(仮題)とある転生者の異文化体験   作:ピッピの助

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7.8話(弦巻こころ視点)

弦巻家は日本有数の大財閥って言われているの。

 

お母様も、昔は私たちよりも大きな会社が沢山あったけど、みんな没落していって、今では私たちが日本一よ、なんて言ってたわ。

 

あたしはよくわからないけど、百年以上前に男の人が急にいなくなって、みんな大変だったみたい。どの会社も上手くいかなくなって、そのなかで弦巻家だけが力が衰えることなく、それどころか弱まっていく会社の力を吸収して大きくなっていったの。

 

そのことでお祖母様やお母様のことを東洋の魔女とか、魔女の子孫とか呼ぶ人がいるみたいだけど、何も悪いことはしてないのに、どうしてそんな悪口を言うのかしら。

 

お母様はすごく優しい。いつも忙しそうで家に帰ってこない日の方が多いのだけれど、家にいるときは、あたしの話を聞いてくれて、こころは凄い、偉いって褒めてくれるわ。

 

でも、厳しいところもあるの。お母様は弦巻家のことを本当に大切に思ってるから、家に関することでは、あたしも叱られることがあるの。

 

怒鳴るってわけじゃないわ。そうじゃないの、こころって怒られるの。そのときのお母様は怖かったわ。いつものような優しい笑顔がなくて、でも怒った顔をしているのでもなくて、表情がなくなるの。きっとお母様の中では怒ったり、悲しんだりって感情が渦巻いているはずなのに、それが全然見えなくなるのよ。

 

怖かった。すごく怖くて、ごめんなさいって泣いてしまったこともあったわ。

 

なぜかしら、きっとこれがお母様の“弦巻”の顔なんだって思ったの。

 

お母様はすぐにいつもの笑顔に戻って、大丈夫よ、こころって優しく抱きしめてくれたわ。

 

その暖かさが嬉しくて、余計に泣いてしまったこともあったわ。

 

でも、母の優しさを嬉しく思っているなかで、“弦巻”のお母様がすごく遠い存在に感じていたの。

 

だからお母様に、こころは弦巻家の当主には向いていない、って言われたときも全然驚かなったわ。

 

初めて呼びだされた執務室でそう言われたとき、あたしの心にあったのは、お母様の役に立てなくて申し訳ないって気持ちだけだったわ。

 

うつむいたあたしに、お母様は、だからこころには子どもをたくさん産んでもらわないといけないの、って言ったの。こころには出来るだけ早く、遅くとも20歳までには子どもを産んでもらいたいの、と言ったわ。

 

ええ、わかったわ、ってあたしは言って、執務室から出たの。

 

執務室から出ると、すぐにお母様が追ってきたわ。そしてあたしを後ろから抱きしめてくれたの。

 

ごめんね、こころって言ってくれたけど、謝るのはあたしの方だって思ったわ。

 

だってそうでしょう?

 

お母様は何度もあたしに“弦巻”を教えてくれたけど、それが身につかなかったのは、あたしのせい。

 

弦巻の関係者は日本中に何百万人といて、当主はその責任者。半端な人じゃダメなの。

 

あたしは半端から抜け出せなかった。悪いのはあたしよ。

 

だから、お母様を恨むなんてことは全然なかったわ。お母様にも、あたし絶対に子どもをたくさん産むわって伝えたの。

 

お母様はせめて高校卒業までは好きなことをしなさいと言ってくれたわ。

 

高校卒業まで、まだ4年以上もある。あたしはお母様の役に立ちたかったから、今すぐでも大丈夫よ、って伝えたの。あたしだってもう子どもが作れる体よ。人工授精だから負担だってそんなに大きくない。授精後だって、専属の医師に在駐してもらえば安全だわ。実際に、外国人労働者の人はそうやって子どもを産んでいるって聞くわ。

 

でも、お母様はそれを許さなかった。まだ、あたしのことを子どもとして接したいと言っていたわ。

 

お母様が顔を埋めた首筋に温かい水が落ちてくるのを感じたの。視界の端には背を向けた黒服の人が、背中を震わせてるのが見えた。本当にあたしは幸せものだって思ったわ。

 

それからの日々だって、それまでと同じように過ごしたわ。

 

朝起きて、ご飯を食べて、学校に行って、帰り道で探検して楽しいことを探したり、食べたいものがあれば黒服の人に送ってもらったり、夜はお母様がいればお話して過ごしたわ。

 

毎日がつまらないってわけじゃないの。でもやっぱり、お母様のお役に立てるなら、すぐにでも子どもを妊娠してもいいって思ってたわ。

 

それでこの生活が送れなくなっても、後悔しない自信があったわ。

 

でも、やっぱり変わったこともあった。

 

お母様と会話をしているとき、どんな見た目の子どもがいいかって話題が上がるようになったわ。子どもの能力は最高のものを選ぶのは当然で、そのうえで、こころはどんな見た目の子がいいの、なんて聞かれるようになった。

 

あたしはお母様みたいな子がいいわ、って言ったら笑っていたわ。笑うなんて酷いわ……。

 

そんな会話をしていたから、その数日後にお母様が急に、いい男を見つけた! と言ったときは驚いたわ。黒服の人が慌てた様子で追いかけてくるなか、数えるくらいしか見たことのない興奮した顔のお母様は、こらえきれないといった様子で話してくれた。

 

なんでも、その男の人はあたしと同い年らしい。これには、あたしもびっくりしたわ。

 

精子バンクではないってことに驚き、まだ中学2年生の男の子ってことでも驚いたの。

 

お母様は男の人が嫌いよ。あたしにお父様がいないのは、お母様が男の人と出会う運がなかったわけじゃなくて、お母様が男の人の程度の低さが我慢できなかったかららしいの。無知蒙昧で傍若無人、近くにいるだけで害悪だ、なんて言っていたの。

 

いくら男が優遇されていても、弦巻の力には到底敵わない。やろうと思えば何人もの男を囲うことはできたけど、1人たりとて近くにいることが我慢できない。

 

それが当時、小学校の5年生だったあたしに言った言葉だったわ。意味はわからなかったけど、お母様は珍しく怒っていたから、一字一句覚えてるの。間違いないわ。

 

そんなお母様が、男性自身を気に入ったことにびっくりしたの。

 

しかも中学2年生の男の人!

 

20代はまだまだガキよ。どんなボンボンだって、エリートだって使い物にならないわ。思いっきり苦労させてやらないと、すぐ調子にのる。

 

なんて、小学校6年生のあたしに言っていたのに、そんな若い男の人が出てくるなんて思いもしなかったわ。

 

どんな人なの? って聞いてみた。お母様がそんなにいう人なんて興味が有ったの。

 

やたら達観していて、男なのに女性に興味を持っている。物怖じしないのに悪いことに反省する常識も持ってるし、何より女性を気づかえるわ。喋りが下手だけど、まあ、まだガキだから許容範囲内よ。大雑把なんだけど、なんだか小賢しいところはあるわね。歌はとてつもなく上手いけど、他の能力はどうなのかしら? まあ、きっとそこは弦巻の遺伝子が勝つわ! きっと、こころの方が強いもの!

 

そんな風にお母様は勢いよく説明してくれたわ。最後の方は褒めてたのかしら?

 

なんだかお母様と前に話していた、弦巻が求める完璧な遺伝子って感じではなかったけど、あまり気にはならなかったわ。

 

あたしがニコニコしながら話を聞いていると、お母様は少し神妙に聞いてきたわ。

 

でも……もしかしたら……30過ぎのおじさんかもしれないけど……いい?

 

もちろん大丈夫よ。お母様がこの人だって思うなら、あたしはどんな人とだって子どもを作れるわ。今からだって大丈夫よ。

 

そう伝えるが、お母様はまだダメよ、と言った。

 

今はまだ会えないの。向こうもいろんな人に囲まれて警戒しているから、今はダメ。でも絶対に出会う機会を作ってみせるわ。弦巻はチャンスを見逃さないの。どんなに制限された状況でも、どんな苦境に追いやられても、僅かなチャンスを見出して、それを掴みとってきたの。それができたからこそ弦巻は日本一なの。見せてやるわ。子鹿ごときが人間様に勝てるわけがないってことをねっ!!

 

そういうことみたい。よくわからなかったけど、お母様が嬉しそうで、あたしも嬉しいわ。

 

 

 

あたしはお母様のことが大好きで、信頼していた。お母様の言うことなら間違いないし、そうすることが最善だって信じていたわ。

 

だから、高校に入って初めて好きな人ができたとき、子どもを産むなら絶対にこの人との子じゃないとイヤ! ってなったときは、どうしたらいいかわからなかったわ。

 

そう。高校に入ってから、あたしの生活は一変したの。

 

学校自体は中高一貫校だったから変わらなかったわ。

 

でも、出会ったの!

 

美咲に花音、はぐみ、薫、ミッシェル、そして幹彦に出会ったの!

 

あたしたちは7人でバンドを組んでいるの。

 

みんな予定があるから毎日ではないけど、時間を見つけていろんなところでライブをしてるの。病院や保育園、老人ホーム、路上ライブだってするわ。

 

あたしたちが演奏を始めると、初めはみんな驚くけど、すぐに笑顔になってくれるの!

 

こんなこと初めてよ!

 

中学生までは一人で探検してるときに、お年寄りの荷物を持ってあげることはあったわ。そのときに笑顔でお礼を言われたときは、すごく嬉しくて、そのときは困ってる人がいないかって探し回っていたこともあったわ。でも、困ってる人なんてそんないないから、人の笑顔なんて簡単に見れないのよ。

 

それに比べてバンドはすごいわ。あたしたちが演奏すれば沢山の人を笑顔にできる。

 

笑顔を見たいから困ってる人を探すなんて、変なことをする必要もないの。

 

いつだって困ってる人がいない方がハッピーだもの。

 

バンドならみんなを笑顔にできる。素敵なことなのよ。

 

幹彦は花音と一緒に出会ったの。

 

探検をしているときに花音を見つけて、花音とあたしで初めて演奏した時に、彼を見つけたの。

 

大きな荷物を背負った彼は、少し離れたところで、不思議そうに、あたしたちを見ていたわ。

 

そのときピンっときたの。ああ、この人だって。

 

「ねえ、あなたも一緒にやらない?」

 

そう聞いたとき、遠くにいた彼の目が大きくなったのが見えたわ。

 

同時に黒服の人が少し位置を変えたのが見えたわ。

 

たぶん、男の人だから警戒したのだと思うわ。

 

あたしはこれまで男の人と接したことはなかった。

 

男の人は数が少ないし、お母様が男の人嫌いなので、“弦巻”のパーティーはいつも女の人だけなの。探検してるときは、何人も男の人を見かけたけど、近づかないようにしていたわ。

 

弦巻が男の人よりも強いことは知っていたし、お母様も気に入らなければやりあっていい、なんて言ってたけど、それは関係ないわ。

 

男の人はみんな怖いのよ。

 

いつも鬼さんみたいに怒っているか、表情がない人ばかりなの。

 

表情がないっていうのはお母様とは違う。お母様はいろんな感情を内に閉じ込めて表情を隠すのだけど、男の人はそれが無いの。

 

まるで抜け落ちてしまったように表情がないの。

 

とても怖いわ。

 

黒服の人がいるから大丈夫なことは知っているけど、そういう問題じゃなくて、ただただ怖いの。

 

だから、これまで男の人には苦手意識を持っていたの。なんだかお母様と同じねって笑うこともあったわ。

 

でも、彼を見たときは違ったの。

 

あの男の人みたいに不気味でなければ、学校の人みたいに疎んだり、煩わしく思ってる目じゃない。

 

お母様みたいに、あたしが何をしてるのか気にしてくれている目をしているの。

 

それを感じてしまったから、声をかけたわ。

 

あたしのお誘いに、彼は「いいよ」と笑って近づいてきてくれた。

 

すっごく大きい人だった。あたしが手を上げても彼より小さいほどで、すぐそばに来る頃には見上げてしまったわ。

 

それに気づいた彼が腰を落として、あたしの頭一つ分くらい上の高さから「キーボードだけどいい?」て言ったわ。

 

あたしが「もちろんよ!」と返すと、彼はあたしの左後ろの方へ移動した。丁度、あたしと花音と彼で三角形の位置になるところで、彼は荷物を解いた。

 

出てきたのはキーボード! 近くのお店の人にコンセントを借りた彼は、ささっと準備を終わらせて、こっちに目線をくれた。

 

それに頷いて、さっきから「ふぇぇ」と言っている花音の方を見ると、驚いた顔で固まっていたわ。

 

きっと大丈夫ねと思い、あたしは歌い始めたの。

 

遅れて花音がドラムを叩く。よく分からないけど、トントントントンと一定のリズムが心地良い。

 

そこに彼の音が入ってきた。

 

その瞬間、景色が変わった。

 

あたしは、心地よい風が吹く、大草原にいた。足元で泳ぐ草の音のような花音のドラムに、優しく、時には髪を持ち上げるくらいの風が彼のキーボードから生まれる。

 

そんな大草原で、あたしは自由に歌う。いや、一人だなんて思わない。二人は確かにあたしのそばに居てくれて、こうしてあたしを素敵なところへ連れてってくれるから。

 

歌い終わったとき、魔法が溶けたように、景色が街中に戻った。

 

でも、確かにあたしはあそこにいた。その実感があったの。

 

だから思わず、演奏が終わって近づいてくる花音と彼に飛びついてしまったの。

 

あたしと花音が倒れこんで、地面とぶつかるのを防ぐように、彼は優しく抱きとめてくれたわ。その温もりを感じて、体中が熱くなって、ああ、この人だって改めて思ったの。

 

この人だってわかったから、あたしはその場で告白したの。

 

「好き。大好き。あたしと結婚してください」って。

 

 

 

 

 

 

その日の夜、あたしは彼、海堂幹彦のことをお母様に話した。

 

だって、どうしたいいかわからなかったの。

 

大好きなお母様が気に入った男の人がいて、お母様のためなら、その人と結ばれるのが一番だってわかってるの。

 

でも、どうしても彼がいいの。

 

たとえ、彼を選ぶことがあたしの不幸につながるとしても、彼しか考えられなかったわ。

 

ただ、お母様を裏切ってしまうことだけが嫌だった。

 

お母様と幹彦のどっちを選ぶか。自分で考えても、どうしてもどちらも選べなかった。だからあたしはいつもそうしているように、お母様に悩みを聞いてもらったの。

 

こころ、どうして……。

 

お母様は信じられないと首を振っていた。そして、あたしがお母様が話した男性に会えば、必ず考えが変わると思う、と言った。

 

あたしは、無理よ、と小さく返すことしかできなかった。

 

嫌な静けさが続いた。早鐘を打つ心臓を抑えようと、目立たないように必死に呼吸を繰り返したわ。

 

ようやく母が口を開いた。

 

こころの考えはわかったわ。でも一度だけ前に話した男性に会ってみてちょうだい。それでも、その海堂君が好きなら、そのときはお母さんも、その人を認めるから。

 

そういったお母様は仕方ないわねと笑ってくれたわ。

 

あたしは嬉しくて抱きついてしまったわ。これでお母様を裏切らずに済むのが本当に嬉しかった。

 

もし、ここでダメだと言われても、あたしはいつか彼の元へ行っていた。そのときは、もしかしたらお母様に嫌われてしまうかもしれなかったから。

 

本当に嬉しかった。

 

その後、お母様といくつかの約束をした。

 

1つ目はお母様が話していた男性と会うまでは清い体でいること。

 

言葉は重いから、好きって言葉もできるだけ使ってはいけないことになった。

 

キスだってもちろんダメ。一緒にいることは許してもらったわ。

 

2つ目は何人かの子どもは必ず弦巻家で育てること。

 

お母様は男の人が嫌いだから、彼のことが気に入らなければ、この家で住むことは許さないって言ってたの。

 

もちろん、住む場所や、お世話係の人は用意するけど、基本的には“弦巻”の仕事は触れさせない。

 

だけど、何人かの子どもは必ずこの家で生活させて、“弦巻”として育てるみたい。

 

3つ目は、必ずお母様が話していた男性と会うこと。

 

実際に会ってみないと、どうなるかわからないし、その人があたしを見て、どう反応するかも見てみたいらしいわ。

 

なんでも、あたしはその人の好みの外見をしているみたい。結ばれなかったとしても、その人が悔しがる様子は絶対に見たい、って言ってわ。なんだか気に入ってるのか、気に入らないのか、よくわからないわ。

 

あと、あたしが幹彦を選んだとしても、お母様が話していた男性と会うことは、あたしにも幹彦にも刺激をくれるはず、とも言ってたの。

 

……本当にお母様はその人のことが気に入ってるんだって思ったわ。

 

そして、それでも、あたしが決めた男の人を認めてくれた。

 

あたしもお母様みたいな母親になりたいって思ったわ。

 

 

 

数日後、あたしはお母様に呼び出された。

 

ここ数日、お母様はずっと忙しそうで、家にいるときも執務室にこもりきりだった。

 

あたしもお母様に報告したいことが、いっぱいあったから、急いでお母様の元へ行ったわ。

 

あれから彼と花音と、新しく集まった4人を加えてバンドを始めたの!

 

練習でうちを使うことになるから、お母様にも話しておかなくちゃ、と思った。

 

お母様はすごく上機嫌にお酒を飲んでいたわ。

 

あたしが着くと同時に、さすが私の子だわ、と褒められた。

 

なんのことかわからなかったけど、どうやら数日前に彼のことを話した後、お母様は彼のことを調べたらしいの。

 

それで、彼のことを知り、彼なら大丈夫と思ってくれたみたい!

 

お母様は、もう止めないわ。それよりもどんどん関係を深めなさい、って言ってくれたわ。

 

お母様が話していた男の人はもういいの? って聞くと、お母様はすごく優しい顔をして、もういいの、と言ってくれた。

 

それどころか、それよりも早く契りなさい、と言ったの。

 

びっくりしたわ。それまでは子作りは高校卒業後って話しだったから、なんだか急にせかされた気分になったわ。でも、今はバンドを初めてしまったから、もう少しだけ待ってほしいの。

 

わがままを言ってる自覚はあったけど、バンドはすごく素敵な活動なの。ようやく見つけた、あたしの大切な宝物なの。お願いだからもう少しだけ待ってほしかった。

 

お母様はあっさりと許してくれた。子どもは約束どおり20歳までに作ってくれればいいわ。でも彼とは早めに関係を持ちなさい。あいつのことだから、“弦巻”のことを知ったら、こころだけ連れ去ろうとするはずなの。その前に既成事実で囲ってしまいたいのよ。と言った。

 

驚いた。お母様は彼のことをどこまで知っているのかしら。

 

彼が“弦巻”の責任なんて取れないから、あたしたちのバンド――ハロハピのみんな(薫とはぐみはまだ予定だけど)で暮らせるように手を考えてみる、と言っていたことを知っていたのか、と驚いたの。

 

黒服の人にも聞かれないように、秘密の暗号でやり取りしていたのに、どうしてバレたのかしら? やっぱりお母様はすごい! と自分の母を誇りに思った。

 

でも、ごめんなさい、お母様。あたし、彼が好きだから、彼が望むようにしたいの。あたしだってハロハピのみんな一緒に暮らしていけるなら、是非そうしたいと思っているの。もちろん、お母様にだって毎日会いに行くわ。

 

だから今は清い関係を続けさせてもらうわ。彼があたしを連れだしてくれるのを待つの。

 

安心して、あたし、子どもはたくさん産むわ。彼も10人くらい楽勝、って言っていたわ。あたしと彼の子なら、きっと“弦巻”の当主に相応しい子が産まれるはずよ!

 

 

 

 

 

あたしは今、毎日が楽しくてしかたない。

 

かけがえのないバンド仲間がいて、毎日みんなを笑顔にしている。最近はほかのバンドの友達だってできた。

 

あたしが探検に出かけても、追いかけてきてくれる人たちがいる。

 

そして幹彦がいる。

 

こんな世界は終わってるって言う人がいるけど、あたしはそうは思わない。

 

一人の探検を何年も続けて、ようやく、あたしはみんなと出会った。

 

暗い顔している人たちにだって、なにかが待ってるかもしれないの。

 

でも、下を見て、暗い気持ちでいたら、それに気づかないで通り過ぎちゃうの。

 

顔を上げて、この世界を見ないと、あなたが欲しいものは手に入らないわ。

 

だからあたしは歌うの。幸せを手に入れた人も、まだこれからの人も、あたしたちの演奏で笑顔にするの。楽しかったって帰る途中に、あなた達の幸せが見つかるように……!

 

 

 

 

 

幸せな毎日を送っているけど、一つだけ言いたいことがあるの。

 

幹彦はエッチな人だから、花音や美咲とイチャイチャしちゃうのはしょうがないって分かってるわ。

 

あたしが抱きつくときに、自然を装って、お尻を強めにわしづかみにしたり、胸の感触を確かめるために強く抱き寄せるのはいいの。後ろから抱きしめてくれたときは、腕が不自然に胸に当てられていたのだって、あたしのお尻に固いものが押し付けられていたのにも気づいているけど、それもいいの。あたしもあなたに求められて、密着できて嬉しいわ。

 

そして、あなたがその後、高まった欲求を花音や美咲とエッチなことをして解消してるのも知ってるの。

 

でも、あたしの欲求はどう晴らせばいいのかしら?

 

あたしはね、これまで我慢してきたことって、あまりないの。

 

お母様と結婚相手で意見が食い違ったときも、我慢できなかったから相談したのよ。

 

今だって、あなたのために我慢してるけど、いつかは我慢の限界が来ちゃうと思うの。

 

性格だもの。仕方ないわよね。あなたも、そんなあたしが好きなんでしょう?

 

……だから、ね。……あまり焦らさないでね。

 

あたし、高校卒業まで我慢できる自信はないわ。

 

あたしの前に、あまりチャンスをひけらかさないでね。

 

弦巻はチャンスを逃さない女なのよ。




原作とは異なる点:
① 弦巻こころに結婚を誓った男がいる(秘密の関係)
② 弦巻家の母(オリジナル)がとても自由
③ 弦巻こころは一人娘(原作のきょうだい関係は不明)



千聖編の次にくらい好きな話ですが、一番読みづらい話でもあります。
最初のセッション時のこころの心境なんて読む人からすると分かり辛いと思いますが、書いてる自分はとても楽しかったりします。
好きなキャラが好きな光景で楽しそうにしてるのを想像できる。小説書く人の特権だと思ってます。
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