「わぁ…綺麗ね」
アビゲイルとフェリシアは先程決めた通り海の見える広場へとやってきていた。柵に身を乗せアビゲイルは海を眺める。
「お前の故郷じゃ海見えなかったのか?」
「海は見えるわ。大きな港もあったし。でもこの神浜の海はセイレムの海とは違う美しさがあると思うわ」
「そっか?海なんて全部同じじゃねーの?」
「上手く言えないけど。なんとなくそう思う。フェリシアも見れば分かると思うわ」
話しながらフェリシアは海を見るアビゲイルの顔を覗く。
「な、何?」
それにアビゲイルが気づく。
「なぁ、オマエ無理してねーか?」
アビゲイルにレストラン行ったころから感じた疑問をぶつける。
「そ、そんなことないわ!なんでそう思うの?」
「なんでって…なんとなく!」
「えぇ…」
思わぬ返答にアビゲイルは戸惑う。
「なんか違うんだよ!楽しんでるって感じじゃねーっていうか…おとりで緊張してるってわけじゃねーんだろ?」
ここまで聞かれ流石に楽しむ振り続ける気力は無かったのだろう。アビゲイルは観念することにした。
「フェリシアって勘が鋭いのね。あなたに嘘はつけそうにないわ」
「そんなんじゃねーよ…多分オマエだから分かったんだ」
「そうなの?長く一緒にいるわけでもないのに…。本当にそうだとしたら不思議なことね」
「…フェリシアの言う通りだわ。私心の底から今日を楽しめてないの。いまこうして海を眺めているときも私こんなことしてていいのかって思って…セイレムでやらなければならないことがあるのに」
「故郷でやり残したことがが気になるってことか?でも帰れねーんだろ?しょうがねーじゃん。気にすることじゃねーって」
「…駄目よ。そんなこと許されないわ。だってそれは
フェリシアは償い、という言葉からアビゲイルの雰囲気が変わったように感じた。
「償いってなんだよ?オマエなんか悪りーことでもしたのか?」
「えぇ…それこそ命を捧げても償いきれないほどの罪を私はあの地で犯したわ。だから何かを楽しむなんてしてはいけない。許されないの」
暗く、しかしはっきりとした声で語るアビゲイルの様子がこの話が如何に真剣なものであるか、そしてそれがアビゲイル自身をどれだけ苦しめているかを示す。
(でもだからって苦しむ必要ねーよな…)
「オマエが何やったのか分かんねーけどさ…別にそんな深く考えなくてもいーんじゃねーの?多分オマエが苦しんだって何も変わんねーぞ」
「…励ましてくれているのは分かるわ。でもね、大きな罪を犯した人は自分を許すことが出来なくなくなってしまうのよ。だから償いっていうのは自分のせいで苦しめた人たちのために…そして自分自身のためにしなきゃいけないのよ」
自分を苦しめてしまうほどの大きな罪。どんなことをしたらそんなものを背負うことになるのだろう。それがどれほどのものなのかフェリシアには想像が着かない。
しかしフェリシアは心のどこかで何故かアビゲイルの話に聞き入っていた。
(なんでこんなにこいつの話聞きたくなっちまうんだろう…もう少し聞けば分かんのかな…)
「っ!危ねー!」
「え…?」
フェリシアがアビゲイルを引っ張りその場から離れる。するとアビゲイル達がいた場所にズドン!と大きな衝撃が打ち付けられる音がした。
「な、何!?」
「アビー下がってろ!」
フェリシアは牛の角のついた帽子を被った魔法少女へと変身し、ハンマーを握る。
「おいどこにいやがる!出てきやがれ!」
するとその呼び声に応じ、木の陰から大きな帽子を被り、髭を生やした若い男現れる。
「今の一撃をかわすとはな。完全に不意をついたつもりだったんだが…」
「魔力の反応くらい分かるっつーの。当たりめーだろ」
「魔法少女は魔力を感じることが出来るのか。ふむ、もう少し奴に話を聞いておくべきだったな」
「コイツ魔理沙が言ってた怪しい奴に似てるぞ…」
フェリシアは魔理沙から例の不審な男の特徴を聞いていた。なので目の前の男が例の追手であることがすぐに分かった。
「オマエ何者だ?魔力もなんか変だし、ぜってー魔法少女じゃねーよな?あと一応聞くけどアビーを追ってるってやつか?」
「分かっているなら話が早い。その小娘をこっちに渡してもらおうか」
「何でこいつ攫おうとするんだ?」
「さぁな。個人的な用もあるが俺はただの雇われだ。連れていった後のことなど知らん」
「そんな奴らにアビ―を渡せるわけねーだろ!」
「…言っておくが俺は女子供でも容赦はしないぞ」
「そうかよ!」
フェリシアは男に迫り、薙ぎ払うようにしてハンマーを叩きつける。男は杖で重たいハンマーを受け流す。
「大したパワーだ。しかし当たらなければ意味はない」
「くそ!」
今度は上にハンマーを振りかぶり今度は上から叩きつける。
「てりゃ!」
しかし避けられる。そして男は一気に距離を詰め、杖をレイピアのように突いてきた。
「くっ!」
咄嗟にハンマーで守るが無理に守ったせいで体制が崩れる。
その隙を男は見逃さなかった。容赦のないみだれ突きがフェリシアを襲う。フェリシアは素早い突きの連打に対しガードに専念するが、防御のしにくいハンマーではそれだけで手一杯。反撃のチャンスをうかがうことも出来ず一方的に攻撃されるばかりだ。
次第に男は呪文のようなものを唱え始める。だがフェリシアにそんなことを気にする余裕はない。この状況を打開すべくどうにか隙を作ろうとする。
「だりゃぁ!」
思い切って打った一撃、杖で身を守った男は大きく後退する。
「今だ!」
そして男に一気に接近したときだった。
(っ!魔力!?)
男の手前で踏みとどまる。
直後フェリシアを謎の衝撃が襲った。
「うわっ!」
まるで空気が大きな質量を持って襲いかかってきたようだった。正面からの衝撃をハンマーで防ぐが視認できない一撃をこらえきれずフェリシアは後方に吹っ飛ばされてしまった。
「フェリシア大丈夫!?」
後方に下がっていたアビゲイルが駆け寄る。
「来るんじゃねー!危ねーぞ!」
「こちらの魔力を感知して踏みとどまったか。その感知、思ったより厄介そうだ。もっとも貴様相手なら問題ないみたいだがな」
(つ、強えー。なんなんだよこいつ…!)
男が歩いて近付いてくる。それを見てフェリシアは立ち上がり、ハンマーを握りなおす。
「大人しくその小娘さえ渡せばこれ以上傷つかずに済むぞ。俺としても勝敗の分かりきった勝負をするつもりはない」
「言ったろ…!オマエみてーなやつにアビーは渡せねー…!」
「最後のチャンスを捨てるか。いいだろう、こうなれば貴様が動けなくなるまで徹底的に痛ぶってやる」
フェリシアには分かっていた。この男は格上。まともにやりあえば負けるのは自分の方だと。
当初の予定通り逃げても魔理沙達が来ない限りこの男に追いつかれてしまうだろう。
(けどここ倒れるわけにはいかねー…!)
後ろのアビゲイルを見る。もしここで負ければアビゲイルは連れ去られてしまう。そうなればアビゲイルは永遠に帰れなくなり、ずっと会いたがっている人達にも会えなくなってしまうかもしれない。
(それだけじゃねー…オレのそばから誰かがいなくなるのは…もう嫌なんだよ!)
絶対にアビゲイル守る。その想いの強さを示すかのように瞳に力が宿る。
「ほう、これはもう少し楽しめそうだな…行くぞ」
男はまたもや呪文のようなものを唱え杖に魔法をかける。魔法をかけられた杖は蒼白く光り、それを構えフェリシアに急接近して来た。向かい打つべくフェリシアはハンマーを上に構え待ち受ける。
インファイトに持ち込まれたら確実に負ける。ならそれに入る直前ハンマーで叩くしか勝機はない。それをフェリシアはそれを理屈ではなく本能で理解していた。
チャンスは一回のみ。
男がハンマーの射程に入るまで5歩、4歩、3歩、2歩、
(ここで決める!)
残り1歩、男は杖を突き、フェリシアはハンマーを振り下ろす。
そのときだった。
二人の間に一本の剣が割って入った。
「何だと!」
「え…?」
そしてその剣先は男の杖を捉えていた。
「チッ!」
男が下がる。
そしてその場にいた三人は新たに現れた四人目の人物に目を向ける。
「よう。遅くなったな」
そこにいたのは青と白のパーカーを着た高校生くらいの少年だった。
「誰だお前…?」
「俺は魔理沙の知り合いだ」
「魔理沙が?…ってことはオマエがもう一人の協力者ってやつか!?」
「あぁ。さっきいきなり襲われてな。多分こいつの仲間だろう。ところで魔理沙はどうした?あいつに連絡をいれたはずだけど…」
「分かんねーけどまだ来てねーぞ!」
「俺もさっきいきなり襲われたからな…あいつも誰かと戦ってるのかも…」
「!じゃあ早く助けに行かねーと…!」
「いや、お前はその子を連れて逃げろ。その間俺がこいつの相手をする」
少年は謎の男に剣を突きつける。すると少年の左手が光輝く。見ると左手の甲には文字が刻まれ、その文字が輝きを放っていた。
「何故…何故貴様にやつと同じ文字が…
驚愕した表情で男が叫ぶように尋ねる。
「…そっか。やっぱ俺のこと分かんねーか…。当たり前だよな…」
「俺の質問に答えろ!」
男はフェリシアとやりあってたときよりもさらに速く少年を突く。しかし少年はその一撃を難なく剣で受け止める。
「はぁぁぁ!」
そして少年は目にも留まらぬ速さで剣を振るい男を圧倒する。男はそれを杖でさばく。
「くっ!」
男がたまらず大きく退がる。
「すげー…!」
「どうよ!俺の相棒中々やるだろ!」
「ん?」
今まで聞いたこともない誰かの声にフェリシアは周りを見渡す。
「おい、ここだよここ!」
声のする方を見た先には少年によって握られた剣があるのみだ。
「おいまだ気づいてねぇのか!ったく最近の若い奴らは耳が遠くていけねぇ!」
「まさか…そいつが…剣が喋ってんのか!?」
「おうよ!天下一の名剣、ガンダールヴの相棒デルフリンガー様とは俺のことよ!」
「意志を持った剣…まさかインジェンテリスソード!?貴様俺と同じ世界の人間か!?」
「まぁそんなところかな。ちょっと違うけど…」
少しはっきりしないような声で少年が答える。
「おい兄ちゃん、オレも戦うぞ。二人がかりなら絶対こいつ倒せるぞ」
「いやそれよりこっから逃げろ。近くにさっき俺を襲ってきたやつがいるかもしれねえ。そいつが来たら厄介なことになる。だからお前は早くここから離れろ。その子を守りたいんだろ?」
「でも…!」
「さっきの見たろ?あいつに遅れは取らねえよ。魔理沙だってそう簡単にやられるやつじゃねえだろ?」
「…分かったよ。サンキュー兄ちゃん、後で会おうぜ!行くぞアビー!」
「なんで…?」
「あ?」
「なんであの人と同じ左手を持っているの…?」
アビゲイルは先程の男と同じ驚愕した表情で少年の左手を見つめていた。
「おい、どうしちまったんだよ!?」
「っ!ご、ごめんなさい。大丈夫よ…」
「しっかりしろ!ボーっとしてたら危ねーぞ!」
「え、えぇ…」
「じゃ行くぞ!」
「きゃ!」
アビゲイルを抱きかかえ、フェリシアは走り出す。
「逃がすか!」
「おっとワルド、お前の相手は俺だ」
フェリシアを追おうとした男の前に少年が立ちふさがる。
「なぜ俺の名前を知っている…!一体貴様は何者なんだ!?」
剣をワルドに向かって構え少年は名乗る。
「俺は平賀才人…ルイズの使い魔だ!」
フェリシアは謎の男ワルドから逃げた後、人目の着かない裏道へとたどり着いた。
「もう大丈夫か…?」
フェリシアは抱えていたアビゲイルを降ろす。
「ありがとう…フェリシア。私またあなたに助けられたわ」
「気にすんなよ。これ位平気だ。それに助けてくれたのはあの兄ちゃんだしな。にしても良く考えたらあのひげ親父と兄ちゃんはなんなんだ…?。魔法少女でもねーのになんであんなに強えーんだ…?」
「えっと、それは…」
何かを言おうとしたアビゲイルだが途中で言いよどむ。
「ん?オマエなんか知ってんのか?」
「…こんなことになってしまったもの。もう話してしまってもかまわないわよね。実は…」
「アーッハッハッ!」
そのとき突如不気味な笑い声が辺りに響く。
周りを見回すと突如二人の前に一人の少女が降り立った。
そこに現れたのはスカートの着いた軍服風の服を着て、司令官のような帽子を被った黄緑の髪の少女だった。
「…!あいつ魔法少女だ!」
フェリシアは再びハンマーを構える。
「ウィッチガール…ようやく見つけた。今度こそあなたのアートを私のものにしてあげるカラ」
後日7話と8話統合するかもしれません。