戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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刹那「最近出番がない」(尚、これからも出番は先のようですね)


望まぬ再会

「クリスちゃん!本当に良かったよ!」

 

「~~ッ!うるせぇ!あんまり掘り返すな!」

 

「うむ、とても良い歌だった。雪音の歌う姿を見ることが良かった」

 

「せ、先輩まで……!止めてくれよ!」

 

 

コンサートも終わりを迎え、全員が帰ろうとする最中、一人で歩いていた剣は響と翼と、二人から賞賛を投げ掛けられ赤面しているクリスを見つけた。因みに未来は何も言わないが、響に同調するように頷いていた。

 

 

「お疲れ様、チャンピオン。綺麗だったぞ」

 

「剣!?ちゃんと聞いてたんだよな!?」

 

「勿論」

 

 

軽く声をかけると、クリスは顔色を変えて食いかかってきた。即答したが、クリスは口を一文字にして此方を見つめていた。

 

 

彼女が自分の歌の感想を求める、というのはすぐに分かった。少し前までその事を考えていたから、言葉が詰まるという事はなかった。

 

 

「…………良かったな。歌も、クリスも。本心からの歌だって、心からの歌だってのがよく分かった。だからこそ、見ていた間はずっと見惚れてた。とても………素敵だった」

 

 

言い終えた後、返答が来ない事を不思議に思った。が、すぐに判明した。

 

 

口をパクパクと開かせ、顔が真っ赤に染め上がったクリス。どうやら凄い照れてるらしい。茹で蛸みたいだな、と思ったが、実際に口に出すのは止めた。流石にぶん殴られる。そんな愚行は容易くしない。

 

 

 

 

「あれ?クリスちゃん照れてる?」

 

「なッ!?ばッ………!てっ、照れてねぇよ!これは、色々と……っ!!」

 

 

そんな最中、響がクリスの顔を覗き込むように聞き、クリスは慌てて否定していた。上手く言葉に出来ない彼女を、ニヤニヤと面白そうに見つめる少女達。

 

 

 

 

───少しの間、大丈夫だなと判断した剣が静かに動く。

 

 

「…………翼、耳を貸せ」

 

「無空………?」

 

 

突然の囁き声に翼は怪訝そうにしながらも、すぐさま違和感を見せないように剣の近くへと歩み寄る。心の中で感謝を述べながら、彼は簡潔に事実を告げる。

 

 

(────この会場に敵の装者が来ていた)

 

(ッ!?それは(まこと)か!?)

 

(あぁ、この眼で確認した。実際に対話もしたから間違いはないだろう。狙いは、俺やお前達のギア………お前達はペンダントらしい)

 

 

健気に頑張っていたあの少女達、彼女達には悪いが今回の件で得られた情報は無駄ではなかった。彼等が最近動きを起こさなかったという事から、彼等の目的とやらは達成できない状況下にあるらしい。

 

 

その為に必要なのは、ロストギアかシンフォギア。厳密には、その核として利用されている聖遺物の欠片だろう。世界を救う、と豪語したのだ。彼等もそれが必要だと分かっていた筈だろう。相手の装者や自分から奪わなければならないということは、何かに消費しているのだと思われる。そして足りない現状だからこそ、新しいものを調達したいと。

 

 

だからこそ、彼女達を使ったのだ。ペンダントやロストギアを手に入れてこい、と。

 

 

 

 

(ペンダントを………?何故それを求める必要がある?)

 

(そこまでは分からない。後で響達や司令とも共有はしておくが、その前に伝えておきたい事があった。他の皆よりも、経験や実力があるお前に)

 

 

これはあまり隠す必要もないかと考え、剣はその次の言葉を口に出す事にした。

 

 

「つい先程、俺の魔剣(グラム)が共鳴した」

 

「グラムが………共鳴?」

 

聞き覚えのない単語に、翼は疑問を表面に浮かべる。

左目に埋め込まれたグラムの欠片を指差しながら、剣は簡単に説明した。

 

 

 

曰く、共鳴とは同じ魔剣を宿す者に発生する現象だ。同一の物質、同一の性質、同一の欠片である魔剣は互いの発するエネルギーに反応する。その効果は通常のエネルギー反応とは違い、眼窩や掌に埋め込まれた欠片が激しく反応するのだ。

 

 

魔剣が一つに戻ろうとしているのか、或いは主に伝えたい事があるのか、それは未だ定かにはなっていない。だが、明らかな事実が一つだけ目の前に呈示されている。

 

 

「基本的に、魔剣が共鳴する原因は一つしかない。同じ性質の欠片─────つまり、別のグラムの欠片がロストギアとして起動されたことを意味する。この世界では、一度も感じたことがなかった」

 

「まさか─────」

 

言わんとする事を理解した翼が眼を見開き、剣に注視する。そして、あぁと頷き、剣が答えを口にする。

 

 

 

 

 

「俺と同じグラムを宿す魔剣士──────量産龍魔剣(グラムシリーズ)がこの世界に来ている」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「マリア!マム!大丈夫デスか!?」

 

 

リディアンから離れ、すぐ近くの人気のない場所で、切歌達はマリア達と合流していた。ナスターシャ教授とマリア、家族のような存在である二人が無事であることに安堵する二人の少女であったが、彼女達はすぐに何かに気付いた。

 

 

 

自分達の知らない何者か、蒼黒の鎧に包み込まれた誰かが、マリア達の近くに立っているではないか。

 

 

 

「…………っ!?」

 

「マム!ソイツは───!?」

 

 

「安心しなさい二人とも。彼は我々の味方、エリーシャ博士から送られてきた援軍です」

 

 

車椅子で二人の前に出てきたナスターシャの言葉に、彼女達は不承ながら警戒を解いた。

 

 

しかし、当の本人────敵意を向けられたシオンは、相変わらず反応はない。直立のまま、自分に与えられる命令を常に待っている。

 

 

何事も発することのない彼に、ナスターシャは

 

 

「シオン、二人に挨拶をお願いします」

 

『………確認、それは命令か?』

 

「命令ではありません。自主的なものです」

 

『了承』

 

 

ナスターシャとの短い会話を経て、シオンは無機質な仮面を切歌と調に向ける。警戒されるのは当然だろう。そんなことを気にせず、シオンは淡々と口にした。

 

 

 

『当機体は、シオン・フロウリング』

 

 

 

 

 

たった、それだけだった。

蒼き魔剣士は一言も発することなく沈黙を貫く。話すことが嫌、という訳でもない。むしろ返事や反応を待っているようであった。

 

 

人間らしい素振りが見られず、不気味であることは変わらないのだが。

 

 

 

「………それだけ、デスか?」

 

『確認、気になる点があれば、問いがあれば即座に対応する。何一つ、支障はない』

 

「…………マム?」

 

「……………彼は色々と問題を抱えています。ですので、普通に接してあげてください。実力に関してはエリーシャ博士が勧めるように、遜色はありませんので」

 

 

切歌が不安気に聞いてみるが、本人は特に問題とすら思っていないらしい。ナスターシャは額に手を置き、溜め息を吐く。最初からずっとこの調子だ。実力や戦闘センスは遜色ない、この一同の中では最強の戦力だ。

 

 

しかし、著しくコミュニケーション能力が欠けている。それこそが、シオンの唯一の短所だろう。だが、シオンについてある程度教えられたナスターシャからは、それを強く否定することは出来ない。故に、少し諦めかけてはいた。

 

 

 

「………時間を掛けましたね。追手が来る前にこの場から離れましょう」

 

「待ってマム! 私達、ペンダントを取り損ねてるデス! このまま引き下がれないデスよ!」

 

「決闘すると、そう約束したから─────」

 

 

 

 

必死に呼び掛ける言葉は出なかった。話そうとしていた調だったが、彼女の頬に平手打ちが飛んだのだ。「調!?」と前に出た切歌であったが、彼女も頬を叩かれることになる。

 

 

 

「いい加減にしなさい!マリアも、貴方達二人も!この戦いは遊びではないのですよ!?」

 

 

二人を叩いたナスターシャ教授はそう彼女達を叱咤した。無理もない。自分達がやろうとしているのは世界を救うという事、しかしそれは命に直結するような危険なものだ。勝負事などをしている場合ではないという、ナスターシャからのある意味での心配だ。

 

 

 

『まぁまぁ。そこまで責め立ててやる事はないだろうよ、ナスターシャ教授』

 

 

響き渡る声音に、切歌と調は顔色を変えた。自分達が顔を青くしてるのを悟られないように、声のする方にあまり目を向けないようにする。

 

 

そんな彼女の達の様子に違和感を抱きながらも、ナスターシャは声のする方を見る。そこに立っているのは、エリーシャ本人であった。

 

 

しかしその姿は何処か異様だ。微かに薄く、虚像に思えるそれは、ホログラムか何かなのだろう。彼は軽く庇い立てるような態度で、心にもないような言葉を口から出していく。

 

 

『むしろ、私としてはよくやったと褒めてあげたいね。彼等と決闘を行えるんだ。そこに無空剣もいるなら、大喜びだ』

 

「…………あの娘達、二課の装者と決闘するって話みたいでしたけど?無空剣も着いて来るんですかね」

 

『────無空剣はねぇ、警戒心が高いからねぇ。相手を疑うことはなくとも、乱入や私達は間違いなく警戒してるだろうさ。

 

 

 

 

純粋なこの子達の誘いであったとしても………ほら、今みたいに我々が知謀を働かせてるのも計算の内だろう。ならば敢えてその通りに動くまで』

 

 

ウェルの意見を飲みながらも、エリーシャはそう断言した。彼をよく見てきた者としての判断だ、疑うことは愚かに等しい。

 

 

 

ただ、それは善意で。彼という人間性を心から信じている訳ではない。ケースの中の生物を観察し続け、この生き物はこういう風に行動するだろう、という冷徹な感傷に過ぎない。

 

 

最初はそうは思わなかった調であったが、剣から真実を教えられてからはようやく理解する。この男は本物だ。自分達が嫌悪する卑怯な大人達どころではない。そう思わせるナニかがひしひしと感じられる。

 

 

 

確めてみよう、と。

調は心の中で、一つの覚悟を決めた。

 

 

「…………エリーシャ博士」

 

『?何かな?』

 

「少し教えて欲しい事がある………」

 

『ふむ、疑問かい。まぁ君達のような年代では分からぬ事も多い、好きに聞くといい』

 

 

寛容さを見せつけるように、微笑を浮かべるエリーシャ。彼の言葉に、調は核心に踏み込む一言を投げ掛ける。

 

 

 

 

 

 

「────魔剣士の為に一万人の被験者を死なせたって話は、本当なの?」

 

 

調の問いに、周りの反応は各々であった。

は?とマリアは耳を疑ったかのようにエリーシャと調を何度も見返す。切歌は調が確信を突いた事を聞き凄い慌てていた。ナスターシャ教授は何ですって? とエリーシャに疑念の視線を集中させ、ウェル博士は詳しく聞いてみたいのか二人の話に密かに耳を傾けた。

 

 

 

自分の経歴を告げられたエリーシャ。彼がどのような対応に出るか問題であったが、今更気にしても意味はない。エリーシャは調に眼を向けると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『─────あぁ、知っていたのか。…………で?()()()()()()()()()()?』

 

 

アッサリと、自身の所業を肯定した。それどころか、大した問題ですらないと公言までしたのだ。何なら悔やんでる様子も、恐れている様子すらない。

 

 

この場にいる者達、ナスターシャすらその言葉を疑った程だ。唯一、ウェル博士は興味があるという様子で話を聞いている。

 

 

思いの外饒舌に、凶人は語り口を始める。

 

 

『ふむ、ヤルダバオトや同じセフィロトからもよく言われたね。「やりすぎだ。もう少し出来るだけ犠牲者を減らすようにしろ」と。だが、犠牲なくして進歩はない、そうは思わないかい?』

 

「っ」

 

『いかにも違う、と言いたげな顔だ。…………君達も知っているだろうが、科学の発展は人の命を冒涜する事で発展したものだ。世界中にある毒ガス兵器や戦車とて、人の命を奪う為に造られ、世代を越えてきた。それは必然なんだ。人類は成長と進化を遂げる課程で、多くの同族の命を奪い、奪われ続けてきた……………それが何故だか分かるかい?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

極論、と言えばそれまでだろう。

エリーシャもかつて同じように聞かされた際に、暴論だと吐き捨てられた事がある。

 

 

 

 

正義感が強いからこそ、自分達を止めようとした勇敢な勇者(無謀な愚者)に。無論、ソイツは結局エリーシャを止められなかった。最後の最後まで圧倒的な力に踏みにじられ、彼は敗者へとなった。

 

 

勿論、エリーシャがそれを見過ごす筈もなく、キチンと再利用させてもらった。彼が偶々求めた、目の前の都合を叶える為の兵器として。

 

 

 

そんな風に、世界は成り立っている。誰かが誰かを踏みにじる事で、誰かを傷つけることで成り立つ。人類とは、世界の仕組みとはそのようなものなのだ。

 

 

無論、人が人を思う善意が存在しないという考え方はしてない。むしろ、善意などあるに決まっている。

 

 

だからこそ、世界を救うという妄言を信じ、必死に努力する。かの、魔剣士の青年のように。

 

 

『だから私は魔剣士を造り出す事に集中し、犠牲などに眼を向けなかった。何故ならその程度の犠牲に怯え躊躇うような者に、何も出来ない、何も為せないからだ。その多くの犠牲と幾つかの不良品の果てに─────私はアレを、無空剣を造り出す事に成功した!!』

 

 

そこまで口走ると、エリーシャが感情を爆発させる。電子によって構成された白衣の男が高らかと声を荒らげ、立ち上がる。

 

 

調達に諭すように話していた様子から一転、エリーシャは自分に酔いしれるように、高揚としながら身を悶える。

 

 

 

『私は彼を見て確信した!震える程にね!彼が、彼こそが全てを変える存在だと!砂粒の中にあったダイヤの原石なのだ、とね!ヤルダバオトの発足した【魔剣計画】が、私が造り出した最強の魔剣の一振だと!我等に必要な、いずれ来る破滅へ対抗する為の切り札である神殺しの力と()()へと至りし魔剣!その二つの資格を同時に達成する者を手にする為に、無空剣は、序列は造られたのだ!!

 

 

 

 

 

 

アルシャータやデオルス、他のセフィラが造った序列よりも、私の造った無空剣こそが!破滅を覆す事の出来る真の「()()()()」であることを!私はこの世界で証明するッ!!同時に奇跡も見たい!彼を追い詰めれば、彼を苦しめれば、彼を喪失させれば、彼の仲間である少女達は、私に奇跡を見せてくれるだろうか?いや、そうでなくては困る!私はずっと前から知りたかったのだ!!奇跡を!!あらゆる不可能を叶える奇跡をっ!!語られているのならば、実現はする!実現するのならば、体験できる!体験できるのならば、解析できる!!解析出来るのであれば!私は奇跡を手に入れることが出来るッッ!!!そうすれば私は、あの()の為に──────────あ、の、()?』

 

 

途端、エリーシャからあらゆる感情が抜け落ちた。ポツンと、身体の動きを止め、首だけをカクリと傾げる。まるで電池の切れた人形のように。自身が呟いた単語の意味を求めようとしているようであった。

 

 

そして、マリアは異様なものを眼にした。エリーシャの顔半分を覆う義眼。機械に組み込まれた仮面らしきものが無機質に蠢き始め、エリーシャの身体が小刻みに震える。

 

 

 

色の喪失した瞳に、活気が取り戻されていく。しかしそれは自力で立ち直ったというよりも、何かによって強制的に戻された感じであった。

 

 

 

 

『…………失礼、取り乱したね。少し興奮してたよ』

 

少しだけ顔を青くしたエリーシャは、自身のそんな状態を気取られないように一息吐き、マリア達に目を向ける。何も言えずにいる彼女達に興味など失せたのか、今度はウェル博士に視線を配る。

 

 

顔に刻まれた不適な笑みとは裏腹に、冷徹極まりない声音で、釘を刺す。下手な真似をする事は許さないとでも言うように。

 

 

『────話した通り、無空剣は必要なんだ。私自身もだが、【魔剣計画】からもね。ネフィリムの餌に出来るならやればいいが、もし出来る事なら腕とか脚にしてくれ。まぁ、彼じゃなくて装者達を使ってくれると良いけどね』

 

 

「…………まぁ、貴方からの忠告なら聞き入れますよ。無空剣でもお腹一杯だってのに、これ以上敵を増やしたくはありませんしね。あっちの装者で妥協しましょうか」

 

 

『当然。その為に送ったシオンなんだ』

 

 

 

ナスターシャ教授とマリア達を静かに見据え、エリーシャは口元を歪める。彼女達は知らぬが、彼の眼は既に彼女達を捉えていない。見ているのは、その先の未来。

 

 

 

 

その光景が、あまりにも面白いのか。

頬を緩ませるエリーシャは、愉快そうに肩を揺らした。彼の異常性に戦慄する少女達を無視し、悦に浸り続ける。

 

 

 

『今現在の君達の目標と私個人の目標、今回の戦い両方とも達成しようじゃないか。大人らしく卑怯で、悪辣で、残酷なやり方でねぇ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二課の仮設本部にて。

何度も耳にしてきたノイズ発生を示すアラートが本部内に鳴り響いた。

 

 

「ノイズの発生パターンを確認!座標を割り出します!」

 

 

 

 

「────どうやら、これが彼等なりの決闘の合図、という訳か」

 

『まぁ、ノイズを自由に呼び出せるのは彼等しかいないからね。…………だが、一般人を前にノイズを出す連中が、正々堂々と決闘をするつもりかは疑問だがねぇ』

 

 

両腕を組み剣からの話を聞いていた弦十郎の言葉に、ノワールはそう付け足した。子供達を案じる大人は敵のやり方をまず一番に警戒している。

 

 

 

「…………4対3、か。数的には此方側が有利だが、相手はノイズを有している。無空がいたとしても、簡単に事は進まないのだろうな」

 

 

他の誰よりも先に剣の説明を聞いていた翼は、気を引き締めるように拳を握る。しかし、そんな彼女の言葉に、剣が軽く首を横に振った。

 

 

「いや、俺が決闘に参加しない場合を考慮しても、3対2の筈だ」

 

「2………?二人ってことか?でもよ、あっちにはマリアがいるんだぞ?」

 

「そのマリアは、戦いに参加しないと見ていい」

 

 

 

そう言う剣に、全員が不思議そうな視線を向けてくる。疑問を投げ掛けられる前に、剣が片目を細め、的確に語り出す。

 

 

「マリアはフィーネの器だ。奴等がフィーネを目覚めさせるのではなく、記憶を求めているのであれば、フィーネの完全覚醒は避けたい筈だ。数少ない戦力を減らすことにもなる。だからこそ、無理にシンフォギアを纏う事はない」

 

「………もし、奴等がマリアをフィーネにする事も厭わなければ?」

 

「────それは無いな、確実に」

 

 

先程のような憶測とは違い、これについては断言できる。彼女達からすれば、フィーネは爆弾のような存在。その存在は彼等の力になるかもしれないが、武装組織フィーネには悠久を生きる巫女を止める手立てがあるとは思えない。

 

 

自分達の思うように動かない駒を放置するどころか、好きにさせるなど有り得ない。だからこそ、彼女達はマリアを進んで洗浄に出さない筈だ。

 

 

─────それに、

 

 

「アイツらが、他の装者がそれを許容するとは思えない。俺も人を見る眼はある方だ…………片方しか無いがな」

 

「……………」

 

「ジョークだ。少しは笑ってくれ」

 

『─────ククク、君も言うようになった』

 

 

何も言わない一同に、剣は弁明というよりも切に願うように言う。その様子に、ノワールは博士は嬉しそうに喉から溢れる笑いを押さえていた。

 

こういう事は俺には似合わないか………と剣が少し落ち込んでいると、

 

 

「位置情報出ました!─────っ!ここは!?」

 

 

オペレーターの藤尭が咄嗟に報告するが、彼の顔がすぐさま驚愕に包まれる。しかし、彼は動揺を振りきるように「映像出します!」とキーボードを素早く打ち込んでいく。

 

 

そして、大画面に一つの光景が浮かび上がった。

 

 

 

廃病院同様、人気の感じられない場所。しかし廃病院とは違い、ここには誰も訪れる事はない。何故なら政府によって封鎖された区域なのだから。

 

 

薄暗い夜明かりによって見えるのは、廃墟と化した半壊状態の建物。そして、それを破壊するようにそびえ立つ巨大な柱のようなもの。

 

 

かつてのような神聖さを失われたものの、宗教的な雰囲気の残されたそな全体像は、古代の遺物のような存在感がある。が、それは強ち違ってはいないのかもしれない。

 

 

なんせ、過去に存在したものを再現したものだからだ。悠久の時を過ごしてきた、巫女が。

 

 

そして、それらがあるその場所こそ。月の破壊を引き起こそうとしたフィーネ、彼女との決戦の場所。

 

 

 

 

「────カ・ディンギル跡地、か」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「…………また、この場所に来ることになるとはな」

 

 

あまりにも廃れた果てた休日リディアンの跡地に剣は達観するように漏らした。響達も、かつての校舎、そして戦場に思うところがあるようであったが、すぐに剣が片手を前に出した。

 

 

一段開くなった空間。そこに存在する筈のない反応と気配が確かに在った。

 

 

 

 

 

「────ウェル博士」

 

「えぇ、お久しぶりです。二課の装者の皆さん、そしてルナアタックの英雄たる無空剣」

 

一度ソロモンの杖警護の際に面識があった響が改めてDr.ウェルの裏切りを再確認する。それに対してウェルは薄ら笑いを浮かべながら挨拶を浮かべ、最後に剣に執着するようなギラギラとした視線を向ける。

 

 

そんなウェルを無視し、周囲に眼を向ける剣。そしてすぐに、睨み付けるように隻眼が細められる。

 

 

「…………あの二人はいないみたいだな」

 

「彼女達なら謹慎中ですよ。お友達感覚で計画をめちゃくちゃにされたら困りますからね」

 

「────なら、やることは簡単だな。お前を倒せばそれで済む」

 

 

嘆息し、切り替える。響達が聖詠を歌う横で、剣も左手を握り締める。掌と手の甲に組み込まれた黒耀の結晶を光らせ、告げる。

 

 

 

「────グラム、装填」

 

 

そして、全身を黒き鎧が纏う。グラムのロストギア、最強の魔剣の装備は問題なく展開できた。後は、敵を容易く倒せば良いだけの話。

 

 

無空剣が動き出した事に、Dr.ウェルは少しだけ眼を見開く。しかし嫌らしい笑みを浮かべながら、剣に声をかける。

 

 

「おや、貴方も動くんですか?あの子達の話ならば、貴方は決闘に参加しないと思われたのですが…………」

 

「黙って見ておくつもりだったんだがな。……………ドタキャンもされた挙げ句に当人達を出せないのならば、約束もクソも無いだろう……………まさか、俺達だけ約束を守れとは言わないよな?自分達の方から勝手に破っておいて」

 

「これは、これは。耳が痛い」

 

 

肩を竦める白衣の男は、それでも焦ってすらいない。まだ余裕があるとでも、暗に言ってるようだ。

 

 

早く無力化させるか、と踏み込むと、ウェルは芝居が掛かったように声をあげた。

 

 

「ですが、これは流石に私も厳しいですねぇ。装者三人と最強の魔剣士。このままでは負けてしまいますので…………助っ人を呼ぶとしましょう」

 

「……………?」

 

遠回しな言い方に、今度こそ眉をしかめる。助っ人という戦力が、彼等にあるのか?と。

 

 

だが、すぐさま改める。たとえ奴等が誰を味方に付けようが関係ない。もしかすると、それがエリーシャの可能性もあるが、奴なんぞ戦力と数える必要もない。

 

 

 

 

しかし、ウェルの続け様に放った言葉は、彼にとってあまりにも予想外であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お出でませ!僕達の新しき戦力!魔剣士 シオン・フロウリングッ!!」

 

 

 

 

 

「……………………は?」

 

 

だからこそ、思考が鈍った。

ギチ、と。歯車が噛み合わないような雑音が静かに響く。何故、奴がその名前を口にする?何故、その名前が今この場に出てくる?自分を慕っていた後輩が、この世界にも来ているのか?

 

 

 

それは、それだけは有り得ない。シオンは、自分を殺しに来るような奴ではない。こんな事を言うのは筋違い、おかしいのは分かってる。だが、シオンをよく知ってる自分なら分かる。アイツが、シオンが、敵対する筈がない。

 

 

 

あらゆる疑問が、彼を支配した。動きが鈍った彼の様子に、響達は戸惑いを浮かべていた。しかし、すぐさま現れた変化に顔色を変える。

 

 

 

ウェルの真横に、ナニかが降ってきたのだ。周囲の砂煙を散らしたそれは、一瞬で煙を振り払う。

 

 

 

蒼と銀の装甲に包まれた魔剣士。ゆらりと立ち上がったそれを目にしてたから、剣は魔剣の欠片を埋め込まれた眼窩に響く痛みと反応を感じる。

 

 

 

 

グラムの反応。目の前のそれは、シオンと同じような反応を有している。

 

 

刹那、彼の装っていた全ての警戒は振り払われた。目の前の魔剣士が何者か。それを確めるのに全てを優先する。

 

 

「─────シオン、シオンか!?」

 

『───────』

 

 

必死に声を荒らげる剣の声音に、シオンは僅かに反応した。小刻みに揺れる青年の身体。しかし無機質な仮面に浮かび上がった紋様が輝くと同時に、シオンと思われる魔剣士は答えを返した。

 

 

 

『解答、当機体はシオン・フロウリング。量産龍魔剣(グラムシリーズ)のNo.1、貴方の為に調整された個体だ───原型個体(オリジナル)、無空剣』

 

「………ッ」

 

 

機械的な反応。声音の変わらない言葉。それだけで、剣は金槌で叩かれたような衝撃が頭に響く。視界が揺らぎ、足元がふらつき、膝をつきそうになる。

 

 

 

「剣さんっ!!」

 

「おい!剣!大丈夫か!?」

 

 

しかしそれよりも先に響とクリスが剣に寄り掛かる。あまりにも様子が変貌した剣に不安の眼差しを向けている。本当に、心配させて申し訳がない。

 

 

 

「…………あぁ、大丈夫だ。悪い、取り乱したな」

 

「無空、奴が何者か知っているのか?いや、無空の知り合いなのか?」

 

 

深呼吸をすると、少しだけ落ち着けた。だが、それでも心の中にある動揺と困惑は未だ取り除けない。

 

 

相手が誰だか分からない翼が、剣にそう聞く。何と説明するべきか悩んだ剣は首を振る。今ここで、躊躇う理由は存在しない。彼女達は信頼できる仲間だ。ならば、隠す必要もない。

 

 

「アイツはシオン・フロウリング。数少な親友を除いて、俺に慕ってくれた魔剣士の後輩だ」

 

「…………後輩」

 

「あぁ、だがあの様子は明らかに変だ。多分だが、操られると見ていい。それにあの装備、俺がいなくなった後に製造されたもの………シオンをあんな風にするなんて、一人しか思いつかない─────」

 

 

 

 

 

「…………エリーシャ、アイツが何かをしたって事か」

 

 

忌々しいと言わんばかりに吐き捨てるクリスに、同意する。思い浮かべるだけで脳細胞が焼き切れそうな、不愉快な男の顔が脳裏に過る。

 

 

奴ならば、絶対やるだろう。無空剣の後輩であるシオンを駒として、剣に敵対させるということは。あの悪辣で下劣な男ならば、平気でやる。

 

 

 

立ち上がり、シオンに向けて構える。敵意を感じ取ったのか、言葉も発することなく、シオンも身構える。

 

 

しかし、そんな剣の前に、翼が飛び出してきた。

 

 

「無空!シオンの相手は私達に任せろ!お前はウェル博士を!」

 

「─────!?」

 

同じように、響とクリスも。三人で並ぶように、剣に背を向け、シオンの前へと立ち塞がる。何故、と聞き返そうとする剣に、翼はアームドギアを持ち構え、叫ぶ。

 

 

「奴が何故、シオンを連れて来たのか!無空への対抗策と考えるのが妥当だろう!かつての仲間や後輩であれば隙を突けるという悪辣な考えがあっての事に違いあるまい!」

 

 

否定できなかった。

もしかしたら、戦いの際にシオンへの攻撃を躊躇ってしまうかもしれない。その隙を、今のシオンは無感情に狙うことだろう。

 

 

何より、響達がそれを望まないのだ。剣が、かつての知り合いと戦うということが。それが彼の心をどれだけ苦しめるか分かるから。

 

 

 

 

気を使われた。そう思うだけで奥歯を噛み砕く程の力が込み上げてくる。彼女達に怒っている訳がない、怒りはそうさせてしまった自分に向いているのだ。

 

 

本来ならば、シオンを止めるのは自分がすべきだったのだ。だが、それら全ての言葉を口に出そうとして、一気に飲み込む。今ここで、彼女達に応えるべき言葉は、

 

 

 

 

「─────すまん、任せた」

 

 

絞り出すように告げた剣の言葉。即答するように応じるような一言が、重なって聞こえた。

 

 

 

響達から離れるように少しだけ歩くと、同じようにシオンから離れていたウェル博士と相対した。

 

 

ウェル博士は、眼鏡を軽く押し当てる。もう片方の手を白衣の中に入れながら、皮肉るような笑みを作る。

 

 

「残念ですねぇ。折角、知人との再開の場を設けたのに……お仲間に任せてしまうとは。酷い御方だ」

 

「…………アレを、俺に当てるつもりだったか」

 

「えぇ、まぁ否定はしませんよ。エリーシャ博士から、彼が無空剣への対抗手段になると言われてましたので」

 

「──────そうか」

 

 

やはり、あの男だったか。

あまりにも単純な答えに、予想よりも早く納得できた。もとより、そうだろうと考えていたのだ。答えが当たった達成感など、微塵も感じられないが。

 

 

 

「こうなったら仕方ありません。貴方にはノイズの相手をして貰いますよ?役不足でしょうが、英雄の貴方ならば、この程度の障害は乗り越えられるでしょう?」

 

 

 

「────ほざけ、英雄のなり損ない」

 

 

たったそれだけの言葉で、ウェルの全身からドッと冷や汗が溢れた。今まで向けられた敵意が嘘であったかのような、濃厚な怒気が、鋭さを増したように向けられている。

 

 

 

それは殺気だ。

彼がこの世界に来てから、数人にしか向けたことのない本気の殺意。しかし、これでもまだ制限されたものだろう。何故なら、彼はただ怒りと殺意を向けているだけなのだから。もしここに憎悪が加わろうものなら、殺気だけで人を殺せるようになるかもしれない。

 

 

 

目の前ですぐさまソロモン杖を光らせるウェル。周囲に発生する無数のノイズに、剣は全身を低く落とし、両手の指をバキ、と鳴らす。

 

 

喉の奥から、ドスの効いた低い声が漏れる。自分でも、驚くような殺意と共に。

 

 

「─────これは八つ当たりだ。悪く思うなよ」

 




剣「お前らぶちのめすわ」(ぶちギレ)


尚これで70%のキレ具合の模様。何が言いたいかって?もっとキレますって事ですよ(笑顔)



お気に入り、評価や感想、質問などがあれば気軽にどうぞ! 次回もよろしくお願いいたします!それでは!!




さらっとタイトルや核心に触れるような事を書けて満足です(満面な笑み)
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