(仮題)とある転生者の異文化体験   作:ピッピの助

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バンドリ2次創作です。
よろしくお願いします。


1話

「そうだ、Vtuberになろう」

 

声変わりが終わった中2の夏にふと、そんなことを思いついた。

 

男性が少ない今世では、男というだけで有利になる。前世でゲームや雑談、歌ってみたで楽しそうに配信をしながら金を稼いでいたVtuberを思い出し、結構、楽にかせげるんじゃね? と考えたのだ。

 

これが舐め腐った考えだということは、わかっている。

 

でも、今世の俺は音楽全般で神がかった才能を持っており(たぶんチート。神様、本当にありがとうございます)、作詞・作曲なんのその、何なら今世にはない、前世の曲をチートで作り上げちゃえば名曲をほいほい産み出せるのだ。

 

これは勝確だと思った俺を誰が責められようか。

 

その他にも、超やり手の実業家である母と、数少ない男性ピアニストである父を親に持つ俺の環境はとても恵まれている。東京都心に大きな庭付きの、これまた大きな家を構えていて、なんと地下には防音設計のスタジオがある。

 

母が父を喜ばせたい一心で作らせたマイホームの目玉であるこの地下室は、10人で演奏しても余裕があるほどの大きさで、収録用のスペースもある。

 

俺に買い与えた様々な楽器も置いてある。父はピアノ専門で、それ以外の楽器を引くのは俺だけ。だというのに何百万円とする楽器が選ばれ、地下室に綺麗に保管されている。

 

そんな超恵まれた環境だから、一度Vtuberになると思ってしまえば、逆に何故ならないのかとすら考えてしまうのだ。

 

有り余る小遣いにより、配信に必要な環境を整える。

 

マイクセットしてー、カメラセットしてー、ソフトをどんどん入れてってー、これを機にPCのスペックも更に上げてー。

 

こういう機材を整えていく楽しみってやばいよね。

 

にやにやしながら機材をセットし終える。地下の防音室もいいけど、どうせ家には誰もいないので、そのまま自室で配信開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日後、俺はPCの前で考えに耽っていた。

 

思った以上にチャンネル登録者が増えない。2桁に乗りはしたが、正直に言って、物足りない。男というアドバンテージがあるし、身バレにビビってボイスチェンジャーを使っているが、それでもチートのおかげで美声に変わりはない。

 

何故? と調べてみると、すぐに原因はわかった。

 

Vtuberの男率がかなり高い。少し調べると、色とりどりの綺麗な髪をした中性的な男性がズラッと出てきた。ホストクラブかな?

 

試しに動画を再生してみれば、綺麗な男性が小刻みに動きながらテンポよく話している。ただし甲高い少年ボイス。全員ネナベだった。

 

考えてみれば当然である。男が少ないだけで、男の需要はある。それなら女性を男性に仕立てあげ、そういう需要をかっさらう。実に理にかなっている。しかもVtuberは容姿を変えられるから、うってつけの事業である。

 

え、なんでもっと早く気づかなかったんだって? そんなもん勝ち確なんだから調べようともしなかったよ。リズムゲームでeasyに挑むときに練習するか? しないだろ。そういうもんだよ(違)。

 

そうして、今更ながら現役Vtuberを調べていると、驚きの事実が判明する。

 

「ゲーム実況がない……」

 

そう。この男の少ない世界ではゲームが全然、開発されていないのだ。前世みたいにカジュアルなゲーム機が発展していくには、一人用のゲームが流行る必要があるのだが、それが大ゴケしているので進化していないのだ。

 

もちろん全くないわけではない。機能的にはPS2くらいなら存在している。ただしソフトは4分の1とかそんなもん。格ゲー、シューティングはほぼ無し。RPGはFFシリーズはあるものの、何故かドラ○エは1で止まっている。不思議!

 

加えて、大多数の女性が興味のないゲーム実況は需要が少ないため、Vtuberも取り扱わないのだ。まあ、ゲームに興味がない人がレトロゲーを見るはずもないからね。そもそもVtuber自体がゲームに興味なさそうだし。

 

おかしいとは思っていたんだよ。子どもの頃、薄型の携帯電話があるのに、携帯ゲーム機がゲームボーイ(初代)ってなんかシュール! とか思っていたんだよ。

 

でも、そのころはピアノが楽しくて仕方なくて、学校から帰ってきたら、ずっとピアノを弾いてたんだよ。チートのおかげか、ぬるぬると上達していくのが分かるし、極めた後も演奏することが楽しくてしょうがなかった。

 

学校帰って、直ぐにピアノの前に行って、飯の時間にピアノから引きはがされて、食べ終わったらピアノを再開して疲れて寝落ち。そんな日も少なくなかった。そのうち、より集中力をあげるためにランニングを始めたりもしたが、それもピアノのため。前世で全く縁が無かったのに、俺はすっかりピアノに夢中になってしまったのだ。

 

ゲームはいずれPS3やDSが出るだろうから、それから手をつければいいかな、とか思っていたんだよ。

 

まあ、過去のことは仕方ない。悔やんでも仕方ないし、考えてみれば別に俺が悪いわけじゃない。世界が悪いんだ。だから気にしない。

 

また同じことを繰り返すって? うるせー知るか、だ。

 

そんなことよりも、今、重要なのはチャンネル登録者数が少ないってことだ。

 

まあ、どうするかなんて考える必要もないんだけどね。

 

残念ながら女性が夢中になるほど雑談ネタを持っているわけでもないし、数少ないゲームをやったところで需要がない。企画をするにもチャンネル登録者2桁の俺を誰が気にしてくれるというのか。そうなれば俺の武器はただ一つ。

 

そう、歌ってみたを公開するのだ。

 

本当はチャンネル登録者が3桁中盤くらいにいったら、満を持して投稿しようかなー、とかプランを立てていたのだが、甘い考えだとわかったので、惜しみなく切り札を使わせてもらう。

 

曲はもちろんオリジナル(という名の前世のパクり)。始めは男らしいロックにしようかな。

 

目指せ、登録者100人!(謙虚)

 

 

 

 

 

 

 

別視点

 

 

 

その動画を見かけたのは本当に偶然だった。

 

盆栽の世話が一段落し、自分の部屋で一息つく。半年待って、ようやく買えた老舗の茶葉を使ったお茶の味に、思わず頬が緩むのを感じながら、片手間に何か面白い動画はないかとちょこちょことPCを動かしていたときだ。

 

何の文字で検索したかも覚えていないけど、今日、初めて動画を投稿しているVtuberのチャンネルが出てきた。

 

私はVtuberが嫌いって訳ではない。一時期はその動画ばかり見ていたこともあった。だから他の人よりは理解がある方だ。まあ、顔出ししている人以上のネタもなかったから、1週間も経たずに飽きてしまったけど。

 

それ以降はVtuberの動画とは無縁だったけど、なんだかその動画が目についた。

 

「はは、なんだよコレ」

 

サムネには『初めまして』『中2男子』という文字と変な生き物が映っている。青い腰ミノ一枚を履き、がっしりとした上半身に赤い布をたすきのように緩く巻いている。顎くらいまで垂れた福耳に、鹿? だろうか、大きな対の角が生えている。額には白い突起がある。

 

「大仏、か? 渋いチョイスしてるな」

 

若い男を売りにするのはよくあることだが、ガワが人を選びすぎている。

 

そんなことを考えながら動画を再生する。

 

動画ははっきり言ってレベルが低かった。

 

緊張こそしていないものの、お世辞にも話のテンポが良いとは言えず、敬語とタメ口が入り混じっている。

 

ガワも自作なんだろうか、少ない動きの鹿男がカクついている。

 

動画の中で自己紹介内容が箇条書きで追加されていっているが、中2男子という字が気持ち大きめで、下手をすれば露骨にも見える。

 

男性を売りにする気持ちは理解できる。

 

一時期はVtuberの実に7割が男性だなんてネットニュースになったことがあった。それも80%が女性だったという落ちがついて、一気にその数を減らすことになったけど、それでも根強く女性ロール男性Vtuberは存在している(ちなみに回答は自己診断によるもので、残りの20%の本当の性別は不明)。

 

そういう人たちは企業のサポートがあったりで、凄く話が上手く、声も動画映えする人が多い。だから女性と分かっていても、ファンが生まれて、一つのジャンルとして成り立っている。

 

そんな人たちの動画に比べると、ザ・素人といったこの動画は目を覆ってしまうレベルだった。

 

「……」

 

だけど、私はそんな動画から何故か目が離せなかった。

 

セントー君と名乗る彼が、拙い話を終え、また数日後に会いましょう、と言って動画を終了させるのを見届けて、まるで自然の流れのように自分の手がチャンネル登録し、コメントを打ち終えるまで、私はほぼ無意識に動いていた。

 

そこまでして、ようやく喉が渇いていることに気が付いた。

 

「……冷めてる」

 

とっておきのお茶が冷めたのを自覚して、眉を顰めたとき、ふと思った。

 

あれが、ありのままの男子なんじゃないかって。

 

どう見ても人気になる要素がない動画だったけど、いつの日かパタッと消えるまでは追っかけてやろうかなと思った。せっかく初配信動画に一番にコメントを残したんだし、贔屓にしてやるかなって。

 

そんな、まるで連敗続きの馬を応援するかのような気持ちでいる私は想像もしていなかった。

 

まさか数日後の歌ってみた投稿でVtuber業界に激震が走るなんて。




主人公のガワは京都の鹿です。ただしMMDDFF版。
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