戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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竜ノ魔剣VS不朽聖剣

その日、その時、大混乱に満ちていた世界は一時の静寂に包まれた。マリアが明かしたフロンティアの真実、米国政府や特権階級の隠蔽────それにより反発を高めた者達も、隠蔽に動こうとした者も、全てがその光景に魅入っていた。

 

 

「な、なんだアレは………」

 

「我々は、夢でも見ているのか………?」

 

unbelievable(信じられない)………我々は、伝説に立ち会っているのか?」

 

フロンティアの真上で起こる、激戦。本来この世界には存在しない二人の魔剣士の闘争は、あまりにも埒外の範疇であった。人類に辿り着ける範囲ではない、そう思わせるほどの事が、全国中継の映像で映し出されていた。

 

 

「テラジ………あれって、剣さんだよね」

 

「はい、確かに見間違えるはずはありません。それに、あの人も…………」

 

「どうして私達を助けてくれたあの人が、剣さんと戦ってるの!?アニメみたいな展開じゃない!」

 

 

響達の友人である創世達は、中継に映る戦いに目を引かれる中で戦う二人の魔剣士に反応を示していた。片や一人は響達と共に戦い、一度は世界を救った魔剣士。もう一人はかつてノイズに襲われそうな自分達を助けてくれた青年。その二人がなぜ殺し合っているのか、彼女達には分からない。

 

ただ一つ、自分達は────世界は見守らなければならないということ。この戦いを、二人の魔剣士の決戦を────世界の命運をかけたフロンティアでの苛烈な死闘を。

 

 

◇◆◇

 

『マスター、望むならば私が出ましょうか?』

 

『不要だ。元よりお前達は計画の要、ここで失ってはそれこそ、オレの目的に響く』

 

『はい、マスター』

 

『…………一応聞く。お前には、奴を、魔剣士を殺せるか?』

 

『恐らく、私だけでは太刀打ちも出来ないかと。魔剣グラムを宿す無空剣ならば哲学兵装で相対せますが、デュランダルの方は難しいと思いますわ』

 

『完全聖遺物を取り込み、変質した魔剣士か。奴が勝てば、それこそオレの計画の障害となるか…………』

 

 

『────期待してやるぞ、無空剣。この世界を他の奴に壊されては困る。精々守り通してみせろ────オレが世界を破壊する、その日まで』

 

 

◇◆◇

 

 

そして、彼等の意識の全てが集中するフロンティア。その塔の一つが爆裂し、破壊された壁の中から二つの影が飛び出してゆく。無空剣と如月刹那、空中から落ちる中、彼等は互いに敵を見据えていた。

 

 

「ハハハハハハハハハ────ッ!!」

 

「────ッ!」

 

 

ロングコートの中からビットを射出した刹那は複数機のビットを同時に操り、殺到させる。迫るビットは亜音速に至り、触れただけで物体を抉り抜く高速の砲弾と化しながら迫っていく。

 

防御不可能な空中での猛攻に、無空剣は対応する。周囲の瓦礫を足場にしながら迫るビットを殴り潰し、蹴り飛ばし、両腕の剣で切断していく。

 

 

「チッ、装者には破壊できん俺のビット………お前は破壊するか!無空剣!」

 

 

ボタンを外し、ロングコートを開いた刹那は両肩に纏う装置を稼働させる。元々はエクリプス・ビットを格納するユニットであるソレにエネルギーが充填され、破壊されたビットが新しく生産される。

 

 

「壊しても尚再生するデュランダル────こうして相対すると厄介なのがよく分かる」

 

「余裕ヅラしてくれるとはな────その顔!苦痛に歪ませてやる!」

 

 

無尽蔵のエネルギーを有効活用した刹那の高火力連撃。十基のビットの同時制御、それら全てが放つ高火力のレーザー砲撃。壊れても尚創り直せるほどの力。

 

並大抵の魔剣士のジェネレーター出力、魔剣の出す力では再現しきれないものである。────それも刹那が手に入れた完全聖遺物デュランダルの、無尽蔵のエネルギーがあってのもの。

 

 

ビットを周囲に漂わせながら、刹那は剣へと猛攻を繰り出す。レーザーの雨嵐による弾幕は流石の剣も完璧には避け切れず、全身の装甲を焼かれるダメージを負う。

 

(ッ!やはり、刹那相手に出し惜しみは出来ないか。ならば、俺の全力でやるのみ────ッ!)

 

疾走(はしれ)れッ!『魔剣双翼(ガードラック)』ッ!!」

 

 

吼える剣の両肩にサブアームがスライドし、ブースターの役割も担う漆黒の魔剣が射出される。インコムのように有線式であるガードラックだが、その火力と機動性は他の装備よりも上回ってもいる。

 

肩から伸びるワイヤーと共に空を舞う二つの魔剣、そして複数のエクリプス・ビットが空中で飛び交う。変則的な軌道と空中戦で、ビットとインコムがレーザーの雨を撃ち合う。エクリプス・ビットから放たれる高出力のレーザー光線、ガードラックのレーザーキャノンによる嵐の雨の下で────二人の魔剣士が高速戦闘を行う。

 

三基のビットで防御と反撃に出ながら両腕のガントレット『エルグレイズ』でビーム砲を放ちながら、収束させた光刃で切り迫る刹那。そんな刹那の攻撃の手数をいなしながら、剣は腰部に連結したアームドフレームの持ち手を掴み、ビームカノンを浴びせる。

 

「らしくない小細工だな!その程度の弾幕ッ!俺のデュランダルならば倍は出せるぞッ!!」

 

 

叫んだ刹那はドックファイトを行っていたビットを呼び戻し、自身の周囲に集める。結束したビットから放たれるレーザーは他のビットが反射させることで、極光線は無数のビームのカーテンを上回る領域を構築する。

 

 

「────ッ!」

 

「俺のデュランダル!不朽なる閃光は、全てを穿つ!万物を両断する聖剣の力!その身を以て知るがいい!序列三位!何者よりも強く、何物よりも最強在りながら、その座に甘んじた愚者よッ!!」

 

「────戯れるな、と俺は言った!」

 

収束、反射を繰り返すレーザーの雨を放つ刹那の攻撃に、剣は敢えて正面から迫る。地面を砕き走り抜ける漆黒の魔剣士に、刹那は分散するレーザーを放ち、そのまま剣を焼き払わんとする。しかし剣はそのまま姿勢を低く落とし、這うように屈みながら潜り抜けていく。

 

そのまま速度を落とさず正面に肉薄した剣に、刹那はビットを展開して迎撃を行う。正面に向けて放つ収束式のレーザー砲。しかしソレは剣に直撃するどころか難なく回避され、背後に回った剣が無音の斬撃を走らせる。

 

────剣の放つ魔剣グラムの刀身が、刹那の首を貫く。デュランダルの防御結界をくぐり抜けた鋭い一撃は刹那の喉元を抉り、破壊していた。

 

 

「ぐッ、がぼ────ッ!?」

 

 

「如何に強力、永久であれど、その力を振るうのはお前だ。その意識、その行動パターン、その全てに隙がある。俺がそれを突くのは、難しい話ではないッ!」

 

右腕から伸びるグラムの刀身に深く力を込め、そのまま切り放つ。ザパァンッ!!と、首から胴を斬り裂かれた刹那は血のシャワーを噴き出して崩れ落ちる。力を失った体が地面に倒れる────直後、ギョロリと刹那の目が剣を睨む。

 

 

「────どれだけやっても無駄だと、奴等から知り得なかったか?」

 

「ッ!?」

 

 

立ち上がった刹那の放つレーザーを、剣は腕で防ぐが勢いのあまり弾かれる。すぐさま着地した剣が見たのは、身体を引き裂かれた刹那の姿。首から胴体に開いた深い傷、切断面を顕にしても刹那は笑いながら告げた。

 

 

「無駄だ!お前が幾ら俺の肉体を破壊しようとも、デュランダルの力を宿すこの俺は無敵!何度破壊されようとも、この如月刹那が折れぬ限り!俺が負けることはなァいッ!!」

 

「だが、それだけならばお前が勝つこともない。それは理解しているはずだ」

 

「そうだな────ただ、俺の全力がこの程度だと思っているのならば」

 

 

コートを開いた刹那が見せるのは、胴体に浮かぶ剣の紋様。ソレは紛れもなく、完全聖遺物デュランダルの反応。その光が増すと同時に刹那の身体に刻まれた傷が綺麗に塞がっていく。デュランダルの過剰エネルギーによる、再生の効果であった。

 

コートを脱ぎ捨てた刹那は不敵に笑いながら、歩み寄る。その周囲に、溢れ出すほど過剰に増幅したデュランダルのエネルギーを纏った状態で。

 

 

「あの子供装者にも伝えたはずだがな。俺のデュランダルは、完全聖遺物との完全融合を果たし始めてる。ソレ故に、俺自身の魔剣士としての機能も飛躍的に進化してきている」

 

「っ、まさか────」

 

「これ程の戦い、ダメージは流石序列三位。褒めてやる────お陰でようやく、全力が身体が馴染んできたッ!!」

 

 

直後、放たれるエネルギー砲────デュランダルのエネルギーを秘めた大火力の破壊光線は、フロンティアの一部を抉り抜いた上で、剣を海上へと吹き飛ばした。

 

 

◇◆◇

 

「────壮観じゃないか、中々」

 

その激戦、フロンティアに広がる戦闘を繰り広げる景色をモニタリングする者が、遠く放たれた場所にいた。周囲の景色を見渡せる建物の屋上、露天風呂を思わせるプールの中に一人の男がいた。

 

紺色の長髪に、筋骨隆々と呼ばれるほど完成された肉体を誇るその男は白い帽子を頭に被った状態はグラスに入ったワインを揺らす。彼は目の前に浮かぶホログラム、そこに映し出された光景を、愉快そうに見つめていた。

 

 

「さて、どう思うかな?君は」

 

「どう、とは」

 

「彼等、魔剣士の事さ。序列三位、竜殺しの魔剣を宿す無空剣────対するはあの魔剣士。二つのデュランダルと適合した…………如月刹那と言ったね。名を」

 

 

男が語り掛けるのは、プールの側に立つ男装の麗人。怪訝そうに、それでいて目の前の光景に鋭さを深める彼女は男の話に耳を傾けながら、静かに頷いた。

 

 

「強さは理解します。彼等が如何に世界最強の兵器とされたのかも。局長が魔剣士の存在に警戒を深めるのも。ですが、あの力は────我等の求めるものではありません」

 

「その通り、分かってるじゃないか。恐れるにほ足りない、あの程度ならば。────だがまだ成長性がある、あの二人は。如月刹那はその力を求め、無空剣には────ネフィリムを葬った力がある。『魔王剣装(フォース・ギア)』、と呼ばれたね」

 

男達は知る、魔剣士が成長性を残した兵器であることを。彼等はあらゆる可能性を秘めた究極の兵器であることを。現に無空剣はあのフォース・ギアを秘めている。暴走状態で制御できないが、もし制御できた場合は────間違いなく自分達の障害となることは明白だった。

 

 

「にしても、別世界の人間も弁えないね、度というものを」

 

「局長?」

 

「アレは正しくカストディアンの領域。人間を神器…………『魔剣』と強制融合、シンクロさせることで絶大な力を発揮させる兵器。シンフォギアは愚か────ファウストローブを上回るものさ。その力はね」

 

あのフィーネですら、作ったシンフォギアもそこまで非効率的ではなかった。その強さに反して、造り出すコストが大き過ぎる。何より、それだけの戦力をもってしても思い通りの駒になりはしない。

 

 

「しかし、あの組織の長も理解できないね。何故放逐しておくのか、彼等を。そうまでして倒したいものがあるのかな?」

 

「…………」

 

「────あれだけの犠牲を出してまで作った魔剣士。ただの余興や世界征服なんて陳腐なものじゃないだろうさ────何かに備えているのかもね────旧世界の支配者たる神やカストディアンに対立して滅ぼされた完全なる生命体の一つたる龍、それ以上のモノに」

 

局長、と呼ばれた男はグラス越しにホログラムの後継を見据える。ワインの中に映る魔剣士二人の姿を、それそれは面白そうに見下ろしながら、彼は告げる。近くに立つ麗人の、疑念に満ちた眼差しを流しながら。

 

 

◇◆◇

 

 

フロンティアから吹き飛ばされた剣。身を投げ出された彼は防御したはずが、破られた装甲を即時修復させながら向き直る。その瞬間、上空から放たれるデュランダルのビーム砲。その威力に、今度こそ剣は驚愕した。

 

 

「────ッ!!」

 

(さっきまでと出力が違う!刹那の奴、この戦いでさらにパワーアップする気か!?)

 

 

振り注ぐビームの雨、自由自在に軌道を切り替える閃光の嵐。四方八方から迫る光線の奔流は空中にいる剣にとっても、安易に避け切れるものではない。

 

 

「無空剣。お前が如何に完成された兵器と言えど、この俺のデュランダルの前には時宜に等しい」

 

エクリプス・ビットの一基を足場にして浮遊する刹那はそれら以外のビット全てを制御する。彼にコントロールされた9つのビットが円を描き、高速回転を始める。そして同時に放たれる光線、刹那の手元に収束されたそのビームは一筋の破壊光線となり、直撃した剣をそのまま海面へと吹き飛ばす。

 

 

「ぐ、うううううううううう────ッ!!?」

 

 

何度もバウンドして海面を跳ねた剣は、あるものに衝突して停止した。近くに待機していた米国の艦隊である。その一機、護衛艦の甲板に激突した剣────その知覚に、刹那は降り立つ。

 

 

「陸海空、あらゆる状況、環境に適応した上で最大級の戦果を発揮する。それこそが魔剣計画の望んだ魔剣士、お前はその中でも最高クラスの逸材だったな、無空剣」

 

「…………」

 

「────だが、それが何だ?所詮は連中が決めた数字でしかない。奴等が決めた内で、戦争で役に立つか否かの予想でしかない。そんなもので強さが評価されるはずがない。そんなもので、強さを決められていいはずがない」

 

甲板、砲台を背にして立ち上がろうとする剣の首を、刹那は掴む。そのまま地面に叩きつけ、踏み付ける。苛立ちと侮蔑────自分の欲しかった力を得ているのに、それ以上の強さを得ようとしない、求めようとしない強者への八つ当たりを、刹那は吐き出していく。

 

 

「この強さで、俺は奴等の作った全てを破壊する。そして、ヤツを殺す。お前はその為の踏み台だ────精々俺の為に抗って、利用されてくれよ」

 

「ソイツは、お断りだ」

 

「…………はぁ?」

 

「俺の命、俺の全ては、アイツらの為に捧げる。邪魔をするなら誰だろうと叩き潰す────たとえそれが、お前でもッ!」

 

 

直後、停止していたはずの砲台が動く。グルンと砲身を刹那の顔面に向けた単装砲がほぼ数センチの距離で火を放つ。砲弾が直撃した刹那は凄まじい勢いで投げ出され、近くの戦艦の艦橋へと叩きつけられる。

 

 

『な、なんだ!?敵襲かッ!?』

 

『違う!人が、飛んできたんだ!』

 

「────あー、いてて。流石に艦の主砲が直撃は無傷で済まないな」

 

 

混乱する米国軍人達を余所に、瓦礫の中から立ち上がる刹那。その姿を見た兵士達の顔が一気に凍り付く。顔面を抉られた状態にも関わらず刹那は平然と呟き、あろうことかそこから再生すらしているのだ。明らかに異様に見えても可笑しくない。

 

 

「『兵装支配』、ハッキングモジュールか。まあ魔剣士ならそれくらいあるわな。元より完成された兵器なら、尚の事」

 

『あ、なッ────貴様!動くな!動けば撃────つ?』

 

「────邪魔だ、雑魚」

 

 

立ち上がって、向こう側を睨む刹那に米国の兵士達は慌てて銃を向け、投降を促す。しかし戦いの最中である刹那は一切見向きもせず、腕を払う。それだけでビットから放たれたレーザー光刃が兵士たちを一撃の元に屠り去る。

 

刹那にとって、彼等に恨みも悪意も敵意もない。あるのは、ただ自分に殺意を向けた敵を排除したという意思のみ。彼からすれば、悪いのは自分より弱かったのに立ち塞がった彼等であり、弱肉強食の理に則った行為に過ぎなかった。

 

 

「だがな、序列三位────ソイツはお前だけの得意分野ではない」

 

『兵装支配』、改めハッキングモジュール。

魔剣士に搭載されたその機能は、あらゆる兵器を制御・掌握するハッキング機能にある。本来通常の火器ではダメージを受けない魔剣士だが、この力で奪われた通常火器には魔剣の力が流れるため、他の魔剣士にも通じる有効打となる。

 

無空剣の場合は、腕部にある小型マニュピレーターや脚部のケーブルによって可能となる。

 

だが、刹那の場合は違う。

直後、彼の周りを漂うビットが戦艦の中へと入り込む。そしてビットから伸びたケーブルが精密機器を侵食し、掌握していき、次第戦艦そのものが凄まじいエネルギーを持ち始める。

 

 

「戦艦そのものを、魔剣の力で乗っ取ったか」

 

「お前にできて俺に出来ないことはないッ!それが分からないとでもッ!?」

 

 

デュランダルのエネルギーが行き渡った戦艦の砲台がこちらを補足する。それに気付いた剣は咄嗟に護衛艦から飛び降り、急いで距離を詰める。刹那に攻撃させないのもあるが、それ以上に護衛艦に乗る者達を巻き込まない為でもあった。

 

直後、放たれる砲弾────ではない、光の爆撃。砲身から撃ち出されるのは砲弾ですらなく、刹那のエネルギーを変換した質量の破壊。それは放たれただけで周囲の海を消し飛ばし、近くの艦隊すらも津波で巻き込むほどの大破壊を引き起こした。

 

 

「派手に散らしたなァ!命の花火ッ!愉快、滑稽ッ!肉片一つ、細胞すら残さず死に果て────た?」

 

(待て、直撃だと?あの序列三位が、肉片一つも残さず消えただと!?────そんなはずはない!有り得るはずが無いッ!)

 

 

この程度でやられるはずがない、と新たに得た力による興奮から覚めた刹那は慌てて周囲の反応を探る。周囲に展開したビットを基盤に展開した広範囲レーダーは、ようやく魔剣の反応を捉えた。

 

 

「真、下────」

 

────直後、刹那のコントロール下にある戦艦が、宙を舞う。本来戦艦に乗っていた兵士や、他の艦隊の誰もが言葉を失う光景である。他の護衛艦よりも明らかに大きい戦艦が、フロンティアの近くまで飛び上がったのだ────ましてや、真下からの衝撃によって。

 

艦橋にて、周囲を認識していた刹那の足元が砕け剥げる。鋼鉄の壁や床を破壊して現れたのは、無空剣。漆黒の鎧に身を纏う彼は、冷徹に問い掛ける。

 

 

「────『これ』も、お前には出来るか?」

 

「勝ち誇るかァ────ッ!!」

 

 

そんな剣に、刹那はデュランダルのビットを差し向け、光に照らし出す。煌めく閃光、同時に迸る滅光が眼前に立つ魔剣士に襲い掛かる────よりも早く、刹那は更に空へと飛んでいた。

 

 

「ごッ、オ────があああああッ!」

 

 

剣による攻撃を受けたと理解した刹那は、蹴り飛ばされて破裂した骨を再生させ、即座にビットによるオールレンジを繰り出す。戦艦に向けて放たれた烈光は、直後に音速で駆け抜ける黒影に一斉に振り注ぐが、紫色の光を宿す影は下から昇る稲妻のように軌跡を伴って迫る。

 

 

「さっき言っていたな。────この程度が全力だとでも、だったか?」

 

「貴様────ッ!」

 

「言い忘れていたが、俺も同じだ。少し遅れたが────大体勘を取り戻してきた」

 

「ほざけッ!その勘ごと捻じ伏せてッ!!」

 

「魔剣絶技────【龍胴断・エクスタークレシェンド】」

 

 

一瞬にして放たれる魔剣絶技。右腕を魔剣グラムの黒曜の刀身に変形させた無空剣が放つ必殺の一撃。叩きつけるというより確実に切断する意思を伴う一撃は、直撃した刹那に大ダメージを与えた。

 

 

「がッ、ぐおおああああああああああ────ッッ!!?!?」

 

 

絶叫を響かせながら、刹那は吹き飛ばされてフロンティアに叩きつけられる。中央の塔に直撃したその瞬間、反動によって周囲にも衝撃が伝わっていき、ブリッジで呆然としていたマリアもその崩落に巻き込まれた。そんな彼女の落下を防いだのは、音速で飛来した黒い魔剣士であった。

 

 

「────すまない。マリア、無事か?」

 

「えぇ、大丈夫。それより………如月刹那は?」

 

「…………まだ仕留め切れてない。後少しで終わらせるから少し待っててくれ」

 

 

崩落しかけたブリッジから真下に降りた剣はその場にマリアを降ろして、向き直る。破壊された壁や天井も少しずつ直り始めていく。これもフロンティアの力かと思いながらも、剣は砂煙舞う向こうにいる敵を見据えた。

 

 

「────は、はははッ…………本ッ当に化け物だな、序列というものは」

 

「終わりだ、如月刹那。お前にはもう俺を殺す手立てはない。その再生とて無限ではないだろう。お前の許容限界までダメージを受ければ、それで終わるはずだ」

 

「は────はははははッ!!この期に及んで、俺に勝った気でいると!?そもそも俺とお前、最初から勝ち負けの前提すら違うというのにッ!!」

 

「………何?」

 

 

全身血まみれで肉体を破壊された刹那に、剣が冷静に突き詰める。恐らく刹那はもう傷を負うことは出来ないと。肉体の再生にもリミット、限界があるという予想は正しいらしい。だが、刹那は笑みを消さない。それどころか、愉快そうに笑い続けている。

 

不意に、マリアが目を見開いた。

 

 

「………ここは、動力炉?」

 

「そうだ、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。この動力炉、フロンティアを動かす膨大なエネルギーを管理するこの炉心────それを動かすのは何だと思う?」

 

「っ!無空剣────心臓が、動力炉と結合していたネフィリムの心臓が無いわッ!」

 

「何ッ!?刹那、お前は────!」

 

 

見覚えのある光景に気付いたマリアはその場所が動力炉であることを理解し、すぐに動力炉に張り付いていたはずの存在が消えていたことに気付く。彼女の呼びかけに反応した剣の前で、血まみれの肉体を再生させた刹那はソレを手にして笑う。

 

 

「まずは、感謝しよう。無空剣────よくぞドクターウェルを制御室から引き剥がしてくれた。お陰で奴を無力化するのも、『コレ』を手に入れるのも、簡単だったぞ」

 

 

未だ鼓動し続けるネフィリムの心臓。

フロンティアと同化した『暴食の巨人』の炉心。ソレを手に、刹那は待ちに待ったと言わんばかりの喜びに満ちた笑顔を向けていた。

 

◇◆◇

 

それと同時刻。

フロンティア内部へと突入した弦十郎と緒川はある人物を探していた。

 

 

「慎次!剣君が共有してくれたドクターの位置はどうだ!?」

 

「ここから先で動いてません!今ならすぐにでも見つけられます!」

 

 

彼等が探しているのは、フロンティアをコントロールした上で暴走したドクターウェルの行方。マリアを止めるために剣が軽く追い払ったが、ドクターは依然フロンティアを支配する力を有している。ソロモンの杖ことノイズを行使する力を持たないため、弦十郎達でも相手できるわけだった。

 

そして、曲がり角を抜けた先で────彼等はドクターを見つけた。

 

 

「見つけたぞ!ウェル博士────ッ!?」

 

「…………ぁ、うぅ………僕の、僕の腕がぁ…………っ」

 

「ウェル博士!?腕を欠損しているな………緒川、止血の用意を!」

 

「心得ていますッ!」

 

 

彼等が見つけたウェル博士は、あまりにも無傷とは言い難かった。左腕の部分を肩から斬り落とされたのか、綺麗な断面から血を溢れ出すウェルの顔は青く、止血が間に合わなければ命はなかっただろう。

 

 

「無空君がこんな真似をするとは思えん………何があった、ウェル博士。何故こんな状態になっている」

 

「こんな…………そうだ、アイツだ………如月刹那ッ!僕からネフィリムを、フロンティアを奪おうなんて…………っ」

 

「如月刹那…………彼が、ドクターにこんな事を?ですが、何故?」

 

顔を青くしながらも、ドクターは血走った目で理解不能な言葉をまくし立てる。その中に聞こえた魔剣士の名に慎次と弦十郎は顔を見合わせ、嫌な予感を隠せずにいた。

 

 

◇◆◇

 

時は、十数分前。

無空剣から逃げるようにブリッジから転げ落ち、階層の一角に逃げ込んだウェル博士は、呼吸を荒くしながら苛立ちと憎悪を振りまいていた。

 

 

「く、くそ!くそぉ!………こんな所で、こんな所で僕がッ!終われるものかぁッ!」

 

 

無空剣から向けられた純粋な殺気に気圧されたが、それでも彼は諦めない。ここまで来るとメンタルが強いと言うべきか、或いは異様な執着を秘めているのか。ドクターは最後の手段として、無空剣に対抗する手段を思案した。

 

 

「こうなったら、フロンティアの力で完全体にしたネフィリムをぶつけてやるッ!」

 

『────それは困るな』

 

 

その瞬間、ファン───と音が空気を切る。

直後、ボトリと何かが落ちた音が耳に入ったことで流石のドクターも「あん?」と音のした方を見る。すると、本来肩につながっているはずの異形化した自身の左腕が、足元に転がっていた。

 

 

「あ、あああああ────ッ!?腕が、僕の、腕ぇ────ッ!?」

 

『俺が戦っている間、好き勝手されるのは困るのでな。動き回り小細工できぬよう、千切っておいた』

 

 

悲鳴を上げるウェル博士の前に現れたのは、球体型のビット。刹那の意思で操作可能なエクリプス・ビットである。その球体から響く刹那の音声。ビットから放たれた光はネフィリムと同化したウェルの左腕を消し飛ばし、粉微塵の灰に変えた。

 

 

『無空剣の予想通りだな。お前はネフィリムの力を秘める左腕で触れることでしか、フロンティアをコントロールできない。ならば、その腕を失った以上、フロンティアを制御する者は誰一人として居ないという訳だ』

 

「お前………お前ぇッ!?自分が何をしているか分かっているのか!?僕が、フロンティアを制御できないということは、この世界は滅びるということなんだぞッ!?人類全てが、完全に滅びることに────」

 

『ああ────その人類を救う力を、俺が手に入れるという事。その為に、ここまでやってきたのだ』

 

 

ドクターは知らない。最初からこの時を狙われていたことは。刹那は本来肌見放さないはずのビットでウェル博士を追尾させていたことも。唯一、フロンティアを完全にコントロールできるブリッジから離れたその瞬間を狙っていたことも。

 

彼がそれを理解したのは、ビット越しに語る如月刹那の言葉によってであった。

 

 

『ここまでご苦労だった、ドクターウェル。俺の為にここまでのお膳立てをしてくれて。エリーシャの代わり、礼を言っておく』

 

「エリーシャの、代わり?────まさか、これも全て!計画の内だとッ!?」

 

『フロンティアもネフィリムの心臓も、全て俺の力にしてくれるッ!貴様は指を加えて見ているがいい!世界を掌握する力を得』

進化する俺の姿を!あの世でなぁ!』

 

「ちょッ、まッ!?せめて顔は────ッ!?」

 

 

放たれるビットからの斬撃に、悲鳴を上げながら身を転がすウェル。足を崩したのかギリギリで斬撃を回避したウェル博士は、情けない声と共に奈落に落ちていった。

 

 

『────まぁいい。フロンティアを動かせぬ奴には、もう興味はない。精々そこで野垂れ死んでおけ』

 

 

◇◆◇

 

「ウェル博士…………フロンティアの支配権限を優先的に潰したかッ!」

 

「当たり前だ。この力を英雄になる為だけに使うだと!?笑わせるな!あんな愚物如きの為にある力などではない!力は相応しいものにあるべきだ────真に力を求め、強者たらんとする────この俺にこそッ!」

 

 

刹那は笑いながら、冷酷に吐き捨てる。

自らの理念と反する形で力を欲するドクターへの軽蔑か、露骨に預ける刹那はその手に握るネフィリムの心臓を鼓動を感じながら叫ぶ。

 

 

「完全聖遺物デュランダル、無限のエネルギーに適応したこの俺────器たる素体はより強固に、頑強に変質した。後はその器に更なる聖遺物を────ネフィリムの力とフロンティアの力、それら全てを取り込めば──────この俺はどれだけ強くなれると思う?」

 

「………まさか────止めろ!刹那!これだけのエネルギーの聖遺物、取り込めばお前は死ぬぞッ!?」

 

「弱いままでいるよりは、ただ絶望して嘆く木偶であるよりは遥かにマシだッ!!さぁ、ネフィリムの心臓!暴食の巨人たる堕天の化身よ!その力、世界を救うとされる力の全てを────この如月刹那に寄越せェッ!!!」

 

 

剣の制止も虚しく────刹那はネフィリムの心臓を、その口に押し込んだ。その大きさを無視して、無理矢理に喉の奥に通す。ゴクリと、喉を鳴らした刹那は────無邪気な笑みを浮かべた。

 

 

「ようやく…………手に入れた────────がッ』】」

 

 

しかし、その瞬間、刹那はドクンとその身を揺らした。呼応するその力を感じ、笑みを深める刹那だったが────直後、その身体が破裂した。

 

 

「【『あ■■■が■■■■ギ■■■■■ガァ■■■ァ■■■■ッ■ッ■■■■】」』

 

 

溢れ出す膨大なエネルギーに、刹那の全身が爆散を繰り返す。肉体の至る所が、過剰なエネルギーの暴走による暴発を繰り返し、破壊の限りを尽くす。そのダメージは、激痛なんてものではない。その場で膝を付き、悶え苦しむ刹那の悲鳴は雑音が入り混じった不気味なものであった。

 

しかし、そんな地獄の中でも刹那は逆に笑った。痛みなんてものはどうでもいいと言わんばかりに、その身に溢れ出る力の奔流に、興奮したように狂った笑いを響かせた。

 

 

「【『こ■だッ■、これこ■が────俺■求めていた、力だぁッ!■!寄越■、もっと力を!世界を変え■ほどの────もう誰も奪わせない為の、力ヲを■■■■■■ッ!!!】」』

 

 

瞬間、刹那の肉体の爆裂は停止する。ピタリと止んだ直後に、刹那は咆哮を響かせて立ち上がった。そんな彼を、十基のビットが囲み、旋回し始める。様々な悲鳴、絶叫のような音を響かせて。

 

 

「【『ォ゙おお■■■おお■おおおお■■■■おおお■■■ッ■■■!」』】

 

「フロンティアのエネルギーが、刹那に集中していく………ッ!?」

 

「ッ!刹那、お前は一体────何に成るつもりだ!?」

 

 

呼応するフロンティア。脈打つ大地から、光の手が伸びる。一つではなく、十、百、千を超える数が。無数に伸びたそれは宙に浮かぶ刹那の姿を掌で覆い尽くす。その反応は、周囲にいる全員が感じていた。

 

 

「タクトさん!今、背中がブワッと……!」

 

「エネルギーの過剰収束………おいおい、本気で何とかできるんだよなぁ無空剣ッ!?」

 

「っ!これは、不味いな………!」

 

「先輩!コイツは流石にヤバいだろっ!?」

 

「ヤバさが肌で感じられるデスッ!」

 

「無空剣………マリア、マム………大丈夫だよね」

 

「フロンティア全域のエネルギーが異常数値を叩き出しています!観測不能ッ!」

 

「一点に集中して────圧縮されていますッ!これでは、小型の太陽レベルです!」

 

『フロンティアがデュランダルの力による同化を行い………それによりエネルギーが如月刹那を変容させているというのか…………?これ程のエネルギー量、魔剣士等では収まり切るはずがないッ!?』

 

 

そして、ソレは渦巻き、収束していく。無限の力、無限のエネルギー、無限の光が一つの極点へとなって────そこに、一つの球体となって現れた。

 

ソレは、無数の光帯に巻かれた繭のように、胎動していた。その中に眠る者を、変性させていくように。新たな形に羽化する為の姿へと作り変えているのだと、理解した二人の前で球体の蛹に変化が生じた。

 

突如、内側から刃が生える。白金の光で形作られた十本の剣が、光帯の繭を破るように、回転しながら切り裂く。円形の軌道に乗りながら、滑るような滑らかさで。

 

────ガラスのように、破片を伴って砕け散る球体。光の欠片の雨を周囲に振り撒いて、ソレはその場に在った。

 

 

足元まで伸びた金色に輝く長髪、その髪一つ一つが生命力溢れるエネルギーを内包しており、光に照らされて輝きを増している。全身を纏うのは、白金のギアスーツ。静かに目を開く刹那、その額に紋様が浮かぶ。

 

額に浮かぶ、第三の眼のような刻印。それと同時に刹那の背後に円陣が展開された。十本の光剣が円陣に乗る形で廻り始めていく。ゆっくりと、星の瞳孔となった瞳を開いた刹那、彼の存在の進化に呼応するかのように、フロンティアが大きく脈打ち始めた。

 

 

「────実験は成功。おめでとう、如月刹那。私の予想した通り、君は完全聖遺物との同化により新たなステージに至った」

 

暗闇の中、エリーシャは静かにそう語った。

既に刹那との取引は果たされた。エリーシャの手回しと刹那の暗躍により、彼は遂にネフィリムの心臓をフロンティアごと取り込んだ。

 

それにより果たされた進化は、絶大である。

 

「その身は無限、永久にして不朽、そして浮上する大地そのもの。君の存在は謂わば多重接続された核融合炉。その膨大な力は、君に望む力となる」

 

 

魔剣士の新たなステージ、『神装』。刹那は擬似的に、その領域に入り込んだ。今や彼を倒せる者は、誰一人として存在しないと言っていい────『奇跡』でも、起こさなければ。

 

 

「何も守れず、何も救えなかった魔剣士────疑似・神装に至りし者よ。君の望んだ力だ、その力で世界を蹂躙するがいい。己の本懐、願いの意味すらも忘れ去って」

 

 

冷淡な目を向けるエリーシャの瞳には、嘲りの色が込められていた。そんな彼は一つの書類を手にする。それは、如月刹那がここまで力を求める理由となったある事件────『アルワーデル殲滅作戦』を記すものであった。




G編のラスボスはネフィリムではなく、刹那になりました。この章のメインキャラでもあるから、ネフィリムには悪いけど仕方ない。ドクターが酷い目にあってる気がするけど自業自得ということで(響の腕をネフィリムに食わせたり、色々とやってたので)

次回、如月刹那の過去編にも触れていきます。ネフィリムとフロンティア、二つの力を取り込み────『神装』なるものに至った刹那がどうなっているのか、次回もお楽しみくださいませ!

お気に入りや感想、評価などもよろしくお願い致します!それでは!
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