戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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あと数日で今年も終わりですけど………なんか短く感じるのは個人の問題だったりするんでしょうか。時間の流れというのは意外と早いものですしね。





運命というもの

思わず後退した事実を、タクトは信じられなかった。彼の中にある自律コンピューターが編み出した予想と想定とは自分が味わってる現実が異なっている。

 

 

(立花響……ッ!この俺の、計算された答えの上を行く成長速度。マスターから得た情報の重さをよく理解しておくべきだったなぁ!)

 

 

全身に纏われた白い装甲。先程、立花響からの一撃を受けた腹部装甲は少しだけへこんでいた。普通なら切り捨てるような損傷だが、想定の範囲外だったのが重要なのだ。

 

 

しかし、やはり彼は兵器と称されるだけはあるのか。持ち直すのが早かった。

 

 

(損傷容量、24パーセントを突破。部位破損は確認できず、)

「敵対対象への警戒度を修正。同時に、補足を提示」

 

 

冷静に次の行動を演算してるタクトはある違和感に気付いた。立花響、彼女が追撃を行う様子が見られないのだ。流石に言葉を失うタクトだったが、その理由を答えとして出すのは簡単だった。

 

 

 

 

───まだ、思ってるのだ。互いに言葉を交わして、仲良く出来ると。

 

 

 

甘いなぁ、と笑いが溢れる。やはり何も知らない、戦いというものとその過酷さを知らない。本気で話し合って理解できると思っている。

 

 

 

よりによって、『魔剣士』という兵器相手に。戦争に役立つ為に戦いの全てを注ぎ込まれた人間だったモノ相手に。

 

 

 

「やるなぁ、立花響。さっきの一発はかなーり効いたぜ、あぁ……強かった。お前って意外にやりゃあ出来るじゃねぇか。色々とお前の事を見下してたが、取り消させてくれ」

 

 

ケラケラとそう答えるタクト。軽薄そうに笑う青年に対して響は構えていた拳を緩めながら、叫んだ。

 

 

「タクトさん!これ以上は何をやっても意味ないですよ。ノイズと違って私達は言葉を交わす事ができる。私達は、同じ人間ですから!!」

 

 

それを聞いた相手は、呆然としていた。しかしすぐに吹き出す。腹の底から、可笑しいというように笑い出した。

 

 

「は、ハッハッハッ!! お前、正気か! まぁだ俺達『魔剣士』と仲良く出来ると思ってんのかよ!よりによって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()このオレ相手に!?」

 

 

笑い、笑い、大笑いするタクト。腹を抱えて笑う青年は一体何が可笑しいのか不思議な程だ。ひとしきり笑って満足したのか目元を擦り、表面上の笑顔になる。涙すら浮かんでないが不気味だが、彼は気にしない。

 

 

笑われてもなお、話し合おうとする響に、彼は軽く付け足した。

 

 

「そういや、さっき言った事を訂正させて貰うぜ」

「え?」

「戦い方だけどよ。悪いけど変えるわ。全力じゃねぇけど本気でいくから────多分死ぬと思うけど、何とか耐えとけよ」

 

 

 

 

ガシャッ!!ガシャガチャガキン!! と大きく擦れ合う金属音が発生する。いつの間にか、彼の近くにあった鋼の塊が分解された音だった。

 

 

 

外装が剥がれたそこには先程の剣の柄が露呈していた。巨大な鞘の中に収まってるように見えるのは、その形が鞘に近いものだと思えたからか。

 

 

 

「知ってるか?『カラドボルグ』という魔剣、それが成し得た偉業ってのを」

 

 

話しながら、彼はそれを掴み取る。

 

『カラドボルグ』、それは魔剣士である彼が宿す───魔剣の名。タクトは身構える響の前で、剣を抜刀した。

 

 

刀身が煌めく、不気味な両刃の剣。何故か最初に襲いかかった時とは別種の刀剣だった。普通の金属の光沢とは違う輝きを有しているのは、何らかの力が働いているのだろう。

 

 

「『虹の端から端まで伸びて、一振りで丘の天辺を三つも斬ってみせた』。それこそが、カラドボルグという魔剣の力。このオレ、タクトもその力を受け継いでいるのさ」

 

あくまで語るのを止めないのは、余裕の表れだろう。例え自分の一撃を与えられる相手だとしても、確実に倒すことの出来る切り札を所有してる自信の片鱗。

 

 

響は拳を構え、深く腰を落とした。ふぅーっと息を整えたのも、相手の動きに対応する為だった。もしここで話し合いをしようなどと言えば、確実に不意を突かれる。

 

 

文字通り、背中を切り裂かれてそれで終わってしまうかもしれない。生半可な考えは捨てなければならない。相手は無空剣、彼と同じ『魔剣士(ロストギアス)』と呼ばれる戦士の一人だから。

 

 

 

 

 

「魔剣絶技、疑似解放。限定制限五割解放」

 

 

その瞬間、タクトの身に纏われし鎧に変化があった。無機質な声音に反応するように、純白の装甲が蠢く。内側から、何らかのエネルギーが身体の隅々へと届いていく。

 

 

その力に従うように、顔から全ての感情を消し去った青年が構える。明らかな、一撃必殺を放つように。

 

 

右手の剣を肩の高さまで持ち上げて、大きく後方に引く。左手を剣先のすぐ横、響へと向ける形であてがう。

 

 

 

それはまるで────突きのような構えだった。しかし、その剣先が響に届く筈がない。何せ、二人の間の距離は六メートルも優に越える。

 

しかし、先程の戦いでの遠くから飛ばされた斬撃もあった。だからこそ、響は何とか防ごうと構えを重くする。

 

 

 

そんな彼女の目の前で、刀身に何条もの光が生じる。剣を中心とするように巻きついた無数の光によって、剣が巨大な白い剣へと変わった。

 

 

前後に開いた両足が動く。限界まで引き絞った腕に全力の力が込められていく。爆発的な加速と破壊力を巻き起こさんとする力が、

 

 

 

 

 

「───スパイラルカノンッ!!!」

 

 

 

 

 

たった今、螺旋状の閃光が解き放たれた。技が発生しただけで衝撃波が周囲を容赦なく薙ぎ払う。地面すら抉りながら、進行方向にいる響へと迫り、衝突した。

 

 

何とか顕現させたアームドギア。彼女はそれをもって、純白の閃光を受け止めた。何とか、押さえ込もうとする。

 

 

だが、そう簡単にはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

「……ぅ、ああぁぁぁッ!!?」

 

 

有り得ない程の威力に、響は苦しそうに呻いた。ビキビキビキッ! と鳴り響く。両手に纏ったアームドギアでも完全に防ぐことが出来ない。螺旋の光は、凄まじいパワーとエネルギーを生み出し続け、響を打ち破ろうとしていた。

 

 

 

「なんのっ……………こぉれしきぃぃぃいいいいいいいいいいいっっ!!!」

 

何とか響はその状況で身体をひねった。ぐるりと横へとズレた事で、極光の方向も大いに反れる。彼女の別方向へと放たれた光が、近くの森を抉り取りながら消失する。

 

 

息切れと共に膝をついた響に、ゆらりとした人影が声をかけた。先程の一撃を放った、タクトだった。

 

 

「ハハッ、よく防いだ………いや、反らしたか。やはり勘が鋭いな。そのまま受け止めようとしていたら両腕が吹き飛んでいただろうぜ」

「……はぁっ、はぁっ………いま、のは」

「魔剣絶技。オレ達の必殺技みたいなもんさ。ま、お前らからしたら普通の技だと思って欲しいな」

 

 

ニヤリ、とタクトは響を見下ろす。彼女は今しがたの一撃を押さえようとして、体力を多く消耗した。最早抵抗しようにも出来はしない、何も出来ない。

 

それは誰から見ても明らかな事実だった。

 

 

「さぁて、立花響。今からオレは本気の一撃をお前にぶちこむ。もうある程度の情報は得たし、お前の事はもう不要ってヤツさ。

 

 

 

 

 

 

結局、お前の努力も無意味なんだ。どのみち、計画の為に装者を一人ずつ消すのにゃあ変わらねぇし。別にお前を殺してもこっちにはもう何にも損害はありゃしねぇからなぁ!」

 

剣を響へと突き付け、更なる光を纏わせる。今度は麗しい程の純白ではない───同じ白ではあるが禍々しさをも有した光だ。

 

構えなんてものはない。ただその剣を標的へと向ければいいだけ。

 

 

 

 

「死ね!───ヴァーティカルストラーダ!!」

 

 

 

 

 

ズドォッッ!!

巨大な光の奔流が、津波のように大きくなる。その目の前で動き出そうとした響を一気に呑み込んだ。更に連鎖的な爆発も広がり、剣を下ろしたタクトは爆煙を見つめる。

 

 

 

今のはやれた。確実に命中した、例えシンフォギアを纏っていたとしても、無傷は絶対に有り得ない。最低でも重傷までは削れているはずだ。

 

 

そう思っていたタクトは煙が晴れ、その先にあるものを目にする。しかしそこにあったのは自分が予想していたような光景ではなかった。

 

 

「………あん? 盾?」

 

 

 

「────剣だ!」

 

 

巨大な銀色の金属。思わず巨大な盾と誤認したが、すぐに否定の声があがる。その声が響のものではないことに怪訝そうになるタクトだが、気付いたように見上げる。

 

 

風鳴翼。巨大な銀色の剣の上に、彼女は凛と佇んでいた。

 

 

「ハハッ!おいおい、なんでここにいやがるんだ!?アンタはそこらへんのノイズを相手してたはずだろうが!」

「あれほどの数なら遅れは取らない。風鳴翼の剣はそこまで軽いものではないぞ!」

 

 

鋭い笑みを浮かべるタクトだが、両目を細めて二人を見つめる。彼個人としては翼の乱入は予想外だったのだろう。

 

 

「無事か?立花」

「翼さん……!で、でも何で?」

「周囲に発生していたノイズを倒していたの。ノイズを発生させていた相手を追うことは出来なかったけれどね」

「助かりましたっ!翼さんが来てくれなかったら私………」

「やられていたかもね。でも気を付けなさい。相手はまだ健在よ」

 

剣を振るい構える翼に、響も拳を握り締めて腰を深く落とす。互いに戦闘態勢で、何時でも対応できるように。

 

 

タクトはそれを見て、溜め息を漏らした。剣と手を下げて、やれやれと大きく嘆息する。

 

 

「立花響だけならともかく、風鳴翼も一緒とは骨が折れると判断した。それに続いて他に援軍が寄越される可能性も考慮すると…………これ以上のオレとしても戦闘行為は本意じゃあない」

 

 

ニヤリと笑い、彼は叫ぶ。

 

 

 

 

 

「てなワケでぇ!ここぁ大人しくトンズラさせて貰うぜ!悪く思うなよ!?」

 

地面を強く蹴り飛ばす。勢いに任せて後方へと跳ぶタクトは逃走へと移行する。それには響も呆気に取られ、言葉を失った。

 

 

しかし、この場にいるのは彼女だけではない。

 

 

「させないわ!」

「チィッ! やっぱそうしてくるかねぇ!?」

 

 

勢いよく突っ込んでくる翼にタクトは剣を大きく振りかぶる。疾駆する彼女に向けて斬撃を飛ばすが簡単に弾かれてしまう。翼も無防備になったタクトを無力化しようと峰打ちをしようとする。

 

 

 

 

そんな彼女の刀剣が止められた。

このまま斬り伏せられていたであろうタクトが動いたのだ。自らの手で翼の剣を受け止めていた。掌を容赦なく貫かれていたにも関わらず。

 

 

 

「な───」

「こうするとは思わなかったか?そいつはオレ達を舐め過ぎだぜー?」

 

絶句する翼を嘲笑い、彼は勢いよく身体を回転させる。気を取られた事もあって柄から手を離してしまった彼女は吹き飛ばされた。しかし響が受け止めたことで、地面に叩きつけられる事はなかった。

 

 

タクトは無視して、自分の掌から翼の剣を引き抜き、彼女の方へと放り投げる。そして、急に垂れ下がった自分の腕に眼を細める。困ったような顔で、息を吐いた。

 

 

 

「あん?あー、不味いな。腕が壊れちまったじゃねぇか。止めてくれよ、直すのに手間が掛かんだよこれ」

 

意味不明な言動に顔をしかめた翼は、更におかしな事に気付く。タクトの腕は刀を貫通している。それも肘まで貫いている程の重傷なのに、彼は顔を歪めすらしなかった。

 

 

そして何より────血が出てなかった。貫かれた筈の彼の腕から。自分の剣にも、一滴も存在しない。普通なら流れているべき赤い液体が、何一つ見つからない。

 

 

 

 

「貴方………その腕は義手なの?」

「ハハッ、浅いなぁ。そんなあまっちょろい考えじゃあオレ達にゃあ届かねーぞ?もうちょっと深く考えてみな。答えってのは、そこまでぬるーくねぇんだぜ」

 

 

そう言われてもなお、彼女達はその意味を図りかねた。片腕、両腕が機械なだけでも不自由かもしれないのに、あまっちょろいと断言されたのは普通に予想外だった。

 

 

 

そこで翼がある事に気付いた。いつの間にか、タクトが自分の腕を、正確には腕に空けられた穴。そこへと視線を向けると──────ケーブルや金属部品が露出している。

 

 

更に、青年の腕の付け根の部分。装甲の内側の腕が外れかかっている。それ自体、本来なら有り得ない。装甲ではなく、腕そのものが乖離しかけているのだ。

 

 

その隙間から見えるものに、嫌な予想というものが出来てしまう。

 

 

「全身が、機械?」

 

「ハッハァ! まぁ間違ってはねぇワケだし、一応正解って事にしといてやんぜ。元々は人間だったらしいんだよ、このオレも。つい最近起動したばかりって言ったろ?だからオレが人間だった頃とかも覚えてねぇのさ。ま、別に知った所でって話だけどよぉ」

 

 

平然と語ることだが、それがどれだけおぞましい事なのかは説明するまでもない。何も言えずに立ち尽くす二人、それは当然だろう。

 

 

 

絶句する響に、タクトは自分の腕を弄りながら鼻で笑う。一方で彼女に対してある種の想いを抱きながら、言った。

 

 

 

「なぁ、立花響。これでもオレ達が分かり合えると思ってんのか?」

「………っ!」

「人間ですら手を繋ぐことが出来てねぇんだ。人間なんてものじゃ無くなったオレ達が仲良しこよしなんて出来るワケねぇ。分かるだろ? やれるかどうかの段階じゃねぇ、最初から無理、不可能ってヤツだぜ」

 

 

そう言い残してタクトは空高く跳んでいく。

 

 

「待って!………っ」

「無茶するな立花!」

 

 

その後を追いかけようとするが、先程の戦いのダメージや疲労によって膝をつく響に、翼が駆け寄った。

 

 

結局、勝てるような相手ではない。どうしようもない無力さが、彼女達に重くのし掛かってきた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

無空剣と雪音クリス。

『魔剣グラム』と『イチイバル』を纏う二人はノイズの大群を容赦なく屠っていた。ガトリングガンやミサイルなどを連発させ、ノイズを殲滅していくクリス。そんな彼女を物量で押し潰そうとする大群を、純粋な戦闘力で排除する剣。

 

 

彼等の戦いは凄まじい程に息が合っていた。おおよそ剣がクリスに合わせるように動いていたのかもしれない。普通の戦士なら不可能な事でも、彼ならばそれを可能とする。

 

 

そして、二人によるノイズの殲滅は数分程で終わった。剣が最後の一体を屠ったことで。

 

 

 

「ノイズはこれっきりだな。意外に数が多かったな」

「………はぁ、はぁ………クソッ、フィーネも数がっ、多すぎんだよっ……!」

「このくらいしないとダメだって考えたんだろう。ま、どっちみち足止めにしかならなかったが」

 

 

舌打ちをしながら、センサーを使用するが反応は見当たらない。数分という時間を与えてしまった以上、フィーネはここから相当距離を取っているはず。

 

 

 

 

「それで、どうするつもりだ?」

「あ?何がだよ」

「お前を利用してた奴、フィーネに裏切られたんだろ。このまま一人で逃げ続けるのか?」

「………そうするしかねぇだろ」

「ま、それが普通だよな」

 

 

魔剣を解除して平常の姿になった剣は近くの鉄柵に腰掛けた。何もしようとしないように見えるが、実際には違う。むしろクリスへのアクションを行おうとしていた。

 

 

「なぁ、クリス」

「あんだよ」

「お前も二課に来ないか。俺が何とか入れて貰えるように頼み込んでみる。政府の連中にとっては俺は装者以上にノイズに対抗できる存在だ。少しぐらい要求ぐらいは飲めるだろうしな」

 

 

あっさりと言うが、そう簡単にいくような話ではない。剣の存在は政府にすら開示されていない。彼がこの世界にいるのは不定期であるのが理由なのと、それを明かせば世界中は彼を奪うことに執着する恐れがあるからだ。

 

 

だからこそ、そのリスクは相当ある。

 

 

「…………正気か?」

「俺は至って本気だぞ。嘘や冗談の類いなんかじゃないさ」

「馬鹿にすんじゃねぇよ。よりによって大人達にあたしを引き渡すって魂胆か」

「お前の気持ち、よく分かる」

「ッ!大人なんかに頼ってるような奴がほざいてんじゃねぇ!あんな奴等を信用する奴の事なんて認められるか!」

 

 

やはり、彼女は大人が嫌いらしい。まぁ無理もないと考えた。戦争地帯で親を失い孤児になれば、どうやって生き残るかなんて限られる。

 

 

既に確信の域にまで至っている。間違いなく、雪音クリスはこの世の理不尽と不条理を味わっている。

 

 

「言っただろ。俺とお前は似てると。

 

 

 

俺も、初めはあの人達を信じてなかった。あの人達も同じだって決めつけた…………あの世界での連中と」

 

 

 

────他ならぬ、無空剣(自分)と同じように。

 

 

 

 

「俺は『不要児童(ノッドコール)』と呼ばれる子供だった」

「……、」

「色んな事情で育てることが出来なかった親が、闇市に売り払った子供の呼称さ。俺の親は、育てることが出来なくて諦めたらしい」

「恨まなかったのか、捨てられた事に」

「さぁ、どうだろうな。最早家族とすら思ってない。もし俺の前に出てきたとしても、ただ血の繋がっただけの人間だ。きっと俺の事を知らずに、幸せに暮らしてるのかもしれないけど…………他の人達とは違うのかは、よく分からないな」

 

 

彼が生きていた場所、世界はあまりにも理不尽だった。平然と命が奪われるような環境で必死に、何とか生き延びてきた。自分達が苦しんできた意味を知る為に、その答えを求める。

 

 

しかし、その先にあったのは願っていたものとは欠け離れていた。

 

 

 

「俺達を同じ人間として見ないで平然と実験に使う研究者達、化け物扱いして石を投げてくる奴等、俺達に気持ち悪い笑顔で媚を売ってくる連中───────俺はそんな奴等しか見てこなかったから、諦めると同時に恐れてた。あの人達も、同じように俺を見てくるんじゃないかって」

 

 

もしそうされたら、どうすればいいかと彼は警戒していた。そんな風にされるくらいなら、人との交流など断てば良かったのだが、剣には出来なかった。

 

 

────もしかしたら、と期待していた。あの人達なら自分を受け入れてくるのではないかと。この世界ならきっと、自分にとっての居場所が見つかるのではないか。

 

 

甘い理想だと当初は嗤っていた。そんな願いもどうせ無縁だ、信じるなんてくだらないものだ。

 

そう思い、疑い続けてきた。表面上で優しく笑うその姿には裏があって、結局予想していたものと同じなんだと。

 

 

 

「けどさ、俺が隠し事をしてるのにあの人達は気付いてたんだ。その上で、信じてるってさ。本当に頭が上がらないな、裏があるじゃないかって疑ってた自分の方が馬鹿だって思えるほど、あの大人達は純粋なんだ」

 

 

そう言い終えた所で呆れ返った。不幸自慢か何かだろうか、そんな風に薄暗い事情を語ってどうする?同情でも納得でもしてほしいのか? という、くだらない考えが頭に過ってくる。

 

 

自分でも分からない温さ、かつてなら絶対に有り得ない事だが、昔の話はもう気にしない。そう言うように、剣は既に割りきっている。

 

 

 

 

「なんで、そこまで───」

「同じ質問だな。前に答えは出したぞ」

「違う、違う!あたしが言いたいのはそういう事じゃない!」

 

 

叫ぶクリスを前にしても剣は顔色を変えない。或いは、変える必要すらないのか。

 

 

「あたしに構うのは分かってる!自分と似てる、同じようになるって理由だろ!?」

「俺自身がやりたかったというのも忘れるなよ」

「そんなの今は関係ないだろ!?重要なのは、そこまでしてあたしを救おうとする理由があるかって話だ!」

「そんなものはない。第一、救う人間と救わない人間を選定するみたいなもんだろ。そういう事を言い出すと」

 

 

 

誰かを助けるのに理由なんていらない、この言葉は綺麗事として扱われてきた。しかしそれは、何の苦しみを味わってすらいない人間が語るからこそだ。無空剣は、残酷な世界の中で生きてきた。それでも彼は、人を救う事に躊躇は悩みはしない。

 

 

使命や義務という形で生かされ続けてきた彼にとって、それだけが自分自身の意思でやろうと決意した事なのだから。

 

 

「あたしは、悪いことをしたんだぞ!?ノイズを呼び出したり、あの時もお前の仲間を傷つけたんだ!?」

「ならその責任も俺が一緒に背負ってやる。お前を迎え入れる義務としては当然だ」

「………お前の事も傷つけた!前も痛めつけた事を忘れてるわけないだろ!?」

「五分五分だな。俺も同じようにお前を攻撃した。むしろ、怒りに我を忘れて殺そうとした事も考えると俺の方がやり過ぎてたな」

 

 

 

今度こそ何も言えずに言葉を失うクリスに、剣は手を向けた。より正しくは、伸ばした。一人でいようとする少女に、

 

 

「一人ってのは寂しいぞ」

 

 

かつて自分がされたように、手を差し伸べる。暗い闇の中へ沈んでいた自分を助け出した光のような人物の真似事だと理解しながら。

 

 

 

「どうせなら賭けてみろ、この後の未来ってヤツに。過去なんてものは全て無視して────正直に決めればいい。俺はその答えを優先する、否定なんてせずに認める」

 

 

 

 

 

返答はなかった。

けれど、僅かな間の沈黙の後に剣は落ち着いたように息を吐いた。緊張が解けたような、そんな感じのものだ。

 

 

 

 

何故なら、自分の伸ばした手が確かに繋がっていたからだ。届くかどうかも分からなかった、けれどそんなものを気に掛ける必要すらない。何度だって差し伸べる覚悟でいたから。

 

 

 

まさか、すぐに受け入れられるとは思ってもいなかったが。

 

 

 

「……勘違いすんなよ」

 

そう呟いたクリス。黙って見つめ返す剣に、彼女は僅かな警戒を抱きながら、

 

 

「あたしはお前を信じた、あたしを助けてくれて、そこまで言うお前を信じただけだ。二課の奴等は信じない、もし裏切られたら、あたしはあいつらを本気で殺すかもしれないぞ」

「もしそうだったら俺は止めない。好きにすればいいさ………………そんな事は有り得ないと思うけどな」

「へっ、なら勝手にさせてもらうぜ」

 

 

軽口を言って応えるクリスの態度はどこかぎこちなかった。他人からの好意に応えるのが慣れないのだろう。無理もない、自分もそうだったからこそ、少しずつ慣れていくしかない。

 

 

 

(全く、俺も変わったな。他人に手を差し伸べる事なんて昔は有り得なかったから、これも響やお前の影響なのかもしれないな────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだろ?“相棒(タクト)”)

 

 

それは──────かつて孤独で闇に堕ちようとしていた自分を救い出してくれた大切な友の一人。

 

 

その名は、虹宮タクト。

 

 

 

 

()()()()()()の事を思い、青年はこれからの未来を密かに願った。今度こそは、このまま上手くいくようにと、ただ願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、彼は知らない。

 

 

 

 

 

過去は、魔剣士という負の技術を生み出した悪意は彼を決して逃がさない。それどころか、無空剣という青年の大切なもの────願いまでも蝕もうとしていることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういやだけど」

「ん?」

「あたしってどうすりゃあいい?もう夕方だが、このまま二課に行くべきか?」

「……………んん?」

 

 

 

結果、普通にホテルに泊まることにした。一緒の部屋にするかと聞いたが、真っ赤な顔で憤慨しながら断られた。




原作よりクリスが仲間になるのが早い件について。


これについては謝罪を。なんか駆け足気味で進んでますがそこは申し訳ないです。


剣さんのご親友の一人の正体が明かされました。これかも詳しく出てくるのでそこに関してはしばしお待ちをお願いします!
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