前回のあらすじ。
ビッキーを認められない防人さんと取り敢えず戦おうという脳筋思考の魔剣士が戦った。
脳筋(魔剣士の方)が勝った。
市立リディアン音楽院。
基本的に音楽を専門とする女子校。と言うが普通だが、それは隠れ蓑のようなものに過ぎない。地下にある特異災害対策機動部二課を隠すためでもあるのだ。
確認しよう。
リディアン音楽院は
その女子校のすぐ近くで、一人の青年が悩ましいという顔で本を読んでいた。普通は女子校に近づく時点で不審者扱いされるのだが、彼の場合黙読してるだけなので疑わしい目を向けられながらも見逃されている。
────と、無空剣は仮定しているが現実は少し違う。あまり見られない彼の容貌に多くの女子生徒が見とれてるのだが、剣自身はそれには気付いていない。それほどまでに本に集中しているのだ。
さて、皆さん気になっている事だろう。この世界に来たばかりの『
「………あの二人を仲良くさせるにはどうするべきか」
『気難しい人と仲良くなる方法。これで貴方も陽キャの仲間入り!』────ハッキリ言ってクソみたいに怪しい本、こんなものを買う人間の方がおかしいと言わされるくらいだ。
しかしこの青年はそれを買ってあろう事か真剣に黙読していた。どうやら勉強になってるらしく、少しだけ満足そうな顔をしている。心底何故だか分からないが、成果はあったらしい。
事の発端は博士の何気ない一言にある。休んでる最中の小話の一つ、
『ンー、私個人として思うに………今の状況は不味いのでは無いかな?』
『何がですか?』
『響クンと翼クンだよ。あの娘達、何週間もあのままじゃないか。これは連携にも問題があると思うのだよ』
『む、それは確かに。どうするべきだと思います?』
『────フ、それは友人の少ない私に聞く事かね?』
『あ、すみません』
結果的にその後はめんどくさい方に話が逸れたが、確かに博士の言う通りでもあった。そろそろ1ヶ月が経とうとする頃合いになるが、響と翼の関係は全然変わっていない。前にあった剣の介入もあって険悪とまで言っては無いが、それでも問題とも言える。
だからこそ、剣は何とかしようと考えていた。本来なら無視しても良い事態でも彼は今後の事を思うとそうはいかない。そのままの強さで何事も無いというのは有り得ない、絶対に何かとてつもない事態が起こる。
パタンと本を閉じる。
読んで駄目ならオペレーターの皆にでも聞くしかないだろうと判断し、剣はリディアン音楽院────正確にはその地下にある二課へと移動する。
その時だった。
「あの………そこのお兄さん」
「ん、俺の事か?」
後ろから声を掛けられた。振り返ると四人の少女達が立っていた。どうやら校門に入ろうとしていた剣に呼び掛けたみたいだが──────
「はわわわ!?凄い格好いい人!」
「しかもメカクレ………アニメ以外で見れるとは思ってなかったわ!」
「そうですね。確かに日本人だとは思いますが、あまり見ない風貌、ナイスです!」
(なんだ、凄いのに絡まれたな)
声をかけたは良いものをどうやら困惑しているようだ。剣は首を傾げる。確かにあまりここの付近では見ないような姿をしているが、怪しいと言うものではない。彼も日本人(別世界の)だから何もそこまで慌てる必要は無い筈だが。
悩ましく思っていた剣の前に一人の少女が出てきた。彼女も後ろの三人と同じ制服を着ている事から、この学校の生徒かと認識する。
黒髪ショートの少女は、剣を見据えて問い掛けてきた。
「あの、貴方はここの関係者ですか?」
「む、そうだが………」
「良ければどういう職業の方か教えて貰えますか?ここは女子校です、普通の男性が入れるような者ではありませんよ」
中々に鋭いな、と気付かれないように感嘆する。どうやらこの少女は普通よりも聡い部分があるらしい。いや、それだけでは片付けられない。
だが今は、やるべき事がある。
懐に用意していた専用のIDと証明書を提示する。
「来賓として呼ばれた者だ。正規入館の許可は受けている。ここの職員と確認を取って貰っても構わない」
そう言うと少女はちゃんと確認して、すみませんでしたと返却してきた。どうやらIDや証明書は間違いではないと判断したらしく、納得してはいないが嘘ではないと認めたのだろう。
しかし剣の方に疑問があった。何故彼女達の接近に気付けなかったのか。普通なら反応出来た筈なのだが、
(センサーや視界遮断機能の付け忘れか。最近平和に過ごしてきたからか、すっかり忘れていた)
首元に隠してある機器をバレないように動かし、機能を付け直す。街中では多くの反応を取ってしまうという配慮があったのだが、余計な手間を招いてしまったようだ。
「えぇっとぉ~、少し良いですか?」
さっきまで元気そうに話し合ってた三人組の一人、リーダー格?らしき少女が声を掛けてきた。彼女は困惑しながらも続けてくる。
「出来ればですよ?出来ればですけど、腕にある物って何ですか?あまり見ないもので………」
「───あぁ、最近造られた試作品みたいなものだ。現実には出てないのも当然だろうな」
これについても何とか誤魔化す。実体化出来ない装備の一つ、前に合った警察の職務質問にもこうやって返した。
それでようやく気付いた。
彼女達の視線がジッとサブガントレットに向けられている事に。視線には興味が含まれている事にも。
「……………見たいのか?」
「「「是非!お願いします!」」」
凄い勢いで食い付いて来た事にビックリしながらもサブガントレットの機能を色々と見せることした。そうしてる内に自分のやった事に気付く。
───しまった、こういうのは見せるべきじゃなかったか?魔剣士も未だ世間一般に知られてない訳だからあまり関わり過ぎるのも………
(………………別に大丈夫か。隠す必要のあるものだけ隠せば良い)
それから彼女達から解放されたのは数十分後くらいだった。遅刻しそうになって慌てて学校へと入っていく少女達を見据え、疲れたと軽く息を吐いた。
◇◆◇
それから更に数日後の話。
暇を持て余していた剣は司令室で弦十郎達と談話していた。ぶっちゃけそれくらいしかやる事が無かったので仕方ないと言えば仕方ないが。
しかし適当に話をしていた最中、弦十郎がポツリと漏らした。独り言に近い声量の言葉は疑問だったらしい。
「───君は、響君の事をどう見える?」
「どう見えるって?これまた遠回しな言い方だな、普通の人間に見えるが?」
軽口みたく言って、司令が本気だと理解した。自分の中でのその意味と合ってるか答え合わせをしようと思った。
「アンタの意見を聞きたい、どんな風に見えた?」
「………俺には、酷く歪に見えた。あの娘が迷わず誰かの為に戦うと答えた時に」
まぁな、と剣は否定しなかった。
誰かを助ける為に自らの命を躊躇無く危険に晒す彼女の在り方は普通では有り得ない、異常の域にある。
良く言って正義感が強い、悪く言って自分を何とも思っていない。歪に染まった自己犠牲精神が彼女の本質なのかもしれない。
「それでも───」
「………?」
「───俺は間違ってないと思うな。異質ではあっても、それが立花響の示した意思なら、俺はそれを尊重するだろう」
独り言のように、剣は呟く。他人に言うというよりも、自分自身に言い聞かせるように。
◇◆◇
そして。
司令室を出ていって廊下を歩く青年は終始無言だった。頭の奥、詳しく言うならば機械端末に響いてくる声が掛けられるまでは。
『いやぁ随分響クンを気にするなぁ。君らしくも無い』
「…………悪いですか?」
『いや、言い方がキツかったね。まぁ、あれだよ。君はあまり人を気にするような子じゃなかったから、気になった訳だよ』
フフフ、と笑いを溢すノワール博士に、はぁと溜め息を漏らす。通信越しの声音に含まれている好奇心から、純粋に気になっているのだろう。
「似てるんですよ。昔の相棒と」
『────「彼」の事か』
「えぇ、そうです。誰かの為に戦いたい、そんな理由で『魔剣士』になって───────アッサリと死んだ、馬鹿な奴に」
青年は思い浮かべる。
自信が失踪した事で【魔剣計画】から魔剣士達が解放されてからの日。自分を心配して付いてきてくれた一人の優しい
誰かの為に死地に飛び出し、ボロボロになって帰ってきた仲間を。
そして、誰かの為にテロに向かって、死体もなく殺されてしまった、大馬鹿野郎と言いたくなる青年を。
『思えば、それが響クンを気に入ってる理由かもしれないなぁ。』
「…………そうです、かね」
自信なさげに答えた。そうかもしれないと思う一方、何処か違うんじゃないかと、彼は心の奥で悩んでいた。
◇◆◇
そして、またノイズが出てきた。
空が暗く染まった夜中の事だった。呼び出された剣と響、翼はいつも通りのノイズ殲滅に力を入れる。
「────ようやく仕留められたか」
黒い灰となって消える塊。ノイズの消失を前に、彼は嘆息した。あまり見られない少しの汗と苛立ちが滲んでいたのも、先程倒したノイズが原因である。
ブドウのような、沢山の実らしきものが付いた二足歩行のノイズ。襲い掛かろうとはせず体から落ちた実を爆破させるなどしていたが、躊躇なく掌の光剣で切り捨てた。
強さ自体は大したことない。何なら戦闘が得意ではない個体なのかもしれない。
(ノイズにも多くの種類があるようだな。今まで戦ってきたが、人間相手に逃走を図る個体は初めて…………いや、本当にそうか?)
疑惑が。
沸き上がってくる。
魔剣士として埋め込まれた機能が提示された謎を造り出す。
先程のブドウノイズは剣の元に現れるといち早く逃げ出した。そして剣は跡を追って、響達と別れた。
自然と行っていた事に、意図があると考えられる。あのノイズが逃げ出したのも、
────俺を二人から分断させるのが目的だったか?
「はっ、なんだ。いきなり大当たりじゃねぇか」
「…………」
────声は女性、しかも声音からしてまだ大人ではない。瞬時に機能によって推し測った剣は、声の主をそう断定する。
だが気を休めるつもりは少しもなかった。ノイズが出てきたこの場に現れる人間なんて、一般人ではないと言うのは理解できる。
暗闇から出てきた人影が、月の光に照らされた。露になったその姿に、剣は両目を鋭くする。それは普通の人間に向けるものではなく、本気の敵意。
ピンクや白っぽい銀色の鎧。何枚もの鱗が重なっているものを纏う少女の姿は、露出が多い。両手の先にはピンク色のした荊棘のムチ。
物騒と言える相手に、剣はその鎧が何なのかをある程度気付いていた。似たような特徴のものを、彼はよく知っている。
「…………お前は?」
「名乗る必要なんてねぇだろ。あたしの目的はお前を捕まえる事だからな─────『
───『