「無空剣………っ!」
「彼が動きましたか。いくらグラムシリーズとはいえ、最強の魔剣士には簡単にいくとは思えません。それに…………」
「む、無空剣ですってェッ!!?な、なんでアイツが動けてるんですかぁッ!!?」
エアキャリア内も、戦場に現れた魔剣士の姿に騒がしくなる。マリアやナスターシャは手を組んでいた彼の存在に心揺らされていたが、それ以上に動揺を露わにしていたのはDr.ウェルであった。
情けない悲鳴をあげてすっ転ぶ彼の姿は、彼自身が憧れる英雄のそれには見えないが、ドクターからすればそれほどまでのトラウマが植え付けられている。
装者数人でも止まらぬ圧倒的な戦闘力、自分の企みを何もかも滅茶苦茶にした強さ、暴走した際に向けられた殺意。彼からすれば、二度と対峙したくないと思うくらいの恐怖があるのは当然だ。
無空剣がロクに動けない、その事実を知っていたからこそ余裕綽々であったウェルは狼狽しながら、遂にエリーシャへと噛み付いた。
「ちょ、ちょっとォ!エリーシャ博士ッ!?どういうことですかッ!?無空剣は当分戦えないと、ギアを纏えないと言ったのは貴方でしょぉッ!!?」
『────無空剣がギアの封印を解いた?馬鹿な、アレはノワール博士では解けない古代技術の呪詛を組み込んだ封印術式。いくら魔剣技術の叡智であろうと封印術式の解析、愚か分析など不可能のはず…………では誰が?一体何者であれば、あの術式の封印を解ける──────ああ、成程』
しかし、当のエリーシャはウェルの様子に興味を見せず、ただ黙々と呟いていた。思案に、ただひたすら答えを探し出そうとしていたエリーシャは不意に言葉を止め、ようやくウェルに語りかけた。
『どうやら、してやられたようだね。Dr.ウェル』
「し、してやられた、ですってぇッ………?」
『フィーネだよ。ルナアタックの際に死んだ神代の巫女、聖遺物と古代の知識を秘める彼女ならば、封印術式の解析や無効化なども容易い。彼女ならば、無空剣に与するのも妥当だろう』
一時彼女にトドメを刺したエリーシャには、フィーネが二課に手を貸すであろうことは明白だった。彼女は無空剣や立花響に敗れ、彼等を認めようとしていた。その際にエリーシャがトドメを刺してその場で葬ったが、もし復活していたのであれば無空剣に手を貸すのは有り得なくない。
「馬鹿を仰らないでください、エリーシャ博士。フィーネの復活など、マリアとナスターシャの
『だが、我々は一つ見誤った────暁切歌、月読調。あの二人もレセプターチルドレン、フィーネの再来として集められた器候補だろう?フィーネの再臨する器としては、充分候補に入っている。子供だからと甘く見たからこそ、彼の復活を読めなかった』
────恐らくマリアやナスターシャも予想外だったからこそ、だが。とエリーシャは内心で留める。実際にその話を聞いた瞬間、マリアやナスターシャも信じられないように目を見開いた。彼女達の結論では、フィーネはマリアにも誰にも宿っていなかったはずだ。
全てを知っていたのはあの二人だけ。そして、今戦場に居ない彼女こそが、フィーネを宿す身。
『あの二人、いや戦場を離脱した月読調かな。彼女の中にフィーネが宿っていた。恐らくあの二人が離反したのは、中にいたフィーネと共に無空剣と手を組んでいたからだろう。そして今、我々に悟られぬようにギアを纏える身にした、それが答えかな?』
それはそれへ愉快そうに、エリーシャは笑う。一杯食わされたにも関わらず、彼はまるで楽しそうに、通信の向こう側で笑いを零していた。
◇◆◇
そして、数分前。
二課の仮設本部にして潜水艦にて、ある反応が観測される。それは二課の味方の反応ではなく、むしろ敵対勢力のギア反応であった。
「────シュルシャガナの装者!此方に接近しております!」
「……………剣君。君の話通りであれば、本当に彼女が………」
「はい、司令。フィーネは彼女の意識を乗っ取る気はないから、あくまでも共生していると…………まずは彼女を入れる必要がありますので、お願いします」
「うむ────一時浮上する!総員、周囲の警戒を怠るなよ!」
事前に内通を共有していた剣に、弦十郎達は素直に話を聞いてくれた。その内容に驚きはあったが、ひとまずは信じることにしてくれたのだろう。剣自身と、かつて自分たちの仲間であった櫻井了子────もとい、フィーネの事を。
浮上した潜水艦の甲板に出た剣は、潜水艦の上で立ち尽くす少女を連れ、基地内部へと戻った。彼女は自分が二課のオペレータールームに連れてこられたことを知った途端、驚いたように剣を見返した。
「…………一応、まだ敵なのに、そんな簡単に信用して連れて来ていいの?」
「人を見る目はあるつもりだ。お前達はそんな悪辣非道では無いと確信している。協力関係を結んだのだしな────それに、万が一あった場合は俺がいる」
「────納得」
生身のスペックでは改造されている無空剣の方が圧倒的格上である。シンフォギアを纏おうと聖詠を歌おうとした瞬間、無力化されるのがオチであろう。そんなつもりは毛頭ないが、本当に恐ろしい相手だと、月読調は頷くしかなかった。
「君のことは、剣君から聞いてる。やはり、君の中に………」
「うん、そう………フィーネ、聞こえてるはず。代わって────ええ、元よりそのつもりよ」
パチリ、と目を閉じた調の雰囲気が、一瞬にして変化する。何処か大人びた様子を漂わせる少女は、剣の隣に立つ響を見ると、穏やかそうに微笑んだ。
「久し振りね。私としてはもう数十年は掛かると思ったけれど、案外早い再会になっちゃったわね」
「了子さん、なんですか………?」
「そうよ、響ちゃん。久し振り────なんて素直には喜べないわね。貴女の状態を思うと、特に」
再会を喜ぼうとした調────フィーネだったが、彼女は響の身に起きている状態も把握していた。だからこそ、申し訳なさそうに目を伏せた。
そんな彼女の様子に、声を漏らす者は他にもいた。
「………了子君、本当に君なんだな?」
「────自分のしたことの責任は取るつもりよ。でもその前に、彼等を助けさせてちょうだい。それが私なりのケジメ、終わったら好きに突き出してくれて構わないわ」
「分かっている。我々としても、そのつもりだ」
弦十郎の言葉だが、恐らく前者の事だろう。相変わらずね、と微笑むフィーネの姿に弦十郎はかつて仲間としての姿を思い出し、苦笑いを零した。不意に、フィーネは思い出したように疑問を投げ掛ける。
「それはそうと────クリスやタクトは元気にしてる?」
「ああ、クリスは今も幸せそうだ。だが…………」
「タクト君は罪人の自分が手を取り合う気はないと言って、今独房に引きこもっている。少し前には響を助けてくれたんだが………」
「…………あの子ったら、私が居なくなって自棄になってるのかしら。まぁ、クリスは大丈夫そうで良かったけど────おっと、肝心な目的を忘れるところだったわ」
あの二人のことを案じるのは、今の彼女なりの贖罪と後悔あってのものだろう。クリスとタクト、あの二人を自分の野望に巻き込んでしまった。クリスにはソロモンの杖を起動させて後に切り捨て、タクトにはその忠誠心から何人も人を殺させてしまった。
そんな二人に幸せになって欲しいと思っていたフィーネだが、片や意固地になっている少年に呆れていた所で、自分の本来やるべきことを思い出す。
「剣君、話に聞いてた通り…………貴方のギアを見せてちょうだい」
「ああ、分かった────解析は可能か?」
「ふぅむ、成程………古代文明にも似た技術はあるわ。これならすぐにでも無効化させる術式を組み込めば────ほら、この通り」
フィーネに言われる通り、ロストギアを展開しようとする剣だが、彼の腕にはやはり紋様と術式が浮かび上がり、起動を強制封印する。静かにそのギアを確認したフィーネは、ものの数分で術式を操作すると、術式は不気味な音を立てて分解、消滅した。
「これでギアを纏えるはずよ。これ以上妙な仕込みがなければ、ね」
「感謝する、フィーネ────グラム、装填」
左手の調子を確かめながら、無空剣は自身の右目と左手を重ねる。左手の甲に埋め込まれた欠片と右目に埋め込まれた欠片を合わせ、彼は自らの魔剣の名を告げる。
その名に呼応するように、全身を黒い鎧が纏われていく。その姿は従来のフェーズ2とは一部違う部分も多い、フェーズ3。更に戦闘に特化した装備とパワーアップした力を解放するに至ることの出来るものであった。
「司令、グラムの出力は本来の89%は引き出せています────俺が未来を連れ戻します」
「ああ、君に任せるつもりだ。だが、具体的にはどうする?無理に引き剥がせば未来君の肉体にもダメージが………」
「ファフナー・ユニットとの分離は可能です。後はある程度無力化させてみせます」
「無茶だッ!相手は聖遺物殺しの光を持っている!君のギアですら消し去りかねない力だぞ!マトモに受ければ、魔剣士であればどうなるか────ッ!」
「────あのまま未来が敵のコントロール下にあれば、あのままで済むはずがない。エリーシャの事だ。きっと改造手術を始めるはず。その前に連れ戻すのが最優先、多少の無茶はしても、死ぬ気は毛頭ありません」
ギアを纏った剣の宣誓に、目に見えて反対を示したのは弦十郎だった。剣の実力、二課の戦力としては最高戦力であることは理解している。だが相手はそんな剣のロストギア消しかねない力を秘めている。
シンフォギア・ロストギアキラーである神獣鏡の力を魔剣士としての改造を受けた無空剣が受ければどうなるか、下手すれば即死する可能性も高い。実力を疑ってなどいない、彼を仲間として案じているからこその反対であった。
だが、剣はそれに反発して自分一人でも未来を助けようと決意を顕にしていた。その理由はやはり未来の状態を考えた上である。あのまま戦わせて、もしエリーシャの元に戻ってしまえば更に五体を斬り刻まれて組み替えられてしまうかもしれない。本当の意味で、彼女が魔剣士にされてしまうかもしれないのだ。
「────師匠!剣さんッ!」
口論に至りかけた二人を、呼びかける声が一つ。剣と弦十郎が振り向くと、そこには真剣な顔で見つめる響の姿があった。その少女の瞳を見た瞬間、剣は響が何を言わんとしているかを理解した。
◇◆◇
「────翼!クリス!………暁切歌!」
「っ!分かった!二人とも、一旦下がるぞ!」
戦場に参戦した無空剣が一瞥し、彼女らの名を叫ぶ。呼ばれて一早く反応したのは翼であり、彼女の呼び掛けもあってその場からクリスと切歌も距離を取る。
わざわざ離れさせたのも、一人でやるため────これから自分の戦いに集中する。目の前の目標を確実に無力化する為に、全神経と意識を集中させる為のものであった。
「────剣、さん」
「色々言いたいが、帰るぞ未来。響が待ってる」
「────ごめんなさい。私、今はまだ帰れません」
「分かっている。だからこそ、多少は力尽くでいかせてくれ」
ギアを纏う未来はバイザーをあげることなく、ファフナー・ユニットを動かす。そんな彼女に、剣は誰よりも早く急接近した。弾くように蹴った甲板は大きく凹み、砲弾のように走り抜けた剣は両腕に接続したアームドフレームからビーム刃を展開して、未来に斬り結ぶ。
未来、というよりかはファフナー・ユニットの両腕がビームの刃を展開して、無空剣の放つ斬撃を受け止める。二つのエネルギー刃の衝突、押し負けたのは────未来の方であった。
「………ッ!?」
【キュォォォォ────ッ!!】
圧倒された未来、しかしファフナー・ユニットの響かせた不気味な音と共に彼女は背後に飛び退く。ホバーによる海面を滑り抜ける黒い竜の背部フレームが開き、顕になった六つの砲門から放たれる黒閃。
────【殲光】
六つの閃光が、海面を走り抜けていく剣へと迫る。しかし剣はそのビームの雨すらも掻い潜り、そのまま未来を追い掛ける。未来がファフナー・ユニットと共に近くの巡洋艦の甲板へと飛んだその瞬間、剣は背中の魔剣をレールガンのように射出して、未来をファフナー・ユニットごと甲板に叩きつける。
甲板に叩き伏せられた未来は一時距離を取ることを優先したのか、ファフナー・ユニットは翼を広げてその場から離れようとする。しかし翼を広げた黒い巨竜に、無空剣は飛び付いた。
【キュォォォォオオオオオオオッ!!】
(強化外装。未来は魔剣士のように機械化してない、あくまでも簡易的な接続だけと考えるべきだろう。もしコイツが火力支援ユニットであるのならば─────分離機構が、あるはずだッ!!)
アームドフレームを組み替え、持ち手を握った剣は変形したフレームからビームガンを連射する。張り付いたまま駆動部に叩き込みと、黒竜は暴れ回り、のたうち回る。その隙を見逃すことはなく、剣は装甲の隙間に隠れていた────緊急用の分離レバーを引き抜いた。
直後、ファフナー・ユニットは煙を噴いて更に暴れ始める。分離機構、コアユニットとなった魔剣士が強化外装の破損、それによる誘爆などに巻き込まれない用の緊急装置。それが正常に起動したことを示すように、振り払われた無空剣の前で、黒い竜の姿が変化していく。
暴れ回っていた黒い竜から────小日向未来が解放された。シンフォギアを纏い、魔剣を埋め込まれた少女が排出され、その場に転がる。しかし平然と立ち上がり、黒い装甲を纏って武器を構える。彼女を洗脳し、コントールしているのはあちらのギアの方だろう。
「第一段階は完了した。次は第二段階、か」
【キュォォォォオオオオオオオンンン────ッ!!】
「やはり、自立稼働型か。未来の安全を優先して、最大の脅威である俺を単身で迎え撃つか」
強化外装は引き剥がせたことに一息ついた剣だが、やはり簡単には済むはずもなかった。見るとコアユニットである未来を失ったファフナー・ユニットが理由の姿へと変貌して、此方へ敵意を顕にしていた。
しかし、剣は手を握りながら淡々と告げた。
「好都合だ────お陰で邪魔をさせずに済む」
そんな剣に、未来が狙いを定める。本来の火力であるファフナー・ユニットとは分離されたが、シンフォギア単体とは違い魔剣士としての外付け武装はまだ残っていた。簡易式のミラーシールドに扇子型のアームドギア、軽装の鎧を纏う未来は剣への攻撃を再開しようとして────、
「────未来ッ!」
聞き覚えのあるその声に、歩みを止めた。振り向いた彼女の視線の先には、この場に居てはならないはずの────親友がいた。
「一緒に帰ろう、未来ッ!」
浮上してきた潜水艦、その上で立花響は向かい合う。ギアを纏い、戦場に立たされた親友に呼びかける。未来はバイザーを上下に開き、その目で親友を見据えたまま、口を開く。
「帰れないよ、だって私にはやらなきゃいけないことがあるもの」
「やらなきゃいけないこと?」
「神獣鏡のギア、このギアの輝きはどんな聖遺物やロストギアだって消し去ることができる。この力なら、この世界を平和に導くことだって出来るの。『彼女』は、そう言ってくれたの」
「争いのない世界…………誰がそんなこと言ったの?」
「分からない………でも、その人は私のやり方を後押ししてくれた。どうすれば響が戦わなくて済むか、剣さんが傷付かずに済むか教えてくれたの────これから先、二人を傷付ける人達を止められるような、温かくて優しい世界を作る力の使い方を」
未来は、自分自身の意思でギアを纏った。
これ以上戦いに傷つき、死に近付く親友を救う為に、響の恩人であり大切な人でもある無空剣、彼が苦しまないように済むように。だからこそ、その為なら何でもできる。
そんな未来の言葉に、響は不意に周りを見る。戦いによって煙の上がる艦隊、そして他ならぬギアを纏った親友を見つめ、響は疑問を吐露した。
「だけど、未来………こんなやり方で作った世界はあったかいのかな。私の一番好きな世界は、未来が側にいてくれて、剣さんや皆が幸せになれる陽だまりだと思うんだ」
「でも、響が戦わなくても、剣さんが苦しまない世界の為だよ?」
「たとえ未来と戦ってでも────そんなことさせないッ!」
「────私は、響を戦わせたくないのッ」
響の決意に、未来は強い声で言い返す。
途端に彼女の纏う鎧が不気味に蠢いた。未来の覚悟が嘘偽りではなく、その為だけに動こうという意志がそこには見えていた。親友の言葉を噛み締めた響は、悲しそうに笑った。
「ありがとう。でも私────戦うよ」
────Balwisyall Nescell gungnir tron♪
祈るように、それでいて心の底から彼女はその聖詠を歌う。自らの命を縮めるであろう歌を。その歌と共に、少女の姿は黄色と白の、撃槍の名を冠するギアを纏った。
マフラーをたなびかせ、立花響は戦場へと立つ。目の前にいる親友を、助ける為に。
◇◆◇
数分前、二課仮説本部の司令室にて。
「あのエネルギー波を利用して未来君のギアを解除する、だとぉッ!」
「響………お前」
『やれやれ、お茶目子だと思っていたけど、ここまで無茶苦茶な作戦を思い付く、とはねぇ』
「私がやります!やってみせますッ!」
響の言い出した内容────神獣鏡の力を利用して、小日向未来のギアを打ち消すというものに、その場の全員が驚きを顕にする。しかしその中でも冷静であった剣やノワール博士はそれがある意味最適解かつ、悪くない作戦であると理解していた。
もしうまくいけば、響の融合症例も何とかできる。だが、それを考えてもリスクがあまりにも高すぎた。
「だが、君の身体はッ!」
「翼さんやクリスちゃんに、切歌ちゃんに調ちゃんが、剣さんが戦ってくれてる中で今!自由に動けるのは私だけです!たとえ死んでも、未来を連れて帰りますッ!」
「駄目だ!死ぬのは許さんッ!」
「じゃあ死んでも生きて帰ってきますッ!それは絶対に絶対ですッ!!」
それでも、無茶は許せないと反対する弦十郎に、響がそう強く出る。彼女自身の覚悟、絶対に引けない、引き下がりたくないという覚悟に、押し黙るしか無かったのだ。
そんな響に、剣は呆れたように笑いを零した。
「そうだよな。決して諦めないのが、お前の良い所だ」
「剣さん…………わっ」
「あの鎧、ファフナー・ユニットは俺が引き剥がす。未来はお前が助けろ。それでいいな?」
『響クン、仮にも後方支援は必要だろう。私も微力ながら助力をしよう』
「剣君ッ!ノワール博士ッ!?」
「…………司令だって分かるはずでしょう。一度決めたら、響は折れませんよ。なら、俺達で支えてやる以外にない………違いますか?」
響の頭を撫でた剣の宣言とノワール博士の提案、それは響の無茶を肯定するものであった。驚きを隠しきれない弦十郎に、剣は明確な意思を示す。それに続くように、オペレーター陣も声を上げる。
「過去のデータと現在の融合深度から計測すると────響さんの活動限界は2分40秒になりますッ!」
「例え微力でも私たちが響ちゃんを支えることができれば、きっとッ!」
『と、いうことさ。風鳴司令────我々も大人の端くれ。子供の背中を押してあげるのが仕事だからね』
「………オーバーヒートまでの時間は限られている。勝算はあるのかッ!?」
「────思いつきを数字で語れるものかよッ!!」
最後の最後に問い掛ける師に、響はそう返した。今度こそたじろぐ弦十郎に、響は覚悟に満ちた目を向けて、不敵に笑った。そんな弦十郎へと調の中にいるフィーネが笑い出した。
「フフフッ、誰かさんに似たみたいね。弦十郎さん」
「…………全く、悪い所まで似てくれる弟子だな」
「悪い所?俺は良いと思いますよ────だからこそ、俺達はここにいる」
かつての事を思い出し笑うフィーネに、肩の力を抜く弦十郎。そんな彼の言葉を、剣は否定しながら穏やかに笑みを浮かべた。だからこそ、自分達は皆と今ここに居れているのだと。
◇◆◇
「ちょっと待つデスッ!お仲間さん、ギア纏っちゃダメじゃないんデスか!?」
「あの馬鹿!こんな時に正気かよ!」
「────あの人が望んだみたいだよ、切ちゃん」
「調!ようやく戻ってきたデスか!」
響の参戦に驚愕を隠せないのは、協力関係の切歌も同じであった。そんな三人に、別れたはずの調は戻ってくる。事前に話し合っていた無空剣のギアの封印を解除した。後は自由にやって構わないはずだ。
「────雪音!立花を援護するぞッ!」
「先輩分かってんのか!?下手したら今度こそ死んじまうんだぞッ!?」
「無空が動いたということは、無策ではないはずだ!立花が上手く立ち回れるよう、私達が手伝えば────」
「────そうはさせん」
響の援護に出ようとした翼達に、複数のレーザーが襲いかかる。飛び退いたクリスや切歌、調に襲い掛かるはレーザー攻撃を放つビット。そして後ろに飛び退いた翼に襲い掛かったのは、ビーム刃を展開する如月刹那であった。
アームドギアで光刃を受け止めた翼は両手に力を込め、刹那と拮抗する。
「ッ!邪魔をするか!如月刹那ッ!」
「それは此方のセリフだ────小日向未来の、アイツの邪魔をする気か?」
刀と刃の衝突の中、吼える翼の言葉を刹那は冷徹に切って捨てた。翼を弾き返し、十基のビットを操った刹那はその場に佇み、余裕そうな表情で告げた。
「アイツの望みは、俺の野望とは関係ないが、放っておくほど無関係ではないのでな。悪いが、邪魔だけはしないでもらうぞ」
◇◆◇
『────胸に抱える時限爆弾は本物だ!その代償が、確実な死であることを忘れるなッ!』
(死ぬ…………私が、死ぬッ)
戦いの最中、魔剣のロストギアの力を秘める未来の力は想像以上であった。力押しでは此方が有利だが、それを上回る手数が彼女にはある。殴り掛かり、無力化しようとした響に、未来は両肩のビームカノンを放ち、砲撃によって壁へと叩きつける。
そして繰り出される連撃の数々。肩から伸びるローブを鞭のようにして叩きつけ、クレーターを作るほどの衝撃で響の全身を殴打する。
熱を持ち、沸騰する自身の体内の異変を感じ取りながら、響は確信する。自身に近付く、カウントダウンの予兆を。
(────死ねるかァアアアッ!!)
その不安を、彼女は前向きと強い覚悟を以て撃ち抜いた。殴打の嵐の中、脚のジャッキを最大限まで展開して、反動で勢いよく蹴り上げる。
吹き飛ばされた未来は空中で姿勢を整え、即座に【閃光】を放つ。ファフナー・ユニットを使わずとも、その一撃は爆発を引き起こすほどの苛烈な極太レーザーであり、それを回避した響は空中を蹴りながら未来へと肉薄する。
「────立花響」
そんな彼女の姿に、マリアは表情を曇らせながらもある操作を始める。瞬間、エアキャリアから大多数のビットが射出される。プロペラとミラーを展開したビットは未来の放つ光を反射して、その光を一点集中させる。
『不味い響クン!間もなく危険域に突入する!どうにかして近付くんだ!』
「分かってます!でも、隙がまだ────ッ!」
「────私が、戦わなきゃ。これ以上響や剣さんが傷付かなくて済むように」
ビットから反射する光の雨と未来の放つ閃光の弾幕。その中で響は兎に角回避することしかできない。このままではジリ貧と分かっていても、今の未来には一縷を狙う隙すらなかった。
最中、未来は想いを吐露する。心の底から間違っていないとでも言うように、何かの光に魅入られたように、バイザーを纏う少女はボソボソと口走っていた。
「私が、全部背負うんだ。何もかも────この光で、二人を悲しませる闇を祓う。それが、『私』の望みなんだ────」
そして、その瞬間が来た。
胸の傷から黄色い結晶体。ガングニールの聖遺物の結晶が全身に走る。その身体を呑み込もうとする欠片の融合に響きは苦しみ顔を歪め────目の前で起きた光景は、未来の動揺を誘うには充分だった。
「────違うッ!私のしたかった事は、こんなことじゃない!」
『その身を委ねて。貴女の望みを果たすために、私は力も可能性も与える。身も心も────あの人の為に、彼女の為に』
「こんなことじゃ─────ないのにぃいいいいいッ!!!」
「っ!?────小日向未来ッ!」
「私の前で、余所見などッ!」
「ッ!場違いが!邪魔だと言っているッ!」
ズキズキと、頭が割れるように痛む。親友の苦しむ姿に、それを近付けてしまった自分に動揺を隠せない未来に、声が響く。穏やかでいて、冷酷なその声は未来の意識や思考を塗り替えようとするが、それでも少女の心は止められない。
悲鳴のような叫びと共に、未来の顔を覆うバイザーが割れる。離れて戦っていたはずの如月刹那が動揺したように顔を上げ、彼女の名を呼ぶ。すぐに戦いに戻ったが、彼の様子は明らかに揺らいでいた。
その瞬間にも、彼女の背中に埋め込まれた魔剣の欠片が妖しく光り、未来のギアが不気味に蠢いた。
────魔剣の意思が、未来の肉体を無理矢理乗っ取ろうとしているその隙を、響は見逃さなかった。
「────君と私、みんな、みんな♪」
(誰がッ!未来の身体を好き勝手してるんだッ!)
「────歩みきった、足跡に、どんな花が咲くのかなぁ?」
即座に蹴り抜いて距離を縮める響。彼女は既に気づいていた、今も尚未来の意識を呑み込もうとする何者かの意思を。親友の心を踏みつけにしようとする、明確な悪意を。強い怒り、それ以上の覚悟を胸に刻んだ響は────攻撃の手を止めた未来を抱き締める。
「ッ!離してッ!」
「嫌だッ!離さないッ!もう二度と離さないッ!」
「響ぃいいいいいいいッ!!」
正気を取り戻した未来だが、必死に彼女は叫ぶ。このままでは響が死んでしまうことに気付いたからこその、懇願である。だが、響はそれを拒否して、強く抱き締める。もう二度と、手を離したりはしない。慟哭するように叫ぶ親友を抱き締め、響は空を蹴っていく。
その先にあるのは、神獣鏡の光を集め、収束させたビットの群れ。大規模に収束され、今にも放たれんとする閃光へと、響は
飛ぶ。
「ソイツが聖遺物を消し去るって言うんなら────こんなの脱いじゃえッ!未来ぅううううううッ!!」
一つの収束された、神獣鏡の閃光が二人の姿を呑み込む。魔を払うその光は二人の身体に纏うギアを、体内を蝕む欠片を取り除く。そして光の中から落ちるのは、互いを抱き合い気を失った少女二人の姿──────それを彼は、見逃さない。
「────響っ!未来ッ!」
生まれたままの姿となった二人を、剣は何とか受け止める。心配して二人の顔を覗き込むが、どうやら気を失っただけらしい。良かった、と心から安堵した剣は────近くに漂う黒竜へ声を掛けた。
【キュォォォォ────……………】
「安心しろ。お前の主は無事だ────二人とも、な」
ファフナー・ユニットはあくまでも未来を案じているようで、無事だと分かれば敵意を無くして未来に寄り添うように浮遊していた。そんな黒竜の背中に乗り皆と合流しようとした所で────それを目にした。
突如、海面から伸びる光の柱。神獣鏡の収束させた光によるものだろう。ソレによって齎される光景は、ドクターウェル達にとって望み通りのものであった。
「────成功ですッ!封印は解除されましたッ!フロンティアが、浮上しますッ!」
大きな音を立てて、海面から巨大な遺跡が姿を見せる。ソレは、大規模な大地を示すような、巨大な箱舟。人類の希望となる、フロンティア計画の主軸となる遺物。海を割り、最終決戦の舞台が今、空に昇る。
「────感謝するぞ、小日向未来。F.I.Sの奴等でも、二課の奴等でもなく、これはお前の功績。お前が齎した実績だ」
事態に驚く翼達から距離を取った刹那は、沈み行く護衛艦の上で笑う。彼が向けるのは、協力していた少女への称賛と礼。それは一切の嘘偽りもない、紛うことなき本心。
「方舟に至る鍵は開かれた!後少しで、俺の目的に大きく近付くッ!滅び行く人類を救う為の力!それは英雄の物でも、誰の物でもないッ!世界を救済するその力は─────この俺のものだッ!!!」
不敵に笑う如月刹那。人類の希望たるフロンティアへの野心と野望を秘め、彼は最後の暗躍を始める。自らの望み、余すことのない力への渇望の為に。
────めて、もう────止めて────
笑い続ける刹那は、気付かない。彼に寄り添う、声を。縋るように、祈るように、願うようにその声は告げる。悲しそうに呟くその声は刹那の耳に届くことなく────ただ虚空へと消えていくのだった。
原作同様に、フロンティア起動までいきました。因みに案外ソロモンの杖の被害が少ないのと剣やノワール博士のアフターフォローもあって、クリスは離反()しません。
協力関係、利用し合う関係とか言っておきながら我先に心配する刹那…………とことん善性を隠しきれてない………
生まれたままの姿となった二人────ふぅん(面白そうな笑み)
剣「嫌な予感しかしない」
次回も感想やお気に入り、評価などよろしくお願い致します!それでは!!