戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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陽の光、その影で

櫻井了子は裏切り者、剣がその事実に気付いたのはある程度の憶測からだ。その一つ一つを、順々に説明していく必要があるだろう。

 

一つとして、彼女は二課のメンバーの中で聖遺物やシンフォギアへの知識や技術に優れている。櫻井理論というものは剣もこの世界に来てから知り、自分の知る研究者に近い印象を懐くこともあった。

 

 

これだけなら疑う理由にはならない、だがここである少女─────雪音クリスの存在が関係してくる。

 

 

クリスはシンフォギア《イチイバル》を纏う事が出来る。しかし、ただの少女がそんな事を出来るだろうか?よりによって、数年前に紛失したとされる二課ですら見つけられなかった代物を。

 

 

例外はあるだろう。

シンフォギアシステムを生み出した人間なら、たった一人でギアを纏わせるようにする事など容易いだろう。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「…………それが、君が了子君を裏切り者と断定する理由だと?」

「他にもある。広木防衛大臣の殺害についてだ」

 

 

怪訝そうに聞いてきた弦十郎に、剣はそう告げる。彼の言葉に全員が首をかしげた。櫻井了子が裏切り者であるという事実の裏付けに、何故何日か前に殺された大臣が関係してるのかと。

 

 

そんな彼等の前で、剣は黙って話を聞こうとしていた二人に声をかけた。

 

 

「響、翼。二人に聞いてみたい。何故広木防衛大臣は殺されたと思う?」

 

 

 

「………二課の後ろ楯を排除しようと思ったんじゃないの?その上でデュランダルを回収しようとしたと思うけど」

「私も、そうだと思います!」

 

 

二人の答えに剣は首を振って、否定を示す。更に難しく考える彼女達に、自分の答えを提示する。

 

 

「広木防衛大臣が殺された理由はある事が関係している─────それは、今行われている二課の本部防衛システムの強化だ」

 

 

それを聞いていた二課の大人達、弦十郎と緒川がハッと顔を上げた。どうやら彼の言いたいことに気付いたのだろう。

 

 

「広木防衛大臣は防衛システム強化に反対している派閥、その筆頭だ。普通なら可笑しいとは思わないか?何故わざわざ反対している人間を殺す必要がある?相手はデュランダルを手に入れたがっているのに。何の意図が敵の本拠地の守りを固める?」

「………あれ?」

 

 

普通に考えればおかしいだろう。

それならば殺す事なんてしなければいい。放置しておけば、責め込む手間なんてものは掛からない。

 

 

「さて、質問だ。そもそも、強化システムを発案したのは一体誰だ?」

「……………そうか、そういうことか」

「あぁ。奴にとって重要なのはここ、二課の本部だ。強化案もその為に重要な手段だろうよ」

 

 

前々から、その違和感はあった。

この施設に来た際、何らかのエネルギーの流れを感じていた。きっとそれが櫻井了子、フィーネの仕組んだものだろう。

 

 

 

その話を聞いていたクリスがふと提案する。

 

 

「なら、その強化ってのを中止させりゃあ良いじゃねぇか」

「そう都合良くいかないものです。多額の資金が掛けられた案です、もし止めようとすれば私達は解雇される事でしょう」

「完璧な布陣だな。敵には相当優れた戦力がある、それを用いて俺達を排除すれば後は完璧という訳か」

 

 

フィーネという敵の存在とその目的を伝えるべきかと考えたが、すぐに無駄だと決めつけた。異端技術、聖遺物に関して情報を伝えられているのは政府の一部に限られている。もし一部が納得したとしても、何も知らない政府の多くが大きく反対するかもしれない。

 

 

 

「…………ならば俺達は事が起きるまで待つしかないという訳か」

「幸い、奴は強化を終えるまで行動を起こすとは思えない。今は動きが出るまで備えておくしかないな」

 

 

だが、幸いな事に自分達は相手が何かを行うことにいち早く気付けた。これは本当に安堵すべき事だ。相手の狙いが少しだけでも読めれば対策も何とか出来る。

 

 

 

 

 

「あ、そう言えば」

 

 

響が思い出したように剣に声をかける。怪訝そうに眉をひそめ、その話を聞く。

 

 

「剣さんに聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」

「?俺にか?」

「実は先日、魔剣士(ロストギアス)と名乗る人に遭遇したんです」

 

 

ざわっ! とざわめくのを感じた。

それは剣も同じだ、両目を見開き言葉を失っている。彼の方が驚きは大きいだろう。自分と同じ魔剣士が、この世界に来ていたとは思えなかったから。

 

 

「………それは本当か?翼」

「間違いありません、叔父様。私も一度だけ相対しましたが、あれは私よりも格上の相手です」

 

 

彼等の話を他所に、剣はこめかみを押さえる。そして考え方を改めるようにする。

 

 

(…………またか、アルビオンに続いて。今度は何が来たかと思えば、俺の同僚かよ)

「そいつは自分を何て名乗ってた?新世代じゃないなら大体の奴は分かる」

 

 

だからこそ、だった。

 

 

 

 

「──────虹宮タクトって名乗っていました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………、は?」

 

 

剣は、自分の耳を疑った。何を聞かされたのか、彼自身が呆気に取られたように。だが、冷静な部分がその情報を受け入れてしまう。

 

 

 

 

 

「ふっ………」

 

 

思わず、笑う。

手袋の片手で顔を覆い、彼は小刻みに肩を震わせる。何だそれはと、面白おかしく大声で笑い飛ばそうとした。

 

 

 

「───────ッッッ!!!」

 

 

だができなかった。できるはずがなかった。

彼にとって、虹宮タクトは親友であり相棒だ。そしてある戦場で死んでしまった存在、死者へと区分されるべきものだ。

 

 

それが何故、生きてこの世界に現れた?

 

 

 

突然俯いた彼の様子に、響は不安そうになる。それは他の皆も同じでクリスも「………剣?」と声をかけるが、彼は反応すらしない。

 

 

 

 

しかしその直後、扉の開く音があった。

同じく心配そうにしていた弦十郎が振り替えると、黒服の一人が寄りかかっていた。

 

 

目に見えて今にも倒れそうでありながら、何とか意識を保とうとしている。

 

 

「………大変、です……司令」

「どうした!何があった!?」

 

 

駆け寄ると同時に黒服は床に倒れ込んだ。周囲の仲間達に治療の用意をするように言った弦十郎は、黒服の途切れ途切れの声を聞いた。

 

 

「本部に、侵入者が……!五分前に侵入、先程出ていきました………」

「何!?警備はどうした!?」

「全員、気絶させられています………警報システムもハッキングされたのか、完全に無効化されてしまい、連絡が届きませんでした…………だから、こうして来るしか」

 

 

その事実に、剣すら驚愕する。ここを襲い無傷で突破するなど普通に考えて有り得ない。それこそ、相当手慣れた実力者だろう。

 

 

しかし、黒服はそれでも気を失おうとしない。まだ伝えるべき事があるというように。

 

 

「それよりも………連れ拐われ、ました」

「何?」

「小日向、未来。………保護していた彼女が、何者かに拉致され………助けようとしましたが、申し訳ありません……ッ」

「そんなッ!?未来が!?」

 

 

顔色を変える響の前で、彼はようやく崩れ落ちた。気を失ったのを確認し、弦十郎は悔しそうに顔を歪める。

 

 

そんな彼等の様子などお構い無しに、剣は黒服の首に手を伸ばす。何かを掴むと、指に挟んでジッと目を細めた。

 

 

「────麻酔銃。弾はナノマシンか」

「何か分かるのか?」

「相手に傷一つ付けず、後遺症なく無力化させるものだ。弾も自然消失するから証拠は何一つ残らない。まさに犯行の痕跡すら残さない武装だ」

 

言ってる間に針のような弾丸は手の中から消えていく。分解されて自然に返っていくのだろう。剣は手を握り締め、噛み締める。

 

 

 

これもまた、こちらの世界の技術ではない。自分の知る世界での技術だ。

 

 

 

「ッ!クソォッ!!」

「剣くん!?待つんだ!!」

 

後ろから呼ぶ声を無視して、剣は二課から飛び出していた。他にも自分の名前を叫ぶ声があったが、彼は振り返らなかった。

 

 

 

彼は拒絶した、その現実を。今いる居場所から遠ざかりながら。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

『───なぁ、剣!起きてるか!?』

 

 

大きな声を叫ぶ青年が一人、寝転んだ青年の名を呼ぶ。金色のような茶髪をした青年、名を虹宮タクト。彼は笑みを浮かべながら、もう一人に呼び掛ける。

 

 

『起きてる、起きてるぞタクト。あとうるさい、少し黙れ』

 

対してもう一人の青年、無空剣は顔をしかめる。寝起きというよりも、大声を鬱陶しく感じてるところだろう。嫌がる様子がない事から、彼自身それを悪くないと感じてる伏が見える。

 

 

 

 

『ほら、寝てないで早く行こうぜ。あの集落に』

『………何を馬鹿なことを言ってる?』

『馬鹿とか言うなよな。あそこは被害が大きいからな、復興にはオレ達が手を貸すのは当然だろ?』

『そうじゃねぇよ』

 

 

笑いながら言うタクトに剣は不愉快そうに舌打ちをする。ベッドに寝転がり、達観したように吐き捨てた。

 

 

『お前、俺達がどんな扱いを受けたのか忘れたのか?』

『………もしかして、あの時の事か?』

『知ってたのかよ、なら尚更理解ができないな。お前のその元気さには』

 

 

少し前まで、剣は単独で行動していた。とある集落を軍隊が襲おうとしている事を知り、タクトが本拠地を叩き、剣が集落に侵略にしきたテロリスト達を殲滅したのだ。

 

 

その際、処刑されそうになっていた少女を助けた。全てのテロリストを排除して、少女を連れて家族の元に送ろうとした時だった。

 

 

 

突然額に何かが当たった。固い石ころだ。普通の人間なら怪我してもおかしくないが、彼は魔剣士だったから傷一つも付くことがなかった。

 

 

石を投げたのは、少年だった。一瞬で顔や背丈から、少女の兄だと判断できた。戸惑う剣の前で、少年は険しい顔でこう怒鳴った。

 

 

 

 

 

────妹に近寄るな!化け物!

 

 

 

そう叫ぶ少年の顔を見て、理解した。

少年の目に写る自分の姿が、どれだけ違って見えるのかを。

 

 

 

同じく硬直していた大人たちがようやく動く。その一人…………助けた少女とその少年の父親らしき人物が凄みのある顔で少年を怒鳴りつけた。剣は何も言うことなく、黙って彼等の元から立ち去った。

 

 

 

当然だろう。

テロリストとはいえ、同じ人間を容赦なく殺せる存在が人間と同列な訳がない。そもそも、石ころを投げられても傷すら付かない─────銃や砲撃でも死なないようなモノを、人間と呼べるのだろうか?

 

 

 

『あいつらは、俺達と違う。魔剣士と人間は同じじゃない。だからあの子供も石を投げて罵ったんだろ、化け物って』

『………………』

『俺達があいつらを守るのは分かる。だがどうして馴れ合う必要がある?論理的とかじゃない、感情論的に認めてないクセに仲良く出来るって思ってんのかよ。空想論か夢物語かっての』

 

 

これが昔の、彼の考え方だった。

救うものは救う。しかし心からではなく、あくまでも作業として。自分には力があるから誰かを救う、そう願ったものですらない、どちらかという何も感じずに行う。

 

 

この彼が響と出会っていたら、きっと彼は彼女を見下していただろう。幻想と現実の区別もつかない馬鹿、偽善なら勝手にやっておけ、と。

 

彼にとって、手を取り合うというのはそれほど滑稽な話だった。

 

 

『皆、ありがとうって言ってたぜ?嬉しそうに笑ってさ』

『…………』

『オレだって力があるから戦ってるんじゃないんだぜ。オレらが戦うことで救える人がいるならそれでいい。その人達が笑える未来があるなら、オレは満足だ。最も、ありがとうって言われたらスゲェー頑張れるぜ!』

 

 

 

彼は、特殊な生き方をしていた。

魔剣士(ロストギアス)でありながら力や権利に固執せず、ただ誰かを助けようと動く。

 

 

剣の知る魔剣士の一人は、彼を《自分が人間と認めてもらう為に良い奴気取ってる偽善者》と侮蔑していた。そいつを、剣は容赦なく叩き潰した。無空剣は、その彼の考え方を悪くは思っていなかったからだ。むしろ、ある意味では憧れすら抱いていた。

 

 

──自分に為せるか分からない道を進む、凄いヤツだと。

 

 

 

『またあの人達に会ってこいよ。お前に色々しちゃった子も、きっと謝りたがってるのかもよ?』

『………………どうせ、詭弁だろ』

『素直じゃねぇーなぁ』

 

 

ケラケラ、と楽しそうに笑う。

だが、剣は対称的に暗い雰囲気だった。ベッドに身を預けながら、彼は首だけをタクトに向ける。

 

 

『どうしてオレにそこまで期待する?こんなひねくれた善人でもない奴を』

 

 

どうして、相棒と呼んでくれるのか。どうして身限ろうとせずに、共にいてくれるのか。彼は気になった、その理由を。

 

 

タクトはそれを聞かれると首を傾げた。何処か悩ましそうに考え込むと、

 

 

『お前がオレ以上に優しいから、オレが心から憧れたから────それが理由にならねぇか?』

 

 

 

 

 

 

 

(同名だ、同じ名前を使ってるだけだ!あいつは、あいつはこの世界に来てる訳がない!この世界に来たのは俺と、『アルビオン』だけだ!あいつは絶対に────)

 

 

───俺の前で死んだ、だから生きてる訳がない。

 

 

 

 

 

 

 

『───タクト!しっかりしろタクトォ!』

 

燃える戦場の中で、倒れる親友の手を掴みながら剣は叫んでいた。敵はいない、彼が全てを破壊した。十を越える兵器諸とも、全て薙ぎ払った。

 

 

 

 

『…………ご、ぶっ』

 

親友は、苦しそうに血を吐き出した。剣はその血を顔に被りながらも、何とかしようと考える。けれど、無理だった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()以上、生きられる筈がない。

 

 

 

 

対戦艦貫通重装高射砲、通称『鋼の槍』。地球上の兵器の多くを貫くほどの威力を誇る砲撃。剣はそれを物ともしなかった、それどころか容赦なく破壊した。魔剣士の中で最高峰の実力だからこそ、可能な事だった。

 

 

 

しかし、タクトは───彼の親友は違った。近くにいた二人の兄弟を庇い、砲撃をその身に受けた。その結果がこれだ。身体の大半を、挙げ句には心臓すら失った。それでは魔剣士だろうと生きてることなど出来ない。

 

 

だからこそ、これからタクトが話すことは遺言だ。これから死ぬ人間が生者に遺す、最後の言葉。

 

 

 

『お前なら、やれる………俺達には無理だった、人並みの幸せってヤツを…………掴める、ぜ』

『た、たくと』

『相棒────諦めんなよ────────』

 

 

そう言って、彼は、親友は死んだ。力なく崩れ落ちて、瞳から光を喪失させて。

 

それでも、彼は笑っていた。心から、絶望するであろう剣に、心配するな、と伝えるように。

 

 

 

 

 

(─────タクト!何故だ!?お前が、あの時笑顔で、満足そうに終わったお前が─────何でだ!?何で生き返ってきたんだよ!?)

 

 

もう、泣きそうだった。

どんな苦痛や悲劇にも耐えてきた。でも、彼には耐えられないものがあった。二人の親友、彼が世界で一番心を許した少年少女。彼等の死に、剣は世界を呪い、壊してしまおうかと考えてすらいた。

 

 

そうしなかったのは、彼等が遺した言葉があったからだ。思い止まる事の出来る最後の軛があったからこそ、彼は何とか最後の琴線を踏みとどまる事が出来た。

 

 

 

だが、もしかしたらの前提が彼の心を歪ませる。最悪を予想して動く為に補強された知能が、知りたくもない可能性を提示してくる。

 

 

 

 

─────死んだ筈の親友は、一体何をされたのか。

 

 

 

 

「────クソが、クソがァああああああああああああああッッッ!!!!」

 

 

とにかく、叫ぶ。そんな事は意味がないと分かりながらも、そうするしかなかった。溜め込んでいたものを吐き出したいと、そうしなければ自分の抑え込んだものに押し潰されてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

跳んで、跳んで、跳び続けた時には、ある場所に着いていた。疲れによるものではなく、精神的な苦痛で発生した息切れを整えながら剣は周囲を見渡した。

 

 

 

(あの時の、工業地帯か)

 

デュランダル護送の際に、響が暴走した場所。自分が何とかして止めた事で被害は最小限だったが、万が一の事を案じて立ち入り禁止にされていたと聞いていてる。

 

 

 

「…………反応は、そこか」

 

近くの建物の影に目を向ける。光の当たらない場所に、人の姿が見えた。近づいていくと彼の顔は驚きに包まれた。

 

 

 

「─────お前は」

 

 

面識がない訳ではない。

少し前に、彼女とは会ったことがある。確かリディアン女子学院に通ってる女子生徒で、彼も少し話した事があった。

 

アスファルトの上で蹲っている少女に、剣は近寄る。浅い眠りらしく、すぅすぅと可愛らしい寝息が聞こえるが、あまり気にするつもりはない。

 

 

 

(眠らされてる………首筋の痕からして、麻酔銃か。しかしここまで浅い眠りをさせるなんて、普通の技術より優れた代物を持ち出したようだな)

 

思考に明け暮れていたが、すぐに我に返る。今は早く彼女を保護する必要がある。そう考えると剣は無線機に繋げ、連絡を行うことにした。

 

 

 

「剣だ、一般人の少女を保護した。響達に伝えて帰還させてくれ。俺も彼女を連れて帰る」

『─────』

「…………おい?」

 

 

無線は応答しなかった。通信が出来ない事を意味する雑音に眉をひそめる。

 

 

………こんな事は合っただろうか?二課は機密組織だ、他のものよりも整備は優れている。電波障害なんてものは特別な作戦中にあっていいはずがない。

 

 

それよりも、だ。

今は彼女を保護するのを優先し─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────調子はどうだい、無空剣」

 

 

 

 

 

信じられない声を聞いた。

それを、その声音を認知した剣は動けなくなった。喉の奥が干上がったと思ってしまう。自分自身を呼ぶその声に、聞き覚えがあったのだ。

 

 

 

苦痛と悲劇、それぞれの感覚と共に。忌々しい記憶の中に存在する声の一つだ。

 

 

(──────馬鹿な)

 

 

心臓の鼓動がおかしい。呼吸が激しくなり、肺が息苦しく感じる。ぶわっと冷や汗が滲み出て、歯を食い縛り歯軋りを大きく鳴らせる。

 

 

 

(有り得ない!【魔剣計画】が干渉してきたとか、死んだ筈のあいつが出てきたとか!到底信じられなかったが、これよりはマシだ!! こんな事は、絶対に有り得ない!!!)

 

 

彼にしては、大きく戸惑いを見せた。そして脳裏に浮かぶ最悪な予想を否定しようとする。何としても否定しようとして、必死に周囲を見渡した。そうすれば、ただの幻聴だと断定できるかもしれない。その可能性を求めていた。

 

 

 

 

だが、しかし。

 

 

 

 

「あぁ、そこの少女は眠って貰ってるよ。君を探し出す為の探知機代わりにしてみたが、成功だった。君は優秀だからね、人質の子の元に一番早く辿り着けると考えていたとも」

 

 

また声がする。

今度は、自分が助けた少女の事を口にしていた。望んでいた願いが消え去り、現実というものを叩きつけられた。彼の視線は、闇の奥へと向けられる。

 

 

 

 

 

 

暗闇の中から、人影が浮かび上がってきた。

 

 

 

清潔である事を証明するかのような白衣。それを軽く羽織るように、何らかの作業服みたいものの上に着込んでいる。

 

 

両手には手袋を纏っており、その姿からして連想させるのは科学者のそれだ。しかし顔半分を支配するのは素肌ではなく、メタリックの装甲だった。

 

 

………眼帯なのだろう。複雑な構造した機械のマスクらしきもので半分だけ顔を隠しているのは、何処か異様に見えるがまだ科学者と呼べる。

 

 

問題は、片方しかない素の瞳だ。アメジストのような輝きのある青い眼は、見た者をおぞましく感じさせる。神秘的だが、同じ人間とは到底似ていない。

 

 

 

 

その科学者を、剣は知っていた。忘れることなど、絶対に出来なかった。後悔と憎悪と共に、彼はその男の所業を胸に刻み込んだいたではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだね剣。会いたかったよ、私の最高傑作」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────────エリー、シャ」

 

 

 

科学者の、男の名は─────エリーシャ・レイグンエルド。彼を、とある少年を無空剣へと変え、彼が命を懸けて殺すと誓った復讐の標的だった。

 




早速トラウマ&復讐相手が登場。

前回で名前出たばっかなのに、登場早すぎませんかねぇ………(自虐)ま、まぁ存在だけでも前から出てから大丈夫ですよね。


ていうか、剣のメンタルが凄い危ない………。自分の嫌いな組織が追ってきたり、死んだ親友が生き返ってたり。挙げ句には、自分が一番殺したかった敵が目の前に現れるとか。本当に何でここまで追い込まれてんだよ……。


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