仇を炙り出す為に、兵士が、仲間が、民間人が大量に死ぬことを彼は待ち望んでいる。

 それはまるで悪魔のような考えだった。自分の目的の為に、他人が他人を殺すことを許容している。自分の手を血で染めず悪行を成すそれは、他の誰よりも質の悪い行いであった。

サシャが死に、上官を見殺しにしたあの時。彼は己の中で何かが吹っ切れているのを感じていた。他人に関心が無いと思い込んでいたフリーダにも、無意識にそれ相応の何かが芽生えていたのかもしれない。だが、この度またそれが摘み取られたのだ。これは五年前、姉に善性を埋め込まれ、姉が死んだことによりそれらを失った時に近い。

 結果、改めてフリーダは目的の為に生きる機械人形となってしまった。何も考えず、何も感じず、己の目的の為には人命を殺すことも厭わない怪物となった。

 復讐が終われば、自分がどうなるのかなんて考えていない。夢を追い続けた人間が、叶った瞬間全てが燃え尽きてしまうかのように、彼もきっと廃人となってしまうのかもしれない。はたまた、新たな復讐先を見つけ燃え上がるのかもしれない。

 どれに転んだとしても、そこに幸福の二文字は無いことは確かだった。

 

「そこの訓練兵。そこから降りてくれないかい?」

 

 唐突に見知らぬ駐屯兵達がそんなことを言う。どうやら人払いをするらしい。

 なぜこのタイミングでそのようなことをするのか、フリーダは疑問に思いながらも立ち上がってそれを問うた。

 

「何故ですか?ここは守らなければいけない開閉門上です。余力のある者が見張るのは至極当然のことなのでは?」

「喧しい。命令だ。今ここからは重要な任務地となる」

 

 物腰が柔らかそうな駐屯兵に代わり、後ろに控えていた高圧的な女の駐屯兵がそう答える。

軍隊などであればこういった理不尽な命令も数多く存在することは分かっていた。こういった時は意味など聞かず大人しく従った方が身のためなのだろう。

しかし今のフリーダにその理屈は通じない。サシャや上官の死を許容したフリーダは仇を殺す事以外、全てどうでも良いと考えるようになってしまった。今、彼の頭の中にある事柄といえば、鎧の巨人と接触するためにこの場所に居座り続ける事である。例えそれが命令違反であろうと、彼の中で全ては些事でしかなかった。

 

「断ります。任務を行うなら、どうぞご勝手に」

 

 フリーダはそう言って道を開ける。これ以上話をする気がないのか、駐屯兵の方へ顔を向けることもやめていた。

 それを見た駐屯兵の一人は憤怒し、刃を抜き放ってフリーダへと詰め寄る。今にも切り殺さんと言わんばかりに、フリーダの喉元へと刃を突き立てた。

 

「き、貴様ァ!訓練兵の分際で何を言っているのか分かっているのかァ!!?」

 

 フリーダは呆れた目をしながらその駐屯兵を見つめる。

 

「私は間違ったことを申し上げているつもりはありません。あなた方が何を行おうとしているのかは知りませんが、今にも鎧の巨人が攻めてくるのかもしれないのです。見張りは多い方が良いのでは無いですか?」

「へ、減らず口を……!!任務の邪魔だと言っておるのだアァァ!」

 

 そう言って男が刃をフリーダの喉に食い込ませようとした時だった。

 先ほど、高圧的な態度で命令してきた女の兵士が、刃を握っている兵士の動きを止めた。

 

「もういい。そこまでする必要もないだろ。さっさと行くぞ」

「で、ですが!!」

「従わない兵士を殺せとまでは言われていないはずだ。それに、フリーダ訓練兵の言うことは間違っていない。私たちのやることは、このウォールローゼを意地でも守ることだ」

 

 そう言って、女の兵士が刃を持った兵士の背中を押す。それは「さっさと行け」という言葉の無い命令だった。女兵士の命令に渋々と言った様子で従う男は、他の駐屯兵を連れて、固定砲台が整備されている場所へと走っていった。

 女兵士はフリーダへと向き直る。先程の厳格とした様子はなく、おっとりとした様子で彼女は微笑んだ

 

「やあ。先ほどはきつい言葉をすまない。部下の前だと気を張らなくてはいけないので」

「いえ気にしないでください」

 

 フリーダがそう答えると、彼女はふっと笑う。フリーダの無表情さが少し面白かったのかもしれない。

 

「君は確か迎撃部隊に配属されていたね。唯一、あの部隊から生き残った“奇跡の訓練兵”と言われていたよ」

「そうですか」

「随分と味のない男だ。まあ、地獄を見てきたのだから仕方ない、か」

 

 そう言って女兵士は陥落したトロスト区を眺める。

燃えた家屋からあがる火の手……。

生きた人間を探し彷徨う巨人達……。

 ゴミのように廃棄されている人体……。

 不気味なグラデーションを描く血飛沫のアート……。 

 トロスト区の開閉門が壊されただけで、この惨状である。もし、ウォールマリアが破られたとなれば、誰も想像できないような惨憺たる有様が広がることとなるのだろう。あそこには人類のおよそ半数以上が住んでいるのだから。

 フリーダはそれを想像しながら、女兵士と共に凄惨な情景となったトロスト区を眺め続ける。今、彼が何を考えているのかは誰にも分からない。

 

「なあ、フリーダ訓練兵。実に私的なことを聞くのだが構わないか?」

 

 女兵士がそう問う。

 フリーダは少し悩んだ後に「構いません」と返した。

 

「私には一人の婚約者が居てな、そいつは弱いくせに無駄に責任感の強い男だった。今回の作戦時も自分から迎撃部隊に名乗り出るほどにな」

 

 フリーダは何も言わない。女兵士もフリーダが何かを喋るのを待つことはしなかった。

 

「その男は額に大きな傷のある奴だった。その傷も昔に私がヘマしたのを庇った時のものなんだが……」

 

額に大きな傷。その特徴は確かに見覚えがあった。フリーダはその男を知っていた。

 

「なあ、彼の最後を見ていたりしないか?」

 

 女兵士の言う婚約者とは、最後の最後、フリーダに助けを求めていた上官のことであった。

 

 

 コニーはうずくまっていた。訓練兵が待機する場所で、一人膝を抱え、誰にも見つからないように影に潜んでいた。

 サシャが目の前で死に、矢継ぎ早と中衛部支援班として任務に当たっていた時は、アドレナリンも出ていたせいかそこまで酷い有様ではなかった。きちんと体は動いていたし、目先のことばかり考えていられた。

だが、いざ落ち着いて物事を考える時間が与えられてはもうダメだ。今の彼にいつもの明るさは無い。馬鹿な発言する気力も、誰かを助けようと思う気概も無い。彼はただ再度戦うという勇気を振り絞れずにいた。

 そんな彼に近づく者がいた。恐れ知らずなのか、それとも人の感情を機敏に察知できないのか、妙に明るいトーンでコニーに話しかける。

 

「そんな所でなにしてるんだ、コニー」

 

 顔を上げてみればそこには強張った顔をしているマルコがいた。

 

「マルコ……」

「作戦決行時からあんまり体調が良くなさそうだったけど、どうしたんだ」

 

 コニーはそこで思い返した。そういえば、サシャが死んだと告げたのはフリーダにだけだった。そのフリーダもそのあと無言でどこかで言ってしまったため、結局彼がどうなったのかをコニーは知らない。唯一、サシャの死を目の当たりにしたエレン達も誰にも話していないようだったし、彼らもアルミンいわく死んでしまったらしいため、まだ同期の中でサシャが死んだことは広まっていなかったのだ。

 コニーはそこで逡巡する。サシャが死んだことを言うべきか、言わないべきかを精査した。

自分でもまだ彼女が死んだことを信じられていない。あのいつも憎らしいほどに気の合う女が死んだなんてコニーは許容できていなかった。

 今ここでフリーダ以外の誰かに彼女が死んだことを話し、それを受け入れられるのが怖くて堪らない。誰かがサシャの死を認知すれば、本当の意味で彼女が死んでしまいそうでコニーは怖かった。

 

「な、何でもねぇ……」

 

 精一杯の強気を込めてそう告げる。

 しかし、声は上擦り誰もが無理をしていることを悟ってしまう。

 

「辛いことはみんなと共有した方が軽くなる。コニー、一人で抱え込まなくていいんだ」

 

 マルコの優しい言葉はじゅくじゅくとコニーの傷口を抉るようだった。裂けた肉に指をおもいっきり突っ込まれるような感じだった。

 それが痛くて、苦しくて、辛くて、コニーはつい声を荒げてしまう。

 

「ほ、本当に何でも無いんだよっ!!!」

 

 周りが静寂に包まれる。うずくまっていたコニーの悲痛が空間を一気に支配してしまう程だ。先ほどまで巨人と戦いたく無いと泣き喚いていた者ですら、コニーの大声で黙ってしまった。

 

「……分かった。コニーがそう言うなら、本当に何も無いんだろ」

 

 マルコはそんなコニーを見て、そっと肩に手を置く。

 

「じゃあ、何かあったらいつでも聞くから」

 

 それだけを告げるとマルコは泣き喚いていたダズの元へと走っていってしまった。さっきのように仲間を励ましに行くのだろう。

 コニーはマルコにそんな行動をさせてしまった自分がひどく情けなく感じて、また膝を抱える。こうやって自分だけの殻に閉じこもり、何も考えないで時間が過ぎるのを待つ。自分が現実逃避をしているだけなんてこと、とっくに気がついているが、それでもやめられない。

 

「俺はどうすれば良いんだよ……、フリーダ、サシャ……」

 

 コニーの言葉は誰にも届かない。

 

この小説の雰囲気について

  • 原作同様沢山人殺す(世界は残酷だルート)
  • みな生存ハッピー(世界は美しいルート)
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