戦姫絶唱シンフォギア 神装魔剣   作:虚無の魔術師

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遥か彼方、星が音楽となった彼の日

「…………どうやら片を付けたようだな」

 

「そのようですね」

 

 

ドクターウェルを動力炉前の制御装置まで連れてきた弦十郎や慎次は、響達が刹那を倒したことで世界の危機を救ったことを確信する。二人としても、ウェルへの警戒を緩めてはいなかった。だが、全員が無事で世界を救えた、その僅かな隙を────ウェルは逃さなかった。

 

 

「今だ!隙ありぃ!!」

 

「っ!?ウェル博士!」

 

制御装置を操り、壁を作ったウェルは弦十郎や慎次を遮断する。その程度の障害物であれば、二人は容易く破ってくる。それを理解した上で、ウェルは最後の足掻きをすることを選んだのだ。

 

 

「どいつもこいつも、僕が英雄になるのを邪魔してくれて────僕を求めず、拒絶する世界ならば!いっそのことぉ!!」

 

二人が突破してくるその合間に、ウェル博士は制御装置越しに命令を送る。すると、ネフィリムの心臓を失っても尚稼働する動力炉が輝き始める。壁を破壊してきた弦十郎はその変化に、顔色を強張らせた。

 

 

「ウェル博士!何をした!?」

 

「ただ一言、破壊し尽くせと!ネフィリムの心臓は奪われても、フロンティアを支配する力はその心臓に由来している!だからこそそう命じれば、全てを破壊する為に動く!────如月刹那のせいで、ネフィリム自体の力は使えないが!あと数十分もしないうちに、フロンティアはこの高所から墜落するッ!!」

 

「そんな───っ!既に大気圏近くまで届いてるここから落ちてしまえば、地球全体に被害が!」

 

「だからこそだ!僕が英雄になれない、なることが許されない世界ならば!滅んでしまえば────わぁッ!?」

 

 

血涙を流して高笑いするウェルを余所に歩み寄った弦十郎が制御装置を拳で殴り壊す。人間離れしたその行為に腰を抜かしたウェルを制圧した慎次と弦十郎は、動き始める動力炉を見上げた。

 

 

「壊してどうにかなる状況ではなさそうですね………」

 

「…………ああ」

 

 

◇◆◇

 

 

フロンティアの一部、瓦礫となった残骸の中でよろけながら歩いていたセツナが壁に寄りかかる。血に濡れて崩れ落ちた彼は最早動く気力もなく、生きる気力も残ってなかった。

 

「…………リセリア、俺はどうすれば良かったんだ………?」

 

 

彼が問うのは、自分が救えなかった────自らの希望。あの時から、彼女を救えず、無力な正義に絶望したセツナは力を求め、魔剣士になることを選んだ。そして、如月刹那になった彼はがむしゃらに力を求め続けた────その結果、自分の戦う理由すらも忘れ、無様に負けたのだ。

 

 

「どうして…………どうして俺を、助けたんだ………?俺は、正義を貫くことなんて出来なかったのに…………何処に、行ったんだよ────皆」

 

 

如月刹那が求めていたもの、それは力ではなく────失った過去であった。かつて苦楽を共にした仲間、彼はそれを必然的に求めていた。その渇きを埋める為、その空虚さを満たす為、その傷を防ぐ為に────彼は力に執着する道を選んだのだ。いや、選ばされた。

 

【魔剣計画】は彼を、より強力な魔剣士にするために思考を、意識を操作した。より力に貪欲になるように、力を求めるように精神を追い詰めた。自分の為に動いてるように信じていた彼は、最後の最後まで兵器として利用されていたのだ。

 

 

「────刹那さん」

 

 

黄昏れ、過去を見つめていた刹那の元に、彼女達は現れた。無空剣と立花響、シンフォギア装者達。彼等を静かに見た刹那は、静かに俯く。その表情は、全てを諦めたもののそれであった。

 

そして、一言。

 

 

「────殺せ」

 

如月刹那は、文字通り全てを諦めていた。

これからの未来も、生き残る事も。何もかも、求めた勝利を失ったことで、彼の異常なまでの渇望は途切れたのだ。しかし逆に言えば、刹那がここまで生きてこれたのは、その勝利への渇望が理由でもあったのだ。

 

 

「俺は、負けた。敗者は何もかも失う。それが筋だ………俺を倒したお前達には、その理由がある」

 

「私は────刹那さんと話がしたいんです」

 

「どこまで、お前は………綺麗事を貫こうとッ。そういう偽善が、気に入らないんだよ………ッ!!」

 

 

無気力に俯いた刹那は、それでも対話を求める響へ苛立ちを滲ませた。無気力さから反転した怒りに突き動かされた刹那は

 

 

「理由が知りたい!?知りたいなら教えてやるよ!俺が力を求め、強くなりたかった理由────それは復讐だ!!ただ人助けをしていた俺達を理不尽に襲い、俺から仲間を奪ったクソったれのセカンドをブチ殺すッ!!俺はその為に強くなりたかったんだ!!」

 

「…………」

 

「その為にまで、俺はアイツらの正義まで踏み躙った………身体を弄くられて、こんな化け物になってまで…………その結果がこのザマだ!折角手に入れた力に振り回されて、その力も失って……………挙句の果てには歩み寄られるだと?情けなさ過ぎて死にたくなってくるッ!!」

 

 

弱かった『セツナ』を捨て、強くなる為に『如月刹那』になった。血の滲むような努力を繰り返した刹那は、セカンドへの報復を望んだ。その果てに歩んだ道筋は、この有様だったと刹那は泣きながら笑う。壊れたように、狂ったように自分の有様を嘲笑っていた。その姿は、あまりにも痛々しい。

 

 

「復讐の為に、力を求めた………大切な誰かを奪った相手への怒り、デスか」

 

「違う。多分、それだけじゃない………本当の理由は────」

 

「────守れなかった自分自身、弱かった自分への怒りが、如月刹那をあそこまで強くした。それは、分からなくもないことね」

 

 

そんな魔剣士の姿に、一人の青年の絶望に、マリア達は表情を曇らせた。戦えずに理不尽に虐げられる人々を守る為に、彼女達は世界を救うことを選んだ。如月刹那も、理不尽に虐げられた一人であったと、誰からも救われることのなかった、犠牲者であると知ったのだ。

 

しかし、彼はもう救いを求めてすらいない。抗い、手に入れようと固執した結果、一人で突き進んできた彼は他人に求める救いすらも、切り捨ててきた。そうすることが、強いことだと信じて。

 

 

「もういい、殺せよ。俺はお前らと理解し合いたくない。無様に馴れ合うくらいなら、死んだ方が遥かにマシだ」

 

 

刹那が求めるのは、死。

彼は他人と理解し合うことを、弱者のソレと毛嫌いしている。他人に救われることを是とするくらいならば、死を選ぶ。そこまで頑強な意志を見せるのは────彼に生きようとする理由がないからか。

 

明確な拒絶を示す刹那に、響はそれでも歩み寄る。

 

 

「声が、聞こえたんです」

 

「────声?」

 

「刹那さんを必死に止めようとする声が、私と未来を繋いでくれたんです。その声の人が、私達と一緒に刹那さんを止めてくれたんです」

 

「…………………リセリア?」

 

響が刹那を止めようとした理由の一つ、それは刹那と話し合うため以外にもあった。それは、あの時聞いた────如月刹那の名を呼ぶ誰かの声。辛そうに、悲しそうに叫ぶ少女の声の存在に、刹那は思わずかつての敬愛するリーダーの名を呼んだ。

 

そして、リーダーと共に散った仲間たちの存在も、あの時自分を止めた声の存在達のことも。

 

 

「皆は、ずっと俺を止めようと?…………どうして、そんなに俺のことを…………?」

 

「────大切だからに決まってるじゃないですかッ!!」

 

 

唖然と、呆然と呟く刹那に、響は真剣に叫ぶ。ただ一人生き残った事を後悔し、何かを理由に突き動かされた魔剣士に、響はリセリアが彼を生かした理由を、答えた。

 

 

「その人は、リセリアさんは!刹那さんのことが大切で、大事だったんです!だから止めたくて、声をかけ続けていたんです!刹那さんに傷付いて欲しくないから!刹那さんに、無理をしてまで変わって欲しくないからッ!!刹那さんが心から笑えなきゃ、意味ないからッ!!」

 

「────だったら、何で俺を一緒に連れてってくれなかったんだ」

 

 

響の言わんとすることを、刹那は理解していた。

だからこそ、俯いた青年は静かに涙を流していた。喪失を、孤独を埋めるために、彼はその空白に憎悪を、力を求めた。だが、それでも尚、胸に空いた穴は埋まらないことは、自分でよく分かっていたはずだ。

 

 

「皆となら、何処にでも行けた。どんな辛いことでも、笑い合えたはずなのに…………俺は」

 

 

その涙を、強引に拭った。手の甲で目元を払った刹那、彼はその掌を見下ろす。本当に欲しかったもの、自身がしたかったことを思い出した刹那は、不意に口を開いた。

 

 

「立花響、一つだけ聞かせろ────小日向未来は、無事か?」

 

「はいっ!今も元気に待っててくれてます!………刹那さんに、話したいこともあると思いますから!」

 

「……………そうか」

 

 

かつて自分の野心で巻き込んだ少女、彼女の安否を知った刹那はその目を伏せた。その僅かに生じた感情は、安堵か或いは後悔か。それは刹那本人にしか分からないものだろう。

 

 

「…………散々戦い、傷つけた相手に手を伸ばすなんて…………お前は本当に大馬鹿野郎だ」

 

「あ、はは………それが私に出来ることだって、信じてますから」

 

「そういう奴だからこそ、そこの奴等も心を許せたんだろうな────そして不愉快な話だが、この俺も」

 

 

自嘲するように笑った刹那は、響の差し伸ばした手を掴もうと腕を上げる。今や彼女を偽善だの、くだらないだの笑っていた彼はいない。その強情さと、かつての仲間たちを思わせる優しい心を知った刹那はその手を取ろうと────、

 

 

────今だ、No.3。そのまま狙い撃て

 

────命令をするな、エリーシャ

 

「ッ!?避けろ、立花響!!」

 

「────えッ」

 

 

不意に、刹那は響の手を払い除け、体当たりで突き飛ばした。そうして倒れた響の前で、刹那を胸を閃光が貫く。圧縮されたレーザー砲。デュランダルのソレより威力は低いが、それでも疲弊しきった刹那の肉体を貫通するに充分な威力を誇る、光線が。

 

振り返った響の前で、胸に穴を空けられた刹那はその場で立ち尽くし、遠くの空を睨んでいた。

 

 

「…………今のは、グラムシリーズか。エリーシャめ、この土壇場で俺を切り捨てに来たとは、な」

 

「刹那さんッ!」

 

「────よく聞け、立花響。フロンティアは間もなく墜落するが、止める方法はある。俺を、メインブリッジへ連れて行け。こんな状態で、向かおうにも向かえないのでな」

 

 

血を吐いて崩れ落ちる刹那、彼に駆け寄った響の手を掴み、刹那はそう呼び掛ける。ネフィリムの心臓越しに、ドクターが命じたフロンティアの墜落のことは分かっている。彼はその墜落を阻止する為に動くことを選んだ。

 

 

「────無空剣。既に月の遺跡は起動し、月は軌道に戻った。ここから数百メートル先の区画で、ナスターシャ教授とあのサイボーグがいる。あの二人を連れてフロンティアを脱しろ」

 

「…………信じていいんだな?」

 

「敬愛するリセリアの名に賭けて、虚偽は無いと断言するまでだ」

 

「────分かった。皆、教授やタクトを連れて脱出しよう…………エリーシャが動いた以上、奴を警戒する必要がある」

 

 

刹那の目を見据えた剣は、彼の発言に嘘偽りはないと信じ、その場を離れる。後に続く翼やクリス、切歌や調────そんな中で、残った響と刹那に同行する者がいた。

 

 

「────私も行くわ」

 

「マリアさん!」

 

「フロンティアの浮上、ドクターの暴走は、少なくとも私にも責任はある。この事態を招いた者の一人として、フロンティアの停止を行う義務がある」

 

「…………勝手にしろ。時間は無いぞ」

 

 

マリアと響に肩を貸され、そのままメインブリッジへと向かう刹那。血を流しながらもその魔剣士は両肩に並ぶ二人の少女を見て、何かを思う。

 

 

「────夜空を照らせ、正義の星よ。暗雲渦巻く暗闇の中でも、闇夜に消えても、我等は巡り空へと廻る」

 

「………その歌は?」

 

「俺達の、『星の歌(スターライト)』の歌だ。意味は………たとえ我等が死んでも尚、我等は紡いだ正義は絶えず、いずれ誰かが正義の星となる────自分自身に拘らなかったリセリアは、よくこの歌を歌っていた」

 

 

刹那はその歌を、胸の中に開いたその歌声を思い出し、語り出した。その瞳には、あの時────死ぬ間際も、リセリアは笑って呟いていたのが、記憶に刻まれている。

 

 

『セツナ────私達は、正義の星は、貴方の側にあるから』

 

「…………リセリアは、俺に過つなと言ったのだろう。あの時の言葉を、何故俺は忘れたのか」

 

「道を誤っても、前には進めます。だから、リセリアさんの信じたやり方で、今度は頑張ってください」

 

「…………それもそうだな」

 

短く呟いた刹那は、不敵に笑う。メインブリッジ、制御室に到着する直前、刹那は不意に二人を押し退けた。突然の事に二人は混乱するが、刹那のその目を見て、様子がおかしい事に気付いた。

 

 

「………刹那さん?」

 

「……………」

 

「貴方、何をする気………?」

 

 

戸惑う二人に、刹那はその手を翳す。すると、二人の身体を光の壁が覆った。バリアのように展開されたソレは、刹那が最後の最後で使うフロンティアの権能の一つ。突然の事に動揺する二人を尻目に、刹那は吐き捨てる。

 

 

「悪いが、ここでお前等は帰れ。この始末は俺一人で付ける」

 

「如月刹那!貴方まさか────フロンティアと共に沈むつもり!?」

 

「そんな────待ってください!駄目です!刹那さん!」

 

「勘違いするな。馴れ合いなどではない………俺の後始末を他人に預ける気はないだけだ」

 

 

このフロンティアと共に心中する。

その意思を示す刹那を止めようとする響だが、既に彼女にバリアのような障壁を破る余力は残ってない。血を流し、吐血する刹那は、自嘲するように零した。

 

 

「正義の星は、一度絶えた。しかし、人と分かり合う意志は消えていないことを、俺は見た」

 

 

リセリアは、助け合うという意思は、人は繋がれると信じ、その正義を胸に最後まで戦い続けた。その意思を託された刹那は、その意思を忘れて暴走した。だが、それでも、かけ離れた世界の先で、彼女の意志は流れ着いていた。

 

胸の歌を秘める少女、立花響の意志として、願いとして。

 

 

「────俺達の正義、リセリアの意志を、お前に託す」

 

「………刹那、さん」

 

「これから、お前が戦う相手は俺のように単純にはいかないだろう。それでも、手を伸ばし続けろ。どれだけ偽善と謗られようとも、お前のその手は他人の心を紐解いた────お前ならば出来ると、信じてる」

 

「待ってください────刹那さぁんっ!!」

 

 

最後に言い残し、刹那は響とマリアをフロンティアの外部へと射出させた。バリアで守られているため、ここから落下しても無事であることは間違いない。再生しながらも、まともに動く余力の少ない刹那はよろけながらメインブリッジへと進み、その場に立ち尽くす。

 

 

「フロンティアを────落とさせはしないッ!!」

 

 

刹那は制御盤に両手で触れ、同時に十基のビットでフロンティアを完全制御下に置く。急速の勢いで海上に落下しつつある巨大な箱舟をコントロールし、その落下を軽減させようとする────が、今の刹那にはあまりにも負荷が大きかった。

 

 

「ぐ、ばッ────お゛オ゛ぇ………ッ!?」

 

全身から血が溢れ、喉から大量の血を吐き出す。余裕がある状態でなら難なくフロンティアを制御することは可能だろう。しかし、今疲弊しきった刹那にはそれも叶わない。それを達成し切る力は────出し尽くす以外になかった。

 

 

「まだだッ────まだ俺は、止まれないッ。止まるわけには、いかないんだッ!!」

 

「デュランダル!万物を切断せし、悠久不朽の聖剣よ!お前が完全聖遺物だと言うならば!世界の一つは救う力を発揮してみせろ!この俺を壊し尽くしても、可能なはずだッ!!────応えろ!デュランダルぅ────ッッ!!!」

 

 

その胸に、肉体と同化したデュランダルが刹那の叫びに呼応するかのように、光を増していく。無限に等しいエネルギーがフロンティア全体へと流れ込み、刹那にフロンティアを完全掌握するほどの力を与えた。

 

最早立つことしか出来ない中、刹那はフロンティアを安全に落下させる、世界中に犠牲を出さない方法────フロンティアの崩壊を実行した。

 

 

巨大な大陸が、空中で別れ合う。

一つ一つの構造体が分解されていき、それぞれが被害を出さない大きさの塊となって海に落ちていき、沈む、それは崩壊と言うよりも、分解────解体されていく巨大な箱舟は、その機能を完全に終わらせようとしていく。

 

 

「────俺は、結局何にも成れなかった」

 

 

割れていくフロンティア内部のメインブリッジで、全てのことを終えた刹那は安堵して、その場に崩れ落ちる。最早彼に余力は残されていない。全ての力はフロンティアの制御に出し尽くした。仰向けに倒れた青年は今までのことを思い出し、自分が如何に愚かであったかを理解した上で、静かに後悔した。

 

そして、崩壊したフロンティアから、彼は落ちていく。無抵抗のまま、他の瓦礫と共に落下していく刹那は静かに目を伏せ、全てを受け入れようと────

 

 

『────セツナ』

 

「嗚呼、みんな────ずっと、そこに居てくれたんだ」

 

 

響いた声に、刹那は穏やかに笑う。手を差し伸べる先は、共に落下していく十基のビット。刹那の自律神経と脊髄が埋め込まれたビット、それには自律思考する為の脳髄が────殺された彼の仲間十人のものが埋め込まれていた。

 

涙と共に、刹那は自分が求めていた仲間が近くにいたことを悟る。最強になることを求めた魔剣士如月刹那はフロンティアと共に消えていった。

 

 

◇◆◇

 

 

「フロンティアが、壊れていく………」

 

「自然分解によって、本来起こるはずの二次被害を抑制したのか…………如月刹那」

 

 

砂浜の上で無空剣達は、フロンティアの崩壊を見上げていた。このままでは起こるはずだった二次災害、大規模な津波の発生は起こらないと、二課からの通信で報告されたが、彼らにそれを喜ぶ余力は無かった。

 

 

「分かり合えたのに………理解できたのに………」

 

「…………響」

 

「刹那さんの覚悟、分かったけど………それでも、生きるのを諦めて欲しくなかった。前を見て、夢を見て笑って欲しかったのに…………」

 

 

如月刹那。

当初から敵対していた彼との和解、その結果は刹那自身が命を捨てた犠牲で大災害は阻止された。特に刹那と話し合うことを望んでいた響はこの結末に、悲しみの涙を流していた。

 

彼自身、手を汚すことあれど、完全な悪ではなかった。彼自身も迷い、必死に求め進んだだけなのに、こんな結末が許されていいのか。そんな風に落ち込む響に剣は掛ける言葉もなく、ただ静かに肩に手を置く以外になかった。

 

────その存在が、現れるまでは。

 

 

「─────まさか世界を救う為に死ぬとはね、彼にしては特殊な末路じゃあないか」

 

 

ザッ、と砂を踏み抜いて歩く足音が響く。同時に聞こえるは、寄り添うようで無関心な冷たい感情が顕になった声。そうして現れるのは、白衣姿に顔半分を仮面に覆った────人を人と思わぬ狂人にして、外道。

 

 

「残念だよ、如月刹那。私は本気で、君の望む力を与えようとしたんだよ?それがこんな無意味かつ無駄死にをするなんて────実にかつての君らしい、無価値な結果じゃないか」

 

「………エリーシャ!」

 

 

無空剣を含むグラムシリーズ等、魔剣士を創り出した科学者 エリーシャ・レイグンエルド。彼はその場にいる剣たちに興味も向けず、フロンティアと共に散った刹那を鼻で笑う。冷徹な感情以外のソレは、明確な他人への侮辱────意図的な悪意があった。

 

 

「嘲笑ったか────必死に戦い抗い、望むものを求めたものを、無価値とせせら笑ったかッ!」

 

「無価値、無意味…………無駄と、言った。彼は元々、魔剣士になることを望まれていた。その為の悲劇、その為の舞台装置。これだけのお膳立てをさせられて、この有様だからねぇ。  

 

 

 

────ま、貴重な『奇跡』を見れたわけだ。彼を使った実験は、成功かな」

 

 

エリーシャの明かした事実、最初から『魔剣計画』が刹那に目を付けていたという事実。刹那にとっては理不尽、不条理であったはずのソレは、大人たちが仕組んだ悪辣であったとエリーシャは語る。

 

 

「今回も君達の勝ち、如月刹那は倒れ、世界は救われた…………それで満足だろう?ああ、私は別に何かするつもりは無いから安心してくれてもいいよ」

 

「…………ならどの面下げて出てきやがった」

 

「────『宝物庫の鍵』だよ。別にアレに興味はないが、欲しいという要求を受けてね…………無論、言い方から分かると思うが、私ではないよ?」

 

 

その瞬間、不意に海が割れた。いや、海面から巨大な竜巻が走り、ソレが空から勢いよく砂浜に振り注いだのだ。埒外の現象を引き起こしたのは、水の嵐を纏ったローブの男。顔を仮面で覆ったその男は全身をローブで隠し、エリーシャの近くに降り立った。

 

 

「その顔、何か不満かい?目的のものは手に入れただろう?」

 

「…………こんな物に、と思っただけだ。数千万の時、我等一族が迫害を受けた力の一端、ノイズの支配がこれだけで可能とはな」

 

「道具とは使い方次第さ。これから君達は同じようなことを人類にすればいい、その為の杖だろう?」

 

 

ローブの男が手にするソレは、無空剣が回収したはずのソロモンの杖。その杖を忌々しく睨む男の様子に肩を竦めるエリーシャに、無空剣達は驚きを隠せなかった。

 

 

「ソロモンの杖っ!?馬鹿な────いつの間に!?」

 

「あれだけの戦いだ。君の手から零れても当然………海の中ならば手も届かないと思ったかな?残念、彼ならば取りに行くのも可能だったのさ。

 

 

 

 

さて、ノイズを呼び出し制御する全能の鍵────本来失われる筈のバビロニアの宝物庫も無事だ。ならばその力、使わぬわけにはいくまい?私達がノイズの力を────余すことなく有効活用しようというのだよ」

 

「そんなこと────っ!」

 

「その杖は捨て置け────ッ!」

 

 

ソロモンの杖を持ち去ろうとするエリーシャ達に、最後の力を振り絞った翼とクリスが弾幕を放つ。無数に振り注ぐ短剣の雨とミサイルの嵐。振り注ぐ攻撃を前にエリーシャはローブの男からソロモンの杖を受け取り、「任せるよ」と軽く言う。当のローブの男はエリーシャに見向きもせず、腕を振るう。

 

鋭く振るわれた腕、硬質化した鱗を纏う爪が振り注ぐ短剣を弾き飛ばしていく。迫るミサイルは男が近くの海面を掴み、水のヴェールを空中上に展開して防ぎ切った。

 

 

「何っ!?」

 

「なんだ今の────水を操作したってのか!?」

 

「流石は神代最古の種族────かつてはルル・アメルと手を取り合い、バラルの呪詛により不倶戴天となった種族────完全なる一つの生命、龍の力、紛うことなき神秘と呼ぶべきか」

 

「……………龍?」

 

「口が軽過ぎるぞ────科学者」

 

 

ローブをを纏う男、人間の物とは思えぬ腕を露わにしたその男はエリーシャはギロリと睨む。当のエリーシャは肩を竦めるだけで、男の圧に臆した様子すら見せない。

 

 

「まぁいい。では目的の物を手に入れたし、大人しく帰るとしようかな」

 

「くっ!このままでは…………!」

 

「既に刹那との戦いで力は出し尽くしてる………この状況じゃ…………」

 

「安心しろ。俺達には────心強い仲間がいる」

 

「っ!科学者!」

 

 

呑気にソロモンの杖を見せびらかして立ち去ろうとしたエリーシャ。しかし次の瞬間、彼の手にした杖が爆散した。いや────遠距離からの狙撃により、破壊されたのだ。手元の杖だけを破壊されたにも関わらずエリーシャは動揺せずに、不適にほくそ笑んだ。

 

 

「────No.7、小日向未来………ファフナー・ユニットによる狙撃か。流石は私の開発したグラムシリーズ」

 

 

着水したであろう二課の潜水艦、その甲板上に立つ影────未来と側に寄り添う巨大な機龍『ファフナー・ユニット』。その肩のキャノンが数キロも離れた距離からエリーシャの手にしたソロモンの杖を狙撃し、破壊したのだ。

 

足元に砕け散ったソロモンの杖の残骸を見下ろし、エリーシャは感心したように拍手を行う。しかし、彼の目論見が破られたことは事実。

 

 

「ソロモンの杖は壊された。どうするつもりだ、科学者。俺達を利用しようとしたはずだが、前提が崩れたぞ」

 

「────浅慮。君達は諦めが早すぎる」

 

 

無空剣や響達、同行者の男もソロモンの杖の破壊は間違いないと確信していた。しかし未だ笑みを崩さないエリーシャはソロモンの杖の残骸から紫色の結晶を取り出す。指で摘んだそのソロモンの杖のコアを────そのまま口に放り込んだ。

 

「「「「「なッ!!?」」」」」

 

「ソロモンの杖を、食った!?」

 

「────ふむ、なるほどね。これが先史文明の技術系統か。案外単純…………この程度ならば模造品の劣化コピーも簡単に作れるだろうね。何はともあれ────『理解』したよ」

 

 

バキボキ、とコアを砕きながら口に含むエリーシャはその完全聖遺物の構成を把握しているようであった。その姿を見た全員が絶句する中で、無空剣はある確信を胸に抱いた。

 

 

「エリーシャ…………お前人間ですら無いな………ッ!?」

 

「────『理解』が、浅い。今更気付いたのか?まぁ、この身体は人間のものだからね。遅れるのも当然の話か────アルフェくん」

 

「勝手に名を呼ぶな、科学者」

 

 

手を伸ばすアルフェの元に、意思を持ったように水流が纏わりつく。吹き荒れる水流と共に、男とエリーシャは姿を消した。事件の終わりとは思えぬ結末に、剣は拳を握り敵を睨み続けていた。

 

 

◇◆◇

 

「────間違ってる………英雄を必要としない世界なんて!僕が英雄になれない世界なんて………!」

 

事件が幕を下ろした直後、弦十郎達に捕まえられたウェル博士が事件の首謀者の一人として捕らえられた。人類の救済を最優先として動いていたナスターシャやマリア達とは違い、ウェル博士は英雄になる為に人類虐殺を決行しようとした。その罪は明らかなものであった。

 

 

「マム………!」

 

「マム!無事デスか!?」

 

「えぇ、平気です………私の心配の必要はありませんよ」

 

 

切歌や調、マリアが駆け寄るのは疲弊したナスターシャ教授。本来の車椅子を失った彼女はタクトに連れられ、担架に寝かされていた。

 

 

「月の遺跡、バラルの呪詛を再起動したことでその軌道は元に戻りました…………」

 

「…………マム。気になっていたのだけれど………マムは確か、月の遺跡に打ち上げられたはずよ。どうしてあそこから助かったの?」

 

「助かった、というよりは………助けられたのですよ」

 

 

ナスターシャが語るのは、あの時の出来事。フロンティアを支配して月の落下を目論むウェル博士に、ナスターシャは必死に解決案を提示したが、聞き入れるどころか疎ましく思われて排除されそうになった時のことだった。

 

 

『────そんなに遺跡を動かしたいのなら!アンタが直接月に行ってくればいいだろうがッ!』

 

ナスターシャのいる区画ごと月に打ち上げたウェル博士。本来であれば抵抗の余地もなく、月の遺跡に激突しているはずだったナスターシャは、打ち上げられた区画の中から救い出されたのだ。

 

 

『────』

 

『シオン・フロウリング…………』

 

精神を破壊されたはずのグラムシリーズ、蒼いギアを纏う青年が空へと飛ばされたブロックからナスターシャを助け出したのだ。彼はそのまま何事も発することなく、飛翔した────彼が月の遺跡に向かい、バラルの呪詛を起動したことで月の遺跡が再起動したのは自明の理であった。

 

 

「…………シオン、お前はあんな姿になっても尚、誰かを救う道を選んだのか」

 

「だが、バラルの呪詛は再起動させてしまった。エリーシャの企みも防げずじまいだ」

 

「へいきへっちゃらです────だって、この世界には歌があるんですよ!」

 

 

今回の戦い、フロンティア事変と呼ばれる戦いでは多くの苦難と困難に襲われてきた。そしてそれはこれからも、これ以上の困難が襲い来ることに間違いはなかった。それでも、笑顔で告げる響の言葉に、その場にいる全員が笑って応える。歌があるのなら、きっと人は、世界は一つになれる。そう信じ、彼等は救うことのできた世界を見つめるのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

フロンティアの残骸が残る海面。その瓦礫の浮かぶ一帯の一つに、如月刹那は倒れていた。胸を抉られ、力を出し尽くしたはずの如月刹那────その胸のコアが、微かに脈打っていた。

 

 

「────結局俺は、死に損なったか………」

 

 

「────驚いた。ホントに生きてるのね」

 

「────完全聖遺物のポテンシャルを120%以上も引き出している…………局長も興味を持つワケダ」

 

 

そんな刹那の下に、三人組の女性が姿を見せる。ボロボロになりながらも微かに息のある刹那を見た二人は、デュランダルの本来の機能を上回る力を引き出していることに感心しているようであった。

 

そんな二人組の前に出た一人、男装の麗人がゆっくりと刹那の前に膝をつく。そしてゆっくりと語り出した。

 

 

「如月刹那。我々はある目的の為に魔剣士を求めている。無空剣は既に二課と合流している、シオン・フロウリングは行方知れず。我々が探し出せたのは君だけ────世界を救う為に、その力を貸してもらおう」

 

「………何者だ、お前達は」

 

「パヴァリア光明結社。ヒトを、世界を救う為に歴史の影が暗躍するモノよ」

 

物語の影で、暗躍は進んでいく。如月刹那は歴史の闇に潜む勢力、パヴァリア光明結社と接触し────、

 

 

◇◆◇

 

「────時は満ちた」

 

「古を生きる神秘を覚醒させる要素は手に入れた。後は器たる魔剣士を手に入れることだ」

 

「グラムシリーズ…………魔剣計画への恨みを抱く者たちよ。私の為に動き、戦うといい」

 

「代わりに、私は君達に兵器を与えよう。魔剣計画を、ヤルダバオトを殺せる程の力────世界を滅ぼす悪龍を。完全なる生命を、この世界に下ろそう」

 

 

そして、エリーシャ・レイグンエルドは最後の暗躍を始める。

シオン・フロウリング以外のグラムシリーズを率い、他の者と手を結び、彼は彼の望むものを作り出すために、世界を舞台にした最後の実験を始めようとしていた。




シンフォギアG編、完結です!後は色々とオマケを書いてからGX編に突入しようと思いましたが、その合間の話としてオリジナルの章を書こうと思います!その名も、X編!…………安直とか言わないでネ。

グラムシリーズNo.2からNo.6、そしてアルフェ含む謎の勢力。彼等の目的、そして龍なる存在に触れていくストーリーになります!


原作との大きな違いで、ナスターシャ教授も生存です。その理由はシオンが助けたという点にある。翼達に撃破されてすぐナスターシャを助けた………ほんとに動きが早いね。


次回もお楽しみくださいませ!それでは!
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