戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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惨劇のスカイタワー

「響ー、出来たぞ。熱いから、少し冷ましてから食べ………………響?」

 

 

台所から食事を持ってきた無空剣は、部屋から少女がいなくなっていることに気付いた。開けっ放しにされた玄関から飛び出したのかと把握した彼の耳に、テレビの音声が響いてくる。

 

それは、ニュースだろうか。緊急速報と称された映像は、ある光景を映し出していた。

 

 

『繰り返します! 先程スカイタワーにて爆発が発生しました! タワー中では正体不明の影が確認されているらしく、現在確認中のことで────』

 

「…………は?」

 

 

黒煙を吐き出すスカイタワー。ニュースに写るタワーの惨状に呆然としていた剣は、ふと思い出した。今日、そのスカイタワーに遊びに行っている人物がいることを。

 

 

「────小日向ッ!」

 

『それと、タワーの付近では正体不明の飛翔体が確認されており────』

 

 

咄嗟に家の外へと飛び出す剣。姿は見えない。響は少し前に出ていったのだろう。兎に角探さなければと思いながら走り出した剣は、無線機を取り出すや否や、弦十郎に連絡を取る。

 

 

「─────司令!スカイタワーが!」

 

『嗚呼!分かっている!此方としても翼とクリスを向かわせている!』

 

「違う!彼処には小日向がいる!彼女は今日、そこに遊びに行くと言っていたんだ!」

 

『なんだとぉ!?』

 

通信越しで応えていた弦十郎含め、二課のオペレーター達にも動揺が走ったのを感じ取った。タイミングが余りにも悪過ぎる。何故よりによって、未来のいる場所で問題が発生するのか。

 

────未来が、とある魔剣士と結託している事実など知る由もない剣たちには到底分かることは無いだろう。

 

 

「俺が出る!相手がノイズなら、変身せずとも────」

 

『ダメだ!君の参戦は許可できない!』

 

「────何故だっ!?」

 

『相手にはエリーシャがいるのを忘れたか!ヤツほど狡猾な男であれば、今回の事件は君を誘き寄せるための計画かもしれん!不用意に動けば、奴の思う壺だぞ!』

 

 

ギアを封印されている無空剣の戦力は現時点で翼やクリスよりも低い。それでも肉体改造されているため、魔剣士としての基本性能は高く、その性質故にノイズも相手に出来るだろう。

 

だが、今現在弱体化した剣が動けば、エリーシャはそれを見逃さない。きっと今まで以上の悪辣な手段で、剣を追い詰めるかもしれない、と弦十郎も判断したのだろう。困ったことに、剣自身も納得してしまっていた。

 

 

「…………小日向。お前もこんな気持ちだったんだな」

 

苛立ち混じりに通信を止めた剣は、何も出来ない無力感に打ちひしがれる。自分だけが何も出来ない、何もしてやれない、と落ち込んでいた小日向未来────彼女がどれだけ悲痛な思いであったのか、今では身に沁みて感じられた。

 

 

「────何か、出来ないのか」

 

故に、焦る。

下された待機命令、飛び出した響────惨劇に巻き込まれた未来。どうすれば良いのか、思考を必死に働かせる。頭が熱で可笑しくなりそうなのを自覚しながら、彼は必死に考えようと周りを見渡した。

 

 

その直後、剣の思考が停止した。

人混みに紛れて過ぎ去る、後ろ姿。記憶通り、見間違えようのないその背中を見た瞬間、剣は考えるよりも先にその人物を追いかけていた。

 

 

◇◆◇

 

 

「────ノイズを使うと思っていたが、まさか劣化品を出してくるとはな」

 

 

轟音と悲鳴が響き渡るスカイタワー。そのフロアにて逃げ惑う人々の姿を睥睨した如月刹那が、顔をしかめる。彼の意識が接続されたビットがスカイタワー内に目立つ反応を読み取り、その正体を理解した刹那が不愉快そうに吐き捨てた。

 

隣りにいる小日向未来は戸惑いを隠せない。窓から見えた黒い影、鎧に身を包んだソレを見た瞬間、彼女は無空剣を思い浮かべた。大切な親友である響や自分たちの為と一緒にいてくれる、優しい人。そんな彼と同じものを感じさせるソレの存在に戸惑う中、知ったように語る刹那に問い掛けることしかできなかった。

 

 

「劣化品………?」

 

「────無空剣、奴の力を増産する仮定で生まれた『グラムシリーズ』。だが、仕上げられた六体の魔剣士の中で、誰も無空剣には成れなかった────自分以外の他人になど、誰も成れないのだろうな」

 

 

混乱する人の波から離れた刹那と未来。二人は階段の方へと辿り着くや否や、上へと進む。避難するのではなく、わざわざ混乱の奥へと向かっていく。

 

この混乱を利用する事こそが、二人の目的であるからだ。

 

 

「エリーシャは考えを変えた。無空剣の力はなくとも、数だけはあればいいと考えた。無空剣以外を圧倒できればいいと、その考えの果てに生まれたのが──────奴等だ」

 

 

何階か突破した二人は、被害の目立つフロアへと着いた。阿鼻叫喚に染まった民間人達が避難していく中、刹那に促された未来は信じられないものを目の当たりにする。

 

 

 

────爆炎の中から姿を現す、複数のヒト型のナニか。全身鎧という無機物な見た目でありながら、人形のようにひきつった動きで迫る生き物。胴体に組み込まれた見覚えのある結晶。

 

矛盾に満ちた異様なオーラを伴う目の前の存在に、未来は不気味を通り越した純粋な忌避感を覚えた。そんな彼女の隣で、刹那は不快と言わんばかりに表情を歪め、言葉を続ける。

 

 

「エインヘルヤル、生命を排し、魂だけを刻んで添えた人形兵。同調の際に魔剣に刻み込まれた魂を複写し、義体へと接合した特殊な魔剣士だ」

 

「そ、そんな────それじゃあ、あの人達はあんな風に改造されたんですか………!?」

 

「─────アレが生きてるように見えるか?」

 

 

大きな()()()をしている未来に、刹那は冷たく指摘する。常識を理解している故に、偏ってしまう誤った考えを正すように。

 

 

「死んでるんだよ、アレは最初から。魔剣の拒絶反応で命を失った数千を越える被験体。奴等の魂を内包した魔剣の欠片を複製し、兵器のコアへと改造した。……………助けたい、と思うだけ無駄だ。奴等には最早理性も自我もない。身体と魂の欠落を補うために命を喰らい、取り込むことで兵器として機能するガラクタに過ぎないモノだ…………失敗作だというのに、エリーシャはソレを兵器として運用した。論理も情も欠落した狂人の考えは理解できないな」

 

 

刹那の説明を体現するように、エインヘルヤルが人々に襲いかかる。『捕食』という機能を与えられ、淡々と命を喰らい始めることしか出来ない。

 

一体のエインヘルヤルが、悪態を放ちながら銃を撃つ米国のエージェントに飛びかかる。力で動きを抑えたエインヘルヤルは男性の首に噛みつき、捕食を始める。血を啜り、肉を喰らい、命を取り込んでいく。

 

他のエインヘルヤルも、避難する民間人へと牙を剥く。その光景を前に、未来は顔を青ざめながら飛び出す。

 

 

「────ッ!助けないと!」

 

「止めておけ」

 

「っ!どうして止めるんですか!?あのままじゃ皆殺されます!」

 

「───助けようと全員死ぬ。やるだけ無駄だ」

 

 

何とか逃げる彼等を追い回すエインヘルヤル。そんな人々を助けようとした未来を、刹那が淡々と呼び止めた。冷静に、合理的に物事を判断した刹那は無情なまでに冷酷に告げる。

 

 

「このスカイタワー全体でエインヘルヤルが暴れている。………考えろ、そいつらを今助けた所で生き残れると思うか?逃げる最中に死ぬかもしれないだろう」

 

「でも………でも………っ!」

 

「────生き残った所で、そいつらが平和で生きれる保証はない。立花響も、そうだったはずだ」

 

 

この事態で生き残った彼等は、きっと国から手厚い補償を受けることだろう。それを良く思わない者が、生存者たちを一方的に責め立てる。────この国、その上の人間達が見過ごした結果、歪に残った現実。

 

ノイズ被災者現象。初めて知った時は、刹那は嫌悪と侮蔑しか感じなかった。奇跡的に生き残った生存者を、偏向報道で流された事実だけを信じ、被災者全てを悪として追いやったある種の人災。

 

だからこそ、刹那は彼等を救う価値を見てなかった。生き残っても、彼等が今までのように平和を謳歌できる保証はない。人殺し、税金泥棒と野次られて一生を過ごすくらいなら、死なせてやったほうが幸せではないのか。

 

「最も、今はオレ達の目的が最優先だ。このままだと、目的の奴等もすぐに逃げ出すだろう。そいつらを守るために目的を台無しにするか、好きなやり方を────」

 

 

選べ、と告げようとした刹那は隣にいる少女を見ようとして、絶句する。

 

 

────未来は一切の躊躇なく、民間人の方へと走り出していた。近くにあった椅子を手にして、今にも親子に襲い掛からんとするエインヘルヤルへと椅子を叩きつける。

 

 

「────正気か………ッ!?」

 

 

思わず、言葉を失う刹那。

彼女自身、分かっているはずだ。生身である自分が死ぬ可能性が、エインヘルヤルに殺される可能性があることも。それでも尚、彼女は見ず知らずの他人を助けるために飛び出していた。

 

────彼女の目的、響を助けることが叶わなくなるかもしれないのを、分かっていながら。

 

 

「大丈夫ですか!?急いで、ここから離れて!」

 

「ッ!何をしている小日向未来!死ぬ気か!?」

 

「死ぬつもりはありません!響を助けるんですから!」

 

「ならそいつらを見捨てろ!エインヘルヤル相手に生き残れると思っているのか!?自殺行為だと、理解しているだろう!」

 

「分かってます!けどそれは────誰かを見捨てていい理由にはなりませんっ!!」

 

「────ッ!!?」

 

迷いの無い未来の言葉に、刹那は動揺を隠せなかった。揺らぐことのない眼差しを見た彼は口を噛み締める。その目を、知ってる。その言葉と、同じ事を言った誰かを覚えている。

 

 

『困っている人を助ける────それは正義として当然のことだから!そういう君が好きだから、私は君を誘ったんだよ!』

 

「……………オレは」

 

俯いた刹那を他所に、未来は他の人を助けようと動き出す。だが、そんな彼女にエインヘルヤルの一体が襲い掛かる。先程、妨害を受けたことで獲物を取り逃がした怒りのままに未来を狙う人形兵。しかし、未来は何とか椅子で受け止めると、その椅子によって押し出して、再び吹き飛ばそうとする。

 

『────ッ!』

 

 

仰け反ったエインヘルヤルは咄嗟に伸ばした手で未来の頭を掴む。そのまま引き寄せたエインヘルヤルは口を大きく開き、彼女を喰らわんと迫った。何とか抵抗を示す未来だが、エインヘルヤルの力には勝てず────、

 

 

そのまま捕食されそうになった瞬間────複数の閃光がエインヘルヤルを貫いた。

 

 

『………A、a?』

 

 

ズルリ、と手足を切断されたエインヘルヤルの胴体が床に転がる。必死に這いずり、未来を喰らおうと必死なエインヘルヤルの頭を、刹那は踏み潰して機能を停止させた。

 

無表情でソレを見下ろす刹那に、未来は戸惑いながら声を掛ける。

 

「刹那さん………?」

 

「………一分だ」

 

「え?」

 

ロングコートの留め具を外した刹那が、外套のようにたなびかせる。常時展開したロストギア、デュランダルの外装を明かした刹那は聖剣の力を増幅させ、戦闘形態を披露する。

 

尋常ではないエネルギーに、民間人を襲っていたエインヘルヤルの意識が刹那一人へと集中する。此方に迫り始める人形を尻目に、後ろにいる未来へと告げた。

 

 

「一分、このフロアにいる奴等を全滅させてやる。その間に他の奴等を避難させろ……………それ以上は待たない」

 

「!………はい、分かりました!」

 

後方で避難を手伝い始める未来。大半のエインヘルヤルは刹那へと意識を向けているが、一部の個体は民間人を狙う。足りないエネルギーを、より早く補うために、一番弱く、一番遅いやすい人間を狙い、牙を剥く。

 

そんなエインヘルヤルを、光刃が切り裂く。十基のビットを展開した刹那は手を広げ、堂々と立ち尽くす。その瞳は、行き場のない感情に迷いながらも、一つの決意を宿していた。

 

 

「────ここからは通さんッ!」

 

 

◇◆◇

 

「クソッ!どれだけいるの!?」

 

『スカイタワー全域にあるエインヘルヤルの反応は百数!今現在も増え続けている!エリーシャが送り込んでいるのだろう!』

 

悲鳴や爆音が聞こえてくる通路を走り抜けるマリア。ガングニールを纏う彼女は進む道に現れるエインヘルヤルを貫き、払って、突き進んでいく。

 

どれだけ撃破しても増え続けるエインヘルヤルに焦りを覚えるマリア。そんな彼女をサポートするのは、ノワール博士の操るドローン。枝分かれした通路の先から群れるエインヘルヤルの軍勢に、ドローンがロケットランチャーを放ち、崩落した通路で押し潰す。

 

 

「助かったわ、ドクター」

 

『気にすることはない。当然の事さ…………ナスターシャ教授やマックススタークンは大丈夫かな?』

 

「………私は大丈夫ですが」

 

「ぜぇ………っ、ぜぇ………っ!」

 

マリアとドローンが後ろを向くと、そこにはナスターシャ教授を背負っていた黒服のエージェント────ガブリエルがいた。明らかに疲れた様子を見せ、荒い呼吸を整えている。

 

 

「もう、少し…………ゼェ………ペース、……ハッ…………落とせ…………こっちは、病人ッ…………運んでんだぞ……っ!?」

 

「………泣き言を言える余裕はあるみたいね。先を急ぐわよ」

 

「こっ、この歌姫………!冗談言ってるように見えてんのか………っ!?」

 

当初はナスターシャ教授の車椅子を押していたガブリエルだったが、このままでは間に合わないと判断して彼女を背負い出したのだ。結果、明らかに疲れてしまっているわけだが、マリアに文句を漏らしている間にある程度落ち着いたのか、息を整えて腰を上げる。

 

「先に進みましょう────っ!?」

 

進んだ先にあった扉を開け放ったマリアは、その光景に言葉を失った。開けた空間に広がる、赤に包まれた景色。貪られたであろう複数の死体と、亡骸を食い漁るエインヘルヤルが一体────他に、変な行動をしているエインヘルヤルが何体かいた。

 

「…………ッ」

 

余りにもな光景に青ざめる一同。歪んだ顔を平静で覆い、マリアは槍を携えてエインヘルヤルへと歩み寄る。退避するためには、この通路を通らなければならない。そうして踏み込むと、未だに貪っていたエインヘルヤルが呟きながら顔を上げた。

 

 

『A………a……a……』

 

マリアの存在に気付き、ゆっくりと歩き出すエインヘルヤル。此方に襲い掛かろうとしている、そう判断したマリアはガングニールの槍を振り上げた────瞬間。

 

 

 

『────コロ、して』

 

聞こえたのは、まだ幼い子供の声。

響いたその声音を聞いたマリアは槍を止めた、止めてしまった。間違いなく、エインヘルヤルから発された声に────マリアはおろか、ナスターシャやガブリエル、ノワールは言葉を失っていた。

 

 

『お願い………もう、いや………殺し、たく………』

 

『────まだ、自我を残されているのか』

 

その事実に気付いたノワール博士が、嫌悪と怒りに満ちた声で結論を口にする。顔色を変えたナスターシャ教授は、目の前の光景への怒りを覚える博士に問い掛ける。

 

 

「………どういうことですか?」

 

『エインヘルヤルは、犠牲となった被験者の魂を利用した兵器だ。それ複写、分裂させた劣化した魂を埋め込み、「人間」としてカテゴライズさせる────何回も複写を繰り返された魂は摩耗し、最低限の機能しか持たないが………極稀に、自我が残る個体もある』

 

博士自身、エインヘルヤル自体を詳しくは知らない。たったこの時間で、エインヘルヤルという兵器の仕組みを理解した、理解できてしまった。魔剣というものを見出した、天才科学者であるからこそ、そのおぞましい仕組みに気付くことが出来たのだ。

 

「では………今目の前にいるアレは、被験者であった子供の意識が残っている、ということなのですか」

 

『………そうなるね。意識、というには摩耗しきっているが』

 

「────なにそれ、倫理観どうなってんのさ」

 

その事実を知ったガブリエルは、ドン引きしたように呟く。怒りよりも、憐れみよりも、純粋に理解できないといった感じだろう。こんな残酷なことを、同じ人間が平然としていることが。これを兵器と言い張る事が。

 

僅かに目を伏せたナスターシャは、静かにノワール博士へと問いかけた。

 

「助けることは、出来ないのですか」

 

『…………魂はあるが、端末に組み込まれたものだ。抽出することは出来るだろう。だが、複写と分裂を繰り返した魂は摩耗しきっている…………抽出したところで、その意識は耐えられないはずだ』

 

「…………殺すしか、無いというの?」

 

此方に近付くエインヘルヤルを見るマリア。血に濡れた手を伸ばしたエインヘルヤルは────マリアの槍を掴んだ。

 

 

『お、願い………誰か、私………止め………』

 

「────ッ」

 

まだ幼いその声に、マリアの決意が揺らぐ。

可愛らしさの残ったその声音には、覚えがあった。マリアにとって大切な家族、切歌、調、ナスターシャ────そして、血の繋がった妹のセレナ。

 

その彼女を思い出させる、幼い少女の声。血に濡れても尚、自死を望むエインヘルヤルを前に、マリアの心は耐えられなかった。

 

 

「────出来ない」

 

「………マリア」

 

「ごめんなさい………私には、貴女を………殺せない。弱い私には、無理なの………」

 

『………Aa』

 

カタカタと震えるエインヘルヤル。震える手で槍を下げることしか出来なかったマリアに、エインヘルヤルは手を伸ばす。咄嗟に両目を瞑ったマリアだったが────

 

 

────直後、銃弾がエインヘルヤルを襲った。カン!と装甲に弾かれた銃弾を見たマリアは、目の先にある入口に集まる人影を見た。

 

「米国の特殊部隊………っ!」

 

「くそ!アイツら!俺達も狙ってる!まとめて消す気か!?」

 

ナスターシャを抱え、慌てて物陰に隠れるガブリエル。反撃しようと拳銃を持ち出した彼だったが、そうなることはなかった。

 

 

『A、a………────Aaaaaaッ!!!』

 

直後、自我を持っていたはずのエインヘルヤルが頭を抱え、叫び始めた。先程までの少女の声が途絶えたかと思うと、米国の特殊部隊へと顔を向ける。

 

 

『────不味い、兵器としてのシステムが彼女の意識を支配している!』

 

ノワール博士がそう気付いた時には、エインヘルヤルは動き出していた。全速力で走り出したエインヘルヤルは爪を振り上げ、近くにいた特殊部隊隊員の一人を切り裂く。

 

おびただしい血を浴びながら、エインヘルヤルは恍惚に嗤う。血に酔うように、殺戮に喜ぶように、特殊部隊を殺し始めていく。

 

 

「────せいだ」

 

生きたまま隊員を喰らうエインヘルヤル。首を噛み千切る、肉を貪る人形には意識が見られない。それを塗り潰され、無理矢理殺戮を行わされている。

 

「………私の、せいだ」

 

あのエインヘルヤルに組み込まれた魂は、きっとセレナと同じくらい………それ以上に幼い子供なのかもしれない。こんな場所ではなく、誰かに囲まれて笑顔でいられる少女だったはずだ。

 

なのに、今目の前で命を奪い続けている。魂を無数に切り分けられ、残った自我で反抗することすら許されず、兵器のパーツとして利用されている。

 

────その彼女に、人殺しをさせたのは誰だ?介錯を求めた彼女に、躊躇したのは一体誰だ?

 

 

「全ては………フィーネを背負いきれなかった、強くあろうと出来なかった────私のせいだっ!!!」

 

流れる涙を拭うことなく、マリアはそのまま疾走する。全ての隊員を殺し尽くし、貪ろうとしたエインヘルヤルが彼女にに気付く。だが、マリアの放った槍の一突きの方が鋭く、早かった。

 

 

 

────そして、押し込まれた槍はエインヘルヤルのコアを破壊した。血に濡れた人形はガタガタと震え、機能を停止させるだろう。

 

鋭い爪が、ゆっくりとマリアの顔へと伸びる。だが人肉を切り裂くその爪はマリアを襲う事はなく、彼女の頰を優しく撫でるだけだった。

 

『ナか、なイで』

 

ノイズ混じりの、優しい声。

それが純粋にマリアを案じていることは、誰もが理解できた。兵器としての呪縛から解放された少女の魂は、マリアへの感謝を口にした。

 

 

『あリ、がトう………私、もう────』

 

それだけで、エインヘルヤルは地に転がる。漆黒の装甲兵はすぐに黒い粒子となって、消え去った。言葉を失ったマリアは、ただ見ていた。

 

────真っ赤に染まった槍と、自身の手を。

 

 

覚悟したとはいえ、相手はもう戻れないとはいえ、少女の魂を、彼女の命を終わらせた。その事実を受け止め、マリアは行き場のない感情を爆発させるように────慟哭するしかなかった。

 

 

◇◆◇

 

立花響は走っていた。

親友が今いるというスカイタワーへ、今何かの襲撃を受けて混乱に包まれたスカイタワーに。

 

「未来……!未来…………っ!」

 

必死に走る彼女の視界に見えるスカイタワー────黒煙に包まれ、悲鳴が聞こえてくる様子に、響の焦りが増していく。今にもシンフォギアを纏い、飛び出したい気持ちを抑え、響は全速力で向かっていく。

 

 

「未来──────ッ!!」

 

 

 

────直後、響の前に車が滑り込んできた。バラバラに半壊しながら突撃してきたソレに戸惑った響は、ふと車内を覗き込む。乗り込んでいたであろう黒服のエージェント達。外国人であろう彼等は、皆同じく黒い何かに貫かれていた。

 

 

【────歩みを止めよ、神槍の少女よ】

 

 

ズルル、と黒い影が車の上に集まり始めた。

物理法則を歪めるように、影が空へと伸びる。光すら見えない黒はヒトの型を形成すると、色を保っていく。

 

 

【────友の為に動き、我が身を躊躇わぬその覚悟。感心するが、此度は我に付き合ってもらおうか】

 

 

黒い外套に包まれた、異形。人のように手足を持ちながら、異形特有の尻尾────蒸気を振り撒く金属の尾を有する貴族のような姿のモノ。中世、というより西風らしい貴公子らしいそのモノは深く一礼をして、響を見下ろす。

 

「神槍………?それって、私のこと?」

 

【如何にも。全能を司る主神の槍にして、あらゆる位相の最上種を殺す槍を纏う少女よ────此度、神に仇なす者との契約を果たす刻、その身に神槍を纏うがいい】

 

「…………っ」

 

響を見下ろし、尻尾を突きつける貴公子。彼女の胸にあるペンダント、シンフォギアを纏えと告げているのだろう。しかし、躊躇してしまう。

 

────自分の融合負荷を抑えるために剣が負担を背負い、ロストギアが纏えない状態になってしまった。今自分が動けば、剣達に迷惑をかけてしまうかもしれない。そんな迷いが、響に躊躇いを持たせていた。

 

 

【………纏えぬ、か。────成程、情報を接収した。思いの外、面倒な事態になっているようだ。ならば、なればこそ、致し方あるまい】

 

………ヤケにアッサリと引き下がった黒い貴公子に、響は困惑するしかなかった。こういう時、普通は食い下がってくるのが大半だろう。あまりの大人しさに、話し合えるかもしれない、そう思った響だが────それが甘い幻想であると、理解させられた。

 

 

【────舞台を、用意するまで】

 

 

直後、黒い貴公子の全身から影が周囲へと伸びた。

触手のように広がった黒い影は実体を持ったかのように、周囲の全てを切り裂き、抉り────一瞬で火の海へと変えた。

 

 

砕け散るガラス、爆発する車。地獄に変わった世界で逃げ惑う人々の悲鳴と絶叫。言葉を失って周りを見渡す響の前で、貴公子は影を操りながら口を開く。

 

 

【死傷者はゼロ。だが、これ以上やれば増えることであろう。それでも、纏えぬか?】

 

「っ!止めてください!皆を、巻き込むつもりですか!?」

 

【ならば纏え。なれば歌え。なれこそ、戦うがいい。さもなくば、命は散るぞ?花のように、雑草の如く!】

 

そう叫び、黒い貴公子の影が周囲を再び破壊し始める。増える悲鳴と絶叫を耳にした響は────迷うよりも先に、考えるよりも早く動いていた。

 

 

 

────Balwisyall Nescell gungnir tron♪

 

響く歌声に、影が殺到していく。

アスファルトの道路を削りながら迫る影の刃は聖詠を口ずさむ響を飲み込み────内側から生じる光の奔流に吹き飛ばされた。

 

その光の内に立つは、ガングニールを纏いし立花響。ギアを展開し、身構えた響の姿を見た貴公子は、嬉しそうな言葉を漏らした。

 

【おぉ………!それこそが、シンフォギア────神代の遺物を、人の手で造られたヒトの為の力!ヤルダバオトが計画の中枢に選ぶのも、理解できる!】

 

「────どいてください!私は未来を、友だちを助けにいかなきゃいけないんです!」

 

【ならばどかしてみるがいい。計画の為にもその力、モノにして貰わねばならんのでな────おっと失敬。名も知らぬ空いてとは殴り合えぬか?ならばこそ、我が真名────拝謁せよ】

 

 

黒い影を纏う貴公子が、深く腰を折る。

礼儀正しい一礼の姿勢を示した貴公子は己の名を、眼前にいる響へと語った。

 

【我の真名、キムラヌート】

 

「きむら……ぬーと?」

 

【神の創りし理の逆位置に為すクリフォトを構築するクリファが一つ、位置するは十の位層。我等こそ、人類の進化の先、神々の時代を拒絶する上位存在────悪魔、と呼ばれるものである】

 




倫理に唾を吐いて踏みつけるが如くの所業、エインヘルヤル全部がこうではないですが────今回登場したプロトモデルのエインヘルヤルはこんな感じが稀にあります。

自我が残っているのは兵器として落第点、というのが普通なんですけど、コイツを作り上げたエリーシャとかいうクソ野郎は「自我がある方が相手もその分苦しむ」という理由で許容してる。


うーん、カス(率直)
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