戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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無機質な兵器

真夜中の展望台。

剣は自分を『魔剣士(ロストギアス)』────この世界で知る者は数少ない名で呼ぶ少女と相対していた。

 

 

露出が多い銀色の鎧を纏う少女。その姿に帯びる眼光やオーラが『裏を良く知っている』人間のものだというのも、すぐに分かった。

 

 

 

そして何より、

何故無空剣の呼び名、別称を知っているのか。彼等をカテゴリーすると同時に、普通とは違うと区別する為の呼び名を使うのか。

 

 

 

 

 

 

「…………俺が目的だと?何の狙いがあっての事だ」

 

眼を細めて剣は少女の真意を問い質す。それは情報収集でもありある種の狙いがあった。

 

 

対して少女は小馬鹿にするように笑う。嘲りという悪意が込められてない、正真正銘の笑いだ。

 

 

「はっ!あたしが答えると思ってんのかよ?」

「まさか。馬鹿正直に答えてくれるとは微塵にも」

 

 

即答された事が意外だったのか少女は少しだけ唖然としていた。そんな彼女の様子など気にせず、剣は更に言葉を紡ぐ。

 

 

「ただ数秒も稼げれば十分だっただけさ。それくらいなら間に合うだろ」

 

 

あ? と相手がそんな声を漏らした直後。真後ろから二つの人影が飛び出してきた。

 

だが彼は身構える素振りすら見せない。敵対する必要の無い相手だと理解してるからだった。

 

 

「剣さん!」

「無事か───ッ!」

 

 

月光りに照らされた二人、立花響と風鳴翼と合流する。タイマンから三対一、一気に追い込まれた少女は忌々しげに剣を睨み付ける。

 

 

 

「…………なるほど、増援を呼んでやがったのか」

「さぁ?どうだろうな」

 

そうは言うが、少女の言葉通りだ。彼女が現れるより先に剣は二人に連絡を送っていたのだ。彼女達も困惑していたが、他のノイズを殲滅して来てくれた。

 

 

 

 

「貴様………その鎧は」

「へぇ?この鎧を知ってるんだ」

「…っ!二年前、私の不手際で奪われたものを忘れるものか!何より私の不手際で奪われた命を!」

 

 

(博士、情報を)

(話によるとあれはネフシュタンの鎧。二年前翼クンがもう一人と共に起動させた完全聖遺物らしいね。もしやすると響クンがガングニールの破片と融合した時と同じかもしれない)

(なるほどな)

 

 

激しく反応する翼の気持ちが理解できる。自分が関係しているものが目の前に出てくれば感情を露にしてしまう。それは剣も同じ、だからこそ共感できた。

 

 

 

「翼さん!剣さん!待ってください!相手は人です、同じ人間ですよ!?」

「だからこそだ、響」

 

 

困惑しながらの言葉を冷徹な声で遮る。戦いというものをよく知っている戦士が、まだまだ未熟な戦士に忠告を教える。

 

 

「人間が相手だからこそ気を付けろ。機械やノイズとは違い、意識や知性を持って戦う存在だ。何なら悪意すらも想定に入れておけ」

 

 

そんな、と響は言葉を失う。覚悟を示したと言っても、同じ人間と戦うことになるとは思ってもいなかったのだから。

 

 

「で?話は終わったか?さっさとそいつを連れて来たいんだよ。出来ればそっちの鈍臭そうな奴もな」

 

「………随分と余裕そうだな。まさか私達がいるという事を忘れているのか?甘く見られたものだな」

「……………あー、そっか。三対一だと思ってのか」

 

平然とする少女は深く息を吐く。あくまでも余裕の態度を崩さない彼女の目に装者の二人は写っていない。

 

用など無いと示すように、短く吐き捨てる。

 

 

 

「悪いが、お前らの相手は既にいるんだよ」

 

それこそ嘲るように笑う少女はいつの間にか何かを手にしていた。

 

 

 

(…………あれ、は?)

 

見覚えがあった。

掌に合う大きさの端末、一瞬だがスマートフォンを疑わせるようなもの。しかしリモコンにも似ている。

 

 

一瞬だけ、剣は動きを止めてしまった。本来の彼なら何かをされる前に遠距離の攻撃で妨害を行うのだが、それが目に入ってしまった事で思考が遅れたのだ。

 

 

 

 

「どうせノイズじゃあ足止めにすらならないしな。人間と戦いたくねぇってんならコイツが適任って訳だ。さぁ!容赦なく吹き飛ばせッ!」

 

 

 

カッカッカッ! と少女の指が端末を叩く。液晶の画面を何度も滑る指が何度か連打する。端末から信号が発せられ、何処かへと送られていく。

 

 

 

 

ドォン………! と。

大きく地面が揺れた。彼等のいる場所だけではない、この付近に震動が発生しているらしい。そして、更に震動は続いていく─────少しずつ、大きくなっていた。そこで三人は、ようやく異変に気付いた。

 

 

少女の真後ろ。暗闇に溶け込んでいた木々が一際盛り上がっていたのだ。夜というのが災いしてその存在に気付くのが遅れた。巨大な影は、木を薙ぎ倒して広場へと出てくる。

 

 

 

 

「なんだ、あれは………?」

「ろ、ロボット?」

 

月の光に照らされた『影』の正体に身構える翼と響は目に見えて狼狽える。何しろ、ノイズという常識外の存在の相手をしていても、ここまでの存在は知り得なかったからだ。

 

 

 

 

それは、彼女らの予想通り機械(ロボット)

小さな二本の脚に相反するように巨大な胴体と両腕が特徴的だった。頭部らしきものは存在せず、胴体の中心にはキャノン砲のような穴とその周囲にセンサーやレンズが搭載されている。

 

それでもやはり、腕が特徴的だった。大きさは体長の何倍もあり、コンクリートを掴み砕く事も可能かもしれない剛腕は、削岩機の類いだ。

 

 

 

だが、剣は彼女達とは違う部位を見ていた。胴体部分に側面に綴られたアルファベット、機体名称だろうか。それを目で追っていく。

 

 

 

LOSTGEAR_ARMAMENT

Huge emper_Albion-markα

 

 

「────巨皇、『アルビオン』」

「へぇ、こいつを知ってんだな!お前ら用に借りた代物だよこいつは!」

 

そんな少女の真横で『アルビオン』は巨大な機械音を響かせる。巨大な重低音は兵器と言うよりもエンジンを連想させる、爆音を。

 

 

戸惑う響と翼、二人の近くで剣はただ固まっていた。それを、巨大な兵器について知っていたからだ。詳しい能力ではない、製造元についてを。

 

 

 

 

 

装甲に刻まれたあのマークを忘れるはずがない、あれは【魔剣計画】の副産物。多大な実験の果てに造られた魔剣の断片、そしてコアとなるものを埋め込まれた兵器。

 

空間そのものに振動を響かせ、衝撃波として放つ攻撃や空間振動を利用した防壁を張るなどの機能があるが、彼にとっては重要ではない。

 

 

 

 

 

あの組織───【魔剣計画】が造ったものがある、それが何より優先すべき事実だ。頭の奥が熱を帯び、炸裂する感覚が巻き起こる。

 

 

 

怒りという感情、『魔剣士』として完成した日から抱き続けた激情が、爆弾のように膨れ上がる。白熱した思考のまま、彼は吼えた。

 

 

 

「…………お前らも関わってるのか、あいつらに!!」

「知りたいならあたしを倒してみろ!まぁ無駄だろうがな!!」

 

 

その叫びにクリスは片腕を振るう。その動きに連携するように鎖状の鞭が叩きつけられる。鬼気迫る顔で剣はそれを払い除け、突貫する。いつの間にか、戦いの火蓋は切られた。

 

 

それを何とかしようと翼が動く。遅れて響も身構えて走るが、少女の方が早かった。

 

 

 

「────やれ!アルビオン!そいつらを足止めしろ!!」

 

 

端末越しに少女が命令を飛ばし、ようやくアルビオンは動き出した。ガン、ガン、と重い脚で二人の前へと出る。

 

 

「邪魔だ!」

 

 

────蒼ノ一閃

 

自らの刀剣を振り上げ、蒼ノ一閃を『アルビオン』へと斬りつける。素早く動けないアルビオンは斬撃を直撃して、ドォン! と後退する。

 

 

しかし、

 

 

「………無傷、だと?」

 

勿論これで倒せるとは思っていなかった。傷を与える事で響と連携して、動きの遅さから死角を突いて行こうと考えていた。

 

 

だが『アルビオン』には傷一つも付いていない。実を言うと直撃したと思われていた一撃は、命中すらしてなかった。

 

 

先程も解説したが、『アルビオン』の主要武装は振動衝撃波。内部で音と音を反響させ続け、強力な砲撃にも等しい透明の爆撃を放つ。それは攻撃だけに使える訳ではない、扱い方ならば目の前に振動のバリアを張って攻撃を防ぐことも可能なのだ。

 

 

だから、風鳴翼の蒼ノ一閃を防ぐことも容易い。考えようによっては、『アルビオン』が防御を実行する程の威力、そう思えれば楽観視出来るが、現状はそこまで優しくない。

 

 

 

次の攻撃に入ろうとした翼だったが、

 

 

 

ガォンッ!

 

 

「─────がはっ!?」

 

爆音と共に宙を舞っていた。攻撃の予備動作すら見えない、透明の砲撃がその本領を発揮する。一般人なら全身がグチャグチャに砕けていたであろう一撃を受けて、五体満足であるのはシンフォギアを纏っているからかもしれない。

 

それでもダメージは確かにあった。よろけながらも立ち上がろうとする翼に『アルビオン』をゆっくりと動き出す。追撃を行おうと片腕を持ち上げる。

 

 

 

 

「うぉおおお!私だってぇ!!」

 

 

背を向けた巨体に殴りかかろうと響。無謀かもしれないが、一瞬だが翼から注意が逸れた。これにより翼を追い詰める攻撃は遮断された。

 

しかし『アルビオン』は身構えるなどの反応しない。ただ振り上げた片腕を地面へと叩きつける。

 

 

ゴォォォン!!

 

 

…………世の中には空気を震わせる事で音を鳴らす楽器があるらしい。『アルビオン』のそれも似たようなものだ。しかし違う所がもう一つある。

 

 

集音機能。自身が発生させた衝撃と音を内部の倍増機器によって増幅させる為に、周囲の衝撃と音を集める機能がある。そして、近くで引き起こした衝撃も、制御下にあるという訳だ。

 

 

つまり、どういう意味かと言うと。

直接的に攻撃しなくても相手に衝撃波を飛ばせる。それは真後ろからでも変わらない。

 

 

「うわぁぁあああっ!!?」

 

突然全身に襲いかかる衝撃波に響は構えも取れずに吹き飛ばされる。空気の爆発と共に何度も地面をバウンドして、近くの木に叩きつけられる。

 

 

 

「ッ!二人とも!」

 

一瞬で追い込まれた少女達に剣は焦りの声を飛ばす。相手はあの【魔剣計画】の兵器だと思えば仕方ないが、そう楽観視してる暇はない。

 

 

「余所見してる暇があんのかよ!余裕そうで何よりだなぁおい!!」

「───!」

 

叩きつけられようとするムチに剣は何とか回避行動を取る。バク転するような形で跳ね、自らの両腕の装甲を大きく開かせると同時に、何かを射出した。

 

 

二つの刃が重なっている円形の武装。兵装名、『ディナァス・カッター』。遠距離から敵対対象を攻撃して相手を撹乱する為の軽量武装。装甲から放たれてブーメランのように空を舞った二枚の刃が少女に迫り来る。

 

 

 

「そんな見え見えの攻撃なんざ───効くわけねぇだろ!!」

 

 

両肩のムチを振るい、『ディナァス・カッター』を真っ二つに切り捨てる。それほど硬くなかったのか、あっさりと分断されてしまった。

 

 

 

しかし、攻撃を防いだ少女は怪訝そうに顔を歪めた。目の前で青年が小さく笑っていたからだ。狙い通りにいったと確信する笑みを浮かべて。

 

 

(なん────ッ)

 

そう思った直後、真っ二つにした『ディナァス・カッター』の残骸から小さな球体が飛び出す。ビー玉サイズ程のものが目の前に来た途端、勢いよく炸裂した。

 

 

そして、視界の全てを光が呑み込む。少女が気付いた時には僅かの間、視力を奪われた。

 

 

 

 

さてここで解説に入ろう。

彼が使用したのは、『目眩ましの刃(ディナァス・カッター)』という兵装。切断機のような形状と刃は全て陽動のようなもの、その真価は奥に組み込まれた照明弾なのだ。

 

 

 

そして、その照明弾で隙が出来た。少女が何とか眼を開こうとする数秒だけの猶予。剣にとって、それだけの時間はチャンス所ではない。

 

 

 

(取った────ッ!)

 

漆黒の装甲の中からカシャン! と組み換えられる。数秒の間、剣は人を越えた動きを見せた。変形した事で出現した鋭いエッジで少女に斬撃を与える。急所に入ったようで鎧に大きな傷が入り、少女の顔が苦痛に染まっていた。

 

 

 

が、しかし。

少女の顔が更に歪んだと思えば、鎧が音を立て始めた。先程斬りつけた傷痕は数秒にして完全に消え去る。

 

 

完全聖遺物、その恐ろしさは前々から聞いていたが想像以上だった。

 

 

(駄目だ!火力が足りない!あの鎧をどれだけ攻撃してもそれ以上の再生能力で上書きされる!あの全身の棘のダメージも此方に響いてくる!今以上の火力でなら何とか出来るが……………)

 

 

剣は躊躇していた。『魔剣士』としても、彼個人としても。ある事実が彼の脚を引っ張る鎖と化していたのだ。

 

 

(力の加減で相手を殺してしまう!此方は【魔剣計画】について聞き出さなければならないのに!)

 

 

この焦りは『アルビオン』の登場が起因してるだろう。少女の奥に─────彼をこんな風にした【魔剣計画】の存在がある可能性、それが彼から平常な判断を削いでいた。

 

 

 

だからこそ、目の前から飛んで来た白の球体に、対処が遅れた。膨大なエネルギーが足元に着弾した直後、大爆発を引き起こす。

 

 

 

「がッ───あああああっ!?」

 

至近距離での破壊は、『魔剣士』でもダメージは入る。何より聖遺物を越える完全聖遺物の力だ、直に受けたのなら損傷は酷いものだろう。

 

 

意識を失わずに持ちこたえたのも良い方だ。地面に叩きつけられた剣はそう思いながら、何とか立ち上がる。だがこれ以上ダメージを受けるのは危険だ、またあれを受ければ耐えられる保証は無い。

 

 

「はっ、もうそろそろ沈むか。何ならもう一発ぐらいで十分だよな」

「………っ」

「無様だよなぁ、話に聞いてた『魔剣士』がこの程度なんて。そんなんで何か出来ると思ってのか?」

 

 

『───一応聞くけど、君に何が出来るんだ?人を殺す、国を滅ぼすしか機能を持たない君に』

 

 

「うる、せぇ………」

 

 

脳裏に、声が響いてくる。それは彼の経験が蘇ってくる、走馬灯と言う現象のかもしれない。最初に響いてきた忌々しい声は少女の言葉と重なり問いかけてくるが、剣は苛立ちのままに否定した。

 

 

 

だが。よりによって。

聞こえてきたのは二人の声だった。剣の生き方に、人格に、全てに影響を与えた二人。そして、理不尽に殺されてしまった大切な仲間の。

 

 

 

『────私達ってさ、誰かを守るために生まれたのかな?』

 

 

『考えすぎだよお前は、もう少し楽しんで生きようぜ!』

 

 

「…………後悔、するなよッ」

 

奥歯を砕きかねない程の力が入る。頭の中での理性が、憎悪となって爆発した。

 

 

「魔剣!限定外装(フレームアウト)、セット!」

 

《《グラム》フレーム解除、セカンドギア解放》

 

ガシャ、ガシャン! と彼に纏われていた装甲が動く。すると全身を更なる装甲が覆い、その姿が少しだけ、変わっていく。

 

 

セカンドギア、それは無空剣の制限の一部だけを解放した形態(フォーム)。段階的に下げられていた基礎能力を解き放ち、戦闘力を向上させる手段の一つ。

 

 

それだけは終わらない。

 

 

 

「コード666────アビス・ドライブ」

 

言葉と同時に変化が起こった。全身の隅々から青暗い闇の色をした光が伸びる。彼の肉体を侵蝕するように、指先に至るまで。

 

 

────手加減をするのは止めた。目の前の少女がどうなろうが関係ない、そもそもそんな事など頭に無かった。

 

 

 

殺してでも【魔剣計画】の情報を吐かせる。彼は自らの憎悪のままに最悪の選択を決めてしまった。誰が悪い訳でも無い、全ては彼を造った者達の想像の範疇通りに。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、司令室。

 

 

「高エネルギー反応!剣君を中心に正体不明のエネルギーが発生中!」

「すぐにエネルギーについて解析を!」

「不可能です!解析しようとした途端、エラーになってしまいます!」

 

オペレーターのあおいの報告にそう指示を出す弦十郎だが、朔也からの叫びが意味をなくす。

 

 

引き続き調査をと指示した弦十郎はモニターを見つめる。その上で起きている説明不能な出来事に困惑するしかなかった。

 

 

「………彼の身に何が起こっているんだ?」

 

そう思う中、モニターの端にブレが走った。隅に浮かぶ四角の映像には白衣姿の男性が映り込む。

 

 

 

別世界越しから現状を観察していたノワール・スターフォンは顎を擦る。何処か落ち着きがある様子で困ったように呟いた。

 

 

『まさか、《アビス・ドライブ》を使うとは。彼にしては焦っているな、まぁ【魔剣計画】が関わってるなら仕方ない』

「ご存知なのか、彼に起こっていることを」

『…………あれは諸刃の剣のようなものだ』

 

 

真剣な弦十郎の詰問にノワール博士は皮肉るように言い、

 

 

『自らの全神経を強制的に活性化させ、一定の時間より強力な力を発揮できる…………というのは建前でね。《アビス・ドライブ》はより効率的に戦闘を行う為のもの。つまる所、本人の精神的負担を少なく敵を排除するための機構さ。どさくさ紛れにセカンドギアまで解放するとはね、出来る限り最小限の犠牲と本気で倒すつもりか』

 

彼にして早計な判断だ、と軽い声音の割には真面目な顔で漏らす。なるほど、と頷いた弦十郎は険しい顔を緩めることはない。

 

 

「それはいいが……………ノワール博士、聞きたい事がある」

『何かね?』

「あれに副作用はあるのか?自らの肉体に負荷をかけているとかの問題があったりするのか!?もしそうならば今すぐ止めさせなければならない!!」

『…………安心するといい、セカンドギアによる行使だから大した後遺症は無い。副作用は────激しい出血に数時間の失神くらいだ。それと、戦いの後に治療の準備くらいは必要だろう』

 

 

クソ! と悪態をつき自らの拳を壁に叩きつけそうになる。そうしたいのは山々だが、やるべきことがあるという事実が弦十郎を落ち着かせていた。

 

 

急いで増援に向かおうと動き出した途端、

 

 

『しかし、案じるのは彼の身では無いだろう?』

「?それはどういう────」

『ネフシュタンの鎧に守られようと、あの少女が助かる保証がない。何故なら今の彼は──────機械の命令で動く完璧な兵器だからね』

 

 

兵器は戦場に感情は持ち込まない。容赦なく敵を排除し、殲滅するのみ。博士は画面越しに見える光景、後に起こるであろう結果を想像して見据えながら告げた。

 

 

 

────少なくとも、無事では無いかもね。運が悪いと死ぬことを考慮した方が良いよ

 

 

無言が示す意味に全員が息を呑む。その視線の先で、神秘的かつ不気味な青を纏う(つるぎ)が立ち上がった。それはまるで亡霊のような動きをする────先の表現が似つかわしい兵器だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち尽くしていた剣の顔をバイザーを覆う。無機質な装甲を纏った青年は一言も喋ろうとはしなかった。

 

 

 

《アビス・ドライブ》発動時は、意識を強制的に消される。無意識かで、肉体をナノマシンや特別な機器を介した機械によって動かされる。

 

 

 

演算装置、そう例えれば分かるかもしれない。

基本的に人間は日常生活を過ごす中で様々な行動や反応を示す。それらの中には本来必要ない動きもあり、人間の能力を強化したり制限したりもする。

 

 

 

だが、《アビス・ドライブ》はそれを戦闘に特化させる機構。一時的に脳内や神経にある特定の行動や反応を限定的に切り替えて、その他の動きの補助をさせる。貧乏揺すりで行われる力を優先的に肉体の反射神経の上昇へと変換するなどが良い例だ。

 

 

 

 

情に絆されて相手を見逃す優しさや甘さは、兵器には感情など不要と認識した研究者達が仕組んだ機能。躊躇無く人を効率的に殺戮できるようにと、同じ人間の身体を弄くり回したのだ。

 

 

 

それは今の剣にも当てはまる。《アビス・ドライブ》を発動した以上、彼が正気に戻るのは敵を抹殺した後。

 

 

 

「───パワーアップか?そんなもんで何が出来る!」

 

嘲笑うように、少女はムチを振り上げる。何時ものように下ろすのではなく、そのままグルグルと円を描くように回転させていく。

 

 

 

 

───NIRVANA GEDON

 

 

 

鞭の先に集められた白いエネルギーが球体となり、勢い良く投げ飛ばされる。地面を削りながら放たれる一撃は、その威力を物語るように破壊を引き起こそうとする。

 

 

しかし『魔剣士』は躊躇しない。その球体に手を伸ばし、受け止めて見せる。特殊な防壁などではなく、ただの力技で押し潰す。意図もしない様子で破壊の力を、破格の強さで無力化した。

 

 

無論、『魔剣士』がそれだけで終わらせる筈がない。押し潰した方とは反対の片腕を持ち上げ、少女に狙いを定める。

 

 

 

 

直後、閃光が瞬いた。

何が起こったのかも分からない。少なくとも、それが先程のエネルギーを返したものだと少女は気付いた。だが気付いた所でどうにもならず、ただ薙ぎ払われるしかなかった。

 

 

 

「あ、がっ!?ぐああぁああッ!!?」

 

それでも地面を踏みつけて何とか持ちこたえる。遠くへと吹き飛ばされる事は無かったが、追撃と言わんばかりの足蹴りを打ち込まれた。

 

 

腹部に、胸元に、両腕へと、躊躇無く打撃を送り込んでいく。息のつく余裕の無い連撃に少女の体力はみるみる削られていく。

 

 

 

「テメェ!調子に乗ってんじゃ………ねぇぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

荊の鞭を振るい、『魔剣士』の片腕に巻き付く。無数の棘が圧迫する中、彼は何も答えずに力強く鞭を引っ張った。あまりの強引さに少女が引き寄せられる。

 

 

そんな彼女の顔に、重い一撃を放つ。ガントレットごとの拳、バイザーに大きなヒビを入り粉々に砕け散る。まだ幼さのある顔が剥き出しなった。

 

 

 

 

「くッ!ここは引くしか………」

 

この状況で真っ先に撤退を選ぶのは英断とも言える。今の彼相手に戦いを挑むのはどうしても戦わなければならない者か、よっぽどの愚者だろう。

 

 

 

だが、遅すぎた。今、選択をする事自体が遅かったのだ。《アビス・ドライブ》を行使した今、彼に理性と意識は欠片とて無い。

 

 

 

敵対対象を容赦なく殺す事を前提とした兵器が、わざわざ相手の逃走など許すだろうか?むしろ追跡して迎撃をするのが普通だ。故に、

 

 

 

「────」

 

少女の動きが止まった。

慌てて彼女が振り変えると、フルフェイスの『魔剣士』が両肩のムチを掴んでいた。荊を素手で握るような暴挙で今も手に裂傷が広がっている筈だ。

 

だがしかし、剣は決して手を離さない。それどころか強く力を込めて─────

 

 

 

 

 

 

───引きちぎった。

無数の棘で構成された鞭を、軽々しく。

無造作と言わんばかりの動きで少女の纏う鎧の一部を引き裂いたのだ。

 

 

 

「あっ、があぁぁあああああああ!!?」

 

両肩のムチごと鎧の一部分を強引に引き剥がされた少女の痛々しい悲鳴が響き渡る。しかし『魔剣士』の行いが理由ではない、原因である事には変わりないのだが。

 

 

 

『ネフシュタンの鎧』は半永久的な再生機能を持つ。鎧自体が壊れればすぐにでも再生しようとするだろう。しかしそれは、少女の身体をも巻き込む事になる。彼女の身体を鎧が食らうという事態に。

 

 

あまりの激痛に意識が磨耗しているのか、少女は動かなくなった。いや、再生中の鎧によって行動を阻害されているのかもしれない。どちらにしろ、ネフシュタンの鎧を持つ少女は無力化された。

 

 

 

 

 

 

 

だが、『魔剣士』は行動を続ける。

《アビス・ドライブ》を実行中の彼には敵性の排除が優先される事柄だ。もう既に相手が戦えなくても、抹殺するまで終わらない。

 

 

倒れた少女に向けて、剣は片腕を持ち上げる。装甲が蠢いたかと思えば、手の甲の部位から細長い閃光が延びる。無形状だった光は次第に整い、光剣へと化した。

 

 

 

 

 

 

すると彼の身体が吹き飛ばされた。突然くの字に折れ曲がり、地面を何度も転がる。何の力の応用なのか、転がりながら体勢を整えた『魔剣士』は攻撃をしてきた相手を見る。

 

 

 

 

────ゴォォォン!

 

 

白い巨人、『アルビオン』。響達と交戦していた兵器が自発的に動いていたのだ。それは、止めを差されそうになっていた少女を護ろうとしていると見えなくもない。

 

 

 

そして、『アルビオン』は巨大な腕を動かす。気を失ったであろう少女を鷲掴みにすると、『魔剣士』の方を見つめた。ヴォォォォォ………と何処か寂しく重低音を響かせると、そのまま周囲に膨大な衝撃波を放つ。

 

 

 

巨大な圧力の嵐が吹き荒れ、気付いた時には『アルビオン』は少女ごと姿を消していた。あの巨体で移動したとは思えない程、一瞬の出来事だった。

 

 

 

破壊の跡の中心で、『魔剣士』の動きが完全に停止した。周囲の反応を探って追跡不可能と判断したのか、ダランと全身から力が抜ける。

 

 

装甲が動く。いや、元の形状へと戻っていく。敵性の排除を承諾した《アビス・ドライブ》の沈黙、それから剣の肉体が持ち主のものへと完全に切り替わった。

 

 

 

 

が、そう簡単には終わらなかった。

 

 

 

 

「────────ごぼッ」

 

バイザーが消えた途端、その口から大量の血が落ちた。出血や吐血どころではない、普通でなら即死とも言える程の失血。少女との戦いでの傷ではない内側からの傷─────アビス・ドライブの代償。

 

 

 

アビス・ドライブ。

『魔剣士』が魔剣と融合した際に使われた『アビス』という謎の力。多くの『魔剣士』が適合出来ずに死ぬ理由の一つとして数えられている。

 

 

理由は単純、肉体がもたないからだ。人体に機械やナノマシンを埋め込んで負担を何とかしようとするが、それで叶わないらしい。それは剣でも同じだったのだ。

 

 

 

 

 

重たいものが倒れる音と、池に水が跳ねるような音が同時に続いた。

 

 

 

 

「つるぎ………さん?」

 

 

倒れた青年は答えない。立ち上がろうとしたのか、またバチャン! と音が伝わった。今度こそ意識が喪失したのかピクリとも動かなくなった。

 

 

 

こうして、戦いは終わった。あまりにもアッサリと、大きな傷痕を遺す形で。




まさかの一万字、小説を書いてきて二年以上になりますが初めての事ですね。これより沢山の文字数の小説を書けるor面白いとか他の作者様の腕前が羨ましいッ!


さて、今回の原作での違う所は、翼さんの絶唱が無くなった事ですね。代わりといってなんですが大量出血枠は剣に交代されてます。


次回は剣さんの過去に少しだけ触れていきます。



無空剣の【魔剣計画】への怒り、憎しみ、その根底にあるのは─────苦痛と悲劇という、地獄だった。



次回、【動力源】。



因みに最後の方でのアルビオンの反応に何か違和感を持った人。居れば一言、貴方の勘は間違いではないので。
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