戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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遅れたけど問題ねぇよなぁ!!(震え声)


日常、非日常

『集まってくれてご苦労様だね、君達。折角の休日だと言うのに』

 

 

 

コラボレーションライブで発生したテロ───マリアを筆頭とした敵組織 Fineと、乱入してきた魔剣士 如月刹那による大事件から数日が経った後。

 

各々が普通に日常を過ごしながらも、マリア達と如月刹那の動きに警戒をしていた所、彼等を収拾する連絡があった。

 

 

相手は ノワール・スターフォン。

魔剣の第一人者にして、遠因とはいえ魔剣士を生み出す事になってしまった人物。しかし今現在は────無空剣の保護者代わりとなっている。

 

 

 

二課の施設─────ではなく、剣(とクリス)の自宅に響と翼を呼び出したのだ。勿論、全員が問題なく集まってくれた。

 

 

ノワールはそんな彼女達に詫びるように謝礼を口にする。剣の用意した機械から発現しているホログラムのような映像体の男性は、困ったように複雑な笑みを浮かべていた。

 

 

そんなノワールに、椅子に座っていた翼が立ち上がり、真面目な対応を取る。

 

 

 

「博士、ご心配にはいりません。事前からの連絡で緒川さんに予定のない日にしていただきましたので………」

『だがねぇ………彼女達からの宣戦布告から未だ数日が経っている。休める時は休ませたいのだが、今後の事に関わることなのでね。本当にすまない』

 

 

………普通ならば、ここまで気を張るような事ではないかもしれない。だが、ノワール博士からすれば、彼女達は前線で戦い馴れてるとはいえ、まだこれから未来がある少女達。彼女達には平和な生活を謳歌して欲しいという考えがあるのだろう。

 

 

 

────黙って聞いていた剣は、あまり自分よりも年下の子供達への対応が苦手な博士の戸惑いとか、そんな感じのものが滲み出ているのがよく分かる。だからこそ、助け船を出すついでに、この話の本題に触れることにした。

 

 

 

「それで?何か分かった事があるのか?」

『────ふむ、まずは武装組織Fine(フィーネ)についてだが……………』

 

 

 

顎を撫でるように、黙り込む。しかし数秒後、彼は口を開いた。そこから出てきたのは、乏しくない成果だ。

 

 

 

 

『これと言って、詳しいことは不明だね。分かるのは、彼女達が米国の有していた組織からの反乱分子のようなものだと』

「それに関してですが………米国からの反応は?」

『これがね…………知らぬ存ぜぬで通されてるよ。証拠はあるのか、言い掛かりも甚だしい、とね。運が悪いことに、中継が途絶えていたのでこの事を知ってるのは我々のみになる。─────だが、我々の立場上、その事を明るみには出来ないだろう?』

 

 

 

突如乱入してきた如月刹那の話……………マリア達、武装組織 Fineは単なるテロリストではなく、米国の組織から発生した反乱分子のような存在であるということ。

 

 

これが実際に世間に公開される事はない。米国からすれば自分達の失態をわざわざバラしたいとは思わないだろう。どうせこのまま勝手に隠蔽して、その事実であるマリア達ごと真実を抹消しようと企んでいてもおかしくない。

 

 

「じゃあ、あたしらがブッ壊したあのデカブツはどうなったんだよ?」

『無論、米国に回収されたよ。テロリストの持ってた兵器として、ね。全く、大国というのはズルいものだよ。情報統制も早めにしてる、お陰で此方も手の出しようがなかった』

 

 

忌々しく吐き捨てるノワールの言葉通り、先日剣達が破壊した大型兵器────《フルメタル・エクステッド・アグレッサー》の残骸は、日本政府が確保しようとしたが、それよりも先に米国政府によって回収されてしまった。

 

 

その行動の理由としては、『この兵器の情報は未知数だ、科学力も技術力も我々よりも最先端をいっている。だからこそ、我々の有する最先端の技術での解析を行ってみる』との事らしい。同じように刹那から明かされた事実を知る自分達からすれば、どう考えても自分達の不手際を誤魔化すための言い訳にしか見えない。

 

 

外務大臣や防衛大臣が動いてくれてはいるらしいが、未だ大きな進歩にはなってないらしい。

 

 

『ま、あの兵器は君達のコンビネーションで全ての回路を含めてまとめてオジャンになってるんでもう二度と使い物には出来んし、分解も意味がないのだが。そこだけは実に痛快な話だ』

「は、はぁ………」

 

 

随分とトゲのある言い方だ。まぁ、ノワール博士からすれば米国は何の活躍もしてないのに勝手に戦利品を奪った挙げ句に自分達の不始末を誤魔化してる連中だ。そもそもの話からすれば、剣の身柄やシンフォギア装者の個人情報を要求してくる位だ。博士からすれば、物凄く不愉快な存在なはずだ。少しだけでも彼等にとってミスがあれば、スッとする気持ちなのだろう。

 

 

 

『話を戻すとして………私個人が気になる事は少しだけある。彼女達の組織名、フィーネについてだ』

 

「………」

 

『君達の懸念は分からない訳ではない。何故、彼女達がフィーネと名乗っているか、だろう?まぁ、名は体を表すと言う。彼女達にとって、フィーネという名前は重要な意味合いを持つのかもしれないんだがね』

 

 

しかし、それだけでは役には立たないだろう。名前からだけで相手の目的や計画が分かるというなら苦労はしない。何故フィーネにしたのか、それが分かれば苦労はしないのだが。

 

 

そうしてる間に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────ハン、どうやら手詰まりのようだな」

 

 

何処かから、小馬鹿にするような声が響く。その声に心当たりがある全員が、その方に視線を向ける。

 

 

部屋の出入り口である扉。そこに背を預けながら、此方を見据えてくる白一色の青年─────虹宮タクトがそこにいた。

 

 

 

「なっ!?タクト!?」

「てめぇ!何しに来やがった!?」

 

 

「安心しろ、別に勝負かましに来たんじゃねぇよ。そこの博士から呼び出されたに過ぎねぇよ、このオレもな」

 

 

立ち上がり、ペンダントを手にする翼とクリスを片手で制する。だが、二人は大人しく引き下がる所か息を呑み、冷や汗を流していた。

 

 

虹宮タクト───セカンドタイプである彼は全身が機械で構成された新世代のサイボーグ。その実力は剣程とはいかないが、恐ろしいのは人間離れしたサイボーグとしての戦闘能力だった。

 

 

ロストギアを纏う必要の有する剣とは違い、彼はロストギアなど必要ない。魔剣カラドボルグの残骸をコアとして動いてる彼は、謂わば常にロストギアを装着してると言ってもいい。

 

 

そんな彼相手に、生身で対応していいのかと二人は考えていた。改心した、もう何もしないと言われても一度は命を賭けて戦った身。何より彼は二課の本部で拘置されていた、そう簡単に信じられるなら苦労はしない。

 

 

翼達とは違い、それぞれの考えでタクトを信用していた剣と響はタクトの姿を見て驚愕しながらも、彼に声をかける。

 

 

 

「外に出ていいのか? よく司令が許可を出してくれたな」

「───まぁ、今回は少し話すだけだ。さっきの話、テメェらの敵である連中について」

「マリアさん達、ですか?」

 

 

不安そうに聞いてくる響を横目で見据え、そうだ、と答えた。いつも響に刺々しい(本心ではないのは確かだが)彼にしては、少し優しめな感じが受け取られる。

 

 

 

その理由は、すぐに明らかにされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先日、あの会場での事件の際、微弱だがマスターの反応を察知した」

 

反応は様々だった。呆然とする者、明らかに驚愕する者、言葉を失う者、冷静ではあるものの明らかに動揺を隠せずにいる者。

 

 

そんな彼等の反応を見ても、ノワールだけは身動ぎすらしなかった。まぁ話の内容を分かっていたからこそ、タクトをここに連れてきたのだ。最初は驚きはしただろうが、今は納得しているのだろう。

 

 

「誤認かと疑ったが、嘘じゃねぇ。アレは確実にマスターの反応だ。ほんの一瞬だけだが、あの会場内でマスターの存在が確認できた、これだけは間違いじゃねぇと保証する」

 

「………でも、フィーネさんはあの時………私達の目の前で……………」

 

 

 

否定したいと言わんばかりに首を振るう響。だが、その横で剣が重く閉ざしていた口を開いた。

 

 

 

「────いや、フィーネはあの時言っていた。自分の意識を先祖のDNAに刻み込んでいる、アウフヴァッヘン波形を感じ取る事で目覚める、と」

 

 

あの事件、フィーネが消失してからもう1ヶ月も経つ。その間に次の器にフィーネが宿っている可能性もある。

 

問題は、マリア達との関係性だ。

ただ会場にいた一般人を、フィーネとして覚醒させる事が目的か。或いは既に仲間の一人にいるのか、フィーネの器たる人物が。

 

 

ならば、納得は出来る。連中があの会場内でテロを仕掛けたのが、フィーネを目覚めさせる為ならば、何故わざわざ人質に固執しなかったのかも。

 

 

いや、そもそもの話、彼等の目的がフィーネを目覚めさせる事ではないと思われる。あの場で放たれた絶唱、大量に放出されたフォニックゲインが起動させるのはフィーネの意識だけではない。

 

 

────完全聖遺物、その可能性も有り得るのだ。

 

 

「ま、フェイクの可能性もある。そう難しく考えるんじゃねぇよ。気休め程度、一応警戒しとく位に考えとけ」

「………貴様はどうするつもりだ?タクト」

「あ?」

 

 

翼の詰問に、タクトは眉をひそめる。何を言っているのかと呆れるように感じに近い。

 

 

「フィーネは、貴様にとって主だろう。彼女がもし復活していたとして、貴様はすぐさま────」

「──────行ってどうなる、役立たずのオレが」

「ッ…………すまない」

 

 

吐き捨てるような一言に、翼は自分が言い過ぎた事に気付き、謝罪の言葉を述べる。しかし気を遣われた事自体気に入らないのか、隠すことなく舌打ちをするタクトは黙って部屋から出ていこうとする。

 

 

『おや、もう帰るのかね?』

「………元より、この事を伝える為だけに来ただけだ。アイツらと温い馴れ合いするつもりじゃねェよ」

『やれやれ、困ったものだね。これが俗に言うツンデレとい──────』

 

 

瞬間、タクトは無視して出ていった。扉を強く閉めた事から分かるように、あれは明らかにキレてた。ノワール博士なりの冗談だったようだが、タクトからすれば気に食わない所か不愉快だったらしい。

 

 

その場の空気が絶妙になる。そうしてくれた当の本人は、全く………困ったものだね、と嘯いている。割と困ってるのは此方の方だと理解して欲しい。

 

 

 

『さて、武装組織 フィーネの話は後回しにしよう。分かった事があれば君達に報告をする次第だしね。我々が気にするべき次の問題は─────』

 

 

 

 

 

 

「────如月刹那、だな」

 

 

そう名乗る青年の声音を思い浮かべるが、剣はその青年の実際の姿を知らない。同じ魔剣士ではあるが、同じように活動していた訳ではない。刹那本人からすれば無空剣は有名人だからこそ知っててもおかしくはないが、剣は刹那の事を全く把握してない。

 

 

唯一知ってるのは、彼が全ての魔剣士の中でも四位という、自分に食らいつく実力を有する者だということ。

 

 

それ以外の情報は、残念ながら剣は知らない。自分よりも詳しく知っているのは、ノワール博士位にはなるのだが─────

 

 

 

 

 

『すまないが、彼について詳しい事は私にも分からない。元々専門外のモノだったからね』

 

 

やはり博士としてもお手上げに近いらしい。

 

それも当然だろう。【魔剣計画】はあの世界で最高峰の技術を有する組織化。大切な情報を他に漏洩しない為の情報統制は厳重にされており、同じ組織の一員ですら情報の全貌を知らないことなど普通にある。

 

 

しかし、詰みという訳ではない。

 

 

『分かるのは、彼のロストギアスが何なのか。彼はその身に何を宿しているか、くらいだね』

 

「…………」

 

『彼はロストギアス、魔剣士だが……………魔剣を宿している訳ではない。彼が宿してるのは、「()()」だ』

 

 

それを聞いた途端、響達三人が耳を疑うように首を傾げた。

 

 

「え?じゃあ何で魔剣士なんですか?」

 

「魔剣とは、絶大な力を有する過去の武具の事だ。剣である事や魔の力を持ってることが前提じゃない。一々魔槍士とか、聖剣士とか、分けるのも面倒だろ。そういう話だ」

 

 

へー、そうなんですか、と響が納得したように頷く。要するに区分の問題だ。一々別々の名称をつけるより、一括りの名称にした方がまとめやすい。

 

あの青年、刹那自身も己を魔剣士と名乗っていた。そういう拘りなどはあまり持ってないのだろう。

 

 

『自分に相応しき適性を有する者を複数人選ぶ魔剣とは違い、各々に見合う適合者をただ一人しか認めない聖剣。彼はその聖剣の中でも特殊とされている、異端なロストギアの使い手さ』

 

 

そして、と博士は続ける。

 

 

 

 

 

 

 

『彼がその身に宿す聖剣の名は───────デュランダル』

 

 

思わず、三人の少女達が息を呑む。無理はない。剣も、彼女達が何を思い浮かべているのかはよく分かっている。

 

 

数ヵ月前、ルナアタックの際に、とある青年が乱入してきたらしい。その場にいたクリスは、その青年の声が、如月刹那と同じだったらしい。つまり如月刹那は前からこの世界に来ており、あの戦いに参戦してきた。

 

 

 

その狙いは、ただ一つ。

 

 

無限のエネルギーを有する完全聖遺物。かつて響が起動させ、二課にて保管されていたが、最終的にフィーネに利用されてしまった代物。

 

 

その名前は、デュランダル。彼 如月刹那の狙いは、此方の世界のデュランダルを確保すること。そして自分自身との融合───所謂、デュランダルとの同化だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

人気のない工業施設。

鉄材に腰掛けて、ロングコートを着込む如月刹那は静かにスマートフォンを弄っていた。勿論、それは彼のものではない。

 

 

 

「………ひっ、ひぃぃ」

 

ガタガタと震える若者はそんな青年に対して頭を下げていた。目すら向けられていない、眼中にないとしてもそうするしか助からないと直感的に理解していたからだ。いや、そうした所で助かるとは言えないのだが、可能性には縋るしかない。

 

 

その若者は、犯罪手前の事をしている人間だった。

ノイズ生存者を迫害し、イジメ紛いの行いが続いている世の中。彼等は一際法律を破るような事をしていた。

 

 

生存者達を捕まえ、リンチにする。金目のものを奪い、好き勝手して暴れるような犯罪者達だ。それなのに、彼等のやる事には正義の大義名分がついてしまう。

 

 

国が取り締まった所でそれは消えることがない。国からすればノイズ被害者は秘匿されているシンフォギアに関する情報を隠蔽する為、そしてノイズに対処しきれなかった事への賠償金。

 

 

生き残った者達への権利が、いつの間にか不満へと変わる。そして不満は、過剰な差別へと変化してしまう。そうして、ノイズ被災者達は迫害のような扱いを受けるようになってしまった。

 

 

生き残る為に他の人間を踏み落とした。極僅かな人間の行い、それ自体が本当にあったのかも分からないのに、彼等に対する非道な扱いが行われる。過去に浸透していた正義という名前の理不尽な暴力、今回もその一端だった。

 

 

 

 

しかし、そんな簡単に彼等の自由が続く訳がなかった。法律で取り締まられた、という事ではない。いや、それならどれだけ幸せだったことか。

 

 

 

彼等の前に現れたのは、法に縛られぬ存在だった。この世界ではない、もう一つの世界から訪れた────力の体現者とも言える存在。

 

 

 

突如として現れた如月刹那に、彼等は蹂躙されてしまったのだ。文字通りの意味で。

 

 

 

 

「─────ノイズ、ノイズ被災者。ルナアタックの英雄、無空剣か…………まさかヒーロー扱いされるとはな、アイツが。随分とまぁ、都合が良いもんだ」

 

 

 

スマートフォンからのニュースや新聞を見て鼻で笑う刹那と震える若者、端で怯える二人の少女の周りは、凄惨な光景だった。

 

 

生存者は彼等以外存在しない。皆、物言わぬ肉塊へと成り果てている。腕が無いだけでもまだマシな方、最悪の場合生きたまま大型ゴミを処理する装置の中へと放り込まれていた。

 

 

刹那としては、何も遊んでいた訳でも、いたぶってた訳でもない。最初は見逃そうともした。単に話が聞ければ良かっただけなのに、相手が勝手に喧嘩を吹っ掛けてきた。

 

 

だからこそ、容赦なく全員殺して見せた。一人だけ残してたのは、生かしておく事に価値があったからだ。逆に言えば、価値さえ無くなってしまえば、この男は何時でも殺せるという事になる。

 

 

 

「もう許してくれよ。何でもするさ、金も出すよ……。だからさ」

「まだだ。何の為にお前を生かしたと思ってる。俺が言う情報の正誤を確かめるためだ。グダグダ抜かすと片腕を使えなくするぞ」

 

 

ひぃぃぃっ!? と情けない叫び声を無視する。スマートフォンを弄っていたが、何も成果が無かったのか舌打ちして遠くへと放り投げる。

 

 

ジロリ、と刹那は自分よりも歳上かもしれない若者を見下ろす。鉄材の上に腰掛けながら、彼はゆっくりと口を開いた。

 

 

───言って聞かせるように、しかし冷徹さを保ちながら。

 

 

 

「シンフォギア、聖遺物。知ってるならさっさと場所を吐け。それに関する人間を見かけただけでも構わん、一つも残らず喋れ」

「………し、知らない。そんなの俺は知らな───」

 

 

嘆息し、刹那は指を振るう。

たったそれだけの行動だった。それ以外に何をしたのか、若者には何一つ分からなかった。

 

 

 

 

ザシュッ! と。

切れるというよりも溶接のように切断されるような嫌な音が鼓膜に残る。そして視界の中に、何かが飛ぶのが見えた。

 

 

 

それは確か、二本分の指─────確認してみて分かったが、自分の右手の指が欠けているらしく、飛んだ指が自分の物だと───────

 

 

 

 

「……………あ、え?」

 

呆然としてからすぐに、脳髄に激痛が走った。そして同時に、脳が現実を処理できずに痛みと恐怖に襲われる。

 

 

 

 

何が起こったのか分からない。ただナイフで切られただけならここまで怯えることはなかった。だが、自分が何をされたのかも分からなかった。未知という名前の、異質な恐怖。

 

武器や刃物で脅されるのとは違う恐怖に、最早何事も考えられない。

 

 

そんな不可思議な現象の原因と思われる如月刹那は顔色を変えない。変える価値すらないと言うように、言葉を紡ぐ。

 

 

 

「次は完全に切り落とす。一瞬じゃ済まさない、ジックリと時間をかけて、骨ごと切断する。腕一本だけでも十分に苦しめることは出来る。それを理解して質問に答えろ」

 

 

しかし、金髪の若者は答えない。

涙ながら呻くだけだ。痛ぇ………痛ぇよ………と、己の手を大事そうに抱え、情けない声を必死に漏らす。

 

 

 

だが、それは逆効果だった。

不愉快に感じたのか、刹那は躊躇なく若者の腕を踏みつける。

 

グシャリ、と。骨が折れたのではなく、完全に粉砕された。悲鳴というよりも金切り声のような絶叫。しかしやはり機嫌を悪くさせたらしく、刹那は黙らせるように若者の目の前の地面を踏み潰し、砕く。

 

 

───思わず、恐怖を押し殺し、ようやく声を押さえ込む。そんな若者に刹那は地面を踏み抜いた右脚をゆっくりと下げ、指先を顔へと向ける。

 

 

苛立ちを隠さないような声音で、彼は自分達の立ち振る舞いを間違えた愚者を見下ろす。今度こそ静かに言って聞かせる、暗に次は無いとでも言うように。

 

 

「────話を遅らせたら次は顔の皮膚を削ぎ落とすぞ。とっとと答えろ───────シンフォギア、聖遺物、完全聖遺物。これについて情報を残らず吐け」

 

 

 

ガタガタと、震えを止めない若者の顔は涙と鼻水で汚れてしまっている。そのまま、必死に彼は青年に向かって叫んだ。

 

 

「本当ですぅうっ!じ、じらないっ、じらないんでず!聖遺物とか、よく分からないんでずぅ……!一度も聞いたこと、ありませんっ!!」

「…………」

 

 

今度は嘘ではないと気付き、スッと指を下げる。代わりに刹那はふぅん、と呟き、思考に明け暮れることにした。

 

 

(なるほど、国が隠蔽してる訳か。それもそうだな。聖遺物、悪用される可能性の高い代物だ。下手に露見したらテロリストに使われる可能性も高い…………ま、現に使われてるみたいだが)

 

 

「ふん、無駄な手間だって事か。それにしても」

 

 

ジロリと、視線を若者から隅の方で互いを抱き合っている二人の少女に移す。

 

 

その姿は、あまりにも痛々しかった。

髪は引っ張られたのかボサボサになっており、顔には殴打の痕が残っている。ただ殴られただけではないらしく、もう片方の少女の顔には切られたような痕が残されていた。

 

 

服もはだけ、破れ欠けているのは彼等にやられたからか。何をしようとしていたのか、想像もしたくはない。

 

 

「無抵抗なガキ二人を痛めつけるとはな。ノイズから生き残っただけであの扱い。純粋にあのガキ二人の運が良かっただけだろうに……………馬鹿しかいねぇのか、この世界の一般人(モブ)どもは」

「……す、すみません……すみませんっ」

「馬鹿以下のクズには期待すらしてねぇよ、少なくとも役に立ったから構わねぇが」

 

 

刹那自身、分かってはいる。

空気というものは、簡単に人を変える。一般人であろうと戦場の空気になれば戸惑う者が多いが、最適化して生き残ろうとする者もいる。他の人間を殺してでも。

 

 

彼等はそれが悪い方に傾いた結果だ。元々はただ悪ふざけをして笑いあってる悪ガキ達だったとしても、環境や空気というものがそれを変質させた。社会の空気というものは、人を簡単に悪い方へと落とす事が出来る。

 

 

適当な人間を必要な悪として、大勢で叩くのその一つでしかない。結局は、彼等だけが全面的に悪いという話ではない。

 

 

 

だが、そもそもの話。

空気や環境に流されたからと言って、コイツらが元よりまともだったなどと信じるほど、如月刹那は甘い夢を見た生き方はしてない。

 

 

「俺が嫌いなのは何かに分かるか?─── 弱者をいたぶる事だ。言っとくが、別に闘争自体にあーだこーだ言うつもりはない。むしろ戦いとはそういうものだ、勝者と敗者、それが出来るのは当然の摂理だ。それに文句を言うつもりはない」

「………っ?」

「だが、そういう意味じゃないのはよく分かってる筈だ」

 

 

周囲に意識を向けず、刹那はゆっくりと語り出す。

 

 

「弱者が同じ弱者をいたぶる。社会的な立場や集団としての力を利用して、特定の個人や少数を責め立て、自分が上だと、強いと勘違いしてしまう。…………全く以て反吐が出る」

 

 

差別や迫害、多勢による言葉の暴力。

それら全てが、如月刹那にとって地雷となっていた。魔剣士とて人の悪意に触れ続けた結果─────己の在り方を歪めてまで、何かに拘る青年は沸々と感情を煮え滾らせる。

 

 

 

 

「笑わせるな!力も持たない雑魚が、都合の良い相手を踏みつけ、罵倒し、貶す程度のゴミクズの分際で!いつの間に強者の立ち位置に立ってる!?図に乗るなよ有象無象!お前らは一体どの面で!相手を自分の手で倒せるような力を持った強者だと、俺達と同じ立場にいた気でアホみたいに自惚れてんだ!?あ゛あ゛!?」

 

 

 

 

怒りのままに吼えていた刹那。連動するように周囲の空気がピリつき出し、軋むような感じへとなっている。下手すればこの威圧感だけで人を押し潰し、恐怖によって死なせかねない程だ。

 

 

 

最早、怒号でしかない声音は張っていた彼は、すぐに何かに気付きハッとした顔を浮かべる。悲鳴すらあげられずに硬直している若者と少女達を見て────、

 

 

 

 

「─────悪かった。少し頭に血が(のぼ)った」

 

 

本心から言うように、申し訳なさそうな様子で謝ってきた。彼自身想定していなかったものらしく、先程までの過激さが鳴りを潜めた感じだった。その様子は、異常の一言でしかない。

 

 

まるで、人格に歪みでもあるかのように。

 

 

 

 

「さて、もう十分だ。お前から聞けることはもうない、十分役に立った。受け答えしてくれた事には感謝する」

 

「へっ、へへ…………それなら、もう俺は────!」

 

 

────助かるんだ。

不器用に見える笑顔で答えた刹那に、若者の心は安堵に包まれた。安心しきったことで身体から力が抜けきる。

 

 

そんな彼に刹那は、静かに頷いた。

 

 

「あぁ、安心しろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

────()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そう言って、刹那が指を鳴らした直後の事だった。

 

 

 

暗闇の中から一筋の光が飛来する。直線のまま飛び出してきた閃光は、若者の頭部を容赦なく貫通した。許されたと勘違いして無防備だった────それ以前に戦いなんてものに無縁だった若者の頭蓋を簡単に打ち破り、そな中身までも光は削り取り、生命活動を停止させる。

 

 

 

 

ボトリと崩される亡骸。彼は最早に一瞥すらしない。死者に対して何も抱くつもりはないとでも言うように、真横を通り過ぎていく。

 

 

彼の目には、既に別の者達へと意識がいっていた。

 

 

 

「───おい」

 

声をかけたのは、二人の少女達だった。彼女達は刹那の声を聞くとビクッと一際大きく震える。その顔は刹那への恐怖に満ち溢れていた。

 

 

 

無理もない。

自分達に暴行してきた相手とはいえ、彼等を躊躇なく殺害するような相手だ。警戒するなと言うのがおかしくない。

 

 

しかし刹那がした事は─────彼女達に布切れを投げ渡す事だった。突然渡されたことに困惑する二人に、刹那は声かけを続ける。

 

 

「後処理はしといてやるから、とっとと帰れ。一応分かってると思うが、この事は他言無用にしとけ。………お前らだって巻き込まれたくはないだろ?」

 

 

 

────如月刹那は、己自身に一つのルールを強いている。それは、“弱者もとい、一般人には極力手を出さないこと”だ。状況によっては変わるが、刹那は滅多な状況でなければ一般人を進んで傷つける真似はしない。

 

 

先程のような若者達は、多勢で少女達をなぶっていたのを刹那に見られたことで彼の怒りに触れただけの事だった。強さの底にある矜持、プライドなどのある刹那からすれば、殺してでも許せないものだったのだろう。

 

 

兎も角、刹那はこの場から立ち去っていく少女達から目を離すと、自身の胸元に手を当てた。より正確には胸元に埋め込まれた──────翡翠色に輝く結晶体を。

 

 

 

「─────悪くないな、流石は完全聖遺物デュランダル。無限にも等しい力、これで俺はようやくあの『序列』へと近付いた」

 

 

魔剣士の中でも最上位の存在。本気で動けば、【魔剣計画】を滅ぼせたであろう最強の三人の魔剣士達。前の刹那ではどんなに取り繕うと『序列』には敵わない。彼等を打倒することすら出来ない。

 

 

だからこそ、完全聖遺物という圧倒的な力を狙った。何よりデュランダル、刹那のロストギアと同じ名を冠する遺物。当初の予定よりも簡単に、彼の肉体に馴染んできている。

 

 

 

「だが、まだ足りない」

 

 

しかし、この程度のレベルには満足してない。当然、満足など出来るものか。

 

 

 

「今の俺はデュランダルの力を、ロストギアの力を完全に引き出せていない。30%程の出力、まだ身体に上手く馴染んでないからかもしれないが、こんなものじゃあ俺は序列三位にも序列一位にも──────忌々しい序列二位すらも殺せない」

 

 

ならば、どうするべきか。

如月刹那は冷静に考えを進める。

デュランダルの膨大なエネルギー、生憎だが、心底認めたくはないが…………今の自分には余りあるものだ。完全に制御しきれない故に、下手に力を解放しすぎると反動によって此方も大ダメージを負ってしまうことになる。

 

 

 

 

なら、如月刹那に必要なのは─────更なる聖遺物の力。

 

 

 

「……………まぁ、今後の事に一々頭を回す必要はないだろうな。気を張り詰めなくても、好機は俺の元に必ず訪れる。後はそれを利用するだけのこと」

 

 

忌々しいエリーシャも、武装組織Fineも、二課の連中も、シンフォギア装者も────そして、忌々しい『序列』を冠する一人、無空剣が相手だとしても。

 

 

 

それら全ての要因を利用して見せる。どんなに苦しもうが、最終的に自身の目的が果たせればそれで良い。勝つのは一人だけでいい、それは無意味な友情ごっこしてる序列三位やシンフォギア装者どもではない。

 

 

 

 

「まずは──────連中の企みに乗るとするか」

 

 

 

この如月刹那ただ一人だと、彼は不気味なくらいの笑みを浮かべていた。




博士『最近思うのだがね、孫の顔が見たいとね』
剣「はぁ」
博士『そういう訳で楽しみに待ってるよ剣クン!』
剣「言いたいことが山程あるんですが、もう少し自制してください博士」

とかいう日常を想像しましたね!残念!そんなのを書けるなら苦労はしないッ!!



ていうか、刹那のロストギアはデュランダルでした。本編で語った魔剣という一括りについてはご理解してください。どっかのゲームでもあるじゃないですか!ロンギヌスとかゲイボルグとかも魔剣とかに例えられてましたし!まぁ、重要な理由があるんですけど!あるんですけど!!(大事なことなので二度ry)


どういう武装してるのかは後少し待っていただければ分かるかと思います。割とロマンあると思いますけど。


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それでは!次回もよろしくお願いいたします!
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