戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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手を繋いで

「あー!あの時のお兄ちゃんとお姉ちゃんだ!カッコいいー!」

「すごいすごいー!“ろすとぎあす”のおにいちゃん!すごくつよそう!」

 

 

地下シェルター内で光の中から姿を現した剣や響達に興奮を隠せない者達。子供達、特に一人は響やこの世界に来たばかりの剣に助けられていた女の子であった。もう一人も避難してる最中に剣によって助けられた子だ。純粋に喜ぶ二人の様子を皮切りに、避難していた人々も希望を持ち始める。

 

 

「………今、何が起こったの?ビッキーや剣さん達が光に包まれて……………姿がまた変わったよね?」

「確かに、何がよく分かりませんが………」

「それでも!今は良い感じじゃない!アニメみたいな、覚醒の!」

 

 

困惑していた創世と詩織も、興奮した弓美の言葉に少しずつ明るくなっていく。

 

 

追い詰められた彼等が立ち上がった事に喜ぶ面々。その中にはオペレーターの藤尭や友里も、無力そうに見ていた緒川も含まれていた。

 

 

その中でも────弦十郎はチラリと横に視線を配る。浮遊する小型機体『ユニオン-A1』、それを操るノワール博士に声をかける。

 

 

 

「博士、彼等の身に起こった事………貴方には分かるか?」

 

 

『…………剣クンの方は、シンフォギアの力を取り込んだ………というより同調したのかもしれない。響クン達はロストギアによってシンフォギアを補強された────と、現時点ではそれしか言えない』

 

 

 

いや、違うな とノワールは思う。きっと詳しく調べたとしても自分では知り尽くす事は出来ない。魔剣の格としたロストギアは、ブラックボックスの技術も多い。シンフォギアも同じだ。今回の件も、そもそもの話それらの基となったものすら分からないだろう。

 

 

 

(待て─────ロストギアは未知の技術との同調が可能だと?)

 

 

そこでふと、前に聞いた言葉を思い出した。自分が前に説明していた事の、一部分。

 

 

 

(未知の技術。あの世界での未知の技術とは何だ?まさか『聖遺物(デュアルウェポン)』? 違う、あれならば未知とは断定しない。ならばまさか──────)

 

 

 

────彼等の言う未知の技術とは此方の世界の技術───────シンフォギアの事だったのか?

 

 

 

有り得ない…………とは言い切れない。剣は、彼は前に言っていたではないか。前に出会ったエリーシャが、“此方の世界の事を前から知っていた”みたいな事を話していたと。

 

 

 

(…………全て、貴様達の掌の上という事か?エリーシャ────【魔剣計画】)

 

 

 

真剣に、事の重大さに気を引き締めようとするノワールだったが、それに気付いたでろう弦十郎が口を開く。

 

 

しかし、その後から出てきたのは───批判の言葉でも、懸念でもなかった。

 

 

 

「確かに、貴方の懸念は理解できる。だが」

『………?』

「あの力は彼が………彼等が自らの手で掴み取ったものだ。今は彼等のやる事を見届けよう」

『…………その通りだ。全くもってその通りだとも』

 

 

感慨深そうに、二人の大人はモニターに映る彼等の姿に眼を向けた。何も出来ない、それだけは確か。

 

ならば、この戦いを最後まで見届けよう。彼等の勝利を祈り、信じよう。それが大人として、無力な者として、託した者として、唯一行える事なのだから。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

晴れ渡る空にの下で四人、歌姫のような姿へと変わった少女達と全身に漆黒の鎧を纏う青年がフィーネと相対する。

 

 

光の中から出てきた青年は首を傾げ、周囲を見渡す。どちらかと言うと自分のすぐ近くにいる響達に視線を向けているようだった。

 

 

 

そして、気になったように一言。

 

 

「…………皆、なんか姿が変わってるな」

 

「それはお前もだろうが! なんか前よりもゴツくなってねぇか!?」

 

「そう言えば………装甲が増えた感じはある。だが、あまり動きには変わりない」

 

 

それどころか、むしろ軽々しく思えてくる。今の剣の状態(フォーム)はサード、通常より一段階引き上げられている。

 

 

その状態に近いが、厳密には違う。胸元に組み込まれた───三つの色、黄色と青色、赤色の光の球体が輝きを見せる。自分の中に流れる謎の力がロストギアのエネルギーと中和している事も理解していた。

 

 

驚いたのは、その謎のエネルギーが─────フォニックゲインだったからだ。剣は歌を歌わない、何より魔剣に選ばれているのでそんなエネルギーとは無縁だとは思っていたが、自分に流れる力になるとは思わなかった。

 

 

 

 

(さしずめ…………『Mode:Symphogear(モード・シンフォギア)』という事か)

 

 

勿論、完全に受け入れてる訳ではない。この形態についての謎も多くはある。むしろ警戒心しか沸いてこないのが普通なくらいだ。いつの間にか、失われた筈の片腕が繋がっているのも………何かの冗談を疑ってしまう。

 

 

だが、今はそんな事に思考を預けてる余裕もなく───

 

 

 

 

「よもや、私も知らぬ力を得るとはな………これもロストギアの影響という訳か」

 

 

クツクツと、抑え切れないような笑みを漏らすフィーネ。視線は響達、そして剣へと向けられていた。最初はある程度の興味だった。彼女からしても予想外のギアの姿、製作者であるフィーネの想像の域を越えた力に気になるものがあるのだろう。

 

 

しかしすぐさま瞳の色を強い敵意へと切り換える。

 

 

「だが!所詮は力を得ただけの事!この私が計画の為に産み出した副次品に過ぎん玩具の力を引き出した程度で!この私に勝てるとでも思ったか!!」

 

 

怒鳴り、フィーネは『ソロモンの杖』を起動させる。先端から放たれた光が地に落ちて、複数のノイズが生まれ出でる。

 

 

 

「いい加減! 芸が乏しいんだよっ!!」

 

「無理もないだろう!奴にとってノイズこそが増え続ける戦力だからな!的や物量には持ってこいなのだろう!」

 

 

だが、侮ってはいけない。

呼び出されたノイズの総量は今までの比とは思えない程の数。それは地上を街全てに至るまで増え続けていた。それでも増殖は止まることを知らず、市街地を埋め尽くしていく。

 

 

今度こそ、本気の物量で押し返そうというゴリ押し。もうこの現状では軍隊などでは止められないだろう。

 

 

 

「櫻井女史!世界中で起きてるノイズによる侵略!あれは貴様が起こしたものなのか!」

「…………正しくは違う。ノイズとは、バラルの呪詛により相互理解を失った人類が、同じ人類を殺戮する為に作り出した兵器」

 

 

地上から距離を取り、ビルの上へと移動した四人は先程からヒットアンドアウェイを繰り返す飛行型ノイズをそれぞれの手で片付ける。

 

 

「そういうことか、道理で人間に特化してる訳だ」

「………ほぅ、気付いていたのか」

「あくまで推測は範囲内だ。自然発生するにしては妙に人間相手に優れてると思ったが…………まさか人工の兵器だとは、思わなかったけどな!」

 

 

前々は生物兵器だと感じていたが、その見解が強ち間違いではなかった事に複雑な気持ちになる。剣は冷静さを保ちながら、目の前に迫るノイズ達を高速で殲滅していく。

 

 

 

触れれば人間を炭化させる能力。まさしくどんな武装や兵器にも負けない強力な力だ。遥か昔の人間が、そんなおぞましい考え方に躊躇いを持たなかったと言う事実が、正直恐ろしい話だ。

 

 

 

「バビロニア宝物庫は未だ開いたままでな。そこから十年に一度の、滅多にない偶然を私は必然へと変えた。それを力として行使してるに過ぎん」

 

「………どういうことですか!?」

 

「ソロモンの杖、それはノイズを生み出すのでなく呼び出す物という訳か。自然現象を道具で自由自在に出来るように改良した、そうだろう?」

 

 

返答は更なるノイズの増援で返された。

それが示す意味は、剣の推測が正解という事だ。

 

 

 

 

ソロモンの杖のコマンドらしき物は命令式を与えるだけではなく、呼び出すノイズの種類や数などを制御するのだろう。フィーネにとって『ネフシュタンの鎧』がシンフォギアやロストギア対策ならば、『ソロモンの杖』はそれ以外の人間達への対抗策となる。

 

 

 

ある意味では、ノイズに既視感を覚える。

魔剣士とノイズ、同じ人間が作り出した───人殺しを最適化させた兵器であるのだから。

 

 

 

しかし違うことはただ一つ。

 

自分達は────それだけの為に生きてるのではない。現に自分自身は、生きる理由を見つけているのだから。

 

 

 

フィーネからのノイズを片付けている間に、三人と離れていることに気付いて不安になったが………それはあまりにも杞憂だった。

 

 

 

響は拳を振るい、拳圧でノイズ達を吹き飛ばしていく。同じく翼も巨大化させたアームドギアで容赦なく斬り払い、クリスは腰部アーマーを飛行ユニットへと切り替え、空からの大量のレーザーで撃ち抜いていく。

 

 

 

少女達の明確な努力に、剣も頬を掻く。そして、満足そうに両頬を緩めた。

 

 

 

(俺も見てるだけにはいかないな……)

疾走(はし)れッ!【漆墜ノ魔剣双翼(ペイルブラック・ガードラック)】!!」

 

 

背中の武装、巨大な刃が花のように展開して、複数の剣へと形を変える。アンカーと接続した刃がビルや建物の隙間という隙間を掻い潜り、ノイズ達を一匹残らず串刺しにしていく。

 

 

ビルの壁を足場として駆け降りていく剣は両腕の装甲を開閉し、フルフェイスを纏う。数秒後には何十階層から地上へと辿り着いており、地上に群がっていたノイズ達を着地と同時に────風圧で薙ぎ払う。

 

 

 

(数が多すぎる。素手じゃあ対応しきれない)

 

 

《───イチイバル:コア、装填。武装換装開始》

 

内側から響く機械音声に片腕を伸ばすと、装甲が変形し始めていた。手首の部分を装甲が覆い、巨大な銃が腕の先に取りついたような形へとなる。

 

 

 

「ッ!」

 

間髪入れずに、迫り来る巨大ノイズに銃口を向けた。オレンジ色の閃光が瞬き、後ろにいるノイズを容赦なく削り取っていく。

 

射撃というよりも、ビーム砲撃の方が明確に近い。迸る閃光はまるで垂直に伸びる剣のように一直線に、ノイズ達を掃討していく。

 

 

 

彼等四人の戦闘によって、街を覆い尽くす数のノイズは数を減らしていく。もう既に半分も満たない数が削られていき、このまま全滅させるのも時間の問題だった。

 

 

 

しかし、だ。

ある程度は分かっていただろう。追い込まれた相手がどんなことをするか。答えは予想外の事、勝利を掴むためなら相手の考えを上回る手を取らなければならない。

 

 

 

 

だからこそか────フィーネはソロモンの杖で、自分の腹を貫いた。ネフシュタンの再生能力があったとしても、身体は強固ではない。皮膚や肉を破った杖からおびただしい量の血が溢れだしていた。

 

 

「ノイズよ!我が元へ集え!」

 

 

腹にソロモンの杖を突き立てたフィーネは不敵な笑みを浮かべ、掌を空へと向ける。するとその身体が色を変えていき、生き残ったノイズ達がフィーネへと群がっていく。

 

 

形の変わっていくフィーネにノイズが取り込まれていき、次第にその姿が完全に見えなくなる。だが、剣はすぐにその違和感に気付いた。

 

 

同時に、フィーネの企んでいるその意図に。

 

 

 

「地下だ!まさか奴、本部から─────」

「もう遅い!来たれデュランダル!!」

 

 

フィーネの声が響き渡ると同時に、地上にまで光が溢れ出してくる。更に地面が砕け、内側から赤紫色というグロテスクな色合いのナニかが姿を現した。

 

 

大きさ的にはカ・ディンギルや【アルビオン=カラドボルグ】よりも小さいが、それでも巨大である事には変わりはない。

 

 

蛇のような姿の竜が頭部を剣達に向ける。それだけで、粘りつくような殺気が肌を突き刺す。

 

 

声に出す必要はなかった。全員がその場から散開して回避行動を取る。直後に、激しい烈光が解放された。

 

 

 

狙いから外れた閃光はそのまま街へと突き進み───一瞬、強大な爆発を引き起こした。ビルも建物も、そこにあるもの全てが破壊エネルギーによって灰塵と化す。

 

 

 

絶句してその光景を見る三人、その横で剣は誤魔化すことなく舌打ちを吐き捨てる。自暴自棄ではない、あれがフィーネの最後の手段なのだろう。

 

 

覚醒した自分達を倒すことを可能とした圧倒的な力。それに身を纏うフィーネは、勝利の確信を顔に刻み込み、激しい敵意をオーラとして解き放つ。

 

 

 

「逆鱗に触れたのだ…………相応の覚悟は出来ているだろうなッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

その光景を、地下のシェルターの中で二課の面々も目にしていた。モニターに浮かぶ画面の赤い竜にノワールは呆れたような声を漏らす。

 

 

『おいおい……彼女はまた完全聖遺物を取り込んだのか?一つでもまだ恐ろしいのに、二つや三つも。そう簡単に融合出来るとは思わないのだが…………』

 

 

しかし、完全に不可能とは言い難いだろう。聖遺物による拒絶反応、もしくは暴走は命を奪いかねないものだ。だからこそ、一番先に半永久的な再生能力を有するネフシュタンの鎧との融合を決めたのだろう。

 

 

土壇場の切り札とは言え、完全聖遺物三つを取り込むとは畏れ入る話だ。

 

 

「───黙示録の赤き竜」

『ヨハネに記されし獣の一端か、まさかあんなモノになるとは。意図しているのかね、彼女も』

「……………分かっているのか、それは滅びの聖母の力だぞ………了子君!」

 

 

聖書の中で神や天使の敵として描かれている想像上の怪物。いつの間にかそれと同じことになった事への不安を口にする弦十郎。敵として名乗っていた名ではなく、今まで仲間だった時の名として呼ぶ彼の様子から、心配が見てとれる。

 

 

だが、ノワールの態度は変わらない。機械を動かす彼の中にあるのは、呆れそのものだった。強大な怪物の姿を目にしても、それは何一つ変わらない。

 

 

 

────ノワールは知っている。彼が、彼女達が、その程度強くなっただけの相手に、わざわざ負けるような子供達じゃないと。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

赤い竜に四人でそれぞれが攻撃を仕掛けるが、有効打にはならない。翼の蒼ノ一閃────通常よりも威力が上がっている斬撃を以てしても、あの竜は傷すら無かったことのように瞬時に再生させていた。

 

 

 

気負されていた全員。今の自分達では完全に倒しきれないのか、そうすら思っていたが…………無空剣だけは口元を押さえながらボソボソと呟いていた。

 

 

 

「─────今の奴をどうにかするには…………やはりネフシュタンを引き剥がすしか方法がないか」

「………出来る、みたいな言い方だな。櫻井女史からネフシュタンの鎧を分離できるというのか」

「あぁ、やれるさ」

 

 

即答し、彼は自らの腕を撫でる。より正確には自らの肉体に宿る武装を。

 

 

「魔剣グラムのエネルギーを叩き込む」

「魔剣、グラムを………」

「何も殺す気じゃない、目的はあの鎧を剥がすことにある。俺のグラムは聖遺物の中では上位に位置する存在だ。人体にではなく、聖遺物だけを破壊するように放出する。そうすれば」

 

 

一息ついて、明確な事実を告げる。

 

 

「フィーネとネフシュタンの鎧、それらを完全に引き剥がせる。そしてネフシュタンとの融合が解かれれば他の二つの聖遺物も同時に手放される筈だ」

「それは構わないが………確証はあるのか!?」

「ある。俺もそうやって、奴との相討ちを考えていたくらいだ。ネフシュタンの鎧を乖離させれば、全ての完全聖遺物も気にする必要はない」

 

 

前にも考えていたが、魔剣(ロストギア)のエネルギーならばネフシュタンを破壊する事が出来ると。相性や効果が理由である。

 

 

難しい話は後にして…………グラムの力ならばネフシュタンだけ破壊することも出来るという訳だ。

 

 

 

「それで?無空は何を要求する?」

「あの竜にデカイ風穴を開けてくれ。なるべく胴体を、フィーネのいる場所をな」

「なるほど、任された。防人の本気、今ここで示そう!」

「………おい剣!さっきの話、相討ちとか!後で詳しく聞かせてもらうかな!」

 

 

分かってる、と頷くと二人は背中のスラスターを噴出し、飛び出していく。響も慌てて二人に続くように向かう。

 

 

一人になった剣は片目に手を伸ばす。何も抉ることはしない。ただ義眼として埋め込まれてある結晶、グラムの残骸に…………聞こえるように、一言を告げる。

 

 

 

 

「───俺に力を貸せ、グラム」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

何度も続く戦闘によって更地にされた街中で、再び赤い竜と変じたフィーネと歌姫達が激突する。

 

 

 

 

初めに動いたのはクリスだった。背中のスラスターから発生したスピードを保ち、それよりも加速していき赤い竜へと突貫していく。

 

 

 

無鉄砲な行為。

そう判断したであろうフィーネ。しかし今の際何もしてこないはずがないとも考え、迎撃を選択する。彼女の命令を受けた赤い竜は無数のレーザーを放とうとしていた。

 

 

それよりも直前に。

クリスの後方から翼が飛来して、アームドギアを身構える。大剣へと形を変えていたアームドギアは、更にその大きさを何倍も巨大化させる。

 

 

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

巨大化した刃を、蒼と黒のエネルギーを帯びた大剣を、赤い竜の胴体に向かって振り下ろす。蒼ノ一閃に似た一撃、しかし威力までは同じとは言えない。

 

 

 

離れた斬撃状のエネルギー波は赤い竜へと向かっていたクリスの間近を通り過ぎて、狙いであった胴体へと直撃した。

 

 

命中した所で、激しい爆発が起こる。一閃のエネルギーが赤い竜の体を抉り、更に大規模な破壊を引き起こしていた。

 

 

 

だがしかし、それだけでは終わらない。赤い竜に空けられた穴はすぐさま再生を始める。

 

 

だがしかし、その間をクリスが飛び込んでくる。内部へと入り込んだクリスの視線が、フィーネの眼と衝突する。

 

 

 

 

「ッ!クリス!!」

「フィーネ!あたしからの全力だぁ!改めて受け取りやがれぇぇぇぇッ!!」

 

 

非行ユニットを解除し、展開された八つの砲身から真紅のレーザーを放射する。乱雑、正しく乱れ撃ちとも呼べる攻撃は竜の内部を削り、穿ち───主であるフィーネに大ダメージを与えていく。

 

 

 

 

「きっ、キサマらァァァァアアアアッ!!!」

 

 

苦悶を無視して、喉の奥から咆哮をあげる。フィーネは片手に掴んでいた完全聖遺物─────デュランダルを持ち上げて、構える。

 

 

 

無尽蔵を誇るデュランダル。

月を穿つ荷電粒子砲 カ・ディンギルの動力源として用いられた代物だ。赤い竜の放つ破壊の閃光も、デュランダルの力によるもの。

 

 

もしこの場でそれが放たれればクリスも無事では済まない。こんなに狭い閉所であるなら当然の事だ。すぐさま他の銃を展開し、フィーネの攻撃を止めようとするクリス。

 

 

だが、既に黄金の剣からエネルギーが溜め込まれている。今にも解き放とうとしていたフィーネは、照準を向けるだけで良かった。

 

 

 

 

 

 

─────突如飛来した光線が、フィーネの腕を削り取り、吹き飛ばすまでは。

 

 

 

「ッ!?」

 

銃を身構えていたクリスと、デュランダルを行使しようとしたフィーネが驚愕する。つまり、それは目の前にいるクリスのやった事ではなかった。

 

 

 

見ると、ロングコートの青年が立っていた。しかし足場はない、彼は何事もなさそうに浮いているではないか。片手でデュランダル………を掴むフィーネの腕を持っていた。が、その生々しい腕を握り潰す。

 

 

潰された腕は灰塵と化し、デュランダルを掴む手も消えていく。黄金の聖剣は物理法則に従った落ちようと──しない。その場にただ漂い続けていた。 まるで、青年を主と選んだかのように、側に寄り添っている。

 

 

輝かしい光を横に、ロングコートの青年は顔色を変えない。まるでそれが自分にだけ適応するとでも言うような堂々とした態度を一貫とする。

 

 

 

「悪いな、先史文明の巫女」

「貴様、エリーシャの────」

「これは誰にも相応しくない。聖剣を振るう事が許されてるのは、俺のみだ」

 

 

デュランダルを軽々しく手にし、青年はすぐさまこの場から距離を取った。デュランダルを取り替えそうと、追ノイズによる触手を伸ばすフィーネだったが、

 

 

 

青年に近付いた時点で、触手が切り裂かれる。いや、何かが削り取ったようだった。自分に攻撃を仕掛けて来たフィーネを、青年は睨みつけながらもう片方の空いた掌を向け、

 

 

 

 

 

「置き土産だ─────受け取れ、亡霊」

 

 

特大の閃光を叩き込んだ。どういう原理かは分からない。近くにいたクリスは慌てて回避しながらも、そのおかしな現象に眼を疑った。

 

 

───掌から光を放った、というのは少し違った。何もない空間から光が生じた、それがクリスに言える事だった。

 

巨大な光を直撃したフィーネの身体の大半を消し飛ばし、竜の身体にも風穴を開けていた。だが、これで死ぬようであれば彼女は既に生きていない。すぐに肉体と竜そのものを再生させ、下手人を探す。

 

だが、

 

 

 

 

「クッ!よくもデュランダルを!」

 

 

青年は既に姿を消した後だった。完全聖遺物を勝手に持ち去ってしまった。追跡しようにも、状況が状況である為に諦めるしかない。

 

 

三つの完全聖遺物による布陣、その一つが奪取されたことにより、最強の力が失われてしまった。無限の再生能力、それをノイズによって強引に補強した状態。不死身にも近い身体も、デュランダルという無尽蔵のエネルギー源が無ければ彼等を倒す有効打とはならない。

 

 

 

 

翼とクリスの猛攻、それによってデュランダルも手から離れ、再び追い込まれてしまった。勝利を確信していた三位一体の陣形が破られたことで。

 

 

 

 

 

「………それが、どうした」

 

自らの肉体も修復し、風穴の開けられた竜の胴体も戻しながら、フィーネは呟く。

 

 

 

ゾワゾワッ!! と。

 

彼女のオーラが、殺意が膨れ上がる。彼女にとって、こんな所で諦める訳にはいかない。何千年も望んでいた事を叶えるチャンスなのだ。これしきの事で折れるのなら、自分の子孫達の身体に乗り移ってまで生き永らえようとはしない。

 

 

 

 

 

 

だが、フィーネは気付かなかったのだろうか。竜へと化した自分の因果に。

 

 

ネフシュタンの鎧と融合するのも、ソロモンの杖によってノイズを纏ったのも、デュランダルを引きずり出したのも、関係ない。ただ一つの事実が、追い込まれたフィーネにとって最後の猶予が失われた。

 

 

 

無空剣という青年が宿し、その身に受け入れた魔剣。その魔剣はどんな名前だったのか。どんな偉業を成し得ていたのか。

 

 

 

 

二人の真後ろから、飛び立つように空へと飛来している剣の姿。開けられた穴から、フィーネは刮目した。

 

 

 

 

《龍剣グラム────魔剣解凍、実体開始》

 

 

掌から、黒曜の剣を顕現させる。実際は人間の技術で再現した太古の時代に造られた神の遺物。

 

 

 

───魔剣グラムは、北欧神話から存在していた魔剣である。その魔剣は親子代々に引き継がれてきたという経歴や折られた剣から新しく作られたという話もある。が、一番有名な話は当然限られている。

 

 

魔剣グラムは英雄シグルドの武器として振るわれていた。彼の宿敵とされている─────魔竜ファフニールを殺す要因となったのだ。それ故に、こう言う二つ名が与えられている。

 

 

 

 

 

────最強の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)、と。

 

 

 

 

 

「──はァァァあああああああアアアアアアァァァァァァァァッッ!!!」

 

 

両手で黒耀の魔剣の柄を触れ、握り締める。背中のブースターからエネルギーを放出し、自らに掛かる力と速度を高めていく。

 

 

複数の触手が迫り来るが、それを回避───分離している【魔剣双翼】で打ち破り、躊躇いもなく突破する。

 

 

本体であるフィーネの強張る顔が見えてくる。そのまま掴む魔剣を前に突き出し、刺し貫く構えを取った。彼女本人にグラムの魔剣を突き刺さなければ、ネフシュタンの不死性はどうしようも出来ない。

 

 

後少し、フィーネの胸元へと迫ろうと。赤い竜に空けられた穴を突破した直後だった。

 

 

 

 

 

 

カァァァン────ッ!!

 

 

金属に金属を打ち付けるような、甲高い音。それと同時に武器から腕へと流れ込む衝撃に、剣は大きく顔をしかめる。

 

透明な、障壁のようなものが、漆黒の剣先の前に立ち塞がっていた。『アルビオン』の使うような衝撃波とは違う、何らかの力が働いていた。

 

 

 

「………こんな所で」

 

 

ボソリ、と。

呪詛が漏れる。

最後の最後まで抵抗を止めず、自分の邪魔しかしない相手への恨みが。言霊のように乗せられる事で、執念という禍々しい気が膨れ上がる。

 

 

 

「こんな所で…………私の想いが!貴様らなんぞに!破られてなるものかぁぁぁああああああああッッ!!!」

 

 

赤き竜の内側で、フィーネが憎悪に満ち足りた声をあげる。その形相は正しく鬼そのもの、無空剣を憎い相手かのような眼で睨み付けていた。

 

 

そして、フィーネの彷徨に答えるように竜の肉体が増幅していく。それと同時に障壁も厚さを増し、龍剣グラムを少しずつだが圧倒する。

 

 

 

 

 

「ッ!!まず─────」

 

 

押し返される。

そう思い力を入れ直そうとしたその時、ようやく自分の状態に気付いた。片腕が、大きく後ろへと弾かれてしまったのだ。

 

 

既に、肉体的には限界でもあった。オーバーヒート、彼は短期間で魔剣の力を解放し過ぎていた。この戦いで、どれだけ魔剣の力を連続して行使した事か。

 

 

その反動が、今現在の好機に掛かってきた。こんな所で! と剣は噛み締める。それでも限界を乗り越えようにも、今の自分にそんな余裕はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時、だった。

 

 

 

 

 

自分の掌、最後まで龍剣グラムを掴む手に温かい感触が触れる。人の手が、自分の手に重なるように添えられたのだ。

 

 

思わず呼吸が止まりそうになる。この激しい衝突下で、自分の隣に誰かがいた。その相手を見て────剣は更に、衝撃を叩きつけられた。

 

 

 

 

 

「…………ひび、き?」

 

 

自らの隣で、龍剣グラムに手を添えた少女がそこにいた。しかしその顔は険しい。今にも押し返されそうな状況下、疲弊してる無空剣ですら圧倒されそうな力の圧を、響は何とか耐えようとしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

────ったく、何ぼぉーっとしてんだよ。

 

 

 

 

 

────その子が精一杯頑張ったんだ。他の皆も、翼も。皆が皆が、誰かを守る為に戦って、全てをあんたに託してるんだ。

 

 

 

 

 

────ほら、最後に一発決めてやりなよ。最強の魔剣士なんだろ?

 

 

 

 

「…………好き勝手、言ってくれるな」

 

 

チラリと視界の隅に、赤い髪が映った気がした。そして自分にだけ聞こえるように告げる人物の声に、剣は本心では思ってない悪態をつく。

 

 

突然の独り言に首を傾げながら此方を見やる響。心配そうな視線を受け、大丈夫だと目配りをする。

 

 

 

少しだけ考えて、彼は響の名前を口にした。更に不思議そうになる彼女の顔を見据え、彼は自らの思いを吐露する。

 

 

 

「俺は、お前に会えて良かった。この世界で初めて出会えたお前に出会え(救われ)て、本当に良かった」

「……剣さん」

「だから、今は無理を通そう。─────手を、繋いでくれるか?」

「………はいっ!!」

 

 

 

剣は引き離されていた右手をゆっくりと、響の左手に重ねる。温もりを感じながら優しく、互いの手を握り合った。

 

 

左手で、右手で───竜殺しの魔剣をもう一度、握り締める。隣にいる青年(少女)達は自然と笑い合う。

 

 

 

 

 

 

 

黒星龍歌METEOR BURST

 

 

 

 

スラスターとブースターが火を噴き、障壁を穿った。薄氷のように砕け散る透明な物が、辺りに散らばる。

 

 

そして凄まじい勢いを殺すことなくフィーネの胸元へと迫り─────深々と、その中心を突き刺さった。

 

 

 

引き裂くような絶叫が、フィーネの喉から溢れ出す。同時に剣と響も、全力を振り絞るかのように、大きく吼える。

 

 

竜と同化しかけたその肉体が、貫かれた部分から細い光のラインを生じさせる。放射線状にフィーネの肉体へと浸透していき、フィーネはある事実に気付いた。

 

 

 

貫かれたのに、苦痛はない。心臓を抉られ、肉体を破壊される感覚が来ない。それなのに、今ある身体は砕けるかのようにヒビが入っていく。

 

 

いや、壊れているのは身体ではない。自分が融合していたモノであった。

 

 

 

(────馬鹿な!?ネフシュタンの鎧が引き剥がされているというのか!?完全に融合したこの私から!?それも私ではなく、ネフシュタンだけを破壊するというのか!?)

 

 

彼女がそう思ったのも一瞬。

一泊遅れたタイミングで大きな爆発が、二人とフィーネを飲み込む。爆発を直に受けたことが理由か、そもそも主であるフィーネからネフシュタンが失われたからか、竜の身体は朽ちていき────すぐさま、完全に崩壊していく。

 

 

 

 

地上で倒れていたタクトは、僅かに意識を取り戻す。崩れ去る赤い竜、そこから離れる複数の人影を眼にして、彼は口元を薄く緩めた。

 

 

 

 

 

─────ようやく、終わったのか

 

 

悠久を生き続けた巫女の願いの終わり。その事実を受け止めながらも、白き青年は何処か満足そうな顔で再び意識を失った。




割と考えてみましたけど………白い竜(タクトINアルビオン)と赤い竜(フィーネ&三つの完全聖遺物)


これって何の神話なんですかねぇ………?まぁ、片方はアルビオンという白い竜のモチーフでもう片方は黙示録の獣つーヤベー奴versionなんですが。




さて、それでは次回もよろしくお願いします!

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