戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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唐突ですけど、爆死って最悪ですよね(真顔)


『強化外装』

リディアン内にあるエレベーター。

地下にある二課本部へと通ずるそこに、小日向未来と彼女と合流していた緒川が逃げ込んでいた。その付近には沢山のノイズだった灰が残っており、誰かが居た痕跡があったが、周囲に人は見られない。

 

 

 

そしてすぐさま地下へと降りていた所で、新たな脅威に襲われた。ノイズではなく、ある意味では厄介な存在。

 

 

 

 

「────どうやらタクトも暴れているようだな。あまり大きな被害を出すとは思えんが………」

 

 

緒川の首元を掴み、軽々しく持ち上げるフィーネ。高速で進んでいたエレベーターの天井をぶち破り参入した彼女は黄金のネフシュタンの鎧を纏っていた。

 

 

彼女の目的は、エレベーターシャフトの保護。二課本部内部に厳重保管されている完全聖遺物を自分の手に確保することにあった。タクトを向かわせることなく自分で動いたのは、彼が無空剣とシンフォギア装者の足止めに徹することが理由だった。

 

 

本部についた直後、緒川はフィーネの手から離れて抵抗を示した。何発もの銃弾をしつこく撃ち込んでくるが、フィーネに傷一つつかない。今の彼女は完全聖遺物との融合を果たしている。再生し続ける力を手にしたフィーネは難なく緒川を倒し、その場から離れようとした。

 

 

 

「………っ!」

 

 

そんな無防備なフィーネに未来は後ろから体当たりをした。効くとは思っていない。それでも、抵抗しない訳にはいかなかったのだ。

 

 

興味など抱かずにいた相手からの攻撃にフィーネは鬱陶しそうだった。しかし小さく笑うと、彼女に意識を向け始める。

 

 

「麗しいな………そうやったとしても、奴等が勝てる訳でもないのに。無駄な足掻きをする」

 

 

未来も、フィーネの言うことは分かっている。

戦う力のない自分にはどうしようもない、と。あの場に居たとしても、この場に居る状況下でも、小日向未来には誰かを守れる力はないと。

 

 

 

「それでも!私は諦めない!諦めたくない!皆が、自分の命を懸けて頑張ってるんだから!私も信じて戦いたい!」

 

 

そう叫ぶ未来に、フィーネは大きく顔を歪めた。その顔に浮かび上がるのは激しい怒り。激昂しそうな勢いで彼女は未来に平手打ちをしようとする。

 

 

 

 

 

 

しかし、その直後。

フィーネの真横から爆発が生じた。何らかの爆発物が炸裂したのだろう。が、あまり大きな爆発ではない、現に爆風や衝撃は近くにいる未来には届かないのだから。

 

 

 

思わず目を伏せてしまう未来だったが、すぐ近くから呆れたような声が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『────やれやれ、何故最近の子は何故こうも無茶をするのか。まぁ、あの響クンの親友なら当然かもしれないが』

 

そこで彼女はあることに気付いた。いつの間にか自分がエレベーターから、怒りの顔をしていたフィーネから離れている事に。そして、自分の体が少しだけ浮いてる事に。

 

 

 

 

小型のドローンのような機械があった。しかしその姿はドローンというよりもマスコット染みた造形をしている。二つのレンズに横直線にある溝が、顔のように見えるのは、意図的なものか。

 

丸いとは言い難い小さな胴体の下から出した二本の仕込み腕で未来の肩を軽く掴んでおり、浮いていたのはそれに持ち上げられてたからだ。

 

 

ゆっくりと下ろされ、腰をついてしまう未来にドローンが声を発する。

 

 

『無事かね、小日向クン。………いや、無事ではないか。すまないね、遅れてしまい』

「え、何!?ドローン!?」

『………ドローンか、まぁ似たようなモノだ。だが一般的に出てきている物よりは優秀だとは思っているんだがね』

 

 

そのまま思い悩んでしまいそうな男性の声に、未来は聞き覚えがあった。声は何度も聞いていたが、本人とは会ったことがない。

 

 

無空剣と言う青年の保護者を名乗る人物。そして、この世界ではない別世界の住人。

 

 

「ノワールさん……ですか?その機械は一体………」

『私の自信作さ。「ユニオン-A1」と呼んでくれたまえ。この世界に来れない私の代わりさ。マスコット代わりに愛でてくれても構わんよ?』

 

 

そう声を発する小型ドローン────『ユニオン-A1』は未来の前に移動した。そして、目の前で煙を払ったフィーネが殺気を纏わせて睨み付ける。

 

 

「ノワール・スターフォン、貴様が出てくるか。しかし………その機械は、この世界で調達したものか?」

『正解だとも、流石はシンフォギアシステムの創設者。君の頭脳も伊達ではないね。これは風鳴司令や二課の皆に頼んで造って貰ったものさ。設計図を渡したのも前だから昨日完成したばかりだが、やはり上手く動けるようだ』

「…………小賢しい事だ。この場に出ることも出来ない癖に、策謀だけは優れているようだな」

『お互い様じゃないか。それに、自分勝手な怒りのあまりに子供に手を出すような誰かと私は違うとは思っているよ。言葉にしないが、誰かとはね』

「………………貴様」

『おや、怒るのか。さっきから思っていたが、君は意外に沸点が低いのだな』

 

 

挑発を吐く『ユニオン-A1』、ノワールに、フィーネの殺気が膨れ上がる。だが小日向未来の時のように暴発しないのは、指摘されていたからこそだろう。

 

 

それでも手を出そうとはせず、目の前にふわふわ浮かんでいる目障りな機械に対して嘲笑を向ける。

 

 

「だが、そんな物でどうする?この私を止められてるとでも?シンフォギアでもロストギアでもない、小型の機械如きで」

『無論、思っていないさ』

 

 

即答にフィーネが怪訝そうになる。

だが声の主であるノワールは答えることはない。代わりというように『ユニオン-A1』が仕込みアームを上へと向けた。

 

 

自分が知っているであろう誰かの居場所を伝えるように。

 

 

 

 

『しかし、君を止めるのは私だけではない。もう一人、素晴らしき協力者がいるのだから』

 

 

 

 

ドォォォォォォン!! と、天井が崩れ落ちた。

『ユニオン-A1』ではない、それが行ったのはただ指し示しただけ。何よりその機体には二課の壁をぶち抜く程の高火力を用いる事など不可能だ。

 

 

粉塵が舞い上がる中、そこから姿を現したのは風鳴弦十郎だった。何の武器を用いる様子もなく、彼は静かにフィーネを強い眼光で睨み付けていた。

 

 

 

「久しいな、了子君」

「………まだ私をその名で呼ぶか」

 

 

目を細め、そう吐き捨てるフィーネ。

裏切られた筈のなのに、彼女を櫻井了子として接する弦十郎に『ユニオン-A1』こと、ノワールが横に移動して囁きかける。

 

 

 

『風鳴司令、フィーネの纏うネフシュタンの鎧はクリスクンの時のような状態とは違う。おそらく肉体との融合を行ってると思われる。再生能力も通常とは比較にならない、何なら剣君相手にもやり合えるかもしれん』

「難しい事はいい、言いたいことは?」

『ノイズ以上の脅威であるのは確かだ。相手するからに勝率はあるのかね?』

「思いつきを数字で語れるかよッ!!」

『───ふむ、それもそうか』

 

 

その言葉を聞いて小さく笑った弦十郎は、フィーネを相手に構えを取る。チラリと隣に目を配るが、小型ドローンは軽くアームを振るう。

 

 

心配するなとでも言うように。

 

 

『援護はしよう。全力で殴り飛ばして来るといい』

「あぁ!────全ての話は君を倒した後で聞かせて貰うぞ了子君ッ!!」

 

 

怪訝そうになるフィーネだったが、身構えていた弦十郎の姿がその場から消えた。

 

 

いや、消えたのではない、自分の目の前にまで迫っていた。彼女ですら自身の目を疑う。何か特別な力を使ったわけでもなく、ただ此方へと突っ込んできただけなど、どうやって初見で理解できるだろうか。

 

 

思わず絶句してしまうフィーネ。咄嗟に肩の装甲から伸びる鞭へと手を伸ばすが、そんなチャンスを彼が許す訳がない。

 

 

 

───容赦の無い一撃が、叩き込まれる。

下手をすれば装者達すら一撃で沈め、ロストギアを纏う無空剣でさえ大ダメージを負うことは間違いないであろう拳が、腹にめり込む。

 

 

 

「ぐ────がっ!?」

 

比喩抜きで、鋼を砕きかねない一撃に呼吸が難しくなる。凄まじい威力によって彼女は吹き飛ばされ、激突した壁が大きく砕けた。

 

 

立ち上がろうとして、フィーネは瞠目する。ネフシュタンの鎧、完全聖遺物にヒビが入っていることに。すぐにそれは再生されるが、問題はそこではない。

 

 

ギアを纏わない人間がこれを成した、その事実が問題なのだ。

 

 

 

「ば、馬鹿な………完全聖遺物を、圧倒するだとっ!?なんだ、その力は!」

 

 

異常なものを見るような目を向けるフィーネ。そんな彼女の言葉に弦十郎は答えた。

 

 

当たり前の事だと言わんばかりの顔で。大声を轟かせ、教えてやることにする。

 

 

 

「知らいでかッ!飯食って映画見て寝る!男の鍛練はそれで充分よッ!!」

 

 

 

 

────いや、それは司令だけに限られると思うがね。

 

端から聞いていた『ユニオン-A1』、もといノワールはそう心の奥で呟いた。普通に鍛えただけで完全聖遺物を凌駕する肉体など手に入るなど有り得ないと思っていたが、そういえば彼の特訓で(剣の手助けもあったが)響も並外れた戦闘力を得ていた事を思い出した。この時だけはフィーネに同情するノワールだった。

 

 

しかし、ただ殴られるだけのフィーネではなかった。両側の壁を鞭で破壊し、突っ込んでくる弦十郎の前に瓦礫を飛ばす。それら全てを素手で叩き落とすという有り得ない所業を行う弦十郎だったが、その間にフィーネは距離を取っていた。

 

 

 

「その肉、削ぎ落としてくれるッ!!」

 

 

忌々しそうに叫び、両腕を振るう。厳密には肩の鎧から伸びる鞭を。近付く前に仕留めるというように、鋭利な鎖を打ちつけんとする。

 

遠距離でなら、どうにかなると考えたのだろう。

 

 

 

 

『悪いが、そうはいかんね』

 

 

割り込むように飛び出してきた『ユニオン-A1』。気安い声を告げ、胴体から仕込み腕を展開する。しかし先程のようなアームではない、腕の先にあるのはピンク色に光る刃だった。それはネフシュタンの鞭、蕀のように棘を生やした武装と同色だった。

 

 

フィーネがそれに気付いた時には襲い。

ネフシュタンの鞭と『ユニオン-A1』の振るう刃がぶつかり合うと同時に、それぞれの武器が弾け飛ぶ。

 

 

ぶつかり合った部位に大きなヒビが入り、砕けたのを見てフィーネは声を荒らげる。その現象は、彼女だからこそ見覚えがあった。

 

 

 

「完全聖遺物同士の………対消失ッ!」

『ふむ、成功という訳か。君の鎧に対抗する武装としては有効だね。聖遺物に博識な君でも思いもよらなかったな?』

 

 

自分の武装が消失と言うのに、『ユニオン-A1』は戸惑う様子すら見せなかった。人間のような動きでアームを動かし、考えるような素振りを取る。

 

 

あの刃、ピンク色のブレードはネフシュタンのものだ。しかしフィーネの纏うネフシュタンは今ここにある。普通に考えて、彼等にそれを手にするチャンスは存在しなかった筈だが──────

 

 

 

『二課本部内に保管されていたネフシュタンの鎧の欠片さ。かつて剣クンの体内に食い込んでたものを、秘密裏に回収させていたのさ。そして今、君の為に使っている。無論、再生力が売りのネフシュタンだ。刃は何回も使えるぞ?』

 

 

そう言い、他の仕込み腕を一斉に動かす。計六本の腕全ては同じようにネフシュタンと同等の性質の欠片であるブレードだった。

 

 

普通でなら、完全聖遺物の欠片を兵器の装備にしようなどと思う人間はいない。人間の技術では手の出しようがないから、聖遺物として扱われているのだ。

 

 

だが、彼、ノワールはこの世界の住人ではない。魔剣(ロストギア)という叡知の結晶を発見した科学者だ。言うなれば、彼にとって魔剣と同じようなものである聖遺物を兵器に組み込む事は難しい話ではない。

 

 

 

 

「化け物どもめ……っ!人の身で完全聖遺物を上回ろうとは!」

 

 

 

『司令の御言葉を借りるなら…………これが大人だよ。子供達ばかりに苦労させる訳にはいかんからね』

 

 

自ら鍛え上げてきた、人並外れた戦闘能力を誇る風鳴弦十郎。科学という分野に特化し、完全聖遺物の欠片を武装へと用いるノワール・スターフォン。

 

 

住む世界は違えど、彼等は似たような大人であった。子供達だけが戦う事を良しとせず、自分も戦場へと踏み込む。立場と振るう力は別だとしても、その身に宿す思いは同じなのだ。

 

 

「だが!所詮は人の身!」

 

 

立ち上がり、手を伸ばす。

彼女が掴んだのは何らかの武装─────そう、ソロモンの杖だった。人を炭化させる事に特化したノイズならば『ユニオン-A1』は無理だとしても、自分を圧倒している弦十郎を無力化できる。

 

 

だが、弦十郎はその場で踏み込んだ。先程までの戦闘の際に割れた地面が衝撃によって宙を舞う。前方に浮かぶ幾つかの瓦礫を見定め、サッカーのような応用で蹴り飛ばす。

 

 

フィーネがソロモンの杖の効力を発動しようと直後に、瓦礫が杖を弾き飛ばす。天井へと突き刺さった杖を回収せんと鞭を伸ばそうとするが、

 

 

 

『させると、思うのかね!』

 

鎖のように伸びる鞭に、ピンク色の刃が衝突した。慌てて振り返ると、遠方から『ユニオン-A1』が腕を振るっていたのが見えた。武装であるブレードを、ブーメランのようにして飛ばしたのだろう。

 

 

お陰でネフシュタンの鞭は触れた部分が消失してしまった。完全に消えている訳ではないので、再生させることは可能だが、

 

 

 

「これで終わりだ!」

 

そんな隙を見逃す弦十郎ではない。拳を握り締め、全力を叩き込もうと迫る。

 

もう、フィーネにどうする事も出来ない。お得意のノイズも呼び出せない、ネフシュタンの攻撃は決して通じない。

 

ここで倒される。それが目に見えた事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──弦十郎君!!」

 

 

瞬間。

フィーネはそう叫んでいた。顔も声も、さっきまでのものと違う。櫻井了子としての顔で、突然の事に怯えるような声音で、仲間であった人の名前を声にしていたのだ。

 

 

そして、機械越しに見ていたノワールもその行為に目を見開いて絶句する。不味い、そう思った。

 

 

風鳴弦十郎は強い、だがどうしようもなく優しかった。良く言えばそうなる、しかし厳しい言い方をするとそれは甘さだ。保護者としてノワールは美徳だと考えていたが、この場でそれは大きな欠点となってしまう。

 

 

 

何故なら目の前にいる彼女は櫻井了子であるのは確か。しかし同時に、それはフィーネでもあるのだから。

 

 

 

戦場で油断を見せればどうなるかは分かるだろう。怪物のいる暗闇の中で、何故か無傷の子供に不用意に近寄ればどうなるか。

 

 

 

人が死ぬような状況下で甘さを見せればどうなるのか。ノワールは良く知っていた、それで───守るべき子供が、あの青年の、親友の命は同じようにして奪われたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

『────風鳴司令ッ!!』

 

 

叫ぶのも遅い。ノワールは『ユニオン-A1』を駆り、何とかしようとするが、今すぐ向かったとしてもどうしようもない。

 

 

 

 

 

蕀の鞭が、動きの止まった弦十郎の腹部を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「─────タクト」

 

 

静かに向き合う青年、無空剣。彼は今、自分の目の前に立つ存在を見据えていた。かつてなら現実を受け入れられなかっただろう、限界の余り折れていたかもしれない。しかし自分の後ろには、その背中を見守る三人の少女達がいる、自分を受け入れてくれた大切な仲間達が。

 

 

だからこそ、現在自分の前に立つ過去───その姿をしたモノに、立ち向かえるのだ。

 

 

 

「無空剣か、()()()()()()()()()()ぜ」

 

そう告げたのは、虹宮タクトという青年だった。しかし彼は響達のような人間でも、無空剣のような魔剣士(ロストギアス)でもない。

 

 

サイボーグというのが近いだろう。人体を機械に、魔剣士(ロストギアス)よりも兵器へと特化された個体。

 

 

 

その人体こそが、かつての旧友 虹宮タクトだった。

 

 

「【魔剣計画】から脱走した序列三位。そして、前のオレと仲が良かったってのもな」

「…………あぁ、そうだ」

「───悪いけど、アンタの事は覚えてねぇ。話から聞くに昔のオレとアンタは相当仲の良かった親友らしいな」

 

 

やはり他人事。

自分に非があると理解してるように、申し訳なさそうな顔をするタクト。しかし、そこに込められた彼の感情は─────何一つない。

 

 

悪意を抱いてる訳でも、本気で心配してる訳でもない。本当に無関心なのだ。

 

 

 

「けど、今のオレは違う」

「………」

「例えこの姿がアンタの親友のものだとしても、中身であるオレは全く別の存在だ。肉体の話じゃなくて、オレという人格的に」

 

 

 

例えるとしたら。

特定の容器から発生した気体Aと同じ容器で発生した気体B、厳密にはこれらを同一の物と断定できない。

 

 

同じ肉体から生じた魂は、皆同じ人格を持つわけではない。環境、時期、人間関係、境遇───様々な要因が絡み合う事で人格とは形成される。しかし全てが全て、正しいわけではない。

 

 

無空剣もそうだ。彼と同じ生き方をすれば彼のようになれるとは言えない。僅かに違うところがあれば、人の在り方は変質する。

 

立花響も風鳴翼も雪音クリスも小日向未来も、誰であろうと同じだ。例えその人本人だとしても、必ず類似するとは限らない。並行世界の自分が別人に思えると言う意見も、それが起因している。

 

 

 

「だから殺すさ、子供だって大人だって。止めてきたアンタが誰だろうと関係ない。邪魔する敵は一人残らず殺す。だってオレはそんな風に調節されてる兵器なんだ」

 

 

だからこそ、今いる虹宮タクトは、無空剣の親友ではない。有効利用されて動かされた屍から発生した、全く別の魂。

 

 

同じ虹宮タクトでありながら、発生したその魂はかつてと同じものではない。

 

 

故に『彼』が苦手としていた人殺しに躊躇しない。『彼』が喜んで行っていた人助けの意味を見出だせない。故に、今ある存在は無空剣の知る親友ではない。

 

 

彼の身体をして、彼を名前を持つだけのナニかだった。

 

 

 

 

 

そして───無空剣は、彼の言葉を黙って聞いていた。親友の姿をした者から事実通達。大切な人間だからこそ思う、酷く理不尽な運命。

 

彼の言葉を最後まで聞き負えた青年は、

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

静かに嘆息するだけだった。現実を受け止める者にして、あまりにも軽い様子。ショックを受けて絶望するようなものとは、どうしても違っているのだ。

 

 

それは相手をしていたタクトの方が怪訝そうな色を浮かべていた。首を傾げ、不思議そうに見つめる。

 

 

「あれ?傷ついたりしねぇの?予想では普通にショックを受けるって思ってたんだが」

「………安心しろ。前々から理解していた、お前が俺の知るタクトでない事くらい。ただ、俺の考えが甘かっただけだ。

 

 

 

 

もしかしたら、今のお前と分かり合えるんじゃないかってな。親友として、また笑い合えるんじゃないかってな」

 

 

だが、それは幻想に過ぎない。

死んだ人間は既に死んでいる。かつての過去を、今ある現実に重ねるつもりなど今の無空剣には毛頭無い。

 

 

 

代わりに、やるべき事が出来た。そう言うように、剣は目の前の青年に堂々と突きつける。

 

 

 

「俺達はお前を止める。それは決定事項だ」

「………殺すんじゃねぇのかよ?お前は最強の兵器、魔剣士(ロストギアス)だろ?」

「知るか。奴等のつけた枠組みなんぞどうだっていい。俺は俺のやりたいようにやらせてもらう。だからこそ、お前をぶちのめした後に話し合うのも、俺が決めた事だ。抵抗するのは良い、だが腹を括って受け入れろ」

「自分勝手だな!それは力の持つ者の特権───傲慢って言うんだぜ!?」

「────それが?理解してるさ」

 

 

あっさりと言い切り、剣は何歩か後退した。恐怖を覚えてしまったのではなく、もう言いたいこと全てを伝えたと言うように。

 

 

代わりと言うように、響が前に歩み寄る。

 

 

「………話してくれませんか?」

「おいおい」

「タクトさんの目的を。そこまでしてやりたい事も、了子さんに従う理由も、全部───教えてください」

 

 

こんな状況下でも、響は対話を望む。困惑してしまうタクトだったが、すぐさま顔を変える。明らかな嘲笑で、彼女に向かって吐き捨てた。

 

 

 

「バァカ!そう簡単にマスターの計画を話す訳がねぇだろ─────あん?マスター?…………良いって?了解りょーかい」

 

 

………どうやら通信でフィーネがそれを許したらしい。何の意図があるのか、もう止められないからという自信からかもしれない。

 

一転して、笑みを浮かべたタクトは楽しそうに笑う。子供のような無邪気な顔で、高めの声で彼女達に告げた。

 

 

「喜べよ!マスターから許可が与えられた!お前らにマスターの計画、それが何なのかを教える事のな!」

 

 

そこまで言ったタクトは、ピシャリと表情は無機質なものへと変える。違和感を覚える面々の前で、静かに語り出した。

 

 

「かつての話だ。何千年もの昔、創造主であった神はこの世界全ての人類に呪いを掛けた」

「の、“呪い”?」

「『バラルの呪詛』、我がマスターはそう呼んでいる。人類の意志疎通や相互理解を妨げ、共存してきた人類に争いと殺戮を行わせるように仕向けた呪いだ!てめぇらも理解できただろ、これが人類が争い合う理由だってな!我がマスターは、その呪いを解くつもりだよ!」

 

 

唐突な事だった。

あまりにも急過ぎる話に響は困惑を隠しきれなかった。それは翼も、クリスも同じだ。

 

 

例外は、剣だけ。彼だけはその話に少しだけ聞き覚えがあった。それはかつて────とある騒動の際に、ある男の口から出た言葉だ。

 

 

 

───この世界の人類に遺伝子単位で組み込まれた概念的なシステムかな?

 

 

(奴は、エリーシャは確かそう言っていた。この世界の人類に遺伝子構造的に存在する呪い。それが“バラルの呪詛”ってヤツなのか?)

 

 

「さて、てめぇらに問題だ!マスターが忌々しく思う『バラルの呪詛』、それは何処から発生してると思う?」

 

考え込んでる最中、タクトはそう聞いてきた。『バラルの呪詛』、人類にいがみ合うように調整された大規模な呪い。

 

 

だが遺伝子に組み込むだけなら、自然に途絶えても可笑しく無いだろう。だが、タクトとそのマスター───フィーネが動いている以上、『バラルの呪詛』はそう簡単には消えないと思われる。

 

 

剣はある程度予想はする。数千年も続くのならば、それはきっと長い間存在し続けていたのだろう。誰にも違和感を持たせず、ただあるだけで呪いを与え続ける。

 

そんな長い時代から存在する呪いの根源とは、一体何処に──────

 

 

 

 

「月だ」

 

指先が、天へと突き立てている人差し指が、答えを示していた。

 

 

あるのは、夜空に浮かぶ満月。暗闇の世界を照らす、空の光源だ。彼が示しているのは、それしかなかった。

 

 

 

「あれこそが『バラルの呪詛』の発生源!長きに渡り人類に呪いをかけ続けてきたものさ! 何故昔の連中が月を恐れてたか分かるか? あれこそが!呪いの根源って訳だからなぁ!!」

 

 

「月が………」

 

「争いが、戦争が起きてた理由なのかよ!?」

 

 

語られる月の真実に言葉を失う響とクリス。剣も驚きはしていたが、すぐさま冷静に戻ることが出来た。そして、瞬時に考えついてしまう。敵が目的を果たすために、何をする気かを。

 

 

同じくそれに気付いた翼が顔を上げる。険しい顔のまま、真実を告げた青年を問い詰めようとした。

 

 

 

「だが、貴様は先程呪いを解くと言った!それはまさか─────」

 

 

「大正解、だッ!賞賛してやるぜ風鳴翼ァ!!

 

 

 

 

 

そう!マスターは今日、月を穿つ!その時の為に用意した、『カ・ディンギル』によってな!『バラルの呪詛』の根源たる月を破壊することで、人類の相互理解を妨げるものはなくなる!我がマスターの長年の悲願が果たされるってぇ訳だッ!!」

 

人差し指をその他の指ごとまとめて握り締める。満月に翳した掌で掴み取るように。彼は最早何も見ていない、見ているのは未来だ。月を破壊した後の、計画を果たした後を思い浮かべていた。

 

 

 

 

「笑わせるな!それはお前らが世界を支配することだろ! 安い!安さが爆発し過ぎてる!」

 

「何とでも言えよ、雪音クリス」

 

 

挑発的に言うクリスに、タクトは目に見えた様子で嘲笑う。どう言われようと、気にしてすらいない。既に何人も殺害してる相手だ、言われて止まるような生半可な覚悟ではないのだろう。

 

 

だが、

 

 

「彼等はどうなる」

 

無空剣は、そう口にしていた。彼は、コンピューター以上に優れた演算能力が、月の破壊の結果を何十回も編み出した。

 

 

その答えは────どれも一つだった。

 

 

 

「月が破壊されれば、この世界の人達はどうなると思ってる。それで争いをしなくなったとしても、大勢の人間が死ぬことになる!何回計算しても人類の総人口八割は、それ以上は確実に死ぬのは確かだ!」

「関係あるかよ!元より勝手に争いあって互いを傷つけ合ってた連中じゃねぇか!死ぬなら自業自得だ!まぁ無関係の奴等に関しては………………仕方ないって奴だ、分かるだろ?誰が死のうと、オレもマスターも止まるつもりはねぇのさ!!」

 

 

「どうして……?」

 

咄嗟に声に出す響。その言葉の意味合いは、彼の動機だろう。何故そこまでするのか、そうまでして、何を求めているのか。

 

それを聞いたタクトは笑みを浮かべると、口を静かに閉ざす。

 

 

 

 

 

「………てめぇらには分からねぇだろ」

 

 

低い声で、彼は呟く。噛み締め、歯を砕きかねない程に力を入れて。ここでようやく機械的な表情が剥がれた。その中から姿を現したのは、不愉快と表現するしかない感情だった。

 

 

「自分を受け入れてくれる連中がいるてめぇらには、オレの気持ちは理解できない。何者にもならずにいるオレの気持ちなんて」

「…………タクトさん」

「分からねぇよな!分かって良い訳がねぇ!お前らは個人として在るんだ、在れるんだ!けどオレは違う、番号でも個体名でも別けられてすらいねぇんだ!虹宮タクトっていう、昔くたばった奴として扱われる!!」

 

 

初めて出会った時、羨ましいと思った。

彼女には、立花響には掛け替えのない友達もいる。他とは違う家族もいる、他とは違う環境にある、他とは違う力を持っている。

 

 

誰かと違うと、ハッキリ区別できるものがある。それが『彼』にとって死ぬほど羨ましかった。何故なら、自分にはそんなものは存在しないから。友達もいない、家族もいない。力はある、肉体もあるし名前もある。だがそれは、故人の持つべきものだ。

 

 

真に『彼』を、一人として区分できるものは何一つない。

 

 

「うんざりなんだよ!オレは奴とは違う!オレは奴のように優しくない!オレは奴のように上等な存在じゃねぇんだ!なのに、連中は、どいつもこいつも平然とオレを『虹宮タクト』って呼ぶ!オレをオレとして見てくれない!

 

 

 

オレはオレになれないんだ!この身体の、この肉体のせいでッ!!」

 

 

自分が特別になりたい、というのとは違う。彼は死んだ人間の以外の誰かへとなりたいのだ。『虹宮タクト』ではなく、全く別の人間へと。

 

 

世界でただ一人しかいない、同じ人間なんて存在しないような────彼はそのように生きたかった。

 

そうなれるなら、ごく普通に生きるだけでも良い。どんな環境にいようと、どんな地獄にいようと、自分が自分であれるなら、救いがあるだろう。

 

 

だが、亡骸から作り出された『彼』にはそんなものは無かった。面倒だからという理由で『彼』を作った科学者達は『彼』を故人そのものへと生きるように調整した。

 

 

 

───『彼』は、強くなかった。例え仮初の名前を、身体を与えられても自分を保とうとすることが出来なかった。

 

 

絶望して、泣き叫び、怯えて。

自分が自分で無くなってしまうのが何時になるのか、それだけが恐怖でならなかった。身体を切り刻まれる事も、人を殺すことも辛かった。

 

でもそれ以上に、『自分』という存在が上書きされてしまうことが、恐ろしいほどに怖かったのだ。

 

 

どうしようもなくなって、『彼』は変わるしかなかった。優しかった故人とは違い、冷徹非情に。人を殺すことを望まない誰かと比較するように、人を殺す事への躊躇を捨てた。

 

 

そうすることで、自分は違うと思っていたから。嫌がる心を殺し、引き裂き、潰すことで、『自分』という聖域を守りたかった。

 

 

でも、それでも変われなかった。

だからこそ、

 

 

 

「邪魔なてめぇらを叩き潰す!このオレの存在意義!

 

 

 

 

 

 

機械として、兵器としてじゃねぇ!このオレが、オレとしてなれる事だ!これだけは譲れない、誰かの役に立ってオレは!オレの存在を残せる、証明になれる!そこでオレは、『虹宮タクト』以外の─────誰かにとって『特別な人』になれるんだ!!」

 

 

彼にとってフィーネは、マスターは自分を自分として見てくれる人物だった。兵器として扱われたとしても、道具として扱われてたとしても、あの人だけが『自分』を『自分』として認めてくれるのだ。

 

 

そして、そのマスターの臨むことの為なら『彼』は何だって出来る。

 

 

 

例え世界中の全てから呪われるようになっても、満足してあの人の元に下るだろう。だって、自分を受け入れてくれるのが、あの人だけだから。

 

 

地面に拳を叩きつける。轟音と共にひび割れる地面。機械には到底出来ないような感情────怒りと敵意に満ちた顔で、彼は吼える。

 

 

 

 

「マスターの願いを叶える!それがオレの悲願!!それを、お前らに!正しい事を言える立場にいるてめぇらには邪魔させる訳にはいかねぇんだよっ!!!」

 

 

同時の事だった。

ひび割れた地面から、何かが飛び出してきた。あまりにも巨大すぎる白い塊だ。タクトの纏う鎧と同じような、純白の機械。

 

 

 

「アルビオン!?」

「ここに来て動き出したか!」

 

 

二本の剛腕を持ち上げ、『アルビオン』は重機のような爆音を轟かせる。近くにいるだけで鼓膜が引き裂かれるような騒音が、周囲に響き渡る。

 

 

耳を押さえる少女達の横で、無空剣はそれに大きな違和感を抱いていた。『アルビオン』とタクト、この二体がフィーネの持つ兵器。しかし、それでも二対四になった事に代わりはない。

 

 

 

(………だが、本当にそうか?)

 

それだけならば、タクトは今勝ち誇ったような笑みを浮かべる理由が分からない。

 

 

LOSTGEAR-ARMAMENT、アルビオンに付けられていた呼称の一つだ。要約すると、魔剣武装となる。兵器ではなく、あくまでも武装。

 

 

 

 

 

そこで、無空剣は言葉を失う。

あるのだ、その違和感に該当する答えが。自分が一番早く気付くべきだった、恐るべき可能性が。

 

 

 

「まさか─────『強化外装』!?」

 

 

しかし、やはり気付くのが遅すぎた。声に出した時にはタクトは笑みを浮かべ、自らの手に握る剣を空高くへと掲げる。

 

そして、後方に鎮座する兵器に向かって、大声で叫ぶ。

 

 

「アルビオン!オレの鎧となれ、マスターの障害を打ち砕き、捩じ伏せる力を──────!

 

 

 

 

たった今、オレは兵器になる!マスターの為に、『オレ』の為に!!」

 

 

 

 

そう叫び、彼は自らの胸元に────剣を突き立てた。ズドッ! という音と共に、口から少なくない鮮血が溢れる。だが、力ずくで心臓を貫いた訳ではない。剣先は背中から飛び出さずに、彼の肉体の中に収まっていく。

 

 

よろける青年は、それでも立ち上がる。キッ!と目の前に立つ敵を睨み付けながら、タクトは天へと自らの右腕を伸ばした。

 

 

 

握り締め、そして叫ぶ。

敵を殺す為の、兵器と化すための呪文を。

 

 

 

 

 

 

 

「『外装接続(オーバーフレーム)────強化装着(アーマード)』ッッ!!!」

 

 

 

 

直後、アルビオンの体が崩れる。いや、分解されていく。細かいパーツや部品が乖離して、その中心から巨大なケーブルが出現する。

 

 

同時に、タクトの背中の装甲が展開し、そこから接続部位と思われる穴が現れる。巨大なケーブルは生き物のように先端を開き、

 

 

 

ガゴンッ!!

 

と、タクトの背中にケーブルが連結した。その途端、タクトが両目を見開き、大きく身震いを起こす。ガクガクと震える彼の身体を、光のラインがケーブルからアルビオンへと流れ込んでいく。

 

 

そして、アルビオンの装甲や部品が動き出し、タクトの身体へと纏われていく。ただ纏うだけではない、部品や装甲が大きく変形していき、その大きさも『アルビオン』の何倍も越えていこうとしていた。

 

 

今もなお変異していく『それ』の本来の名前は。

 

 

 

 

 

─────【アルビオン=カラドボルグ】。

一人の魔剣士の亡骸から造り出された、新世代の魔剣搭載兵器。人為的な力で、圧倒的な破壊をする為だけに設計された()()()()の怪物。

 

 

 

 

 

兵器を鎧のように纏った魔剣士は、純白の巨体となりその場に君臨する。その大きさは六メートルを優に越える。本気で測定するなら、八メートル以上の大きさ──下手しなくても、リディアンの校舎を遥かに越える程だった。

 

 

胸元の部位に収まったタクト。全身を無数のケーブルで繋がった青年を白い装甲が覆い隠す。そして巨体の変形が完全に止まったかと思えば、竜の頭部と思われる細い前面装甲に、二つの光が生じる。

 

 

 

翡翠の双眼が煌めくと同時に、融合は完了した。異様な変形は急に停止し、残ったのは地上を睥睨する真っ白な巨神だけ。

 

 

目の前にいる少女達、そして此方を見据える魔剣士(同族)を鋭い目で射抜く。

 

 

 

『さぁ来いよ!マスターの敵は一人残らず、このオレが叩き潰してやるッ!! 誰だろうと、何であろうと、どんなものだろうとォッ!!!』

 

 

機械越しの声を響かせ、内部にいるタクトはそう吼えた。白い巨龍も両腕を地面へと叩きつけ、同じように咆哮を轟かせる。

 

 

目の前の障害となる敵を皆殺しにする。やはり『虹宮タクト』が選択しない決断を選び、『彼』は今までと同じように抹殺を行う事にした。

 

 

 

 

白き龍の、禍々しき雄叫びが夜空を引き裂いた。




見た目が白き龍というところよ。まぁアルビオンって名前だしね、仕方ないよね!


……真面目な話をしますと、タクトもとい『彼』は割と残酷ですよね。『自分』として見られず、『虹宮タクト』として区分されるのは、精神的に苦しいですし。



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