ニードルの魔女を倒した翌日、朝に魔理沙とフェリシアはまた魔女退治へと繰り出していた。
「じゃ、今度はこっちの話を聞いてくれよ」
「…」
(やっぱり今回も言うこと聞いてくれそうにないな…)
元より魔理沙は話を聞いてくれることなど期待してなかった。だが少しでも動きを合わせられるようにするために一緒に行った方が良いと考えたのだ。
「フェリシア」
コンパスを出し、歩きながら話しかける。
「…なんだ?」
「そんなにあいつらが憎いのか?」
「父ちゃんと母ちゃんは魔女に殺されたんだ。だからどんなことがあっても絶対許さないし、許せねー」
フェリシアは拳を握りしめる。
「別に連携に拘ってる訳じゃないがあの暴走癖、お前に治す気があろうがなかろうがいつかはどうにかしなきゃならなくなるぜ」
「なんでだよ?」
「私はいつかここからいなくなる。そのときどうする?収入源が他の魔法少女と来たらそいつらと上手くやってかなきゃ食べるもんにも困るだろ。盗みでもやるなら別だけどな」
「それは絶対駄目だ!」
フェリシアが強く否定する。
「どうして?」
「だってそれじゃ同じじゃねぇか…!オレから全部奪っていった魔女と…!」
「なら、せめて話を聞くだけでもできるようになった方がいい。じゃなきゃお前の言うこともやることもただの自分勝手にしかならないぜ」
フェリシアが魔理沙をにらむ。そのとき二人は魔女の反応を察知した。
「この近くだな」
今度は魔女に取り込まれることはなく二人は結界の入口まで歩いて来た。
無言でフェリシアが変身する。
「じゃあ行くか」
「やっぱ変身しねーのかよ」
自分だけ変身して結界に入るということにフェリシアは違和感を覚えずにいられなかったが、魔理沙は普段から魔法少女のような姿をしているので格好自体は自然に感じる。
二人は結界に入る。まず最初に目に入ったのがあたりに散らばる魔理沙達の身を隠せるほど大きなおもちゃ箱だ。
そして中央には例のごとく魔女がいた。それは大きな丸い球体に羽を生やし、口さけ女のようにパックリと開いた口をこちらに向けて宙に浮いていた。
「さてと…」
魔理沙はチラリとフェリシアの方を見るとやはり怒りに顔を歪ませたフェリシアの姿があった。
「りゃぁぁぁ!」
またフェリシアが魔女の元へと飛び出す。
「まぁこうなるよな」
箒に跨り、飛んで魔理沙がそれを追う。
それを見た魔女は周りにサッカーボールほどの大きさのカラフルな色をした岩を浮かせた。一つだけでなく数十個はあるようにみえる。
「おい!来るぞ!」
岩は二人めがけ突進して来る。
「こんなもん!」
フェリシアはハンマーで振り払い一部を壊しながらかわすことで、魔理沙は空を飛び回りながら岩たちの突進に対処する。
そして近づくにつれ魔理沙たちを攻撃する岩の数が増えていった。
(妙だな…)
魔理沙は段々使い魔達の攻撃が避けづらくなっていくのを感じた。無論数が増えたせいでもあるが、それだけではない。
(私がよけた先に岩が来すぎている…偶然か?)
ただの偶然ならば問題ない。もしこちらの動きを読み、魔理沙の行く先に攻撃しているとしても空中にいるならばどうにかなる。さらにまだ迎撃もしていないので、すればさらに楽になるだろう。
だが問題は地上にいるフェリシアの方だ。
今のところどうにかなっているようだが、動きが読まれているとなるとこの先さらにきつくなるだろう。というより怒りのままに動くフェリシアの動きはかなり単純なもので、動きを読んでくる相手とは相性が悪い。
「下がれフェリシア!こっちの動き読まれてるかもしれない!」
「ハァハァ…この位…」
息を切らしてるところをみるに大部疲れてきているようだ。
(不味いな、このままだと最悪やられかねない…)
だがフェリシアは一歩も引く気はない。無理にでも突っ込んで魔女を倒すつもりだ。
「うおっ…!?」
そんな無理がたたったせいかフェリシアは転んでしまう。
「フェリシア!」
岩が迫る中フェリシアに気をとられたつい魔理沙は止まってしまう。だが岩達は幸いにも魔理沙をかすめるだけで当たることはなかった。
フェリシアの方も岩は全て外れ、当たった様子はない。
ひとまずそれにホッとする。
フェリシアは立ち上がり怒りのままに魔女へと突撃する。そしてハンマーを構え、岩の群れを向かい撃とうとしたときだった。突如光の弾が現れ岩とぶつかり、岩を破壊して消滅した。さらに光弾は次々と弾幕のように現れ、フェリシアを襲いくる岩達をまとめて破壊してしまった。
「何だ!?」
「私の魔法だ。ここは一旦引くぜ」
魔理沙がフェリシアの下に降りて来る。
「駄目だ!」
「無理するなよ。結構きついだろ。お前が復讐したいのは分かるがここは…」
「駄目だ!!」
フェリシアが叫ぶ。
「あいつが父ちゃんと母ちゃんを殺した魔女かもしれない…!ここで逃がしたらオレに一生あいつを倒すチャンスが来ないかもしれない…!だからここで倒さなくちゃダメなんだ!」
そのあまりに強い怒りと憎しみの込められた訴えに魔理沙は言葉に詰まってしまった。
ふと思ったのだ。大切な人を奪われ、突如たった一人になってしまった少女。さらに抑えきれないほどの怒りと憎しみをもったフェリシアをただ言い聞かせるだけで本当に良いのだろうか。もっとその心に寄り添ってやらなければならないのではないか。
そんな迷いが魔理沙の中で生じたのだ。
その隙をつきフェリシアは一気に魔女の方向へと駆け出した。
「しまっ…!」
「おりゃああ!」
突っ込んで来るフェリシアを向かい撃つため魔女は岩を突撃させる。フェリシアはそれをかわすがその先には別の岩が突撃しに来ていた。
「くっ…!」
無理やりかわす方向を変える。今度はそこに岩は来ない。
そのときだった。魔女の方を見たフェリシアの目に奇妙なものが映った。
(使い魔…?)
魔女をそのまま小さくしたような使い魔が魔女の近くに浮かんでいた。
そしてそれは今までの岩とは比べ程にならないくらいの速さでフェリシアに突っ込んで来た。
「なっ…!」
「よけろフェリシア!」
それは普段のフェリシアなら避けられただろう。しかし無理に攻撃をよけた直後だったので、体勢を変えるのが間に合わない。
次の瞬間、フェリシアは体にぶつかってきたものによって吹き飛ばされる。
「痛てて…あれ?なんともねぇぞ」
フェリシアは吹き飛ばされたものの大したけがもなく動く分には全然問題なさそうだった。立ち上がり、辺りを見回す。すると自分が吹き飛ばされる前より斜め前側に来ていることに気が付いた。
(おかしいぞ。前からきたやつに吹っ飛ばされたはずなのになんで前の方に来てるんだ?)
身体の痛みも背中の右側からぶつかったような感じだ。フェリシアは妙に思い自分が先程までいた地点を見てみる。するとその先に何か妙なものが転がっているのが見えた。
「っ!?魔理沙!」
そこに倒れていたのは魔理沙だった。フェリシアよりも大きく吹き飛ばされ、頭から血を流し、部屋の中ですら被っていた帽子さえも落とし気を失っているようだった。
フェリシアは急いで魔理沙の下へ向かい、担いで近くあった大きなおもちゃ箱の陰に隠れた。
「おい!しっかりしろ!おい!」
フェリシアが必死に呼びかける。
「そうだ出口…出口は!?」
フェリシアは先程まで気にもかけなかった出口を探す。しかし隠されてしまったのかそれらしきものは見当たらなかった。
すると呼びかけのおかげか魔理沙は目を覚ます。
「…おおフェリシア。良かった、無事だったんだな」
「何言ってんだよ!オレをかばったせいで…!どうしてこんな無茶したんだよ!」
「ついほっとけなくてな。気づいたら体が動いてたんだ…」
「何だよそれ…!なんだってそんな…!」
フェリシアには分からなかった。何故この間会ったばかりの自分を身を挺してまでかばってくれたのか。なぜいうことを聞かない自分にここまでしてくれるのか。その理由が全く分からなかったのだ。
魔理沙はそんなフェリシアの肩に手をおく。
「ごめんな。私はお前がどれだけ魔女を憎んでいるか、分かってなかった。なのに私は自分の主張をお前に押し付けてたんだ。勝手にするなって言いながら私の勝手を押し付けてた」
「こんなときに何言ってんだよ!」
「だからもう全部勝手にするな、何て言わない。けど一瞬、ほんの少しだけ我慢してくれないか?」
「だから何言って…!」
「あいつはこっちの動きを全部読み切って攻撃しに来てる。けどそれだけだ。こっちが止まったりすることを考えていない」
「!」
「どれだけ動きが分かってもあいつはピンポイントで遅い攻撃しかできない。だから攻撃して来る直前、それか最中、動きの途中適当なとこで一瞬だけ止まれ。それであいつの攻撃はほとんど外れる。そして近付いたら我慢した分思いっ切りあいつにぶつけてやれ。これなら聞いてくれるか?」
フェリシアはその問いかけに無言で頷いた。それを見ると笑顔を残し魔理沙は意識を失った。フェリシアは慌てるが気絶しただけのようだった。それを確認したフェリシアはひとまず安心する。
「フー…ハー…」
深呼吸をして気持ちを切り替える。
このときフェリシアは思った。
自分をかばい、守ってくれた魔理沙を今度は自分が守るために戦いたいと。
復讐のためだけに戦ってきた少女が初めて誰かを守るために戦いたいと思ったのだ。
角の帽子を被り直し再びハンマーを握り締め魔女の前へと躍り出る。
そして三度魔女の元へと突っ込んでいった。それを見た魔女は周囲の岩をフェリシアに向けて放つ。
(一瞬だけ止まる…!)
魔理沙に言われた通り魔女の攻撃の直前フェリシアは止まる。このときのフェリシアは自分でも驚くほど冷静だった。怒りを抱きながらもそれに促されるままでなくそれを抑えながらまるで機械にでもなったかのように動くことが出来ていた。そして魔理沙の言うようにフェリシアに向かっていった岩達の突進は岩の方から避けていくように外れていった。それに慌てたのか魔女は次々と岩を送り出す。だがフェリシアは動きの中で止まることを繰り返し岩をかわしていく。ついにフェリシアが目の前まで接近し後がなくなった魔女は岩の代わりに何十もの使い魔を呼び出しフェリシアに向けて放つ。
だがフェリシアにとってそれらは何の脅威にもならなかった。かわし、止まり、ときにはハンマーで薙ぎ払い使い魔の群れを突破する。
「ここまで我慢したぞ。もう良いよな」
フェリシアの中の感情が爆発する。魔女の元まで飛び上がりハンマーを振り上げる。そしてそこまで我慢してきた怒りを思いっ切り込めたそれが魔女へと振り下ろされた。
「これで、終わりだぁぁぁ!!」
フェリシアの感情の限りが込められた一撃。
平常時でさえ強大な威力を誇るそれは魔女を一撃で葬るには十分だった。
空中からフェリシアを見下ろしていた魔女は撃墜し、その体は消滅した。
結界が消えフェリシア達は結界の外へと戻ってきた。
「んん…ここは…?」
魔理沙が目を覚ましたのは夕暮れ時だった。周りを見渡し辺りに散乱している本や紙から自分のベッドの上にいることに気付く。頭など怪我した部分には包帯が巻かれ、出血は止まっていた。そこまで確認したとき、部屋のドアがガチャリと開く音がした。
「魔理沙」
部屋に入ってきたフェリシアが声をかける。その声はいつもより暗くしんとしているようだった。
「あの魔女はどうなった?」
「倒したよ。お前が倒し方を教えてくれたおかげで」
「そうか。ま、あれは半分賭けだったけどな」
「え?」
「私が止まってお前が転んだとき、攻撃を外したからひょっとしたらって思ったんだ。最悪その予想が外れてもあの魔女自体は大したやつじゃない。冷静に見ながら攻めていけばどんな魔法少女でも勝てる。だから一旦止まってしっかり攻撃を見極めるのが大切だったのさ。後はお前がしっかり落ち着けるかどうか、それだけが問題だった」
それを聞いてフェリシアはうつむく。
「ごめん…」
「ん?」
「ごめん魔理沙…。オレ、オレが勝手に暴れるせいで誰かが傷つくなんて考えてなかった…!」
「いや、今回のことは連れて行った私のミスだぜ。お前がいくら暴走しても大丈夫だろうとたかをくくってた」
「でも、それはオレが暴走しなきゃ…」
「いいんだよ。私の方こそ謝る必要がある。私はお前の気持ちを分かってなかったんだ。お前がどれだけ魔女を憎いのか、どれだけ親を大切に思ってたのか全然分かってなかった」
「謝らなくていい!悪いのはオレだ!魔理沙は勝手につっこんでったオレのせいで危ない目にあった!全部オレなんだ…!オレのせいで…!」
「私のことはもういいさ。こうして生きてるし、体もちゃんと動く」
そう言いながらベッドから起き上がり、立ってみせる。
「でも…!」
「なぁフェリシア、私は早くお前の暴走癖を治そうとちょっと急ぎすぎたんだ。お前のそれはそう簡単に治るはずないのにな」
「だからいいんだよ…!そんなことは…!」
「嫌なら治さなくていい。無理強いしないし、それでもここにいられる限りはお前を雇う。だからさ…お前はお前のやりたいようにやっていい」
「魔理沙…」
自分のことをここまで考えてくれる魔理沙をもう危ない目に合わせたくない。
そして二度と大切な人を失いたくない。
そんな想いがフェリシアの中に芽生えつつあった。
「オレ、暴れないようになるため頑張るよ!話もちゃんと聞けるようになって、もう絶対魔理沙を怪我させたりしない!」
新たな決意を秘めた目で宣言する。
「そうか…分かった。じゃ改めてよろしくなフェリシア」
そう言って魔理沙が手を差し出す。フェリシアはその手を取り、握りしめた。
「さて夕飯の支度でもするか。材料今から買いに行くぜ」
「いやオレがいくよ!お前怪我してんだから!」
「大丈夫、大丈夫。これ位なんともない。そうだ、ならお前も一緒に行かないか?荷物持ちがいると助かるんだが…」
「…分かった、オレも一緒に行くぞ!」
「よし、じゃ今日はお前の好きなものを作ろう。一応料理は出来るが何がいい?」
「マジで!?じゃあハンバーグ!」
「いいぜ。ただ作り慣れてないからお前も手伝えよ」
フェリシアはそれに笑顔でうなずいた。
こうして改めてコンビを結成した二人は今日の夕飯を作るため買い物へと向かうのであった。
そしてその日の夕食は久々の楽しい食事としてフェリシアの心に残り続けるのだった。
今回出てきた魔女はハロウィンシアターのときに出てきた魔女によく似ていますが、設定上はなんのつながりもないで、ご了承下さい。
次回からは他作品のキャラも出していきます。