戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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最後の最後で投稿できたぜ…………(疲労困憊)


暴走する魔王

「……………うぅっ」

 

 

鼓膜に伝わってくるのは、凄まじい爆音。薄らいでた意識の中、何度も続く音に立花響の意識は少しずつ覚めてきた。

 

 

「あれ………?私、何を────」

 

 

まるで熟睡中に叩き起こされたように身体が重い。いや、思い出した。これは剣が自分に投与してくれた麻酔の効果だろう。響の片腕からの出血を止めるために─────

 

 

 

「─────あ」

 

 

思い出した。

自分の身に何があったのか、先程までの戦いの結果を。

 

 

シオン・フロウリング。彼を止めようと戦った響は、未知なる力で腕を切り落とされた。そして意識の落ちかけていた響を守るために剣は更なる魔剣の力を解放した。

 

 

ふと、轟音のする方向へと振り向く。衝撃と風圧の嵐の中心で、二人の姿が目に写った。

 

 

「…………師匠」

 

 

赤いシャツを着た、風鳴弦十郎。彼は今までにない険しい顔で、全力で相手に挑んでいた。通常時や修行の時のように、手加減はされてない。するような状況ではないからだろう。

 

 

そして、もう一人。

 

 

 

「剣、さん?」

 

 

禍々しい全身鎧。最早魔剣士としての側面は見られない。通常纏っているサードギアはあくまでも自分達と同じであった。しかしあの姿は、完全に違う。兵器として造られた怪物、そんな印象が過る。

 

 

黒き異形は、紫に染まった燐光を激しく輝かせながら、形容しがたい絶叫を放つ。ただの人間や何も知らぬ者ならば、相手を震え上がらせる為の咆哮ととるだろうが、彼を知る者は、答えは違った。

 

 

 

あの絶叫は、彼の憎悪と悲劇を帯びたものだ。

善意を信じ、顔を知らない人の為に努力し続けた結果、仲間も奪われた挙げ句、自身も人ではない兵器へと変換された。

 

 

その後も何人もの仲間を殺されていき、彼は胸の内に元凶への怨恨を募らせていった。そして、今この時に暴走として倍増した憎悪が彼を狂わせた。

 

 

 

止めなければ、その思いが響を動かしていた。片腕を喪ったという事実すら脳裏から消え去る。あの人が、あの優しい人があんな風に暴れるのは、誰も望まない。きっと本人ですら。

 

 

立ち上がり、その場へと向かおうとする。しかし起き上がる際に伸ばした手が、何かに触れた。土でもない、金属だというのはすぐに分かる。それが何なのか、振り返った直後に把握した。

 

 

 

「────アルビオン?」

 

 

かつての戦いで、朽ち果てた筈の魔剣兵器 アルビオン。それが何故か、響の後ろに座していた。

 

主であったフィーネを敵に回し、剣を庇うように戦ったそれは最早半壊という状態で動けない筈であった。現に剣も、アルビオンの残骸を親友の墓標としてその場に置いておくことにしていたのだ。

 

 

だが、あの戦いの場所から離れているここにあるのはおかしい。それに後方の地面には、引きずったような跡が残されていた。

 

 

アルビオンは、片腕の巨腕を差し出すように向けていた。手の中にあったのは、ひし形の結晶。自然から発生した純正そのものの光と材質の塊であった。

 

 

「これは…………」

 

響も、知らないわけではない。ある程度は把握できる。これは魔剣だ。魔剣カラドボルグ。アルビオンのコアへと組み込まれていた聖遺物であったが、まだ現存していたのかと思う。

 

 

何故、そんな事をするのか。一つだけ分かるのは、この魔剣の欠片を、響へと託そうとしているという意思だけだ。誰のものかは分からない。

 

 

「─────ありがとうございます、アルビオンさん」

 

 

しかし響は、この兵器そのものの意思だと読み取った。だからこそ深く頭を下げると、その欠片を手にして、戦場へと向かっていく。

 

 

 

駆け出していくその後ろ姿に、鎮座した兵器は黙っているだけだった。ただ少し、変化があった。ギチギチ、と錆びた部位を動かすように、アルビオンが僅かに動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

空間が、弾ける。

カ・ディンギル跡地、表向きには旧リディアン跡地を揺るがす程の衝撃が、何度も響いていた。天地を揺るがすそれは、後に地震や異常現象として伝えられる。

 

 

その方がいい。一般人が知るべきではないのだ。それらの現象が、人間離れした存在達によって引き起こされている、戦いの余波であることなど。知られれば、どれだけの混乱を引き起こすことか。

 

 

 

 

 

 

 

「「オォォォォォォォォォォッッ!!!」」

 

 

殴り、殴られ。

吹き飛ばし、吹き飛ばされる。

そして二つの影は、幾度もなく衝突を繰り返していた。周囲の被害など、彼等は意識すら向けてない。

 

 

 

無空剣と風鳴弦十郎。

二人は全身全霊の戦いに力を入れていた。一人は、自我や意識すら呑み込む程の憎悪と怨嗟に身を動かされ、一人は戦場に出させている少女達と、今も復讐に囚われている青年を救い出すために。

 

 

 

 

 

 

「…………す、凄ぇ」

 

「叔父様もだが………無空も凄まじいな」

 

『───いや、私からしたら司令の方がおかしいのだがね。………………え、何あれ?何で剣クンと殴り合えてるの?現時点で最強の姿だよ?生身だよ?あの人?えぇ?』

 

 

呆然とするクリスと翼、そんな彼女達よりも困惑のあまりに動転しているノワール博士。前々から強さの片鱗は分かってはいたが、これは流石に正気ではないと思う。

 

 

あの姿、フォース・ギアは表向きな意味で無空剣を序列へと格上げさせた形態でもある。あくまでも、一因に過ぎないが、それでも強さに遜色はない。最強の名を示す一端であるのだ。

 

 

なのに、生身で相手してるとか正気だろうか。そう思うノワールだが、冷静なるように努める。もう気にしないとこう。司令は司令だ、あれが普通なのだ、と。………ふと、翼に疑問を投げ掛けた。

 

 

 

『………翼クン、質問なのだが』

 

「……何ですか、博士」

 

『今現在、どちらの方が優勢と見る?インドアかつ非戦闘員の私より、この場で誰よりも経験に優れている君の意見を聞きたい』

 

「それは────」

 

 

視線を戻したと同時に、二人は再び衝突を始めた。裏拳によって龍王剣を遠くへと弾かれた剣は、そのまま弦十郎へと牙を剥く。対する弦十郎も退くことはなく、逆に剣へと向き合う。

 

 

 

二つの拳が、互いの顔を打ち抜く。双方に生じる衝撃波が地面を抉りながら、二人に叩かれる。しかし、どちらが深いダメージを負ったか、目に見えて明らかであった。

 

 

 

「───むんッ!!」

 

「ギ、がッ!?」

 

 

 

「叔父様が───押している!!」

 

 

 

 

地面に踏み込み、更に力を込めて拳を解き放つ弦十郎。彼の一撃を受けた剣は、地面を跳ねながら吹き飛ばされる。何度かして気を取り戻したであろう彼は、地面に杭を打ち込むように、腕を突き刺した。それでようやく、絶大なスピードと力は消失した。

 

 

「クソッ!」

 

 

体勢を立て直した剣は、左手に凄まじい程のエネルギー、魔剣の力を集中させる。禍々しいまでに増幅していく紫の力の渦を、掌で押し潰す。異常なまでに引き出された膂力は、本来変化させることの不可能な力の流れを、問答無用で圧縮する。

 

掌に浮かぶ────小規模の魔力の渦が形となった。軽々と扱える程の大きさと形状へと。

 

 

 

「───ッ!死ねェッ!!」

 

 

ソフトボール並みのサイズになった球体を、剣は弦十郎に向けて投げつける。ズン! と地面に亀裂を増やしながら、投擲された魔玉は望まれた破壊を実現するために、弦十郎目掛けて突き進む。

 

 

迫り来る魔球に、弦十郎は退くことも防ぐこともしなかった。それどころか──────

 

 

 

「はぁァッ!!」

 

 

 

蹴り返した。

放たれた破壊のエネルギーを、弦十郎はサッカーの試合のように、脚で打ち返したのだ。弾かれるように、全速力で無空剣の方へと戻っていく。

 

 

 

「………なッ!?」

 

 

これには流石に剣も唖然とする。予想外の事に意識を反らしてしまい、その僅かな隙が油断となってしまう。飛んでくる魔球への対応が遅れ、すぐさま打ち落とそうとするが───間に合わない。

 

 

胴体に直撃した瞬間、魔力の球体は爆発を引き起こした。苦痛に呻く声はしない。いや、したとしても連鎖する爆撃によってかき消されているのかもしれない。

 

 

どちらにせよ、あの攻撃は剣を完全に追い詰める一手となった。砂塵が晴れた先にいる────全身鎧が所々砕けた剣の姿が、それを証明している。

 

 

「───────あ、が」

 

 

バチ、バチ! と鎧の隙間から火花が飛び散る。金属や機械で構成された装備が、弦十郎との激戦によって破損していき、先程の攻撃を返された事でガタがきたらしい。

 

意識も朦朧としているのか、或いは失神寸前なのか、彼の眼から生気が消えていた。

 

 

「ッ!」

 

 

彼の様子を理解した弦十郎が前へと飛び出し、剣へと接近する。もし彼が限界まで追い詰められているのならば、助け出す好機は今しかない。あの鎧を完全に破壊すれば、剣は憎悪の衝動から解放される。

 

 

近付いても、反撃はない。

チャンスを無駄にしない為にも、弦十郎は動く。まずは剣を鎧から引き剥がす事を優先する。そうして、無防備な青年の肩へと手を伸ばした。

 

 

 

 

後少し、指が、手が、届く───────その瞬間。

 

 

 

 

 

 

「─────しつこい、ものだ」

 

 

ギョロリ、と。

見開かれた瞳が、弦十郎の姿を捉えた。声も、異様に冷たい。それに、明らかな変化があった。

 

 

人が変わったように睨みつける剣に、弦十郎も僅かに意識がそちらへと向いてしまう。

 

 

 

『アームユニット、変換』

 

 

片腕が跳ねるように持ち上げられる。しかし黒い装甲を纏った腕から放たれるのは、打ち上げるような拳ではなかった。

 

 

漆黒に染まった、鋭い針。個体としてではなく、液状となりながらも形成された武装。槍のように伸びる凶器が、弦十郎の腹を刺し貫く。

 

 

「ぐぅッ!!?」

 

 

肉を抉り、削ぐような感覚が脳を刺激する。

脇腹を軽く抉られた弦十郎は苦痛に顔を歪めるが、すぐさま拳を握り締め、放たれた黒い槍を殴り、何とか距離を置いた。

 

 

 

「叔父様!!大丈夫ですか!?」

 

「ああ!問題ない!掠り傷だ!!」

 

『いや脇腹を抉られたよね!?今!!それで掠り傷とか大分イカれてるね!!』

 

 

脇腹からの出血を力ませることで止めた弦十郎に絶句するクリスとノワール。翼だけあまり驚かないのは、同じ風鳴の血統故にか、或いは弦十郎の人外さに慣れているのか。

 

 

しかし、ノワール博士もすぐさま何かに気付いたように黙り込む。唖然としたような一息に次いで、

 

 

『…………魔剣グラムからの供給エネルギーの増大を確認。フォース・ギアの破損を完全修復している。どうやら、彼の内に宿る魔剣が、彼の敗北を許さないらしい………』

 

 

腕を鋭い槍から元に戻した剣。彼の全身鎧が再生を始める。この間にも先程の戦いで生じた傷は跡形もなくなり、新品同然の光沢を有するフォース・ギア。

 

 

弦十郎は脇腹の止血を確認すると、両手を握り締めながら向け直る。険しい顔つきで、彼は剣を睨み付ける。そして、鋭い声で問い掛けた。

 

 

 

「何者なんだ?」

 

「───」

 

「剣君ではない、彼の体を操っているお前は、何者だ」

 

 

無空剣────その皮の奥底に蠢く何か。異様な敵意と殺意から、弦十郎は僅かな変化からその存在を感じ取っていた。人類最強、その名は伊達ではないのだろう。

 

 

指摘された剣、その中に居座るモノは、無視する。話す必要などないと断言するように、両腕を広げた。

 

 

機械的な、無機質に彼は告げる。

 

 

DW(ドラゴンウェポン)ユニット展開」

 

 

言葉と共に、鎧が一瞬にして膨れ上がる。背中の装甲がはち切れんばかりに膨張し、黒い何かが突き破ってきた。真っ黒の粒子が数を成し、少しずつ一つ一つの形を作っていく。

 

 

形となって姿を見せたのは────竜であった。少し前の、無空剣のフォースギアの際に現れた竜と同じようで、別種の存在が。

 

 

 

今度は機械、金属で構成された竜であった。漆黒の色合いに金属特有の光沢を宿した装備。それは生物ではなく、明らかに武装として組み込まれたものだった。見覚えがある、あの時のDr.ウェルが呼び出したノイズを撃ち落とした装備だ。

 

 

 

ガコン! と、竜の頭が動く。

剣の腰に並ぶように展開されたそれは口を大きく開くと、口内に力を溜め込んでいく。

 

 

紫の閃光が、地面を削り飛ばし、彼女達へと迫る。咄嗟に避けるよりも先に、弦十郎が動く。

 

 

彼は前へと踏み込み、拳を打ち込んだ。それによって、あらゆる破壊を為す閃光が、真っ二つへと割れる。生身の人間の拳圧によって極太ビームが弾かれるように周囲へと飛び散った。

 

 

「叔父様!」

 

「………ぐぅっ!流石に無茶だったか!?」

 

しかし弦十郎も無事で済んではいない。彼の拳は熱に晒されたように真っ赤に染まっていた。ビームの火力では弦十郎を吹き飛ばせなかったが、それでも腕1本分使い物にならないようにしていた。

 

 

それだけでは済まない。攻撃の手は緩まることはないのだから。

 

 

『気を付けたまえ!DWユニットは合計9つ!あらゆる状況での戦闘に特化した装備が充実している!特に妨害電子波(ジャミング)ユニットには警戒したまえ!使いようによればシンフォギアの歌に干渉する!………最悪の場合、ギアが解除されるからね!!』

 

 

「くそッ!タクトの時みてぇな事かよ!!」

 

 

次々と無空剣の背中からユニットが収納され、次のユニットが展開されていく。その合間にも拡散レーザーや極太レーザー、キャノン砲などあらゆる弾幕が空間を支配する。

 

 

近接戦闘で弦十郎に追い込まれたからこそ、誰にも近づけさせずに一方的に相手を倒す戦術。感情論などでない、極めて合理的な思考だ。正しく、兵器と言えるだろう。

 

 

 

確実に追い込まれていく翼とクリス。彼女達も受け止めてはいられてるが、徐々に圧倒されている。弦十郎も何度も防ぐことは出来ない。

 

 

勝ちを確信したであろう、止めと言わんばかりにDWユニットを構える。レーザーキャノンユニットの力を蓄積させ、解き放つ用意をする。

 

 

 

 

しかし、圧倒的に有利な状況で。

無空剣は突然、猛攻をピタリと止めた。レーザーキャノンユニットの照準を、一瞬にして別方向へと切り替える。

 

 

 

ズドォォンッ!! と。

禍々しい光の熱線が森の木々へとぶちこまれた。次々と連鎖する爆発、それは森の一帯をほぼ焼き尽くすまでに至る。

 

 

 

煌々と燃え盛る爆炎。それを突き破るようにして、『彼女』は飛び出してきた。

 

 

 

立花響。

欠損した方とは反対の腕を構え、彼女は剣を見据え走り出す。

 

 

「立花!?」

 

「あの馬鹿!腕を切られてんだぞ!?なんて無茶をしてんだ!!」

 

 

二人も彼女の参戦に戸惑いを隠せない。なんせ欠損してる負傷者には変わりはないのだ。弦十郎も彼女を止めるべきと判断したのか、声に出そうとする。

 

 

しかし、噛み締めたノワール博士が他の意見を聞かないという意思の籠った声音で、彼女達に向けて叫ぶ。

 

 

『───全員!突撃したまえッ!!』

 

「博士!?正気かよ!?」

 

『何と言われようと構わない!この好機を無駄にはできない!全責任は私が取ろう!!』

 

 

捲し立てるように博士は続ける。

 

 

『侵食率が既に規定数値を越えている!このまま放置すると彼は魔剣グラムと完全融合してしまう!次こそ鎧を破壊すれば助けられる!何としても止めるんだ!!』

 

 

あと5分未満。

それこそが無空剣を助け出すためのタイムリミット。一刻の猶予もない。この場の全員が、彼を助ける為に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!」

 

 

獣のような咆哮を轟かせる無空剣が、展開したユニットから弾幕を放つ。今まで同様、質量を全てとした攻撃方法だ。紫に染まり上がった絨毯爆撃。地上の全てを焼き払う光の雨だ。

 

 

「さっきから!嘗めてんじゃねぇッ!!」

 

 

左右にガトリングガンを展開した雪音クリスが吼える。地上から放たれる弾丸の雨が、降り注ぐ光の礫と相殺し合う。しかし、それだけでは終わらない。

 

 

「ありったけだ!!受け取れ!!」

 

小型ミサイルを発射させ、無空剣へと集中させる。彼は舌打ちをしながら、両腕でミサイルを潰し、砕き、叩き落としていく。

 

 

群がるミサイルの全てを破壊し、爆煙が視界を遮る。両腕を大きく振るい、煙を払い除ける剣。

 

 

 

 

その瞬間、ようやく気付く。

巨大な狙撃銃を展開していたクリスの姿を。その照準が此方に向けられていることに。

 

 

「そんなもんに振り回されてんじゃねぇよ!剣ッ!!」

 

 

銃口から赤い光が放たれる。突き進む極光に、無空剣は避けることなく逆に受け止めた。手で光を押し潰し、消し去ろうとする。

 

バシュンッ! と、赤い光の残滓が散る。全部の光を受け止めた、そう判断した剣は確信と共にクリスを睨もうとする。

 

 

 

だが、直後に。

無防備となった胴体を更なる赤い光が撃ち抜く。予測不可能の攻撃、その仕組みはすぐに分かった。

 

 

(第二射撃ッ!?第一射撃に隠れるように狙ったのか!!)

 

 

「さっさと正気に戻れ!!この馬鹿!!」

 

 

吹き飛ばされた剣は、背中から新しいユニットを出現させる。名称を飛空ユニット。空中を自由自在に飛ぶ機能を実現させた武装ユニットの一つ。

 

 

内部に搭載されたブースターを加速させ、超速で空中へと飛び立つ。上空へと辿り着いた瞬間、背中から更なる兵装ユニットを解放する。拡散レーザーユニットと集中レーザー主砲ユニットの二つを。

 

 

やり方は変わらない。安全圏内からの集中砲火だ。それこそが最善。一番効率的かつ勝算の高い手段だ。

 

 

 

 

そう思い、地上目掛けて狙いを定めた瞬間、彼は眼にした。此方に迫ってくる二つの大型ミサイルを。

 

 

危険度を確認し、警戒を高める。一つは大した問題ない。単なる陽動なのか、二発目を隠すようにして。つまり、これはダミー、二撃目を当てるためのものだ。

 

 

だからこそ、敢えてその一つを無視する。爆発させたとて視界を遮る要因にしかならない。そしてもう一つを拡散させたレーザー粒子によって誘爆させる。

 

 

 

これでようやく隙が出来た。無空剣は二つのユニットからエネルギーを溜め込み、地上に向けて解き放とうとする。

 

 

 

 

 

「無空────お前に、そんな言葉は、そんな姿は似合わないだろう」

 

 

信じられない声に、剣の思考が停止する。

次に驚愕が脳裏を支配する。有り得ないのだ。声がしたのは真下ではなく、その逆の真上からなのだ。

 

 

 

風鳴翼。

ミサイルの内部から飛び出してきた彼女が、アームドギアを構えて此方を見据えていた。

 

 

「お前の力は!誰かを、大切な仲間を守る為のものだと言っていたはずだッ!!」

 

 

振り下ろされた翼のブレードが、黒き鎧のユニットを斬り刻む。拡散レーザー砲ユニットと集中レーザー主砲ユニット。そして、空戦を可能とさせる飛空ユニット。それらが完全の元に根本ら切り落とされ、無力化される。

 

 

「ガァァァァアアアアアッ!!!」

 

 

空を飛行する機能を失い、落下する無空剣。為す術もなく地面に叩きつけられた剣は、地面に巨大なクレーターを生み出すことになる。

 

 

 

「…………ア、グガぁ……………っ」

 

 

半端ではないダメージが、鎧に蓄積されている。これ以上攻撃を受けるのは得策ではない。だが、剣は、暴走していても尚理解できることがある。

 

 

これはチャンスだ。ここまで弱っている相手を見逃すことはないだろう。よく分かる、誰にでも分かる。自分も同じだからだ。

 

 

立花響。

シンフォギアを纏う彼女は、健在な片腕で剣の鎧を破壊しようと駆け出している。

 

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

「…………!」

 

 

そんな彼女の動きを誘うかのように立ち尽くす。真後ろから密かに、別のユニットを鎧から展開していた。

 

 

攻撃に運用される武装の無い竜の頭部。開かれた口にあるのは拡声器のような電気装置。高周波のような不快な音を流すそれに、ノワールが反応した。

 

 

不味(まず)い!妨害電子波(ジャミング)ユニットだ!君の旋律に干渉してくる!今の君ではどうなるか分からない!!』

 

 

言われるが走り出してる以上、どうしようもない。何より、時間が無いのだ。例えどうなろうと、響は直進するしかない。そんな彼女に向けて、ジャミング波が放たれようとしていた。

 

 

しかし、突如ユニットが弾かれる。まるで砲撃でも食らったように身体が跳ね、電子波が発動されることは無かった。

 

 

「───ッ!?」

 

 

見えなかった。全方位に警戒をしていた。この場全員から意識を外してはなかった。それなのに、不可視の一撃を受けた。当然だ、なんせ予想すらしていない相手からの攻撃だからだ。

 

 

 

アルビオン。

半壊しかけた体を動かした兵器は、残存するエネルギーの全てを衝撃波の狙撃へと変換させた。この時のために、あの少女を暴走する魔王に届かせるために。

 

 

「ッ!壊れかけの鉄屑がッ!!」

 

 

憤怒に塗り替えられた剣が、片割れのDWユニットの砲身を向ける。ユニットから黒紫の閃光が放たれ、半壊のアルビオンを貫く。

 

膨大な熱が、装甲を焼き尽くし、破損していたコアを消し飛ばす。連鎖するように、エネルギーが膨れ上がり、アルビオンを内側から爆発させた。

 

 

 

「っ!てぃやぁッ!!」

 

 

しかし、その隙を無駄にはしない。響は片腕に全力を込め、剣の頭部を殴り飛ばす。無論、怒りのあまりに意識を反らしてしまった剣は避けられず、直撃であった。

 

 

ピシッ! と。

鎧にヒビが入る。漆黒の外装に傷が入り、所々が破損していく。

 

 

彼のフルフェイスも、同じであった。

響が殴った直後に、目の部分が覗くように露出する。しかし光の宿らない瞳が、敵意を剥き出しにして響を睨む。

 

 

「舐めるなァッ!!」

 

 

『アームドフレーム、オーバーアップ』

 

 

片腕が、膨れ上がる。黒い鎧がメキメキと肥大化し、巨人のような腕へと変わった。片腕を振り抜いた響へと構えるように振り上げられる。

 

 

最早響には何も出来ない。今の彼女は先の一撃に全力を込めてしまった。対応には時間が足りない。何より、隻腕である以上これが限界なのだ。

 

 

 

「まだ、だ」

 

しかし。

 

「まだだァァーーーーーーーッ!!」

 

 

響は諦めてはいなかった。そんな彼女の意思に答えるように、全身に熱が帯び始める。そして変化は、すぐに明らかになった。

 

 

喪失した筈の片腕の先から、光が生じる。それはまるで腕のように形となる。叩き潰さんと振り下ろされた巨腕を、確かに受け止めた。

 

 

光が晴れた先にあるのは、シンフォギアを纏った響の腕。それは機械などではなく、正真正銘人の肉体の一部であった。

 

 

「馬鹿なッ!?再生だと!?」

 

困惑する剣を無視して、響の更なる一撃が打ち込まれる。再生した腕によって止められていた巨腕もガラス細工のように砕け、元の腕へと戻っていた。

 

 

「あと、一発ッ!!」

 

 

それで、鎧は完全に壊せる。狂気による支配から解放できる。

 

 

だが、剣はまだ諦めない。彼の内側にいる者の意思であろうか。腕を刃へと換装させ、響に狙いを定める。最後の最後まで、憎悪のままに敵を滅ぼそうとしているのだ。

 

 

 

 

 

 

「───ッ!?」

 

 

何故か、それは叶わなかった。

ピタリと、鎧の動きが停止する。本人も意図しない事のようだ。響は戸惑いはするが、迷わずに剣の胴体に最後の一撃を入れた。

 

 

ピキビキ!

 

鎧のヒビが大きくなり、完全に壊れ始める。呆然と立ち尽くす剣に駆け寄ろうとした瞬間、

 

 

『…………なるほど、そういうこと』

 

 

竜の頭部から、声が発される。突然の声に、響は周囲を見渡すが、声の主はやはりユニットで間違いなかった。

 

 

機械で合成されたような音声だ。単調な波長で放たれる言葉はあくまでも感情が感じられない────ものの筈だ。

 

 

 

『勝手に繋がった魂風情が、余計な真似を』

 

 

漲るのは、敵意と憎悪だ。向けられていない響ですら悪寒を感じる程の怒りが、それからは発せられていた。

 

 

粒子へと分解されていくユニットは、響に向けて口を開く。

 

 

 

『ガングニール、今回の勝利は譲る。だけど、これだけは覚えておくといい』

 

 

 

 

 

─────無空剣は、私のものだ

 

 

 

その一言と共に、フォース・ギアは消失した。黒い粒子はその場に留まっていたが、直立の剣へと収束していく。狂気に囚われていた青年は意識を失い、地面へと倒れ込む。その彼を支えるように、響が下から抱き抱える。

 

 

「────剣さん……………良かった」

 

 

肌に感じられる温もりと鼓動に、響は静かに安堵する。駆け寄ってくる皆の事を見つめ、彼女は嬉しさを噛み締めた。

 

 

────自らの身に起きている変化に、気付かずに。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「フォース・ギアが敗れたか」

 

 

光の届かない深層の奥深く。

全ての元凶であるエリーシャ・レイグンエルドは薄ら笑いを浮かべていた。

 

 

「ま、それは当然だろう。エラーが発生した不完全な姿だ。パーフェクトではない以上、敗北は必然。いや、負けなければ困る。私の為にも」

 

 

嘲り笑うように、狂人はほくそ笑む。自分の掌で物事を動かし、策謀を最後まで達成させられたのだから。

 

 

「その点で二課は、シンフォギア装者達はよくやってくれたよ。お陰で私の計画は無事達成。これでもう余計な小細工をしないで傍観してられる」

 

 

もう片方の掌に、彼は何かを有していた。ホログラムとして存在する電子の塊。無空剣の内部に組み込まれていた鍵の一つ。

 

 

「強化外装のマスターキー」

 

 

それこそが、彼の求めていた代物であった。魔剣士をコアとして更なる力を引き出す強化外装。わずかにしか制御出来ないその兵器を完全に操る為にはそれが必要不可欠だった。

 

 

「これを手に入れる為にも無空剣のセーフティを解除する必要があった。だからこそ、全ての制限が解除されたフォース・ギアへとさせた。その為に、無空剣を追い詰めた」

 

 

カツン、カツン、と。

エリーシャはゆっくりと歩く。巨大な金属の塊を前に、両手を大袈裟に広げ、興奮を隠さずに叫んだ。

 

 

「────これでまた一歩近付いた!後は時間と計画の段階だ!この事件さえ終われば、私の計画が始められる!!

 

 

 

 

 

 

この世界を舞台とし、歌姫達による旋律と憎悪と怨嗟を以て!全てを滅ぼす最強の龍を目覚めさせる!!その時が、待ち遠しいものだッ!!」

 

 

無空剣の強化外装。無数のケーブルに吊るされた無機質な鋼の蛹。それは今も僅かにだが起動していた。咲き誇る花のように、天に位置する月へと赤き光の柱を放ちながら。

 




書くことが思いつかねぇ……………()

来年もよろしくお願いします…………で、ええんかな?
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