因みに私はソロで一夜を迎える予定です。
フィーネと呼ばれる女性は杖を掲げ、緑色の光を発生させる。その光からノイズが出現しては襲いかかってくる。
しかし、その全てが無駄に終わる。
突然この場に現れた無空剣は容赦なくノイズを屠っていく。ただ腕を振るうだけで消し飛ぶように見えるが、両腕に展開された仕込みブレードによる高速斬撃によるもの。離れて見てる人間は勿論、斬られたノイズすら断末魔を残すことなく切り裂かれていく。
ノイズを淡々と呼び出していくフィーネだったが、その顔がすぐに曇る。大量に呼び出した筈のノイズがたった一人に掃討されてしまったのだ。
「それで?お前がフィーネか」
戦いの最中で乱れたマフラーを直しながら、無空剣は問いかける。
「雪音クリスに『ネフシュタンの鎧』と『アルビオン』を与えた張本人………今回の騒動の黒幕」
「だとしたら?」
「聞きたいことがある」
落ち着いた様子で彼はフィーネを睨む。自分の中にある激情を表面上に出さないように、或いは限界を越えた結果返って冷静になったのか。
彼が知りたいこと、それは単純な事だった。
「【
小さな笑みがあった。フィーネが行った動作の一つだ。それによって更に冷えていく空気の中で、彼女は挑発するように言う。
「果たして私が、答えるとでも思っているの?」
「───『魔剣士』は、戦争に特化した人間兵器だ。当然、尋問や拷問なども人並みの知識はある」
逆撫でするような言葉に、剣はあまりにも落ち着いていた。その静けさが余計に恐怖を掻き立てるように。彼は真顔で告げる。
「最初から喋るなら二課に連行するだけにする。だが黙ろうとするなら────両手足を二度と治らないように砕く。何ならオマケとして、生きたままお前の心臓を見せてやろうか?」
ただの冗談や脅しではないのだろう。全く笑ってない目がそれを物語っている。淡々と口にしたのは事実通告に他ならない。もし彼女が青年に対して再度断れば、凄惨な目に合う可能性の方が高いだろう。
「悪いけど断らせて貰うわ」
しかし、フィーネはそう答えた。今度は嘘や偽りなどではなく、紛れもない本当の答えだった。
そう言われた剣の方に、更なる変化が生じる。瞳と声から、一切の感情が消失した。護られている筈のクリスが怯える程の殺気を剥き出しにしながら、一言。
「─────死にたいのか?」
「馬鹿ね。実際に殺すつもりは無いというのに………けれど、確実に口を割らせようとしてくるわよね」
ふぅ、と両目を細めるフィーネ。彼女自身、目の前の冷徹な人間兵器への対処法を考えているのだろう。いや、既に決めているのかもしれない。
その証拠に、あっさりと口に出した。
「だから、ここは大人しく退かせて貰おうかしら。貴方相手には、『切り札』を使わないとダメみたいでしょう?」
「─────逃がすか」
ビュンッ!! と腕が振るわれる。装甲の隙間から展開された刃が乖離して射出された。虚空を切るように放たれた六枚の小型ブレードは放物線を描きながら、囲むようにフィーネへと飛来する。
しかし、彼女は掌を向ける。たったそれだけで、六枚の刃は謎の光によって弾かれた。全てが、傷すら与えることが出来ない。
剣は舌打ちし、片腕を持ち上げる。跳ね返された刃が自動的に収納されていく。機械の自立動作で全てのブレードが収まったのを確認し、相手をもう一度見据えた。
(………今のは何だ?聖遺物のモノでもない。センサーでも把握できない力─────俺の知らない領域のものか)
簡単そうに、剣は納得する。ノイズという完全に兵器とは呼べない存在などが未知の領域の正体を証明している。
「なら、これならどうかしら?」
フィーネの行いは簡単だった。手元の杖から再びノイズを生み出す。肉壁にするつもりか、それだけなら抉って突破する。
そう考えた剣は考えをすぐさま改めた。ノイズの狙いは自分でもなく、フィーネを護る事ではない。
剣を無視するように、彼の後ろにいたクリスへと飛び掛かろうとしていた。
(チッ! やはりそうやってくるか!)
自身の動きを切り替え、ノイズの一体を踏み潰す。前とも変わらないやり方だ。一般人を集中的に狙うことで戦いにくくする─────陰湿でもあるが、合理的でもあるやり方だ。最も、人を死なせることに躊躇がない時点で倫理的ではないのだが。
フィーネ、黒幕は諦める。生憎、彼はわざわざ合理的に動くつもりはない。それよりも優先するものは人命に他ならない。みすみす敵を見逃すことに心底腸が煮え繰り返りそうになるが、無空剣はそれを受け入れることにした。
そして、顔をしかめる。倒した筈のノイズが明らかに増えていた。森の奥から出現している、どうやらフィーネが呼び出し続けているらしい。目的は無空剣をこの場に固定しておく為、無抵抗な雪音クリスを狙わせているのだろう。
「………さっきから似たようなやり方ばかりだな。陰湿かつ性格が悪い奴だ」
前のレストランの件も考えた結果、やはりそう確信した。ふん、と鼻を鳴らして後ろに庇っているクリスに声をかける。
「おい、クリス。その調子だと、あの鎧も奪われてるんだろ。ならお前は退け、ここから離れて────二課に頼れ。あの人達なら大丈夫、お前を無下にはしない」
「お前は………お前はどうするんだ!?」
疑問を投げ掛けるクリスに剣はあまり大きく反応はしない。近くにいるノイズ達を背中に取りつけられた刃と共に切り裂いていく。
クリスをノイズから守りながら、彼は短く息を吐く。
「この程度の数は大したことない。片付けるのに大したこと事なんてない。それより、お前はどうにも出来ないだろ」
「………なるほど」
そこで、剣は逆に気になった。何故この状況で、彼女はしたり顔で笑えるのか。ネフシュタンの鎧やアルビオンを持たない以上、彼女は無力である事は確かだ。
「要は、あたしに戦う力がありゃあいいんだろ?ノイズ相手に戦える力が」
「おい、まさか…………」
「ならいいさ!ここで歌ってやろうじゃねぇか!」
───Killiter Ichaival tron♪───
突然、クリスは歌を口にし始めた。思わず思考が止まりかけたが、戦いを止めなかったのは魔剣士としての本質なのだろう。だが、この歌は初めてではない。訂正すると、似たような歌を聞いた事がある。
そして、クリスという少女が光に包み込まれた。
「この歌、そして………イチイバル?」
シンフォギア。そう思った直後、光が晴れてクリスの姿が見えた。さっきまでとは違う、別の姿になって。
赤と黒。その二色が特徴的なスーツと装甲。ネフシュタンの鎧とは違い、銀髪やその顔も明らかになっている。全体的に赤一色のプロテクターと先程の歌からして剣はようやく理解に至る。
「………イチイバル、お前が持ってたなんてな」
かつて書類にて確認した、失われたとされる大二号聖遺物。あのフィーネとやらが彼女に渡していたのかもしれない。大方、それまで奪わなかったのは価値が無かったのか、或いは彼女にしか使えないからか。
(────デカイ。やはりデカイな。初見で予想した俺の眼は間違いではなかった。あれは普通に限界を越えてる。ていうか凄い。豊かなモノとフィットしたスーツの組み合わせのレベルが半端ない。これはアレだ、眼福どころじゃない。もう普通に至宝クラスだぞ)
と、心の奥底で早口(これら全てを数秒以内に纏めるレベル)で巻くし立てる剣。チラ、チラと目に見えて分かるくらいにクリスの姿をガン見してる。男の子だから仕方ない、マジで仕方ないのだ。
「歌わせたな」
「……?」
「クソ!あたしに歌を歌わせたな!教えてやる!あたしは大っ嫌いだ!」
「やっぱり、お前は俺と似てるな」
世界を平和にする、そんな題目の為に改造され、その力と共に戦い続けた無空剣。
戦争や悲劇を失くす為に、嫌いな歌を武器にする力を与えられ、戦うことを選んだ雪音クリス。
だが、彼女は剣とは確実に違う。雪音クリスはまだ終わっていない。既に完全に失ってしまった自分とは違い、まだ未来というものがある。なら、やる事は一つ。
「手を貸してくれるか?クリス」
この力を持ってる少女に、逃げろとは言わない。むしろ、共に戦ってやるのが正しいだろう。
武器を構えるクリスに背を向けながら、剣は軽く告げた。平然とした様子で、
「背中を預ける───それで構わないな?」
「上等だッ!あたしの独壇場ってのを見せてやるよ!」
こうして、二人の共同戦線が始まった。一部が似た者同士である二人の、何故か信頼のあるコンビが。
◇◆◇
最初に動いたのは相手────虹宮タクトだった。ただ突っ込んだ訳ではない、そう考えれば彼の行いは普通とは桁が違った。
アスファルトを踏み抜き、勢いよく跳躍する。空中で体をひねりながら、彼は拳を握り締める。相手が何をしようとしてるのか察した響はすぐさま真横へと飛び退いた。途端、
グシャァッ!!! と爆音が炸裂したと同時に、響のいた場所が消し飛ぶ。タクトの拳が叩きつけられ、地面に巨大なクレーターを作り出したのだ。一撃が、重機に匹敵する威力を有していた。
飛び散る粉塵を片手で払いながら、彼は楽しそうに笑う。それはそれは、心の底から楽しいと言うような様子で。
「ハハッ!オレぁ一般の魔剣士としては格が低い!現につい最近『起動』したばかりだからこの程度の性能になっちまってる!だが気にすることはねぇぜ?ただただ互角に近いもんになっただけだしなぁ!!」
この程度の性能、地盤すら砕きかねない破壊が、この程度と一蹴される程。ならば、彼よりも上とされる『魔剣士』は────その頂点に君臨し続ける無空剣は、一体どれ程の強さなのか。
それからタクトは響を容赦なく追撃する。周りの木々を巻き込むように削り取り、薙ぎ払っていく。表現するなら、小型巡航ミサイルよりも恐ろしい。
だが、何より。
響はそれに対応していた。息のつかない連打に、追いつき始めていた。地面すら砕く連撃を、受け止めたり弾いたりしているのだ。
相手しているタクトの方が怪訝そうな顔になる。すぐさま笑みを深め、楽しそうに笑った。
「流石だ融合症例一号!予想より良く動くな!」
「融合症例一号なんて名前じゃない!」
立ち止まり、大声で叫ぶ響の声にタクトは思わず動きを止めた。空中で軌道をずらして後退した彼は、攻撃の手を緩める。響がまだ、声をあげようとしていたからだ。
「私は立花響!15歳!」
「誕生日は9月の13日で血液型はO型!」
「身長はこの前の測定で157cm!体重は、もし仲良くなったら教えてあげる!」
「趣味は人助けで好きなものはごはん&ごはん!」
「後は、彼氏いない歴は今のところ年齢と一緒!」
「───おいおい、こんな時に自己紹介か。予想以上に愉快なヤツだなぁ」
笑みを浮かべてそう返すタクトだが、少しだけ顔がひきつってる。ていうか、地味にドン引きしてる。それでも目に見えて反応しなかったのは、個人的にその姿勢を評価してるからかもしれない。
「タクトさん!私達はノイズと違って言葉が通じるんだから、ちゃんと話し合いたい!」
「ハッ!正気かよ!」
そう叫ぶ響に、タクトは軽く鼻で笑う。本気で取り合っていない。子供の話を滑稽無糖と言って馬鹿にする大人に近いものがあった。
だが、それでも響は諦めようとはしなかった。相手に言葉が届くと信じて、呼び掛け続ける。
「話し合おうよ!だって、言葉にすれば人間はきっと分かり合える!」
その瞬間、タクトは地面を殴りつけた。ドゴォッ!!! と再び地面が砕ける。全力ではなく、やはり手加減をしてるらしい。彼は両目を細めながらも、笑みを絶やさない。
「言葉でなら分かり合える? それは何も悲劇を知らないからこそ言えるんだぜ。世界や人間というものの定義を」
そんな風にタクトは吐き捨てる。殺気まで抱かないのは、彼がそこまで怒っていないからか。或いは興味関心がないのか。
どちらでも良いのか、タクトは響を眼にして答えを察していた。彼女は変わらない。それどころか、まだ声にして伝えようとしていた。
「それでも、って言うんならさぁ────」
関心と共に、タクトは単直に告げる。
「戯れ言じゃねぇってのを示して見せろよ。言葉だけじゃなくて力で!お前の理論が正しいということを!このオレに示せ、立花響!!」
彼は、虹宮タクトにとって重要なのはそれだけだ。もし自分の意思を貫き通したいのなら、実力が無ければ意味がない。何の力も覚悟もない言葉なんて軽いものだ、しかし力さえあれば全てを変えることが出来る。
ある種、歪んだ考え方。力さえ無ければ誰かの声も無意味と切り捨てる事を許容した、恐ろしい事だった。理不尽に大切なものを奪われた復讐者の憎しみの怨嗟を平然と聞き捨て、同情もせず無残に処刑するのと同じような─────人とは思えない程、無機質かつ暴虐な心理。
叫ぶと共に、虹宮タクトは片手を大きく広げる。その手の内から、凄まじい程のエネルギーが形作られる。最初はビー玉サイズの球体だったが、徐々に五十センチ程の物へと変わっていく。
それを強引に掴み、握り潰すかと思えば────
「─────轟け雷閃! 『
掌から閃光が放たれる。真っ白の雷を思わせるエネルギーのビーム砲。のたくりまわる龍のように捻れ狂う光が、響に直撃した。
しかし、響もそれを受け止めた。両手に形容できない程の圧力がのし掛かるも、それでも耐えていた。『アルビオン』との戦いでの時ならこうもならなかった、彼女の成長というものがよく分かる証拠だった。
だが、ここは戦場だ。何より相手は────たかが一発当てた程度で見逃すような、生易しい存在ではない。
「もう一発!『
更に、光が放出される。今度は先程のような変則的な動きではなく、まっすぐに直進していく。狙いは、ただ一つ。響ではなく、彼女が受け止めていた閃光。自らが撃ち込んだエネルギーに接触した途端、
爆発。
その場に雷が落ちたかのような轟音に続いて、周囲に複数の爆発が生じた。響は至近距離からそれに巻き込まれてしまう。
「………クチで語るなら、もう少し実力くらいはあって良かったんじゃねぇの?ま、言っても無駄か」
自分が巻き起こした爆風にさらされながらも、退屈そうな調子で呟く。興味なさそうに周囲を見渡していたが、すぐに何か気付いた。
「───ぉぉぉおおおおお!」
「やるじゃねぇか……」
視線の先、土煙の奥からの咆哮に身構えた。立花響だ。彼女の掌に橙色のエネルギーが集まっていく。それによって形成されていくものを、タクトは既に認知している。
「アームドギア………本来の形では無いにしろ、モノにしよォとする気かよ────ッ!」
青年は笑いながら、突貫する。それも雷のようなスピードで疾駆して、響の後ろを取る。無防備な背中、がら空きな少女に向けて構えた拳を放つ。
だが、それは受け止められた。振り返った響は地盤すら変容させる重撃をその手で止めたのだ。予想に反していたのか、タクトは眼を剥いて絶句する。それによって、隙を与えた。
(───稲妻を喰らい、雷を握り潰すようにっ!!)
師匠であり司令でもある弦十郎からの教え。それを胸に抱き、目の前の青年へと飛び出す。自らの腕を、引き絞りながら。
(最速で、最短で、真っ直ぐに!一直線に!胸の響きを、この想いを伝える為にッ───!)
そして抵抗するように、或いはさせないと振るわれる剛腕をかいくくぐり──────一発!
吸い込まれるような綺麗な一撃。並外れた打撃が、タクトの腹部に打ち込まれた。
「ガッ─────は、!?」
大きく、よろける。今までどんな攻撃も受けなかったタクトが、明らかに仰け反る。その様子が響の拳の威力を、彼の受けたダメージを物語っていた。
補足
【
虹宮タクトが素手状態にて発動できる技。雷電エネルギーを生成して、ビーム砲のように飛ばす。詠唱なしでは直進するビームになるが、『轟け雷閃』という単語をトリガーとすることでビーム自体の動きを操る事が出来る。