戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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深淵の一端/大人

「────ッ!」

 

 

黒い獣の群れが、一斉に動き出す。

群体性を利用した、物量による圧倒。しかも硬さを捨ててまで他者を傷つけるのに鋭利に特化させた全身が、凶器そのものへと様変わりする。

 

 

さしずめ、裂傷の津波。あの中に飲み込まれただけでどれだけ強固な鎧を纏っていたとしても、切り裂かれ続けるだろう。

 

 

 

 

「───!」

 

しかし、そんな怪物達の進軍を剣は認めない。勢いよく地面を踏み抜き、地盤を揺るがせ、周囲の建造物に影響を与えない程度に大地を変動させる。持ち上げられたコンクリートが壁となり、怪物達の進行を防ぐ壁となった。

 

 

それによって生じた瓦礫の崩落に巻き込まれた個体もいたらしく、金切り声のような悲鳴が響き渡る。

 

 

 

何時でも戦えるように身構えている響に、剣は声をかける。どちらかというと、これらかの戦いに向けたアドバイスをかけた。

 

 

「響!こいつは破損した場所から再生し続ける!粉々に粉砕するな!数を増やすだけだ!やるなら動きを止めるようにするか、生半可に二つに分けないようにしろ!」

「はい!なるべく粉々にしないように、ですね!」

「────来るぞ」

 

 

持ち上げられたコンクリートの地盤の壁から回り込むように、黒い獣達が飛び出してくる。そこで二人の姿を目にすると、高揚の悲鳴をあげながら襲いかかってくる。

 

 

 

「はぁぁあッ!!」

 

ドンッ!! と踏み込んだ響の拳が、一体の獣の腹を捉える。悲鳴をあげることも出来ずに吹き飛ばされた獣が後方の同族と衝突し、軍隊の歩みを崩していく。

 

 

しかし、そんな彼女の左右から黒い獣が哄笑らしき声と共に現れる。両方からの不意討ちに反応しようとする響に、鋭利な爪を伸ばして引き裂こうとした。

 

 

 

が、剣はそれを容赦なく叩き潰した。

自身の拳ではなく、背中に展開された『魔剣双翼(ガードラック)』の一対によって。体を串刺しにされた獣をそのまま突き立てながら、ガードラックは響を不意打ちで襲おうとする獣を、問答無用で排除する。

 

 

再生するなら少なくとも、八つ裂きなどにしないように倒していく。体を分断すればする程分裂してまで再生をし続ける怪物も、再生機能には制限があるらしい。

 

 

何度も攻撃し続けると、再生のスピードが遅くなっていた。再生しなくならない所から、修復機能は中々に優秀らしい。

 

 

数分くらい戦っていると、段々と機能している数が少なくなっていた。響も一緒に戦ってくれたのもあるだろうが、明らかにダウンしている敵の数が増えていく。

 

 

この調子ならやれる、そんな自信がついてきた。そう思っていると、いつの間にか拍手が聞こえてくる。

 

 

 

「頑張ってるようだね、君達。半永久的に再生を行う『果てなき深淵』相手に、こうも努力してるとは」

 

そう言ってくるエリーシャに剣は舌打ちをしかけた。何をする気だ、と言おうとする。こんな時に出てくる以上、絶対ロクな真似をしかしない。

 

その予想は、やはり最悪の形で当たった。

 

 

 

「私からのプレゼントだ。景気よく受け取りたまえ」

 

 

エリーシャは笑いながら、白衣から何かを引っ張り出す。取っ手に繋がった複数の球体が何個も出てくる。すぐさま彼は剣達の真上へと放り投げた。

 

 

 

「ッ!響!身構えろ────!」

 

 

目の色を変えた剣が叫ぶと、取っ手に蛇のように繋がっていた球体が一斉に弾け飛ぶ。それらが近くの壁や天井にぶつかり跳ねた直後。

 

 

 

 

 

 

爆発が生じた。それも一つではない。全ての球体が破裂し、周囲の至るところに衝撃が撒き散らされた。

 

 

 

「拡散式連結爆弾………ッ!あの野郎、あんなゲテモノ兵器を使うとはな!」

 

 

拡散式連結爆弾、様々な種類があるが、先程のものは『ペンドラー』と呼ばれている。屋内など、限れた範囲内でまとめて吹き飛ばす構造になっている。ワイヤーから飛び出したのも、周囲に破片を飛び散らせるように仕組まれた故だ。

 

 

 

 

「無事か?響」

「だ、大丈夫です!いや、少し痺れますけど………」

 

 

シンフォギアを纏ってた事もあり、響には大した傷はなかった。一瞬直撃した事での負傷を心配したが、どうやら予想以上にシンフォギアの耐久力が強かったらしい。

 

 

 

「────ふぅむ」

 

 

 

 

「傷一つ、ない。あれもシンフォギアとやらの防護機能かね。やはり対人程度は大したダメージにはならないか」

 

 

 

 

 

辺りには黒い結晶片────黒い獣を形作る物質が、散乱していた。エリーシャの放った『ペンドラー』による連鎖爆発に巻き込まれたらしく、粉々に砕けていた。

 

 

 

何より重要なのはそこではない。

散らばっていた結晶に禍々しい光が宿る。膨れ上がっていき、どんどんと数を増やしていく。少なくとも、先程の数の二倍は遥かに越えている。

 

 

 

「───貴様!」

「ハッハッハッ!理解してくれたか!あれだけの数じゃあ封殺されてしまうのも目に見えてるのでね!増援という奴だ、気にしないでくれ。………それじゃあ、私は安全な所で見学しておくことするから頑張ってくれたまえ」

 

 

軽く笑い、暗闇の奥へと消えていくエリーシャ。剣がその名を叫ぶが、返ってくる声はなかった。

 

 

代わりに完全に増えた『果てなき深淵』、その軍勢が勢いよく襲いかかってくる。先程よりも大きな、巨大な壁となって。

 

 

 

「剣、さんっ!」

「ッ! 分かってる!」

 

二人はまだ折れていない。どれだけ総力の差があっとしても、突破できる事を信じて身構える。

 

 

怪物の軍勢はそれを蛮勇と認識した。愚かと嘲笑い、憐れみの色の籠った咆哮をあげる。自分達は無限に増え続ける、どんなに小さな傷だろうとどんなに大きな傷だろうと、そこから再生して元に戻っていく。最早無意味に近い。

 

 

 

黒い獣は仲間達と共に進軍する。深淵と呼ぶに相応しい無限性を力につけて。巨大な真っ黒の津波となって、今度こそ二人を飲み込もうとした。

 

そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───Imyuteus amenohabakiri tron

 

 

───Killter Ichaival tron

 

 

奏でられた二つの歌と共に、複数の光が炸裂した。

光と形容したのは少し誇張し過ぎたかもしれない。だが光なき深淵の中では、それらは光と呼んでもいいのものだった。

 

 

飛来したのは、何本もの銀色の剣。そして、ミサイルや銃弾の嵐。侵攻を開始していた獣達の前列がそれだけで粉々に玉砕される。結晶全てを消し飛ばされ再生できずに消滅した個体も、剣によって串刺しにされて身動きの出来ない個体もいる。

 

 

 

それらの光景に、二人は思わず声をあげる。覚えがあった。さっきのような攻撃が出来る人間を、彼等は知っているからだ。

 

 

「無事か無空!立花!」

「翼さん!」

「………それにクリスも、来てくれたか」

 

 

シンフォギアを纏った翼とクリスの姿を見て剣は心から安堵したように息を吐く。彼女達がここに来た理由など単純だ、戦いの反応を目指してきたに過ぎない。

 

 

ったく、と呆れたような目を向けていたクリスはすぐさま顔色を変える。正確には、剣の片腕に巻き付けられた包帯。少しだけ滲んできていた赤の色を見て。

 

 

「お、おい!?大丈夫なのかよ!その腕の傷!」

「平気だ。戦いに支障はない………それに、無理のないように戦うだけだ」

「………お前なぁ」

「それよりも。奴等に集中しろ」

 

 

ブチィッ、という音が聞こえた。

何かを引きちぎるような音だ。その音の源は、すぐに見当がついた。

 

 

翼が作り出した刀剣によって、串刺しにされた獣。奴等の一体が、自分の体を傷つけていた。自身の首をもいでそこら辺に放り投げると、首の部位から結晶が増長していく。

 

 

『──!──!』

「…………自壊させたという事か。奴等には理性があるのか?」

「大したことない。敵を見掛けると襲いかかる、自分が再生できる事ぐらいしか思いつかない筈だ。そうだとしたら、もっと賢いやり方で来る」

 

 

他の個体も、串刺しにされて仲間の元へと移動し、その体を崩していく。そうやって数を増やし、どんどんと失われた軍勢の数に戻していく。いや、もっとそれより上になるように。

 

 

 

 

「───しゃらくせぇ!ならまとめて再生出来ねぇように吹き飛ばしてやるッ!!」

 

 

 

―――MEGA DETH PARTY !!

 

 

 

歌を奏でるクリスの腰部アーマーから、無数の小型ミサイルが一斉に放たれる。連鎖的な爆発を前に獣達は回避を行おうとするが、無駄に終わってしまった。

 

 

直撃し、獣達の動きが停止した途端。

軍勢の動きも一斉に止まった。カチカチと、顔のない口が小刻みに鳴るだけで。

 

 

 

『──ギ、が』

「本当に追い込まれてる!?クリスちゃん凄い!!」

「待てよ馬鹿!様子がおかしい事くらい気付け!」

 

 

黒い獣達が大きく震え出す。身動きもせず、ただただ硬直して。そして一瞬にして、結晶の体が崩れ落ちた。結合が緩み、結晶の塊へと戻っていく…………だけではない。

 

 

 

黒い結晶は他の結晶と融合しながら、一つに集まっていく。それを止めようと翼が動く直前に、剣が片手で制した。驚いて見返してくる翼に、彼は何も言うことはなかった。

 

 

 

 

『果てなき深淵』。

そう呼ばれていた『何か』が、姿を現す。そう確信したからこそ、剣は静止を選んだのだ。コアとなるものが剥き出しになるのなら、それを止める理由はないと。

 

 

 

 

 

 

 

出てきたのは──────一本の剣だった。

真っ黒な刀身の刃。見るだけでも禍々しい。漆黒の鋭利なフォルムだが、何処か異質な感覚がある。その原因となるものは、響達もすぐに理解できた。

 

 

 

あまりにも、不完全なのだ。剣と言ってもその体積の多くが欠けており、折れそうな不完全さを持っている。最早武器の部類ではない、古い時代の遺産に相応しいだろう。

 

 

 

 

だが、彼は…………無空剣だけは違った。

 

 

「────────────そうか」

 

茫然としたような調子で、呟く。

見るとその顔には様々な感情が滲み出していた。それをどう受け取ったか少女達によって違った。

 

 

翼は驚嘆と。クリスは悲痛と。響は────噛み締めるような後悔と、何とか受け入れるような納得。

 

 

 

「『お前達』、だったのか。『果てなき深淵』の正体は」

 

無空剣は、その剣を知っていた。彼にとって、その剣を見た時に感じたのはどんな感情なのか分からない。他の人間には当然だとしても、たとえ本人だろうと。

 

 

彼が何を見たのか、それは形だけではない。最奥にあるものを、無空剣は簡単に理解できた。否、それは彼にしか出来ないだろう。

 

 

 

「……なんだ?もしかしてあれを知ってるのかよ?」

「あぁ、あの剣は忘れない。それと正確には、あいつらだ」

「…………………あいつら?」

 

 

思えば、前々から剣はその可能性を脳裏に抱いていた。エリーシャは死んだ親友を改造して敵対させようとする程悪質な男だ。なら、そういうこともするだろう。

 

 

無空剣に対抗する為の武装。余程の自信で、エリーシャがそう呼んだもの、『果てなき深淵』の根底にあるものを、酷く冷静な様子で剣は看破した。

 

 

 

 

「『果てなき深淵』、その正体は魔剣グラムのレプリカ。そしてそのコアとなってるのは、かつての俺の同胞────『魔剣士』に選ばれずに死んでいった皆の死骸、その残滓だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフフ、よく戦っているなぁ。『果てなき深淵』の最終段階を相手に」

 

 

上階へと移動したエリーシャは、真下で行われている剣達の戦闘を観察していた。五メートル以上もある高さから覗き込んで落下しないかと思うが、心配ないらしい。

 

 

 

(フェルステーオール。人間の細胞の修復機能を再現した人工物質。同じ物質と結合させることで結晶化する。私のあれは、それを活性化させたものに過ぎない。余分として残っていた『残骸』を使った結果、あんなものが出来るとはね)

 

 

フフ、と笑みを溢してエリーシャは首を振った。今はあの性質など、気にすることない。どうでもいい課題だ。

 

目にするべきものを目にしない事に意味などあるか。今ある、素晴らしい事象を前に。

 

 

 

「アメノハバキリ、イチイバル。あれもシンフォギアと呼ばれる兵装の一種。それが、この場に三つも揃っているとは───これは奇跡に近い!記録機器を用意してなかった事が実に悔やまれる!」

 

 

彼にとって、シンフォギアとは未知のものだった。魔剣士とは似てるが、少し…………いや、ある部位が明確に違う。それが何なのかエリーシャには理解できないが、時間を掛ければ分かるだろうし、気にすることはない。

 

 

ただ、彼は歓喜した。この世界は、自分達より科学文明が遅れてると思ったいた。それを知った時はどれだけ落胆しただろうか。

 

 

しかし、それを上回る程の非科学的文明が発展してると気付いた時は、呆然とした。素晴らしいと、未知に触れられる事に心の底から喜んだ。

 

 

 

 

だがしかし、懸念すべきこともある。

 

 

 

 

 

 

 

「個人的に一番不可解なのは…………あの黄色の少女が纏うシンフォギア、『ガングニール』だったかな?」

 

 

ギョロリ、と機械に埋め込まれた義眼が光景を確実に捉える。立花響(名前など知らないが、今はあまり覚える必要のない)の纏うシンフォギア、それに関する謎が、エリーシャを歓喜と驚嘆の海から引き上げた。

 

 

謎が出た以上、解き明かす必要がある。科学者であるなら尚更だ。

 

 

「ガングニールという聖遺物、それは私も記憶内には存在しない。ならば、あれは概念の変質した原型というものか?………………待て、ガングニール?」

 

 

 

ガングニールという聖遺物は知らないが、もしかしたら他の名称なのではないか? 伝説的な聖剣 エクスカリバーも、地域ではエクスキャリバーやエクスカリボールなど呼ばれているのだから、それも有り得るだろう。

 

 

ならば、ガングニールはなんだ?ガングニール、ガングニール、ガングニル…………………グングニル?

 

 

 

 

違和感というものが、明確な形の答えとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────まさか、あれは主神の槍(グングニル)なのか!?」

 

 

瞠目して、思わず仰け反ってしまう。

アメノハバキリ、イチイバル。それらも無視できないものだが、エリーシャにはどうでもよかった。

 

 

ただ、自分が編み出した計算式───その再奥に位置する結果に、頭の中の計画が一瞬で吹き飛ぶ。

 

 

それ程の高揚が彼を、エリーシャを襲った。

 

 

 

「ああ、何て事だ!!私すら想像できんぞ!あの、『北欧の隻神の槍』を完全に纏わせるとは!我々【魔剣計画】を持ってしても制御下に置けなかったあの『聖遺物(デュアルウェポン)』を、あんな少女が纏えるようになっているとは!! あぁ、資料や研究結果は!? あれを生み出した全ての知識を知りたい、理解したい!! いや訂正しよう、そんなもの不要だッ!あれを自力で解析することに、真価がある!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それにしてもこれは何の因果だ!?最強の魔剣グラムを宿した無空剣に、北欧の神の槍を宿す少女とは!!運命というものがあるならば、この奇跡に感謝するッ!!この私をこの場に立ち会わせた事にッッ!!!」

 

 

ガングニール、又の名をグングニル。そしてグラム。それらは北欧神話に存在する武器。それも最強格と呼ばれる聖遺物、それを宿した少女に────グラムを宿した青年がこの世界で初めて遭遇したと聞けば、エリーシャは『奇跡だ』と、どれ程狂喜するだろうか。

 

 

 

 

科学者は奇跡なぞを信じない。そんなものを頼りにしていては研究など成り立たないからだ。だがエリーシャは彼は奇跡という未知の法則を信じてる。有り得ないと除外しては研究など意味がない、その奇跡を枠組みに入れて調べるからこそ──────意味というものがある。

 

 

 

だから、エリーシャは考えていた。

『奇跡』を実現させようと。人には実現不可能とされた神秘の領域を、自らの手で成功させよう。それを行うことで、自分はこの世の最果てたる真理を理解できるのだ。

 

 

その為なら、どんな事も厭わない。多くの子供の身体を切り開き、魔剣を埋め込んだのもその一端に過ぎない。まだやれる。真理を解明出来るなら躊躇なんてものはしない。

 

 

例えそれで死んだ人間を兵器に作り替えるような事になったとしても────世界に在中するとされている七十億人の総人口を、殺し尽くす事になったとしても。

 

そんなもの、あの時の感覚に比べれば────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────あー、無駄だよ、お嬢さん」

 

 

未だ高揚が抜けきらない声でエリーシャは呼び掛ける。息を飲むような声が聞こえた、それも自分の真横にある階段の奥から。エリーシャは首を向けようとせずにクスリと笑う。その義眼が怪しく光った途端、

 

 

 

 

彼が纏う白衣の背中膨れ上がると同時に、爆ぜた。

中から飛び出してきたのは、金属のアームだ。勢いよく伸びると声のした方の壁へと突っ込み、問答無用で破壊した。

 

 

「きゃああああっ!!?」

 

 

吹き飛んだ瓦礫と共に女性の悲鳴が聞こえる。ふぅむ、とエリーシャは不思議そうに首を傾げた。一撃で仕留めたかと思ったが、どうやら予想より回避行動を取るのが早かったらしい。

 

 

気にすることでもないか、と小さく笑うエリーシャの背中には何本ものアームが伸びていた。鋼鉄盤のような装甲の鉤爪、機関銃が搭載されたアーム、掴む為のものと思われる指のあるアーム、そして背後に伸びた脚のようなアーム。

 

 

それぞれが二本ずつ。合計八本のアームが背中から生えた姿は、蜘蛛のような造形を連想させる。

 

 

「駆動鎧の一種だよ。私はとても用心深くてね、こういう風な装備をしてなくちゃ安心も出来ないのさ」

 

 

自慢するような言葉だった。

彼自身、そういう性分だったのだろう。それを見て驚く少女の顔を見て、満足そうに笑う。

 

 

 

「言っておくが、君一人にどうか出来る範疇ではないよ。それでも聞こう─────何故、わざわざ私に近づいたのだね?狙われてる以上、無意味だとは分かるが」

 

 

理由を聞いたが、彼自身あまり興味はなかった。聞いておこうと思ったのは、個人的な見解知りたかったからだ。

 

 

 

「響やあの人や、皆が戦ってる………」

 

 

なるほど、と呟いた。

彼女が自分に近づいたのは、『果てなき深淵』を止めたかったのだろう。その制御装置を持っていると思ったからこそ、何とか奪おうとしたのだろう。

 

 

命の危機があるというのに、そこまでさせた理由は何か。

 

 

 

「私も!あの人達の力に、なりたい………っ!」

「そうか。なら君の死体で彼女達を激情させて見よう。シンフォギアというものが、感情によってどう変化するか。それを観察する結果としては悪くないかもね」

 

 

カシャン、と指のある二本のアームを動かした。その内の一本を大きく持ち上げて、指を開かせる。掌から鋭く尖った槍を放出し、倒れ込んでいる未来へと狙いを定めて─────解き放つ。

 

 

ドゴシャァッ!! という爆音が響き渡る。伸びたアームが、容赦なくアスファルトを破壊したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………?」

 

そこで違和感に気付いた。アームは確実に叩きつけられた。なのに手応えがない。避けたとは思えない、あの少女はそこまでの動きが出来るとは思えなかった。

 

 

 

 

 

「何とか、間に合いましたね」

 

 

真後ろから、そう言う声が聞こえた。

ハッ! と顔色を変えてエリーシャが振り返ると、小日向未来を抱えていたスーツの男性がいた。

 

 

いつの間にと言葉を失う彼を他所に、男性は未来を安全な場所に連れていく。おおよそ戦闘のない場所へと避難させていたかと思えば、瞬時に目の前に立っていた。

 

 

 

「…………今の動きは?常人には出来るものとは思えないが、シンフォギアでもない……………なんだそれは」

「強いて言うなら、近代忍法ですよ」

「…………忍法?」

 

 

怪訝そうにするエリーシャにスーツの男性────緒川は拳銃を引き抜くと、エリーシャへと向けた。チラリと真下に目を向けながら、彼は告げる。

 

 

「下のあれを操ってるのは貴方ですか?」

「そうだと答えたらどうする?」

「────少なくとも、それを止めてもらう必要があります」

 

 

眉をひそめて、緒川を睨みつけるエリーシャ。八本のアームの全てを彼に向ける。微塵も油断することなく、何時でも殺せるような構えを取りながら。

 

 

「たった一人で私を相手取ると?シンフォギアやロストギアならいざ知らず、それは少しばかり自惚れが過ぎるなぁ」

「えぇ、勿論理解しています」

 

 

断言された事にエリーシャは固まる。けれど、そんな彼を無視して緒川は的確に事実を告げる。

 

 

「だからこそ、僕はあの人と来たんです。貴方の対処に」

 

 

何?と聞き返してからすぐに。

 

 

ドォォンッ!! という轟音を伴い、壁が吹き飛ばされた。遠からずそれを視認したエリーシャの義眼がギョロリと砂塵に集中する。

 

 

(ッ!もう一人か!だが、もう一人いた所で何になる!?)

 

 

先程のスーツの男よりも、大柄な男。同時に、何らかの未知の技術を感じられなかった。それがエリーシャの自信を加速させた。故に、彼は動き出す。

 

 

 

───この男をまずは先に排除しよう。

 

全てを指を開き、アームを男へと叩きつけようとする。それに気付いた男が身構える動作を取る。それが殴り飛ばそうとする動きだと理解した時、失笑が漏れそうだった。

 

 

 

(無駄だ!このアームは鋼鉄を潰す程の握力を有してる!誰が来ようと薙ぎ払える力はあるのだよ!無防備な人間なら屠れる程はね!)

 

 

勝利を確信した。

相手が先程の男性のように特殊な技能があっとしても、使い慣れたからこそ確信する武装の一撃に耐えきれるとは思えない。

 

 

だからこそ、エリーシャが予想したのは目の前の男の末路だ。粉々に粉砕されるか、全身の骨が砕けるか。どのようになるかだけを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、男は─────風鳴弦十郎は死ななかった。何故だか一瞬、エリーシャは分からなかった。理解できたのは、目の前にパーツや部品が散らばっていたのだ。

 

 

 

 

 

────相手の拳を受けた自身のアームが破壊された。そう気付いた時には、手遅れだった。少なくとも、今になって思考が遅れているエリーシャには。

 

 

 

「────馬鹿、なッ!?」

 

 

絶句するエリーシャに、弦十郎はもう片方の拳を握り締める。この隙にアームを動かして攻撃する事も出来たが、動転した故にすぐさま後退を選んでしまう。

 

 

 

 

 

 

直後、自分のいた場所に鉄拳が叩き込まれる。アスファルトが粉々に砕ける光景に彼は喉を干上がらせながら、大きく距離を取る。自分が取った回避が英断だと理解したエリーシャは起き上がる。異常なものを見る目で、弦十郎を睨み付ける。

 

余裕など微塵にもない様子で、警戒しながら。

 

 

 

「なんだ、それは………?私の、駆動鎧の一撃を防ぐなど…………生身の人間には、不可能な筈っ」

「────ノイズでなければ、俺達大人だって戦えるさ」

 

 

ゆっくりと、弦十郎は歩みを進める。我に返ったエリーシャはすぐさま攻撃を行おうとするが、その前に止まった事ですぐさま止める。

 

 

「今、真下で彼等が戦ってる。本来俺達が守るべき子供達が、だ」

「?」

「だからこそ、貴様のような大人は俺達が相手するべきだろう。本来守るべき子供を傷つけて、それを見下ろして滑稽だと嘲笑う相手にはな」

 

 

それだけ言うと、弦十郎は顔を険しくする。本格的な戦いに赴く武人そのもののオーラと共に構えを取る。慌ててエリーシャは義眼を動かし、把握させる。

 

 

自身が信じる機械による解析の結果、それが拳法の構えだと出てきたのを初めて目を疑った。駆動鎧相手に、素手で挑むなど有り得るのか? と。

 

 

 

「俺達が来たからには、もう好き勝手はさせん!!少なくとも、二人を巻き込んだ分は叩きのめすっ!!」

 

 

エリーシャは知らない。

彼等、二課が子供達を率先して戦わせるような人間ではないということを。何より、剣達を心から思えるほどの優しい大人だということを。

 

 

助ける事もせず、ただ平然と眺め続けてきたエリーシャは知らない。いや、知る機会があったとしても、彼は絶対に認めないのだろう。




………片方の勝負決着のお知らせ。
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