久しぶりの戦闘描写だー、や っ た ぜ !!!(大寒気)
未だかつてない盛り上がりを見せる秋桜祭。校内で無くとも人の数は多く、校内で催しがあったとしても人混みの数は衰えることはない。
だからこそ、紛れるには充分かもしれない。監視の眼から隠れ、行動することも難しいことではないだろう。故に、この祭りの中にテロリストの一員が紛れ込んでいるとは、誰一人思ってもいないだろう。
「いやぁー、この祭りは楽しいデスね!美味しいものも沢山あって、どれを選ぶべきか迷うデスよ!」
その一人、暁切歌という少女は楽しそうに秋桜祭を堪能していた。一応言うが、彼女はテロリストの一員である。世界を救うために暗躍しているという点を甘味してもあまりにも無防備過ぎるとは思う。オマケに申し訳程度の眼鏡を掛けているが、果たして変装のつもりなのだろうか。
「……………じーっ」
「な、何デスか?調」
「切ちゃん、私達の目的忘れてない?」
そんな楽しんでいる切歌を、ジト目で見つめる少女 月読調が一人。割と本気で楽しんでいる切歌とは違い、至って真面目に潜入しているのだが、彼女も彼女でまた眼鏡だ。どうやら彼女達にとってその眼鏡で変装しているらしい。その自信は一体何処から来るものなのか…………。
ぐうの音も出ない事実を指摘されて、焦りながらも切歌は答える。
「だ、大丈夫デスよ!私達のやるべきことはちゃんと分かっているデス!」
「────そうか。なら、その任務について是非とも聞いてみたいな」
切歌の言葉に対し、そう投げ掛けた声に二人は咄嗟に声の方に振り向く。人の波の中で孤立するような、フードの人物。そこから覗く顔に、彼女達はすぐさま相手が何者か気付いた。
「無空剣!!」
「なんでコイツが────けど!」
突然自分達に近付いた無空剣に戸惑う切歌と調であったが、二人は予想に反して落ち着いていた。
(好都合デスよ調!無空剣が一人でいるんなら、何とか出来るかもしれないデス!)
(………切ちゃん?でも私達二人だけじゃきっと勝てないよ?)
(実力で勝てなくても、やりようはあるってヤツデスよ!他に装者が集められるよりも先に、デス!)
(…………丸聞こえなんだが。これって言うべきか?いや、下手に口を滑らせないでおこう。ここでやりあうことになるのも面倒─────正直、やる方が手っ取り早いが)
まぁ、これも魔剣士としてより優れた聴力があるからこそなのだが。だが、用があるのは此方も同じだ。
「落ち着け。別にこの場でやりあうつもりはない。まぁ、それもお前達次第だがな」
「────それは此方の台詞。ここで戦えば困るのは貴方の筈」
「戦力的な差を埋めるためなら民間人がいる場で戦うか?その場合は失望するな、お前達の言う目的もその程度のものだと。人を犠牲にする癖に、世界を救う────その行い自体がヒーローとしてもてはやされてるとでも?」
その言葉に自分が当てはまるのは当然理解している。響達や彼がよく知る大切な誰かを守る為であれば、剣はどんなに手を汚す事も厭わない。元より血で汚れきった手だ、今更殺すことに迷うことなど有り得ない。
だが、それをしないのは響達がそれを知った時の反応を見たくないからだ。勿論、そんな事をするならばバレないように仕込むが、彼女達がどう思うか、その姿を見たくもない。だからこそ、殺すことは極力控えている。
「そもそもの話、お前達二人を無力化することは難しくない。お前達がこの場で聖詠を歌う時間を、俺が律儀に待ってやるとでも思ったか?」
だが、カマを掛けるのは別だ。
彼女達は剣の観点から見れば、善人だ。月の落下なんて大規模な災害を止めようとしている時点で、相当のお人好しなのだろう。だからこそ、無実の人が犠牲になるのは彼女達の方が嫌な筈だ。
現に剣の言葉に二人は苦い顔をしている。否定できない、出来る筈がない。
「当ててやる。お前ら二人は俺に用があるんだろ?それか、響達か。まぁ、当てると言ってもそれしか見当が付かないんだがな。ここに来る理由は」
「………っ!」
「もし、俺に応じるのであれば、お前達の話も聞こう。互いの目的達成の為に、お互いの知りたいことを答える。Win-Winの関係だが、どうだ?」
勿論、彼女達が素直に応じるとは思ってはいない。一度や二度戦った敵同士、理解し合えないというのが考えなのだろう。
だが、剣も馬鹿ではない。彼女達の行動は少し前から観察していた。故に、どうすればいいかは大体分かる。少々卑怯とは思うが、作戦達成の為であれば仕方ないと思い、密かに動く。
「わ、笑わせるなデス!敵の施しなんて受ける訳ねぇデ───」
「そうか───────もし応じてくれるのであれば、先程買ってきたこのチョコバナナを無料で譲ってやろうと思ったんだが…………いらないという事なら仕方ない。責任を取って俺が一人で食べるとしよう」
スッと、先程からずっと書くし続けていた四本のチョコバナナをちらつかせる。勿論、屋台で買ってきた。当初は二本注文したのだが、もう二本オマケで来たのは流石にビックリした。普通に二本分の代金だったが、アレで本当に良かったのだろうかと思う。
そして、反応はどうかと伺うと──────
「──────調!ここは仕方ないデスがアイツの誘いを受けるしかないデスよ!その方が良いに決まってるデスッ!」
「…………切ちゃん」
金髪の少女は陥落させた。食べ物をダシにすればアッサリと引っ掛かってくれたのだ。案外チョロかったとか言う小言は心の奥底で呟く事にする。
呆れたように呟く黒髪の少女であったが、彼女もあっさりと引き下がり、剣の提案に乗った。
こうして、敵同士による交流が始まった。無空剣は敵勢力の目的を少しでも知るために。装者である二人、暁切歌と月読調は無空剣の有するロストギアと彼の仲間のシンフォギアを。互いにそれぞれの思惑を秘めた、密かな取引が。
◇◆◇
エアキャリアの一室。
両腕を組み、壁に背を預けたマリア。彼女は警戒とは欠け離れた不安と心配に苛まれていた。いや、少し前までは警戒していた。そう、少し前ではだ。
困ったように、マリアは視線を向ける。部屋の片隅に大きな塊が鎮座している。だが、あんなに大きな物体は元々はなかった。そもそも、その物体は人間なのだ。
────シオン・フロウリング。
自分達の手助けに来たらしいその存在は、部屋の隅で身動ぎすらせずに固まっている。そうなってから十分も過ぎているのに体勢を崩さずにいるシオンの存在が、マリアは凄い心配だった。
眠っている………そう思うが、否定したくなった。彼はまだ敵味方か詳しく判明した訳ではない、本当にエリーシャ博士が導いた援軍である可能性の方が高いのだが、まだ疑われている身には違いはないだろう。
それなのに寝てたとしたら、どこまで度胸があるのだろう。呼吸の音すらもせず沈黙しているのは流石に不安がピークに達していた。胸の内に一杯になった心配に駆られるように、マリアはシオンへと声をかける。
「────ねぇ、少しいいかしら?」
反応されなかった、本当に寝てるのかもしれない。そう考えていたマリアだったが、反応はすぐにあった。ピクリと、全身鎧が身動ぎすると、首をマリアの方へと持ち上げ、カクリと傾げる。
『疑問、何か?』
…………ずっと同じ体勢でいるのに寝てなかったのか、とマリアはその事実に驚愕する。だが、言葉を掛けたのに、何も用事が無いというのは、場合にとっては嫌に感じる筈。
何とか話を続けようと、思い立ったマリアはさっきから思い悩んでいた疑問を、本人に聞くことにした。
「貴方………シオンは、魔剣士で合ってるのよね?」
『解答、その通り。当機も、グラムのロストギアを纏う魔剣士で間違いはない』
「………グラム?それは無空剣のロストギアじゃないの?」
シオンの発言にマリアは思わずそう問うが、彼は的確かつ丁寧に答えを述べた。
『解答、無空剣のロストギアはグラムで間違いない。当機体は無空剣を模す為に製造された、
「…………グラム、シリーズ」
要するに、マリアのガングニールと似たものか。このシンフォギアも自分が持つものと、二課にいる装者が纏うものとで、二つ存在する。同じガングニールを纏う者がいるのだ。彼方の世界にも似通った事があっても、何ら問題ではないのだろう。
「そう。…………少しだけ気になったから良いかしら。どうして貴方はその鎧を解かないの?その鎧もロストギアの装備なのは分かるけど、常に纏い続ける必要はないでしょう?」
『否定、これを解除することは不可能。当機体 シオン・フロウリングには、この装備を解除する事は許されていない。この事実は、最重要命令システムによって確約されている』
「命令って…………そこまでする理由があるの?」
『肯定、当然。当機体にはそのように調節されている。厳密に語るのであれば、当機体は単なる処────────』
そこまでシオンが言葉にしていた、その時であった。
激しい警報の音が鳴り響く。それが敵の接近を示しているのは、旧知の事実であった。確認すると、マリアは飛び出そうとして立ち止まり、シオンに意識を向けるが、彼は挙動すらしない。
ここに居続ける訳にはいかない、そう判断したマリアはすぐさま部屋を出ていく。ナスターシャ教授のいる部屋へと入ると、彼女から一言告げられた。
「マリア、本国から追っ手です」
「………もうここが嗅ぎ付けられたのね」
「異端技術を手にしたと言っても、私たちは素人の集団。訓練されたプロを相手に立ち回れるなどと考えるのは、虫が良すぎるというもの」
「…………それでも、異端技術は異端技術。それを打破しただけではなく、この数とは…………米国のお偉いさんも随分と本気のご様子で」
入り口の近くでウェル博士が肩を竦め、言う。どうやら彼等は何としてでも自分達の過失であるマリア達を排除したいらしい。彼女達のやるべき事ではなく、彼女達の存在自体が邪魔なので仕方はないが。
「マリア、排撃の用意を」
「排撃って…………相手はただの人間、ガングニールの一撃を喰らえば─────っ!!」
「そうしなさいと言っているのです」
悔しそうに、マリアは顔を歪める。確かにマリアがガングニールをもって戦うことが今出来る最善の事だ。だがしかし、それは自身の手で彼等を殺めることになる。
世界を、多くの罪の無い人々を救う、彼女達の目的はそれに一貫している。誰かが苦しまないようにするために、マリア達はテロリストへとなる事を選んだ。だが、それでもだ。
敵の命を奪う事までは、求めてはいない。自分が手を汚す事への躊躇いは、フィーネを名乗った日から消えることはなかった。だが、そうしなければ、今も迫ってくる彼等に殺される事になる。
決断することも出来ないまま、悩むしかないマリアであったが、
『────推奨、命令を』
真後ろからの声に、思わず振り返る。入り口の扉を開いた黒い鎧────シオンがその場にいた。無機質な兵器の青年が、機械に包まれた声音で答える。
『解答、当機体 シオン・フロウリングは魔剣士の一人。戦闘に対しての腕は問題ない。取得した情報が正しければ、マリア・カデンツァヴナ・イヴはフィーネの器。あまりギアを纏うのは得策ではない。ならば当機体が殲滅するべきかと』
突然の事に迷うマリアであったが、
「別に僕は良いと思いますよ?」
ウェル博士はそう言って、シオンの提案に賛成の意思を示した。
「彼がエリーシャ博士から送られてきた援軍であるのは確固たる事実、使える駒は使うのが是非。何より
了解、とシオンは背を向けて部屋から離れようとする。しかしすぐに首だけを動かし、一つの疑問を問う。
『疑問、捕虜の有無は?』
「その必要あると思います?」
『了承』
そう言うと、シオンはすぐさま扉を開けて去っていく。その様子を見届けたウェルは、「それじゃ、僕も少し出張りましょうか」と呟きながら、部屋から出ていく。
ついに、部屋に残ったのはマリアとナスターシャの二人だけになった。行き場もなく、ただ拳を握り締めているマリア。彼女はナスターシャへと言葉を掛けようとするが、
「…………マム」
「マリア、お願いがあります」
遮るように、ナスターシャが言った。先程の、自身の甘さを指摘されると思っていたが、その内容は予想に反したものであった。
「少しでも良いです。彼を、シオンを気に掛けてあげてください」
「…………え?」
突然の事に、マリアは呆然と硬直してしまう。その次に困惑という感情が彼女の中に生じる。唐突な事で、意味が分からなかった。
「それは、どう意味────」
「エリーシャ博士は自慢気に私達に教えてくれました。彼がどのような魔剣士なのか。どのようにして、彼を
それが何なのか、そう聞こうとしたマリアだったが、ナスターシャは両目を伏せると共に無言を貫いた。話す事を躊躇ったのだろう、マリアの事を案じて。
だが、それが余計に彼女に重石となってしまう。
さっきもそうであった。マリアは米国の追っ手を倒すことに迷いを持っていた。肝心な時に、覚悟を抱くことが出来なかった。シオンが動いた事で、自身の手が血に汚れずに済むかもしれないと─────思ってしまったこと。
拳を強く握り締め、マリアはそんな自分を嫌悪する。こんな筈じゃなかった。そういう言い訳を最初に抱いてしまう事が、どうしようもなくなってくる。
戦場に向かうことも出来ず、マリアは歯痒そうにその場に居続けた。これからどうなるか明確である米国兵士の姿を画面越しに見つめながら。
◇◆◇
建物の影や遮蔽に隠れながら、米国から派遣された特殊部隊の面々は武装組織フィーネが隠れていると思われる場所へと近付いていく。
彼等は目的の建物へと踏み込んでいく。人の気配は存在しない。無人の空間の全包囲に銃口を向け、彼等は少しずつ奥へと進む。
そうして、一番奥にある扉へと辿り着いた。どうやらこの先の倉庫に、彼等の拠点があるらしい。それが分かると、兵士達はすぐさま行動に移った。
一人の兵士が壁の方へと近寄り、バッグから取り出した四方形の物体を壁へと押しつける。手に持っていた携帯端末の電源を付けると共に、貼り付けられた物体に赤い光が点滅し始める。
『───爆弾を設置した。遮蔽物に避難後に五秒後に起爆する』
そう示す無言のジェスチャーと共に兵士達全員が物陰や柱へと移動する。全員が隠れたのを確認した兵士の一人が、手の内に収まるスイッチに指を添えながら、時間を脳内で数えようとする。
…………1、2、とまで数えていたその時、盛大な爆音が響き渡った。爆弾の取り付けられていた壁が凄まじい爆発を引き起こしたのだ。
突然の事に、兵士達の空気に戸惑いの感覚が漂う。しかし、爆弾のスイッチを持っていた兵士の隣にいた兵士は怒った様子で、英語を捲し立てた。
『おい!まだ配置についてないぞ!何故勝手に爆発させた!?』
『違う!まだスイッチは押してない!アレは爆弾によるものじゃない!』
スイッチを持つ手ごと両手を上げる兵士に、彼も確かにそうだと理解する。スイッチは起動した時のような反応になってない。言われてみれば、そもそも壁を吹き飛ばした爆発と言えば、実際の爆弾よりも火力が強かった印象がある。
じゃあ、何が起こった?と疑問が生じていたが、それはすぐさま解消された。
ザン、ザン、と。
粉砕された瓦礫を踏み抜き、堂々とした態度で何かが姿を現したのだ。先程爆破で破壊された壁の向こうから。
シオン・フロウリング。
全身が機械の鎧に包まれたモノ。壁に手を掛け、ユラリと砂煙から歩み出したそれは、彼等の前へと進んで出てくる。その存在の登場に米国の特殊部隊の隊員達に僅かな戸惑いが停滞した。
『何だアレは!?情報にないものだぞ!!』
『事前に伝えられていたシンフォギアでもない!奴等の隠した手札か!?』
予想されていたのは、自分達よりも年下の子供達。シンフォギアという武装を纏う少女達であった。だが、目の前のそれは彼等が事前に確認していたシンフォギアのどれにも一致しない。
それどころか女性ですらない。いや、彼等はそれが人間なのかも疑問であった。人間というには、あまりにも機械的すぎる。顔が見えないせいで感情が読み解けないのが理由だろうか、まるで人形と相対しているようで、原始的な恐怖が彼等の心にあった─────。
だが、彼等も選りすぐりの兵士達だ。突然の出来事に困惑はすれど、そう簡単に遅れを取ることはない。
『怯むな!奴とて生きているのは確かだ!生きているのならば殺せはする!シンフォギアもそれは同じ───』
叫びながら、サブマシンガンの銃口を向けた直後に、乱射を叩き込む戦闘員。彼の言葉に応じるように、彼等はすぐさま動き出す。流石は米国の特殊部隊。多くの特訓や戦場を潜り抜けてきたであろう彼等は、今回もそうだと決意を改める。
だが、現実はそう甘くない。
ザシュッ!! という小切れの良い音と共に、サブマシンガンが宙に舞う。引き金と重心に触れていた両手諸とも。
そして、バシャバシャッ! と溢れ出した血が滝のように地面を濡らす。先程声をあげた兵士は、それを見て現実を理解できないようであった。
『…………え、あ……?』
そして、それが最後であった。視界を包み隠す粉塵から伸びた鋭い腕がその兵士の切り裂き、首を吹き飛ばす。肘の奥から伸びた蒼き光、レーザーエッジによって、防弾装備ごと、肉や骨ごと綺麗に切断されていた。
『通達、これより戦闘シークエンスに入る。目標対象、確認。対処、殲滅。結論、殲滅。一人残らず、殲滅する』
ブォン、と光の刃を放出しながら、シオンは真上へと跳ぶ。文字通り、背中や腰の部位から噴出したエネルギーを以て加速し、縦横無尽に飛び回る。壁や天井、床や柱へと跳び移る。
銃弾の嵐でありながら、シオン・フロウリングを的確に狙い、捉える弾丸はない。全ての弾が高速で動き回るシオンの影へと当たるだけであった。
当然の事ながら、そんな速さで翻弄されてるのだからすぐに見失ってしまった。何処にいるのか、困惑して辺りを見回す彼等の背後で──────蒼き光が輝いた。
『何処だ!隠れてい─────』
真後ろから、背中を貫かれる。光刃が心臓ごと抉り、防弾装備ごと軽々しく引き裂いた。悲鳴を上げることも倒れる兵士を持ち上げ、追い討ちと言わんばかりに、此方を狙う兵士達へと叩きつけた。
仲間が飛んできたことに一瞬だけ気が緩む兵士達。しかし彼等が銃を下げた秒にも取られない隙を、シオンは逃さない。
高速で彼等の前へと移動すると、全身を激しく捻った。360度所ではない、上半身を四回転させる形でシオンは両肘のレーザーエッジを振り回す。胸元を容赦なく切り刻まれた兵士達の生命活動は完全に停止する。
直後に動きを止め、自身が投げ飛ばした兵士を片手で受け取るシオン。まだ生きてはいるらしい、弱々しい呼吸の音がマスクから聞こえている。背中を抉られた傷は深かったのは間違いない、このまま放っておいても死ぬのは事実だろう。
『───システム、報告』
しかし、シオンは見逃すことはない。首の骨をへし折り、確実に息の根を止める。動かなくなった骸をゴミのように放り捨てる。
それから、銃撃が止んだ事に気付いたシオンも動きを止める。どうやら彼等はシオンへどう対抗するかを策略しているらしい。或いは無視してこの先へと進み、武装組織フィーネだけでも倒すべきか、と考えているのだろう。
同様に、シオンは困り事があった。
相手の数が多い。いや、このくらいならば大したことはない。だが、六人は屠った筈なのだが、二十人くらい存命しているのだ。
────今の武装では全員殺せるが、手間が掛かる。そう判断したシオンは迷うことなく次の行動へと移る。
『敵性対象の個体数が予想より多い。迎撃に時間が掛かる。更なる武装の展開を求める』
『────自律演算機能による承諾を確認。これより主要武装「
ガシャン、と。
シオンの背中の部位から、小型の金属具が勢いよく乖離した。同時に背中の大きな金属の塊が背中から剥がれ落ちるように、ゆっくりと動く。
塊だと思われていたそれは、宙に浮かんでいた。当然だ、何故ならそれはシオンの肉体の部位である腰から繋がっていたからだ。まるで尻尾のような、大きな金属腕とその先にある金属塊が、パックリと開いた。
生物のような、開いた口のような形をする尻尾の先。座右の口元に組み込まれている金属の刃が合わさり、四対の爪のように見えるが、実際にはそれよりも凶悪かもしない。
銃弾の嵐が止まらぬ中、シオンは冷徹に周囲を見渡す。同じように、尻尾もグルリと周りに意識を向けていた。一つの生物というよりも、二つの生物が一つの個体として共存してるかのようにも思える。
そして────シオンはすぐさま動いた。
遮蔽に隠れていた兵士の一人へとシオンは飛び掛かり、マスクごと顔を切り刻む。その際にも、シオンを狙う兵士達の動きがあった。しかし、すぐに狙いが切り替わることになる。
シオンに接続されている金属の尻尾が、兵士の一人に噛みついたのだ。勿論、歯がないので兵士を噛み千切る事は出来ない。しかしあまりにも強靭な力であったせいか、グシャリ、と防弾装備と共に胸部が骨ごと粉砕されてしまう。
尻尾の近くにいた兵士達も、すぐさまシオンから尻尾へと銃撃を即座に変える。しかしシオン同様、金属に包まれた尻尾には通じる筈もない。悲しいことに、傷一つも付けることが出来ない。
その間、無慈悲に尻尾は狙いを定めたように一人、また一人と葬っていく。それでも、特殊部隊の兵士達は目の前の敵に果敢に対抗しようとしていた。
その一人が、手榴弾のピンを引き抜く。危険物を察知したシオン自身が、他の兵士を地面に叩きつけながら、腕を振るう。
飛ばされた蒼き光刃が、振るわれる瞬間に肘から外れるように分離する。ブーメランのように回転しながら飛来していき、投擲せんとして兵士の腕を両断した。
『──────ァッ!!』
激痛に呻く兵士。しかし、彼の絶叫は足元で炸裂した爆発によって、あっさりと途絶する。近くにいた兵士達も爆風と飛び散る破片によって被害を被り、更に戦況が混乱する。
腕と両足を吹き飛ばされ、苦痛に呻く兵士の首を爪で引き裂き、一撃で仕留めるシオン。
『全員避けろォ!!』
そんな最中、一人の兵士が英語で怒声を放つ。思わず意識を向けた兵士達であったが、ヘルメット越しにギョッと顔色を変える。そしてすぐさまシオンから距離を取るように、蜘蛛の子を散らすよう離れ出した。
ロケットランチャー。
対聖遺物用、或いはエアキャリアごと敵を消し飛ばす為に用意していた武器を、彼等は惜しみ無く使うことにした。
トリガーを引くと同時に、砲身から榴弾の如くのミサイルが飛び出した。後方から火を噴き出しながら、シオン・フロウリングを標的と定め、直進していく。ヘリや戦車を破壊できる火力を前にしても、シオンは逃げる素振りすらない。
『───』
顔前へと辿り着こうとした所で、ミサイルが突然停止した。機械の尻尾が、軽々とロケットランチャーの砲弾を掴んでいた、いや噛みついていたのだ。そして一瞬で粉々に潰したかと思えば尻尾ごと地面へと強く押し付けた。
ドゴォン!!
と、それだけだった。ロケランの爆発を押さえ込んだ尻尾には、やはり大した損傷はない。あるのは単なる火で微かに燃えた痕のみ。
唯一倒せたかもしれない手段を、難なく無効化されてしまった特殊部隊の面々に絶望が浮かぶ。銃も効かない、手榴弾も、ロケランも通用しない。数で向かってもあっさりと対処されてしまう。
ゆらり、と。足元から僅かに舞った砂塵をかき消すように、シオンはゆっくりと前に歩み出した。
冷徹に、冷酷に、感情もなく、性格すら見せず、淡々と抹殺を開始しようと。獲物ですらない、単なる動くだけ的を破壊するために、彼は当初の任務を問題なく続けた。
一方で、マリアはその光景に言葉を失っていた。米国の特殊部隊とシオンの戦闘─────いや、これは戦闘とも言えない。単なる追い込み漁でしかない。確かにシンフォギアを前にすれば、鍛えられた軍人も相手ではない。だが、ここまで手も足も出ない状況はあるのだろうか。
「────あれが、シオン・フロウリング」
震える声音で皆殺しを続けるシオンの名を呟くマリア、隣で見ていたナスターシャは息を呑み、目の前の状況に険しい顔をする。
「………エリーシャ博士が造り出したという魔剣士。人間としての枠を越えぬように、限界だけを超越した人間兵器。凄まじい、としか言い様がありませんね」
同時に、彼女達の中にある事実が浮かんできた。
協力者であるエリーシャが前に語った事実。魔剣士達は様々な実力とそれを甘味した危険性で順位分けされているという話を。そのトップである序列三位は、国や大陸、世界すらも滅ぼすとすら言われていたのだ。誇張であると信じたいが、もし真実ならば、そのトップに位置する彼等はシオンの何倍の強さで、どれほどの実力なのだろうか。
─────少なくとも、相手にはしたくないとマリアは思う。だが、その一人がこの世界にいるというのが事実だ。月の落下という世界の危機が救えたとしても、もし無空剣以外の序列がこの世界に来るとすれば、どれだけ激しい戦いになるのだろうか。想像したくないし、実現して欲しくもないと、願うばかりだ。
その最中、兵士の一人が何か気付いたように大声を上げると、近くにいた兵士達がシオンを無視して銃を撃ち始める。勿論、彼のいる方向にではない。マリア達からは映像越しであるので、何がいるのかは最初は分からなかった。だが、すぐに画面に移った『それ』が何なのか、すぐに判明した。
「ノイズ!?何故あの場に────いや、まさか!」
自然発生したノイズではない。そんな都合の良い現実
じゃないのは誰でも分かる。召喚されたものだ、あのノイズは。
マリアが近くに目を配ると、やはり居なくなっていた。武装組織フィーネで非戦闘員でありながら、ノイズという対人特効の存在を呼び出し操ることの出来る人間が一人。
戦場にて、爆破によって燃え盛る空間の中に、場違いと言うべき白衣の男性が踏み込んでくる。ソロモンの杖という、人間への過剰とも言える程の戦力を有した科学者────ドクターウェルが。
「…………彼の実力を見るのも事実ですが、この程度の敵には僕でも充分でしょう?」
眼鏡を押し上げたウェル博士は、薄ら笑いを浮かべながらもソロモンの杖を用いてノイズを呼び出していく。殲滅行動を繰り返していたシオンがそれを確認すると動きを止めて、ウェル博士へと視線を送る。
「例え貴方達がどれだけ鍛えられ、戦場を歩んできた兵士であろうとも、ノイズには敵わないのは事実。シンフォギアやロストギアが無い限り、ノイズ太刀打ちできる人間は────存在しません」
『─────』
「ただまぁ、僕も生身ですし。彼等の流れ弾が当たるのも嫌ですから………………そこは任せますよ?シオン・フロウリング」
了解、と短い掛け声と共にシオンは戦術を切り替える。ドクターウェルへ流れ弾が届かないように、かつノイズを利用し的確に相手を必ず殺す戦い方へと。
ノイズと魔剣士。最悪の組み合わせが、生き残った米国の兵士達を葬らんとする。ドクターウェルへと向けられて放たれる銃弾をシオンが弾き返し、生き残った兵士の一人を切り刻んだり、ノイズへと叩きつけて灰へと変える。
効率だけを優先した戦術で、シオンは生き残りの兵士達を葬り去っていく。次第に兵士達から戦意というものが消失していく。五体満足の者ですら絶望してしまったのか、先程まで見えた抵抗の意思は弱まっている。
殲滅、皆殺しまでは時間の問題であった。
『─────』
「おや、どうしました?」
突如、シオンが行動を切り替えたようにウェルの元へと引き下がる。超越した反射神経に、ウェル博士も密かに感嘆する中、シオンは建物の外へと意識を向ける。
当然の事ながら、今のシオンには米国の特殊部隊など眼中に無い。あるのは新たに生じた、一つの問題である。
『───報告、周囲に生体反応を確認。付近に人間が存在している』
「人間…………もしや民間人ですか。騒ぎを嗅ぎ付けて来たのかもしれません」
ここに拠点を置く際に、人気の無い場所を選んだ。近くに人のいる住宅などは無いというのは分かりきっている。大方、偶々通り過ぎた時にここの騒動に気付いて、興味を持ってしまったのだろう。
それが、触れ無ければ良かった類いのものだとは知らずに。
「まぁ………貴方の事ですから、どうするかは分かってますよねぇ?」
『解答、勿論。言われるまでもなく』
「では、始末を完了したら後で向かいますので。その間、キチンとした処理を任せますよ」
二人の話には優しさなど到底感じられない言葉が交わされる。今もノイズをけしかける彼等の会話には互いの考えが含まれている。それを言葉に乗せることなく、すぐさま動き出した。
シオン達が気付いたのであれば、映像で見ていたマリア達もすぐに気付いた。
「………あれは、子供?」
画面に写るのは、建物へと近づいていく自転車を引いた少年達だ。野球などをしているのか、ユニフォームを着込んだ彼等は複数人で他愛ない会話を交わしている。
「………どうやら、シオン・フロウリングと米国の特殊部隊との戦闘に気付いたのでしょう」
「ここまで来てるの……?それは────」
不味い、と口走ろうとした瞬間。マリアの予想は、現実になってしまった。無論、最悪という状況に。
建物の中から、人影が出てきた。
暗闇から光に照らされ、子供達もその相手を理解する。マリアも、カメラの移す映像によって、ようやく視認できた。
シオン・フロウリング。
血に濡れた鎧に全身を覆った魔剣士。米国の特殊部隊を蹂躙していたであろう人間兵器が、何故か外へと出てきた。視線なんてものは分からない。けれど、何を狙っているかは簡単に読めた。
「………待て」
その後が嫌にでも思いついてしまったマリアが、震えた声を漏らす。だが、ここで言っても言葉は聞こえていない。いや、言ったとしても変わらないだろう。
シオンはゆっくりと、子供達との距離を縮める。ガシャン、ガシャン、と金属装甲を揺らす音が響く中、両肘から蒼き光が吹き荒れた。
それは形を成して────刃と化す。米国の兵士達を軽々と切り裂き、殺害して回ったシオンの武装。肉を削ぎ落とし、骨を切断し、命を刈り取る、圧倒的な殺意へと。
「待ちなさい!シオン!その子達は関係ない!!」
思わず操縦席の画面に食いかかるが、それでもどうしようもない。今更向かった所で何一つ変わらない。
マリアの脳裏に、最悪な展開が浮かぶ。止めようと、それでも動こうとするが、彼女がそうした時には、事は終了していた。
「ど、どうしたんですか………?」
突然現れたシオンに、少年達は困惑する。それもそうだ。全身に着込んだ金属の鎧は、どう見ても現実離れしている。心の中ではきっと映画の撮影の為の特殊メイクかスーツかと思っているのだろう。
だからこそ、少年達は逃げることが出来なかった。これがノイズという驚異であれば、彼等も動くことが出来たかもしれない。だが、実際にそうはならなかった。それが予想された結末を迎えるのは、変えようのない現実だ。
シオンは無言で─────両腕を大きく振るった。肘から伸びた蒼き閃刃が、空を描く。それだけであった。シオンは変わらない態度で刃を収納した。瞬間の、事だ。
────無音。
風を切るような音すら鳴らず、刻み込まれた斬撃の痕跡は消え去る。続くように響いたのは、噴き出したような液体の音。そして、ゴトッ と地面に幾つかの塊が転がった。
「─────っ!!」
「…………」
画面上に見えた光景に、マリアは言葉にならない悲鳴を押し殺す。隣で見ていたナスターシャは少しだけ目を伏せるが、悲痛そうなマリアの様子を目にすると何も言わずに押し黙っていた。
「随分とまぁ、荒れてますねぇ。これは」
シオンが作り出した惨状に、苦言を呈するように呆れるウェル博士。既に生き残りを始末してきたのであろうか、彼が出てきた建物の中からは人の気配は存在しない。
しかしそう言う彼は、子供達の死自体は気にしていない様子だった。ただ、首と肉体を分断された数人の少年達の死体、そこから噴き出した血の汚れを気にしてるようだった。
その場から動くことなく、シオンは首だけをウェル博士へと向けながら、告げる。
『提案。ウェル博士、ノイズによる死体の抹消を』
「………やれやれ、最初からノイズをけしかけた方が早いと思いますがね」
『意見。確実に殺すのであればこの方が早い。恐怖もなく殺したので問題はない』
「まぁ、僕も鬼じゃあありませんよ。一般人ならそれくらいの慈悲もあって構いませんか…………最も、貴方のそれは、感情的ではなく、合理的みたいですが」
一般人だからこそ、ノイズによって消されてしまう恐怖も、命尽きる間の死の感覚。それに飲まれないよう介錯した、訳ではない。
意識しない間に殺した方がいい。抵抗もされないし、逃げることもしないのだから。それだけの理由であった。ノイズにより遺体を残さず消す事をしないのも、容赦なく攻撃を行わず、ただ彼等の首を切り落としたのも。
ウェル博士がソロモンの杖で呼び出したノイズで遺体を炭へと変換する最中、シオンは子供の遺体を見つめていた。
自分でしたにも関わらず、その指は震えていた。が、彼のものではないみたいだ。指の震えは少しずつ強くなり、手を動かすにまで至ろうとしていた。
しかし、そこでシオンの鎧の、フルフェイスから光が生じる。光は鎧を伝い、全身に行き渡り、指の震えを停止させた。
『───異常発生。シオン・フロウリングの精神が微かにも浮かび出した。結果、強制精神封印により鎮静化。更に封印を強め、精神を封鎖させる』
独り言のように呟き、歩き出すシオン。建物の中へと入っていき、エアキャリアの内部へと戻る。何の感傷も抱いた余韻すらなく、彼は先程まで戦場であった場所から離れていく。
「─────アレが失敗作、ですか。エリーシャ博士の考えも分かりませんねぇ、彼も充分兵器に相応しいのに」
或いは、エリーシャはシオンという戦力すら霞む程のものを知っているのか。あの青年が手も足も出ないほどの兵器の存在を。
理解していたとしても、相手にしたくはないとウェルは困ったように笑う。杖を懐へと収納し、倉庫の中へと戻っていく。
こうして、彼等による殺戮は一時期幕を下ろした。無関係の者まで殺されるという事態になったのだが、彼等は気にしないだろう。最も、気にしてはいないのは実行犯の二人だけなのだが。
オマケ
剣「ところで…………何だその眼鏡」
切歌「これは変装デス!存外にバレないんデスよ!」
剣「…………ん?変装?」
調「潜入美人捜査官メガネ。これで任務の成功率がアップ」
剣「多分だが…………それ意味ないぞ?俺だってすぐに分かったからな。後一言、もう少し大人になってからにしておけよ」