戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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めちゃくちゃ久しぶりに更新しました。書きたいインスピレーションがあって他の小説を書いてました(すんません)



出来ることなら、この小説も書き続けていきたいと思いますので、どうかよろしくお願いします!


封鎖されたロストギア

「────信じられん」

 

 

二課の医療室にて、弦十郎が唖然と呟く。その様子は他の皆も同一らしく、彼等の意見を代表したものに近い。ただ一人、納得したように大人しい剣を前に、再び画面に視線を送る。

 

 

 

 

「────ガングニールの侵食が、前よりも抑制されている………ッ!?」

 

 

響の体内を示した写真が二つ。胸元を中心に形成される黒い影、響と融合したガングニールによる侵食、そして増殖を意味している。一つ目の写真からして、本来ならば深刻な状態であった─────筈なのだが、

 

 

 

 

 

 

 

二枚目の写真では、黒い影が明らかに縮小していた。その変化は誰でも分かるようなもので、外部の協力者である未来や当の本人の響を含める全員が驚愕している理由でもあった。

 

 

 

「………だが、融合が完全に治った訳じゃない。だからこそ、響を戦わせる訳にはいかない…………そうだろ?」

 

 

ただ一人、その異様な変化を驚くことのない剣はそう言葉を投げ掛ける。冷静沈着な彼の一言に、皆の反応は喜ぼうとはしなかった。いや、出来なかったのだ。

 

戸惑いながら、響が剣に声をかける。頬杖をついてる方とは違う、もう片方の腕を直視しながら。

 

 

「そうですけど…………剣さん、その腕は───」

 

 

 

 

────キチ、キチキチ

 

 

 

 

 

「仕方ない、封印を無理矢理解いた『罰』………ってヤツか」

 

 

机に置かれた腕、グラムの欠片が埋め込まれた右腕に、真っ赤な紋様が刻み込まれていた。より正確には、上から張りつけたように見える。それだけではなく、三つの輪が歯車のようにキチ、キチ、と鳴らしながら回転していく。

 

 

術式をより深く注視すると、謎の文字が無数に記されている。文字の並びからして、文章や単語があるのは分かるが、まるで普通では読み解けないような不可思議なものばかりであった。

 

 

時は少し前、三人分の絶唱のエネルギーを束ね上げた結果、更にガングニールの融合を深めた響。彼女を助ける為に、剣は体内に封印された『聖遺物(デュアルウェポン)』を解き放ち、ガングニールの侵食を押し止めることに成功した。

 

 

これは、その代償であった。

彼女を助けたその瞬間、剣の全身から赤色の楔が打ち込まれるように出現し、ロストギアを強制的に解除させられた。これは、その時に腕に刻まれたのだ。

 

 

何故か脳内に響いてきた────『罰だ』という、不愉快なな声と共に。

 

 

 

「この呪詛のせいで俺のロストギアを纏えない。どういう原理か分からないが、ロストギアは起動出来るんだが………」

 

 

 

自身の腕を見下ろしながら、「グラム、装填」と告げる。瞬間、彼の掌に埋め込まれた黒耀色の結晶が紫色に光り輝き、黒の装甲が実体化し始める。

 

 

 

 

しかしその瞬間、赤の術式が蠢き、装甲をかき消す。ガチャガチャと、まるで歯車でも回転させるかのような動きを繰り返し、グラムの欠片から光を奪っていく。

 

 

鮮やかな光を灯しながら、赤の刻印は剣の腕を縛り付ける。彼の宿す魔剣の力、それを帯びた鎧 ロストギアを制限するように。

 

 

「…………こんな風になる。俺や博士にもどうにも出来ない」

 

『その通りだ、私も解析してみたが…………すまない、お手上げだった。何らかのシステムではあるのは分かるが、途中で上手くいかなくなるんだよ』

 

 

通信から聞こえる博士の声は、無念を押し殺したようなものであった。博士は無能ではない。むしろ研究者としての素質と頭脳は随一であり、その才能を求めた【魔剣計画】に利用されてしまったのだから。

 

 

その博士ですら、この仕組みを解き明かす事は出来なかった。それが現す事実は、ただ一つ────、

 

 

 

「………我々も知らない未知の法則が使われている、という訳か」

 

 

聖遺物や魔剣ロストギアとは違う、異端技術。一般的な現実では眉唾とされている科学とは別物の力。それこそが、ロストギアという兵器に組み込まれているナニか、と定義すべきものか。

 

 

「だが、宛がない訳じゃなかった」

 

「え………?」

 

「先程試してみた結果、俺の聖遺物に掛けられた封印。情報封鎖が解除されていた。今なら、封じられてきた()を明かすことが出来る」

 

 

皆が、息を呑む。

その名は誰もが知ることも出来なかった。無空剣という魔剣士に課せられた封印は彼の中に宿す聖遺物の使用を封じるだけではなく、その情報を明かすことすら許さなかった。

 

 

 

 

だが、今なら出来る。

その事実と共に、剣は長年語れずにいた()を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

「『聖槍』ロンギヌス、それが俺に組み込まれた聖遺物だ」

 

 

 

 

 

「………ロンギヌス、それは───」

 

「数百年も前の話、神の代行者とされていた『神の子』イエス・キリストの死を確かめたとされる槍。その槍は聖人の血と過ぎ去りし刻の流れによって、在り方を昇華させた。

 

 

 

神に等しいとされた聖人の死────『神殺し』へと」

 

 

剣の説明は、彼が詳しく知る話ではない。この聖遺物を組み込まれる際に、教えられた言葉をそのまま覚えていたにすぎない。

 

 

アレはエリーシャでもない、かといってただの研究者ですらない。あの声は────あの組織の重要な人物、恐らくは黒幕のものだ。

 

 

聖なる遺物でありながら、神殺しとされる槍。

それを魔剣計画という、魔に属する武具を集め───人の生命を弄ぶ組織が使うなど笑えた話ではない。いや、そもそも。聖剣デュランダルでも言えたことだろう。

 

 

 

 

 

 

しかし、だ。

これだけの説明をし終えた直後、話を聞いていた弦十郎の一言が、落ち着き払っていた剣の思考を一瞬だけ遅らせた。

 

 

 

「………なるほどな、そういう聖遺物も君達の世界ではあるのか」

 

「……………?」

 

『(……何を、言ってるのだ………?司令は)

 

 

異変を感じ取ったのは博士も同じだった。まるで初めて聞いたような感覚。この槍の名は自分達の世界では有名だ、世界中の全員が知ってるというのは流石に大袈裟だが、それでも知らない人の方が少ない程に、伝説として遺されている。

 

 

なのに、だ。

誰もがそれを知っているとは答えない、他の全員も同じように首を傾げているばかりだ。本当に、ロンギヌスという槍の名すら聞いたこともないのか。

 

 

しかし、剣はそこで思考を取り戻す。

ここでその違和感に頭を悩ます意味はない、話せるだけのところまでは話そうと言葉を続ける。

 

 

「ロンギヌスの能力の一つ、『聖人の液血(キリエス・ドロップ)』。人体に生じたあらゆる傷や病、現象を治す力だ。これで響の融合を何とか遅らせた」

 

 

S2CAを行使した響の融合深度は凄まじい程に進んでいた。それは新しい臓器を生成し、彼女の肉体を本格的に蝕んでいく状態にまで。

 

 

だが、彼の解放した槍の一滴により、その融合を浅くする事に成功した。形を成していた臓器は分解され、ガングニールの結晶は少し前までの状態─────ネフィリムと無空剣の暴走の時と同じ状態へと戻っていた。

 

 

 

「本来なら、響の事も治せたかもしれなかったんだがな………」

 

「………何故、それを使わなかったんだ?」

 

「適正がなかったからだ。俺が出来るのは、重度の傷を治す程度。人体を蝕む聖遺物の力にまでは干渉できない。何より、副次的効果が分からない以上、無理に使えなかった」

 

 

だからこそ、奴等は含んだ言い方で説明をしたのだろう。ロストギアが使えなくなるとは言わずに、深刻な代償を受けるとだけ。

 

 

未知こそ、最大の不安だ。使った場合何が起こるか分からないものなんて、そう簡単に使いたくない。使う度に命を削るなんて仕組みがあれば、どうしようもない。

 

 

もし、自分が聖槍にさえ認められていれば、何か変わっていたかもしれない。

 

 

そんな淡い可能性すら過ってしまう。思わず自嘲してしまう剣だが、ふとクリスが何かに気付いたように顔を上げた。

 

 

「待てよ、剣はロンギヌスって奴の適正が無かったってのか?」

 

「………?あぁ、そうだが?」

 

「じゃあ奴等は何で、剣にロンギヌスを適合させたんだよ」

 

 

あ、と博士と剣が声を漏らす。

その考えは思い付かなかったのか、或いは可能性の低いものだと切り捨てていたのか。

 

 

『魔剣計画』にとって『序列』は最も強力な魔剣士のランク付けでもある。無空剣が知る中では、奴等は『序列』を造るために魔剣士を量産していたのだ。

 

 

No.3である彼は『序列』の中で一番弱い位置にいる。だが、彼等には無空剣をもっと強くすることも出来た筈だ。

 

 

「奴等にとって、聖遺物は無価値な物ではない。それは承知の筈。無空を強くしたいのであれば、より適正のある聖遺物を与えていただろう…………そうしなかったのは、出来ないのではなく、するつもりがなかったからなのか?」

 

 

妥協ではなく、放任。

無空剣を最強の魔剣士にするするために多くの技術を投与し、完全に人間を止めさせる事は不可能ではない。何故、それを実際にやらなかったのか。もしそれが出来ていれば、今の無空剣はいない。奴等にとって従順かつ無敵の駒を手に入れることが出来ていたはずだ。それをしなかったのは、彼等の思惑故にか。

 

 

どうせ答えなど出ないと、考えるのを止めたクリスが首を傾けて聞いた。

 

 

「それで?ロンギヌスに変化はあんのかよ?」

 

「…………分からない」

 

 

首を横に振り、俯いた剣。様子が変であることに気付き口に出そうとするが、彼の続けた言葉に耳を傾けることにした。

 

 

「俺はロンギヌスと適合してた訳じゃないんだ。その力を借りてただけに過ぎない。だから、分からない。グラムのように肉体的や精神的に繋がってすらいないから…………」

 

 

そこでついに、剣の様子の変化を全員が理解した。自分にも責任があると思い、深く考え込んでいるのだろう。もし自分がロンギヌスという聖遺物を完全に扱えていれば、こんな面倒ごとになる前に響を助けることが出来た、と。

 

 

とにかく、と弦十郎が言い放つ。重苦しい空気を切り替え、剣と響に向けて諭すように続けた。

 

 

「剣君と響君、君達はとにかく休んでいてくれ。響君がウェル博士と接触した事例から、今後も同じような事が起こり得る可能性がある」

 

『故に、自宅待機で頼むよ。君達二人に無茶をして欲しくないからね』

 

「………はい、分かりました」

 

「了解した」

 

素直に頷く二人、今回の話は終わりだという全員が各々の持ち場に戻ろうとする。

 

 

『あ、そうだ。思い付いたのだけども』

 

 

途端、ノワール博士が口を開いた。

足を止めるのが殆どであり、全員がホログラム状の博士へ視線を集中させている。

 

 

何を言うのか、と気になった剣も聞き耳を立てていたが、次の瞬間。予想外すぎる事を言われた。

 

 

 

 

『いっその事だ。響クンも剣クンの家で過ごせば良いのではないかね?』

 

「は?」

 

 

 

 

地雷、というか爆弾を直接ぶち込まれた。よりによってこの場にいない最も安全な味方から。信頼していた人からの言葉に衝撃が大きい剣はおろか皆が愕然としていた。

 

 

『いや、だって………ほら、ね?私としては理知的な考えでもあるんだよ?響クンと剣クンが一緒に行動していれば警備もやりやすいだろうし、わざわざ別の場所にいる二人を警護するのも手間が掛かるだろう?』

 

「そ、それはそうと────あ、悪意を感じるんですけど」

 

『気のせい、気のせい。ホラ、少しくらい同じ屋根の下で過ごせば、関係くらい出来るよね、なんて思ってないから安心しなよ』

 

「まさかの悪意100%ッ!!?」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

二課仮設本部から離れ、寮へと戻る未来の足取りは重い。響の体内にある聖遺物の融合状態は軽減したが、素直に喜べる話ではない。

 

それをするために、無空剣が戦う力を奪われてしまったのだ。一時的にとはいえ、他人がこうして無茶を被ってしまった。響がどれだけ思い込んでいるのか、未来には考えるのも辛かった。

 

 

そんな帰り道だったが、突如周囲の電灯の一つが消える。壊れたのかと思ったが違う。その上に、人が乗っていたのだ。

 

 

 

「────覚悟は出来たか?」

 

 

全く知らない赤の他人、ではなかった。むしろ何度も話してきた、二課にも明かしていない秘密の協力者だった。

 

 

「刹那………さん」

 

「奴等の企み、それを利用する時が来た。お前自身が望めば、その力に手が届く。友を救い、あの男を助ける為の力がな」

 

 

タンッ! と、電灯から飛び降りる如月刹那。コートに全身を包んだ青年が浮遊するように、無音のまま着地した刹那は、冷徹な視線を未来へと向け、告げた。

 

 

「今一度聞く─────お前は力を、強さを求めるか?」

 

「…………はい、やります。だから、力を貸してください」

 

「ふん、そうか」

 

 

満足のいく答えを聞いたであろう刹那は、笑ってすらいない。それどころか不愉快と言わんばかりの様子だった。実際、気分が悪かったのだろう。力を持たない人間を自分の打算のために利用すること自体が。

 

 

「あの、刹那さん」

 

「何だ」

 

「────ありがとうございます」

 

「…………礼なんて言うな、俺はお前を利用してるんだぞ」

 

 

深く頭を下げる未来に、刹那はそう言うだけだった。横を通り過ぎる刹那は暗闇に溶け込む前に、囁くように呟いた。

 

 

「状況を把握出来次第、報告をする。その際、お前にも動いて貰う。それまでは大人しく待機していろ」

 

 

未来がそれを聞いた瞬間、刹那の姿は世界から完全に消失した。

 

 

◇◆◇

 

 

「───暫くの間、無空剣は脅威ではない?どういう意味でしょうか?」

 

『ああ、先程。無空剣が制約を破るのを確認した。ヤルダバオトにより掛けられたプログラムを無視した結果、無空剣を最強たらしめる力は封じられた。今後の作戦に、彼が干渉するのは厳しいだろうねぇ』

 

 

Fineの移動する大型ヘリの中で、疑問を抱くナスターシャ達にエリーシャが淡々と事情を説明した。大まかな事情を知ったナターシャは僅かに苦い顔をし、マリアも何も言わずに唇を噛み締め、黙っていた。

 

切歌と調も複雑そうにしている。無理もない。敵だと、偽善者だと嫌っていた相手が敵である自分達の為に無茶をする光景を目の当たりにしたのだ。子供である彼女達には、自分達の信じていたものに戸惑いすら覚えている状態なのだから。

 

 

ただ一人、ドクターウェルだけは違う意味での心配をしていた。

 

 

「それでは?無空剣はどうするべきで?」

 

『相手にする意味はない。ロストギアが封印されたからと言ってノイズが通じる訳でもない。相手にするよりも此方の作戦を優先させた方が都合がいいんじゃないかな?』

 

「………甘いです。甘いですよ、エリーシャ博士」

 

『ふぅん?』

 

 

眉をしかめるエリーシャ。決して良い感情を抱いてはいない。明らかに態度が変わった様子に気付かないウェルは、一気に捲し立てる。

 

 

「無空剣を相手にする必要はない?その逆です、むしろ今だからこそ彼を始末するべきでしょう?貴方の言う封印とて完全ではないのなら、無空剣が復活する可能性は無視できない!ならばこそ!今弱ってる奴を殺しておくことが、一番の最善ってヤツでしょう!!」

 

『なるほど、それが君の意見か。間違ってはいない』

 

「そうでしょう!?なら今すぐに!ヤツをブチ殺して───」

 

 

 

 

 

 

『────少々、度が過ぎるよ?ドクターウェル』

 

 

真顔で告げるエリーシャ。その顔からは激しい怒りと無意識の殺意が滲んでいた。日常に溶け込んだ殺人鬼が自分の機嫌を悪くする相手と対面した時のような、違和感の強いもの。人間を見るというよりも、それ以下の虫を見下すような冷酷さが滲んでいる。

 

 

『君が無空剣に恐怖し、怯えているのは理解している。だがね、彼の抹殺だけは許可できないなぁ。そんな真似を勝手にされると思うと、私もねぇ────そこまで我慢はできない』

 

 

はじめて向けられた強烈な殺意に、ドクターウェルは今にも倒れそうになっていた。近くにいたマリア達もその強い殺気を受け、愕然とする。人間が、狂人とはいえ研究者がこれだけの気迫を出せるとは思えなかった。

 

自分達とはそもそも違う、全く別物の化け物のようであった。

 

 

しかし、それも一瞬。怒気を消したエリーシャは薄ら笑いを浮かべながら、話を切り替えた。

 

 

『安心したまえ。万が一に無空剣が復活しようと、対抗策はまだ現存している。シオン・フロウリング、そして我々の敵に成り得る存在、如月刹那。この二人ならば、無空剣を止める事が出来るさ』

 

 

それでも、マリア達は未だエリーシャへの警戒を緩められずにいる。元から信用できないというのもあるが、あそこまでアッサリと切り替えられても、どうすればいいのか分からない。

 

 

『さ、本題に入ろう。フロンティア計画の調子は如何かな?』

 

「………安心してください。計画は順調、むしろ最終段階に入ったと言っても過言じゃあない!」

 

 

エリーシャ程ではないとはいえ、この男 ドクターウェルも切り替えは早い。流石は天災、流石はマッド、流石は自称英雄。常人よりもメンタルが強いのは、既にありあまるメンタルを無空剣に砕かれまくった結果か。

 

 

興奮を取り戻したドクターウェルがモニターを動かし、別の場所で保管されているモノを映した。

 

 

『これは、ネフィリムの心臓かい』

 

「────えぇ、そうです。無空剣にネフィリムそのものは破壊されましたが、心臓だけは覚醒したこともあり、無事残っていました。これさえあれば、フロンティアは完全に我等の物となった言ってもイイ!!」

 

「そして、フロンティアの封印されたポイントも、先だって確認済みです」

 

「確か、マムと一緒にあたし達が行ったところデスね」

 

「そうです!既に出鱈目なパーティーの準備は整っているのですよ!後は私達の奏でる協奏曲に全人類が踊り狂うだけ!!」

 

 

恍惚とした顔で奇声を響かせるドクターウェル。他全員からドン引きされている(エリーシャからは面白そうに笑われている、多分馬鹿にしているという訳ではなく、同調という意味だろう)のも知らず、思い浮かべた未来図に歓喜を隠せぬ様子であった。

 

 

それを適当に見ていたエリーシャだったが、

 

 

 

『─────ッッ!!?』

 

 

胸を押さえ、モニターの向こうで倒れそうになる。ガシャン!!と、近くにあった器具を倒し、書類の数々をばらまいた。それすら気に掛けられないのか、エリーシャの顔には冷や汗がびっしりと滲み出ている。

 

 

明らかに見たこともない様子に、Fineの全員が驚愕を隠せなかった。唯一、声をかけたのは、ドクターウェルだけであった。

 

「エリーシャ博士!?どうしました!?」

 

『────く、フフフ。いや、何でもない。少し、気分が悪くなっただけさ…………私も休ませて、貰うとするよ』

 

そう言ってエリーシャは無理矢理通信を切る。何が起こったのか分からない全員が、その場に取り残されていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「────クフ、フフフフフフ!!今のは、世界の歪み!そして、それに呼応したようだな!この身体が!」

 

 

一人、研究室で笑うエリーシャは誰かに語りかけていた。無論、この場にいるのはエリーシャだけ。しかし、彼は確かに、自分以外の誰かへと意識を向けていた。

 

 

「今の隙を狙っていたようだなぁ?残念、残念。私の事を少々甘く見ていたようだ!もう君に私の意識を抑え込むチャンスはない!精々絶望しているがいい!」

 

 

いつもの調子とは違う様子で叫ぶエリーシャだったが、次の瞬間に元の調子を取り戻したように身体が跳ねる。汗を拭い、彼は笑いを隠さぬまま空を見上げた。

 

 

「────とうとう動いたか。ヤルダバオトめ」

 

 

挑戦的な笑顔を浮かべながら、エリーシャは凶笑を響かせ続けるのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

誰も知らぬ世界の隅で、変化が生じた。

 

 

 

それは些細な異変だ。世界の仕組みや構造をよく知るモノ、旧世代の神々や最も法則に近付いた者達でなければ気付けない反応。

 

 

それに気付けたモノは────この世界でただ三人、いや一人と二つしかいない。

 

 

人混みの多い街中から離れた裏路地で、空間が歪む。世界と世界、二つの異空間が衝突し合う事で生じる狭間から、ナニかが這い出る。

 

 

 

『─────ァ、ァァァァァァァァァ』

 

 

ソレは狭間から出た瞬間、形容できない声で叫びを放つ。分かるのは、ソレが苦しそうに呻いている事だけだ。ナニかにとって、この世界の空気が肌に合わないかのように。

 

 

声自体は、誰にも届かない。天空に張り裂けるように共鳴する異音に対し、世界の変化はない。

 

 

しかし、すぐに。

理解不明な存在の、形が変容していく。本来存在も出来ないような環境に、少しずつ適応していくように。

 

 

 

『────言語機能、習得』

 

 

ナニかが、影へと溶け込むように形を変えていく。いや、実際には違う。()()()()()()()()()。黒い影に波紋が伝わっていき、影の全域まで届いていく。

 

 

大きな波紋が、今度はナニカに向けて伝わる。その瞬間、ナニかは姿を完全に形成した。

 

 

 

『───実体投影、完了』

 

狩人のような、黒装束。しかし貴族のような気品さも備えた異様な姿。それだけに止まらず、コートと帽子の間から覗く瞳は二つだけではなく、八つ。蜘蛛のように辺りを睥睨するかのように、横に並んでいる。

 

 

腰から生えるのは、爬虫類のものと思わしき長い尻尾。尻尾の先からは蒸気が絶え間なく噴き出していた。

 

 

黒、いや色という概念すら持たぬ闇、その貴公子は不機嫌そうに短く唸る。

 

 

『……………ヤルダバオト、この世界は居心地が悪い───神の時代と神秘の時代が未だ現存し、一つの時代として混合している。何より、神の存在を感じる。

 

 

 

神秘と相反する我等にとって、これ程までに生きにくい世界は存在しないだろう』

 

 

貴公子は周囲を、そして空────に浮かぶ月を睨み、苛立たしそうに呟く。その声音は単なる不機嫌なものではなく、憎悪に近いものだった。

 

 

しかし、貴公子はすぐに首を横に振った。気品を保った様子で取り繕う。

 

 

『────分かっている、目的は果たすとも。この世界も悪意が無いわけではない。

 

 

 

 

どんな理由や舞台装置があろうとも、人間の本質は変わりはしない。善意と悪意は表裏一体、それこそが途絶えることのない純粋な人類の本質。そして、悪意がある限り、我等は世界に存在し続ける』

 

 

 

 

 

そう、全ては─────

 

 

 

『────これも、神と神なるモノを殺す為に、我等が「計画」の為に』

 

 

────ドポンッ、と。

 

 

水の中に重いものを落としたような音が木霊する。

貴公子はその場から姿を消し、静寂が世界を包み込む。

 

 

 

ただ一つ。

影から影へと渡るように潜航するナニか。建物の影へ、人々の影へと溶け込むモノに、誰一人として気付くことはない。

 

 

 

世界に侵入してきた異物。魔剣士や狂人科学者とは全く違う、正真正銘の異端そのもの。

 

 

 

【魔剣計画】の総統が送り込んだ尖兵が、人知れず世界を蝕もうとしていた。




シンフォギアの世界って神はいるけど、明言されてない存在もあるよね?


お気に入り、評価や感想、質問などがあれば気軽にどうぞ! 次回もよろしくお願いいたします!それでは!!
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