結論から言うとデュランダル────サクリストDの移送は遂行できなかった。実際には断念したという方が正しい。
完全聖遺物は起動してしまえばそう簡単に停止することはない。だからこそ、誰かの手に渡ってしまえば危険なのは用意に分かる。
故に、デュランダルは二課本部にて保管される事になった。より正確には、『アビス』という地下領域に。無理に移送するよりもその方が良いという話になった。
「────剣くん、貴方ってホントに不思議な身体してるわよね」
デュランダル移送から数日。医務室で待機していた剣を見た了子がそんな風に言った。その理由は彼の身体にある。
今現在、彼は上着を着ていない。つまり半裸という状態だった。普通とは思えないほどの筋肉のついた上半身が露出しているが、剣は身震いすらせずに椅子に座って待機している。
彼の身体には、傷一つ存在してない。問題はそこなのだ。先日、デュランダルによって暴走した響との戦闘で彼は傷を負っていた。致命傷といったものは少なかったが、鎖骨辺りを切り裂かれたり腹部を抉られたりと軽傷とは絶対に言えない状態であった。
それなのに。
「
「…………まぁな、俺達はそう簡単には死なないさ。出血多量や欠損程度は何とかなると思う」
「程度ってねぇ………ホントなら危険なのに。それも『
言葉通り、剣の状態は健康以外の何物でもない。傷一つ存在しない、筋肉の整った体が確かに証明していた。何からの治療措置を取ったとか言う次元の話ではない、自動的に完治されていたのだ。普通では処置を施さなければ死ぬ可能性もある重傷を。
「あぁ、『
「…………私でも難しいわ。────ねぇ、お姉さんにちょこっとだけでも調べさせてくれない?」
「遠慮します」
キッパリと拒絶する剣。冷徹に言う青年に、了子は簡単に退こうとはしなかった。それは単純な好奇心、というには違うものかもしれない。
「ねぇお願い!これは研究者としての、いやシンフォギアシステムを作った櫻井了子としての意地に関わるものよ!!」
「止めてください」
「ちょこっと!ちょこっとだけ!何なら先っちょだけで良いわ!!」
「止めてください────遠隔でパソコンのデータを削除しますよ」
「それは止めて!?私の徹夜の意味が!!」
ある意味でも誰も傷つけず、ある意味では容赦の無い脅しに────櫻井了子は屈した。即座に平謝りしてくる大人に対して、青年は「冗談です」と適当に呟く。
………実際には、本気で干渉しようとしたが、プライバシーの問題もあるため、そういう事をするつもりはなかった。色々知る必要の無い情報を知ってしまい責任を取らされるなんて御免だ。
かと言ってまた巻き込まれるのも面倒だと判断し、剣は検査の礼を述べて研究室から出ていった。
廊下を普通に歩いてると、後ろから誰かが駆け寄ってくるのが聞こえた。振り替えると、そこには息切れしている少女がいた。
「剣さん!元気ですか!?」
「響か、どうしたそんな顔色を変えて」
「いや、言いたいことがあるんです!」
「あの時の事!すみませんでした!!」
「…………気にすることでもない、と言うのはあまりにも他人事か」
「そうですよ!だって……私、剣さんを傷つけましたし」
あぁ、と頷きながら納得した。
デュランダルを手にした事で暴走した響を助ける為、剣は戦い、その結果重傷となった。目覚めた後に、その事実を知った響からしたら、後悔しかないのだろう。
しかし、傷つけられた当の本人はあまり気にしてはいない。
「お前が俺を傷つけた事、誇れば良い。なんせ普通のお前なら瞬さ────秒さ─────まぁ、うん。分以内で撃沈だろ」
「言い直すなら言わないで欲しかった!あと遠回しの優しさが辛いっ!」
首を傾げる。どうやら図らずにも響に精神的ダメージを与えていたらしい。その理由は大体把握できてるので反省し、次に生かそうと脳裏に記憶しておく。
だが、このままでは響は引き下がらないというのも事実。故に剣は、別の話題にする事で気を反らそうと考えた。
「ところで響、何か悩み事でもあるのか?」
それを聞いて目に見えて驚愕する響。何故かと聞かれたが、勘だと適当に流した。実際に勘なので詳しく問い詰められても答えようがない。
「実は────」
…………
「なるほど。つまりこういう事だな?」
話を聞え終え、頷きながら内容を詳しくまとめる。
「お前の親友………
「そうです……最近、それで悩んじゃってて」
困ったように笑う響だが、剣は真剣に頭を働かせる。しかし自分にとっての正解を見つけ出すのはそんなに時間が掛からなかったらしい。
思い悩む少女に、自らの考えを伝えるのも、同じく数分も必要なかった。
「俺としては、別に話しても良いと思うが」
え? と。
予想もしてなかった回答に、響は思わず呆然とする。
「お前の親友だ。他ならぬお前が近くで守ってやるべきだろ。距離をとっておくよりも、近くにいてやる方が俺個人としても良いと思う。大事な友情を失うより、マシな筈だ」
「で、でも………守れなかったら」
「守れない、じゃない。守るんだ。あまり弱気になるなよ、お前の自身の為にも──────だが」
指し示す。一度は響を、そしてすぐに自分自身を。
「どうしても駄目なら、頼ればいい」
「……、」
「風鳴翼や司令、二課の皆─────俺にも。守るためなら遠慮はするな、力くらいは貸してやるさ。自分のやりたいようにやれ、後悔なんてするなよ」
ま、結局は自分自身の意思だがな、と付け足す剣。そう言われた響は何処か重く考え込む。
「………ありがとうございました!」
「?」
「私!ちょっと考えてきます!」
そう言って元気そうに走り去る響の背中を見送る。ポツリと、小さな呟きが漏れた。
「…………礼を言うような事か?」
◇◆◇
その数時間後。
剣はリディアン音楽学院の近くにある街中を散策していた。ノイズが出てこないと基本的に暇であり、剣は何もしないと逆に落ち着かない性質を持ち合わせている。
だからこその、散策なのだ。適当に歩いていれば暇を潰せるだろうという考えもあっての事。
ふと、近くに並ぶ建物が目に入る。正確にはその建物と建物の間にある、人が通れる空間にだ。
(路地か………そう言えば俺がこの世界に来たのもこんな風な路地────いや、確かここだったな)
感慨深いと感じながらも素通りしていく。特に気にする事なんて、滅多に無かった。興味や関心、そういうものが無かった訳ではない。
「…………?」
そこで、剣は顔をしかめた。先程の道を戻り、横切った路地裏に視線を向ける。
誰かがいた気がした。そんな風に感じたのは魔剣士としてではなく、普通の直感や違和感かもしれない。気のせいと割り切る訳にはいかなかった。
そして、路地裏へと足を踏み入れる。堂々と歩いていた黒猫から威嚇されながらも、剣はそこにいたものを見つけた。
「………女の子?」
銀色の髪をした少女。何処か幼い印象が残った顔つきと今も地面に寝転んでる体格からして、年齢は十六歳程。自分より年下の少女がこんな路地裏で寝ていることすら衝撃であるのだが、それ以上に剣の視線がある部位へと固定されていた。
「─────大きい」
結論から言うと、彼の視線は少女の胸へと向けられていた。デカイ、確かにデカイ。独りでに漏らした呟きが比喩表現ではない、何ならもう少し例え方をオーバーにしても悪くない大きさだ。推定十六歳でこの大きさなのはあまり見たことがない、何なら翼は当然として響よりも大きいのではないか─────
そう言ってると剣は肩を震わせた。寒気だ。何処か身震いするような怖気。外に居続けてるから当然だろうと納得しているが、彼は知らない。
───誰かが自分の事を馬鹿にしていると察した風鳴翼が、無言で素振りを始めている事に。大量の爆薬を持ちながら地雷を踏み抜いた事など、知るよしもない。
ふーっ、と息を吐きながらもう一度少女に視線を移動させる。そこで、ピタリと動きを止めた。
(待て、こいつ。何処かで──────)
「ん、んぅ」
どうやら少女も目が覚めたらしい。目元を擦りながら起き上がる少女に、剣は違和感を加速させた。やはり、この少女は会った事がある。しかし決定的な証拠が見つからない以上、そう簡単には分からない。
そう思っていると、ぼやけた瞳で此方を見る少女の顔が変わる。緩めていた少女の雰囲気が、一気に鋭くなる。その視線に、心当たりがあった。
「ッ!?てめぇは!」
「────お前!」
威嚇するように吼える少女の声で理解する。こいつはネフシュタンの鎧、それを纏っていた少女だ。そして、【魔剣計画】の兵器である『アルビオン』を自由に操り────自分達を何度も襲撃してきた相手で間違いない。
ネフシュタンの鎧を着ていた事もあるからか、すぐには気付けなかった。もう少し疑り深くいくべきだっか、と考え直すがもう遅い。少女は既に臨戦態勢に入っている。
「ハッ!都合が良いぜ、ここでお前を捕まえて───」
ぐ~
「………」
「………」
妙な沈黙が生じる。腹がなった音が聞こえた、どうやら相当空腹に近いらしい。勿論、剣のものではない。彼自身人体の構造が複雑な事もあり、食事はあまり取る必要がない(実際は普通よりも食べられるが)
ならば、この音は─────
「なんだ、腹が減ってるのか」
「う、ぐぅ」
空腹とは違う理由で呻く少女。顔を真っ赤して黙り込むその姿に剣は察することが出来た。すぐさま、この光景を他人に見られたらどんな風に思われてしまうのだろうか? と考えたが、やはり止めておくことにした。
代わりに、
「……………着いてこい」
「は?」
「ちょうど食事にしようと思っていた。お前も食事時なら、一緒に取るのが都合が良いだろ」
「なッ!?てめぇ!なにふざけた事言ってやがる!?」
反発するように、強く怒鳴られた。ここで何かを言うのはかえって逆上させるかと思い、剣は何も言わない。
その事に業を煮やしたのか、少女は更に言葉を続ける。
「………あたしを騙そうとしてんのか?そうはいくか!どうせそう言って、大人の連中の所に連れてくんだろうが!」
「これは俺の気まぐれだ。二課の人達との連絡も報告もしない。利用できる相手がここにいるんだ、精々上手く利用しろ」
ま、信じられないなら構わないがな、と付け足しておく。彼は強制しない。元々敵同士だったのもある、好機を無駄にするのが相手の選択ならそれを優先してやるまでだ。
言われた少女は黙り込む。実際にどうするべきか悩んでいるのだろう。
その結果─────
「………雪音クリス」
「そうか」
「あたしの名前だ。言っとくが、お前には聞きたいことがある。それだけだからな」
「安心しろ、俺も同じことだ」
敵意満々の少女と、そんな鋭い圧を適当に流す青年。二人は互いの都合故に、この現状を利用することにした。
────自分にとって知りたい事、ただその答えを得るために。
◇◆◇
辿り着いたのは、一軒の店。
共に行動していたクリスは不思議そうに首を傾げる。
「………ここは?」
「ファミレス、ファミリーレストランだ。好きな食事をするのには困らない場所だ。ま、俺も最近はここで暇する─────大抵が少食ぐらいだが」
そこら辺の席につき、立て掛けられたメニューを手に取ると反対側の席に座ったクリスに軽く投げ渡した。咄嗟に受け取る彼女はチラチラと剣を見て、
「なんだ?遠慮でもしてるのか?」
「いや、お前良いのか?………食うのにもお金は使うだろ?お前ってそんなにお金持ってたのかよ?」
「安心しろ。ちゃんと落として貰うさ──────経費でな」
最後らへんは小声の早口で言う。まぁ二課に所属してるが、世間的には存在すら明かされてない以上、正規の職員とはされない為に給料などは当然ない。なので二課の経費を使うしかないのだが、彼は一応遠慮だったする。今までだって食事はずっとレーションやカロリーメイトといった少量に止めておいた。
………1日くらいは構わないだろう。そんな軽い感じで彼も考える。それを知ったら二課の皆の反応が想像できなくもないが、プライベートなので微塵にも興味なんてない。
その後、注文された料理が届いた。剣は炭酸飲料とアイスを、クリスはハンバーグやスパゲッティといった料理を頼んでいたのだ。それなのにクリスの方が早かったのには何らかの理由があるのかと疑ってしまったが、仕方ないと割り切る。
食事を食ってる間にもクリスのテーブルマナーが火種と化した問題が多々あったが、ここでは省くことにする。
「なぁ、もう聞いても良いんだよな?」
「元からそう言う目的だったしな」
膝をつく剣に、クリスは聞きにくそうにしていた。しかしすぐに、口を開いた。
「その………なんで
心当たりしかない。
先日のデュランダル輸送の際、暴走した響に狙われたクリスを庇ったのだ。その時に腕を切り裂かれた、そうまでしても止めようとしなかった。
その理由を知りたそうにするクリスに、剣はポツリと漏らす。
「……………諦めたくないと思っただけだ。本の気まぐれみたいなもんだ」
「はぁ?なんだよそれ」
「俺が馬鹿だっただけの話だ。そんくらいしか話せないな。現に、それが答えなんだから」
そう答えはしたものの、あまり納得はしてないらしくクリスは不満そうだった。事実なんだがな、と剣は思う。
一度飲み物を口の中に流し込む。ついでに入ってきた氷を頬張り、噛み砕きながら彼はクリスに聞いた。
「なぁ、何故お前は戦う?その理由は────根底にあるものはなんだ?」
「………それを聞いて、どうすんだよ」
「お前の質問に答えただろ。少しくらいは話してもいいんじゃないか」
挑戦的な一言に、はん! と鼻を鳴らすクリス。性格的に、やってやるという意味なのかもしれない。
「戦争や扮装をこの世から失くす、あたしはその為に戦ってるんだ」
「─────ふん、それで?」
聞いた上での、変わらない態度。それを聞いてクリスは何を思ったのだろうか。聞いてきた癖に他人事らしい様子に、腹でも立てたのか。
「“戦う意思と力を持つ者”、そいつらがいなくなればいいんだ!そうすれば世界から戦争は失くなる!パパやママの叶えようとした夢をあたしが叶えるんだ!」
「………パパやママ?」
別に、両親の呼び方に反応した訳ではない。気になったのは、叶えようとした夢という点についてだ。
夢、というのは世界を平和にする事だろうか。戦争を失くすという事とイコールに捉える者が多いからそうかもしれない。しかし、気になることが他にあった。
「………両親を失ったか。大方、戦争に巻き込まれでもしたみたいだな」
「歌で世界を平和にする。そんな馬鹿な事をした結果、扮装に巻き込まれたよ。その国のテロで」
「捕虜にされたあたしは、何とかフィーネに助けられた。そして、フィーネが教えてくれたんだ。
“戦う意思と力を持つ者”、そいつらがいなくなれば争いは失くなるって」
(……………フィーネ?)
その単語に、聞き覚えがあった。
博士からの情報で、米国に繋がってると思わしき人物の名前らしい。意味は、『終わり』。音楽記号の一つであるものだと。
すぐに、『フィーネ』と呼ばれるその人物が黒幕なのは分かった。クリスに、『ネフシュタンの鎧』を渡していたのも、自分の事を伝えたのも、そいつが関係しているだろう。
「なるほど、それがお前の戦う理由か。戦う力や理由まで与えられて─────それで?満足したか?」
「……何が、言いたい」
言葉が、気に入らない。
膨れ上がり白熱する思考に、クリスは低い声を漏らす。分かりきったように、相手の真意を理解したように言う。
知ったように言われるのが、一番腹が立つ。癇に障る筈、だからこそ軽はずみな言葉ならば、クリスは怒りを噴出させるところだった。
相手の言葉に、全ての意識を持ってかれるまでは。
「簡単だ、同じなのさ」
「………は?」
「俺も、俺達も。争いや悲劇を失くすために戦ってた。その為の力も、与えられた────お前の言う苦しみや痛みを与えられてな」
手の形を変える。自分の体の至る所を指で示す。両腕や脚、胸元に腹部、そして頭を。
「肉体の六、七割以上」
それが何を意味するのか、クリスには分からなかった。しかし、その次の言葉がその意味を理解させた。あまりにも、残酷な答えを。
「機械や人工細胞、ナノマシンへと組み替えられてる。世界を救うことを望んだ結果────人の神秘を最低限まで残された兵器になった訳だ。魔剣により効率的にてきごうする為にな」
そんな事が、ありなのかと思っただろう。
虐待されて、兵士として教育された事なら分かる。だが、体の全てを改造され、兵器へと変えられる事などあっても良いのか。
「う、うそだ!デタラメを言うんじゃねぇ!そんな冗談、あたしが信じるとでも────」
「これを見ろ」
立ち上がって剣はマフラーを指で摘まみ下げる。そのまま首筋の後ろを見せるように向きを変えた。否定の声をあげていたクリスだったが、『それ』を見つけてしまい────言葉を失った。
人の素肌。首の裏にあるのは小さな傷、そして小さな機械があった。十字に似た形状で中心には真っ黒い結晶を嵌め込んだ装置。
埋め込まれているのは分からなくもない。しかし場所が場所なのだ。首筋は本来、脊髄が通っている場所。その機械の大きさや全長は正確に分からない以上、脊髄に重要なダメージを与えている可能性が──────
「どうだ?これで信じてくれたか?」
自分がそんな状態でいるというのに、青年は淡々としている。自身でも理解できていないのか。最悪な話、既に馴れているのかもしれない。
本人の性格上からして後者の方が有り得るのが酷く恐ろしい。
そんなおぞましい現実を見せられたクリスは剣を見返す。先程の敵意に満ちた眼は不安そうに染まっており、彼への心配が乗せられていた。
「………クリス。お前の言った話、あっただろ?」
その視線に何を感じてるのか。達観したように呟く青年。指で飲んでいた空のコップを動かしながら、続きを口にした。
「“戦う意思と力を持つ者”、そいつらがいなくなれば戦争や紛争はなくなるって」
「あ、あぁ。確かにそうだ。そうすればきっと───」
「そこまで。世界は都合良くない」
断言する。
世界に絶望した青年が。何もかもに期待することなく諦め、灰色の未来だけを見据え続けていた魔剣士が、語る。
「戦う意思が消えることはない。家族を奪われた、仲間を殺された、友人に裏切られた、願いを踏みにじられた、自分を利用された──────ありとあらゆる動機があれば意思は生まれる。意思によって人は動き、決断する。自分の保身の為に戦う権力者もいれば、クリスのように争いをなくす為にわざわざ戦争を起こす人間もいた」
雪音クリス以上に恵まれた可能性がありながらも、全てを失った。夢の残骸を抱き、崩れ落ちたモノの語る言葉には、確かな重みがあった。
「力を持つ者だってそうだ。俺達『
けれど、終わるどころか戦火は更に広がった。犠牲は増えて、戦争はまた再開された。俺達は戦った結果、死体の数を少なくしたのと、一部の権力者達の座る椅子を守っただけだった。
理不尽に未来すら奪われた俺の仲間達を引き換えにな」
魔剣士の表向きな存在理由は、世界の平和の為だ。自分を兵器に変えられる事に嫌がっていた子供たちもその願いの為に、私情を押し殺していった。
体を弄くり回される苦痛、仲間を失う悲しみ、それに耐え来てきたのは────その未来があるからだ。叶えなければならない理想が、そこにあったからだ。
しかし、戦い続けた彼等にあったのは─────そんな理想ではなかった。永遠に終わりが見えない戦い。文字通り命すら差し出した者達の努力の先にあったのは、夢も希望もない現実だった。
遥か高き山の頂を登るのとは違う、底の存在しない深淵へと落ちて、底に着かなければならない───────すなわち、不可能を意味する。
大半の者が折れた。もう駄目だと諦めた。しかし剣は、誰よりも足掻き続けた。頼れる相棒がいたからこそ、彼は現実を否定して抗っていった。
しかし、その相棒すら死んだ。誰かを守る為に、戦い続けた結果だった。その時からだろう。剣は、心の底から、世界の平和という理想を諦めた。
そして、無意識に願ったのだ──────こんな世界、自分達の居場所がありもしないこの世界とは違う、居場所になれる世界が良いと。
「だが、俺は…………最近、もう一つの考えが出来た」
その願い故にか、彼はこの世界へと訪れた。ノイズという化け物が存在し、自分とは似てるようで違う存在。戦う力────シンフォギアと、それを振るう少女達との出会いが、彼の見ていた世界を変えた。
「世界を平和に出来るのは、俺達だけじゃ駄目だってな」
「………、」
「そりゃあ無理だ。一人で世界なんて変えられる筈がない。俺もそれに気付けば良かったんだ。守ろうとして足掻いた結果が────今の俺だ」
この世界が、素晴らしいとは言えないだろう。もしかしたらかつていた世界のように、酷い行いがあるのかもしれない。許してはいけない悪事が跋扈してるのかもしれない。
けれど、小さな希望があった。あちらの世界では微塵にも感じられなかった、優しいものが。
「人は理解し合える。響はそう言う意見を持ってた。ただの戦士には無い考え方だ。俺達にはそういうものが足りなかったのかもしれない」
「理解し合えるって………そんなの理想論って奴だろうが。話し合って終わるなら、こんな風になってないだろ!」
「そうやって否定して、戦った結果がこのザマだろ………こんな風に堕ちて、俺達と同じ末路を迎えるつもりか?」
「………………なんで、そこまでしてくれんだよ……」
俯く少女に、地獄を生きた青年は答えない。黙って彼女の言葉を聞いていた。そして静かに、一言をちゃんと飲み込んでいく。
「あたしは、敵だろ。あの兵器を使ってお前を傷つけた。そんなあたしに…………なんでそこまで、すんだよ!?」
「言ったろ。お前は同じだって………このままやるなら、俺よりも悲惨な末路を迎える。全てに絶望したままな」
希望的観測ですらない、それは確信的なものだろう。境遇の似通った悲劇の経験者からの、助言。
或いは、自分自身を戒めようとしているのか───
「ハッキリ言うと、そんなのご免だ。俺はもう目の前で苦しむ奴を見捨てない。二度とそんな真似をしてやるものか。何故、最強の兵器と恐れられてきた俺が、そんな律儀な事に従ってやる必要がある?」
そこまで申し立てて、言葉を閉ざす。何とも言えない空気な中で、二人は沈黙を続けていた。剣自身は好き勝手に言ってしまったなと冷静に反省していたが、
顔色を変えて、スッと立ち上がる。クリスの方が不安そうに見つめる中、彼は外へと眼を向けた。
「─────来たか」
突然の事に店員は伝票を持ちながら駆け寄ってくるが、彼は答えない。それより先に、いち早く動き出した。
ガシャァンッッ!!!! と。
窓際に並べられていたガラスが砕け散る。外からのものではない。むしろ内側からの破壊行為だった。
立ち上がった剣が
理由はただ一つ─────窓を突き破ろうとした存在を仕留めたに過ぎない。ノイズという、人を炭化させる事の出来るおぞましい怪物を。問答無用の一撃で、葬り去った。
どさくさ紛れに剣さんが自分の事を明かしましたが補足を。
剣さんの人体六割以上機械系という事実を知るのは、こちらの皆さんでは数少ないです。博士を除くとするならクリスちゃんだけです。
ついでに、出番早々瞬殺されたフライト(飛行型)ノイズさんに合掌。