戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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…………後少しで1ヶ月やんけ!ちゃん小説書けよ自分!ちゃんと投稿しろよ自分ッ!!(土下座しながら)




非日常の裏側で

────誰かを助けたいという想いに、間違いはない。

 

 

 

『彼』は、そんな風な願いを秘めて生きてきた。どちらかといえば、『彼』は善人と呼ばれる側の人間だっただろう。困っている人がいればすぐに駆け寄り、泣いてる子供がいれば付きっきりで慰めて────どうしようもない程に、お人好しで、優しかった。

 

 

それは、『彼』の両親が警察官や医者という、人を助ける仕事をしていた憧れが理由かもしれない。誰かの役に立ち、誰かの生命を救ってきた両親の子供だったからこそ、強い正義感を持っていたのだろう。

 

 

だからこそ、それ相応の道を進むことを『彼』は選択した。それが過酷だろうと、誰かを助けられるなら本望だと信じて───────

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ぇ、────ぁ──────ねぇってば!」

 

 

気付けば、『彼』は徐々に近付いてくる大声に反応した。ゆっくりと、閉ざされていた目蓋を開き、声の方を見ると、そこには少女が立っていた。

 

 

 

赤い髪にツインテールをした少女、彼女は眠りに更けていた『彼』に厳しい眼を向けていた。が、嫌っているのとは違う、生真面目さ故の厳しさだ。明らかに起こっている彼女の様子に、『彼』は戸惑いながら声をかける。

 

 

「ご、ごめん………どうしたの?」

 

「もうっ!今からミーティングがあるってのにグウスカ寝てないでよ! …………そりゃあ確かに、忙しいのは分かるけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

けど!これからがもっと忙しくなるんだから!しっかりしてよね、『セツナ』!」

 

 

「ごめんって、これからはちゃんと気を付けるから」

 

 

『彼』────『セツナ』は、慌ててツインテールの少女へと頭を下げた。それでも少女───リィンはふん!と鼻を鳴らし、不服そうにしている。周囲にいる者達、自分と同じような少年少女達もその様子を見ると様々な反応を示す。

 

またか、と興味なさげに武器らしき銃を弄る者、何が面白いのか少女に向けて野次を飛ばす者、苦笑いするしかない者も。

 

 

そんな感じの集まりだが、険悪という空気は感じられない。むしろ一つの家族の集まりみたいな、和やかな印象すらある。

 

 

それも事情を知る者達からすれば当然かもしれない。何故なら彼等は、唯一共通する一つの事を果たすために出会い、共に過ごしているのだから。

 

 

 

 

「─────フハハハッ! 皆元気かー!?私は元気!チョー元気よっ!」

 

 

そして、更に。

扉を開け放ち、一人の少女が声高らかに入ってきた。リセリア・オールスファルツ、それが少女の名前だった。そして、彼女が入ってきたことにより、周りにいた仲間達も元気そうに挨拶を返す。まるで、一つの家族のような温かさを残して。

 

 

 

まずは話す必要があるだろう。

『セツナ』がいるこの組織は通常の組織ではない。少数であるが、その影響力は確かなものだ。

 

 

 

─────『星の歌(スターライト)』、それが『セツナ』の所属する組織の名前だった。

 

 

立ち位置としては非公式の自治体。戦争地帯などで一般人が巻き添えになる事を防ぐために保護を行う為に結成された組織だ。元々、連合国や国が編成したような組織ではないが、多くの活動を認められ、今は世界での活動許可を与えられている。

 

 

 

今回集まっているのも、その活動の為によるものだ。

 

 

「アルワーデル紛争地帯。私達の目的はこの地帯にいる現地民の保護ね!魔剣兵器が運用されてる可能性もあるから気を付けて!」

 

 

公にはされてないが、【魔剣計画】の一部の人間………裏切り者と呼ぶべき存在が自分達の開発した兵器を世界にばらまいているらしい。多くの国家や、テロリスト集団へと。その結果、世界中では様々な戦争が引き起こされているのだ。

 

 

その度に、事態を把握した【魔剣計画】が自分達の有する魔剣士を戦場へと放ち、それらを制圧しているのだが。それでも被害が簡単に収まる筈がない。

 

 

その為の、自分達だ。

戦う術を持たない弱い人達が傷つくのを黙って見ていられないからこそ、自分達はこの組織へと集まったのだ。

 

 

 

『セツナ』自身も、そうだった。

両親が人助けをするような優しかったからこそ、『セツナ』も同じように誰かを助けたかった。だが、まだまだ大人ではない自分がどのように人助けをするべきか、具体的に決まってはいなかった。

 

 

 

その時に彼女に、リセリアに出会った。彼女は『セツナ』気に入ってくれたようで、組織へと勧誘してくれた。何故、と思っていたが、いつもはぐらかされた。

 

 

 

「自覚してるだろうが…………セツナ、カナタ、ミリアム。お前達は戦場に出るな、あくまでも人命救助をしておけよ」

 

 

ふと、話している最中、目つきの悪い青年───ダグマがセツナ達を見据えながら言う。

 

 

「お前達はあくまでも非戦闘員。多少なりはやれるだろうが、それでも不足には変わりない。極力戦闘は避けろよ、ただえでさえ足手まといなのに、面倒にされるのは困るからな」

 

 

 

「ダグマ!アンタねぇ!!」

「待って!落ち着いてリィン!」

 

 

ダグマの配慮の無い言葉にリィンが怒鳴り声を放ち、掴みかかる。慌てて『セツナ』が抑え込むが、それでもリィンの怒りは収まってないようだった。

 

 

『セツナ』もリィンも分かっている。ダグマという青年はああいう言い方ながらも自分達の事を気遣っているのだと。ただ口が悪いだけで、本気でそう思ってる訳がない事くらいは。

 

 

 

結局は、リセリアの介入によってその騒動は沈静化した。明るく元気でありながらも問題を容易く解決するリセリアは、やはりこの組織のリーダーに相応しいだろう。この組織に所属する誰もがそう確信している。

 

 

 

 

「それじゃあ皆!早く行くよっ! 」

 

 

駆け足気味で部屋から出ていくリセリアに、皆が着いていく。遅れるように立ち上がった『セツナ』も彼女達の背中を追うように走っていった。

 

 

皆の背中、大切な仲間達の後ろ姿。笑って歩んでいく彼等の未来を──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────待って!」

 

 

伸ばした手は、夜空に向けられていた。

そこで、如月刹那はようやく。自分が過去を夢として見ていた事を理解する。

 

 

 

星空に伸ばされた掌を握り締めようとして────結局、それを止める。集まるように黒い夜に浮かび上がる星々を眺め、刹那は密かに呟いた。

 

 

 

「─────皆」

 

 

星空に見とれるように、刹那は眼を凝らし続ける。頬に伝う涙の存在すら気付かない程に。

 

 

ふと、刹那を護るように浮かぶ鋼球の一つが彼の頬に寄り添う。静かに涙を拭い取りながら、円を描く形に戻っていく。

 

 

 

たった一人、如月刹那は夜の世界を孤独に生きていた。無自覚にも、泡沫である過去の物語を夢想させながらも。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

二課の予備施設である潜水艦。その廊下を歩く剣は浮かない顔をしながら、資料を手にしていた。束になった資料の頁を捲り捲るが、彼にとって何かを掴めた訳ではないらしい。

 

 

「チッ………厄介だな」

 

 

不愉快極まれりの様子の剣。しかしどうやら機嫌が良くないのは手に持つ資料が理由ではないらしい。

 

 

 

ふと、何かに気付いたように顔を上げる剣。誰かが廊下の向こう側から歩いてくるのに気付いた。彼等が反応するよりも前に、剣の方から動く。

 

 

 

「友里さん、藤尭さん。こんにちは」

 

 

「あ、剣君。こんにちは」

 

「そんな顔してどうしたんだ?」

 

来たのは、オペレーターの藤尭と友里であった。練も交流はある人達で、たまに暇な時には世間話をしていたりもする。

 

 

だが、今回は世間話をしている暇はない。

 

 

「先程、司令との連絡があったんだ。『例の件』について」

 

「『例の件』…………月の落下、ね。どうだったの?」

 

 

先日、剣が武装組織フィーネと相対していた時、その一員となっていたDr.ウェルから告げられた事実。

 

 

 

いずれ、月が落下して多くの人類の命を奪うと。米国はその情報を隠匿している。誰もがその危険を救うつもりがないからこそ、自分達が月の落下を止める、と。

 

 

まず大事なのはこの事実を確かめる事だ。その話を伝えた後、司令や緒川、ノワール博士達がすぐさま日本国内でその情報を伝え、月の落下の確認を取らせるようにしていた。

 

 

 

「駄目だな。上の官僚は全く気にしてない、それどころか司令達を小馬鹿にまでしてる。月の軌道の観測は米国に頼む方が良いだろう、ってさ」

 

「…………そもそも米国が隠匿してるって話なのに。お偉いさん方も頭が堅いわね」

 

 

政治的に言うと、二課の立場はあまり高くない。かと言って低いわけでもない。ある程度の発言力はあると思ったが、司令曰く自分の存在があるからだろう。しかしそれで何でも出来るという事ではないらしい。

 

 

────馬鹿な上の連中は放っておくとして、今考えることが少しだけある。

 

 

「……………」

 

「どうしたの?」

 

「………いや、一つだけ気になることがある」

 

 

前々から、というか。その話を聞いていた後からよく考えた時に思ったことがある。

 

 

 

 

 

 

 

「────何故、米国は月の落下の事実を隠匿すると思う?」

 

 

ポツリと呟かれた言葉に二人は首を傾げる。どうやら言葉通りに考えてくれているらしい。

 

 

「何故って………混乱を防ぐ為じゃないの?間違いなく騒動にはなるだろうし」

「隠すだけなら一般市民にすればいい。対策を取るために各国と情報共有するのが一番だろ。だが、米国はそうはしなかった」

「情報の漏洩とかを心配してるんじゃないのか?大勢に知られると漏洩の危険があるだろうし」

「それでも、だろ。ただ一国が知ってるだけの事態じゃないんだ。せめて他の大国にでも伝えて、協力を仰ぐのが普通だと思うが………」

 

 

月の落下なんて大国とはいえ、一国が隠蔽するには大きすぎる事実だ。もし米国が影で何とかしようとしているのであれば、情報共有は必要だと思う。

 

 

どうして隠すのか、その疑問についても推測は出来ている。

 

 

「もし米国が、自分達だけでも助かる手段を持っているとしたら?」

 

 

 

 

 

「そんな手段───」

「無い、とは断言出来ないよね」

 

 

二人もどちらかと言えば肯定的だ。

そうかもしれない。月の落下を密かに止めるのであれば、日本────二課に所属するシンフォギア装者や無空剣に協力を要請するしかない。米国が保持するシンフォギア装者を運用するつもりだった、とは言えそうにないだろう。

 

 

ならば各国にまで隠すのは、秘密の手段があるからだ。もし知られれば助かる方法に殺到した人々による混乱が生じる。或いは、その手段を奪うために世界中が戦争を起こすかもしれないだろう。

 

 

だが、それは一体何なのだろうか─────?

 

 

そう疑問に思っていた剣の脳裏に、とある単語が過った。

 

 

 

 

 

 

「ノアの方舟、とかか?」

 

 

ノアの方舟。

人類の愚かさに怒りした神が引き起こした世界を呑み込む大洪水。心優しき青年 ノアと彼の家族や動物達だけが乗ることを許された、神の遣わす巨舟。

 

 

聖書上によくある善性ある者こそ救われるという話だが、本題はノア本人ではなく、その方舟にある。

 

 

大洪水から逃れることが出来た代物、もしそれが───それと似ているものが太古に存在しており、それが聖遺物として遺されていたとしたら。

 

 

 

全人類とは言わずとも、ある程度の人間は助け出せるのでは?だからこそ、今の内はその情報を隠しながらも一部の人間を選定している可能性はなくはないか?

 

 

 

 

「…………いや、こうやってても答えが出る訳じゃ無いな。色々と自分から口出した手前、申し訳ない」

 

 

 

「別に気にしないで。確かにそうかもって考えちゃったし……」

 

 

これ以上の憶測は何も変わらないとして、迷惑をかけたと謝罪する剣に、友里さん達は大丈夫だと言う。それなら良かったが、と引き下がった剣に、ふと藤尭が声をかける。

 

 

「あぁ、そうそう。剣君が別の話をしたそうだから聞くけどさ」

 

 

「?」

 

 

「剣君って学校行かなくていいのかい?ていうか、行きたいって思わないの?」

 

 

「…………?何故急にその話を?」

 

 

「響ちゃん達も学校行ってる中、剣君って一人でいることも多いって思ってさ。少し気になったんだよ」

 

 

言われてみれば、そうだなと思った。

戸籍上では(と言うが普通に)クリスと同居している剣だが、彼女が学校に行っている間は特にすることがない。

 

 

あるとすれば、自主訓練か、ロストギアスの武装確認、こうしてオペレーターの人達と談笑するぐらいだろう。

 

 

 

「俺は19歳だ。年齢的にあの学校には入れないさ。そもそも、リディアンは女子校だろ?特別とかいって、入れるようなもんでも無いしな」

 

 

 

─────それに、響達以外の子とも馴染める自信も無いしな。

 

 

 

心の奥底に留めた言葉だ。決して誰にも届いているとは思えない。そうだ、きっと誰にも気付かれてないだろう。少しだけ、不安そうな顔をする二人の様子も、きっと気のせいだ。

 

 

 

「………暇って言う話なら問題はない。少しくらい、楽しめる催しがあるらしいからな」

 

 

強引に話を逸らした剣。オペレーターの二人は不思議そうにしていたが、すぐに気付いた様子だった。なんせ彼等、二課はリディアン音楽院の地下に存在していた組織だ。少なからずリディアンについて認知しているだろう。

 

 

いや、例えそうではなくても。多くの者が知っている。最近にある大きな催しは。

 

 

 

「文化祭………リディアンからすれば、秋桜祭か。丁度良い暇潰しにもなるから行こうと思っている」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「─────あぁは言ったものの。………やはり彼等では不足だよなぁ」

 

 

 

真っ暗闇の空間。深海の奥深くを思わせるような虚構の中で、エリーシャ・レイグンエルドは嫌そうというか、面倒そうな溜め息を漏らす。真っ赤に染まった手袋を脱ぎ捨てながら。

 

 

 

彼の懸念は、武装組織フィーネの集まり。彼女達の戦力は普通に遜色ない。エリーシャが知る限りの全ての情報を基にすると────唯一、あらゆる戦況に対応できる烈槍ガングニール。縦横無尽に動き回り相手を追い詰める事の可能な鏖鋸シュルシャガナ。下手すれば防御すらも貫通する凶悪性を誇る獄鎌イガリマ。無空剣やエリーシャの有するハイテクノロジーを以てしても追尾不可能なステルスを作り出せる聖遺物 神鏡獣(シェンショウジン)、それと同等に並ぶとされる程、これからの計画にとって重要なネフィリム。

 

 

オマケにソロモンの杖を含めれば、それら全てが彼等の戦力。これだけ述べれば不足なんてある筈がない。むしろ圧倒的なまでの力の差が理解できるだろう。

 

 

 

────それら全てを打ち倒しかねない漆黒(くろ)の魔剣士、無空剣の存在がなければ。彼がいるからこそ、武装組織フィーネの勝率は格段に低い。

 

 

 

たった一人でも戦況を変えられる。世界に影響を与える程とされた『序列』を冠するだけはある、彼がいるかいないかで彼女達の計画を果たすための難易度が不可能の域にまで変わるのだ。

 

 

 

(無空剣相手ならば当然とは言え、彼を抑えるのに必要になるシンフォギア装者が最低でも三人。相手方にも立花響を含む三人の装者がいる以上、数と戦力的に不利なのはマリア達になる。別に今の彼女達にそこまでの関心はないが、捕まってしまうのはあまり好ましくない)

 

 

エリーシャの思うところは、他にもある。ギア装者であり戦力であるマリア達三人は、人を殺すという事に慣れてないのだ。それもその筈。生易しい大人に囲まれた施設で過ごして、事故で身内や仲間が死んだ()()で世界に絶望してる位の子だ。

 

 

そして何より、世界を救うというお題目を信じてあの組織の一員として立っているのだ。悪趣味だが、エリーシャとしては笑いたくなってくる。()()()()()()()から得た覚悟で、自分が丹精込めて造った無空剣と相対できると思っているのか、と。

 

 

だが、妥協してやるしかない。エリーシャとて人の不幸を比べて馬鹿にするような趣味はない。彼女達があの程度で絶望してるなら、それでいい。

 

 

ただ、それで負けるのは此方とて面白くない。だからこそ、ある程度の助力は必要だろうと彼は考えた。

 

 

 

 

「しょうがない─────助け船を出そうか」

 

 

パチン! とエリーシャは指を鳴らす。自分の元に来い、と言う簡単な命令だ。暗闇に反響した音は、木霊になって響くこともなく、闇とへと溶ける。しかし、闇から姿を現した影は、エリーシャの元へと降り立つ。

 

 

義眼使いの科学者は、人影を見下ろして、薄ら笑いを見せる。

 

 

 

 

 

「─────シオン・フロウリング」

 

 

 

ゆっくりと、立ち上がったのは漆黒と蒼銀の鎧を纏う人物だった。機械染みた装甲を全身に纏い、顔もフルフェイスで包み込んでいるので、そもそも性別すら把握できない。分かるのは、フルフェイスの装甲の後ろから伸びる結ばれた青い髪。

 

 

 

「無空剣を模した、予備の序列を造る為の計画 『量産龍魔剣(グラムシリーズ)』のNo.1にして、唯一無空剣を越える可能性を得た個体」

 

 

シオン、そう呼ばれた魔剣士にエリーシャはなにか向ける。小さな携帯端末。かつてフィーネがアルビオンの操作に使用していたような物。

 

カチカチと画面を滑るような動きで、複雑な命令を打ち込んでいく。

 

 

「今回の戦いで、『グラム』の他に、『アメノハバキリ』のみの使用を許可する。武装組織フィーネへと所属し、彼女達の補助を。最優先命令許可対象をマリアとナスターシャ教授へ、次点命令許可対象はDr.ウェルへと設定。命令許可対象の命令は()()()()確実に、迅速に遂行するように」

 

 

口頭では、飽きるくらいに長く。しかし実際には単直な命令式を打ち込まれた魔剣士の反応は薄い。いや、そもそも人間染みた反応は一つも見られない

 

 

立ち上がった魔剣士、シオンと呼ばれたモノは無言でその場から飛び去った。暗闇の天井へと跳躍し、外へと出ていく。与えられた文章状の命令を、確実に遂行するべく。

 

 

 

─────ギィォンッッッッ!!!!! と。

 

空気を熱し、焼き尽くすような轟音が響く。まるで戦闘機が全速力で飛び立っていくような勢いが、上空を駆けていく。赤熱の軌跡を青空に残し、飛び去っていく。

 

 

 

エリーシャはふーっと短く嘆息すると、制御端末を手から落とし────粉々になるように踏み潰した。その破片をゆっくりと蹴り、奈落へと落としていく。

 

 

ニヤリと、不気味な笑みが浮かぶ。これでもうシオンという魔剣士を外的作用、遠隔のハッキングで操る事は出来ない。ノワール博士ならば(多分出来たとしてもしないだろうが)その可能性も有り得るので、唯一の操作機能を封じた。

 

 

これでシオンを止めるためには、戦って倒すしかない。情に訴えるのは当然として、運悪く制御端末を奪われて戦いを止めるようにと命令されたら、此方が面倒だ。

 

 

………エリーシャがそれを持って隠れてれば良いだろうと思うだろうが、最悪の場合もある。自分が自制を忘れるまでに興奮するようなものが見られるのならば、油断くらいはしてしまうだろう。その際に奪われてしまえば目も当てられない。

 

 

さて、殺すか殺されるかという話になるが、あの無空剣に出来るか興味が湧いてくる。自分を慕っていた後輩を───自我を失った魔剣士というには失敗作でしかない、残りカスとはいえ──その手で殺せるのか、甚だ疑問だ。

 

 

 

「感情のない、いや人格の消失した魔剣士。度重なる苦痛と絶望に、魂の内に宿る精神と心を喪失させたモノ。それがシオン・フロウリング、アレを動かすのは己の自我ではなく、既に自我の失われた肉体そのもの」

 

 

 

 

だが、興味は無空剣だけではない。この世界の存在の多くは無視できないものだが、今現在一番興味があるのは、全能の主神の槍。名は違えど神槍をその胸に宿す少女。

 

 

 

武器を持たず、他者との絆を求めるあの少女。自分という存在の証明を欲しがっていたタクト=セカンドタイプすらも懐柔した彼女の人徳には、個人的な興味がある。

 

 

 

 

「立花響は敵味方問わず、相互理解を求める。ならば、感情のない、心の失ったモノにはどうしようもあるまい。

 

 

 

 

 

 

────或いは、彼女の目の前で自殺でもさせてみようか。クククッ、ククククククッ! 手を差し伸べようとした相手が自ら命を断てば、彼女の志は折れるかどうか。いや、そもそもの話だ。彼女にとっての大事な人間を殺せば、彼女の性質は何処まで変生するか────どうやら私は自分が考えてる以上に性悪らしいなぁ?」

 

 

 

狂人は、深淵の奥底で歪に嗤う。彼にとって世界は自分の実験場であり、そこに生きる人々やノイズ、神すらも実験生物でしかない。不遜かつ傲慢、一人の人間には出来すぎた考えであろう。

 

 

 

それが彼、エリーシャ・レイグンエルドという存在の本質だろう。たった一つの目的の為であれば、全てを踏み台にしてでも果たそうとする狂気の信念。大勢の、世界中の人間からの怨嗟すら向けられようと、止まらない。止まることが許されてはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────『奇跡』を『理解』する、ただそれだけの為に。エリーシャは世界の果てとも呼ぶべき深淵の奥底で人知れず、純粋な悪意を漲らせていた。




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次回もよろしくお願いいたします!それでは!!





…………因みに話に出たと思いますが、剣はクリスとさらっと同居してます(爆弾投下)今後のストーリーからして、同居人は増える予定です(更に投下)
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