戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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ちゃんと投稿したからノーカン、ノーカン(真顔)


魔剣戦戟

カ・ディンギル跡地。

幾つもの星と欠けることのない満月に照らされた夜空に覆われたその場所で、激しい戦闘の音が響き渡る。

 

 

鮮やかな色合いのノイズ達。緑の光から召喚されたそれらは、数秒で灰へと還っていく。灰はその場に残ることなく、凄まじい風圧と黒紫の光により、かき消され、散らされる。

 

 

 

「─────っ、──ッ!!」

 

 

凄まじい速度で周りを走り抜き、ノイズの一群を斬り伏せる無空剣。彼は少しだけ足を止めて呼吸を整えるように、短く息を吐く。それだけで、彼は顔色を変え、すぐさまノイズの群れを排除しに迫る。

 

 

 

粘着質な液体を放ち動きを止めようとするダチョウ型の個体も、ノイズを砲弾のように飛ばす建築物の個体も、抵抗も意味なく斬り伏せられる。あらゆる防御をものともしない斬撃は、何者であろうとも止められない。

 

 

 

龍剣グラム。

彼が今現在振るっている黒耀の魔剣の銘。彼の肉体に融合している魔剣グラムを完全に再現したアームドギアである。その剣に、何一つ特別な力は存在しない。カラドボルグのような遠距離を攻撃する力も。

 

 

あるのは、人類が造る物質を越えた強度と龍の体を切り裂く切れ味、そして────邪龍を殺したという、龍殺しの概念である。

 

 

何より、彼は躊躇もなくその剣を引き抜いた。

その理由は限られたものだ。挙げられるものとしては、本気を出す程の強敵が相手か。それか──────、

 

 

 

 

無空剣の怒りを買うか、それだけに限定される。今回は、後者でしかない。

 

 

 

 

そして、いつの間にか。

山のように溢れていたノイズの大群。ソロモンの杖により大量に呼び出されたノイズは、一体片付けられた。最後の一体、一際大型であったノイズが細切れとなり、崩れ落ちる。

 

 

頭部に突き立てた龍剣を抜くと、灰へと変わるノイズから飛び降りる。降りる瞬間まで、龍剣の軌道は途絶えること無く、巨体を躊躇いなく切り刻み、叩き伏せる。

 

 

ゆっくりと歩き、龍の魔剣を軽く振るい、剣は無表情で吐き捨てる。

 

 

「─────次」

 

 

龍そのものと言える鋭利な眼光を向けられ、ウェルは顔をヒクヒクとひきつらせる。咄嗟に、後ろに退こうとしてしまうが無理もない。

 

 

呼び出されたノイズの数は、多いどころの話ではなかった。

 

戦闘が始まる際に呼び出した個体と、事前に周囲の森に隠していたノイズ。それらを含めても千は軽く越えるだろう。シンフォギア装者が三人いようと、流石に厳しいはずだ。

 

 

それなのに、あの魔剣士はたった一人で全滅させた。少し息があがってるようだが、それでも疲れてる様子はない。まだまだ余力を残しているのは間違いなかった。

 

 

 

ライブ会場の件といい、最強の名は伊達ではなかった。甘くは見てなかったが、どうやら予想よりも遥かに上の実力であったらしい。少なくとも、Dr.ウェルの想像の範疇に収まらぬ程に。

 

 

 

 

「────本っ当に化け物ですね!貴方は!!」

 

「まぁ、否定はしない」

 

 

杖を突き付けるウェル博士の言葉に、あっさりと言い返す。無視したように踏み込み、前へと突き進む。小型の飛行タイプのノイズを召喚してくるが、龍剣やもう片方の腕で対処できる。

 

 

脳裏の奥で、ナノマシンによって補強された頭脳が高速で回転する。

 

 

(……………勿論、分かっている)

 

 

距離を詰められたウェルの様子は変わっていない。余裕は衰える所か、むしろ期待を押し殺したような嫌らしい笑みが隠せていない。まるで自分に近づかれることを望んでいるように。

 

そして、もう一つ。彼は違和感に気付いている。

 

 

 

(────真下、地面から俺を狙ってる気配が丸分かりだ)

 

 

最後の一歩、気配のする場所に踏み込もうと────足を地面に置いた瞬間、すぐさま後方へと飛び退く。

 

 

 

直後、隙を狙ったであろう何かが地面から飛び出してくる。それは真上に突っ込む事はせず、避けられた事を理解したような動きで、剣に意識を向ける。顔の存在しない、代わりに剥き出しの口を勢いよく開いて、食いつこうとしてくる。

 

 

 

しかし、剣はそれよりも先に身体を高速で捻る。回された脚に力を込め、何かに向けて盛大に叩きつける。確実に狙い通り。敵の弱点に直撃したのは間違いなさった。

 

 

短い呻き声を漏らし、何かはウェルのすぐ隣に吹き飛ばされる。砂塵が吹き荒れる中、必死に払い除けるウェルは舌打ちを隠そうとしない。

 

 

「チィッ!相変わらず勘の鋭い奴ですねぇ!あと少しでパクつけたのに………!」

 

 

「ふん、やはりお前のやり口か。入れ知恵にしては浅いやり方だな」

 

 

呆れたように言う剣は、視線を吹き飛ばした何かに移す。そこで、少しだけ驚いたように目を開いた。

 

 

 

 

それは、生物であった。

剣の記憶上、脳内に組み込まれたデータホルダーにも存在しない未知の生命体だ。しかしそれは、剣が前にいた世界での記憶で、だ。

 

 

ブヨブヨとしてそうな黒い肌に、身体の至るところに浮かぶエネルギーの光。有り得ない骨格をした長い頭部に、不細工に並んだ鋭い歯。四足歩行で起き上がり、苛立たしそうに唸りながら、口から大量の涎を垂らすそれには、剣も見覚えがあった。

 

 

 

「コイツは………廃病院の時の奴か。前よりも、成長してるな」

 

「────ネフィリム」

 

 

ポツリと呟くウェル。

鋭い眼を向ける剣に高揚とした笑顔を浮かべながら、彼は杖を向ける。

 

 

 

「人を束ね、組織を編み、国を立てて命を守護する!ネフィリムは、その為の力ァ!!さて!お聞かせ願いましょうか!ルナアタックの英雄!世界を救わんとする私達に仇なし、貴方はその力で何を守るというのですか!?」

 

「決まっている────守れる者全てだ」

 

 

龍剣の剣先を突きつけ、剣は覚悟のある声で言う。

 

元より、自分はその為に生きてきた。ただそれが、使命だからと言い聞かせていた事から、自分自身の意思で。

 

 

 

 

「───これ以上、無駄口は結構だ。ネフィリム諸とも切り伏せてやる。俺も、ちゃんと話さなきゃいけない奴がいるからな」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

一方で。

蒼銀の装甲を纏うシオンが勢いよく駆け出す。腰を低く落としながら、両腕の爪を鋭く尖らせる。

 

 

そんなシオンに、響と翼は突っ込もうと身構えるが───すぐさま横へと跳ぶ。突然の行動に、シオンは疑問を抱いたが、すぐに気付いた。

 

 

 

「大人しく!食らいやがれッ!!」

 

 

二人の後ろにいたクリスが2門のガトリング砲を構え、弾丸の雨を撒き散らす。回避しようにも、ガトリングガンの範囲が広すぎて逆に隙になってしまう。

 

 

演算機能が導き出した最適な行動に、シオンは従う。

 

 

 

両腕を前に交差させ、乱射される弾丸の雨に突っ込んでいく。流石に衝撃を受けるのか、一瞬だけ仰け反ったが、やはり一瞬。

 

 

その僅かな時間を利用し、シオンは脚部に組み込まれたブースターを起動させる。しかしやるのは右脚だけで、左脚で地面を蹴る。

 

 

爆音を響かせながら、滑るようにしてシオンがガトリングの射線から反れる。身軽になった身体に、シオンは体勢を切り替える。

 

すぐさま此方に銃口を向けようとしてくるクリスよりも先、脚部と背中のブースターから炎熱を一気に噴き出させ、空中を跳躍する。

 

 

ここまで射角を上げられない。そう判断したシオンは爪を構え、隕石のように彼女に突撃することを決定する。彼女は銃を使うシンフォギアの使い手、ならば確実に自分に有利な近接戦に強制的に連れ込む。その上で、シンフォギアの無敵を破れるまで殺せばいい。

 

 

 

そこでようやく、仮面越しに見通して、異変を感じ取った。自分の攻撃を当てられなかったクリスという少女、彼女の顔は笑みを浮かべているではないか。悔しさや焦りではなく、予想通りと言ったような。

 

 

そして、もう一つの異変は─────

 

 

 

「そんなら!コイツも出し惜しみだ!!」

 

腰部のアームユニットから、大掛かりな仕掛けと共に、大型ミサイルが展開される。空中で面食らうシオン目掛け、ミサイルは容赦なく発射される。

 

 

 

『ッ!!』

 

 

既に特効の構えを取ったいたからこそ、下手に逃げることは出来ない。だからこそ、だろう。シオンは回避することもなく、クリスを切り裂こうと狙って隠していた左腕をミサイルの頭部へと叩き込む。

 

 

金属の板面を引き裂き、シオンは誘爆したミサイルの爆炎から退避する。空中で体勢を立て直し、次にどう動くかを観測する。

 

 

 

何とか地面に着地しようとした、数秒。あと、十センチ程の距離で踏み締められるまでいった所で、シオンは気付く。

 

 

 

 

左右から、同時に此方に切り込んでくる二人の姿を。

 

 

 

 

「立花!合わせるぞ!!」

 

「……はいっ!」

 

 

片や拳のアームドギア、片や刀のアームドギア。下手に受ければ損傷が大きいのは後者の方だが、前者の方───響の方も、シオンからすれば侮れなかった。

 

 

中国拳法に由来した動き方。構えや、呼吸、力の込め方などが優秀だ。これを独学で極めたのであれば天才。もし教えた者がいれば、それは卓越した実力を有する偉人であろう。

 

 

対処しようとするシオンだが、自身の身体が動かない事に気付く。そして、真下の地面に残る影に打ち込まれた────一本の短刀の存在も。

 

 

『影縫い』

忍法の一種であり、相手の動きを封じる事の出来る技だ。これを使えるのは緒川と、彼から伝授された翼のみ。実力者にとっては僅かな時間だけだが、戦場においては一秒も無駄に出来ない。

 

 

 

同時に────拳が、刀剣が、無防備になったシオンの脇腹へと吸い込まれるように放たれる。そして、直撃した音が、周囲に響き渡る。

 

 

 

 

 

鋼鉄を打つような弾かれる音。

似通ったそれは、シオンが翼に斬られ、響に殴られたものではなかった。

 

 

 

『─────』

 

 

響の拳はシオンの脇腹ではなく、彼の手に収まっていた。骨折してるかのように折り曲げ、一撃を掴んで防いだのだ。そして、もう片方も────翼の刀剣も、同じであった。

 

 

 

しかし、刀剣を受け止めていたのは手ではない。腕から伸びる蒼き光の刃、レーザーエッジによって。

 

 

その光刃に、翼は目を細める。自分のアームドギアでも斬れない、そして斬られることのないその光に、確信したように告げる。

 

 

 

「────やはり斬れないか、()()()()()()()()()ッ!」

 

『…………』

 

 

瞬間、シオンが明らかに動揺したようであった。先程まで意識すら向けていなかったのに、フルフェイスを翼へと向けていた。仮面に浮かぶ紋様のような光が強くなるそれは、まるで驚きを示しているようであった。

 

 

 

 

 

 

────少し前まで、話は遡る。

 

 

『───ようやっと、通信が繋がったね。早速だが、剣クンから伝えられたように、シオンクンについて補足する事がある。これは相手に聞かれてないが、悟られないようにしたまえ』

 

 

戦いが始まる直前、ノワール博士からの秘密通信があった。現場の状況を剣からでも聞いたのであろう。こんな短時間でそこまで出来るとは、二人がどれだけ経験豊富かが目に見えて分かる。

 

 

『彼は多重魔剣適合者(マルチプルロストギアドライバー)だ』

 

「………マルチ、プル?」

 

『厳密に言えば、彼はグラムとは違い、もう一つの魔剣と適合している。その魔剣の銘は─────天羽々斬(アメノハバキリ)

 

 

ハッとしたように、響とクリスが翼を見る。翼本人も、その反応に戸惑うことはないものの、博士の話に驚きを隠せずにいた。

 

 

 

天羽々斬は、翼の纏うシンフォギアの中核である欠片しか現存していない。つまり、この世界ではもう天羽々斬という聖遺物は確保できない。この世界、ではの話だが。

 

 

激しく類似した特徴の世界────剣達のいた世界ならば、話は別だ。多くの遺物を回収し、それを人体に組み込んだ人間兵器を造る連中の蔓延る世界であるならば、シンフォギア装者と同じ聖遺物を宿すも者がいてもおかしくはないだろう。

 

 

『彼の天羽々斬(アメノハバキリ)の効果は、変化自在の刃だ。今は両腕から刃を出してるだけだが、その気になれば全身から刃を伸縮させる事が出来る。今は操られてるからこそ弱体化はしてるようだけど、油断はしない方がいいね』

 

 

 

 

 

 

 

 

『理解、不能───何故、認知を────』

 

 

戸惑うように、機械的な音声がそう漏らす。しかしすぐさまシオンは口を閉ざすように、響と翼を払い除けるように腕を振り回す。

 

 

彼女達が離れた事を確認すると、シオンは身動きを停止させた。その間も、フルフェイスの紋様は妖しく蠢く。

 

 

『………演算完了、ロストギアの情報が漏洩してる事実を確認。対処法─────結論提示、連携を諸ともせぬ勢いで攻める事である。

 

 

 

 

 

 

 

自律演算機能による承認を確認。これより主要武装「接続甲鐵(サブデバイス)自律戦尾(オートディステール)」を解放する』

 

 

がぱっ、と。

シオンの背中を覆う鎧が、剥がれる。接合部であった左右の金具が外れると共に、分離した金属の塊が反れるように離れていく。

 

地面に落下したそれは、数秒してすぐに動き出した。大きな金属塊に隠れるように伸びる太いアームが変形し、背中に隠されていたとは思えないような長さにまでなる。

 

 

獣のように、態勢を低くするシオンの横で金属の塊である尻尾の頭部の瞳が怪しく光る。バクリと大きな口を盛大に開き、独特な機械音を周囲へとけたたましく響かせた。

 

 

 

【グオォォォォォォォォォォォォンッ!!!】

 

 

「野郎!尻尾を隠してやがったのか!?」

 

 

更に警戒を高める三人。

武装型の尻尾まで展開してきたシオンがいかなる行動を取るか身構えていた彼女達であったが、それを嘲笑うようにシオンが動く。

 

 

尻尾の無機質な頭部が口を大きく開き、此方に向ける。それだけだった。

 

 

「──────え?」

 

 

凄まじい爆音と風圧が隣に過った。

咄嗟振り返る響と翼だが、その場にいるのは何ともないお互いの姿だ。

 

 

 

そう、翼と響だけしかいない。

さっきまで一緒にいた少女、雪音クリスの姿がその場から消えていた。

 

 

 

「クリスちゃん!?」

 

「雪音ぇッ!!」

 

 

見ればクリスのいた場所には、地面が削れた痕だけが残されていた。なんらかのビーム砲で吹き飛ばされたのだろう。

 

 

だが、見えなかった。攻撃の予兆は分かっていたが、ビームや砲撃自体は何一つ視界に映らなかったのだ。まるで透明な何かに攻撃されたと言っても可笑しくはなかった。

 

 

戸惑いながらもすぐにクリスの吹き飛ばされた方へ向かおうとする二人だが、それをシオンは遮るように前に歩み出る。尻尾は睨むように響達を見つめていたが、クリスの吹き飛んだ方に頭部を向け、すぐさまそちらへと向かっていく。

 

 

直後、ノワールからの通信が鳴り響いた。

 

 

『翼クン!クリスクンの援護を頼む!』

 

「っ!」

 

『あの尻尾!人工知能が搭載されているとみていい!クリスクンを狙ってるのも、そうする事でシオンクンへの戦力を分散できるという思考からだ!それに、あの尻尾は遠距離と近距離も得意だ!クリスクン一人では持たない!!

 

 

 

 

響クンは………すまないが、シオンクンの相手を頼む!無傷が第一!忘れないように頼むよ!』

 

「はい!分かりました!」

 

 

クリスを助けに向かう翼。そんな彼女の背中を、シオンは狙おうとはしなかった。いや、狙いはしていたが、手は出さなかったのが正しいか。

 

 

戦力の分散という目的は果たした。これで厄介な連携は意味を成さない。後は一人ずつ、的確に追い詰めて、狩り殺すだけであった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「くそっ!何だよ今の!?」

 

 

少し離れた場所まで吹き飛ばされたクリスは立ち上がる。幸い、大したダメージはなかった。しかし、先程の攻撃自体が見えなかったのも事実。

 

 

 

『────クリスクン!敵が来るぞッ!!』

 

 

鼓膜に響く男性の声に、クリスは即座に反応した。すぐさまクロスボウを発現させ、手にすると同時に、それは森を抉るようにして現れた。

 

 

 

接続甲鐵(サブデバイス)自律戦尾(オートディステール)』。シオン・フロウリングの武装にして、鎧の部位の一つ。双対する瞳と鋼の装甲に覆われた尻尾は、機械仕掛けの竜そのものであった。

 

 

「やっぱりあたしを狙ってんのかよっ!」

 

 

クロスボウに装填された矢を放ちながら、後ろへと跳ぶ。尻尾の機竜はイチイバルの矢を避けようともせず、ひたすらクリスへと襲いかかろうとしていた。

 

 

あまりにも考えがない、本能的過ぎる。

シオン・フロウリングが理性的に狩りをする個体であるなら、この機竜は本能で相手を狩るような個体だ。本体とは違い、まるで本物の獣のようだ。

 

 

飛び退きながら迎撃するクリスに、尻尾は物ともしない。最早クリスを獲物として認識して、頭から離れてないのだろう。我武者羅に暴れ回りながらクリスを追い詰めていく。

 

 

ついに、足場のバランスを崩し、倒れそうになる。その隙を逃さず、尻尾の頭部は大きな口を開き、クリスへと食らいつこうとする。

 

 

 

しかし、尻尾の側面目掛けて鋭い大剣の一振が打ち込まれる。無防備かつ無抵抗であった尻尾はその一撃を直撃してしまい、地面へと切り伏せられる。

 

 

 

すぐさま離れたクリスの隣に、飛び立つ者がいた。

 

 

「雪音ッ!無事か!?」

 

「ッ!嗚呼!何とかだよッ!!」

 

 

翼の援護が無ければどうなっていたか、クリスはあの尻尾の忌々しいくらいしつこい執着に辟易したように息を吐く。

 

 

だが、これで終わりな筈がない。

叩き斬られた機械の尻尾がゆっくりと持ち上げられる。唸りながら身体をしならせる尾に、二人が硬直した。

 

 

「………なぁ、先輩」

 

「何だ、雪音」

 

「あの尻尾は、一体どんくらい延びてるんだ?流石に長すぎるだろ」

 

「─────シオン・フロウリングからここまでの距離は500メートル程だったな。だが、あの尾の長さからして………1キロはあるのだろう」

 

 

ここから倍以上離れた異様な長さを持つ尻尾。最早竜そのものと同化していると言っても遜色はない。

 

 

尻尾の頭部が、独特の金属音を咆哮のように響かせる。そした間髪入れず、二人目掛けて突貫する。回避する二人だが、そこで翼はあることに気付いた。

 

 

あの尻尾の狙いは、未だクリスだった。翼など敵と見ていないのか、或いは確実に一人を先に減らしたいのか。

 

 

 

「───ならばその尾!切断するまで!!」

 

 

獣畜生のような本能的な怪物に侮られた怒りはある。だが、今はそれを抑えて、この好機を狙わぬ訳がない。

 

 

 

 

 

───蒼ノ一閃

 

 

 

大剣へと化したアームドギアによる斬撃を放つ。今度は確実に切断を狙うように、全力を込めて解き放てばいい。

 

 

しかし、その瞬間。大剣を振り抜く直後であった。

 

 

 

 

尻尾がグルリと振り返る。不気味な機械音を鳴らすと共に、側面の部位────両面の牙が、更に乖離したのだ。分離したその牙は、尻尾と同じようにアームが伸びており、それを翼目掛けて打ち込んできた。

 

 

「ッ!?」

 

 

咄嗟に斬撃を放ち、牙による串刺しを回避する。睨み返すように見ると、尻尾の頭部は鋼鉄の口と歯を軋らせていた。まるでそれが嘲笑と挑発を浮かべているように。

 

 

そこで翼は、改めて確信した。

 

 

 

「───やはり!博士の言う通り、自我を持っているのか!!」

 

 

独立した自我を持ち、目の前の敵を狙う尻尾。それこそがシオンの主要武装(アームドギア)の一つであった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「ていやぁっ!!」

 

『!』

 

 

切りかかるシオンに、響が拳で迎え撃つ。最初の衝突は響の勝ちであった。シオンの刃が、薄氷のように砕け散る。

 

 

シオンの天羽々斬は、縦横無尽と凄まじい切れ味の刃である。人間の肉体など、最早木の葉のように軽く、綺麗に切り裂ける。だが、唯一とっていい欠点がある。

 

 

 

それは、耐久性。

攻撃に特化した代償か、蒼き光刃は打撃や衝撃に滅法弱い。紙屑のように、ガラスのように簡単に粉砕されてしまう。無論、あくまでもロストギアの武装の中では弱いだけだ。幾ら人間が努力しようと、蒼き光刃を破壊していくことは出来ない。

 

 

しかし、同じように聖遺物の力を使うシンフォギア装者相手だと、薄氷も同然である。何より、立花響のアームドギアは文字通り腕や脚の装備そのもの。

 

 

人間の頂点とも言うべき、弦十郎の修行を受け、徒手空拳を学んだ彼女は、シオンにとって厄介な敵であった。

 

 

『────ィッ!!』

 

 

両腕を交差させ、刃の体積を増幅させる。怪鳥の翼までに肥大化したそれを腕から乖離させ、響へと叩きつけるようにして放つ。

 

 

ブーメランのように空中を旋回する二つの蒼き刃は、人ならば確実に切断し、物体であろうと両断する切れ味を誇る。それに対して、響は弾くことも避けることもしない。

 

 

 

「───ハッ!てぃやァッ!!」

 

 

勢い任せるように、シオンの刃を打ち砕いていく。どれだけ 強靭であろうと、壊せるのであれば意味がない。

 

 

至近距離まで接近されたシオンは片腕に天羽々斬の刃を瞬時に生やす。

 

 

今まで放った刃は、天羽々斬そのものではない。天羽々斬という聖遺物の力を引き出しただけの、エネルギー武装に過ぎない。幾ら破壊されようと、瞬間的に展開には然したる問題はない。

 

 

そして、響のアームドギアとシオンの蒼き光の刃が衝突する。

 

 

 

無論、シオンのアメノハバキリは簡単に砕け散った。しかしその刃が薄氷のように砕けた瞬間───────響の脳裏に、何かが流れ込んできた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

『─────あの、貴方は』

 

『俺は、無空剣だ』

 

 

崩れ落ちるようにして膝をつく青い髪の青年。彼の前に立つのは隻眼の魔剣士────無空剣。

 

 

何処かの施設だろうか、二人はどちらも血に汚れていた。だが、二人は血を流していない事から、彼等が何をしていたかは明白だろう。

 

 

青年は戸惑いながらも、立ち上がる。そして心優しい、穏やかな笑顔を浮かべた。

 

 

『ぼ、僕は…………シオンです。シオン・フロウリング』

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「っ!?今のって────!」

 

『──────ギ、ギ』

 

 

猛攻が止まった。

即座に響の隙を狙うように反撃を放ってくる筈の、シオンはその場でピタリと停止していた。まるで、シャットダウンしたように。

 

 

しかし、その瞬間。

蒼黒の鎧の青年は目に見えて苦しみ始めた。

 

 

『ロストギアに───干渉ッ!!シオン・フロウリングの精神に微弱な反応!─────が、ガガガガガガガガ!!グラム、アメノハバキリとの適合率、変動ッ─────制御装置起動!沈静機能発動、戦闘の────か、回避を、を、を、ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ、オッ!!?』

 

 

フルフェイスを抑えながら、悶えるシオン。機械の音声が響くと共に、シオンの装備に不気味な光の(ライン)が走る。

 

その瞬間、シオンの鎧から無数の蒼き刃が飛び出す。しかし刃は伸び続けることもなく、淡い光となって砕けていく。踠くように、その場で悶える彼の様子から見て──異常が起きてるのは間違いなかった。

 

 

戸惑い、立ち尽くしていた響を突き動かしたのは、突如繋がった通信からの声であった。

 

 

『響クン!何が起こったか分からないが、今のシオンクンへ迎撃を!』

 

「っ!でも博士!」

 

『案ずる必要はない!彼の鎧を壊せればそれでいい!装甲を壊せるほど本気で殴ろうと、中のシオンクン本人にダメージは届かない!今この期を逃してはいけない!』

 

 

強く言われて───響も、気を引き締めた。

がむしゃらに暴れるシオンへと走り出し、周囲に放つ光刃を回避しながら、拳を打ち込んだ。

 

 

 

『が、か ガガガ───ガガガガガ─────ッ!』

 

 

シオンは後ろをへと下がりながら、自身の腕を振り払った。今度は蒼き刃ではなく、白い光の軌道であったが、大した変化はなかった。

 

 

後少しで決める。

次の一撃で、シオンを何とか無力化させる。そしてあの鎧を剥がせれば、剣の言う青年も、記憶に映った青年も助けることが出来る。

 

 

あと一歩、フラフラと不安定な動きでよろけるシオンに、響は拳を構えながら駆け出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────駄目だ!響!!それ以上シオンに近付くなッ!!」

 

 

必死に叫ぶ声が、聞こえた。

僅かに響の視界の隅に、ネフィリムを殴り飛ばした剣が血相を変えて叫んでいるのが見える。

 

 

 

しかし、もう遅い。その声を響が聞いた瞬間、既に手遅れであった。彼女は既に、前へと踏み込んでいたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

『────ロストギア、装填───大典太光世(オオデンタミツヨ)

 

 

 

 

 

バシュンッ!! と。

 

響のいた場所に凄まじい光が弾ける。

光自体は小さかった。眩しいと思う事もないものだったから、響は眼を瞑らずにいれた。

 

 

 

 

「──────え?」

 

 

 

 

だからこそ、何が起こったのかよく見える。

真下から発生した光が弧を描くように伸びて、響の腕を貫通する。それまではなんともない。痛みも、全然感じはしない。

 

 

 

その光が更に強く輝きだした瞬間。凄まじい衝撃が発生し、近くにいた響は大きく吹き飛ばされた。ゆっくりとした動きの中で、彼女は見てしまった

 

 

 

宙に舞うガングニールを纏った左腕が。

 

 

 

ふと、自分の左腕を見る。しかし、腕は途中で喪失していた。宙に舞う腕と同じように綺麗な断面から、血が噴き出す。

 

溢れ出す真っ赤な血液と自分に起きた事を理解して、ようやく痛みが走った。今まで受けてきた戦いの痛みを越えるものが。

 

 

「あ、ああ、あああああああああああッ!!?」

 

 

彼女は、気付かなかった。

その場所が、自身の腕が斬られた場所が、先程までシオンが腕を、刃を振るった場所であることを。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を持つことを。

 

 

 

 

そして、その好機を逃さぬ者はいない。何せそれが目的だったのだから。

 

 

「今だネフィリムッ!!新鮮なご馳走だ!食らいつけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

ウェル博士の命令に応じるように、殴り飛ばされたネフィリムが走り出す。そして、跳躍して────響の左腕に食らいついた。

 

 

 

「いったぁ!パクついたぁぁぁぁぁ!!やりましたよエリーシャ博士ッ!!これでネフィリムは覚醒し、フロンティアの要へと至るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!!」

 

 

興奮状態のウェルを他所に、腕を咀嚼していたネフィリムに変化が現れる。それは、ネフィリムの進化の兆候。

 

 

言葉通り、フロンティアへと繋がる鍵。あらゆる聖遺物を喰らうことで成長する完全聖遺物が、今覚醒へと至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「響ぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいイイイイイイイっっッッ!!!!」

 

 

絶叫が、怒号のように響く。

腕を喪い、崩れ落ちそうになる少女へと駆け出し、その手を伸ばす剣。

 

 

その瞬間、自分の中の引き金が壊れるような違和感を感じ取った。

 




主人公心身ボロボロになりそうだなぁ(他人事)


ま、もっとボロボロになるんですけどネ(鬼畜)


因みに原作との違いはシオンが響の腕を斬ってネフィリムの餌にした事ですが、本当は響を殺してその死体を喰わせようと考えてました(Dr.ウェルやエリーシャが)


お気に入り、評価や感想、質問などがあれば気軽にどうぞ! 次回もよろしくお願いいたします!それでは!!


次回、多分間違いなくエリーシャのヘイトが増える。剣、キレる。デュエルスタンバイッ!!
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