(仮題)とある転生者の異文化体験   作:ピッピの助

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7.7話(白鷺千聖視点)

私の親友、松原花音が悪い男に騙されている。

 

男なんてみんな悪い奴だって言われたらそのとおりだし、別に気に留めることもないのだけれど、私の親友の話だ。黙ってはいられない。

 

どこの骨とも知らない男と出会ったその日に付き合い始め、数日後には体の関係を持ったらしい。

 

初めに聞いたときは、どこで何を聞き間違えたのかわからなくて、少し混乱した。

 

事件が起きたのは、私がドラマのロケで少しの間、学校に行けなかったときである。

 

花音は同じ学園の“花咲川の異空間”と呼ばれる、悪い意味で有名な1年生の弦巻こころと、他校に通う同じく1年の男と路上でセッションをすることになったらしい。3人とも、そのとき初めて顔を合わせたとのことだ

 

正直、この時点で聞きたいところが沢山あるのだけれど、今は置いておく。

 

セッションが終わったあと、弦巻こころは、またセッションすることを約束して護衛の人が運転する車で帰ったらしい。男と花音は帰る方向が違うから遠慮したらしく、その場に二人が残されることになった。

 

急なセッションで疲れていたこともあり、近くの喫茶店で休まないかという男の提案に、花音は頷いたようだ。

 

そして花音は、その日、その男と付き合うことになった。

 

いやいや、話が飛びすぎだ。

 

途中まで理解できたのに、最後は疑問しか残らない。経過を説明してほしいのよ。

 

なんでも、その男はすごく優しいらしい。

 

……それだけなのか。

 

いや、男に優しさがあるというのは、確かにとても珍しい要素ではある。でも、出会ったその日に付き合った理由がそれだけというのは……どうなんだろうか?

 

花音はとても臆病な子で、慣れてる人の前ですら、なかなか言いたいことが言えない性格をしている。本当に言葉につまってしまい、何も話せなくなってしまうので、しびれを切らして彼女との話を終わらせてしまう人もいる。

 

話を待ってくれる人だって、早く話さないかと態度に表す。そんなことないって言う人もいるが、目は口ほどにものを言う、という言葉を知らないのだろうか。一度、鏡を目の前に置いてやりたい。それでも気づかないなら、もう行っていいわ。あなたは視力か感性が人より劣っていることだけ覚えておきなさい。

 

花音は臆病なせいで目が合うと、つい逸らしてしまう子だが、人を観察する目は優れている。話している人がどう考えているか理解し、自分が人を不快にさせてると思うと、それが更に彼女を臆病に変えていくのだ。

 

花音は仲良くなれば、こうして普通におしゃべりできるんだから、自信を持ってほしいと思ってる。でも、そう簡単にいかないことくらいは、短い付き合いだけど、よく分かっているつもりだ。

 

そんな花音だから、初めて会う人で、しかも男ということで、吃り(どもり)に吃って、ふぇぇという言葉しか出なかったらしい。

 

でも、そんな花音をその男はゆっくりと待ってくれたらしい。

 

簡単な自己紹介のあと、松原さんはドラム歴が長いんですか? という質問に、視線を泳がせたあと回答するまでの、およそ5分間、彼は静かに待っていてくれたらしい。

 

まあ、確かに5分は長い。座っているとはいえ、相手と向き合い、回答を待っての5分だ。バスを待つ5分よりも遥かに長く感じる時間ではある。

 

しかも、花音の回答は、そこそこです、とだけ。

 

思わず、花音それは……、と言葉に詰まってしまった。

 

とにかく、その後も、そこまで長くないにしろ時間をかけて回答する花音を、男は静かに待ってくれた。ようやく返した花音の言葉に嬉しそうに反応してくれて、そんな男の優しさに心を打たれた花音は、その男を好きになってしまったようだ。

 

花音のことをよく知ってる私からすれば、その気持ちはわからなくはない。

 

花音が甘いマスクの優しい男に憧れてることは知ってるし、いつか水族館デートをするのが小学生の頃からの夢だということも知ってる。容姿は聞いていないが、きっとその男は花音のお眼鏡にかなった男なのだろう。

 

でも、1日は早過ぎる!

 

しかも、体の関係に至るまでにデートをする時間は無かったはずだ。日曜日に出会って、今日は土曜日。どれだけ過程を吹っ飛ばした関係になるつもりなのか。来週には結婚したなんて報告をするつもりだろうか。

 

だいたい、本当に彼女に優しい男だったら、まずは花音とデートをしてくれるはず。何度もデートを重ねて、少しずつ花音の緊張をほぐして、私のように面と向かい合っても、花音の視線が逸れないような関係になって、そうなって初めてデート後に重なるのが普通だろう。

 

それをデートの1回もしないで体の関係になった? どう考えたって花音の体目当てに決まってるわ。

 

男性は女性の体をそこまで求めてない?

 

……あまい!

 

私は自慢じゃないけど子どもの頃から芸能人よ。芸能界には男はけっこういて。そんな中にはいるのよ。女性に優しく近づいて、女性の初めてだけを奪い、後はポイッと捨てるヤカラが。

 

女性がそれにすがってしまえば手のひらを返したようにDVが待っている。それが原因で怪我をして、CMの撮影が流れた女優だっている。

 

世間では、その女優は病気により一時休業ということになって、男はお咎め無し。男は何事もなかったように今も芸能界で仕事をしている。そんな奴らばっかりなのよ、男なんて!

 

その男だって、これ以上、近づくと豹変して手を上げてくるわよ!

 

……え、明日デート? ……ふーん。……どこに? 水族館? おめでとう。ようやく夢が叶うのね。

 

言いたいことはあるが、花音の夢が叶うのは私も嬉しい。

 

まあ、順番はおかしかったけど、ちゃんとデートをしてくれるなら、まあ、ギリギリ及第点……なのかしら。

 

花音だって、こんな笑顔で明日着ていく服を相談してくれてるし、もしかしたら本当にいい男に出会えたのかもしれないわね。

 

でも一応、私の目でも確かめておこう。彼女がこんな嬉しそうに話す男に興味はあるし。

 

……ねえ花音、その男を今からここに呼べない? 一目だけでも確認させてほしいの。

 

一目見て大丈夫と思ったら、本当に祝福してあげよう。親友が素敵な人に巡り会えたなら、私だってすごく嬉しいのだから。

 

……え、無理? 今日は別の子のところに行ってる? ショッピングモールの手芸屋さんに行って、その後はお家デート? 今日が初めての子だから邪魔はできない?

 

そんな男、いますぐ別れなさい!!




原作とは異なる点:
① 白鷺千聖は男性嫌い
② 松原花音に彼氏がいる
③ 松原花音のきょうだいは弟ではなく妹


今回の連投の中で、この話が一番テンポがよくて好きだったりします。
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