戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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誕生日だから祝ってくれ(無理矢理)


最悪

「─────響ぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいイイイイイイイっっッッ!!!!」

 

 

 

敵を無視して、倒れ込む少女へと駆け出していく。最早今、剣の脳内には冷静さは存在しない。彼女の腕が斬り飛ばされた瞬間に、全てが吹き飛んでいた。

 

 

駆け寄った直後、思わず言葉を失う。

 

 

 

「つるぎ……さん………」

 

「───ッ」

 

片腕を押さえ、力なく座り込んでいる響。その手の、指の隙間から止めどなく血が溢れ落ちていく。噴き出す鮮血は足元に大きな血の池を作り出していた。

 

 

ピチャリ、と水の跳ねる音は、それほどまでの出血なのだと理解させる。その瞬間、剣には形容しがたい感情の渦が巻き起こる。

 

 

混乱、不安、心配、怒り、憎悪、殺意、あらゆる激情が脳裏を支配し、白熱し脳髄が焼き切れそうになる。

 

 

 

「待ってろ響!必ず助ける!」

 

 

脚部のユニットが展開するようにスライドし、内部に配備された装備が露出する。その一つ、半透明な液体の詰まった注射器を取り出し、響の腕に押し当てた。

 

 

カシュッ! という軽い音がすると、注射器の中身は響の身体へと打ち込まれていく。途端に、怯えていた響が少しずつ力が抜けたように倒れそうになる。そしていつの間にか、彼女の腕から出血は止まっていた。

 

 

 

あの注射器の中身は麻酔と鎮静剤、止血剤の複合薬だ。5分の間、自分自身の意思では動けなくなるが、その倍の時間は出血を抑えていられる。無論、この世界の物ではなく、自分達の世界の物だが、この世界でも新しいものを調達すればいいだけの話だ。

 

 

 

(血は止まったな!だが、これでは駄目だ!あくまでもこの問題を長引かせるだけに過ぎない!今の内にでも、響を二課のメディカルルームへ連れていかないと──────)

 

 

意識の落ちた響を抱き抱え、その場から少しでも離れようとする。その時に、木々の間から二つの影が飛び出してきた。翼とクリス、荒い息を整える間もなく彼女達は剣へと駆け寄っていく。

 

 

 

「無空!立花は───ッ!?」

 

「お、おい!大丈夫かよ!!」

 

 

近付いてすぐに、抱き抱えられた響に起きた異常を察する。困惑しながらも気を保つ二人に、剣は大声で呼び掛けた。

 

 

「響!クリス!この場は任せる!俺は響を──────」

 

 

 

その最中に、剣は強制的に言葉を止めた。

迫る凶刃を飛び退きながら避け、回避し切れない一撃は脚で受け止める。

 

 

受け止めて、すぐに気付いた。

不意を突くようにして自分を狙ってきた下手人の正体を。

 

 

 

 

 

シオン・フロウリング。

かつての親しき後輩であり、今の厄介な敵だ。彼は両手の蒼き刃を鋭く、強靭に展開させながら、剣へと向き直る。

 

 

明らかに敵意を向けている。しかしそれは人間特有のものではなく、淡々と始末を繰り返す殺戮人形のソレだ。感情の籠っていない殺意、それでありながら見る人を威圧する無機質さ。

 

 

ドンッ!! と剣が先に動き出す。

しかし彼は前へと、シオンへと突っ込むことはしない。逆に後ろへ、後退するように明確に距離を取った。

 

 

不気味に首を捻ったシオンは、追撃するように突撃してくる。直進を確認した剣は、瞬時に着地すると、すぐさま横へと跳び、勢いを崩すことなくそのまま駆け出した。

 

 

しかし、シオンの方が一回り速かった。

負傷者を抱えた剣では、純粋に身軽で問題なく加速を行えるシオンの俊敏さには勝てない。

 

 

 

回避行動を取ることも許さず、シオンが剣への攻撃を開始する。両手の爪と両腕から生える刃による斬撃。相対、合計四つの攻撃手段に、剣は片腕と脚で対抗する。

 

 

 

「クソ!邪魔だ!!」

 

 

押すことも出来ずに、攻めることも出来ない。もどかしいと思いながら、剣はシオンの放つ連打の嵐を的確に弾き跳ばしていく。

 

 

 

 

その最中、気付いた。

シオンの攻撃の仕方が、何処かおかしい。違和感を感じ取る。攻撃と呼ぶには、あまりにも杜撰すぎる。ふと、油断しかけた瞬間、胸元へと滑り込むように振り下ろされる爪で確信した。

 

 

 

(───この動き、俺を狙ったものじゃない。さっきまでの攻撃は────)

 

「……………クソが………狙いは響という訳か!!」

 

 

先程までの攻撃方法を演算した結果、間違いない。

シオンの狙いは最初から響だ。不規則な形で剣の致命傷を与えんとしていたのも、がむしゃらに思える動きも、全ては腕の中にいる響へと向けられた殺意の刃であった。

 

 

 

片腕だけでは、四方向からの攻撃を全てはいなしきれない。対応するには余裕がない。今の剣には、戦闘に思考を回しきれるほどの落ち着きが存在しないのだ。

 

 

 

だからこそ、一時的に戦い方を切り替える。

迎撃の手を緩めることで、全ての攻撃を敢えて受ける。確実に無防備になったシオンのフルフェイスを殴り、腹部を蹴り飛ばして大きく仰け反らせる。

 

 

その隙こそが、切っ掛けであった。

 

 

疾走(はし)れ!!『魔剣双翼(ガードラック)』!!」

 

 

背中の留め具を強引に飛ばし、二本の魔剣の翼が飛来する。有線に繋がれた対なる剣は剣の真横を通り抜け、シオンへと襲いかかる。

 

 

不規則にして精密。

不正確にして苛烈に。

 

三次元的とも言える双翼の舞踏(ロンド)。二振りの魔剣は自我を持ったようにうねり狂い、死角という死角を突いていく。

 

 

先程まで、容赦なく攻め立てていたシオンも、明らかに攻撃の手を緩める。二対の龍剣を掻い潜り、本体である剣を叩くことが難しいと判断したのだろう。彼はまず、双翼の破壊を優先し始めた。

 

 

今の戦況に、純粋な舌打ちが口に出る。苛立ちを隠さぬまま、剣はガードラックの制御に意識を移す。

 

 

(クソッ!!片腕じゃシオン相手に攻めきれない!!幾ら魔剣双翼があっても決定打に掛ける!!それに、今無理に動けば響に負荷を与えてしまう!!)

 

 

ガードラックは広域殲滅型の兵器であり、擬似的なオールレンジ攻撃は可能だ。しかし、それではシオンを打倒するまでには至らない。

 

 

何より、この場から離れる必要がある。

響の腕は止血できているが、それでも今が危険な状態であるのは変わりない。一刻も早く逃げ出したいが、そうすればシオンは剣を追いかけ続け─────二課の面々と接触するだろう。それは無意味な被害を増やすことを意味する。

 

 

 

かと言って。

翼やクリスの手助けも、無理であった。彼女達もいつの間にか、シオンの自律戦尾(オートディステール)との戦いを始めていた。助けに行こうとしているのは分かるが、それを尻尾に妨害されているのだ。

 

 

双翼から避け続けるシオンの胸元に視線が向く。胸部の装甲には、リボルバーのように複数の球体が組み込まれている。それら全てが、別種類の魔剣であるとすぐに気付けた。

 

 

 

 

(─────シオンが宿すロストギアは、グラムと天羽々斬だけだ!それは記憶通り、間違いなかった!!)

 

 

なのに、シオンは全く別の魔剣の力を使った。僅かに聞き取れたのは大典太光世(オオデンタミツヨ)という言葉。それは日本でも有名な天下五剣の銘だ。そんな魔剣をシオンが宿しているという話は、聞いたことも見たこともなかった。

 

 

間違いなく、()()()()()()()()()()だ。何故そんな事をする必要があるのか、誰がそんな事をしたのか、分からないほど愚かではない。

 

 

ギリィ!! と歯を噛み砕き、張り裂けん程の大声で叫ぶ。

 

 

「エリーシャ!出てこい!これもお前の筋書きだろう!!出てこいよッ!エリーシャァぁッ!!!」

 

 

 

言葉に応じるように、異変は起きた。

シオンのフルフェイスが怪しく光る。無言のシオンの動きには、何一つ変化はない。だが、フルフェイスの内側から今までとは違う声が発された。

 

 

 

『───ふぅん、随分と不機嫌だな。まぁ、それも当然か』

 

 

相手こそ、エリーシャ・レイグンエルド本人。

遠隔通信でシオン越しに応じたその男が、この現状を作り出した真の黒幕だ。

 

 

怨敵の声音に、剣は並々ならぬ怒りを燃やす。しかし、彼はエリーシャへの怨みや憎悪を無視して、激しく怒鳴る。

 

 

「エリーシャ!お前シオンに新しい魔剣を適合させたな!?それも一つだけじゃなく、複数も!!」

 

『正解だ。物分かりが良くて助かる』

 

 

対して、エリーシャは鼻で笑うように返した。その上で、嫌らしい悪意を機械越しに滲ませながら、告げる。

 

 

 

『観客も増えたようだし、ここで話しあげようじゃないか。種明かしって奴を』

 

「…………」

 

『君があの世界からいなくなった後、シオン・フロウリングが行動を起こしたんだよ。たった一人で複数の魔剣士と共にクーデターを実行した。目的は魔剣計画の壊滅だったらしいが、まぁ失敗に終わったのは見れば分かるだろう?』

 

 

クツクツ、と。

抑え込むような笑いを漏らすエリーシャ。あまりにも愉快なのか、不快な様子を隠そうともしない。

 

 

 

『まぁ、シオン以外の魔剣士は逃がしてしまったさ。どうやら『セフィラ』の一人が裏切ったらしくてね…………その後、総統閣下たるヤルダバオトは鹵獲したシオンをどうするか確認してきた。他の面々は処分という意見だったが、私だけは別の提案を思いついた。

 

 

 

 

どうせなら有効活用しても良いか、とね』

 

 

「有効……活用?」

 

 

人を人とも見ない言い方。最早エリーシャには、人間は研究の対象の一つとしか見えていないのかもしれない。だが、その言葉の裏にはもう一つの意味があることも、分かっている。

 

 

剣への嫌がらせ。無空剣の精神を傷つけ、少しずつ摩耗させていく為の悪意の策略だ。だからこそエリーシャは、シオンを利用しようと画策したのだ。

 

 

 

『シオン・フロウリングは同時に魔剣を取り込める体質があった。まぁ反動や負荷はあるが、死にはしない程度だったからねぇ。だからこそ、シオンに更なる魔剣を組み込んだんだ!八本以上の魔剣を!!』

 

 

耳を、自身の聴覚を疑ってしまつ。

更なる魔剣との融合、それも八本以上も。

本気で何を考え、実行したのかが理解できない。正気とは思えない。

 

 

魔剣との同調には、代償や負荷が大きいものだ。負担無しに魔剣に選ばれる者もいるが、無空剣ですらその多大な負荷を味わったのだ。

 

 

肉体を破壊し、同時に再生させる最悪の拒絶反応。それは耐え難い痛みで、その苦痛と恐怖のあまり、適合できた後もトラウマを負う者もいる。

 

 

それはシオンも変わらない。

なのに、連中はシオンに無理矢理魔剣を適合させたのだ。それも複数も。

 

 

『その結果さ!シオン・フロウリングは無事に全部と同調したよ!だが、度重なる魔剣による同調の負荷を繰り返し受け続けたせいで、三本目くらいで意識がブッ飛んでねぇ。全部終えた時にはもう、精神が粉々に壊れてしまったのさッ!!!』

 

 

言葉が出ない。

説明が出来ない。ならば、今いるシオンは何だ?自我も失い、精神も壊れたままで戦っているというのか?

 

 

そんなの、人間ですらない。最早機械の領域だろう。そう思う剣だったが、予想違いだったらしい。

 

 

 

『そのお陰でシオンは他の魔剣の力も自由に使えるようになった。が、心が壊れては魔剣の力を使える意味がない。しかし、彼を有効活用すると言ったのだ。最後まで使ってやるのは私の義務だとは思わないか?

 

 

 

 

───故にこの装備、ロストギア:グラム自律制御型装備を造ったのさ』

 

 

 

それこそが、シオンを動かす全ての元凶。心も意思も砕かれた青年を操モノの─────鎧の名前だ。

 

 

 

『この装備はシオンの肉体の神経に接続し、その肉体を操っているのさ。操り人形のように、だがそれよりも精密に。この鎧は戦闘の為でもあり、同時にシオンを自由に操る制御装置そのものなんだよ』

 

 

正しく、悪魔の発想とはこの事だ。

身動きも取れない人間、自我も失い、心の欠けた人間に魔剣は更なる力を与えない。廃人化した者が、英雄になれる筈がないのだから。

 

 

ならば、自我が無いのを利用すればいい。意識のない人間に人工知能を搭載した強化型ロストギアを纏わせ、ロストギアに神経を接続することで、本人の意思も関係なく動かすことが出来る。

 

 

 

『だからこそ、どんなダメージに応えることもない!相手を、子供も、躊躇なく殺せる!なんせ自我が無いからねぇ!痛みなんてものに悶えることもない!感情が人殺しを留める事もない!実に最高の考え、殺戮人形としては及第点とは思わないかな!?』

 

 

 

 

「心の壊れた廃人を、戦闘に使っている……だと!?」

 

「クソ野郎が!!どこまで腐ってやがる!!」

 

 

『ははははははははははッ!!褒め言葉だ!素晴らしいだろう、私のこの発明は!?元々はかつての私の研究の妥協点…………身体の動かない人間を補強するための代物だったが、こうも面白い使い道があるとは思わなかった。そうだろう!?無空剣!!』

 

 

絶句する翼と憤慨するクリス。彼女からの罵倒に対しても、エリーシャは気にするどころか嬉しそうに笑うだけであった。

 

 

ふと、名前を呼んだエリーシャは呟く。言葉も出ない、感情の生魚が出来ない青年に。

 

 

 

『気を反らし過ぎたな────隙だらけだぞ?』

 

 

「─────ガァッ!?」

 

 

瞬間に。

凄まじいダメージを受けた剣が大きく吹き飛ばされた。何が起こったのか分からない、訳ではない。

 

 

激しい剣舞の嵐の最中、シオンが双翼の一振を破壊したのだ。砕かれた漆黒の魔剣のダメージは有線を伝い、無空剣本人へと届く。

 

 

何度も地面に叩きつけられ、木に打ち付けられる。身体全体が軋むような痛みに顔を歪めながら、剣は何とか起き上がる。

 

 

 

それと同時に、見えてしまった。

 

 

自分が吹き飛ばされる瞬間に、意図せず手を離してしまった響が、地面に転がる姿を。

 

 

そして、意識もない彼女に向けて。躊躇無く、天羽々斬の刃を振りかざすシオンの姿を。

 

 

「ッ!!!」

 

 

その光景を眼にした剣は、迅速に行動する。

音速、音すら無視する程の速度で駆け出し、その場へと飛び込む。

 

 

 

 

 

蒼き光刃は───響には届かなかった。彼女を庇うように抱き締めた剣によって防がれた。背中を切り裂かれた剣だが、血は流れない。幸いな事に、強固な装甲がその身を守ってくれたとも言える。しかし、それでも。痛みは、斬られた痛みは電気信号となり、彼の脳を強く刺激する。

 

 

「ぐ、グゥ……ッ!」

 

 

奥歯を噛み砕くように、痛みを押し込む剣。咄嗟に抱き抱えた響が無事なのに安堵するが─────更なる痛みが続いた。

 

 

標的を身を呈して庇われた事に、シオンは激昂するように攻撃を繰り返していた。それらの攻撃全てが自分を狙うように、見せ掛けて響を殺そうとしているのはすぐに分かった。

 

 

だからこそ、剣には避けられなかった。無理に避ければ、間を掻い潜り、響の命を刈り取る連撃を、その身で受け止めるしかなかった。

 

 

 

 

「無空ァ!?」

 

「剣!!───クソォ!邪魔だぁッ!!」

 

 

二人がその現状を目にし、剣の援護へと向かおうとする。それを遮るように、妨害するのはシオンから伸びる尻尾だ。独立した生物のように自意識を持つ鋼鐵の蛇は、シオンの戦いを的確にサポートしていた。

 

 

 

『やれやれ、庇うとは馬鹿な真似をしたね。一か八かでシオンを叩き潰すことも出来たろうに。…………立花響を守った所で、君が死ねば彼女も死ぬというのに』

 

 

言葉も発する事はないシオンから、エリーシャの嘲りが聞こえてくる。だが、彼は知っていた。

 

 

無空剣は、確実に響を庇うだろうと。自らの身を呈して。

 

 

その上で。エリーシャはそんな風な言葉を投げ掛けるのだ。盛大な悪意を込めて。

 

 

 

『さぁ、選ぶといい』

 

 

狂人は、追い詰める。的確に、彼の心をへし折っていく。

 

 

『君の力ではシオン・フロウリングを助けることは出来ない。今護っている立花響もねぇ、出血した身でどのくらい持つかな?早く医療機関にでも連れていかないと駄目じゃないかなぁ?でも、シオン・フロウリングは立花響を狙ってる以上、どうにかしなきゃならない筈だ』

 

「…………エリーシャ」

 

『さぁ!早く選べよ!シオン・フロウリングを殺せずに、君を助けた立花響を見殺しにするか!彼女を助けるために、大切な後輩を半殺しにでもするか!殺した方が面白いと思うが、それだけに妥協しておこう!どっちにしても愉快だからさ!

 

 

 

 

 

 

君が絶望するって展開は、何一つ変わらないのだからなぁ!!!』

 

「エリィィィィィシャァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

 

守り続ける事しか出来ない青年が、血走った眼で睨みつける。喉の奥が裂け、血の味がする口の中から、迸るような怒号を響かせる。

 

 

 

選択が、迫られる。

 

同胞か仲間か。どちらを助け、どちらを傷つけるか。片方を選ぶことで片方を見捨て、片方を救うか。

 

 

絶望と怨嗟が渦巻く中、無空剣はどうする事も出来ずに、怨敵とあらゆる理不尽を呪うことしか出来なかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「───あんの奇天烈ども!何処まで人の道を外れてやがるんデスか!!」

 

 

戦場から離れた場所に隠れるエアキャリアの内部。そこで現在進行形の状況を見ていた切歌は、壁を殴り付けながら叫ぶ。

 

隣では、顔を真っ青にしている調。彼女にとって、今ある光景が恐ろしくてたまらない。

 

 

彼等の所業が、残酷過ぎる。人はここまで他者を傷つけられるのかと。

 

 

 

「────何処へ行こうというのですか?マリア」

 

「………悪と呼ばれる事も、悪を為す事も受け入れられる。でも!アレは、アレだけは見ていられないッ!!あんなやり方を、人の命も心も弄ぶことを!黙って見てはいられないッ!!」

 

「では、今を除いて。無空剣を倒せる機会がありますか?」

 

「……ッ!?」

 

「非道ではありますが、このままであれば無空剣を排除できます。貴方や切歌、調の三人でも勝てない彼さえここで倒せれば、我々の障害は限られることでしょう」

 

 

冷徹な意見を述べるナスターシャに、マリアは否定をすることが出来ない。現に、今の自分達では無空剣を倒すには至らなかった。今この場で倒せれば、どれだけ楽になることだろうか。

 

 

それでも、それは果たして正しいことなのか。

 

 

 

「…………あたし達、正しいことをするんデスよね……」

 

「…………間違ってないとしたら、どうしてこんな気持ちになるの……」

 

 

今も、無空剣は欠損した少女を庇うようにして動かない。下手に抵抗すれば、腕の中に眠る少女は殺されてしまう。だからこそ、剣は抵抗しない。抵抗することすら許されない。感情の無いシオンはそんな彼の、かつて尊敬していた者の背中を容赦なく切り刻む。

 

 

彼は敵だ。

今現在もその事実は変わらない。だが、あの時、リディアンの祭りの際に出会った時、彼女達が思い描いていたような偽善者ではなかった。

 

 

自らの肉体を改造され、兵器と変えられ、仲間も奪われてきた。度重なる絶望の果てに、彼はこの世界で新しい仲間を得て、ようやく幸せを謳歌していたのだ。

 

 

なのに、またそれを奪うのか。今度は自分達が、世界を救うという大義名分で。

 

 

どうすることも出来ない。彼女達は何もすることも出来ず、黙ってこの地獄を見届けることしか許されないのだ。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

─────クソだ、どれもこれもクソだ。

 

 

耐え難い位の熱を帯びる怒りと世界すら呑み込むと思える程の憎悪に焼かれながら、剣は耐えていた。シオンからの攻撃を、その身を以て。

 

 

やがて、装甲を破った蒼き刃が皮膚へと届く。ナノマシンで細胞単位まで強化されてようと、人体であることは変わりない。切り裂かれた肉片や、血が飛び散り、剣の口からも欠損の証拠である出血が溢れ出してきた。

 

 

 

もう限界だ。

無空剣はあと少しで瀕死に至るだろう。だからこそ、もう決めなければならない。誰を殺すか、誰を助けるか。

 

 

 

「──────響」

 

 

胸元に抱き締める少女の顔を見下ろす。彼女の頬についた血を、優しく拭い取る。静かに眠り続ける彼女を前に、剣はようやく覚悟を決める。

 

 

 

「ガードラック」

 

 

短い一言であった。

背中に繋がれた有線を伸ばし、ガードラックの片割れが横からシオンを打ち込んだ。猛攻に夢中であったシオンは反応することも出来ず、その場から吹き飛ばされる。

 

 

ゆっくりと、響をその場に寝かせる。

壊れたガードラックの断片、傷も棘もなく、綺麗な鋼の板を背に預けるように。

 

 

向き直り、剣は立ち上がる。そして少しずつ、歩み出した。

 

 

「魔剣───限定外装(フレームアウト)、解除」

 

 

そう告げると、剣の纏っていたロストギアが剥がれ落ちていく。ボロボロの装甲が辺りに散乱するようになり、剣はその場を中心に立ち尽くしていた。

 

 

 

「解除コード──────『ノエル』」

 

 

言葉と共に、全身から紫色のラインが生じる。禍々しく輝く光を余所に、剣は深い息を吐く。左手の甲と右目に位置する龍剣グラムの欠片を重ねるように、かかげる。

 

 

 

 

「─────フォース・ギア、解放」

 

 

紡がれた言葉。無空剣の力を解放する引き金の一つ。纏うことをしなかったその力を顕現させる。今護りたい者を護るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禍々しい闇が、顕現する。

外装の剥がれ落ちた青年の足元を、淀むような闇が溢れ出す。それら全てが、先程まで無空剣の纏っていたロストギアであったものだ。

 

 

その瞬間、闇が一気に噴き出した。螺旋のように吹き荒れたそれは次第にその姿を、竜のものへと形作っていく。

 

 

それを竜と表現できるのは、その姿だけだ。目も鼻も顔もない、あるのは尖った歯が並ぶ口だけだ。

 

 

それが何体も、闇の中から姿を現す。

色のない、光なき闇の竜が九体。剣を囲むようにして現れたそれらは、ただ彼を見つめているようであった。

 

 

ふわり、と。

剣の身体が、その場から浮かび上がった。九つの竜に並ぶような位置までに達すると共に─────竜は動いた。

 

 

一体が、剣に大きな口を開いたまま食らいつく。それは他の個体も同じであった。残りの八竜も同じように、剣へと群がっていく。青年の姿が見えなくなり、完全に闇へと呑まれるのは数秒も掛からなかった。

 

 

 

誰もが、言葉すら挙げられない。翼やクリスも、ウェルもシオンも────この場にいない二課の皆も、マリア達も。

 

 

 

その光景が、あまりにも異様で、恐ろしかったのだ。

 

 

 

「グッ、が」

 

 

竜が混じりあった闇に、変化が生じる。突如発生した赤黒い雷が、闇から周囲へと放たれる。それと同時に、闇の形が胎動するように変化していく。

 

 

 

「オォォォォォォォ、オオオオオオオオオオォォォォォォォォォォッッ!!!!」

 

 

 

そして─────怪物のような咆哮と闇が吹き荒れる程の衝撃が、世界を揺らした。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「─────ついに、纏ったな。フォース・ギア。いや、通常の魔剣士の中では魔王剣装と呼ぶべきだったか」

 

 

深淵の奥底で、誰にも気付かれぬ闇の中で、元凶は嗤う。

 

 

「仲間の血と記憶を吸ってきた魔剣士の進化形。同族殺しのその力を、是非とも披露してやるといい」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

歪みつつある闇の流れが、一瞬にして変貌する。細かく胎動を繰り返していた闇の繭はズズズと、縮小していく。いや、小さくなっているのは事実だが、消えているのではない。

 

 

その闇は、取り込まれているのだ。あの蛹の中にいる、魔剣士の青年へと。

 

 

 

闇が晴れた瞬間、そこには何かがいた。しかし、それは普通の剣ではなかった。

 

 

 

全身がゴツゴツとした厳つい鎧に包まれた姿。その色は、光なき真の黒。しかし、何時も纏うようなロストギア形態とは違い、それは正真正銘鎧であった。

 

 

 

 

 

魔剣士の更なる段階。

本格的な強さを解放した、非現実的な領域のもの。元から魔剣士は非常識の塊のような兵器だが、あの姿はそれをはるかに上回る。

 

 

 

エリーシャの言葉を借りるなら──────あの姿こそ、『魔王剣装』。又の名を、魔剣深化。

 

 

 

魔剣との融合を強制的に深めることで、更なる力を引き出す形態。その禍々しい姿に、朦朧としていた響はふと思ってしまった。

 

 

鎧で見えないはずの青年の顔が。何故か、狂ったように嗤っているように、幻視してしまったのだ。




フォースギアの画像は此方。色ありと色無しがあります。



【挿絵表示】



【挿絵表示】



無空剣のフォース・ギア、もとい『魔王剣装』。

本格的な無空剣の最終形態。序列の魔剣士と相対する事を想定された戦闘フォーム。基本的な弱点は存在しない。


最大の欠点は、安全装置が存在しないこと。なので、魔剣からの浸蝕を防ぐことが出来ず、無空剣の怒りや憎悪を増幅させ、暴走させてしまう。


お気に入り、評価や感想、質問などがあれば気軽にどうぞ! 次回もよろしくお願いいたします!それでは!!



…………エリーシャ書いててコイツクソかな?って思ったゾ。
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