ヒストリアの兄でございます。 作:ヒストリアの兄
てか、これからも時々マーレ編知らなければ分からないかも。
1
フリーダの無茶振りと、エレン達からの信頼によりアルミンは見事周りを圧巻させる演説をした。しかし、巨人化の能力を携えたエレンの未知数さを駐屯兵団隊長キッツは恐れ、再び榴弾を放つ命令を下そうとする。
寸前、それを防いだ者がいた。南側領土最高責任者のドット・ピクシス司令。
彼によって、何とか生き延びることができたエレン達は、そのピクシス司令と共に現在壁の上を歩いていた。
「本当によかった。一時はどうなることかと……」
件の際、大きく心労がたたったのかアルミンは大きなため息をつく。駐屯兵から直に殺気を当てられていたこともあり、今でも僅かに膝が笑っている。
「アルミンのおかげだな。こうして壁の上を歩けてるのも」
エレンはアルミンの背中を大きく叩くと、からりと笑った。陽気そうに振る舞っているとはいえ、頬に垂れる冷や汗を見れば、彼も彼で不安だったことが分かる。
アルミンは照れ隠しするように右頬をかいた。
「だが、ピクシス司令は噂通りの人らしい。どんなことも現状を正しく認識する。側から見れば生来の変人だ」
エレンが眉を顰めながら言う。彼は決して司令をバカにして言っているのではなく、その真価を見通せる力に敬服して発言したのだろう。常人では信じ難い情報も、司令には違ったように映っているのかもしれない。
「あははは、僕たちはその変人さに救われたわけだ」
エレンの言葉を理解したのかアルミンは困ったように笑った。
そんな会話をしているときエレンは、ふと今まで静かに横を歩いているミカサが気になった。ピクシス司令に救われてからというもの、彼女は一言も声を発していない。「良かった」という安堵の言葉から「アルミンありがとう」といった労いの言葉までない。普段の彼女であれば真っ先に良いそうなのに、だ。
エレンはミカサの様子を訝しみながら、彼女の肩に手をおいた。
「おい、どうしたんだよミカサ。さっきから浮かない顔して」
エレンの言葉にミカサは暗い表情をすると「……別に」と述べる。明らかに、何もないという様子ではない。何か気にかかることがあったような、そんな感じだった。
エレンが再度、ミカサを問い詰めようか悩んでいると、彼女の方から唐突に「ねえ、アルミン」と話を切り出した。
「何だい?」
「さっきフリーダに何を聞かれていたの?」
話をし始めたかと思えば、それは壁をのぼる時まで一緒にいた仲間についてだった。エレンもアルミンも、その話題に驚きを隠せない表情になるが、アルミンは数分前の記憶を掘り返して、フリーダとの会話内容を鮮明に伝える。
「え?あー、確か。エレンが巨人から出てきたときに、それを見ていた訓練兵は誰か、だったかな」
そこで彼ら彼女らが、そのフリーダの言葉の意味に気づけていれば未来は変わったのかもしれない。
2
駐屯兵、訓令兵共に待機している街の大道部分。そこに、先ほどまでエレン達と共に死線を彷徨っていたフリーダはいた。
フリーダをいち早く見つけたのは、惨めに蹲っていたコニーである。精神が不安定な状態で、今にも暴発してしまいそうな彼はフリーダを見つけるなり縋るように歩み寄った。
「フリーダ、無事だったのか……?」
体の隅々を見ながらコニーが言う。フリーダの体は泥や煙などのせいで、所々黒ずんでいるものの、血による汚れは一つも無かった。腰に装着している立体機動装置も無事なところを見る限り、どうやらフリーダに別状は無いらしい。
それに一安心したコニーは、目を伏せ懇願するように話を始める。
「もう俺どうしたら良いのか分からなくなってよ……。中衛部に駆り出されたときだって、見知った顔の奴らがいっぱい死んだ……」
そう言って思い出すのは自身の目の前で死んでいった戦友達である。彼の班員6人の内3人が自身の指揮系統によって無残な死を遂げ、本部に突入する際には決行した人間中半数もの訓練兵が死んだ。そこから壁をのぼるときに死んだ者まで含めれば、両手両足の指では足りない数になる。
「な、なあ。俺はこれからどうすれば良いと思う?サシャが死んで、仲間もたくさん死んだ……、俺たちはこのまま戦い続けるべきなのか……?俺も死ぬときはあんなにあっさり死ぬもんなのか?」
コニーが恐れているのは自分の死のあり方であった。サシャも自分の班員達も、巨人に一矢報いることなく死んでいった。例え、このトロスト区で兵士が奮闘したとしても、人類は巨人に勝つことなどできないと思っている。
結局はただの延命処置。誰かを生かすために誰かが死んだとしても、結局巨人にみんな食い殺されるなら、何のためにそいつらが死んでいったのか、コニーには理解できないのだ。
モヤがかかった頭を必死に晴らそうとするが、恐怖や不安がコニーの体を凍てつかせる。どうしようもないから休めと、もう勝てないのだから最後は自由になれと、心の悪魔がコニーに囁きかけている。これ以上、思考してしまえば何か得体のしれないものが出てきそうで、コニーはフリーダに答えを求めた。
しかしフリーダはそんなコニーの顔に、ぐっと自身の顔を近づけてこう言う。
「そんなこと俺が知っているわけないだろ。俺は神様でも、お前を産んだ下品な母ちゃんでもないんだ。何でも知りたきゃ、ウォール教の信徒みたいに壁に蹲って聞いてみな」
そう言ってフリーダはコニーから体を離すと、今まで見せたことのないような冷酷な目つきで眺め回した。
「それどういう意味だよ……。人が真剣に聞いてるのに、本気で言ってんのか……!!」
フリーダの冗談にしてはふざけ過ぎている回答に、コニーはカッとなって胸倉を掴み上げる。そのままフリーダを机と椅子が並べられている休憩所で押し倒し、彼の顔面に拳を放とうとした。
しかし、拳が振り下ろされることはない。コニーの手首を横からユミルが握り締めていた。
「…なんだよ!離せよ、このブス!!」
「やめろ。規律違反で上官に罰をくらうぞ」
「知るかよ!!このふざけた野郎に拳をいれないと気が済まねぇ!!ふざけんなよ!ふざけんなこのクソ野郎!!」
とうとう手首を握って止められる雰囲気じゃなくなったため、ユミルはそのまま羽交い締めでコニーを抑える。しかし、コニーの怒りは頂点に達しており、それでもなお足を使ってフリーダを蹴飛ばそうとするため、ユミルはそのまま自身の体と共に相手を寝かせフルネルソンをかけた。
「離せ!離せよ!!このブス女!!」
「流石に私もそこまで言われると傷つくな。私にはちゃんとユミルって名前があるんだ、ぜ!!」
そう言ってユミルはコニーの首部分に力を入れる。体格の差が開き過ぎていれば、相手の首をへし折ってしまうほど危険な技。ユミルは力加減を間違えないように、コニーが苦しむ程度の力を入れる。
「ち、くしょ……!」
コニーが声を発するのも辛くなってきたのを感じ、ユミルは問題事を起こした張本人であるフリーダを見つめる。フリーダはそんな糾弾するような視線を受けながらも、何も感じないのか、平然とした態度で椅子と机を動かしながら立ち上がった。
「しかし、今のはこのチビの言う通りだ。流石にさっきのセリフは仲間に対してどうなんだ、フリーダさん?それに……」
その言葉に続かせるよう、ユミルは視線をフリーダから別の方向へと変える。そこには、クリスタが心配そうな顔をしながら立ち竦んでいた。
「もうどうだって良い事だ。声を聞かせるとか、聞かせないとか。くだらない」
フリーダは吐き捨てる。今まであれほど自身の声を聞かせまいと努力していた人間が、それを放棄した。
「はっ、地獄を見てきて少しはまともになったのか? らしくないな、あんたが感情に流されてるなんて」
「そうでも無いぞ、ユミル。俺は気づいただけだ」
「気づいた? 気づいたって、何に」
ユミルのその問いかけにフリーダは応えない。
そのままフリーダは今まできちんと会話をしてこなかったクリスタのところへと歩いていく。訓練所では見ることのできなかった光景。兄妹としてのあり方が著しく歪んでいた二人が、五年ぶりに当人達だけで会話を始める。
クリスタは緊張のあまり手を固く結ぶ。五年間という途方もなく長い期間、喉から手が出るほど待ち望んでいたことがようやく叶う。兄から話しかけられる。たったそれだけの当たり前で、しかし夢のような出来事。
「クリスタ。今まで悪かった、無視をして……」
そう言って、クリスタの頭を優しく撫でるフリーダ。それだけでクリスタの胸は躍り、目頭に熱いものが溢れ出そうになる
「兄さん……」
「今度はちゃんと言う」
フリーダが囁くように言う。後光に照らされているため、クリスタからフリーダの顔は見えない。それでも嬉しさの度合いは変わらず、クリスタは思わずフリーダに身を寄せた。
しかし、フリーダがその行為を止めさせる。あと数センチで抱き合う距離を、フリーダはクリスタの肩を掴んで離した。
「クリスタ……。俺はお前のことが嫌いで、嫌いで堪らなかった。二度と俺に話しかけないでくれ」
「え……?」
それが兄の言葉であると理解するまでに、ヒストリアはさほど時間が掛からなかった。
3
十数分が経った頃。放心状態となった妹とユミルを置き、フリーダはようやく目的の人物を呼び出すことができていた。
フリーダの目の前にはライナー・ブラウンが一人立っている。場所は狭い路地裏。左右には石造で作られた建物が聳え立っていた。
「なあ。随分と待機場が騒がしかったが、何か知っているか?」
ライナーが辺りを見渡しながらそう言う。
「……大きいドブネズミでも出たんだろ」
「普通それだけであんなに騒ぐか?」
フリーダの面白くもない冗談にライナーは生真面目そうに答える。フリーダもライナーを笑わせるつもりで言っていないので、肩を竦めて適当に反応した。
「まあ良い。それで急にどうしたんだ。こんなところに呼び出して。かなり待機場から離れてしまったから、バレたら兵士としてマズいと思うぞ」
ライナーの言うとおり、現在待機場ではエレンの巨人化を活用したトロスト区奪還作戦の部隊編成が行われている。死亡者や傷病者として登録されていない二人が今その場を離れることは、大変な規律違反であった。
フリーダは右側の建物にもたれかかりながら、疲れたようにジャケットの埃を払う。彼にとっては軍律や軍法など、どうでもよかった。
「少し話したいことがあってな」
軽い口調でそう言うフリーダにライナーは少し疑問を抱く。
「? お前どこか雰囲気変わったか? 何だか前より表情が豊かになったような……」
「さあな、自分では良く分からん。お前がそう言うなら訓練所のスープレベルの変化は起きたんだろうさ」
フリーダは、少し驚いた顔をしている同い年の男を横目で見つめ返した。
「お前の出身は確かウォールマリア南東の村だったんだよな」
ジャケットの内ポケットから取り出した紙を眺めながら、フリーダはそんなことを尋ねる。ライナーはその紙が何なのか気になりながらも、すぐに「ああ、そうだが」と答えた。
「ベルトルさんとは同郷だったか」
「あいつとは幼馴染みだな。小さい頃からよく知っている」
「訓練の時も仲良くいたし、当たり前か」
フリーダがそう言って鼻で笑う。彼にしては妙に回りくどく口数が多いため、らしくない。
「じゃあ、同郷のアニ・レオンハートについては何か知らないのか?」
フリーダが尋ねる。アニとライナーはあまり仲良く話しているところを、彼は目撃したことが無かった。
「……。あいつのこともそれなりには知っている。時々、虫を踏み殺すような変な趣味を持っていた」
少し間の空いた回答。どうやら何か言い淀む理由がそこにはあるらしい。
フリーダはあえてそこに触れず、紙に視線を再び落として呟いた。
「そうか」
「そうだ」
ライナーはフリーダの質問がそれで終わりと思い込んだのか、その場で踵を返す。
「話はそれだけか? なら部隊編成もあるし俺は戻るぞ。恋愛相談なら、この地獄が終わった後にでも聞いてやる」
どこをどう聞けばそのような話の展開になるのかフリーダには甚だ疑問であった。甘い砂糖菓子で脳味噌を構築されていない限り、そのような発想を常人はできないはずだと思う。
フリーダは呆れた目をしながら首を振り、とりあえず本題に入ろうと口火を切った。
「良いや、ここからが本題だ。実は一つ愉快でハッピーな事に気づいたことがあってな」
「気づいたこと?」
当然、ライナーの顔は顰められる。
「鎧の巨人と超大型巨人の正体が誰だか分かったんだよ」
フリーダは剽軽な態度で言うと、先ほどから目を落としている紙をチラリとライナーに見せびらかした。
「……それは、また何で」
「前から大体の目星はついていたんだ。超大型巨人と鎧の巨人はある探し物をしていて、それを見つけるために、壁の中に潜伏し何食わぬ顔で生活しているとな」
フリーダはレイス家のことは伏せながら話を進める。もし仮に、彼がレイス家や仇の男の存在を知らなければ、この仮説まで辿り着けなかったであろう。いやまず、人が巨人になれるという事実を許容できたかすら怪しい。
「なら俺たち同期の中にそいつがいるって言いたいのか?」
ライナーの言葉にフリーダはピクリと眉を動かす。
「ああ。エレンの巨人化を見た連中の中にそいつはいる。駐屯兵である可能性もなきにしもあらずだが、普通探し物をするなら憲兵団になってないとおかしいだろ? かといって、トロスト区にいる憲兵が奴らであれば、もっと早くに壁を壊すはずだ。今日壊して得をするのは、俺たち104期訓練兵だけなんだよ」
フリーダの話を聞いて数回ライナーは深呼吸した。
こんな話、普通の人間が聞いたら誰だって頭がおかしいと一蹴する。奇想天外、奇妙奇天烈きわまりない。だからこそ、ライナーは兵士としてフリーダの精神状態を案じずにはいられなかった。
「……なあ、お前疲れてるんだよ。仲間を疑うなんてどうかしてる。こうなってもおかしくないくらい前衛部は大変だったんだろ? 第一、超大型巨人や鎧の巨人が俺たちの中にいる? 冗談にしては笑えないぞ」
フリーダはやれやれと言った様子でこめかみ部分を手で押さえる。まるで出来の悪い生徒を哀れんでいる教師のような態度だ。上から見下しているような、そんな感じさえする。どこか余裕に満ちており、このあと起こることを全て予見しているような、そんな雰囲気だ。
フリーダはもたれかかっていた体を建物から話すと、ライナーに2、3歩近づいて片手をぱっと広げた。
「笑えないのはお前のその花畑で彩られた頭の方だよ、ライナー。いいか、これは誘導尋問なんかじゃない。遠回しにお前たちが超大型巨人じゃないのかと言っているんだ」
ライナーの頭を突きながらフリーダは言う。数時間前までの彼では考えられない動きだ。
「さっき俺は訓練兵団の中にいるなんて言わなかったのに、何でお前は真っ先に自分たち同期を疑ったんだ?」
答え合わせ。間違いと分かっていながら、生徒自らに正解かどうかを尋ねるような意地悪さ。ライナーは知らず知らずのうちに固唾を飲む。
「っ、それは俺を呼び出したから、そう疑ってるのかと思っただけだ。他意は無い」
「なるほど……、それはそうか。確かにあの流れだと、そう思うか」
「ああっ。誰だってそう思うさ。悪いことじゃ無いだろ?」
先ほどまでの態度はどこへいったのやら、ライナーに言い訳をされてしまったフリーダはすっと彼の体から離れた。まさかまさか、反論されるとは思っていなかったのか。フリーダにしては珍しく間抜けなミスを犯したように思う。
「確かにな。すまない、ライナー。お前を人類の敵だと思ったのを許してくれ」
フリーダが手を出す。それは握手の催促であった。ライナーは逡巡したのち、その手を躊躇わずに取ってみせた。
「気にするな……。何度も言うが疲れていたんだろ。少し休んだらどうだ」
「ああ、そうする。だがその前にしなくちゃならんことがある」
握手した手に力を込めるフリーダ。ごきごきと骨が軋む音が聞こえる。単純に体格だけであればライナーの方が大きいのに、フリーダの握力から逃れられない。
「し、しなくちゃならない事っ? なんだ、それは……?」
ライナーは、痛みのせいで陳腐になりそうな思考力を、なんとか理性で必死に抑えながら、フリーダに問いかける。その有様をフリーダは無感情な瞳で見つめながら、その美麗な唇で言葉を紡いでやった。
「見たんだ俺。超大型巨人からベルトルトが出て来るの。お前は人類の敵じゃ無いけど、ベルトルトは見たから間違いない。きちんと上官に報告しないとな」
フリーダはライナーの握っていた手を離してやる。ライダーの手を見てみれば、そこにはくっきりとした青紫の模様が浮かんでいた。どれだけの強い力でフリーダが握っていたのか、一目瞭然である。
ライナーはそんな自身の手をそっと見て、次に空を見上げ、腕を組み、目を伏せる。なんでもないような日常の一コマ。壁の向こう側に巨人が跋扈していなければ、それこそ平和そのもののようなワンシーン。
ライナーは顔を上げる。あまりにも普通で、平坦で、凡庸な表情。朝の挨拶でもこれからするのかと思わせる風体で静かに言葉を放つ。
「なるほど……。つまりここで、お前と俺はお別れということか」
その瞬間、二人の暗殺者が建物の上から降ってくる。アニ・レオンハートとベルトルト・フーバー。額に汗をかき、やりきれない表情の両者がフリーダの首を狙って刃を抜き放つ。
それをフリーダは察していたかのように、屈んで躱すと手に持っていた紙を周囲にばらまいてみせた。ライナー、ベルトルト、アニはそれぞれ撒かれた紙が風に飛ばされないよう回収しようとする。その隙をフリーダは狙いベルトルトとアニの立体機動を懐から取り出した小銃で壊す。そして、そのまま銃をベルトルトの眉間に、刃をアニのうなじ部分に当てた。
「バカが、気づいてないわけないだろ。シロアリが単独で行動しないくらい、生物学者じゃなくても知ってる」
フリーダは3人のあまりの行動の愚かさに唾棄する。ライナーはそんな光景を唖然としながら眺め、恐る恐る自身が必死になって取った紙に視線を落とした。
そこに書かれていたのは、103期訓練兵の戸籍資料。フリーダがちらほらと大事そうに見せていた紙は全てフェイクで、自分たちが鎧や超大型と決定づける資料と思わされていたものは、ただの関係ない人間たちの戸籍資料だった。
つまり、彼らはただフリーダがかまを掛けていたのを、馬鹿みたいに自ら引っ掛かりに行ったのである。
「うっ……」
「ライナーっ!」
アニとベルトルトも自身らが掴んだ紙を見たのか、悔しそうな顔を浮かべている。してやられたどころの話ではない。突撃命令(空を見て、腕を組む)を下したのはライナーであり、その場合ミスを犯したのもライナーである。自身の軽率な判断で、超大型と鎧とは別に、第三の巨人の正体までフリーダに露見してしまった。
「騒ぎ立てるのは構わない。巨人化するのも構わない。お前ら三人が本気で俺を殺しにくれば殺せるかもしれないぞ。ただし、その時はお前らのうち誰かは死に、目的は何一つ達成できないがな」
フリーダの冷静な見解は実に正しかった。この場で3人が本気で彼を殺そうとすれば、フリーダを殺す確率は非常に高くなる。超大型巨人に鎧の巨人、さらにもう一体の未知な巨人を前にして、自身の身一つで勝てる確信などフリーダにもない。
しかし、フリーダには逃げるという選択肢がある。その場合、待機場に集っている多くの兵士に紛れ逃亡を図れば良いだけの話だ。あとは彼が王政でも、兵団でも好きなところに情報を持ち込めば、ライナー達に壁内の居場所はなくなる。必然的に彼らの目的である「力」の場所を探ることは叶わず、一時帰還するしかない。
五年という長い年月をかけておいて、その結果が「顎の巨人」を失っだけというのは、あまりにもライナー達にとって不都合な結果であった。
「条件は、何っ。フリーダ、あんたは馬鹿じゃないだろ。私たちを追い出すためにこうしたとはっ、考えられない……!あまりにも賭けが過ぎるっ!」
冷や汗を垂らしながらアニは叫ぶ。もうなりふりかまっていられないという様子だ。
「アニ下手に喋るな!殺されるっ!」
ベルトルトがアニから自分へフリーダの気を引こうと叫ぶ。
「あんたこそ黙りなよ!今ここでこいつと交渉しなきゃ私は詰んでるんだ!立体機動は壊されて、あの筋肉ダルマがむざむざとこんな路地裏なんかに誘われるから、無駄に密集して三人で一気に巨人化もできない!精々逃げられても硬いライナーと大きいあんただ!私はこいつにうなじをもぎ取られて死ぬ!!」
アニの言うことが正論だったため、ベルトルトは黙るしかない。
確かに、超大型巨人であれば高さのおかげですぐにうなじは切り取られないし、鎧の巨人はそもそも刃を通さないだろう。
でも、アニだけは違う。アニは巨人化した後、そのまま自分の意志でうなじを硬化させなければいけない。フリーダがその隙を見逃して待ってくれるとは思えない。つまり、アニだけは瞬殺される可能性を十二分に孕んでいるということなのだ。もしかしたら、フリーダの剣撃よりも先に防げるかもなどと言う不確定要素に頼るほど、アニは挑戦者ではない。
「アニの言う通りだ……。答えてくれフリーダ……、俺たちに何を望んでいる」
ライナーは熟考した結果、任務を続けるため、仲間の命を助けるため、目の前の男と取引することに決める。彼はこれ以上、自分のせいで仲間の戦士が死ぬのを堪えられなかった。
フリーダは「ようやく話がまとまったのか」と言うと、そのまま小銃とブレードを下ろす。大量の人を殺し、ストレスがピークに達していたところで、死を感じさせられたアニは盛大に息を荒げ、涙まじりに何度も下腹を抑えて呻く。今日は彼女にとって最悪最低の日として記録されたことだろう。
そんな少女のことなど気にもしないでフリーダは、ライナーの前に躍り出る。
「決まっている。俺が望むのは___エレンを食う、ただそれだけだ」
この小説の雰囲気について
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