アークナイツ:episode【Black Light】 作:まあぶる
唐突にオリキャラ、挿入します。
最近、なにか様子がおかしい。
多数の部隊が全滅しているのだ...いや、全滅に関してはさほど珍しい話ではない、問題はその報告にある。
高確率で死体が見つかっていないのだ。消えたと思われる場所には大量の血溜まりと武器、たまに肉片のようなものがあるだけで本人達の行方は一切わからない。
何かよくないものが裏で動き回っている可能性があるかもしれない。今は同胞たちに原因を探らせているが...いざとなれば私が直に出向く必要もありそうだ。
「タルラ、報告だ」
「...」
白髪のコータス族の少女が部屋に入ってきた。いつもと変わらぬ気難しそうな表情だが、本来より若干低い声のトーンから何か重大な事なのだろうと理解する。
「また1部隊からの通信が途絶えた...」
またか、いい加減ため息をつきたくなりそうだ。
だが、そう思っていると目の前の少女は少しだけ笑みを浮かべてその続きを話し始めた。
「だが、朗報もある。その部隊の生き残りがいた」
「!...何か分かったか」
「ああ、生き残ったのは例のループスの娘だ」
例の...ああ、あの娘か。レユニオンの中では変わり者だった奴だが、いつも運だけは良い。今回も、その運に救われたのだろうか。
「そいつ曰く...」
[十数時間前...]
──また、部隊が消えた報告が来た。何度目だろう、10回?それ以上?...わからない。
(...私、何してるんだろう)
私は幼少期の頃、感染者になって故郷の街から居場所をなくしレユニオンに流れ着き、そこで私は8年間生きてきた。
訓練を受けた結果、術士としての才能が人一倍あることが分かり、より専門的な訓練もやってきた。
だけど、私は人を傷つけることが嫌いだった。
訓練であっても人に術を向けるのがイヤだった。相手を殴るなんて、もっての外だ。だからこうして今も最前線ではなく後方でひっそりと物資を略奪している、ただの臆病者だ。
「おい、何してんだユリ?そんなところでボーっと突っ立って」
黒い隊服に身を包み、仮面で顔を隠した人が話しかけてきた。彼はグラン、年齢は39歳。同じ部隊で5年間一緒に活動を続けてきた男だ。彼は変わり者であった私の心を理解してくれた人だった。優しく、厳しく接してくれる彼に私は感謝している。
「...あ、ううん、なんでもないよ。ちょっと、考え事してただけ...」
「考えごとねぇ...お前のことだ、どうせ部隊の失踪の報告のことでも考えてたんだろ?」
「それは...」
「はは、当たりだな!そんな悲しそうな顔を見りゃすぐにわかるよ」
顔に出てたなんてわからなかった...指摘されて少し顔が熱くなる。
「消えた原因はわからないが、今も他の部隊が調査に出ているから、じきに消えた奴らも見つかるはずさ...だから心配はするな、ユリ」
「...うん」
「...さあ、移動するぞ?他の奴らも待ってる」
...
「次はどこへ向かうの?」
「第2地区、高層ビルが多い場所だがウルサスはここを放棄してるらしいな。おかげで取り放題だ。」
「そっか......ん?」
話を聞きながらなんとなく空を見上げた、なんだか騒がしかったからその方に顔を向けただけだった。
「どうかしたのか?」
「いや、なんだかカラスが多いなって思って...」
「カラス?...本当だ、群れで同じ場所を飛び回るだなんて珍しいな。なんかあったのか?」
「わかんない......でも、」
なんだか不吉だね。
...その言葉を声に出そうとしたが出ない、いや出せなかった。その変わりに出たのはマヌケな呻き声だった。
視界がおかしい、景色が逆さまになっていた。
浮遊感も感じる...宙に浮いてる?なんで?
『ユリ!!』
グランが叫んでる、でもその声は遠い。
「うぁっ!!??」
背中に激しい衝撃を受け、肺に溜まった空気を全て吐き出した。
体は自分の意思に反して勢いよく転がっていく、やがて止まるがそのまま激しく咳ごんでしまう。
理解が追いつかない、何が起こったの?
音が聞こえる、銃声だ。
敵?
呼吸は整っていないが、とにかく体を起こした。
みんなが倒れてるのが見えた、元いた場所には爆発が起きたかのようなクレーターがあった。
...その中心に誰かいる
黒い革ジャンにフードで目元を隠している男が立っていた。武装をしているようには見えない。その人はこちらを向いて...
ゾワッッッ
全身が凍ったように動かない、足が震えてる?
怖い
アレは何?
姿は人間のはずなのに、何かおぞましいものを見ているような感じがする。
こっちに来てる
やめて
来ないで
こわい
いやだ
乾いた音が響く。
銃声だ。
目の前の男は、私ではない誰かを見つめている。
「それ以上その子に近づくんじゃねえ」
...グラン?
後ろから聞こえるその声の主に気づき振り向くと、そこにはグランが銃を構え立っていた。怪我をしてるらしく、頭からは血を流していて、少し左足を庇っているように見えた。
「いったい何者だお前は?何が目的だ?」
「...答える必要が無い」
「...まさかとは思うが、お前がレユニオンの部隊を襲っているってヤツか?」
「...さあな」
男は言葉を濁す。
「そうか、お前がその張本人ってことはわかった...!」
グランが銃口を男に向けた。
「...」
だが男が動じる素振りは無く、ただその場に立ち続ける。
「お前を今からレユニオンの本拠地へ連行する、大人しくしろ」
「それは無理だ、俺の存在を知られるわけにはいかない」
「それなら力ずくでもっ!?」
突然、男が動き出した。グランは発砲したが目に見えぬ速度で銃身を掴み無理やり逸らされた。
グランはすかさず携帯しているハンドガンを取り出し構えようとしたが、わずかに遅かった。蹴り飛ばされ、壁に勢いよく叩きつけられる。
「ぐっ...っ!?...ガボッ...!!」
「っ、グラン!!」
グランは血を吐き出しながら咳ごんでいた。凄まじい威力で内蔵が損傷してしまったいるようだった。
私は立ち上がり術を発動しようと杖を構えた。
しかし
「...っ!ダメだ...!戦ぅ、なっ...に...ゴホッ...逃げ、ろ!」
「何言って──「生きて...伝えろ...!!」...っ!」
分かってる、立ち向かえば全員殺される。
でも、見捨てたくない。だって、5年間支えてくれた大事な人をこんなところで失いたくないから。
「...振り向くな」
「...っ!」
『振り向くな、たとえ俺が死んだとしてもだ。どんなに悲しいことが起きても、前を見て進み続けるんだ。そうすれば──』
...グラン、やっぱりあなたはいつも優しくて
...とても厳しい人だよ...
...
突然降り始めた雨の中を、私は必死に走った。その時の私はどんな顔をしていたのかは覚えていない。悲しみなのか、怒りなのか、悔しさなのか...もしかしたら全部だったのかもしれない。
幸運にも、男は追いかけては来なかった。逃げだす直前、グランがアーツを使って男を足止めしていたのが見えた。
グランのしてくれたことを無駄にはできない、したくない。もし、無駄にしてしまったらきっと臆病者だと笑われるから。
私は、私が嫌いだ。
誰かを傷つけることが嫌いな癖に、誰か傷ついているところを見て何も出来ない私が、嫌いだ。
自分すら殴れない臆病者の私が、嫌いだ。
...
「...そうか...あのお人好しな娘が、他人を見捨てる覚悟を見せたのか」
「ああ、だがあの子のおかげで大きな情報を掴めたことに変わりはない...」
「黒い服で灰色のフードを被った男か...姿が判明しただけでも収穫としては十分だろう...あとは、そうだな」
...彼女に、少し考える時間を与えるとしよう。