戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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お久しぶりッス(小声)


エインヘルヤル

「…………暇だなぁ」

 

 

ソファーの上でテレビを見ていた響が呟く。片手のリモコンでニュースや番組を切り替えるが、面白いものが無かったのか、溜め息を漏らす。

 

 

そしてすぐに、悔しそうにジタバタし始めた。

 

 

「あー!もう!ずるいなぁ!私も未来と一緒にスカイタワーに行きたかったのにー!」

 

「…………悪いが、今度にするんだな」

 

 

そう言って、白いエプロンを着た剣がキッチンから出てくる。両手に中身の入った容器を持つ彼は、近くの机に並べながら、項垂れる響へ優しく諭す。

 

 

「今のお前はただでさえ安静なんだ。先日みたいにノイズに対面するなんて真似、させる訳にもいかないからな。納得はしてくれ」

 

 

最近、趣味としてやるようになった料理の準備をしながら、言う剣が諭したことで、響は大人しくなる。彼の言葉も事実だ。前みたいに、外を出てノイズと遭遇してしまうなんて事は二課や剣達からしても望ましいものではない。それ故の、自宅待機なのだ。

 

まぁ、学園の寮ではなく、自分の家なのは納得いかないものがある。オマケに翼やクリスからの「手を出すなよ」と警告つき……………そこまでふしだらな男だと見られているのは流石に心外だと思う。

 

 

「………でも、気になるんですよね」

 

「何がだ?」

 

 

不平不満を心の中で愚痴っていた剣だが、思わず響の呟きに耳を傾ける。そこまで気にしてはいなかったが、次の言葉を聞いた途端、確かに疑問が過った。

 

 

 

「未来、知り合いの人とスカイタワーに行くらしいですけど、どんな人かなぁって」

 

 

 

◇◆◇

 

 

スカイタワーの入り口前で、緊張したように一息つく小日向未来。本来はここで響と一緒に休みを過ごすつもりであったが、とある事情で一人で来る事になっていた。

 

そんな彼女が探していた人物は、人込みから外れた柱の影で立っていた。

 

 

「────待っていたぞ、小日向未来」

 

 

ロングコートで身を包んだ金髪の青年、如月刹那。彼は未来の姿を見た途端に目を細め、静かに動く。大勢の人の隙間を縫うように歩いてきた刹那は、未来の目を見る。

 

 

「今一度、言っておく」

 

「…………」

 

「俺はお前を、利用する。お前も俺を利用する。そうすれば、互いにメリットがある。俺は更なる強さを求めることが出来、お前も戦う力を────守る力を手にすることが出来る」

 

その為に、如月刹那と小日向未来は共にいる。刹那は奴等の計画を押し進める為、未来は立花響を助ける力を、無空剣の敵を倒せる力を得る。その一点のために、この協力関係を結んだ。

 

あくまでも、二人の間には利害しかない。それ以上の信頼関係があってはならない。何故なら、自分達は本来敵であるのだから。

 

 

「だからこそ、利用される気でいろ。お前がこれから進む先は、他人に望まれぬことだ。お前自身の選択ではなく、俺に背負わされたものだと」

 

「…………でも、私は」

 

「間違えるな。お前は、何のために戦う。居場所があるのなら、そこは守り通せ。手段と目的を履き違えるな。お前が力を得たのは、守りたい奴等がいるからだろう」

 

 

小日向未来は、敵に利用された被害者でなくてはならない。一部の連中から『如月刹那に与した不穏分子』と見られてはいけない。そうなってしまえば、彼女は多くの人に迷惑を与えてしまう。

 

だからこそ、刹那が加害者になれば良い。友達を、恩人を助けたい純粋無垢な少女を利用した、手段を選ばない悪党へと。

 

全ての責任を受けるのは、ただ一人でいい。無関係な少女を巻き込んだ男だけが、それを背負うに相応しい。

 

 

「────行くぞ」

 

 

それが強者としての、力を求める者の義務だ。何もかも失った者だけが、背負える重みなのだ。

 

 

◇◆◇

 

 

「……………マム、此処で良いの?」

 

「ええ、この階層。この先で間違いありません」

 

 

同じスカイタワーの中層。企業の人間くらいしか入れないエリアを通る二人。ナスターシャの車椅子を引きながら、マリアは不安そうに問いを漏らした。

 

テロリストとして指名手配されている彼女達だが、堂々と歩けているのは、この一帯が人払いされているからである。彼女達が極秘に対話を繋げた相手の計らいであった。

 

 

「─────マム、本当にこれで良いのかしら」

 

「マリア、分かっているでしょう。これしか方法がありません。彼等を出し抜くためには、我々も手を打つ必要があります。それは、彼との話で決めたことでしょう」

 

「…………ごめんなさい、マム。軽率だったわ」

 

 

彼女達がふと、とある部屋の前で歩みを止める。軽くノックをすると、どうぞと淡々とした声が響く。部屋へと踏み入ると、部屋の中央で待っていた相手が此方に視線を集めてきた。

 

 

「待っていましたよ。ナスターシャ教授」

 

 

数人の大柄な黒服と、その内の一人。指示役と思われるインテリ系の黒服は会議室の中央の机の前で、ナスターシャとマリアを待ち構えていた。

 

 

「さて、それでは。お話をしましょうか、教授。我々を内密にお呼びした一件、改めて確認しますが、間違いありませんね?」

 

「ええ、間違いはありませんよ」

 

「それでは、貴方達が申し出た我々との交和。その為に提示した、フロンティア計画のデータを。此方に引き渡していただきたい」

 

 

◇◆◇

 

 

「────武装組織Fineが、米国と交和を………?」

 

「ああ、俺が得た情報でな。今頃この上でその話し合いとやらをやってる」

 

 

スカイタワーの広間にあったスイーツ店。外の景色を見ながらスイーツを食べれるという事もあり人気であったその店で、刹那と未来は密かに話していた。

 

パフェの口にしながら会話の合間に聞こえた情報に驚きを隠せない未来。そんな彼女の前で、同じサイズのパフェをちびちびとスプーンで取りながら食べる刹那。スプーンを指でくるくると回しながら、刹那は外の景色を尻目に一息漏らす。

 

 

「でも、どうしていきなり交和を?Fineもそこまでする理由がないんじゃ…………」

 

「理由は二つ、一つは奴等自体現状が手詰まりだからだ」

 

「手詰まり、ですか……?」

 

「────フロンティア計画、それが頓挫したからだ」

 

 

机の上にあった自分のコーヒーの上から、スプーンに乗せた砂糖を落とす。コーヒーをスプーンで混ぜながら、どうでもよさそうに語る。

 

 

「奴等は元々、フロンティアという聖遺物を起動させることを目的としていた。徐々に地球へと寄っていく月の軌道を元に戻すために、フロンティアを使おうとした。だが、それを起動させるための鍵が────一つ、足りない」

 

「その鍵って────」

 

「お前だ、小日向未来。奴等の持つ聖遺物、『神獣鏡(シェンショウジン)』の力を倍増させる鍵が、お前なんだ」

 

 

それが俺達の狙いだ、と刹那は断言する。

その力を手に入れれば、二人の目的は果たされる。その為だけの協力関係。表向きにはそうだが、実際はそんな荒んだものではない。

 

未来は刹那のことを気にかけているし、刹那自身は未来のことを案じている。彼女が知らなくても良い現状を全て明かそうとしている時点で、刹那がどれだけ彼女を認めているか分かる。

 

如月刹那は、一度認めた相手には甘い。口では悪く言おうとも、彼は強く優しい者を無下にはしないのだ。

 

 

「二つ目だが、組織自体に亀裂が入ったんだろうな。Dr.ウェルや、エリーシャ。あのクソどもに付き合いきれないんだろうな」

 

「エリーシャ…………やっぱり、あの人が」

 

「人の良い奴等だ。あの狂人どものやり方には付き合いきれ無かったんだろ。他人を、一般人を平然と巻き込むクズどもだ。背中を預けられないのも、無理はない」

 

 

刹那自身、小悪党を潰したり、殺しはする。自分が正義側の人間だと自負しているつもりは無いし、罪悪感はない。他人を食い物にするような、強さも信念もない下衆を殺すことへの迷いはない。

 

だが、奴等は違う。己の野望の為だけに、殺す必要もない人間を意味もなく殺す。Dr.ウェルはまだしも、エリーシャはその極致を越えている。人の命を、数字でしか認識しないような外道なのだから、当然か。

 

 

「だが、馬鹿な奴等だ。自分達が裏切った米国に助けを乞うとは、思いの外、世界を知らないらしい」

 

「…………刹那さん」

 

「言い方が悪いとでも言う気か?だが事実だ。相手側の目的すら理解できず、米国に助けを求めることが愚行に違いはない」

 

 

どういう意味かと、未来は戸惑っていた。まるで武装組織Fineの行いが愚かだと言いたい言葉に、彼女は分からなかった。少し前までの話で、Fineが世界を救おうとしているのは聞かされていた。自分達の力では世界が救えない、だからこそ米国と協力して世界を危機から救おうと言うのだ。

 

 

だが、刹那は嘲笑を込めて吐き捨てた。純粋に世界を、相手を信じている彼女達を、かつて誰かと重ね合わせ、忌々しそうに顔を歪める。

 

 

「米国の連中は最初から、奴等と交和を結ぶつもりはないのさ」

 

 

◇◆◇

 

 

「─────これが、データチップですか。成る程、確認した限り、不備は無いようですね」

 

「えぇ、ですので約束を果たしていただきたい」

 

「…………そうさせていただきます。多少の約束は、ね」

 

 

インテリの黒服がデータを保存したチップを受け取った瞬間であった。彼が手を上げた途端、周囲の黒服達が拳銃を向ける。周囲から銃口を向けられたマリアとナスターシャは表情を険しくさせた。

 

 

「っ!これは、どういうつもり!?」

 

「…………最初から、話し合いに応じるつもりはなかったのですね」

 

「とんでもない。話し合いには応じていますよ、応えるとは言っていませんがね」

 

 

高級そうな椅子の上に腰掛けていたインテリ系のような黒服が不敵に笑う。片手に拳銃、もう片手にチップを指で弄びながら、ナスターシャとマリアに向けて笑みを向ける。

 

 

「そもそもの話、貴方達は我が国から離反したテロリストです。我等の資源を強奪し、あまつさえ世界に宣戦布告までしてくれたではありませんか。それなのに、都合も良く貴方達の話に従うと?残念ながら私とは違い、上はそんな優しい考えはしておりませんよ」

 

「…………貴方自身は、我々の話を受けてもいいと言っているように聞こえますが」

 

「─────失礼、口を滑らせました。しかし残念ながら、今は貴方達を処分するしか道がない。なんせ貴方達は、米国の闇を知っていますからね」

 

 

咄嗟にマリアがペンダントに手を伸ばそうとする。そんな彼女の前で、リーダー格の黒服が拳銃を真上に向けて撃った。

 

 

一発の銃声は、威嚇を伴ったものだ。それを理解したマリアはその場に立ち尽くし、動きを止める。リーダー格の黒服は肩を竦めながら口を開く。

 

 

「懸命な行いとは言えませんよ、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。いえ、フィーネ。どちらでも構いませんが、シンフォギアを纏うのはオススメしない」

 

「っ」

 

「確かに貴方の纏うシンフォギアは強力だ。異世界からの兵器、魔剣士にも匹敵する技術には私達も太刀打ち出来ない。だが、正面からであれば話は違う。貴方が聖詠を歌うより、我々の銃弾の方が早く届く」

 

「……………っ!」

 

 

周囲の黒服が撃ってこなかったのは、聖詠を歌い始めた直後を狙えと言われているからか。徹底されている。彼の言う通り、それぎシンフォギアの唯一無二の隙と言って過言ではない。

 

 

「ご安心を。貴方と後のお二人、シンフォギア装者は生かしておきます。それが約束ですので──────しかし、貴方の身柄は保証できません、ナスターシャ教授」

 

「国を裏切った私の処刑………それが上層部の求める代価ですね」

 

「ええ、一度裏切った者は何度でも裏切ると言っていましてね。…………正直、この言葉は間違っているとは思います。愛故の裏切りは真の裏切りとは言えない、そう思いません?」

 

 

黒服の数人が、チラリと視線を向けた。リーダー格の黒服が細めた眼で何か指示を送るだけで終わる。はぁ、と溜め息を漏らしたリーダー格の男が立ち上がり、ナスターシャへと銃口を向けながら、告げる。

 

 

「まぁ、仕事ですので早めに済ませます。再三言いますが、約束は違えませんので」

 

「…………感謝します」

 

「その割には、残念そうな顔だ」

 

 

同じように、複雑そうな顔をした黒服が引き金を引こうとした直後。

 

 

 

 

 

『──────困るなぁ、そんな真似は。彼女達は、私達の同盟相手なんだから』

 

「ッ!誰だ!」

 

 

突然現れた声に、黒服の一同が即座に反応する。行き場のない銃口の矛先は────会議室の窓際に浮かぶ、小さな物体に集まった。

 

小型のドローン。左右に機械的なアームを繋げたドローンはプカプカと浮遊している。ジジ、と電気のような音を発すると、遠隔からの音声を送り始めた。

 

 

 

『やぁ、君達。米国のエリート諸君と言い直すべきか。取り敢えず銃口を下ろしたまえ。これからは責任のある大人同士の話し合いだ。正々堂々、ちゃんとした形でやろうじゃないか』

 

 

ノワール博士。

かつての事件で米国を一方的に牽制した、無空剣の保護者。現場に立ち入れない自身を恥じ、子供達を全力でサポートすると誓った大人が、武装組織Fineと米国の合間に取り入ってきた。

 

 

◇◆◇

 

 

「────フン、そういうことかよ」

 

「………どうしたんですか?」

 

「無空剣の奴、武装組織Fine(奴等)と手を組んでたって訳か」

 

 

◇◆◇

 

 

「ノワール博士………まさか貴方という人物が出てくるとは」

 

 

冷や汗をかきながら、リーダー格の黒服が苦笑いを浮かべる。彼が周囲の黒服達に視線を向ける。恐らくは、「余計な真似をするな」という指示だろう。大人しく従うように見えるが、彼等は拳銃を下げるつもりは無いらしい。

 

 

『おや、これはこれは。米国の皆様には、私の名前もご存知かな』

 

「えぇ、まぁ…………厄介な人って扱いですよ、貴方。米国にとって優先したい無空剣の身柄とシンフォギア装者を三人、その権利を手に入れるチャンスを、貴方に邪魔されたんですから」

 

『なるほどねぇ。彼等とは十分公平な取引をしたと思ったんだが、随分と我が儘な事を言うようだ。もう少し、やり方を変えてみるか』

 

 

淡々と答えるノワール博士に、黒服が顔色を変える。緊張した様子を見せるのは彼等だけではなく、リーダーも同じようだ。

 

単身で米国相手に脅して見せた人物、肝が据わっているどころの話ではない。平然とした口振りだが、躊躇いなく実行してみせる決断力がある。

 

 

『私が君達に求めるのは、正式な取引さ。彼女達がテロリストとして活動したのも事実。しかし、是が非でも通して貰いたい。米国としては面子が立たないだろうが、そこは妥協して欲しいね』

 

「…………米国とって、無益な話だ。我々がそのような話を受けるとでも?」

 

『無益?────フム、まさか今更損益を気にするのか?』

 

 

ふざけているのか、という言葉に、リーダーは口を閉ざした。逆鱗に触れているようで、声の波長は変わっていない。一応世渡りを得意としているリーダーだが、この博士との相手は厳しい。底が見えないし、掴めないのだ。

 

それに、とノワール博士は付け足す。

 

 

『君達にとって都合の良い情報で誤魔化せば良いだろうに。いや、そもそもの話。君達米国にとって、真実を明るみにされるよりはマシな話ではないかな?』

 

「…………真実?」

 

『米国、その一部が考えたフロンティア計画────その内容についてさ』

 

 

空気が変化した。困惑を見せた黒服一同、リーダーすらも明らかな迷いを見せていた。そんな彼等に更に言葉を失わせる事実を、ノワールは口にした。

 

 

『米国の本来のフロンティア計画────月の落下、人類にもたらされる厄災から人類を生き残らせる為の福音。人類救済のための方舟。そこはいいが、問題はその次。

 

 

 

米国の一部、選ばれた人間の選別。方舟に一部の人間だけを乗せ、月の落下から生き残るという計画なのだから』

 

「──────聞いていませんね、そんな話」

 

『末端である君達に教えるはずがないだろう?そんな話、世界に広がれば米国の権威失墜どころではないからね。なんせ自分達と選ばれた人間だけしか救おうとしないんだから』

 

 

ザワザワ、と黒服達が慌て始めた。そんな喧騒を静めたのは、リーダーの無言の視線であった。即座に言葉を止めた一同を尻目に、リーダーは口元を押さえている。

 

 

「………その話が、事実であるという証拠は?」

 

『純粋に世界を救おうとする彼女達が米国から離反したという時点で、十分な理由になると思うがね』

 

「上へ、確認を取ってみるのはどう思います?」

 

『止めときなさい。君達の方が処分される可能性もある。なんせ、自分達が助かるための計画、しかも極秘だからね』

 

 

 

はぁ、という深いため息が漏れた。

リーダーが諦めたように座席に背中を預け、こめかみを指で揉んでいた。黒服の一部が戸惑ったようにリーダーへと確認を取り、リーダーは先程までの丁寧な口調とは正反対な言葉で黒服達に話す。

 

 

 

「…………どうなったのかしら」

 

『少なくとも、君達が撃ち抜かれるような事態では無さそうだ』

 

「助かりました、ノワール博士。貴方の力がなければ、我々は手詰まりでした」

 

『何、協力関係の仲間を助けることに理由は────』

 

 

呑気に話しているノワール博士だが、ピタリと言葉を止めた。直後、警報のようなアラートがドローンから響く。その場の全員の視線が、一斉にドローンへと集中する。

 

 

『ッ!何かが接近している!このスカイタワーに、特殊な反応を有したものが──────いや、これは────馬鹿な!そんなはずが、有り得ない!』

 

「何!?一体どうしたって言うの!?」

 

『─────()()の反応だッ!来るぞ!』

 

 

直後、近くのガラスを突き破り、何かが会議室へと入ってきた。床に接触し、バウンドした塊は近くに転がり────ゆっくりと、動き出した。

 

 

「─────」

 

 

それは、黒いヒト型であった。

全身を黒曜石のような金属で構成された鎧。頭部は目もなく鼻もなく、あるのはギザギザとしたトラバサミのような口だけ。胸元には紫色に近い色の小さな結晶が内包されている。

 

その姿は無空剣の魔剣士としてのフォームと、魔王と呼ばれた姿と類似しているではないか。

 

 

「アレは………魔剣グラムと同じ」

 

『まさか─────量産龍魔剣(グラムシリーズ)の新型か!?』

 

 

人間とは思えない動きで立ち上がったそれは、不思議そうに首を傾ける。そして、口を開いた。

 

 

「─────Aa?」

 

 

◇◆◇

 

 

 

『────ナスターシャ教授が我々を裏切るようだが、どうするつもりかな?Dr.ウェル』

 

『どうするも何も、どうせ裏切るのなら利用させていただきますよ。危機に瀕した彼女達を助け出して、私が率先して動くようにします』

 

『なら、私も出来る限りサポートしよう。彼女達が、米国と和平を結ぶべく、スカイタワーを会合の場にしたようだが、どうするべきだと思う?』

 

『それは助けなければ。大切な彼女達を米国の手から助け出す為にも、ノイズを使うしかありませんね』

 

『─────なら、少し試したいことがある』

 

『試したいこと?』

 

『正確にはモノだがね。私が新しく造り出した新兵器を使いたい。中々に、面白いものが見れるよ?』

 

『へぇ、どんなもので?』

 

『「量産龍魔剣(グラムシリーズ)」No.7───エインヘルヤル。ある意味で量産型という機能を達成している、魔剣士(ロストギアス)モドキさ』

 

 

◇◆◇

 

 

 

量産龍魔剣(グラムシリーズ)………!?シオン・フロウリングと同じ!?」

 

『いや、彼と同一と言うのなら否定するべきだ。アレは通常の魔剣兵器と変わりは────いや、待ってくれ』

 

ドローンから響くノワールの声が、震え始める。何かに気付いた博士が頭を振るい、叫ぶ。

 

 

『嘘だ、そんなはずは…………馬鹿な、馬鹿な!エリーシャ・レイグンエルド!貴様はどこまで人の道を!』

 

「ノワール博士!どうしました!?」

 

『気を付けてくれ!それは兵器じゃない───魔剣士だ!』

 

 

直後、漆黒の全身鎧が飛び出した。

全身の力を抜いた姿勢で突貫した黒い影は、近くにいた黒服へと狙いを定めている。

 

それに気付いた黒服が慌てて拳銃を向ける。何発も銃弾を撃ち込むが、全身の装甲に貫通することすらない。飛び付いた黒い鎧は口を開き─────

 

 

 

 

 

────黒服の首に、噛みついた。

 

 

 

「────────は」

 

 

誰が声を出したのか、分からない。

全員が、目の前の光景に呆然としていた。全身黒鎧、エインヘルヤルは黒服の首を噛み砕き、更に咀嚼を続ける。

 

その行為は、あまりにも原始的なものであるが、見る者に嫌悪と恐怖を与えるものであった。

 

 

「…………人を、食べている?」

 

「…………うっ」

 

 

信じられないものを見るように片目を見開くナスターシャ。彼女の隣でマリアは口を押さえ、吐き気を堪えていた。

 

他の黒服達も言葉を失い、恐怖のあまりに茫然としている。目の前で、殺した生命を貪るエインヘルヤル。そんな彼等の前で、新たな動きがあった。

 

 

周囲の窓ガラスが割れる。再び外から、エインヘルヤルが投げ出されてきた。どうやってエインヘルヤルが飛んできたのか、疑問を持ったノワール博士だが、それは外にあった。

 

 

『─────アレは』

 

 

大型の飛行物体。戦闘機というには小型化された、謎の飛行艇。装甲から伸びるアームが、内部に溜め込まれたエインヘルヤルを掴み、打ち込むように投擲していく。

 

その機体の側面にある文字を見た博士は、新たな事実を理解する。

 

 

『No.5────メタルエッジもいるのか!?』

 

「No.5………!?それって───」

 

『アレもグラムシリーズだ!だが、メタルエッジ本人がいないのに、何故アレだけを………』

 

 

ブツブツと呟いていたノワール博士の声が途切れる。何かを悟った博士の声は、近くにいたマリアへと呼び掛けられた。

 

 

『マリアクン!急いでシンフォギアを!』

 

「ッ!?何を───」

 

『これは実験だ!奴が、エリーシャが新たに開発した量産龍魔剣の実験を、このスカイタワーで行うことにしたのだ!早くしなければ、タワーの中にいる人間が巻き込まれる!?』

 

「馬鹿な………!無関係な人も犠牲にするというの!?」

 

『人命を尊重するような奴ではないさ!アレは!』

 

 

噛み締め、マリアは聖詠を歌い───黒いガングニールを纏った。彼女が武器を構えた時には、会議室の一帯は数体のエインヘルヤルに蹂躙されていた。

 

 

エインヘルヤル達は、まるで狩りと捕食を両立しているかのように、暴れていた。まず相手をなぶり、動けないようにする。生死も気にせず、生きていようが死んでいようが、人の肉を貪り食らっていた。

 

 

「────クソ!クソ!クソォ!」

 

 

彼女の視界の先で、リーダー格の男が拳銃でエインヘルヤルに応戦していた。壁際に追い込まれ、口元を血で汚したエインヘルヤルに迫られている。

 

喰い殺される光景を脳裏に浮かべたリーダー格の男は絶望に染まった顔で笑い────拳銃を頭部に押し当てた。せめて楽に死にたいという祈りからか、胸元から取り出したペンダントを握り締め、何事かを呟いた。

 

 

────許してくれ、ミーナ

 

 

 

それを耳にした瞬間、マリアは迷うことなく槍を投擲した。今もリーダー格の男に食らいつこうとした、エインヘルヤルを打ち砕く。

 

ガングニール、否、シンフォギアの攻撃は通じるらしい。魔剣士と同じ性質だからか。装甲を破壊されたエインヘルヤルの一体はその場に崩れ落ちた。

 

 

「…………な、なんで?」

 

「………………」

 

 

助けられたことに疑問を覚えたリーダー格の男、マリアも自分達の命を奪おうとした敵を助けたことへの自分自身への疑問はあった。

 

だがやはり、自然と言葉にしていた。

 

 

「────生きたければ来い!」

 

「は、はぁ!?冗談だろ!?テロリストに同行するって、俺の立場が失くなるに決まってる!この立場になるまでどれだけ頑張ったと────」

 

「………来ないのなら好きにすればいい」

 

「─────あああッ!こんな状況で一人とか生き残れないに決まってるだろ!分かった!着いていけば良いんだろ!」

 

 

リーダー格の黒服は髪をかきむしると、サングラスを投げ捨て、マリア達の方へと駆け寄ってくる。槍を構え、周囲にいるエインヘルヤルを薙ぎ払うマリアの代わりに、ナスターシャの車椅子を押して走る。

 

 

『フム、唐突だが、君は何て呼べば良いんだい?』

 

「ガブリエル・マックススターだ!お前らホント覚えとけよ!というか、絶対に助けろよな!?」

 

『君さっきまでと口調違うね。あとヤケクソみたいな感じじゃないか』

 

「ヤケクソなんだよ!」

 

 

そんな会話をしながら、三人と一体のドローンは離れていく。しかし、地獄はこの場だけではない。スカイタワー全体に広がっていることには、まだ気付かなかった。

 




インテリらしく振る舞ってたのにたった一話で素を露にしたガブリエル・マックススターさん(23)。


エインヘルヤルはエリーシャの悪意しかない疑似魔剣士です。多分内情を知ったらまた剣はぶちギレると。
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