とある場所に教会があった。特に変わったようなところは無いが、そこでおおよそ神とは縁がなさそうな若い男が中央の十字架を見ながら立っていた。
「どうしたの?こんなとこで?」
そこへやって来たのは長髪の少女だった。髪飾りなどはつけていないが右半分が青色左半分が緑色という奇妙な髪色をしており、目のオッドアイはその色の左右が逆になっている。
「なぁ本当にこのまま続けるべきなのか?本当にこれしか方法はないのか?」
「今更止められない。ここまでどれだけ多くの時間を費やしたかはあなたにも分かるはず。それにこれが叶えばまさしく全人類が理想郷へとたどり着ける。ほら、頼まれた水」
そう言って少女は男に水を投げ渡す。水を受け取った男は長椅子に座り、蓋を開ける。
「その理想郷にたどり着くために何人が犠牲になる?」
「少なくとも未来にはそれ以上の人間が救われることになる。そしてあなたは長年望んだ願いを、決して叶えることが出来なかった願いをようやく叶えることができる」
「それは本当に正しいことなのか?今ある命を犠牲にすることが本当に?」
男は足元の床を見ながら問う。その様子は少女というよりまるで自分自身に問いかけているようだった。
「そうね。たとえこの先どうなっても殺すという行為は正しくはないのかも」
「なら…うっ!?」
飲んでいた水を落とし、座っていた男は床に転がり落ちる。
「だから私が全部やってあげる。あなたが望んだ願いを、あなたが背負う罪を私が代わりに背負う」
「お前水に…!?何でっ…!?」
信じられないといった様子で男は少女を見る。
「この先に進んだらあなたは戻れなくなってしまう。いつか誰かを犠牲にすることに耐えられず、自分を見失って今度こそ本当に壊れてしまう。だからこの先には連れていくことは出来ない」
「安心して。毒が入っているわけじゃないから。だけどこれであなたと私は終わり。もうあなたが苦しまなくてもいい世界を私が作る」
それを聞いた男は何か言いたげに口を開こうとするがその前に意識が途切れてしまった。するとその体の下に突如穴が開きその体は沈んでいった。
それを見た少女は扉を開け、決意を秘めた目をしながら誰もいなくなった教会を後にする。
後にこの少女が起こした騒動は文字どうり世界を巻き込み、定められた人々の運命を大きく変えることになる。そしてこれは世界を変えようとした者達と世界を守ろうとした者達の、あり得なかった運命をめぐる物語である。