「─────タクトは敗れたか」
激しい戦場の跡地。倒壊しかけたリディアンに背を向けるように立つフィーネが、剣達を見下ろしていた。その視線はすぐに別のものへと代わり、離れた場所に倒れているタクトに移る。
彼は、剣達との戦いの故に────敗北した。しかし、何とか時間を稼ぎ、剣の片腕を喪失させる成果を勝ち取った。
そんな彼に、フィーネは嘆息するように息を漏らす。
「まぁ、仕方あるまい。『アルビオン』を纏うあの形態はタクトも精神的な問題があると前々から口にしていた。その隙を狙われたのならば、どうしようもないのは必然だろうな」
「…………それだけ?」
戸惑いながらも、響は眼を見張る。呆然と聞き返す彼女には理解できなかった。
虹宮タクト、その身体を有する彼は、どんなに弁明しても無実の人間ではない。兵器である事を良しとして、リディアンの生徒を殺そうとして───彼女達を守ろうとしていた自衛官達を数人以上殺していた。
しかし、それでも。
彼のフィーネへの忠誠心は、嘘偽りではなかった。自分がどうなってでも良い、その覚悟の元にタクトは全力で戦っていた。
最後の最後で行おうとした暴虐も、自分の勝利ではなくフィーネの勝利を望んでの事だ。彼は、タクトは、フィーネに最後まで従った唯一の人間だった。
「あの人は…………タクトさんは、最後まで了子さんを勝たせようとしてた。その為に一人で、私たちを倒そうとしてたのに…………それだけしか言わないんですか!?」
「笑わせるな小娘。あの男は私の為に命を賭け、殉じたに過ぎん。己の目的────私の役に立つ事を果たせたのだ、死んだ所でそれを喜んでいる事だろう」
「………っ」
「何たる非道───自らの為に生命を賭けた仲間に!」
だが、フィーネにとってそれは鼻で笑うような些事であったらしい。現にタクトの事を軽く言う、感謝などは見られない様子で。
あまりにもな扱いに響は言葉を失い、翼がその行いを批判する。何も言わずに黙り込むクリスも、フィーネに対する怒りを滲ませていた。
そんな最中、片腕を失った剣が彼女達の前に出る。冷静沈着といった様子、いつもと変わらない落ち着いた態度で剣は、フィーネに対して質問する。
「聞いておきたい事がある」
「ほう?なんだ?ここまで努力してきた褒美として、答えてやるのも吝かではない」
「…………フィーネ、お前は何者だ?」
その一言には、剣の様々な考えが詰め込まれていた。
「二課にいた時の櫻井了子は、お前ではなかった。機械的にも、そして俺個人としても櫻井了子がフィーネ本人だとは到底思えなかった。フィーネが櫻井了子を演じてるというより、二人の人格があるように感じていた。違うか?」
「………ふ、流石だな。最強の
納得したように笑うフィーネ。剣は沈黙を浮かべながら顔をしかめた。早くしろ、と言外に急かす彼に、フィーネは自らの正体を語り始めた。
「確かに、私は櫻井了子ではない。この肉体は櫻井了子のものだが、今ある意識はこの私だ。あの時、十二年前からな」
「十二年、前? どういうことですか!?」
「フィーネは先史文明の巫女。お前達が知る時代より昔の、人が相互理解を獲得していた時代にいた、人と神を繋ぐ巫女、それがこの私だ」
…………話を聞いていた響は、どういう意味かと困惑していた。スケールというものが普通ではない。自分達が知るより前の時代、人と神を繋ぐ────通常では信じられない事を話すフィーネ。
他の二人も同じように、訳が分からないという顔をしていたが、剣だけは不愉快そうに顔を歪めていた。舌打ちと共に、彼は低い声を漏らす。
「………自らの意識を、肉体に寄生させた訳か。わざわざ何千年も生き永らえる為に」
「良い線だ、が正確ではない。私の血を継ぐ子孫達の遺伝子に、私の意識を刻み込んだのだ。そして、彼等がアウフヴァッヘン波形に干渉したその時、私の意識が目覚め、記憶と能力を再起動するように仕組んでいた」
話を聞いて、剣も少なからず驚きはした。自分により濃い血を継ぐ人間の意識に、何度も生じていく。つまる所、擬似的な不老不死という事になる。フィーネという存在は、誰もが目指して挫折した偉業を為していたのだ。
しかし、その代償はあまりにも許されざるのだ。人の意識を乗っ取り生き永らえるなど、剣の言う『寄生』という言葉が相応しい。
「それ程までにお前を突き動かすもの─────『バラルの呪詛』はそこまで消したいのか」
「あぁ、その通りだ。全ては人類の相互理解を取り戻す為、あの方へこの想いを伝える為に────!!」
高揚したようなフィーネが高らかと宣言した直後に、大きな地震が生じる。突然の事に眼を剥く彼等だったが、その揺れの発生源が自分達の真下だという事を理解する。地下から何かが、動き出すようだった。
そして、まだ形を保っていたであろうリディアンの校舎が、今度こそ崩れ去る。地震によるものではない、真下から出てきた何かが、校舎を下から突き破ってきたのだ。
────塔。そう形容すべきもの。古代的な羅列や外見のした、不気味そのものを身に纏う建造物。見た目だけならそうだと判断できる。
しかし、義眼は──魔剣の欠片の埋め込まれた機械の瞳はその塔の異常性を即座に見抜いた。莫大なまでのエネルギーの総量、タクトの放つ魔剣絶技の何倍もの火力。
(……………これが奴の切り札。なるほど、エレベーターシャフトそのものだったとはな。あの時、俺がエレベーターで感じていた違和感の正体はこれだったという訳か)
更に見開かれた義眼が、塔の構造を明らかにする。その一部を、理解した。
動力源となっているのは、完全聖遺物であるディランダル。無限のエネルギーを生み出すあの剣は二課の本部に保管されていたのは前々から知っていた。月を破壊する、そんな戯れ言のような言葉も事実になりかねない。
もしフィーネが、この時の事を想定していたのなら、純粋に尊敬に値する。遥か最古から生き続けてきた者の執念というものは、案外馬鹿に出来ない。
「────荷電粒子砲 カ・ディンギル」
その塔の名を、歌うような声音でフィーネは口にする。心奪われるかのように、今目の前にいる剣達には目もくれずに。
「これこそが私の願いを叶える兵器。これをもってあの忌まわしき月を穿ち、バラルの呪詛から世界を解き放つ!」
彼女が伸ばした掌を握り締めた途端、カ・ディンギルに変化が生じる。内部にあるエネルギーが一気に増幅し始めたのだ。このままだとフィーネの目的である、月の破壊が実行されるのも時間の問題だろう。
だが、そんな事を見過ごせる訳がない。
「ざけんじゃねぇ!そんな真似誰がやらせるか!」
「貴様の野望も、そのカ・ディンギルが無ければ意味がない!私達がここで破壊すれば!」
「破壊するだと?…………ならばやってみるがいい。それ程の力を引き出せるのならば、な」
意気込むクリスと翼。同じように響も身構えるが、フィーネはそれを前にしても余裕を崩さない。シンフォギア装者が三人、そして彼女達よりも格上である魔剣士もいる。
それほどの戦力を前にしてもフィーネには勝機があった。勝機とは言っても自分が用意したものではない、自分の配下として戦っていた青年の力で作り出したものだが。
「タクトとの戦いで貴様らは消耗している。無空剣はまだ戦えるみたいだが、シンフォギアを纏う貴様らはもう限界だろう?満足に歌を歌い、戦うことも出来ん筈だ。今も、シンフォギアを纏うだけしか出来まい?」
言われて、響は戸惑い、翼とクリスは息を飲んだ。響は大体そんな感じを把握していたが、他の二人は既にそうだというのを理解していた。
「───三人とも、下がれ」
だからこそ、剣は片手でそう促した。少女達は信頼する青年の言葉を信じるように素直に何歩か離れる。逆に前へと踏み込んでくる剣を見て、フィーネは含み笑いを浮かべる。
「ふっ、やはりお前が相手か。しかし分かっているのか?右腕の欠損、そして話に聞く魔剣絶技によるエネルギーの消耗。そこの小娘どもとは違うにしろ、明らかに弱っているのは事実だ。その体で、まさか私を倒そうと?」
「………やれやれ、全く理解してないな」
何? という怪訝そうな顔をするフィーネに、剣はやはり呆れたままだった。そして、
「お前を倒すのに───この状態で充分という事だ」
余裕そうに啖呵を切り、足の裏を蹴り飛ばし、全力で跳躍する。何とかその動きに気付いたフィーネが、鞭を振り回すが、剣はその間を難なく───普通で考えられない動きで掻い潜っていく。
片腕で地面を叩きつけ、反動を起こし、フィーネの真上を軽く跳ぶ。
「ふッ!!」
片脚を持ち上げ、全員を回転させながらフィーネへと叩きつける。肩を砕かれた事による苦鳴が聞こえるが、無視して追撃を叩き込む。
「無駄だ!この私は今やネフシュタンと一つになった!貴様がどれだけ攻撃しようと何度も再生し続け───」
鞭を振るい、距離を取った目の前の相手を嘲笑おうとするフィーネ。しかし既に相手は視界から消えてしまっている。
探そうとした時には────喉元を貫く感触があった。いつの間にか懐まで迫ってきていた青年が、自身の首を貫いていたのだ。
「ごっ……!?」
「何回だ?」
口から血を吹き出すフィーネに、剣は躊躇しない。幾つも携帯できる武装、『簡易式メタルブレード』 を喉に突き立て、柄を握る力を強める。
その動きには、容赦が一つも見られない。
「お前の鎧は何回再生する?十回か?百回か?千回か?ならば結構、ネフシュタンが逆にお前を食らい取り込むまで削り取れば良い。幸い、ただ傷つけるだけのと殺す威力とでは全然差があるからな」
「──き、さまっ!」
「少なくとも時間は掛けられない。五分でケリをつけたいんだがな、お前を倒し────カ・ディンギルをぶち壊す時間も必要だ」
殺意を膨らませるフィーネが、剣に手を伸ばす。しかし彼は滑るような動きで避け、逆に彼女の手首を掴んで瓦礫の山に叩きつける。
コンクリートの残骸が砕け散り、起き上がろうとしたフィーネの腹に鋭い蹴りが食い込む。蹴り上げられ、宙に浮かぶ彼女に、追撃と言わんばかりに肘が打ち付けられる。
吹き飛ばされるフィーネは何とか動きを止めた。肩の装甲に繋がった鞭を両手で握り、地面へと打ち込む。杭のように突き刺さった事により、何とかその場に止まることが出来た。
ダメージは回復していく。しかし状況は有利どころか劣勢である一方。再生時にあるタイムラグを無視し、剣は再生を上回るダメージを与えていく戦法を選んでいる。
破滅を望まない鎧を、敢えて正攻法で捩じ伏せんとしているのだ。常人の相手では不可能な事だが、彼ならばそれを実現し得るのは、簡単に予想できる話だった。
だからこそ、
「…………ふふ、ふふ」
「何が可笑しい」
フィーネが笑みを浮かべるのは、普通に考えておかしかった。無空剣は明らかにフィーネよりも有利であるのは変わりない。単なる笑い、達観であるのなら彼も気にする事はなかった。
彼女の顔の笑みは────勝利を確信したそれと変わらなかったからだ。
「私を倒す、倒すか。無空剣、貴様の敗因はやはり甘さだろう。それを今証明してくれる───」
「────それはッ!」
飛び掛かるよりも先に、フィーネはそれを取り出した。ノイズを無制限に呼び出して制御することが出来る『ソロモンの杖』と呼称される、完全聖遺物を。
コマンドと思わしき部分を指先で操作し、沢山の緑色の光が放たれる。自分の前に着弾するより先に手打ちをして、姿を現そうとするノイズ達を消し飛ばしていく。
そうしてすぐに気付かされる。別の方向に幾つもの光が飛ばされたことを。その先にいたのが、自分よりも消耗していて────ギアを纏うのもやっとな状態の響達が。
「まず───」
「確かに、貴様が戦えば何とかなるかもしれんな」
駆け出そうとして、フィーネはソロモンの杖で地面を叩く。カァン! と甲高く響くその音に剣は動きを止める、止めなくてはならなくなった。
「だが、その間に小娘どもが持つかな?貴様が私を倒そうとする間、歌も満足に歌えない程に消耗したあいつらが、ノイズ相手に立ち回れるかどうか…………さぁどうする?無空剣?」
余裕綽々のフィーネから、チラリと響達に視線をずらす。放たれたノイズは十体を越える。それも個体は別々で倒すにはどうやっても手間がかかる。
響達が戦って────途中でギアが解除される可能性もあった。現に、今でも纏うのが限界に近い。そんな状態で戦えば、無防備な姿になってノイズに狙われてしまうだろう。
ならば、無空剣が選択すべき事は一つ。
「…………俺はどうなってもいい」
「剣さん!だめ───」
「響達には手を出すな。俺を人にしてくれた、大切な人達だ……………もし手を出すなら、俺は自分の命を使ってでも、あの塔を破壊する」
ふむ、とフィーネは口の中で吟味するように考える。
「………良いだろう。貴様が本気で暴れれば私にとっても痛手でしかない。大人しくするのならば、小娘達には何もしない」
剣の取引きに大人しく応じる。まぁフィーネからすれば、無空剣に暴れられるのはあまり良い事ではない。現状で本気がまだ読めない程の存在の暴走は、カ・ディンギルすら破壊する可能性すら有り得てしまう。
「だが、それは小娘達にだ」
ギラギラとした敵意。それに応じるように、ピンク色の鞭が容赦なく振り回される。命を刈り取る凶器のように見えるのは、気のせいではないだろう。
「貴様だけはある程度痛めつけておこう。最低でも死なん程度に、最早邪魔立て出来ないようにな」
◇◆◇
─────なぁ、本当に良いのか?オレはあの人に──
─────………何度も言わせんな。もうオレの及び知る所じゃあねぇよ。オレはマスターの為に戦って負けた。それだけだ。忠誠があるのは確かだが、それとこれとは話は別だ。てめぇには一応『果たすべき借り』があるんだしな
─────悪いな。オレの我が儘を通すことになって。お前のマスターって人の邪魔をするってのに。
─────本当に悪いと思ってんなら、あの時邪魔しないで欲しかったくらいだぜ。だが、一応最後に聞いときたい。
─────ん?どうしたんだ?
─────てめぇがそこまでする理由は?あいつらを助ける為に、自ら危険に飛び出す事になる。マスターは、確実に邪魔立てしたてめぇをぶち殺すだろうな。それを分かってて、何故そうする?
─────んなもん、決まってるさ。
─────
『…………チッ。何を平然と、あんな
揺らぎの中で、腹立たしそうに吐き捨てる。しかし本心からではなく、毒気が抜かれたような様子だった。今の彼に、肉体の感覚はない。しかしそれでも『彼』は、自分の話していた相手の去った方に手を伸ばす。
『敵わねぇなぁ………チクショウ』
意識だけの今の自分に体があれば、顔があればきっと笑っていただろう。あの少女に毒された事に気付かされ『彼』、タクトはただ羨ましそうに、視線の先を見つめるしかなかった。
◇◆◇
身体が引き裂かれる。装甲越しに鋭利な鞭が剣の皮膚を削り、肉を抉る。機械に置き換えられた部位も容赦なく貫かれ、脳裏に走る激痛を剣は感じ取っていた。
「────ぐッ」
血が飛び散り、パーツが転がる。それでも相手は攻撃の手を緩めること無く、全力でいたぶってくる。
「フハハハハハハッ!!どうした!?どうした
偉く上機嫌な様子で謳う声が鼓膜に響く。視界が曇り気味で全然見えてこないが、その姿形や声からして、フィーネだと確信する。
だが、気付いた所で手出しは出来ない。そんな真似は剣には許されていない。
「───来るなっ!!!」
咄嗟に叫ぶと息を飲むような声が聞こえる。視界の一部は既に見えていない、だが剣はある程度は察していた。
響が、彼女達が此方に近づこうとしていたのだ。自分達の消耗を無視してまでも。
「お前らが来れば………俺がこうしてる意味がない!我慢してくれれば、それでいい!!」
「で、でも!」
「それがお前を見捨てる理由にはならない! 仲間が傷つけられているのに、何もせずに耐えることが正しい事とでも言うのか!」
「そうだ!んな事黙ってられるかよ!あたしらが──」
「───耐えろ!!頼む!!」
噛み締め、怒鳴る。その声に気圧され、彼女達は立ち止まる事を余儀なくされる。見ないでも、その顔が思い浮かび──────
(………最低だ)
心の中で吐き捨てた。何も出来ずにいる自分自身に。
(最低だ俺は!何も出来ずに、あの子達を泣かして、悲しませて!)
何が
決意を漲らせた直後、何とか起き上がった自分の身体に激痛が走った。見ずとも感覚で理解できる。ネフシュタンの鞭が、腹部を貫いていると。
「あ─────が」
「やはり完全聖遺物の力でなら貴様の肉体を穿つことが出来るらしいな……………頑丈なその体が返って自分を苦しめたという訳だ」
視界が薄れていても、神経はまだ現存している。今までは切り裂かれてきたが、今味わっている痛みはその比ではない。
久しぶりに、いや初めてかもしれないが────身体に穴を開けられた。引き抜かれた途端に血が滲み出すが、肉体に組み込まれた機能がそれを強制的に抑える。
それでも苦痛が───思考を燃やすような熱が消えることはない。
「───これでも動けるとは。その不死身さ、貴様は十分に兵器だな。人の姿をした魔剣の力で動く兵器───貴様の世界の人類も、腐り果ててるなぁ?戦争の為に人間を改造し、わざわざ効率化させるとは」
呆れたような声にも、反応する余裕はない。だが、次の言葉だけは耳を貸した。
「少なくとも。貴様には同情するぞ、無空剣」
「………情けの、つもりか?こんな風に痛めつけておいて………何を─────」
「まぁな。だが、それは私の計画の邪魔をさせぬ為だ。だが、意味がない事は私もしない。しかし、お前を作った【魔剣計画】は違うのだろう?
お前一人や他の人間を───適正のある者だけを選び抜けば良かったものを、わざわざ数万人も殺してまで魔剣士を作り出し続けた。肝心の貴様はその目的すらも明かされず、兵器として扱われ続ける。つくづく人間は、愚かしいものだ」
思わず笑いそうになる。ここまでの事をしてきたフィーネにすら唾棄される程、自分達を作り出した組織は歪んでいたらしい。自覚はしていたが、他人に言われると思うしかない。
自分達は誰から見てもどうしようもない被害者であり、救いようのない惨めな存在だと。
「ふんっ。何とでも、言えっ」
確かにそれは否定しない。
あの連中、【魔剣計画】の人間どもの多くはクソッタレだ。救いようのない、本物の外道の集まり。下っ端がそうでなくても、上は確実だろう。
だがそれでも、少しだけ取り消すべき事がある。
無空剣が出会ってきた人々は、全員が全員、クソッタレの人間ではなかった。ノワール博士に、ある親子、そして集落にいた兄妹、それ以上の多くの人々。
何より────タクトとノエル。剣を何度も支えてくれた親友達。
そして、響に翼、クリス、小日向未来。風鳴司令に緒川、藤尭さんに友里さんなど、この世界で出会った多くの人達。
彼等に出会えたからこそ、無空剣の見る世界は変われた。その先の未来を見ることが出来たのだ。
「────お前なんぞに憐れまれる生き方はしてない。それだけだ」
「……………ふん、兵器なりのプライドか。下らんな」
目に見えた嘲りを向けるフィーネに、悪態の一つをつきたくなったが、実際にはそうしない。下手に刺激して機嫌を悪くするのは得策ではない。現状、響達の安全は奴の手にあるのだから。
鞭の先、鋭利な部分を叩く カァン! という音が響く。刃を整えるような行為をしながら、フィーネは邪悪そうに笑う。
「首を切り落とせば、頭を潰せば流石の貴様も生きてはいるまい」
────ふん、どうやら殺す気か。
────だが、ただで死ぬつもりはない。
────最低でもお前だけは殺すぞ、フィーネ。
自爆、或いは特攻。魔剣士にはその機能がある、体内に埋め込まれた魔剣のエネルギーの多くを叩き込めば、ネフシュタンの再生を凌駕する程の破壊力を使える。
「─────死ね、無空剣」
(死ぬのは俺だけじゃない、お前もだ!フィーネ!)
互いに殺意を抱き合う。フィーネが鞭の先で貫こうとし、剣が全霊の力で立ち上がろうとしたその時だった。
直後───フィーネの視界はいつの間にか変わっていた。
「は、?」
「…………え?」
殺そうとした相手も、殺されかけていた張本も、二人して疑問を漏らしていた。唖然としていたフィーネはようやく、自分が吹き飛ばされていた事に気付く。困惑しながらも起き上がろうとして、
ッッッッドッ!! と。
更に深く、地面に叩きつけられた。抵抗する余裕もなく、何度も衝撃を与えられ地に沈んでいく。攻撃は何度も続いている、しかし行っているであろう者はその場にいない。
まるで透明な力で叩きつけられてるかのように、圧倒的な力が動いているようだった。その攻撃には、見覚えがあった。
『───ゴォォォォォォォォォォォォォ!!!』
巨大な重機の轟音が響き渡り、剣は視線を向ける。そこにいるのは大きな白い体躯を持つ兵器───『アルビオン』だった。彼が驚愕したのはその兵器が動いた事ではない──────その掌を、攻撃を行う武装をフィーネに向けていたことだった。
そして、『アルビオン』の動きはそれに止まらない。轟音を噴かしながらゆっくりと動き出し、響達の元へと近付く。そして、拳を地面に叩きつけた。
「………え?」
「なッ───」
「ノイズが………!?」
それだけで、半透明の砲撃───音波を最大限まで収束させた衝撃砲が、待機していたノイズ達を薙ぎ払った。攻撃を受けてようやく明確な敵へと立ち向かおうとするノイズだったが、魔剣の力を有する巨体によって難なく殲滅された。
全てのノイズを片付けた『アルビオン』はノイズによって動きを制限されていた三人を見る。突然の事に困惑しているが、少なからず警戒している視線を理解してか、ゆっくりと後退する。
その動きは、機械というよりも人間味があった。実際に動かしているのが人間と言われてもおかしくない。何より、その行動に感じられるものがあった。
『─────』
「…………まさか」
ゾワリ、と。
自らの背筋に過る冷たい感覚。ある可能性が、脳裏に浮かび上がったのだ。でも、普通に考えて有り得ない。こんな事は、起きて良い訳がない。
だがしかし、そう考えれば納得がいく。あの時、自らが暴走していた際、『アルビオン』がクリスを連れてその場から撤退したのも。タクトの殲滅の指示を、受けなかったのも。
帰結するのは────ただ一つの事実だった。
「お前、なのか?タクト?」
『───』
その疑問に、白い兵器は答えない。無視したように両腕を地面へと押し付け、自らの口を大きく開く。内側から砲頭が飛び出し、ゆっくりと狙いを定める。
照準は巨大な塔 カ・ディンギルへと向けられていた。そう思った途端には────閃光が煌めく。
一発、二発、三発。
禍々しい紋様の建造物を透明な砲撃が抉る。轟音を放っていた白き兵器はそれ以降、攻撃の手を止めた。三発目が塔を穿った時には、大規模な爆発と共に崩れ始めていたからだった。
天へと聳え立つ巨塔の末路を見届けた後、全員の視線が『アルビオン』へと向く。ゆっくりと後退し『アルビオン』は会釈をするように、身体を下げた。
その様子を見て、剣は内側から溢れてくるものがあった。ボロボロになった自分を忘れて、彼は全ての可能性を無視して確信する。────ただ一つ、己の心を信じて。
やはり間違いない。『アルビオン』を動かしているのは、タクトだ。先程まで戦っていたタクトではなく、無空剣にとって掛け替えのない親友の方のタクトだ。
「───タクト!!」
負傷した身体を動かそうとしながら、彼は親友の名を叫んだ。片腕を失っているので、這うようにしか進めない。
それでも良かった。どうして生きているのか、そんな理論はどうでもいい。あいつが生きているならば、また会えるのならそれで良かった─────
「………よくも」
しかし、再会が許される事はなかった。
崩落する巨塔の末路を見届けた者が、瓦礫の山からユラリと起き上がってきた。響達はその姿を見て───言葉を失った。全身から表現しがたい殺意を剥き出しにし、その顔も憎悪に歪め、瞳すら狂気に光らせ、
「よくも、よくもよくもよくもォ!!長年待ちわびた私の好機を、想いを!よくも踏みにじってくれたなァァァああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」
憎悪を、言葉にして吐き出しながら、フィーネは自分の目の前の全てを睨み付けた。相手が誰だかなんて彼女には見えてすらいない。宿願に届く手段を、呆気なく壊されたのだ。彼女を支配するのは、消えようのない衝動だった。
フィーネの企みは、幾つも月日を要した。月を破壊するために、魂が薄れそうになるほどの時を生き続けてきた。この計画を思いつき実行するまでの間、彼女は何とか自我を保ちながら、他者の身体を転々としてきた。
───全ては呪いを解き、かつての言葉を取り戻す。
その為のシンフォギア、その為の聖遺物、その為のカ・ディンギルだった。
それらを利用してでも、フィーネは─────
「私は、あの方に並びたかった────それだけで良かった」
たった一人の、届かぬ恋慕を叶えようとしていた。
彼等は知らない、フィーネがバラルの呪詛を破壊する本当の目的を。その内容を知っているのは、数少ない人間────あの鋭い性格の方のタクトも、それを知っていたからこそ、フィーネに従っていたのだ。私情、互いにその果てを求めていたからこそ、彼等は仮初めではない信頼関係を築き上げていた。
だが、ようやくの手段も奪われてしまった。目の前にいる出来損ないの兵器─────いや、何よりの元凶はシンフォギア装者、そして自分が痛め付けていた魔剣士 無空剣。
奴等が邪魔立てしなければ、こうも計画は破綻することはなかったのだ。奴等が何も出来ないのは理解していたが、自らの思いがそれを否定せざるを得なかった。
この衝動を─────消える事のない怒りを、とにかく当たり散らさなければ気が済まない。
「貴様らだッ!全て貴様らがいなければこうはならなかった!全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部ッ!!貴様らのせいだァァァァァァァァ!!!」
「────ッ!」
咄嗟に、剣の脳裏に悪寒が走る。不味い、このままでは不味い。フィーネは我を忘れている、心境は激しい怒りに支配されている。剣ならともかく、響達に牙を剥く可能性すらある。
現に、フィーネは両腕を振るった。その手にいつの間にか鞭を掴み、乱雑に振り回す。凄まじい長さを増幅させていくピンク色の鞭は次第に長蛇と化し、周囲を削り取って暴れ回る。
それは響達へと接近してくる。身構える彼女達だが、避けられるとは思えない。今の彼女達にそこまでの体力は残されていない。
逃げろ、と剣は叫ぶ。それが出来ないのにも関わらず叫んだのは、自分では間に合わないと悟ったから。でも、遅い。彼女達に迫る凶器の刃は止まることを知らずに──────
─────飛び出してきた、白い巨体を。守るように立ち塞がった『アルビオン』を容赦なく貫いた。その姿が、別の光景と幻視してしまう。
あの時死んだ、親友の末路と、同じものを。
「────────────、あ」
瞠目して剣は、固まるしかなかった。
目の前で白い巨体は、力なく崩れ落ちる。装甲が破壊され、中身の部品や金属機器が飛び散った。中でも異色と思えるものが、彼の目に止まる。
棺桶だ。真っ黒なもので作られた物を、そうとしか表現出来ない。それは沢山のケーブルで繋がれており、エネルギーを供給────或いは吸収してるのかと思ってしまう。その棺はネフシュタンの鞭で引き裂け、その中身が露出しそうになる。
─────ケーブルに繋がれた、青年だ。当然ながら、息はない。全身を機械のような装備を纏わされているが、露見している素肌は冷たい色をしている。冷凍保存されていたものが何か、剣は理解した。
タクトの、親友の死体だった。先程戦ったタクトと名乗る敵は剣の親友を元として、かつての人格をベースしただけの存在。その死体は、『アルビオン』という兵器のコアとして運用され続けていた。
「…………は、は」
その時、剣は理解してしまった。あの『アルビオン』に、何故タクトの意識があったのか。当然だ。あるに決まってるだろう。何故なら『アルビオン』の動力源は、タクトの死体だったのだ。そこから魔剣の力を吸い上げて、あれを動かし続けていた。
昔の自分なら、絶望していただろう。親友の死と同じ光景に、心が折れていたかもしれない。
だが──────今は違う。懐かしい声が聞こえた気がしたからだった。
『────後は任せたぜ、相棒』
「……………あぁ、分かった」
『アルビオン』が、
それを無駄にする訳にはいかない─────!!
「なっ───!?」
立ち上がってきた剣の行動に、怒りに囚われていた筈のフィーネが言葉を失う。
片腕を失い、腹部を刺し貫かれ、ボロボロになっていた青年は、少女達の前へと飛び込んできたのだ。
飛び退くフィーネに、剣には何の打算もない。これは賭けだ。が、やってみる価値のあるものでもある。
───未知のテクノロジーとの同調。それが魔剣士という存在の生まれた理由の一つ。
ならば、だ。
「俺に、俺達の意思に応えろッ!!ロストギアァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
疼く義眼を無視して、剣はとにかく叫んだ。その直後だった。右目の結晶、魔剣グラムがそれに応じるように輝きを強くした。
《LOSTGEAR 機能解放───UNKNOWN ARTIFACTとの同調────開始》
ガシャガシャガシャンッ! と、剣の纏う漆黒の鎧が変わっていく。身体の一部に纏われていた軽装が展開されていき、前よりも鎧と言えるように厳重に、まともな形に変わっていく。
その中心に組み込まれた結晶体が、無機質な音声を出し続けていた。
《────エネルギー解放。限定機構、装填承認。
『GUNGNIR』───融合、承認
『AMENOHABAKIRI』───融合、承認
『ICHAIVAL』───融合、承認
魔剣グラム、三種の力と統合。完全融合、独立コアとして顕現。同調完了、新形態変化開始》
完全に姿を変えた剣、その胸元から装甲が飛び出す。胸元の漆黒の球体を囲むように出来た窪み。そこに3つの球体が力と共に装填される。
黄色、青、赤。彼女たちシンフォギアを表す色を体現するようだった。その光が設置された途端、鎧はすぐさま開閉して更に形を変えていく。
そして変化は、それだけには止まらなかった。
「きゃっ!?」
「っ!ギアが!?」
「クソッ!何だこりゃ!?」
彼の後ろに立ち尽くしていた響達を、突然発生した光が包み込んだ。突然の事に戸惑う彼女達だったが、すぐに変化を理解した。
自らが何とか纏っていたギアが、別の形へと変わっていこうとしていた。白く、同時に紺色に近い黒のような装甲が、彼女達の身に纏われる。
(これは───剣さんの………魔剣?)
流れ込んでくる神秘的な力が、ある青年に宿るものと同じだった。彼が言う魔剣グラムが、その力を貸し与えようとしているのだ。
そして、四つの光が激しく────大きく輝き続けた。
そして、その変化を目にしていた者達もそれに気付く。
「何が、どうなってやがる………?」
校舎の上で退屈そうに見ていた青年も、顔色を変える。元々はいたぶられている剣に対して最早呆れを覚え、さっさと死ねばいいとまで考えていたが………これは流石に予想外だった。困惑を隠せずに、目の前に生じる光景に瞠目している。
「ふははははははははははははははははははははははっ!!! 最高だ! 素晴らしい! 実にぃ素晴らしいっ!!こんな奇跡が見れようものか!!感謝しようフィーネ、君のお陰で! 最高の奇跡が目に出来たのだから!!」
何処かの場所で、エリーシャは楽しそうに笑っていた。心からの歓喜を隠すことなく、ただ笑みを溢す。興奮のあまり大声で捲し立てているが、彼は気にする素振りはない。
ただ自分が作った最高傑作の成長と、予想すら出来なかった異端技術による覚醒。それに歓喜し、ただただ心踊らせていた。
「………なんだ、それは」
有り得ない変化に、フィーネはたじろく。自分が後退りしてる事実も気にすることなく、ただ叫んだ。
「なんだそれは!貴様らの力はタクトが、私が削った!今やもう纏えるのも限界だっただろう!?だが、何故貴様らは纏っている!!?その力は、貴様らの纏うそれは────なんだ!!?」
光が晴れた直後、四人の姿が出てくる。白と黒、二つの色のギアを纏う少女達。そして、全身に纏われる黒い鎧纏う青年。
彼等は互いの顔を見合うことなく、小さく笑っている。決まっている、この身に纏う力は─────
「「────ロストギア/シンフォギアだぁぁぁぁああッ!!!」」
剣は、響は、己の内側に宿す力を叫ぶ。暗き世界から切り開かれた青空に轟くような思いを乗せ、彼等は言葉に馳せた。
まずは一言─────シンフォギアァァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!
確認の為にアニメのこの回見たけど………強すぎる。勝てる訳ねぇよ!!やっぱり一期は伝説だよォ!!泣きすぎて小説書く手が止まるし………あぁもうメチャクチャだよ!!
小難しい説明は次回へ!疑問とかも次回まで待ってください!!お願いします!!!