「おーい!」
「…」
「おい、起きろ」
「むにゃ…。何だよ…」
「もう十時だ!」
「もう少し…」
「いい加減起きろ!」
本当は寝ていたいが魔理沙があまりにしつこいので仕方なく起きることにした。
「お前どんな生活習慣してんだ。あのままだったら昼まで寝てただろ」
「うるせー…。少し位遅くなったっていいだろ」
「うちが客来るときは大体夕方辺りなんだ。それまでに仕入れに行くんだよ」
「仕入れって…どこ行くんだよ?」
「魔女退治」
その一言で寝ぼけていたフェリシアの目つきが一気に変わる。
「今日はグリーフシードを回収するついでにお前の腕前を見せてもらう。とりあえず仕度しとけよ」
フェリシアは身支度を整える。そして箒を持った魔理沙と共に外に出る。
「一つ言っとくが私にもし何かあっても病院?とやらに連れて行くなよ」
「どうしてだよ?」
魔理沙の妙な言い方を無視して尋ねる。
「色々事情があるのさ。まぁ血が止まらなかったり、見るからにやばい状況だったらいいが」
はっきりと疑問には答えなかったがフェリシアは気にせず頷いた。
「よし。じゃ早速探すか」
「なんだまだどこかにいるか分かってねぇのかよ」
「探すのも仕事のうちさ。それに全く見当がついてないわけじゃない」
そういうと魔理沙はポケットから何かを取り出す。
「なんだそれ?」
「簡単に説明するなら魔女のいるところを指し示すコンパスってとこだな。私達の分からない距離でも反応するんだぜ」
「すげぇ!めちゃくちゃ便利じゃねーか!」
フェリシアが羨ましそうにコンパスを見る。
「なぁなぁ俺にも一個くれよ!」
「こいつは作るのに手間取るんだ。そう簡単には渡せない」
「ケチ。そういやお前の仕事って何すんの?グリーフシード売るとか?」
「ま、それも一つだが全体としてざっくりいうんなら魔法少女専門の何でも屋ってとこだ」
「何でも屋?」
「まぁ、来るのは大体グリーフシード目当ての奴らだけだけどな。あとは魔法少女のレスキューなんかもやってる」
「へぇ…儲かんの?」
「いや全然。金のやり取りもやるがうちじゃ代わりに情報をもらってるな」
「情報?そんなもんもらってどうすんだ?」
その言葉を発したときだった。フェリシアは何かの気配があるのを感じた。
「その話はまた今度だ。分かるだろ?」
「魔女の反応…!」
そのままコンパスに従い魔女の結界に向かう。
すると突然フェリシア達の周りは先程までいた場所とは別の不気味なものへと変わった。
「どうやら魔女の結界に取り込まれたみたいだな」
フェリシアは魔法少女へと姿を変え、その手にハンマーが握られる。
「変身したか。じゃ先に進むぜ」
「おい!ちょっと待てよ!」
「ん?何だ?」
「お前変身してねーじゃん!そのまま行ったら危ねぇぞ!」
魔法少女は変身することで力を発揮する。だが魔理沙はフェリシアが言うように変身もせずに先に進もうとしていた。
「そういえば言ってなかったな。私は変身する必要がない。というか私は変身なんてできないんだよ」
「はぁ!?そんな魔法少女いるわけないだろ!?」
力を発揮するために戦うときには変身するはある意味絶対の共通ルールである。それをしないという魔理沙の発言がフェリシアには到底信じられなかった。
「ま、そんな奴がいても別にいいだろ。それに戦うぶんには問題ない」
「マジかよ…。そういやオマエ、ソウルジェムは?」
ソウルジェムとは近くの魔女に反応し、魔力の源にもなる魔法少女にとって欠かせない宝石である。大体の魔法少女は普段は指輪に変化させてつけ、魔法少女に変身したときなにかしらのアクセサリーにして付けている。
フェリシアは今その宝石を胸元と腰をつなぐチェーンに付けているが、魔理沙の方はそれらしきものつけているように見えなかった。
「ソウルジェムはない。言って見れば私の体そのものがソウルジェムの代わりをしてるんだ。だから本当はグリーフシードも必要ないんだよな」
「嘘だろ!?」
フェリシアが驚くのも無理はない。魔法少女にソウルジェムがあることも共通ルールなのだ。
というより魔法少女にしてみれば変身のことよりもよっぽど重要なことである。なぜならソウルジェム戦うための魔力の源であり、さらにその魔力を回復するためのグリーフシードは本来魔法少女同士が争うレベルで必要なものなのだ。
故に他の魔法少女からしてみればそれを必要としない魔理沙の存在はとんでもないイレギュラーなのだ。
「だから私は神浜の魔法少女達にグリーフシードを渡すことで魔女退治を許されてるんだ。さっき言ったとおりタダじゃないけどな。そんなことよりもほら、来るぞ」
言われるがまま前方を見るとそこには両手が大きなニードルになった大きな怪物… 魔女が現れる。そしてその周りを大勢の使い魔が囲っていた。
「よし、とりあえず一人であの使い魔達を倒してみてくれ。代わりに魔女は私がやる。いいな?」
そう聞いたが返事が返ってこない。不自然に思った魔理沙がフェリシアの方を見るとそこには憎悪の目で魔女を睨みつけているフェリシアの顔があった。
「魔女は…」
「おい待てフェリシア!」
「オレがぶっ潰す!」
魔理沙の制止も聞かずフェリシアが魔女の下へと駆け出す。周りの使い魔がフェリシアを襲うが、そんなものはただの邪魔といわんばかりに薙ぎ払っていく。
「無茶ってのはこういうことか…!フェリシア止まれ!」
だがフェリシアにその声は届かない。使い魔達を振り切り魔女へと向かう。近付くフェリシアに魔女がニードルを振り下ろす。しかしフェリシアのハンマーに打ち負けそれは弾かれる。フェリシアはその隙をつき一気に懐に飛び込む。そして渾身の一撃を入れんとばかりにその腹にハンマーを叩き込もうとした。
「これで…っ!?」
その瞬間だった。魔女の口の中にその大きさに見合うほどの大きいニードルがみえた。
フェリシアは本能的にそれがこちらに射出されるものだと察した。
「やべ…!」
慌てて回避に移ろうとする。
「うおっ!?」
急に後ろを何かに掴まれフェリシアの体は宙へと連れていかれた。
「バカ!勝手に一人で突っ込むな!」
フェリシアを宙へと連れて行ったのは魔理沙だった。箒にまたがり、フェリシアをつかみながら飛んでいる。
「うるせー!魔女は全部俺が倒す!」
「あっ!」
魔理沙の手を振りほどき魔女の下へと降下する。それを見た魔女は今度こそ逃がすまいと再び口のニードルを射出しようとする。
「二度同じ手が通じるかよ!」
フェリシアは空中でハンマーを振りかぶり魔女の頭へと投げつけた。魔女はとっさにハンマーを叩き落とそうとするが間に合わない。そのままハンマーは脳天に当たり、魔女は大きくバランスを崩し、動かなくなる。
そして地上に降りたフェリシアは落ちたハンマーを拾う。
「てりゃぁぁぁ!」
そのまま魔女の胴体にハンマーを叩き込み今度こそ渾身の一撃を食らわせる。その一撃を受け止めきれず、魔女は地に伏せ、そのまま消滅してしまった。
「ふー…ふー…。どうだみたか!?」
そう言って拾ったグリーフシードを魔理沙に見せつけた。
だが地上に降りた魔理沙の反応は片手で頭を抱え首を振るのみだった。
「魔理沙!」
「…なんだ?」
「なんでそんなに機嫌悪そうなんだよ!ちゃんと魔女は倒しただろ!?」
ニードルの魔女を倒した帰り道、魔理沙はずっと浮かない顔をしていた。
「なぁ、魔女が憎いのは分かるがお前どうにかしてあの暴走する癖治らないか?評判悪いのもあれのせいなんだろ?あそこまでだと後方支援もしにくい」
「別に倒せればいいじゃん!」
「一人で倒せない奴と会ったらどうする?大体今日も私が割って入らなきゃどうなってたか…」
「あんなの一人でよけられた!」
「とにかく次は私の話をきけよ?」
「フン!」
フェリシアは拗ねてそっぽを向いてしまう。
「言って治るなら今頃こんなことにはなってないか…」
二人はそのまま家へと帰った。
「ったく!なんだよあいつ!オレが魔女倒したのがそんなに気に入らねーのかよ!」
フェリシアは家に帰った後、昨日と同じく自室で魔理沙に対するいら立ちを募らせていた。
「大体なんだってオレの好きなようにやっちゃダメなんだよ!悪いのは全部父ちゃんと母ちゃんを殺した魔女じゃねぇか!なのにどうしてオレばっかそんな好き勝手されなきゃならないんだよ!」
フェリシアは思い出す。両親を魔女に殺されたときのことを。魔女に全てを奪われたときのことを。その怒りを。そして胸の中で魔女に対する憎悪の炎がたぎりだす。
「魔女は全部俺がぶっ潰す…!」
その夜、再びフェリシアは心の中で魔女に復讐を誓うのであった。
「ってことがあってな。正直あそこまでとは予想外だった」
一方魔理沙はあるところに携帯で電話をかけ、自室の机の椅子に座りながら今日のことを話していた。
「あなた大丈夫なの?戦いのこともそうだけど本当に彼女の面倒見てあげられるの?」
「おいおい別に世話してやるために引き取ったわけじゃないんだぜ。あいつにも色々手伝ってもらうさ」
「まぁあなたのことだし私からは何も口出し出来ないけど…。でもやっぱり大変そうね」
今魔理沙と話しているのは七海やちよ。神浜のベテラン魔法少女で、同時に神浜西の魔法少女達のリーダー的存在でもある。リーダーといっても代表のようなもので、今は誰かと組んで魔女退治をすることはしない。
「前にも言ったが食うもんには当分困らない。けどやっぱ一人で突っ込んでいくのはどうにかする必要があるな」
「それにしてもやっぱり本当だったのね。話も聞かず勝手に行動するって」
「あぁ。けど親を殺された恨みってのはそれ位強いもんなのかもな」
「え?どういうこと?」
「ん、まだ話してなかったか。まぁお前になら話していいだろ」
フェリシアが過去に何があったか魔理沙は伝える。
「そうだったの…でも魔法少女はみんな必死で命を懸けて魔女と戦っている。いかなる理由であれ他の魔法少女を危険にさらす行為は許されるべきではないわ」
やちよはあくまで一人の魔法少女としての意見を述べる。
「まぁどうにかできるように頑張るさ」
「何度もこういうこと言うのは気が引けるけど生半可なことじゃ多分どうにもならないわよ。両親を殺された恨みなんて一生かかっても忘れられないかもしれないだろうから」
「正直家出した私に同じことが起きてもそこまでになるか分からないけどな」
「大切な人を失った悔しさや悲しみなんて失って初めて分かるものよ」
「…悪い、無神経だったな。そういやみふゆの方はどうだ?あれからどうなった?」
「特に進展はないわ。やっぱりショックは大きいみたい。いつ立ち直れるか私にも分からない」
「そうか…。仕方ないな、立ち直るのを待つしかない」
「魔理沙。あなたはあの子に伝えるつもりなの?あのことを」
その質問に魔理沙はうーんと困ったような声を出す。
「少し悩む話だが、機会があれば話すつもりだぜ。魔法少女ならいつか必ずぶつかる壁だ。ならそのとき誰かが話してやらなきゃないだろ。まぁあいつはそれよりも…」
「他に何かあるの?」
「いや何でもない。報告はこんなもんでいいだろ。じゃあな、そのうちお前も誰か気の合う仲間を見つけろよ」
そう言って電話を切る。
「やっぱり慣れないなこういう機械には。魔法も使ってないのにどう動いてるのやら」
電源も切り携帯を机に置く。
「さて、どうしたもんかね」
天井を見上げながら魔理沙は考えていた。フェリシアがいずれぶつかることになるかもしれない残酷な真実。果たして本当に伝えるべきなのか。
その思考に身をゆだねている間にも段々とその夜は更けていった。