1話 神浜の傭兵と白黒の魔法使い
その世界には魔女という名の怪物がいた。魔女は人々を襲い災厄をまき散らす。そんな魔女たちを倒すために、願いを代価に戦う運命を強いられた少女達がいた。それが魔法少女と呼ばれる存在だった。
ここは新興都市神浜。この都市の暗い夜の中、電灯の下で茶色の髪をした美人であるが少し冷たい印象を受ける少女と明るそうな黒い髪の少女が二人ベンチに座っていた。
「あとどれぐらい?」
「5分。まぁいくらあの子でも時間は守ってくれるでしょ」
「いや、別にそういうことじゃないんだけど…」
「…ねぇ広美、あの子には悪いけどさ、もう行かない?」
「えっ!?何で!?」
まさかの発言に大人しそうな少女、広美が驚く。
「だってあの子が来たって正直迷惑じゃない」
「でもそれはいくらなんでも…」
「あなたお人よしすぎるわよ!あの子のせいで何度私達が危ない目にあったか…!ここに書き置きの紙と今回の契約料置いていったら納得するわよ!」
「でも菊ちゃん!約束破るのは良くないよ!」
「もともと評判だって最悪だったのよ!あなたが可愛そうだっていうから我慢してきたけど、これ以上一緒にいたら何が起きるか…!」
そんな言い合いをしていると、二人の耳に誰かが走って向かってくるような足音が聞こえてきた。
「よー!待たせたな!」
「フェリシアちゃん!」
そこに現れたのはまだ小学校を卒業したかどうかの瀬戸際にいるであろうオーバーオールを着た金髪の少女だった。
「何かでかい声が聞こえたけどどうかしたのか?」
「ううん何でもない。とにかく、みんな揃ったしもう行こう!」
「ちょっとまだ話は終わって…」
広美は話を切りだそうとした菊の手を引き歩き出す。
なんのことだか分からないフェリシアはそれに着いていく。
「で、どこにあるか分かってんの?」
「うん、さっき見つけたんだ」
「じゃあいこうぜ」
広美はこのときのフェリシアの声が低くなったように聞こえた。
そして三人は目的の場所へと向かうため町の通りを歩く。もう夜になるが、新興都市であるこの場所は所々に明かりが見える。
(ねえ、ちょっと)
菊が
(どうしたの?)
広美も声を出さずにそれに応える。
(やっぱりこの子雇い続けるの考えなおさない?)
(もう菊ちゃんたら。そんなにフェリシアちゃんと組むのやなの?)
(当たり前でしょ!この子がチームがいると…)
「おい!あったぞ!」
いつの間にか広美達を追い越していたのか、先頭にいたフェリシアの怒鳴るような声にハッとなり、二人は前を確認する。小さなビルの陰。そこを奥に行くと光る門のようなものが見えた。見づらい位置にあるが彼女たちにはそれがそこにあることを感じることが出来た。
そして門の前に立つと彼女たちの手に宝石のようなものが現れる。
次の瞬間彼女たちの姿は普段着から全く違う姿へと変わった。
牛のような角とゴーグルを付けた帽子を被り、スカートを履いた姿になったフェリシアは自身の背丈よりも大きなハンマーを手に携える。
菊はバレエのような衣装に双剣、広美はレンジャーの姿にブーメランとそれぞれ劇の舞台でするような恰好をしながら何かを倒すための武器を持った姿へと変わった。
そう、彼女たちこそ人々に災厄をまき散らす魔女を倒すための存在、魔法少女なのである。
「じゃさっさと行こうぜ」
そしてフェリシアが門に触れるとその体はどこかへと消えていった。
それに続き成美と菊が門に入る。こうして三人は魔女の潜む結界の中へと入っていった。
「ねえ、どうする?」
不気味な絵の中のような光景が広がる中、結界に入った三人目の前には巨大な
「そうね…広美がここから攻撃して崩したところで私達が一気に詰める。崩せなくてもちょっとした隙はできるだろうからそのまま攻撃。その後広美は一歩引いたところで援護。そんなとこでどう?」
広美の手にはブーメラン、菊の手には双剣がそれぞれ握られている。巨大な魔女に対してそれらは小さく見えるが魔法少女である彼女たちに限っては話は別だ。
「分かった。それでいいよ」
「フェリシアもそれでいいわね?」
「魔女…」
「え?」
見るとフェリシアは怒りで満ちた表情で魔女を睨んでいた。
「魔女!!」
そう言い放つとフェリシアは一人で魔女のもとへと突っ込んでいった。
「ちょっと!フェリシアちゃん!」
「待ちなさい!あぁまたっ…!」
慌ててフェリシアを追って菊が前に出る。広美もそれに続く。
三人が出ると同時に周辺に小さな悪魔のようなもの達が現れた。魔女の使い魔だ。
使い魔達は爆弾を投げてフェリシア達を攻撃する。投げられた爆弾は地面に当たるのと同時に爆発し、辺りを巻き込む。数多く投げられた爆弾により辺りはすっかり土煙に包み込まれた。
「てりゃ!」
しかしそんな中フェリシアは爆弾を回避し、握りしめたハンマーで使い魔を薙ぎ払いながら魔女のもとへと突っ走る。
「邪魔すんな!お前ら雑魚に様はねぇんだよ!」
「フェリシア止まって!危ない!」
「フェリシアちゃん!私たちの話を聞いて!」
二人はなんとかフェリシアを引き留めようとする。がフェリシアは二人の声に全く聞く耳を貸さず、フェリシアは暴走し続ける。
「菊ちゃん!」
「っ!?」
空を飛ぶ使い魔達が現れ、上から爆弾を落とす。小規模の空爆のようにも見えるそれらを避けようと菊は急いでその場から離れようとする。しかしギリギリ間に合いそうにない。
「間に合わない…!」
もはやこれまでと菊が諦めかける。
「私に任せて!!」
広美は持っていたブーメランを空へと投げる。投げられたブーメランは文の上にある爆弾に当たり、爆弾を空中で爆発させた。
「大丈夫!?」
広美が菊に駆け寄る。
「ええ…大丈夫よ。ありがとう。助かったわ」
「ううん、いいよ。だって菊ちゃん達をサポートするのが私の役目だもん」
一方フェリシアは勢いそのままに魔女へと突っ込んでいた。
魔女はフェリシアをとらえようと大きな腕を伸ばすが、その小さな見た目からは考えられない力を持つ魔法少女のハンマーにより弾かれた。
「フェリシアちゃん逃げて!」
爆弾を投げ終えた使い魔達がフェリシアに襲いかかる。
次の瞬間突如現れた双剣が使い魔の襲撃を阻んだ。
「無茶しないでよ!こっちまで危ないじゃない!」
一瞬でフェリシアの元に現れた菊は使い魔達を切り裂く。だがフェリシアは助けてくれた菊などお構いなしに突っ込んでいく。
「あのね!止まれって言ってるでしょ!」
「うるせぇ!オレ一人で十分なんだよ!」
フェリシアとその前にまで来た菊、二人が走っていると中央に佇む魔女の目の前にまでたどり着いた。
「りぁぁぁ!」
「ちょっ!?ストップ!」
興奮しているのか、フェリシアは菊ごと巻き込み魔女にハンマーを叩きこもうとしていた。
急いでかわし、なんとか巻き込みを喰らわずにすむ。
「セーフ…!何よあの子!私ごと潰す気なの!?」
だが魔女にハンマーは当たりその体勢が崩れる。
「魔女…お前は…!お前らだけは!」
フェリシアは思いっきり踏み込んで何メートルもあろう魔女の頭上まで飛び上がった。そして手に持つ大きなハンマーを振りかぶる。
「オレが全部ぶっ潰す!!」
振り下ろされたハンマーは魔女の頭をたたき魔女は崩れ落ちる。そしてそのまま起き上がることなくその巨体は消滅していき、その跡には黒い宝石のようなものを残していった。
そして魔女の結界は消滅し、中にいた三人はもといたビルの陰に放り出された。
そして先程まで3人は気づかなったが結界の中にいた人々も同時に倒れながら現われた。
「救急車呼んどいたわ。誰か来ると面倒だからここから早く離れましょ」
3人はすぐさまその場を離れ、暗い公園に辿り着く。
「へへへ、これで魔女は倒したぞ!」
先程までの剣幕はどこへやら、結界からでるとフェリシアは気の良さそうな明るい少女に戻っていた。
魔女を倒したことを確信し、三人は変身を解く。すると広美と菊が目配せをし始めた。
「なんだオマエら?こそこそなんか話してんのか?」
魔法少女なら誰でも出来る念話で話してると分かったフェリシアが尋ねる。
「…ねぇフェリシアちゃん」
「なんだ?」
「これ菊ちゃんが今回払うお礼の千円。それとこれ私の千円。あとあの魔女が落としたグリーフシード。全部上げる」
「えっ!?いいのか!?」
フェリシアはグリーフシードと呼ばれた宝石と普段よりも多くの報酬金を驚きながら受け取る。
「うんいいよ。ただその代わりに…」
そこまで言って広美が視線を逸らす。
「なんだよ?早く言えよ」
「…フェリシアちゃんには今日で契約を終わりに欲しいの」
「はっ!?なんでだよ!?」
いきなりの発言にフェリシアが怒鳴る。
「ごめんね…でもこれ以上組んでると私達が危ないと思って…」
「別にお前たちが怪我したりしたことはねーだろ!?」
「あのね、あなたが自分勝手な行動するのが悪いのよ」
菊が口を開く。
「何回言っても全然止まらないし、あなた一人で飛び出したせいでさっき私は危ない目にあった。それにあなたのハンマーに私潰されそうになったのよ」
そういいながら菊は語気を強める。
「それは…悪かったよ。つい周りが見えなくなっちまって…。でも別に良いだろ!勝てたんだから!」
「とにかく!私たちはあなたと組む気はもうないから!一緒に魔女倒してももう何も上げないから!」
「っ!そんなに言わなくていいだろ!」
フェリシアと菊は互いににらみ合う。
「フェリシアちゃん…。菊ちゃん…」
広美はどうにか場を収めたいがその方法が分からない。
「分かったよ!そんなに言うんなら抜けてやるよ!」
そう捨て台詞を残してフェリシアは走り去っていった。
「フェリシアちゃん!」
「ほっときなさい。追ったとこで何にもならないわよ」
そう言われて広美は足を止める。行ったところでチームを追い出す決断は変えられない。広美も今回の戦いでフェリシアをチームに入れておく危険性がよく分かってしまった。そうなった以上もう共に戦うことは出来ない。
だが目の前の状況を見ていることしか出来なかった彼女は、走り去るフェリシアを見ながらただその場に立ち尽くすことしかできなかった。
「ちぇっ!なんだよ!魔女さえ倒せりゃいいじゃんか!」
フェリシアは先程の怒りも収まらぬまま街を歩いていた。
「いっつもこーだよ!魔女は倒せるのになんでこーなるんだよ!」
神浜には他の街と比べ、非常に多くの魔法少女が住んでいる。そんな場所でフェリシアは魔法少女であることを活かし他の魔法少女を手伝う傭兵をやっていた。具体的な仕事内容は千円をもらうか、もしくは魔女を倒すことで手に入り、魔法少女の魔力の回復に必要な宝石であるグリーフシードを報酬とし、魔女退治に協力するというものだ。
だがほとんどは一回切りの契約で、それ以降フェリシアを雇い続ようとするチームはほとんどいなかった。大抵の場合先程のようなフェリシアの暴走にリスクを感じチームから追い出してしまうのだ。そのため神浜の魔法少女の間の評判も悪い。
そんなフェリシアは不機嫌なまま道をうろついていた。もう遅くだというのに家に帰らないのは彼女には帰る家も帰りを待つ親もいないからだ。
故に日々の食事は収入も大して入らない傭兵の仕事で賄っている。
そしてフェリシアがもらった二千円で何か食べようかと思い立ったときだった。
「おい」
後ろから誰がフェリシアを呼びかける。
「あぁん!?」
フェリシア不機嫌を隠そうともせずそれに応える。
そこにいたのはフェリシアと同じ金髪をした少女で、絵本でよく出てきそうな方の魔女の黒い帽子を被っていた。肩にかけた藁箒がそれっぽさを強調している。服装は白黒のメイド服のようなものを着ており、背丈は大体同じで年はそう変わらないようだ。
「随分荒れてるみたいだな。何かあったのか?」
「オマエには関係ねーし!てか誰だよオマエ!」
「お前深月フェリシアだろ?」
どうやら相手はフェリシアのことを知ってるようだ。
「そうだけど何?あっ、もしかして魔法少女?」
「傭兵やっているって聞いてきたんだが本当なのか?」
「あぁ本当だぞ。オレと契約しに来たのか?」
新しい契約への期待に先程までの不機嫌を忘れ、フェリシアは笑顔になる。
「まぁそんなところだ。といってもお前が思ってるのとは違うかもしれないけどな」
「ん?どういうことだ?」
「長くなるから今から家に来ないか?こんな夜更けに外で立ち話ってのもあれだろう?」
いかにも怪しい誘い方だがフェリシアはこうしたことに対する疑いを知らない。
「いいよ。どうせ誰かと契約しなきゃなんねーしな」
「…おまえ怪しいと思わないのか?」
「あ?もしかしてオマエ悪いやつなのか?」
フェリシアの目が釣り上がる。
「いや話がこじれそうだからもういい。ついてきな、案内するぜ」
しばらく連れられてやってきたのはある住宅街だった。そこまで遅くもないのに電気の明かりも見えないせいか閑静な場所に感じる。
「ついたぜ」
そういって少女が指さしたのは大分年季の入った洋風の家だった。ドアにかけられた板に七文字の漢字で何かが書いてある。
「きりあめ…?」
「
魔理沙は鍵を開け中に入る。スイッチを入れ電気を点ける。
「うおっ!?」
中に入って目に入るのは本や紙などの散乱物の数々。生ごみなどはないが、それでも片付けが得意でないフェリシアが驚くほどに中は物であふれていた。
「おっと、少し汚いかもしれないが気にしないでくれ」
「いくらなんでも酷すぎるぞ…!」
「昔っからこういうのは苦手でな。やる気にもならないんだよな」
「全然少しじゃねーぞこれ!足置けるとこほとんどねーじゃねーか!」
そう文句を言われながらも魔理沙は紙や本同士の隙間などを踏みながら奥に進んでいく。フェリシアもいつまでも文句を言ってもしょうがないのでそれにならい進んでいった。
歩く際中、床に散らばる本のタイトルを見ると魔法や化学に関するものが多く、何やら難しそうなものばかりなのでフェリシアは興味をもたなかった。奥にテーブルが見えると魔理沙は二つあった椅子の片方に座った。
「お前も座れ」
向かいの席にフェリシアも座る。
「で?結局何の用だよ?」
「そうだな早速本題に入るか。まずお前には傭兵をやめてもらうぜ」
「は?」
唐突に言われたことを呑み込めず少しの間フリーズする。しかしだんだんその意味を理解し、あまり高くないフェリシアの胸の中に怒りがふつふつ湧いてくる。
「なんで俺が傭兵やめなきゃないんだよ!」
フェリシアからしてみれば今は傭兵をやっているおかげで暮らしていけているのだ。それを突然やめろと言われて黙ってはいられない。
「お前仕事相手に相当迷惑かけてるらしいじゃないか。それで相当悪評が広がってるぞ」
「そんなのオマエには関係ないだろ!」
「いやそうでもなくてな。お前私とよく似てるとこあるだろ?おかげで私のことをお前だと勘違いする奴がいるんだ。ようはお前さんの悪評がこっちの商売にまで影響してるんだぜ」
そう言われてフェリシアは自分と魔理沙を見比べてみる。確かに二人はよく似ていた。金髪といい、どこか男っぽい口調といい二人をよく知らない人間が見れば勘違いしても仕方がないのかもしれない。
「でもそれはオレの悪口言ってる奴らが悪いんだろ!なのになんで俺が傭兵辞めなきゃないんだよ!」
「お前がまともに戦ってくれるならいいんだがな。聞いたとこによると何度言っても無茶な戦い方するらしいじゃないか?それでチームメイトを危険にさらす」
「別にいいだろ!それで勝ててんだから!オレは何言われても絶対に傭兵辞めねーからな!」
「最後まで話を聞け。今から私がお前を雇う」
「は?」
フェリシアはまた隙をつかれたような声を出す。傭兵をやめろと言われているのに言った本人に雇うと言われ当人は何が何だか分からなくなっていた。
「まさかお前の食い扶持を潰そうなんて思っちゃない。けどうち評判が下がるのは困るし、それに人手が欲しくてな。だから私とお前、両方の評判が良くなるまで家で働いてみないか?」
「オマエ突然何言ってんだよ…」
「何、こっちとしても強引に辞めさせるだけだと後味が悪い。お前宿無しらしいじゃないか?だったらこの家に住めばいい。飯も出すし必要なグリーフシードも渡すぜ」
確かにフェリシアには家も無いし、傭兵稼業では日々の食事にさえありつけるかは分からない。だが突然こんなことを言われては流石に困惑する。
「もちろんその代わり私の下で魔女退治とか手伝ってもらうけどな。だから勝手に他の奴の魔女退治を手伝うような傭兵業はやめてもらうぜ。どうする?」
フェリシアは考えた。元々傭兵業の報酬は半分ついでのようなもので、それより魔女を倒すことがフェリシアの主目的だった。その魔女狩りができるなら傭兵として雇われるのとそう変わりはしない。
それにいつまでもこんな状態ではいられない。悪評が広まっていることは自覚していた。いずれ変わらなければならないときが来る。フェリシアにもそれは分かっていた。
ならこの誘い、もとい契約はその変化のきっかけになるかもしれない。
「肉…」
「ん?」
「飯。肉は出るのか?」
「たまにならいいぜ」
「分かった。その話乗ってやるよ」
こうして深月フェリシアは霧雨魔理沙魔法少女店で働くこととなった。
10月5日 追記
一応知らない方に補足しておくと広美と菊はオリキャラの魔法少女です。