戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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無空剣の立ち絵です。下手くそな挙げ句配色も上手くないですが、載せときます!!


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………忘れてたとかじゃないヨ?


龍殺しの魔剣/不朽の聖剣 ◆

廃病院跡地。

 

激しい戦闘に巻き込まれた建物のあった場所は、更に凄惨とした状況になっていた。無数に残されたクレーターと、上塗りするような切り裂かれたような跡。

 

 

突如、爆煙が生じる。

周囲に停滞する砂塵の中から、二人の少女が飛び出してくる。丸鋸を巨大化させ、中心に収まりタイヤのように回転させて移動するピンク色のギアを纏う黒髪の少女と、彼女の手を取る大鎌を有した緑色のギアの金髪の少女。

 

 

 

 

「「はぁぁぁッ!!」」

 

 

二人は、漂う煙から距離を取ると、それぞれのギアを振るう。黒髪の少女は丸鋸を、金髪の少女は鎌を振るい小さな鎌状のエッジを。

 

 

 

─────煙の中にいる相手に、直撃した。ギャリギャリッ! という音と共に砂塵を呑み込む程の爆発を引き起こす。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「うっ………もう限界、デスか。大丈夫デスか、調」

 

「平気だよ、切ちゃん……それより、無空剣は───」

 

 

 

 

 

 

────ガゴォン、と独特の機械音が二人の鼓膜に入り込む。同時に砂塵が振り払われ、相手が姿を現す。

 

 

 

 

「────もう終わりか?」

 

 

無空剣。漆黒の鋼の装甲、ロストギア=グラムを纏う青年は、冷徹な声で二人を捉えていた。彼の装甲には傷があるが、それでも倒せるほどのものではない。何なら本気すら出していないだろう。

 

 

現に、二人の全身全霊の渾身の一撃を受けても、平然としているのだから。

 

 

 

「私達のコンビネーションが………通用してないっ」

 

「アレが魔剣士の片鱗ってヤツデスか!?前にマムから見せて貰ったタクトってヤツよりも何倍も強い!!あんなの無茶苦茶デス!」

 

 

此方を睨み付ける二人の反応を無視して、剣はゆっくりと歩み寄る。これ以上抵抗されないように。迅速に意識を刈り取り、本命の聖遺物を破壊するために。

 

 

 

しかし、二人の少女に迫ろうとした瞬間、剣は歩みを止めた。

 

 

新たに、人の反応が増えた。そして同時に、人影が二人の少女と剣の間に飛び立つ。

 

 

 

「…………そうだった。まだお前が残っていたな、マリア」

 

 

黒いガングニールを纏うマリアは言葉を返さなかった。槍を握り締める手は汗が滲み、緊張してるようにも見える。一度戦った相手だからこそ、その力量がよく理解できる。倒せる事は不可能だとマリアもよく理解している。けれど逃げ切る事も難しい場合はどうするべきが最適なのだろうか。

 

 

 

 

当然、このまま逃がす気もない。

そう決意し動き出そうとした直後、眼鏡を押し上げたウェルが自信に満ちた笑みを浮かべながら、マリアに言葉を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

「来ましたか───────『()()()()』」

 

 

 

「………何?」

 

 

 

思わず、複雑に考えていた思考が途絶する。

そこまでウェルの放った言葉の意味は絶大だった。脚を止めて、その言葉の意味を聞き返してしまう程には。

 

 

「どういう事だ? マリアがフィーネだと?ならお前達の組織名は…………」

 

「『終わりを意味する者(フィーネ)』とは、我々組織の象徴でもあり、彼女の二つ名でもある。

 

 

 

 

 

もうお分かりでしょう!彼女こそが、新たに最誕したフィーネなのですよ!!」

 

 

 

流石の剣も、驚愕を通り越して絶句するしかなかった。彼女が、マリアが、フィーネ本人だと?では、マリアという少女の人格はどうなる?彼女はそれを良しとしてあの組織のリーダーとしているのか?

 

 

 

それは、単なる生け贄ではないのか────?

 

 

 

疑惑が脳裏をよぎるが、剣は何とか落ち着かせる。冷静に、機械的に、彼等の言葉の内容の信憑性を計算し、確かめていく。

 

 

 

「…………冗談を抜かすな。マリアがフィーネである証拠は?まさか私がフィーネ本人です、とでも言われて信じたとでも?」

 

「知らないようですが、マリアは元々フィーネの器として集められていた子供達───レセプターチルドレンの一人なのですよ。まぁそれはそちらの二人も同じですが……賢明な貴方ならば、マリアがフィーネである事実を、嘘と断定はできないでしょう?」

 

 

チッ、と正論を突かれた剣は不快そうに顔をしかめる。強ち間違いではない。彼女がフィーネである可能性は、剣も理解しているのだ。

 

 

リインカーネーション、フィーネが自分の野望の為に立案させた半不死のシステム。自分の子孫の遺伝子情報を基とした刻印により、納戸も人格を上書きして永久を行き続ける輪廻転生の力。

 

 

もし、マリアが、本当に、レセプターチルドレンの一人であるのならば、彼女がフィーネである可能性は事実へと近くなる。否定要素どころか、信憑性を高める情報しか此方側には存在しない。

 

 

 

「貴方はご存知ですか?この世界に起きている異変に」

 

「………異変?」

 

 

突然、妙な話を振ってきたウェル博士に無空剣は何を言ってる?と訝しむような眼を向ける。ウェル博士はその視線すら気にせず、スラスラと語り続けていた。

 

 

 

「数週間前、とある人物からコンタクトを受けました。その内容は月に発生した異常事態についてです」

 

 

「かつてフィーネと敵対した貴方なら知っているでしょう。月はバラルの呪詛発生装置でもあり、常に人類全体に呪いを発し続けていると」

 

 

「その月の、バラルの呪詛発生装置たる月の遺跡に何者かからのハッキングが確認されたんですよ。大方、バラルの呪詛を解くための」

 

 

…………どうやら、御大層な事をやっている奴がいるようだ。フィーネが何千年もやって出来なかったことを、たった数ヵ月で成そうとするとは。彼女本人がこの事実を知ればどう思うのだろうか、あまり知りたくはないと思う。

 

 

 

「だが、バラルの呪詛は解けてないんだろ?」

「えぇ。伊達に数千年も掛けられてきた呪詛、そう簡単に解除するなんて難しいです。…………相手もそれを理解したのか、やり方を変えてきました。呪いの解除ではなく、月の軌道を地球へと引き寄せ始めたんです」

 

 

上空にある月を見上げる。眼を、組み込まれた機械構造を利用して、眼を凝らして見れば、確かに少しだけ、ほんの少しだけ違和感がある。月の大きさが増長しているように見えるのだ。いや、より正確には近付いていると言うべきか。地球側へと。

 

 

「相手の目的は知りませんが、後に訪れる結末は分かります!落ちるんですよ!月が!!この地球に!!その場合、どれだけの人類が死に絶えると思います!?」

「全人類が死んでも可笑しくない、人為的な災害か」

「そう!もうお分かりでしょう!?我々の目的は、人類の救済! いずれ来る滅びの運命から、可能な限りの命を救う事ですよ!

 

 

 

その為のフィーネ!悠久を生きた巫女の知識を借りるのです!世界中に生きる人類を、救うためにもねぇ!!」

 

 

(…………どうやら俺達が思ってるよりも、大事(おおごと)みたいだな)

 

 

相手の言葉を信じてはいない。むしろ嘘で騙そうとしているのかとも考えている。だが、月が此方に近付いてきているという事実とマリアをフィーネとして目覚めさせようとしている事からしても、その話は無視できる内容ではない。

 

 

そう考えていると、ウェル博士がマリア達の後ろへと隠れながら退こうとする。ソロモンの杖を此方に見せつけるようにしてきながら。

 

 

「さて、フィーネからのお迎えも来たところで、我々もここで退却させて貰います。ネフィリムも回収完了しましたので、お相手する必要もありませんので」

 

 

 

「───嘗めるな、お前達を見逃すなど────」

 

 

するものか、と口に出そうとしたその時。耳元に取りつけた装甲ユニットから機械音が鳴る。二課からの連絡だ。つい先程から確認が取れるようになったが、何かあったのだろうか? と思いすぐさま連絡を繋げる。

 

 

 

『剣君!聞こえているか!?』

「………司令か、悪いが今戦闘中だ───」

『響君達の反応が廃工場で途絶えた。今現在も見つからない!君からは確認できるか!?』

「…………何?」

 

 

言われて、剣は廃工場の方角へ眼を向ける。同時に、センサーを広範囲へと広げ、響達の存在を特定する為に拡大していく。

 

 

 

すると、廃工場にて突然反応が浮かび上がってきた。一瞬で出てきた四つの反応は今まで何かに隠されたように音沙汰もなかった。

 

 

三つの反応は分かる。響達で間違いない、彼女達の事をセンサー越しでも間違えるわけがない。ならば、もう一つの特定できない反応は何か──────

 

 

 

「─────まさか、刹那か!?」

 

 

それが、ミスだった。無空剣は相手に意識だけを向けていればよかった。大切な人が出来てしまった事は問題ではない、彼女達を心から心配してしまったことが、今際のミスであったのだ。

 

 

 

 

 

瞬間、膨大な突風が剣の全身に叩きつけられた。

 

 

 

「─────がッ」

 

どうしようもなく、吹き飛ばされた剣だったが、すぐさま脚の装甲の一部の刃を地面へと突き立て、完全に飛ばされないように止める。体勢を立て直して立ち上がると、目の前の光景を疑った。

 

 

 

二つのプロペラを回転させた、大型ヘリ。輸送ヘリに近い大きさのソレが目の前にある事に、疑問しか沸いてこない。

 

 

先程まで、このヘリの反応はなかった。隠れていたとしても、起動した時の反応が確認できなかったのは可笑しい。

 

 

だが、様々な謎への疑問よりも目に止まるモノがあった。大型ヘリに乗っているのは、マリアと二人の少女、そして此方を見下ろしてくるウェル博士。

 

 

 

「それではさようなら、無空剣。次こそは証明して見せましょう、僕がどれだけ英雄に相応しい逸材かを」

 

 

 

「ッ!逃がすかァッ!」

 

 

ソロモンの杖を軽々しく見せびらかすウェルに、激しい怒りが膨れ上がる。激情に駆られるままに、地面を蹴り、飛び立とうとする大型ヘリへと迫る。しかし、それでも距離が届かない。

 

 

だからこそ、せめて傷だけでも与える、と。剣は背中の射的装置に取り付けた魔剣双翼を勢い良く解き放った。勝ちを確信して誇った笑みをしていたウェルも、それを見てすぐに焦りを表情に出す。

 

 

 

しかし、無空剣の思惑通りにはいかない。放った魔剣双翼の一振は、大型ヘリを標的として放たれていた。なのに、魔剣双翼が金属を穿つ感触が感じ取れなかったのだ。

 

 

ハッと空を見上げると、単なる夜空が浮かんでいるだけ。大型ヘリの姿は何処にもない。障害物もない夜空に、何も見えてこないのだ。

 

 

 

「────消えた、だと?」

 

 

そんな事は有り得ない。剣は自身に組み込まれた様々な機能を用いて、大型ヘリの痕跡や現在地を捉えようとした。

 

 

 

だが、どうやっても見つけることが出来ない。空間の振動、音、風、気配、機体の反応、全ての情報を重ね合わせ見つけ出そうとしても、浮かび上がってこない。

 

 

違和感はあるのだが、実際に証明できない。この異様さに、無空剣は瞬時に気付くことが出来た。

 

 

「────聖遺物か」

 

 

隠すことのない舌打ちを漏らすと、彼はすぐさまこの場から背を向けて立ち去った。逃がしてしまったのであればこの場に居座る理由はない。

 

 

少女達の無事を祈りながら、剣は廃工場へと走る。何とか、間に合わせるように全速力で。文字通り、障害物となる建物を飛び越えていきながら。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

ビチャッ!! と地面に飛び散る血。少なくない量の液体は、人の肉体から流れ出たものだ。

 

 

 

しかし、それは立花響のものではない。眼を閉じていた響は、何時まで経っても来ない痛みに困惑しながら眼を開ける。

 

 

そこで──────彼女は眼にしてしまった。

 

 

 

「…………え?」

「─────あ?」

 

 

響と、彼女の首を掴んでいた刹那の二人が、自然と声を漏らす。刹那は、何故彼女を殺せなかったという疑問を。響は目の前に映る驚愕の光景──────、

 

 

 

 

 

 

 

口から血を流した刹那の姿を。彼女の視線に、刹那自身も自分が吐血した事に気付く。足元の血と、自分の口を拭った手を見つめ、理解できないのか呆然とする。

 

 

そんな最中、変化は更に生じる。

 

 

ドロリ、と。

刹那の眼から、血が垂れてきた。同時にビキビキビキ、と顔中の血管が皮膚上に浮かぶ。

 

 

 

「───グッ、」

 

呻いた刹那は、唇を噛み締める。響を掴みあげていた腕に血管が浮かび上がり、それに気付いた刹那は思わず響から手を離す。

 

 

首を締め上げられる力から解放された響はすぐさま呼吸を整える。一気に酸素を喉へと通し、何とか息を正常に戻している。

 

 

 

そんな響の前で、刹那はよろけると、ガクン! と跪いた。そして、

 

 

 

 

 

「ゴボッ!ゲフッ、ガッ…………ゴェェッッ!!?」

 

 

ビチャビチャビチャッ!! と。

口から大量の血を吐き始める。苦しそうに、激痛に悶えながらも。腕や顔に浮かび上がった血管が限界を迎えたのか張り裂け、皮膚からも血が噴き出す。

 

 

それでも何故か、刹那が死ぬことはない。いくら頑丈に造られている魔剣士だとしても、ここまで強固なのは有り得ない。

 

 

地面を握り締め、肉体から増幅する力を抑え込もうとする刹那だったが、それが上手くいかずにギチリ、と奥歯を合わせる。

 

 

(クソッ────もう限界か)

 

「な、何が………」

 

 

突然の事に困惑する響。血を吐き続ける刹那への心配が勝ったのか、すぐさま駆け寄ろうとするが、そんな彼女の肩を後ろから掴む者がいた。

 

 

「立花!無事か!?」

 

「翼さん!クリスちゃん!大丈夫だったんですか!?」

 

「あぁ。先程、如月のオールビットの動きが停止してな。立花の方へ救援に行こうと思っていたが………」

 

「あいつ………一体何がどうなってんだ?急に苦しみ始めてよ」

 

 

警戒を忘れずに銃を構えていたクリスだったが、膨大な血を吐いたり噴き出す刹那の様子に、流石に戸惑いを隠せなくなる。

 

 

しかし、その刹那の変化に気付いたであろう翼が、眼を細める。

 

 

「なるほど、そういう事か」

 

「あ?どういう事だよ?」

 

「如月はこう言っていた、『エネルギーの浪費が激しいからこそ、デュランダルを求めた』と。デュランダルは無限のエネルギーを内包する聖遺物。エネルギーの消費の激しい如月にとって見逃せないものではあるが、同時に爆弾でもある。

 

 

 

 

流れ込んでくるデュランダルの膨大なエネルギーに、如月の肉体が適応しきれなかった。だからこそエネルギーの消費が間に合わず肉体に負荷が生じた、という事だ」

 

 

要するに、エネルギーの配分が容量を越えてしまったのだ。刹那自身の容量を百、消費するエネルギーを五十として、完全聖遺物デュランダルから供給されるエネルギーを六十とする。例え五十消費したとしても、十のエネルギーが残ってしまう。常時供給が続くので、完全に消費しきれずに結果的に容量を越えてしまう事になる。

 

 

つまるところ、刹那はデュランダルのエネルギーを過度に使い過ぎたのだ。そのせいで、限界を超えて肉体の方が悲鳴をあげた状態へとなっている。

 

 

「………そう、だッ……!」

 

パシャン! と水を踏みつけるような音が木霊する。

溢れ出る血の池、それを生み出した刹那が全身を震わせながら立ち上がろうとしていた。

 

 

「情けない事だが………これが、俺の最大限の問題でなッ、エネルギー容量が小さすぎて…………こうも軽く本気を出すだけで、身体に………限界が、来る訳──ガボッ」

 

 

悔しさに満ちていた声が、途切れる。

顔や首に血管を浮かび上がらせた刹那の口から、致死量に近い血が吐き出された。どうやら自壊のダメージは内側の方が酷いらしい。現に、それは刹那の口から溢れた赤の量によって明確である。

 

 

今も、刹那の身を襲っているのは身に余った『無限』のエネルギー、それによって引き起こされた肉体の自壊効果。激痛どころの話ではない、死にたいと願ってしまうのも仕方ないかもしれない。

 

 

 

 

「─────だが、()()()()()

 

 

溢れ出る血を抑え込んでいた手から、スルリと違和感しかない声が漏れ出した。当然だ、何せ刹那の声音に含まれているのは、苦痛に強いたげられている時点では有り得ない感情が乗せられていた。

 

それは────刹那の緩んだ口元が作った、笑みの形が証明している。彼にとって、自身を苛む痛みすら単なる障害でしかない。

 

 

 

強さという、絶対にして確実たる真理を前にすれば。

 

 

 

「やっぱり、そうだよなぁ!努力もせずに簡単に得る力になんて意味はない!それで得た力なんて、所詮チート!ガキが遊ぶために使うモノ! 俺のやろうとしてることは近道、裏技だ!ならせめてこのくらいの壁はないとなぁ!?

 

 

 

 

この苦しみが、この痛みが、俺の強さを確信させてくれるんだッ!!」

 

 

 

高揚としたように、高らかと歪んだ笑いを響かせる刹那。あまりにも異様、あまりにも異質、あまりにも異常な存在に、翼もクリスも思わず気圧されてしまう。

 

 

次第に自壊も何とかなったのか、ゆっくりと立ち上がる刹那。痛みなど何一つ感じてないように青年は、気軽な動きであった。

 

 

口の端に流れる血を拭い取った血濡れの刹那は、己の髪を軽く整えながら、少女達を冷たい瞳で睨み付ける。

 

 

「いずれは、お前達も殺す。俺の目的を果たし、無空剣を殺してからな」

 

 

本物の殺意。殺せる力を持つ者ではなく、実際に殺した事があるような、刃物のように冷えきった鋭い殺気だった。先程までの自壊効果によって弱ってる筈なのに、響達全員を殺せるような『ナニか』があるの。

 

 

 

 

「ま、最も────」

 

 

 

しかし、殺意を消失させた刹那。何故、という答えは、彼が次に放った言葉によってかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────お前は俺が殺さなくても、もうそろそろ死ぬんだがなぁ?立花響?」

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

突然の宣告に、響は呆然とするしかなかった。お前は俺が殺す、ならば分かる。だが、殺す必要もない。もうそろそろ死ぬだろう、とはどう意味か。

 

 

何故それを、刹那が確信したように言えるのか。

 

 

 

「どういう、事だ? 立花が死ぬとはどういう事だッ!!」

 

「そう焦るな、すぐに分かるさ………すぐに、な」

 

 

クックッ、と嫌な笑みを刻む刹那。彼だけが知る事実、刹那だけが独占した情報。それは響達を不安とさせていく。実際に語るつもりはないのか、刹那はそれ以上この話を口にしようとはしなかった。

 

 

 

「これが、お前達のように、誰かの為に戦った者の末路だ。己の無力さを呪い、いざという時に全てを失った哀れな偽善者の末路」

 

 

血に濡れた刹那が、演説するかのような大振りで宣う。自分自身が偽善者だとでも言うような言葉だが、彼からすれば事実なのかもしれない。

 

かつては響のように、誰かを助けることを良しとしていた。きっと何人も救い続けてきたのだろう。

 

 

 

だが、その果てにある未来で絶望した。力が無ければどうしようもなかった障害によって全てを失い、挫折から立ち上がった彼は強さを求めるようになった。

 

 

 

「お前はどうかな?立花響─────」

 

 

濁った瞳を妖しく輝かせ、刹那は血を吐きながらそう聞いてくる。答える事も出来ない少女に、刹那は精一杯嘲るような嘲笑を浮かべ、喉を潰すかのように叫んだ。

 

 

「人として破滅するか、人を辞めてでも己を通すか。────精々努力することだなッ!!」

 

 

同時に、刹那が手を振り上げる。集まったオールビット、9基の鋼球が刹那を中心に円陣を作ると、チャージした閃光を解き放った。しかし、狙いは響達ではなく、地面の方だ。

 

 

通常の兵器でなら貫通できる程の光線は地面に着弾すると激しい爆発を引き起こした。砂塵が周囲に漂い、響達の視界を遮る。

 

 

 

砂煙が完全に消えきった時には、刹那の姿はこの場から消えていた。彼が吐いたりした膨大な血の痕跡を残して。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

海の上を移動していく大型ヘリ─────エアキャリア内部。

 

 

 

ドガンッ! と壁にぶつかるような音が機内に響き渡る。打ち付けられたであろうウェル博士は苦痛に呻くような声を漏らす。

 

 

「………ぐっ」

 

「下手打ちやがって。折角のアジトを失ったら計画遂行まで何処に身を潜めれば良いんデスか!!」

 

明らかに憤慨する金髪の少女。彼女がウェル博士を殴り飛ばしたのだが、その行為を率先して止めようという者はいない。

 

 

無理もないだろう。彼女達の隠れ家は絶対に見つからないように工夫を重ねて存在していた。なのに、二課──そこに所属する無空剣がすぐ近くまで迫ってきたのだ。

 

 

このエアキャリアに搭載されている隠蔽機能は無空剣でさえ誤魔化すことが出来るのだ。彼がそれに気付いたとは思えない。なら、何故拠点に近付かれたのか、彼女達には安易に予想できる。

 

 

ウェル博士、拠点の隠蔽や設備を整えていたこの男がわざわざ誘き寄せたのだろう。大方、戦力調査とやらの為に。

 

 

 

「お辞めなさい。そんな事をしても、何も変わらないのだから」

「………胸糞悪いデス」

 

 

そんな少女を制止したのは、車椅子に腰掛けた老齢の女性。顔半分を覆うような眼帯をしているが、弱々しいどころかその眼に宿るのは強い意思の光だ。

 

 

現に、老女の制止を受けた金髪の少女は、不服そうではあったが、すぐにウェル博士から離れた。それほどまでに、彼女の言葉は強く、少女達にとっても重要人物である事は確かだった。

 

 

操縦席で操縦していたマリアが、ふと声を上げる。

 

 

「………マム、『協力者』から通信が来ているわ」

「分かりました、すぐに応じましょう」

 

 

マム、そう呼ばれた老齢の女性の答えを聞くとマリアは頷き何らかの操作盤を弄る。すると、操縦席の後ろ側にホログラムのような四角形の映像体が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

『────ふむ、こんな時に連絡してお邪魔だったかな?』

 

 

「いえ、問題ありません─────()()()()()()()()()

 

 

老女や少女達、ウェル博士の視線の先にいるのは、白衣の男。研究者というよりも、博士という名称の方が合う人物。顔に機械のような眼帯を装着した男─────エリーシャ・レイグンエルド。過去、別世界で最悪とも呼べる実験を繰り返し、数万人の犠牲者を出した狂人であった。

 

 

勿論、その事実を彼等は知らない。この情報は世界的に露見されてすらいない。魔剣士の製作法方に関わる以上、エリーシャの名前は明かされていても、彼の所業だけは広まってはいないのだ。

 

 

 

『その様子だと、厄介な敵とバッティングしたのか?大方逃げ切れたみたいだけど……』

「………先程、無空剣を迎撃していました。切歌と調も、その直後でしたので」

『ほー、そうだったのか』

 

 

気を遣ってるようだが、何処か興味なさそうな声音。彼女達は気付かない、その声音に含まれてるのが『当然だろう』という感情だということに。

 

 

だが、二人………切歌と調と呼ばれていた少女達だけは悔しいというべきか、申し訳ないのか、顔を伏せていた。

 

 

『別に気負わなくてもいいさ。無空剣と相手して、助かっただけでも儲けものさ。何より、持ちこたえていた君達のコンビネーションに評価するべきものがある』

 

 

そんな二人を案じてか、エリーシャはそんな言葉を投げ掛ける。

 

『彼を無力化したいのであれば────君達程のシンフォギア装者を六人、そして無空剣の動きを制限させると同時に弱体化させなければ無理だ。つまる所、正面切って彼に挑まないように』

 

「………随分と詳しいのですね。そこまで分かるとは」

 

『当然。何故なら「彼」は、私が造ったのだから』

 

 

その言葉への反応は様々だった。切歌と調は表に出さなかったが、疑問を。マリアは意味を理解して息を呑み、マムは僅かに眉を動かす。そしてウェル博士はへぇ? と興味深そうにエリーシャへ目線を向ける。

 

 

 

『彼に苦戦するようであれば、私が手を貸そうかい?厳密には少しだけ兵器を貸すとかという話になってしまうが』

「その場合は、事前に連絡させて貰います」

 

 

そっかぁ、とエリーシャは呟く。特段気にしてない様子で話を続ける。

 

 

『そうそう、月の軌道についてだが………』

「やはり、変化は変わりませんか」

『うむ、やはり近付いてきているよ、地球へとね。時間にしてもう1ヶ月近くなんだが、まぁそれよりも早い可能性もある。一刻も早く手は打つべきだろうさ』

 

 

ヘリ内に緊張が走る。まぁ僅か一名はさほど気に止めてない感じであったが。

 

 

エリーシャは彼等を見渡すと、軽く手を振り労りの言葉を送った。

 

 

『それでは、君達の計画が無事に終わることを祈ろうか』

 

 

ブツン、と通信画面が途絶えた。あちら側が通信を切ったらしくホログラムは虚空へと消える。

 

 

機内に沈黙が広がる中、操縦中のマリアが振り返りながらマムへと疑問を投げ変える。

 

 

「………マム、あの男。本当に協力してて良いの?」

「……………貴方の考えは分かります。ですが、彼や結社が月の異変を教えてくれなければ、我々はこうも行動できなかったでしょう」

「彼の事よりも、我々は今の課題を考えるべきでは?」

 

 

クイ、と眼鏡を軽く押し上げるウェル博士。

 

 

「次の課題はネフィリムの餌たる聖遺物の確保です。今の我々の備蓄たる聖遺物では、ネフィリムを成長させるに至りません。

 

 

 

ま、聖遺物の欠片ならば三つくらいありますけど」

 

 

考えつくのであれば、シンフォギア装者のペンダント。あれも聖遺物の欠片の一部であり、ネフィリムの餌としては十分。

 

 

だが、そう提案したウェル博士はあまり乗り気ではないようだった。それも当然かもしれない、

 

 

「僕としては無空剣のロストギアが最優先したいですよねぇ」

 

 

彼からすればネフィリムの餌に相応しいのは、シンフォギアよりも上位とされる魔剣兵器の方だからだ。

 

 

 

「お二人とノイズとの戦闘で確信しました。彼のロストギアをネフィリムが喰らえば、ネフィリムはより成長を遂げることが出来る。オマケに無空剣も無力化出来ますしWin-Winですね」

 

 

「じゃあ無空剣からロストギアを奪えば………!」

 

 

切歌も調も、納得というような声を漏らす。確かにそうすれば、戦力的に不利な此方でも、有利に傾くかもしれない。

 

 

「ですが、今の彼相手にそのような隙があるとは思えませんよ。下手にネフィリムをけしかけて、倒されてしまえばそれで終わりです」

 

「…………まぁ、別にロストギアが先でなくても良いですがね。先に装者のペンダントでもパクらせて、後でロストギアを戴ければいいので」

 

 

ま、別にペンダントだけでは意味がないでしょうけど、と心の奥底で付け足すウェル博士。大人勢は今後の計画を練るのに考えに没頭している。

 

 

邪魔してはいけないか、と思い二人は離れようとする。しかし立ち去ろうとした途端、調という黒髪の少女がふとヘリの床下を見た。何か、感じ取ったのか、自分でも分からないと不思議そうに。

 

 

 

「…………?」

 

「調、どうかしたデスか?」

 

「………いや、何でもないよ。切ちゃん」

 

 

 

 

彼女達は気付かない。いや、この場にいる誰もが気付かない。無空剣の追跡すらも困難とする聖遺物の力によって護られている今、誰も自分達を追う事が出来ない。確かな実績が、彼女達の心に明白な安堵を生み出す。

 

 

そして、僅かな安心は隙となる。あらゆる追跡を拒む聖遺物の力、しかしそれには唯一とも言える欠点があった。

 

 

 

─────エアキャリアの内部。普通ならば手を加えないような機械が沢山組み込まれた床の小さな隙間。そこに、一つだけ異物が存在していた。

 

 

 

鋼のような光沢をした球。如月刹那の操るオールビット、表面の鋼を展開するその様は、まるで聞き耳を立てているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────なるほど、良いことが聞けたな」

 

 

そしてニヤリと、刹那は予想外の収穫に喜びを隠せずに笑う。全身を血で濡らした彼は、真夜中のショッピングモールへと侵入していた。出血していながらも、血の痕跡は残さないように。

 

 

監視カメラやセンサーの全てを遮断させ、必要な物を調達していく。ある程度の食料や医療用品などをかき集め、再び外へと出ていく。

 

 

辿り着いたのは、人気の無い湖だった。昼間ならば誰かが遊んでいてもおかしくないが、今は夜中の遅い時間帯だ。ここに来るのは余程の物好きか、運が悪い人間だろう。

 

 

周囲に気配がないのを確認し、刹那はロングコートや自分の下着も全て脱ぎ捨てた。自分の身体を睥睨すると、湖の中へと入り込んだ。

 

 

「…………」

 

一応補足しておくが、刹那はそんな人に言えない趣味がある訳ではない。出血によって汚れた自分の身体を洗いたかっただけだ。外の水を使って大丈夫か、悪化しないかと思われるだろうが、魔剣士は肉体の構造的に問題はない。何ならもう毒ガスだろうと無効化する程の頑丈なタイプだ。外の水でも大した問題ではないだろう。

 

 

 

何より、傷口から染み込むと言う懸念は既に不要だ。

 

 

 

 

水辺から上がった刹那、水を浴びた彼の姿は普通の青年のものだった。人間に見える肌色と、やはりうなじに剥き出しの金属の脊髄。その肌色は綺麗なもので、()()()()()()()()()()

 

 

 

そう、先程まで自壊した肉体からの出血が激しかったにも関わらず。

 

 

 

(───完全聖遺物 デュランダルの無限の力。やはり自己修復にも回せるようだな。今回の戦闘で俺はデュランダルの使い方に少しずつ慣れてきた。大した土産物だな)

 

 

 

デュランダル、表向きな形で語られるのは不壊という意味。刹那のロストギア《デュランダル》の性能は、お世辞にも不壊の名を冠するには相応しくない。

 

 

だが、今回の件は刹那へ成長をもたらした。前から有していた圧倒的な高火力と機動性と精密さ、それに無限のエネルギーとそれによって効果を増した自己修復能力。無空剣でも重傷の再生は数時間、長くても1日未満はかかる。しかし刹那の自己修復は数分もあれば完全に傷を癒すことが出来る。

 

 

最後の序列をも上回るポテンシャルに刹那は興奮を押さえきれない。今にも奴を倒して、自分の強さを証明したい。そしていずれは──────

 

 

 

「───まだだ。こんなものでは序列は越えられない」

 

 

甘い考えを振り払い、奥歯を強く噛み締める。越えられるかもしれない、では無理だ。絶対に、もしくは確実に。そう思えるぐらいにまでならなければ、序列を倒す事が出来ない。

 

 

それは、序列の強さを知っている刹那だからこそ分かる事実だ。実際にその片鱗を見せつけられ、絶望にうちひしがれた事のある刹那だからこそ。

 

 

 

(結論から言って、奴等を利用するのは悪くない。むしろ利用しない訳にはいかない)

 

 

武装組織 フィーネは、刹那にとって都合が良い。なんせ連中は聖遺物を複数手にしているのだ。その聖遺物全てが絶大な可能性を秘めした代物、正直言って刹那もそれらを取り込みたいと考えている。

 

 

あの隠蔽技術も、多少厄介だがやりようはある。なんせ一度マーキングしておけば、何回透明になろうと意味がない。なんせ内側にマーキングしてあるのだから、すぐに奴等の同行など分かる。

 

 

(ひとまず今は落ち着いておこう。下手に俺が動けば状況は混乱へとなる。面白い事実も手に入った────)

 

 

「生体聖遺物 ネフィリム、そしてシェンショウジンか。この二つが連中の有する鍵。今後の計画の為のものか」

 

 

途中、無空剣のロストギアもネフィリムに喰わせると聞こえたが、思わず失笑が漏れる。ドイツもコイツも馬鹿だ、大切な情報が不足している。

 

 

如月刹那を含む魔剣士、その最上位たる『序列』に組み込まれる存在が、そう簡単にロストギアを餌にさせるとでも思っているのか?そもそも、ロストギアを喰わせると言う事は、無空剣を喰わせる事になる。

 

 

その方が絶対に有り得ない。何より、奴は誰にも譲らない。序列を殺すのは、後に最強へと至る自分なのだから。

 

 

感傷を抱いていた刹那は彼らの話から、奇妙な単語を耳にする。それが武装組織フィーネにとって重要な意味合いだと、すぐに分かった。

 

 

 

「……………『フロンティア計画』、ね」

 

 

聞いただけでその単語が、どれだけ緻密で壮大な計画かは分からない。だが、先程の二つの聖遺物、それが計画の鍵であることには変わらないだろう。ならば、やる事は一つに過ぎない。

 

 

 

 

利用できる者は利用すれば良い。

例え少々厄介な二課だろうと、自分に対して甘い心持ちをするシンフォギア装者だろうと、そんな馬鹿どもと馴れ合う無空剣だろうと、自分達が正しいと自惚れてるフィーネの連中だろうと──────何一つ関係ない。最後に笑うのがこの俺、刹那であればそれでいい。

 

 

 

 

 

「もっと強さを─────もっと、力を……!」

 




駆け足気味ですけど、今回の話も終わりました!



刹那の自壊の説明ですが、あれで良かったのか凄い不安。………ま、大丈夫か!


ていうか、彼の言ってた響の死に関しては………特に言及はしません!すぐに分かると思うので!


そして───武装組織フィーネの協力者はエリーシャでしたぁ!!…………いや、コイツロクな事考えてねぇだろって思うでしょ?私もです。



何なら今回の騒動の元凶って疑っても良いレベルで害悪だから仕方ない。仕方ない。



お気に入り、評価や感想、質問などがあれば気軽にどうぞ!


次回もよろしくお願いいたします!それでは!!

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