戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

21 / 65
………ダメだ、ダメだ。上手く書けてる自信がしねぇ!


─────前からずっとこういう事言い続けてる気がする。どんだけメンタル弱いんだ自分。


決戦前夜

「─────はぁぁッ!!」

 

 

全速力で突貫してきた響が拳を打ち込む。普通の人間が振るえるとは思えない一撃受けるその相手は、無空剣。シンフォギアと同系統であるロストギアを纏った彼は響に放つストレートを難なく受け止めて見せた。

 

 

「まだまだぁ!」

「───ふ!」

 

 

一歩退く剣に追撃を行おうとする響。腰を低くして放たれる拳を、剣は身体をコマのように回転させる事で回避する。更にその遠心力を利用した形で彼女の横から蹴りを叩き込んだ。

 

 

ドガァンッ!! と、最早砲撃と取れる爆音が生じる。何とか片腕を身構えて防いでいた響は、それに大きく吹き飛ばされる。それでも壁に叩きつけられる事なく、踏ん張ったのは彼女の努力の賜物だろう。

 

 

 

「うっ、くぅ!!」

「────後退だ!立花!」

 

 

横からの声に、響は力を緩める。

剣は顔色を変える事なく、タンッ……! と僅かに跳ね、その場から数歩だけ距離を置く。

 

 

 

その場所を、刃が切り裂いた。

途中から剣へと斬りかかった翼は、剣に見極められた事に悔しそうな顔を浮かべる。しかしすぐさま動くと、後退した剣へと接敵していく。

 

 

刀剣を振るう翼、対称的に剣は籠手のみ。

見た目で不利なのは明確だが、実際に不利なのは───得物を有している翼の方だった。

 

背を向ける事なく、剣は高速移動を行っている。何度も何度も地面を蹴るように翼の剣戟を避けきっていく。その眼、片方を除く単眼は忙しなく蠢き、翼の剣の軌道を的確に見切っているのだ。

 

 

機械の性能、そう言ってしまえば終わりだろう。しかし彼はただ機械を使ってるだけではない。戦闘に特化した人間兵器、『魔剣士(ロストギアス)』の中でも最高峰である彼は、どんな戦闘にも適応できるのだ。

 

 

「やはり通じないか………ならばっ!!」

 

 

今度の翼の動きは勢いがあった。しかし後先を考えてないような突貫としたものだ。何があった? と観察しながら、剣は鋭い突きや一閃を両腕の装甲で防いでいく。

 

 

先程よりも派手な斬撃。しかし明らかにその一撃一撃に先程よりも強い力が込められている。このままでは不味いと判断した剣はすぐさま距離を取ろうと翼が大きく構え放ってきた一閃を回避して、後退しようとする。

 

 

「ち─────ッ!?」

 

 

 

 

そこで、動きがピタリと停止した。

自身の力ではない。何らかの力が作用していると瞬時に看破する。目線を足元に向けると、自身の影───そこにあるのは、小さな短刀だった。

 

 

 

影が固定された、そう思える異変を理解するのは遅くなかった。

 

 

 

(これは───!?影縫いってヤツか!?)

 

 

前から話で聞いていた。二課の一員であり翼のマネージャーである緒川は忍法という日本特有の技術のエキスパートだと。

 

忍法の中でも『影縫い』とか言う、相手の動きを止める技があるのもその時に聞いた。そして翼も、緒川からある程度教授されているとかも。

 

 

翼が、瞬時に形成した短刀を投げてきたのだろう。先程の勢いある連撃も、それを最善に行えるように誘うためのものか。

 

そして、作られた隙を逃さないように、翼は刀剣を構えて突っ込んできた。

 

 

 

「ッ!侮るなッ!!」

 

 

動けない最中、剣は鋭い叫びを喉の奥から放った。その直後、彼の身体の装甲がガシャンッ!と展開される。その中にあるのは複数の装置。

 

 

それを目にした翼は追撃する事なく、後ろへと飛び退く。それは正解だったのかもしれない。胸元や肩、脚部から剥き出しになった装置は一斉に輝くと、

 

 

 

 

 

 

──────ッ!!! と。

 

凄まじい高音を響かせる。

視認する事も出来ない高音波が影を射止められた剣の全身を包み込む。たった数十センチの範囲で覆われた半透明な圧力は自身の影に刺さった短剣を弾き飛ばす。

 

 

 

 

「…………拘束への対処はしている。だが、こういうのは初めてで驚いたな」

「それでも、簡単に引き剥がすとは………私も未熟、緒川さんのようにいかないか」

「いや、さっきのでも十分だろう────さ!」

 

 

刀剣を構える翼を前に剣は脚に力を入れて跳躍する。バネのような勢いで一瞬でその場から姿を消した。

 

 

 

しかし、剣と翼が接的する事はなかった。それも当然、彼が跳んだのは翼のいる前方ではなく、後方。敢えて距離を取るようなやり方を選んだのだ。

 

 

翼の数メートル前、剣が前へと進んでいたら到達していたであろう場所に複数の爆炎が炸裂した。それらが飛んできたミサイルだというのはすぐに分かる。空中でそれを見届け、離れた場所に着地した剣はミサイルを放った相手を視界に捉える。

 

 

 

「くそ!やっぱり簡単に避けられちまうか!」

「まだだ雪音!弾幕ならば無空の動きも制限される!当たらなくても良いから頼むぞ!」

 

 

重火器に換装される魔弓イチイバルを纏うクリス。先程のミサイルも彼女からの遠距離砲撃。翼からの呼び声に応えるように、クリスは全ての武器を展開して乱射し、撃ち放っていく。

 

 

近接特化、戦闘経験深い翼と相手しながらの、遠距離からの攻撃は普通に考えても厳しいだろう。しかもシンフォギアだ。どんな兵器も通用しない耐久力のある剣も直撃すればダメージを免れない。

 

 

だが、しかし。

 

 

 

 

「───本当にそうか?」

 

冷えきった声で、無空剣はそう問う。今もなおクリスが飛ばしてきた無数のミサイルに晒されている現状の中、大声でもない落ち着いた言葉が何故か彼女達の耳に入ってきた。身体に組み込まれた機械の機能の一つか、そんなものはどうでも良かった。

 

 

 

────事実、無空剣は爆炎の中を突破してきた。ただぶち抜いてきた訳ではない。背中に展開された二枚の羽を思わせる刃、『魔剣双翼(ガードラック)』を交差させ、盾のように前に構えている。自分に被弾する弾幕を防ぎながら、並々ならぬスピードでミサイルの雨を何とか抜け出したのだ。

 

 

 

「はぁ!?んな使い方があんのかよっ!?」

 

 

目を見開くクリスはミサイルを放つ手を止める。無空剣が大分距離を近づけていた。ミサイルや爆発物を使うには、相手から離れていた方が効果的である。それは高威力故に相手に反撃の隙を与えないというものある。

 

 

だが、難点としては────敵に近づかれると、簡単には使えない点にある。無理もない。至近距離で使えば自分を巻き込む可能性もある。何より『魔剣士』、無空剣相手にそんな事をしても、煙幕の中に隠れて不意を突かれる可能性を増やすだけになる。

 

 

急いで機関銃を向けようと、照準を構える。が、剣は急に動きを変えた。直進するような形から、急ブレーキしてスピードを緩めることなく曲がったのだ。

 

勿論、比喩などではない。

文字通り、床を蹴り飛ばして軌道を普通とは思えない方へと修正した。そんな事は生身の人間が鍛えた所で出来はしない。肉体を機械と同化させたサイボーグに近い存在だからこそ、為し得られる所行だろう。

 

 

 

構えて撃つ前からの回避行動だが、クリスは狙いなど気にする素振りすら見せずに機関銃を乱射していく。しかし彼女を中心とした円を描くような走り方で剣は銃弾の雨を抜けていく。

 

 

そして、その最中で────スピードを殺すことなく、跳躍する。今度は後退する事なく、前へと突き進む。冷たい単眼が捉えているのは、一瞬の出来事に此方を見失っているクリスだった。

 

 

まずは遠距離を潰す。普通の戦い方では上等とも言える戦術だ。

 

 

無論、それを許さないのも普通だ。戦い馴れている人間なら当然。

 

 

 

「させないっ!!」

「そうやるのは、最初から分かっていた!」

 

割り込むように歌を奏でながら、刀剣を振り下ろそうとする翼。そんな彼女の攻撃に対しても、剣は平坦と対処していく。

 

 

軌道を変え、動きを予想し得るものから別のものへと変換する。それはクリスを狙おうとしてた動きから、乱入してきた翼への迎撃体勢へと切り替わっていた。

 

 

グルグルッ! と、スケートのスピンのように高速回転をする剣は両腕の装甲を大きく構え、翼の一振を弾き飛ばす。普段なら弾き返され仰け反るなど有り得ないだろうが、相手は『魔剣士』という尋常なき人間兵器だ。更に追加として下から上への回転により、彼女に大きな隙を与える形になってしまった。

 

 

「────!」

 

当然ながら、そんな隙をわざわざ見逃す剣ではない。右手を握り締め、拳を打ち込む構えを取る。殺すつもりは無いにしろ、この戦いには参戦できないように軽めの威力の一撃を放とうとする。

 

 

 

 

その瞬間。

義眼である片眼が急接近してくる反応を捉える。続いて、腹の奥から吼えるような叫び声が聞こえた。

 

 

 

「─────てぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!!」

「ッ!響か!」

 

振り返ると、いつの間にか復帰していた響がそこにいた。突然来た彼女に、剣は翼への追撃を中断させ防御を取ろうとするが────、

 

 

 

 

 

響の放った鋭い一撃が、無空剣へと直撃する。鋼を揺らすであろう強固な一撃が、だ。

 

 

「─────」

 

しかし、彼は応える事はなかった。胴体の前に出された片手がアームドギアを纏う響の拳を受け止めていた。やはりダメージはあるらしく、彼女の一撃を防いだ腕は小さく震えている。

 

 

ふぅ、と息を吐くと、彼はすぐに響から手を離す。そして自分と相手していた三人に軽く声をかける。

 

 

「…………よし、模擬戦はこれで終わりだ。三人とも、休憩をしてくれ」

「………分かった、そうするとしよう」

 

 

それを聞き、少女達もギアを解除する。剣も漆黒の鎧を四散させ、彼女達に続くように休憩室へと移動する。

 

 

予め用意されていたタオルで汗を拭う響達。剣は汗一つかく様子もなく、壁に寄りかかってスナックバーらしきものを囓っていた。

 

 

「ふはぁーっ、全然歯が立たなかったー!」

「立花の言う通りね。三人で挑んでもこれが限界、不甲斐ないわ」

「だが、これも経験になったのも事実だ。あまり悲観的にならないでくれ」

 

 

心から思い悩むような二人に、剣は軽く気配りをする剣。食んでいた菓子らしき物を食べ終え、その袋をゴミ箱へと捨てている。更にポケットからゼリーを取り出し、飴のように口へと放り込む。

 

 

「それで?どうなんだよ」

「ん?」

「虹宮タクト、フィーネの最後の味方だ。そいつにあたしらは勝てると思うか?」

「…………今のままなら、大丈夫だろう。そもそも、俺が加わる時点でタクトへの心配ない」

 

 

虹宮タクト。

元々は二課の一員であった櫻井了子────彼女の正体と言うべきものか、最近のノイズ騒動の元凶と思われる人物 フィーネに付き従う『魔剣士(ロストギアス)』の青年だった。

 

 

かつては無空剣の親友の一人として、彼を導き───無意味な復讐に走らぬように支えてくれた、心優しき青年だ。

 

数ヵ月も前、彼がこの世界に訪れる前に死んでしまった。その遺体を回収した、憎むべき【魔剣計画】は親友を─────心無き、正真正銘兵器として生き返らせた。

 

目的は分からない。だが、在り方を形成するであろう記憶を消してるのに人格を残してる事から、悪趣味な事しか考えられない。

 

 

話が脱線したが、タクトはフィーネの配下として今後二課や周囲の街を襲う事だろう。その場合、剣だけが相手していては意味がない。剣が封殺されてしまえばタクトに抵抗できなくなってしまう、そういう心配もあり、剣は今回の訓練を三人に行うことにしたのだ。

 

 

 

だが、と区切りを付け、剣は話を続けていく。その顔は至って真剣だった。自分の親友を倒す───最悪殺すことを視野に入れながら、冷静に語る。

 

 

「その事実はフィーネも承知な筈だ。ただ一人で戦わせるとは思えない。何より………」

「あの大型兵器 『アルビオン』。あれが現存という事ね」

 

 

思い浮かべるのは、純白の装甲した大型兵器。大きさからして六メートル。球体のような丸みを帯びた小型潜水艦に巨腕と細脚を取って付けたような見た目。しかしその破壊力と性能はシンフォギア装者すらにも届く程の域にまで到達している。

 

 

タクトと同様、懸念すべき敵であるのは間違いない。

 

 

「………クリスちゃん、何か分からないの? 動かしてたのはクリスちゃんだったから。弱点とかコアとか」

「いや、あたしは知らねぇよ。フィーネに渡されたのは確かだけど、あたしにゃ何にも教えてくんなかった。自動で動くから気にすることないって」

 

 

疑問が生じる。

【魔剣計画】は何故フィーネに『アルビオン』、そしてタクトを与えたのか。科学というものの発展と恐ろしさを現実に浮かび上がらせたあの()()()()()、それを与えるなんて、正気だとは思えない。

 

 

────性能を試したかっただけというのも有り得ないだろう。考えられるとすれば一つ、

 

 

 

 

(………俺の力を引き出す気か?だが、タクトはともかく、何故『アルビオン』なんだ?他にも魔剣士を用意すればいいだろうに。何らかの共通点、俺を倒す要素があるとは思えないが………)

 

 

そう考えて、すぐに止めることにした。

こうやって思考に至るのは癖になってきている。自分は戦うだけの兵器ではない、これからは普通に日常を謳歌しても良いのだ。

 

 

 

 

「あ、響、訓練終わったの?」

「うん!もう終わった所だよ!」

 

 

入ってきた小日向未来を、剣は片目で観察していた。エリーシャに連れ拐われていた一般人の少女。何より立花響の心の支えになっていた、普通の女の子だ。

 

 

剣としては、彼女に心配や不安などではなく、自分の事へ巻き込んでしまった罪悪感の方が強かった。先日、その事への謝罪をしたが、彼女は快く受け入れてくれた。

 

 

(響を支えている訳だ。やはり芯の強い、良い子であるのは確かだな)

 

ゼリーの容器を片手で潰し、箱の中に捨てる剣。そのまま部屋から出ることなく、静かに壁に寄りかかっている。全員が動いてから自分も行動しようと考えていた。

 

 

 

すると、何事かを話していた響が声を出してきた。

 

 

 

「剣さん!翼さんとクリスちゃん!実はこれから未来と一緒にご飯食べに行くんですけど、一緒にどうですかー!」

「お昼?私は構わないわ、今後の用事は無い訳だからね」

「なんだなんだ? もう昼飯か? 少し早すぎねぇか?」

 

 

どうやら、昼食の誘いのようだ。

元気そうな響に、翼は年長者のように大人びた様子で返答をし、クリスは何処か呆れたように響を見つめる。しかし首を横に振る様子が見られない事から、二人は同じくOKという意味なのだろう。

 

 

そして、最後に残るのは剣だが………、

 

 

 

 

「いや、俺はいい。食事は既に終えた後だしな」

「……え?」

 

 

と、冷静に答える剣に響は疑問を浮かべる。それは未来も、端から聞いていた翼もクリスも同じだった。全員からの不思議そうな視線が剣から別のものへと移る。

 

 

不要なものが沢山詰まっているゴミ箱。その上部にある菓子の袋らしきものとゼリーの容器。全て剣が食していたもののゴミだ。

 

 

…………よくよく見てみると、菓子だと思っていたものは全く別種の物だった。袋にあった文字は『カロリーメイト』、と短く記されてる。

 

 

 

言葉を失う少女達。

彼はこれを食事と言って、自然と済ませていた。つまり、()()()()()()()。こういう風に食事を軽く終わらせる事が。

 

 

ということは、つまり。

 

 

 

「剣さん、もしかして今までずっと………?」

「それは違うぞ、小日向未来」

 

 

断言する剣に、未来は………後ろで聞いていた響達は心から安堵する。まさか数ヵ月もの間、カロリーメイトとゼリー、飲み物だけで生活してきた訳ではあるまい。

 

 

そう思っていた彼女達は次の言葉を全く予想できなかった。何故ならそうだとは思わえなかったからだ。

 

 

「先日は栄養ドリンクとゼリーだ。流石に同じやつばかりじゃなくて、別々の味に変えてるさ」

「………だ、だけですか?」

「? 何を言う? これくらい問題ないだろう。そもそも栄養には何の不足はないぞ」

 

 

全員が全員、言葉を失ってしまう。

もしこの事実が本当なら、無空剣はどんな料理を食べた事がないのかもしれない。よくよく考えると、彼は戦争でも勝てるような兵器として改良されている。なら、食事や栄養などにも何らかの複雑な仕組みがあるのだろう。

 

 

 

「…………」

 

そこで、言われた本人である未来は笑顔である。それでいて、声を全然震わせることなく平静だった。

 

 

「剣さんも行きましょう?とっっっっっっっても美味しいお店ですから、きっと喜んでくれると思いますから。遠慮しないでください」

「だがな、この後は自由時間として武装のメンテナンスをしようと──────ッ!!? ……………なるほど分かったすぐに行こう」

 

 

 

やはり不服な剣だったが、静かに振り返ってきた未来の顔を見た途端、急に態度を変えた。何処か顔を青ざめさせ、小刻みに震えているのも分かる。

 

 

 

少女が向けたのは、やはり笑顔だった。満面な、心から笑ってるように見える。普通に笑ってる、感の悪い人間や一般人ならそう思うのが普通だろう。だがこの場にいる面々────主に無空剣は、気負されてしまう。ていうか、普通に怯えている。

 

 

背筋が凍りそうなほどの笑み。だが凄まじい殺気を纏っていた訳ではない、むしろそれらとは無縁に見える笑顔だ。それでも純粋に恐怖を抱いてしまうのは、彼等が洗練された結果故にか。

 

 

 

どんな相手にも怖じ気を抱くことなく戦う事を専念された魔剣士は、一人の少女の圧力に屈した。彼は素直に思う。この笑顔を見れば自分以外の魔剣士も大人しくなるかもしれない、と。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

そうして、全員で昼食をいただく事になった。次なる問題はどの店を選ぶのかという話だが、響や未来はあまり問題ない様子だった。行きつけのお店を知ってるらしい。

 

 

 

「この店か…………“ふらわー”? なんだ、花屋か?」

 

 

悩ましそうに剣が店を見て怪訝そうになった。“ふらわー”という店名をそのままの意味で受け取っている青年に、未来はクスリと小さく笑う。

 

 

「違いますよ。ここは私と響のいつも通ってるお好み焼き屋です」

「「?」」

 

 

二人程、剣に次いでクリスも首を傾げていた。二人は互いの顔を見合い、

 

 

「お好み焼き……んだそりゃ?」

「さぁ?調べてみたが、どうやら料理の一つらしい。実物を見てみない以上、どういうものかは判断しかねるが」

 

 

そう言って更に不思議そうに思っている剣とクリス。そこで響はある事が気になったらしい。

 

 

「剣さんって日本人じゃないですか?名前からしてそうだと思ってましたけど」

「さぁな、名付け親であるエリーシャ曰く俺は日本で確保したらしいからな。だからこの名前になったのも理由の一つらしい」

 

 

見た目や髪色からしてクリスは外国人に近い印象がある。雪音という名字は日本人の父親のものだというもの、前の話で分かっていた。

 

しかし、剣もクリスと似た銀髪だ。その顔立ちは日本人か外国人とは一見分からないが、名前から日本出身だと響は考えていた。だからこそ、日本の料理である「お好み焼き」を知らない剣が不思議だったのだろう。

 

 

そこで、更に思うことがあった。

剣が自分の出生に対しても適当だったという事だ。家族とはどのような関係を送っているのだろうか? と。

 

 

「…………食事をするんだろ?店前で話してるのも野暮だ、さっさと店に入ろう」

 

 

そう急かすと響も考え事を止めてすぐに着いてきてくれた。先頭して入っていく響と未来の後から、剣は翼達と一緒に着いていく。

 

 

「いらっしゃ────あら、響ちゃんに未来ちゃん。今日は二人じゃないの?」

「はい!今日は色んな人にも来て貰ったんですよ!おばちゃんのお好み焼きを皆で食べようと思って!」

 

 

笑顔で受け答えする響に、この店の店員(一瞬店主(マスター)と言いそうになった)であるおばちゃんも嬉しそうに喜び、剣達は五人ぐらいが座れる座席に案内された。

 

 

その後メニューで何を頼むか考えていたが、剣は普通のお好み焼きにする事にした。理由としてはお好み焼き自体が初めてなので、どんな味なのかを知りたいという気持ちがあった。

 

 

 

 

そして少し経って、注文したお好み焼きが届けられてきた。作り立てというのがよく分かるような、熱そうな感じでだ。

 

 

 

「──────」

 

 

一瞬、面食らって固まっていた。情報や画像で見たことがあったが、実物として見ると想像以上の料理だった。初めて食べる栄養食品以外の料理。唖然というよりも、感動。テレビや写真で見ていたものと実際の秘境の景色の違いに似ている。

 

 

箱の中に並べられている箸を二本ほど取り出し、適当にお好み焼きを分解する。一口サイズほどに分けた後にその一つを口に入れた。

 

 

何度か噛み締め、ゴクリと飲み込む。数秒もの間沈黙していた剣はお好み焼きを見下ろして呟く。

 

 

 

 

「……………美味しいな」

 

驚愕したように、剣はそう漏らす。初めて食べる料理、簡素なものではなく、人が心を込めて作ったであろうものは、自然と美味しく感じられた。

 

 

もう一度食べようと箸を進めていると、いつの間にか皿の上は綺麗に無くなっていた。食べきってしまったと気付くと、剣は更にもう一回お好み焼きを頼むことにした。

 

 

横をチラリと見ると、箸の使い方に悪戦苦闘するクリスに響や未来があれやこれやと教えていた。途中ドヤ顔で自慢する翼にクリスが一言言って掴み合いになりかけていたが、剣は思うところがあった。

 

それは、あまり悪い感情ではない。寧ろその逆だ。

 

 

 

 

(───懐かしいな)

 

 

かつての、仲間達との生活を思い出す。過酷な環境であったが、それでも悪くない生き方でもあった。それを思い出してしまったのは、今ある光景を“楽しいもの”と捉えられたからだろう。

 

 

こんな風に楽しくする事など駄目かもしれない。フィーネやタクトという脅威が実在している以上、気を緩めているなど許されないのかもしれない。

 

 

 

だが今は、今だけはこの瞬間を満足に受け止めよう。剣はそう思い、暗い思考を閉ざすことにした。代わりに楽しそうに談笑する少女達を眺め、密かに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

ノイズの出現も全くなく日が過ぎていった。二課本部のシステム強化が終わった後も、変化は起きることはなかった。

 

 

 

 

 

とある日────敵の狙いである日を除いては。

 

 

 

「マスター。予定通り、今日だろ?計画の遂行は」

 

 

虹宮タクトはリディアン音楽学院の前に立っていた。口笛すら吹きかねない程の上機嫌な声音でタクトは耳元に押し当てた携帯に問いかける。

 

 

『えぇ、そうね。そろそろ潮時よ、当初の目的通り仕掛けなさい。物的被害は勿論、人的被害は問わないから、無空剣と装者達を足止めしておきなさい』

「了解りょーかい…………ついでだけど、本部はマスターが制圧して、「カ・ディンギル」を起動させるから、オレが守ってくって感じでおけすか?」

『そのつもりよ。心配する必要はないわ、此方にはネフシュタンの鎧にソロモンの杖があるの。人間相手に遅れは取らない。タクト、不覚は取らないようにしなさい』

「安心してくれよ。オレにも切り札の一つはあるし、まぁ勝てなくても少なくとも体力は削っといてやるからさ。後はマスターでも何とか出来るように」

 

 

携帯電話の通話を切り、タクトはもう一度校舎へと目を向ける。パチン! と指を鳴し、背中へと手を伸ばす。リュックサックのように背中に装着させていた鋼の塊。飛び出したように存在してある束を掴み、一本の剣を取り出す。

 

 

 

その剣を持ち上げ、空へと掲げる。自然と光を帯び始める刀身。機械の腕から伝わっていくエネルギーを剣へと充填し、タクトは気軽な声で告げた。

 

 

 

 

「─────さぁ、始めっか」

 

 

直後、一条の閃光が剣先から解き放たれた。天空へと至った途中で膨らんだ光は雨のように分裂して─────リディアン音楽学院を貫く。爆炎と悲鳴、それが周囲の空間を支配した。一瞬で膨れ上がり、広がっていく深紅の光景をタクトは平然と見つめる。

 

 

 

 

マスターからの指示は受けた。暴れろ、と。それによる被害は気にする必要はないと。

 

 

ならば、存分に暴れてやろう。タクトは何の感慨もなく、そう考えていた。

 

 

例えるとしよう。思考内に選択肢が複数ある。これが普通の人間である事だ。しかし、タクトは何故か選択肢が限られていた。

 

 

邪魔をする人間がいる、ならば殺す。殺すべき対象を庇う子供がいる、ならば子供も殺す。殺された人間の仇として他の人間に現れた、邪魔だから殺す。

 

 

他の選択肢があるのは事実だ。しかし彼にはその他の選択肢を選ぶことが出来ない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだが、彼はあまり気にしていないのだろう。

 

 

何故なら、人を殺す事への躊躇が存在しないから。人としてあるべき性質を、完全に奪われているのだから。

 

 

 

「少なくとも、敵性の殲滅は確実。マスターの計画の邪魔になる因子は全てオレが排除する。手始めにリディアンの生徒を殲滅し、舞台を掃除する所から始めてやるぜ」

 

 

 

かつては人を救う事に、助けられる事に喜びを抱いていた青年。しかし今の彼は多くの人間を躊躇なく殺戮兵器でしかない。心優しかった時の記憶(メモリー)は、悪意ある者達に消去されてしまっている。

 

 

 

 

誰も望まない悲劇が、記憶を喪失した兵器によって引き起こされる。




剣「栄養食品だから栄養は問題ない」


とか言って1ヶ月ぐらい栄養食品やゼリーばっか食ってきた主人公。魔剣士としての機能でそれだけでも普通に動けるようになってます………よくぶっ倒れなかったなって我ながら思う。


因みに次回は原作と異なって最初からリディアン襲撃です。襲撃するのはノイズではなくタクト一人だけです。


…………やっぱり駆け足過ぎるか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。