戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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ディスティニーアーク

燃え盛る世界────硝煙に包まれた地獄を、少年は走り抜ける。必死に、全力で、息が切れそうになりながら、血反吐を吐きながら走る。金髪の少年は涙に濡れた顔を歪め、それでも前に進み続けた。

 

 

「────なんで?何で、僕達がこんな目に………?」

 

 

その背に背負う少女は、微かに息を漏らしている。しかしその鼓動は少しずつ弱まっていき、消えそうになっていく。溢れ出す少女の血に濡れながら、少年は泣きながら走り続けた。彼の問いは誰かに、世界に向けられる。

 

 

「どうして?どうしてだよ────ッ!?」

 

「────お前が弱かったからだ。如月刹那」

 

 

泣き叫んだ少年を、無慈悲な声が切って捨てる。

そして伸びる手が少年の喉を掴み、締め上げた。その相手は嫌悪と侮蔑に満ちた瞳を向け、少年を────如月刹那の首を圧迫する。

 

 

「ああ、そうだ。お前のせいだ、全部お前のせいだ。お前が弱くちっぽけで、何の力も持たなかったから────あの惨劇は起きた。皆を救えず、約束を果たせず────『彼女』を死なせた。お前が弱く、無能だったからだ!」

 

「────ぁ」

 

「弱い奴は何も変えられない。何も救えない!それが世界の真理だッ!そう知ったはずだ!泣いて喚いて、世界は変わったか!?変わらない!人も世界も!何もかもッ!────だったら、お前が変わる以外に無いだろ。如月刹那」

 

相手は────己自身だった。

魔剣士となった如月刹那はかつての自分の首を、へし折った。最も弱く、最も醜く、最も愚かな己の影を、自らの手で叩き潰す。光を失った瞳を見開く己の姿に、刹那は冷たく吐き捨てる。

 

 

「星を見失い、正義を失った愚か者────如月刹那。お前は何の為に力を求めた」

 

 

自らの姿を見下ろし、彼は『理由』を思い出す。

己の胸にある執着、力への余すことのない渇望の根源を。ある惨劇の果てに得た、正義の無力さ────絶対的な、力という名のルールを。

 

 

「俺は弱者になどならない。奪われるだけの弱い者に、弱さを受け入れる者になど、なるものか。俺は強者、常に上に立ち、理を打ち砕く者。俺は更に強く、更なる力を得る。────その為ならば、誰であろうとも殺してみせる」

 

 

刹那はそう告げ、燃え盛る世界を歩む。

しかし彼の足取りは何処か疎かであり、ふらついているようにも見える。彼自身、知るはずもない。弱さを捨てた、そんな風に振る舞う彼の瞳から流れる涙を。

 

 

────お願い、止まって…………刹那────

 

 

祈るような、縋るような少女の声を。

暗闇の向こうで、鏡に必死に張り付きながら叫ぶ少女の姿が過ぎる。何度も殴り付けたのか血の滲む手を叩き、少女はその名をずっと呼び続けていた。

 

────刹那も気付かないその声は、確かに誰かの耳に、目に止まっていた。

 

 

◇◆◇

 

「うぅん………」

 

不意に、響はメディカルルームのベッドの上で目覚めた。彼女の隣のベッドには寝かされている親友の、未来の姿もあった。何があってここにいるのか、思い出そうとする響に、声がかけられる。

 

 

「────未来は無事だぞ。当然お前もな」

 

「剣さん!ってことは、作戦は!」

 

「ああ、成功だ。お前の身体を蝕むギアも取り除けた…………そっちの方は何とかなったんだがな」

 

「?何かあったんですか?」

 

「未来の事についてだがな。少し困ったことになっているというか────」

 

「……………んん、あれ………?私────響!?剣さん!?」

 

 

隣に座っていた剣が軽く話していると、会話の声に反応したのか未来も目覚めたらしい。「未来ぅーっ!」と響が抱き着くのを見て、程々になと呆れながら剣は近くのリンゴを指の刃で剥き始める。

 

「…………あの、刹那さんはどうしました?」

 

「奴なら戦闘の最中姿を消した。奴のことだ、フロンティアで何を企んでいるやら────何かあったのか?」

 

 

ふと思い出したように聞く未来に平然と答えていた剣だったが、未来の様子を感じ取り、怪訝そうに顔をひそめる。問い掛けた彼に、未来は朧気な記憶を辿り、その理由を語り出した。

 

 

「声が、聞こえたんです」

 

「声………?」

 

「泣きそうで、悲しそうな女の子の声が。…………その声は、刹那さんを呼んでるように聞こえて………何か聞いてるだけでも辛そうで」

 

「未来もその声を聞いてたのっ!?」

 

「待て響。お前も聞こえていたのか?」

 

「はい………その、声だけですけど………」

 

 

二人だけが聞こえたその声。近くにいた剣はその声らしきものを感じ取れなかった。考え得る案として二つ。一つは恐らく、融合直前まで至ったギアのフォニックゲインが引き起こした現象。シンフォギア装者でもある二人ならば何があってもおかしくはない。そして、もう一つは──────。

 

 

(神獣鏡、あの光は…………二人にとって本当に使って良かったものだったのか?)

 

 

神獣鏡、魔を祓う光による副作用か副次効果。

ギアを破壊するあの光が、本当に人体に何も関与していなかったのか。影響があったからこそ、二人になにか異常が起きていたのではないか。

 

 

(────考え過ぎだ、無空剣。疑り深いのはお前の悪い癖だ)

 

 

最近、慎重過ぎている自分がいる。

ただの疑心暗鬼ならば良いが、ただの善意からの疑いであることは自分自身が良く分かっている。本当に自分は彼等が大切なのだ、と理解した上で軽く剥いたリンゴを皿に分けた剣は────二人の頭を優しく撫でた。

 

 

「わっ!」

 

「剣さんっ!?何を………」

 

「────二人とも、無事で良かった」

 

────この少し先、ある問題で頭を抱える羽目になることも知らず、無空剣は兎に角二人の無事を喜ぶことにした。

 

 

◇◆◇

 

『さて、本来の作戦通り響クンの体内からガングニールの欠片は取り除かれた。無事作戦成功────と言いたいが、少し困った問題がある』

 

少し後のメディカルルームで、翼やクリスを連れたノワール博士が現れ、現状の報告を始める。オペレーターの友里あおいに補佐されながら話し始めたノワール博士の話は、喜べる話ではなかった。

 

 

『小日向未来クン。彼女はエリーシャの手術により魔剣士へと成った。その際、彼女の首に埋め込まれた魔剣の欠片と装置は取り除かれなかった。あの神獣鏡の光を以てしても』

 

小日向未来の後頸部に埋め込まれたギアユニット────『C.Z.E.D』はあの光を浴びても尚、確かに健在していた。これに関しては予想外、というよりも相手のやり方を読み違えていた。

 

 

「ノワール博士、小日向のギアは分解できたのですよね?では何故、魔剣グラムの欠片だけが神獣鏡の光から逃れられたのでしょうか?」

 

『………ロストギアの原型たる魔剣の欠片を解析してきた私だが、これに関しては分からない。あくまでも論理的に反証するなら、ノイズの位相差障壁を相殺するように、魔剣にもそれに類する反転エネルギーが放射されているのか…………』

 

「────或いは、グラムが未来の身体から取り除かれることを拒否したか」

 

一人で呟いた彼の発言に、その場にいる全員が思わず耳を疑った。振り向いた彼女らの視線を向けられながらも、剣は切り分けたリンゴわ指で持ち上げながら、話し出す。

 

 

「あの時ギアを纏った未来の様子が変だった。洗脳されているだけと判断していたが、それだけではないのは俺も感じた。俺だけじゃない、響や…………恐らく刹那もそれを感じていたはずだ」

 

「でも、どうしてグラムは未来ちゃんに………?」

 

「肝心な事は、未来も覚えていないらしい。だが分かるのは、魔剣には意志がある。俺や未来を適合者として選んだのも、何かの理由があるのか?」

 

 

【魔剣計画】が魔剣士を造った理由。何故自分に与えられたグラムであったのか、その謎は未だ未知である。剣には何も分からないが、分からないだけでただ居座っているわけにもいかない。これからも、その謎について知っていく必要性がある。決意を深めた剣だったが、不意に翼が口を開いた。

 

 

「ふむ、小日向と立花も無事で良かった。あの二人を助けて離脱したのは無空だったと聞くが、何とも無かったようだな?」

 

「ああ、例のユニット────ファフナー・ユニットは回収した。どうやらアレはエリーシャの支配下ではなく、未来に懐いているようだったからな。今も大人しく待機してるようで…………」

 

淡々と説明する剣だったが、翼はそうではないと軽く笑う。何故だか妙に落ち着き払っており、笑顔である。妙に笑顔だな、と怪訝そうな剣を余所に、翼は話を続ける。

 

 

「いや、それについては理解してる。私が聞きたいのは、別のことだ。何、個人的な事について、な」

 

「………何の話だ?」

 

「そう言えば、立花達のギアは神獣鏡の光で破壊されたようだな」

 

「……………あぁ」

 

唐突に、剣の声が上擦った。

気の所為に期待するかのように遠くを見ようと必死な剣の様子に、響も未来も困惑を隠せなかった。立ち上がり、その場から逃げようとする剣だが、翼に呼び止められ、それも叶わず。

 

「────ちょっと、司令と話したいことがあった気が」

 

「まあ待て無空。すぐに済む…………その際二人を連れて帰ったのは無空だろう?安心してくれ、ただ確認したいだけだ」

 

「………………何をだ?」

 

「二人の裸体を眼にしたか否かについて」

 

 

その瞬間は、あまりにも一瞬であった。

恐らく遠隔で自動ドアを開けた無空剣は、飛び出す勢いで開いたドアの隙間を潜り抜け、全速力で通路を駆け抜ける。あまりにも速すぎる、逃げの姿勢。

 

勿論、その逃走を黙っている者はいない。突然の事にポカンとする響達を尻目に、問い詰めていた翼やクリスが動く。

 

 

「逃げ出した!追うぞ雪音ッ!」

 

「あぁ!アイツから色々と聞かなきゃなんねぇかなぁッ!!」

 

『あーあ、剣クン…………取り敢えず南無、だね』

 

 

内容が内容なので流石の博士も手助けできず、ただ言葉を送ることしかできないらしい。無情であるが、仕方ない。目の前で浮かぶドローンは、困惑していた響と未来の事情を察したのか、詳しく説明することにした。

 

 

『あー、ね。まず代わりに弁明するが、彼としては明確に悪意があったわけではないし、むしろあの時の状況からして仕方なかったことを考慮して欲しいんだが…………君達、あの光を浴びてから意識を失ってたろう?それを剣クンが保護して助けたのは分かるね?』

 

「はい、そこは分かりますけど………」

 

『────ギアを分解された君達が一糸纏わぬ姿になっていた、と剣クンから報告を頂いてんだが………ね』

 

「「…………………え」」

 

 

本当に言いづらそうに告げたノワール博士の言葉に、響と未来は二人して言葉を失う。そしてすぐに再起動した響は、衝撃のあまり大声を響かせた。

 

 

「え、ええええええっ!!?嘘ですよね!?裸って、顕になっちゃったんですかぁ!?」

 

『誤解しないでくれたまえ!私や他の男は見てない!そ、そうだ!彼だけ!剣クンはすぐに二人を連れて後であおいさんの元に運んできたわけだ!人目には晒してないから…………いや安心できないね!君達うら若きゃ乙女となると、尚の事だ!』

 

「は、博士落ち着いて下さい。………博士の言う通り、剣君はそこまで見ようとして見てたわけではないわ。二人を連れてきた後はすぐに目を隠してたから」

 

その場に剣がいれば、罪悪感でいたたまれなくなるくらいフォローしてくれる大人二人。本人の実績────如何に人格的に認められているかがよく分かる。無空剣の今までの行いから、二人もわざとではないとちゃんとフォローしてくれていた。

 

 

「うわぁ………見られたってなると、流石に恥ずかしいよぅ。もうお嫁さんに行けないかなって…………未来、さっきから静かだけど、平気?」

 

「うん。あまり人目についてないなら、別にいいかなって……………ねぇ、響」

 

「何?未来」

 

「────もしも時は、剣さんに責任取ってもらお?二人一緒に」

 

「「『えッ』」」

 

恥ずかしがりながらも項垂れる響に、未来からの衝撃的なフォロー。これには響はおろかフォローしてくれたあおいやノワール博士も言葉に詰まるしかなかった。

 

 

────一方、逃避行を続ける剣達の方は。

 

『クッ!挟み撃ちか!確かに!俺が二人の裸体を見たのは事実だ!だが、状況が状況だ!別にガン見してたわけじゃない!』

 

『潔く認めたな!その正直さに免じて話はキチンと聞こう!』

 

『待て!ホントに待て!あの時は状況が状況だったと言ってるだろ!?俺だってその事を考えてたからこそ迅速に二人を連れてきたんだ!ここに来た時だって身体見ないように、見せないように頑張ったんだぞ!!』

 

『はぁん?じゃああいつらの裸は覚えてはねぇんだよなぁ?急いでってった言う訳だしよ』

 

『………………………黙秘権を行使するッ』

 

『あってないようなものだ!黙秘権などッ!』

 

『クソ!責任は取るつもりだが────こういうのは望んでいないッ!!』

 

 

その後、無空剣を追い回す翼とクリスの騒ぎは事態に気付いた司令により鎮圧され、お叱りを受ける羽目になった。いの一番に逃避した剣も含めて。

 

『何で俺までッ!?』

 

残当である。

 

 

◇◆◇

 

その数分前、オペレータールームにてある反応を観測した弦十郎達は警戒を強めていた。海面から突如浮上したフロンティア、そこに向かう米国の大艦隊。フロンティアを攻撃するように見えるその軍勢に、通信を繋げていた柴田事務次官は麺を啜りながら告げる。

 

 

『まさかアンクルサムは落下する月を避けるため、フロンティアに移住する肚じゃあるめえなぁ』

 

 

否定はしきれない。

現にフロンティアの存在を知りながら今まで黙秘してきたのは米国政府である。しかもノワール博士から得た情報であれば、米国政府はフロンティアを方舟とした上で────自分達の選んだ人間のみを救う、救済の選別を行おうとしていたと言う。

 

それが本当であれば、米国政府はフロンティアを制圧次第、どう動くか分からない。場合によって、自分たちがその相手をする必要がある可能性も高い。そう思っていると、突如モニターが新たな反応を表した。

 

 

「何事だッ!」

 

「近海に、正体不明の反応有り!妨害電波による詳しい確認はできず────こ、これはッ!メッセージです!アンノウンからメッセージが送られました!」

 

モニタリングされるのは、海上を水上バイクで駆け抜ける一つの影。米国の大艦隊とは反対側を向かうその影はあまりにも小さく、ただ一人で無謀に思える行動であった。

 

しかし、送られたメッセージを見た弦十郎や緒川の顔が険しく引き締まる。メッセージの内容、送り主は味方であった。しかし素直に味方とは言い切れない、そんな立ち位置の関係者である。

 

 

「風鳴機関のエージェント────親父も動いてるというわけか」

 

険しい顔でモニター上に浮かぶ人影を睨む弦十郎。何故、どうして彼等が現れたのかは定かではない。しかし警戒心を胸に秘める弦十郎はモニター上の男が此方を見た事に気付き、更に驚きを隠せなかった。

 

 

◇◆◇

 

「────アレが二課。序列三位の新しい拠り所か」

 

 

ヘルメットを脱ぎ捨てた銀髪の青年、彼は冷徹に海を────潜水しているはずの潜水艦をジロリと睨みながら、立ち上がる。バイクを脚に踏みつけ、無線機を取り出して彼は周りを見渡す。

 

フロンティアを静かに見据えた男は目を細めながら、無線機に向かって語り掛ける。

 

 

「………此方、ロード。目標地点、フロンティア付近へと到着した。これでいいな、翁」

 

『────状況は、どうなっている』

 

「フロンティアは海面から上がったが、あの様子だとまだ何かあるな。米国の奴等が急いで集まってきたのを見るに、アレ単体でもそれ相応の力を持っていると見るべきか」

 

 

距離にして数百キロは超えているにも関わらず、男は迫る艦隊が米国のものであると見抜いていた。水上バイクに足を掛けた男はその手に────巨大な大剣を出現させ、無線越しに問い掛けた。

 

 

「数は15隻の大艦隊。これ以上増える可能性が高いが────どうする?」

 

『どうする、とは?』

 

「全て沈めるか、適当に半数は殺すか。精々俺に出来ることは荒事、武力行使だ。口を割らせるか拷問ならば何人か生かす。サーシャかペイルを呼べば可能だが────どうする、翁」

 

『────不要。お主の出る幕ではない』

 

厳かなその声に、ロードと呼ばれた青年は手に握っていた体験を消し去る。その間にも、老人の声は続く。

 

 

『元よりお前達は護国の要、最終防衛線そのもの。お前が動く時は、万が一であるべき。まだ事態が悪化する可能性は少ない以上、お前達の存在を明るみに出すわけにはいかぬ』

 

「…………面白いことを言うな。まるで俺達がお前の下僕みたいな言い方に聞こえるが?」

 

『勘違いするな。行き場のないお前達に場所を齎したのは、この儂。儂無くして、お前達がどうやって姿を隠す?そのような態度を見せるのであれば、まだ寝ているお前の仲間、本体を如何様にでも────』

 

「────貴様こそ、勘違いしているな。老害」

 

 

無線機を握る手が、軋む。無機質でありながらも響くような声は、無線機はおろか周囲の波を震わせるほどの重圧を秘めていた。この場にいないその老人ですら、その身に力を込めさせるほどのものが。その声には、含まれていた。

 

 

「我等がお前に与するのは、お前が利を示したからに過ぎん。護国、日本国の為に敵対しない判断を選んだのは貴様だ。一体何時から立場が上だと勘違いした?その気になれば、我等はこの国を火の海に沈めることも容易いことを忘れるな」

 

『────貴様こそ、儂の前で国を盾にすることの意味を忘れるな』

 

「知った上でやっている。我々はあくまでも協力関係。貴様が我等を利用し、我等も貴様を利用する。互いに協力しているのだ、出し抜こうなどと考えぬ事だな」

 

 

互いに顔を合わせていないにも限らず、睨み合うような鋭さを放つ二人。あくまでも仲間ではなく、利用し合う立場であるらしい。そんな最中、口を閉ざしていた老人が重い口を開く。

 

 

『ロード────■■■■よ、お主に問う。完全起動したフロンティア。米国がそれを掌握した場合、落とすことは可能か?』

 

「─────一時間もあれば、容易く」

 

『それは、あの「無空剣」でもか?』

 

「本来想定された奴の性能であれば、それくらいは可能だろう。奴は魔剣士としては『拡張性』を主軸にした魔剣士。今の奴であれば、精々敵の殲滅が限界だろうな」

 

 

風鳴機関の老人が告げたその名、■■■■の冠する魔剣士の呼び名を受けたロードは、平然とそう語った。彼にはそれをするほどの強さ、実力があるのだろう。そして、無空剣の本質と彼の秘められた才能を知るロードは、不意にある可能性を考慮した。

 

 

「だが、それをやれば犠牲は多くつくぞ。あれだけ巨大な物体を海に落とせば伝波する津波も大きくなる。日本国であれば沿岸は巻き込まれるが、それでも構わないか?」

 

『────護国の為、日本が在る為ならば、安い犠牲よ』

 

 

無線機はそう言って切れる。ロードはその意味を理解する、事態が動くまで待機しろ、動く時には連絡するというものだ。無線機を懐に仕舞った男は、自らの真意を顕にする。

 

 

「数万、数十を超える犠牲を安いと言うか。相も変わらずイカれた爺だな」

 

 

そう言って、ロードは足元の水上バイクの状態に気付く。どうやら無意識に放った気迫によりショートしてしまったらしい。元より今から引くつもりも無いし、急ぎではないから構わないが。

 

唐突に、ロードは何処かを見る。

少し前までに起きていた戦闘────装者四人を相手に拮抗していた魔剣士。その青年の姿を思い出し、ロードは目を細める。

 

 

『殺してやる!お前は、お前だけは殺してやるッ!絶対に、僕が、俺が殺してやる!お前の全てを、この手で奪い尽くしてやる!■■■■ォ!!』

 

「────期待しているぞ。この俺を、■■■■を殺すことを」

 

 

瞳に過ぎるのは、昔の記憶。

燃え盛る世界で憎悪に燃える少年の怨嗟に満ちた怒号を思い出し、ロードは淡々と告げる。自らの胸に埋め込まれた、虹色に輝く武具の欠片を撫でながら。

 

 

◇◆◇

 

 

フロンティア最深部。

ジェネレータールームと呼ばれるその場所に辿り着いたマリア達一行。古びた巨大な装置の前に歩み出たウェル博士は厳重なケースから取り出したネフィリムの心臓を動力炉へと押し当て、強制的に合体させる。未だ稼働するネフィリムの心臓は動力炉に結合し、フロンティアにそのエネルギーを行き渡らせ始める。

 

 

「ネフィリムの心臓が………」

 

「心臓だけとなっても、聖遺物を喰らい取り込む性質はそのままなんて……………卑しいですねぇ」

 

「フロンティアにエネルギーが行き渡ったようですね………」

 

「さて、僕はブリッジに行くとしましょうか。ナスターシャ先生は制御室でフロンティアの面倒をお願いします。マリアに、シオンは同行してくださいね」

 

 

稼働し始めた動力炉を背に、ウェル博士はマリアと、そしてシオン・フロウリングを連れてその場を離れる。制御室へと向かうナスターシャはそんなウェルの背中を険しい眼差しで睨んでいた。

 

そんな事も知らず、ウェル博士はマリア達と共にブリッジの部分へと辿り着く。エレベーターでその場に辿り着いたウェル達だったが、操作端末はまだ動いていない。そもそもどうやって操作するかも分からないが、その心配はないようだ。

 

 

「それは………」

 

「LINKERですよ────聖遺物を取り込むネフィリムの細胞サンプルから生成したLINKERです」

 

 

捲った左腕に注射器を押し込み、LINKERを流し込む。するとウェル博士の左腕は異様に変質し、ネフィリムの腕のようなものへと変化する。その手で制御端末に触れたウェル博士は、簡単に端末をコントロールした。

 

 

「早く動かしたいなぁ………ちょっとくらい動かしてもいいと思いませんか?────ねえ、マリア」

 

「…………っ」

 

「一つに繋がることでフロンティアのエネルギー状況が伝わってくるぅ…………これだけあればいきり立つぅ………ッ!」

 

突如、フロンティアから放たれる光の柱。中央の三つの柱から放たれた光の螺旋は手の形へと様変わりして、宇宙へと至る。伸びたその手が月を鷲掴みにすることで、フロンティアは震動する。

 

 

「────どっこいしょおおおおおおおおッ!!!」

 

 

その力により、巨大な方舟が空へと引き揚げられる。

巻き込まれた二課の潜水艦も打ち上げられるが、ウェル博士には最早興味はない。彼の意識は更に浮上したフロンティア、その余りある力に向けられていた。

 

 

「手に入れたぞッ! 全てを蹂躙する力ッ!!これで僕も、英雄になれるッ!この星のラストアクションヒーローだァアアアアアアアアアッ!────いぃぃっやったああああぁぁぁぁッッ!!!」

 

 

興奮し大絶叫を響かせるドクター、そんな彼とは裏腹に、制御室に居たナスターシャは端末を操作してフロンティアに保管されているデータを解析していた。

 

「恐らく、エリーシャ博士はこれを予見していた。彼は、ドクターが暴走することを考慮した上で、我々に手を貸していたのですね。月の落下を、本来よりも早めることを」

 

「────加速するドクターの欲望。エリーシャ博士、或いは誰かの野望──────それらが手遅れになる前に、私の信じた異端技術で阻止してみせるッ!!」

 

 

◇◆◇

 

 

「────浮上したフロンティア、支配権はあの男に渡ったか」

 

 

フロンティアの大陸の一部に隠れていた刹那。彼は中央の塔を見上げ、忌々しそうに吐き捨てる。フロンティアを浮上させることまでは想定していたが、ドクターが完全掌握できたことは少し予定外だ。

 

お陰で横から掻っ攫うことが難しくなった。

 

「一撃で殺すか?いや、駄目だ。そうなってはネフィリムの心臓が暴走する。俺はまだ動くべきではない、俺が奴を狙えばドクターは逃げ出し、何をするか分からない。最も俺の最適な状況を作るには─────」

 

 

野望の為にどう動くか暗躍していた如月刹那。ここで立ち回りを誤れば、自分の目的は果たされない。ならばどうする。そう考えていた刹那の目に、あるものが留まる。

 

 

「…………土壇場だが仕方ない。奴等を利用するとしよう」

 

 

ニヤリと妖しく笑った刹那は、自らの視線を共有させたビット越しに見える景色────二課の潜水艦を見つめる。勝利者となるために、絶対強者となるために、如月刹那は暗躍を深めるのだった。

 




刹那の過去という明らかに壮絶かつ悲劇的過ぎるもの。因みに刹那の嫌いなものには弱い者とありますが、それより前に自分が出てくるくらい昔の己を嫌ってます(弱いし何も守れなかったから)

そして風鳴のジジイと手を組んでいる何者かの存在。意味深な描写してんじゃねー!続き書かなきゃいけなくなるじゃねぇーか!書くけども!!

調子に乗りまくってるドクターと横取りする気満々の刹那。ドクターも可哀想に………天敵(ノイズもアンチリンカーも効かない魔剣士)が二人もいるんですよね…………まぁ同情の余地はこれっぽっちも沸かないけども。

最終決戦目前となります!次回もお楽しみにくださいませ!お気に入りや感想、評価などもよろしくお願い致します!
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